(前半から続く)


l  エジプトと中東外交

WP Aug 23, 2013

The choice in Egypt

By Charles Krauthammer

エジプトのゼロサム・ゲームは,ムスリム同胞団と軍隊の間で,アメリカ外交に選択を迫っている.将軍Gen.Abdel Fatah al-Sissi3年待つべきだった.選挙でムスリム同胞団の大統領を辞めさせるのがよい.しかし,将軍は考えた.選挙が行われないかもしれない.

アメリカは,エジプト国民のために良い未来を選択する道義上の責任がある.ムスリム同胞団は,無能で,不寛容な,ますます独裁化する政治を示した.他方,軍隊も野蛮で,流血を繰り返した,望ましくない選択肢だ.しかし,民衆はモルシに革命の成果を奪われ,裏切られたことを理由に,軍隊の行動を求めた.

同時に,アメリカの戦略的利益を守らねばならない.すなわち,1.スエズ運河,2.アメリカとの友好関係,3.湾岸諸国など,アメリカの同盟諸国との関係,4.イスラエルとの和平協定,5.アメリカの反テロ作戦への協力,6.ムスリム同胞団が支配するガザ地区の隔離.こうしたアメリカの戦略的利益を,ムスリム同胞団は何一つ守らない.

最善の結果は,軍事政権が秩序を回復し,その後,ムスリム同胞団の穏健派を含めて,次第に民主化を進める.アメリカの議会が求めるような,即時,軍事援助の停止は,何ももたらさない.

軍隊のガバナンスは失敗する.速やかに兵舎に戻るため,テクノクラートによる暫定政府を樹立するべきだ.憲法を起草し,女性や少数派の権利を守り,地域レベルから選挙を始める.そして,地方政府,最後に国家レベルの選挙を行う.選挙は遅らせる方がよい.

半世紀に及ぶ冷戦の経験には,全体主義(共産主義,今はイスラム主義)と権威主義(多くは軍隊)との間で,より小さな邪悪さを選択するジレンマが多くあった.韓国,台湾,フィリピン,チリ,ブラジル,スペイン,ポルトガル(ファシスト政権が1970年代半ばまで続いた).チリのピノチェト将軍も,最後はアメリカの要求に屈して選挙を行った.共産主義やイスラム主義の体制で,選挙を受け入れたものがいくつあるだろうか.

エジプトに民主的な未来を望むなら,ムスリム同胞団にはその可能性がゼロであり,軍隊にはわずかにある.

WP Aug 24, 2013

What the U.S. should stand for in Egypt

By Anne Applebaum

世界の主要都市で,レストランで,トウィッターで,YouTubeで,飛び交うエジプトに関する議論は,2つの意見に向かう.

アメリカと西側はエジプト軍を支持するべきだ.それは悪であるが,西側で訓練を受け,イスラム過激派と闘って,世俗派を守っている.国務長官John F. Kerryが述べたように,「膨大な群衆が軍隊の介入を支持した.・・・事実上,彼らが民主主義を再建しつつある.」

アメリカと西側はムスリム同胞団を支持するべきだ.モルシは指導者として無能であったし,民主的な制度を壊したが,それは重要ではない.彼は軍事介入によって権力を失い,その支持者たちは殺害され,拷問されている.彼らを守るべきだ.

意見は分裂している.しかし,エジプトの政治体制はエジプト人の決めることだ.アメリカはその政府を支援するしかない.国防長官Chuck Hagelはそう言った.それは正しいが,アメリカは親米勢力を支援する必要を感じる.そうでなければ,中東であれ,世界のどこであれ,アメリカの評価(同盟国の支持)が損なわれるだろう.

考えるべきことは,アメリカが支持するのは,法の支配,安定的な制度,民主主義である,ということだ.モルシは選挙を経て権力を得た大統領であった.われわれは彼を明確に,断固として支持する.しかし,権力を少数派とも共有しなければ批判した.また,軍隊が憲法の求める秩序に従うよう,明確に,断固として要求する.

