IPEの果樹園2013
今週のReview
8/19-24
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フォワード・ガイダンス ・・・富裕層・投資家の反抗 ・・・エジプト軍のデモ弾圧 ・・・インド準備銀行新総裁 ・・・サマーズとイエレン ・・・移民との共存 ・・・ドイツの課題 ・・・ユーロ圏とECB ・・・日本の歴史的債務 ・・・アメリカン・ドリームの崩壊 ・・・中国経済の減速 ・・・インフレを待つな ・・・二つの世界
[長いReview]
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主要な出典 Bloomberg, China Daily, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, Global Times (China), The Guardian, NYT: New York Times, Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, WP: Washington Post, WSJ: Wall Street Journal Asia, Yale Global そして、The Economist (London)
l フォワード・ガイダンス
theguardian.com,
Wednesday 7 August 2013
Mark
Carney is acting as a shaman in an uncontrollable world
Karel Williams
イングランド銀行のカーニーMark Carney新総裁は,市場参加者の予想に影響を与える「フォワード・ガイダンス」を採用した.インフレが現れなければ,失業率が7%を下回るまで,現行の低金利と債券購入を継続する,と約束したのだ.それはアメリカ連銀と同様に,中央銀行家がその言葉によって経済主体の期待に働きかけ,現在の行動を変える政策である.
ここには,どのような「科学」が秘められているのか? 非正統的な金融政策を駆使する専門家たちが,シャーマン(霊魂と通信し,病気を治す心霊術師)となって現実を動かすしか,積極的なマクロ政策の可能性は残されていない,という理解である.
ボルカーがインフレを克服して以後,中央銀行は経済学のPh.D保有者を集めて専門化した.しかし,2008年の金融危機を招いて,その信用を損なった.それ以降,非伝統的な金融政策や,フォワード・ガイダンスを試みるが,その評価は低い.
巨額の貿易赤字による需要の喪失,住宅債務を減らすために消費を抑制するイギリス経済が,カーニーの言葉だけで甦ることはないだろう.
FT
August 9, 2013
BoE
forward guidance means more work for investors
John Authers
FT
August 9, 2013
Don’t
pan the BoE – others need to do their job too
Mohamed El-Erian
FT August 13, 2013
Carney
has not yet bent the markets to his will
By Martin Sandbu
l 富裕層・投資家の反抗
NYT
August 8, 2013
Phony
Fear Factor
By PAUL KRUGMAN
経済学の破綻が大当たりの時代である.間違った原理がハエのように叩き落される.大幅な金融緩和がハイパーインフレーションをもたらす.間違い.不況期でも予算赤字は金利を上昇させる.間違い.財政再建は雇用を増やす.間違い.債務がGDPの90%を超えると成長率が落ちる.間違い.
最新の間違った神話は,「経済政策の不確実さ」が景気回復を遅らせる,という主張である.つまり,オバマが悪い,というのだ.
70年前に,ポーランド人の経済学者Michal Kaleckiカレツキは,ケインズ的な政府支出で完全雇用を達成することに対して,経営者と富裕層が強く反対するだろう,と述べた.もし政府が完全雇用を直接に実現しないなら,民間の支出を促す必要がある.それは増税や規制で富裕層を苦しませる.だから,投資家の「信認」を損ない,投資による雇用の増大を妨げている,と非難されるだろう.他方,政府が直接に雇用を増やせば,信認は問題にならず,既得権層は彼らの拒否権を失う.
カレツキは,「産業界の指導者たち」がこの点をよく理解しているから,政府による雇用創出策には強く反対するのだ,と主張した.2008年以降,議会の政策論争は,この点を非常によく示している.
景気回復が遅いのは,信認と何の関係もなく,債務を膨張させた資産バブルの後に共通の現象だ.議会は支出削減ではなく,雇用創出を真剣に議論しなければならない.
l エジプト軍のデモ弾圧
FP
AUGUST 8, 2013
The
Gift
BY MARC LYNCH
FP
AUGUST 9, 2013
Morsy
Is the Arab World's Mandela
BY TAWAKKOL KARMAN | AUGUST 9, 2013
FP
AUGUST 9, 2013
The
Liberal Dark Side
BY JAMES TRAUB
NYT
August 10, 2013
Kansas
and Al Qaeda
By THOMAS L. FRIEDMAN
気候や環境は「アラブの春」にどのような影響を与えたか?
環境学者は,最初,「コモンズ」の健全性に注目する.多様性を失い,各派や民族が分離し,今では互いに隔離している.
アラブ世界で,今,起きているのは,石油資源や指導者たちの希望によりぃ,ますますモノカルチャーになっていることだ.それはアルカイダやシーア派など,各地の支配者がしている.多様性を失い,単一の文化が支配する世界は,破滅に至る.