それを理解していないなら,John F. Kerryもオバマ大統領も,世界で起きる突発事態に,明確な姿勢を示すことができない.

Project Syndicate 26 August 2013

The Middle East’s Arc of Prosperity

Anne-Marie Slaughter

エジプトは内戦への瀬戸際にある.中東から北アフリカで,希望のある土地はなかなか見つけられない.

ケリー国務長官は中東和平に重点を置いた.注目すべき別の視点は,イスラエル・パレスチナ・ヨルダンの経済圏がもたらす潜在的な経済価値である.

中東から北アフリカで政治が混乱し,デモが起きる背景は,何よりも経済の困窮である.逆に,イスラエル・パレスチナは相対的に安定している.もし安全が保障されるなら,イスラエルはその高水準のインフラを西岸やガザ地区にも容易に拡大し,若い世代の企業家や技術者たちが国境の両側で協力し,繁栄を築くだろう.

中東地域に最も不足しているハイテク部門がイスラエルにはある.西岸地区がイスラエルとともに3G インターネット接続を利用可能になれば,大学を卒業する多くのパレスチナ人技術者が,ハイテク企業の拡大に参加するだろう.西岸とガザ地区を結ぶ輸送回廊,空港,港湾,を建設する計画もある.

計画の背景には,パレスチナの人口規模がある.サンフランシスコの湾岸エリアやカイロの大都市圏に匹敵する人口が,パレスチナに居住するだろう.計画の成功によって,彼らは経済的繁栄を実現し,イスラエルは政治的,社会的な利益を得る.

これまで,イスラエル・パレスチナは地域の不安定さと暴力の源泉であった.しかし,今や立場は逆転する.イスラエル・パレスチナが,その違いを受け入れ,民主的で,共存する土地になれば,政治的無秩序と経済的衰退の海に浮かぶ,繁栄と安定の島になる.

さらに自由貿易圏を形成し,ヨルダンを加えた関税同盟が成立するなら,ここが中東におけるベネルクスだ.(ベルギー,オランダ,ルクセンブルグは,ヨーロッパ共同体を生み出す中核地になった.)


l  ドイツとヨーロッパ

theguardian.com, Friday 23 August 2013

Germany must not shy away from economic leadership of the EU

Alexander Graf Lambsdorff

ベルリンがヨーロッパに指令することも,ベルリンの指導力として財源を求められることも,ドイツは受け入れない.しかし,ポーランド外相Radek Sikorskiは行動を求めた.ヨーロッパ内の政治バランスが変わった.独仏連携は,フランスの弱体化で意味を失い,イギリスは外へ向かっている.ポーランドには準備がない.

ドイツの優れたやり方を,他のヨーロッパ諸国が取り込めば,それは彼らにとっても利益になる.徒弟制は若者の教育と職業訓練を促し,失業率を抑えている.また, "Kurzarbeit"(労働時間の短縮)は,金融危機後の起業を救い,需要回復に応じて速やかに生産を拡大できた.

ドイツはもっと,自国の優れた点を外に向けて示すべきだ.他国がそれを取り入れることで,ユーロ圏内の収斂は進む.

SPIEGEL ONLINE 08/23/2013

Stepping Up

US Experts Want More Leadership from Germany

By Emily Schultheis

theguardian.com, Monday 26 August 2013

Germany should lead on disarming our global surveillance system

Anke Domscheit-Berg

FT August 28, 2013

Eurozone is heading for relapse back into crisis

By Satyajit Das

Project Syndicate 28 August 2013

Saving Europe’s Real Hegemon

Hans-Werner Sinn

FT August 29, 2013

The German miracle is now running out of road

By Sebastian Dullien

ドイツの失業率は低く,輸出も好調で,経常収支の黒字を維持したため,ヨーロッパの理想であった.しかし,最近,それが変わってきた.ドイツ企業の競争力は失われつつある.

ドイツ経済が好調であったのは,幸運と,過去の改革の副作用であった.ドイツは社資材や高度な工業製品に優れた企業を持っていたため,中国など,新興市場の好況が大きな需要をもたらした.また,シュレーダー政権下で行った労働市場の改革は,賃金水準を凍結し,労使協調の伝統から,需要の変動にも労働者は柔軟に対応した.

こうした優位は最近になって失われてきた.新興市場が減速し,ドイツの好況と,特にユーロ圏の経済危機に苦しむ諸国における賃金低下は,ドイツ企業の競争力を奪っている.さらに,ドイツはインフラや教育・研究に対する財政支出も削ってきた.その結果,最近の洪水被害でも,幹線道路や鉄道が止まった.労働者は急速に高齢化している.

SPIEGEL ONLINE 08/29/2013

The Reluctant Giant

Why Germany Shuns Its Global Role

An Essay by Ullrich Fichtner

ドイツは21世紀のモデル国家なのか? 世界で尊敬され,ヨーロッパでも愛される国家になった,とドイツ人は自国に対する評価の変化を喜ぶとしても,ドイツのパワー,ドイツの指導力,ドイツの秩序には不安を感じる.ナチスの過去を思い出させるからだ.ドイツ人は今も,指導する国家になりたくない.

しかし,将来は変わるだろう.ドイツの自画像も,世界の秩序も.


l  “I Have a Dream” speech

FT August 23, 2013

A dream deferred

By Ayana Mathis

19638月,Martin Luther Kingが行った有名な演説とその運動について,1960年代(そして,その後)のアメリカを考える本が紹介されています.

The March on Washington: Jobs, Freedom, and the Forgotten History of Civil Rights, by William P Jones, Norton, RRP$26.95/£20, 320 pages

Bending Toward Justice: The Voting Rights Act and the Transformation of American Democracy, by Gary May, Basic Books, RRP$28.99, 336 pages

The Speech: The Story Behind Dr Martin Luther King Jr’s Dream, by Gary Younge, Haymarket Books, RRP$19.95/Guardian Books, RRP£6.99, 204 pages

「不正義に初めて直面したときのことを思い出すだろう.今すぐに,全面的に改めるべきであることが,信じられないが,そのまま続いている,そんな間違った何かに直面したときだ.」 20世紀が大変動を繰り返した後に,幸いにも,われわれは生まれた.不正義の経験は個人に帰属している.われわれは自由に慣れてしまい,守る者も,改める者もいない,不正義の体制の中で生きる者の恐怖から,救われている.

しかし今も,町の裏通りや,駅前の公園,河川敷に,段ボールや板で囲んだホームレスたちの住処を観て,あなたが何も感じないとしたら,Martin Luther Kingを思い出せ.

NYT August 23, 2013

50 Years Later

By CHARLES M. BLOW

NYT August 27, 2013

What Happened to Jobs and Justice?

By WILLIAM P. JONES

NYT August 27, 2013

The Global March on Washington

By MARY L. DUDZIAK

NYT AUGUST 27, 2013

How Dr. King Shaped My Work in Economics

By JOSEPH E. STIGLITZ

キング牧師の演説を聞くと,私には様々な感情があふれる.私は若く,安全な場所にいたが,過去が残した不平等を知っていたし,不正を正すために行動した世代に属しているから.

私が大学Amherst Collegeの学生会議代表であったとき,クラスメートたちと南部へ行って,人種的な統合を助けようとした.人種を隔離する旧システムを守ろうとする人々が示す暴力をわれわれは知らなかった.黒人だけのカレッジを訪ねたとき,われわれは教育条件がいかに異なっているかを実感した.平等な競争,アメリカン・ドリームなどなかったのだ.