NYT
August 10, 2013
Marx’s
Lesson for the Muslim Brothers
By SHERI BERMAN
WP
August 10, 2013
Egypt’s
path to a better future
WP
August 10, 2013
Hope
for democracy in the Arab world
By David Ignatius
歴史上,革命は多くの反革命を生んだ.解放の楽観が広まり,その抑圧は弱まっている.しかし,しばしば反動は軍から起きる.
しかも,独裁体制の倒した技術は,社会に広く根を張っている.新しい秩序は何によって育つだろうか? 一つは,新興企業であり,もう一つは,非暴力の紛争解決メカニズムである.
反政府運動は非暴力の形を守るべきだろう.
Project Syndicate 12 August 2013
The
Problem is Authoritarianism, Not Islam
Dani Rodrik
イスラム教徒民主主義とは共存できないのか? それが正しいなら,モルシから権力を奪ったクーデタが支持される理由になる.
しかし,秩序の回復と民主主義とは異なる.トルコの民主化にクーデタが役立った例が挙げられるが,軍事介入が繰り返されて,その後の政治文化をゆがめた.権威主義的,階層的な秩序による軍事組織が,民主化を育てることは期待できない.
他方,外国政府や国際機関・団体は,権力の乱用をチェックするうえで有効だ.イスラム主義と世俗派の対立とみなして,軍の介入を支持するのは重大な間違いである.
The Guardian, Tuesday 13 August 2013
A
21st-century Nasser could give the Arab world its voice
Seumas Milne
クーデタを支持するメディアは,その指導者Abdel Fatah al-Sisi将軍を,反米のナショナリストとして紹介し,21世紀のナセルGamal Abdel Nasserと称えている.
現実には,軍の階層制に結びついた多くの経済的利権がクーデタの背景であろう.ナセルと呼ぶのはふざけた話だ.
theguardian.com, Wednesday 14 August 2013
Washington's
next moves after the Egyptian military's bloody crackdown
Heather Hurlburt
FT August 14, 2013
Egypt
takes a step back towards bloodshed and tyranny
By David Gardner
NYT August 14, 2013
Egypt
Bloodshed May Be Ill Omen for Broader Region
By RICK GLADSTONE
1968年のプラハの春は弾圧され,東欧が解放されたのは1990年代であった.ヨーロッパの1848年の革命は50か国以上に及んだが,その後,反革命によって破壊された.しかし,広まった政治思想が失われることはなかった.
革命後,制度の改革には数十年,何世代もかかるのがふつうである.「アラブの春」を評価するのはまだ早い.
FP
AUGUST 14, 2013
Enough
Is Enough
BY MARC LYNCH
NYT
August 14, 2013
Military
Madness in Cairo
By THE EDITORIAL BOARD
NYT
August 14, 2013
Arab
Spring Countries Find Peace Is Harder Than Revolution
By BEN HUBBARD and RICK GLADSTONE
FP
August 14, 2013
Mubarak
Still Rules
BY STEVEN A. COOK
FT
August 15, 2013
Barack
Obama declines to correct his Egyptian mistake
By Ian Bremmer
オバマ大統領は両国の軍事演習を中止しただけで,むしろ事実上のクーデタ容認姿勢を継続した.それは7月の軍事クーデタを支持したときにさかのぼるが,アメリカ外交の致命的な大失敗であった.
軍による反対派の弾圧は500人以上の犠牲者を出した.ムスリム同胞団は武装し始め,教会や警察署を襲っている.極端に異なる立場をとって対立する集団を,どのように和解させるのか? 軍は政治と予算において大きなパワーを保持し,手放す気はない.他方,ムスリム同胞団は,そのパワーを憲法に書き込んだ.
シリアでは反政府派の支援に引き込まれつつある.エジプトではカオスに向かうのを停めるために行動しなかった.
FT
August 15, 2013
If
US wants voice in region it needs to isolate Egypt’s military
By Geoff Dyer in Washington
SPIEGEL
ONLINE 08/15/2013
An
Arab Nightmare
West
Dithers Over Taking a Side in Egypt
A Commentary by Erich Follath
FP
August 15, 2013
Missing
in Action
BY CYNTHIA P. SCHNEIDER
イスラム主義者も世俗派も,たった一つの点で合意している.それは,アメリカは敵だ,ということである.アメリカは我々を裏切った.
アメリカ陰謀説は多くあるが,現実には,アメリカ外交の絶望的な想像力の欠如が目立っている.
FP
August 15, 2013
No
Surprises in Egypt
Posted By Stephen M. Walt
「アラブの春」は,この地域が民主化され,公正で,開放型の,効率的な社会になる,という期待を生じた.しかし,それには長い期間が必要だ.欧米における民主主義の確立過程で起きた革命や戦争,内戦を思い出すべきだ.
アメリカにできることはほとんど何もない.この地域から次第に離脱するだろう.
YaleGlobal,
15 August 2013
Egypt
Highlights Race Between Trade and Terror
Humphrey Hawksley
BLOOMBERG
Aug 15, 2013
What
Obama Misunderstands About Egypt
By Jeffrey Goldberg
l インド準備銀行新総裁
BLOOMBERG Aug 8, 2013
India’s
Fear of Growth
By Clive Crook
FT
August 11, 2013
India’s
new Raj(an)
by Gavyn Davies
ラジャンRaghuram Rajanはルピーの為替危機が激しくなる中で新総裁になる.これは,1990年代初めにシンManmohan Singhが改革を始めるきっかけになった危機よりも深刻だ.
ラジャンの指名が景気回復の触媒になるか? 市場は関心を持っている.その考え方とインドの改革がどこまで結びつくか.
BLOOMBERG Aug 11, 2013
India’s
Path to Prosperity Doesn’t Run Through Cities
By Pankaj Mishra
FT August 12, 2013
India
has big problems that lie well beyond Rajan’s reach
By Swaminathan Aiyar
ラジャンに何ができるか? 中央銀行は,単一のインフレ目標を定めて,ルピーの暴落を止め,経常収支赤字を抑制したいだろう.
バーナンキが債券購入を徐々に減らす姿勢を示してから,金融市場は荒れている.ルピーの減価は輸出を増やすが,同時に,即座にインフレを高める.ラジャンはチダンバラム蔵相に協力して,インフレだけでなく,雇用や国際競争力にも取り組むだろう.インド人の消費の約半分が食糧であるから,金融政策でインフレを抑えるのは難しい.
FT August 13, 2013
Rajan
can lift India’s corporate torpor
By James Crabtree in Mumbai
FT August 13, 2013
A
primer in how corruption works
By Victor Mallet in New Delhi
FT
August 15, 2013
India’s
capital crisis
ルピーの価値を守るために金利引き上げや資本規制するより,土地市場の自由化や土地改革をすることで外国からの投資を増やす方がよい.
l 中国の対外姿勢
FT
August 9, 2013
China
dream sours for foreign companies
By Tom Mitchell in Beijing
FP AUGUST 12, 2013
Red
Tide
BY JAMES HOLMES
中国の南シナ海における領有権の主張は,その海軍の増強と同時に進んでいる.それはさらに,インド洋,ペルシャ湾にも及ぶ.西側の決めた安全保障の枠組みには関心がない.
FT
August 15, 2013
Norway
sees Liu Xiaobo’s Nobel Prize hurt salmon exports to China
By Richard Milne, Nordic Correspondent
l サマーズとイエレン
FT
August 9, 2013
Central
banking: still a man’s world
By Gillian Tett
NYT
August 10, 2013
The
Fed, Lawrence Summers, and Money
By LOUISE STORY and ANNIE LOWREY
サマーズは,2010年,オバマの経済顧問を辞めた.もし彼がバーナンキの後の連銀議長として上院で質問を受けるとしたら,ウォール街と最も深くかかわった,ウォール街に多くの資産を置く人物として注目されるだろう.サマーズは,常に,与えられた機会の最善のものを選択した.後のことなど気にしない.
FT
August 11, 2013
Summers
or Yellen? The best Obama can do is toss a coin
By Philip Stephens
サマーズでもイエレンでも,どちらがアメリカ連銀議長になっても,十分な資格を備えている.特別な霊感や「賢者の石」を期待するのでなければ,金融政策に関する正しい選択をするだろう.どちらに決めるかは,コインを投げればよい.
中央銀行にできるのは,経済を救済することではない.インフレを抑え,金融システムの秩序を守るだけである.
theguardian.com, Monday 12 August 2013
Larry
Summers' record should rule him out of the Fed chairmanship
Moira Herbst
サマーズが,大恐慌以来,最悪の不況を準備した後,連銀議長に指名されるのを待っているとしたら,彼の記録を観るべきだ.ふさわしくない理由が多くある.
サマーズは金融自由化のチャンピオンであったし,ウォール街から多くの報酬を得てきた.サマーズはハーヴァード大学の信託基金を損ない,数学と科学における女性の能力を中傷するとんでもない発言をした.エンロンの事件ではその行為を擁護し,世界銀行のチーフ・エコノミストとして,第三世界に汚染物質を輸出することを示唆するメモを残した.