こうした問題について何かできると願って,私は理論物理学者ではなく,エコノミストになった.しかし,ノーベル賞を受賞したRobert E. Lucas Jr.は,分配問題を無視したし,Gary S. Beckerは,競争的な労働市場に差別は存在しない,と主張した.

theguardian.com, Wednesday 28 August 2013

We should be talking about class in America as much as race issues

Heather Long


l  米中のアジア外交

2013-08-23 (China Daily)

Promoting Asian integration

By Chen Jimin

FP AUGUST 23, 2013

The U.S. Isn't Trying to Contain China…

BY PHILLIP C. SAUNDERS

FT August 28, 2013

Asia: Storm defences tested

By DavidPilling and Josh Noble


l  日本

NYT AUGUST 23, 2013

Japan’s Women to the Rescue

By LAURA D'ANDREA TYSON

theguardian.com, Monday 26 August 2013

Japan's pump-primed recovery proves US deficit hawks wrong

Dean Baker

theguardian.com, Thursday 29 August 2013

Just say no to nuclear power – from Fukushima to Vermont

Amy Goodman

Project Syndicate 29 August 2013

Abenomics for Asia

Yuriko Koike


l  囁きのアメリカ外交

NYT August 24, 2013

Foreign Policy by Whisper and Nudge

By THOMAS L. FRIEDMAN

エジプトや中東に対するアメリカ外交についての風評を耳にする.・・・地域の人々は言う.「なんでも,アメリカが悪い.」・・・外交専門家たちは言う.「なんでもオバマのやることは失敗する.」・・・アメリカ国民は言う.「この地域にはうんざりだ.アメリカン・フットボールの話をしよう.」

Johns Hopkins University の外交専門家Michael Mandelbaumと話した.冷戦期のアメリカ外交は,「諸国家の外面的な行動に影響するもの」だった.その内面的な行動は無視した.それは同盟を組むために障害でしかなく,どのような違いが内部にあっても,ソ連との対決につながるしかなかったから.

冷戦後の外交は,「諸国家の内部要素やガバナンスに影響するもの」である,とMandelbaumは言う.中東がわれわれにとって重要であるのは,その強さによるのではなく,崩壊し,統治不能になった地域で問題を生じるからだ.

しかし,ボスニア,アフガニスタン,リビア,イラク,エジプト,シリアでわかったように,他国の内面的な行動を変えるのは非常に難しい.その国の政治文化を変え,伝統的な敵対し続けてきた者を和解させねばならないからだ.従来の武器“guns, money, and rhetoric“は役に立たない.「まるでスポンジで缶詰を開けるようなものだ.」

他国を内部から変えるには,審判として,警察として,コーチとして,動機付け,力で抑え込み,模範を示さねばならない.その住民たちが参加する意志を持たなければ,変化は維持されない.George W. Bushが,Saddam Husseinを権力から追放して,試みた.アメリカ軍が審判として駐留した間だけ,何とか社会契約の合意と和解を進めた.アメリカ軍が去ると,イラクの指導者たちはそれを継承しなかった.「われわれが弱いときに,相手は妥協などしない.」・・・「われわれが強いのに,相手に妥協などしない.」

余りにも早くイラクから撤退した.もっと深くリビアやシリアに関与するべきだ,とオバマは非難される.人道的な介入を求めるリベラル派は,それが長期の占領によって地域の政治文化を変える必要を考えていない.保守強硬派も,すべての者に対して,自由,平等,正義が優先される土地ではないこと,「自由」とは,イスラム主義者と世俗派とが異なる意味で支持することを理解していない.

旧外交は,悪いことが起こるのを止めた.しかし,良いことを起こす手段はない.もしシリアが化学兵器を使用したことを証明できたとしても,シリアを巡航ミサイルで罰するだけであり,それは正しいけれど,シリアが統一し,民主的・包括的な政治に変わるわけではない.それにはアメリカのより大きな関与と,シリアの多数派の支持が必要だ.

アメリカ国民は感じている.エネルギー効率は改善し,再生可能エネルギーも普及し,フラッキングや水平掘削技術があれば,アメリカは中東の石油に依存しない.中東への依存症から,嫌悪感に変わった.5年前なら,これほどの中東各国における紛争状態を聴いて,「1バレル200ドル」を心配するのが当然だった.しかし,1973年にGDP単位当たりのエネルギー利用水準から,今は60%も低くなっている.あるいは,2006年にアメリカが消費したエネルギーの36%が外国産石油である.「中東は中国の問題になった」と,専門家は言う.