アメリカ経済は,まだ多くの労働者と納税者が金融危機の遺産に苦しみ続けているが,次の連銀議長はインフレと雇用の両方について難しい選択を求められる.しかしサマーズは,金融市場を称賛するだけで,労働市場や失業について正しく理解していない.長期の失業者がいることを失業手当のせいにした.彼らが苦しむマクロ経済の状態を,すなわち,規制緩和,ダウン・サイジング,オフショアリング,などを無視している.
サマーズが金融政策を決めるとしたら,金融ビジネスが喜ぶインフレ抑制を重視し,失業者の苦しみは無視するだろう.
FT August 12, 2013
Why
the Fed needs Summers’ firefighting skills
By Roger Altman
サマーズか,イエレンか,多くの者が加わって次のFRB議長を推薦している.しかし,これを決めるのは人気投票ではないし,政治圧力でもない.最高裁の判事を決めることとも,大統領が行政の各長官を指名することとも違う.
連銀は,政府から独立した,より重要な,地上最強の消防士である.その議長は,世界で最も重要な金融危機の管理者である.歴史は,金融危機が将来も起きることを示している.
2008年の危機に際して,われわれには幸いにもバーナンキがいた.バーナンキは危機がもたらす経済的破局の深刻さを理解し,空前の金融措置を取った.推定13兆ドルの介入で信用市場を安定させ,銀行システムの資本増強と規制強化を実行した.健全な銀行融資が景気を回復しつつあるのは,バーナンキをおかげである.
1979年のドル危機以来,われわれは危機を繰り返してきた.ラテンアメリカ,S&L,メキシコ,ロシア,LTCM,東南アジアで危機が起きた.2008年には欧米信用市場で危機が生じ,2010年からユーロ圏の政府債務危機が続く.
金融市場のグローバル化,資金移動の速さ,金融政策や金融規制の弱さ,によって危機は繰り返す.つまり,次の議長は危機を管理できるものでなければならない.この点で,サマーズは優れている.クリントン政権の財務省でメキシコとアジアの金融危機を処理し,オバマ政権で2009年の危機管理を行った.
戦いを経て鍛えられた人物を,選択するべきだ.
WSJ
August 13, 2013
The
Federal Reserve's Next Hundred Years
By KEVIN BRADY
l 移民との共存
SPIEGEL
ONLINE 08/09/2013
Immigrant's
Plight
Leaving
Germany on Bus of Broken Dreams
By Maximilian Popp
Project
Syndicate 09 August 2013
The
Responsibility to Protect Migrants
Peter Sutherland
移民には多くの苦難がある.マフィアやリクルーターによる人身売買,人権無視,雇用主の搾取,病気やけが,あるいは侮辱,政治的な反移民感情.
しかし,移民の福祉や権利を守ってくれる国もある.それはもっと促進されるべきである.他方,リビアやシリアのように,受入国が暴力的な変動に陥るとき,移民の状況は最悪の状態に陥る.移民たち自身の何も過失はないのに,彼らの声明も脅かされる.国民を守る非常時の対策が,移民には及ばず,知ることもできない.
リビアが戦争状態になると,外国人労働者たちは著しく弱い立場になった.彼らは自分たちで苦境から脱出するしかなくなった.傭兵としてさらわれたり,殺されたりした(しばしば肌の色を理由にして).
西側の石油会社に雇用されていた高度技術者たちは,安全な地帯へ空輸された.また,国によっては自国民を救出するプログラムがあった.それは財源や効果的な国外退避が含まれていた(フィリピンが優れた例である).
IOMやUNHCRのような国連の機関も協力したが,限界がある.リビアには多くのNGOsが救出に加わった.また世界銀行はバングラデシュの国外退避計画に融資した.送り出し国も受入国も,近隣諸国も,企業も,市民社会も,それぞれが役割を果たすべきだ.
緊急時の支援を,自国民と移民とを差別せずに,提供する,という国際合意が有益である.2011年の地震・津波に際して,日本政府は緊急避難の情報を17か国語でラジオ放送し,移民たちの救出にあたった.
近隣諸国は国境を開放して,避難を受け入れるべきである.リビアからの難民を,エジプト,チュニジアは寛大に受け入れた.企業は,幹部だけでなく,社員全員を帰還できる義務を負うべきだ.
こうした行動が,市民社会のレベルで,グローバル・プラクティスとなっていく.
FT August 12, 2013
Clumsy
intervention in the raw politics of immigration
By John McDermott
VOX 12 August 2013
Immigrants
reduce geographic inequality
Brian C Cadena, Brian Kovak
アメリカの労働者は次第に移動しなくなっている.しかし,移民労働者は雇用のある場所に積極的に移動する.そのせいで,地域間の失業率や,経済活動の差は抑えられている.移民労働者の国内移動を助ける,国内条件を整備するべきだ.
(後半に続く)