オバマはそれをすべて知っているが,言えない.その結果,彼の外交は「唆し」と囁き(“nudging” and whispering)になる.それは満足できるし,楽しいが,歴史を作ることでも,最善を尽くし,善行に励むことでもない.しかし明らかに,これこそアメリカ人の多数が求めるものだ.

FT August 26, 2013

America’s Middle East alliances are cracking

By Gideon Rachman


l  経済学とは?

NYT AUGUST 24, 2013

What Is Economics Good For?

By ALEX ROSENBERG and TYLER CURTAIN

経済学は科学ではない.可謬性でも,予測能力でも,経済学は科学から区別される.なぜか? 社会制度は,重力の法則と違う.科学や技術のもたらす将来は予測できない.

むしろ,経済学は制度の設計や管理に役立つことを目指す.音楽家と同じように,経済学も技量の優秀さを競っている.


l  ネットワーク独占資本

NYT August 25, 2013

The Decline of E-Empires

By PAUL KRUGMAN

マイクロソフト,アップル,グーグル,など,ネットワークの外部性が作用する分野で,独占的な利潤を上げてきた.それは永久に続くものではない.


l  中国式土地バブル

FT August 26, 2013

The debt dragon: Credit habit proves hard for China to kick

By Simon Rabinovitch in Guiyang

中国の政府系金融機関と土地開発業者が不動産ブームを生み出し,規制された金融市場の下,地方政府の財源,好況,貧困の減少を実現する.しかし,信用の膨張が加わって,住宅は過剰供給,インフラ整備も間に合わず,バブルとその崩壊を招く.地方政府と銀行に巨額の債務が残る.債務危機は起きない,と言うが,住民たちはインフラや公共サービスの悪化に苦しむ.

FT August 27, 2013

China companies feel the investment hangover

By Simon Rabinovitch in Qujing

FT August 28, 2013

China’s consumers take eagerly to credit

By Simon Rabinovitch in Shanghai

FT August 28, 2013

Chinese economy chases the dragon


l  移民について

BLOOMBERG Aug 27, 2013

Migration Is Expensive, but Pays Off in Productivity

By Paul Collier

BLOOMBERG Aug 28, 2013

The High Price of Immigration

By Paul Collier


l  金融危機後の世界

Project Syndicate 28 August 2013

The Post-Crisis Global Economy in Three Words

Jean Pisani-Ferry

危機後の世界経済を,3つの言葉で表現できる.回復力resilience,構造変化の加速acceleration,バランスの変更rebalancing,である.金融市場の危機拡大は中央銀行の介入で回避したが,旧工業圏から新興経済へと市場の重心は移り,グローバルな中産階級が新興経済における消費主導の成長をもたらす.それは世界政治をも変えるのだ.


l  韓国の中年危機

BLOOMBERG Aug 29, 2013

Surrounded by Turmoil, Korea Faces Midlife Crisis

By William Pesek

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The Economist August 17th 2013

Banyan: Climbing trees to catch fish

Buttonwood: Net gains and losses

Free exchange: Down towns

(コメント) エジプトの軍政がもたらす弾圧の恐怖,インドとパキスタンの軍事衝突,中国の成長モデルが示す転換局面,ユーロ危機に対してポーランド軍が抱く懸念,東欧や中国など,各地の孤児院が閉鎖される時代,イギリスのソマリア系住民,について面白い記事があります.

しかし,ここに挙げたのは,中国における「立憲主義」をめぐる論争.インターネットが高める生産性のシナリオ.デトロイトの破産が示す都市の盛衰・再生,です.

インターネットが生産性を高める理由はいろいろありそうです.ここで紹介されているのは,自営業者の感覚で仕事に励む半面,労働者は集団的な帰属意識を失い,資本家との交渉力を低下させる.そこに生じた膨大な利潤に対して,極端な金融緩和が積極的な投資を促す,というシナリオを考えます.それは途中まで来て,停まったままです.

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IPEの想像力 9/2/13

シリア空爆の提案が,イギリス議会では否決され,アメリカ議会の説得は続いています.それは日本から見ても,遠い,見知らぬ土地の問題である,と言えません.

もし国内で化学兵器を使用する犯罪が起きたら,(オウム真理教団がサリンを使用したケースですが),皆が徹底的な捜査と犯人逮捕に同意します.しかし,国際政治ではそうならない,という現実があります.

戦争に関しても国際法はありますが,それを守らせる明確な仕組みを欠いています.化学兵器を「貧者の核兵器」と呼ぶのも,個々の国家が生存のために戦争を最終的な選択肢として持っているからです.核保有国がその使用を否定しないように,化学兵器も秘密に(大量に)保有されていると思われます.

イアン・ブレマーは,「米国がシリアに軍事介入する本当の理由」(ロイター828日)として,化学兵器を使用しない,という国際基準.とアメリカのメンツ・威信を挙げています.

各国は,自国の独立や安全保障を重視し,その意味では,平和を維持することを求めています.しかし,平和が前提する秩序は,しばしば,互いに異なります.そのため,平和は自国の軍事的な優位(しかも,国際的に認められる,圧倒的な優位)によって実現するしかなく,あるいは,それを単独で得られない小国は,軍事同盟に参加します.

国際政治の基準が何であれ,ルワンダやコソボのような,宗派や部族間の紛争が大規模な虐殺に至るのを許さない,という姿勢を,私たちは守りたいと思います.そうであれば,その力を持つ国が,たとえば,アメリカが,助けてほしいと切実に願う市民たちの声を無視できるでしょうか? 国境の向こうで虐殺が続くのを,国際社会は受け入れるべきでしょうか?

シリアの内戦を止めるには,外部からの軍事介入ではなく,国際支援や外交も含めて,国内の政治システムが機能する条件を再生することです.オバマの「空爆」案は,地域的・国際的な安全保障体制の構築に向けた<触媒>として意味を持ちます.

アメリカは,イラク戦争によって,この地域に介入することの限界を知りました.民主主義や人権という価値は,国境を越えて,人類共通のものであると主張するとき,それが守られていない他国に介入するべきか,そのコストや実現の可能性を含めて,慎重な判断が求められるのです.

中東地域で欧米が最も重視する問題は,安定的な石油供給でしたが,今では,イランの核開発を阻止することです.パレスチナ難民が何十年も問題であり続けるのも,冷戦や中東情勢をめぐる国際政治に翻弄されてきたからです.虐殺を止めるだけでなく,テロや組織犯罪(麻薬,武器,人身売買,資金洗浄,脱税・送金ネットワーク)に対しても,国家は安全保障を理由に行動する時代になりました.

それは経済の秩序にも及びます.冷戦終結によって,アメリカが各地の独裁政権との関係を見直し始めたせいで,たとえば,通貨危機に陥った際,インドネシア政府への救済融資を拒んだのではないか,と言われます.Anne-Marie Slaughterは,平和と繁栄を結びつける人々の在り方が,地域や国境を越えて広がる姿を示して,変化を促します.

シリア空爆に関して,完全な答えも,容易な答えもありません.軍事的な基準,さらに,国家を基準とした発想が否定されます.そこに現れる,国際政治の望ましい在り方,平和をめぐる判断は,日本が外交や安全保障を考えるときにも必要です.

中国共産党の英字紙(chinadaily.com.cn)が紹介する,中日関係についての若者の声(My view of China-Japan ties)は,日本の若者の声であっても不思議でないほど,正当な,つまり,理性と利益,共感に基づくものです.

シリアをめぐる国際政治の変容とは,私たちが生きる時代の政治と経済の現実,および可能性を,誕生しつつある世界議会に向けて,問いかけるものだと思い至ります.

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