IPEの果樹園2013

今週のReview

8/12-17

 

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アメリカFRB次期議長争い ・・・ヒトラー風の憲法改正 ・・・消費税引き上げ ・・・スノーデン事件が示すもの ・・・世俗派都市エリートと宗教 ・・・アメリカン・ドリームの解体 ・・・ユーロ危機の選択肢 ・・・インド準備銀行の新総裁 ・・・新正常への回帰

 [長いReview]

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l  アメリカFRB次期議長争い

FT August 4, 2013

Why Obama should pick Yellen to lead the Fed

By JamesHamilton

アメリカの住宅市場で起きている問題を,イエレンは最初に指摘した連銀スタッフの一人である.2005年の後半,住宅価格の下落は住宅所有者の資産を減らし,消費支出に及ぶ.住宅価格にはバブルの要素がある,と指摘した.

8月,Jackson Hole の会議で,シカゴ大学のラジャンRaghuram Rajanが金融市場に関する予言的な報告を行った.規制緩和,複雑な金融商品,短期融資に過度に依存した金融システムが結びついて,非常に壊れやすい環境ができている.

これに対して,当時,多くの学者や中央銀行家たちは反対した.サマーズも,基本的に,いくらかラッダイト的なこの研究の前提は,概ね,間違いである,と述べた.しかし,ラジャンの予告した危機が始まると,その問題の大きさをイエレンはきわめて正しく理解していた.当時,住宅市場の規模は金融市場の10から15%であったから,大きな危機になるとは考えられていなかったのだ.イエレンは,融資を行う相手の信用が不確実になり,破滅的な収縮が起きると考えた.また,金融機関がリスク評価に用いる数学モデルの不十分さを指摘していた.

Project Syndicate 05 August 2013

The Changing of the Monetary Guard

Joseph E. Stiglitz

誰が連銀の議長になろうと,2008年の金融危機にいくらかの責任がある.

金融市場のプレーヤーたちは,その多くが金融監督の緩みによって,危機前に莫大な利潤を得たし,危機後も彼らが寛大な救済策を適用され,資本を再強化するのを助けられ,しばしば巨額のボーナスを得て退場したことに感謝しているだろう.彼らは世界経済を破綻寸前にまで追いやったのに.金融緩和は株価が回復するのを助けたが,まさに,新しい資産バブルを創っている.

確かに,危機前の水準より下で停滞しているヨーロッパのGDPに比べて,アメリカ経済はGDPが増えたが,庶民の生活は危機前よりも低下しており,所得の増大はほとんどすべてが頂点の富裕層に起きている.

次のFRB議長になる者は,優れた金融規制の重要性を理解し,アメリカの銀行システムをビジネスに対する信用供給,特にアメリカの庶民や中小企業に融資することに戻すべきだ.

その人物は様々な異なる見解を持つ人々と協力しなければならず,危機に対する直接の経験と正しい判断力を示さねばならない.アメリカ財務省は,2007-08年の東アジア金融危機を処理しそこなった.さらに重要なことは,次の危機を防ぐことであり,自由放任型の市場信仰は危機への近道でしかない.

まだ壊れやすい回復過程を確かに固めつつ,金融政策の継続性,相互理解と信頼に基づくアメリカ連銀の指導力,グローバルな協力関係を得るには,イエレンこそ最適だ.民主党議員の3分の1が明確に彼女を支持している.

FT August 7, 2013

Why Obama should not pick Summers for the Fed

By Scott Sumner

次のFRB議長に求められるのは,債券市場の利回りが7%程度から急激に低下し,このままゼロに近い水準が続く中で,将来も繰り返し訪れる不況を回避する決意である.イエレンはバーナンキの量的緩和を支持したし,もっと強い政策を望んでいる.他方,サマーズは金融政策が効果を持たず,むしろ財政刺激策が正しい,と主張する.

しかし,Christina Romer and David Romerの最近の研究によれば,連銀が金融政策を失敗した3つの重大なケースは,いずれも金融政策が支出に与える効果を強く悲観したときだった.すなわち,1930年代の大不況,1966-81年のインフレ,そして,2008年後半の消費の落ち込み,景気回復の遅れ,である.あのとき,リーマンショック後の金融救済だけを指導して,サマーズは消費の落ち込みを軽視した.同時に,消費を維持する積極的な緩和策が必要であった.

サマーズは危機において指導的な政策転換を担えるかもしれないが,彼に金融政策をゆだねるべきではない.


l  ヒトラー風の憲法改正

theguardian.com, Friday 2 August 2013

The Japanese finance minister's Nazi comments hark back to a dark past

Rana Mitter

「ヒトラー風の憲法改正」Constitutional reform à la Hitler? アメリカに押し付けられた憲法を,ワイマール憲法と同様に,ナチス風の静かな破壊で,戦争できるように変えてしまおう.

麻生の発言だけでなく,日本が同様に憲法改正や軍事拡張を主張する政治家たちによって変化しているのは,中国との対抗を意識するからだ.日中関係は1937年から始まった戦争によって今も大きく影響されている.この戦争が持つ意味を,ともに国内政治と国際政治において安定した形にできないのだ.

中国の大衆文化では,勧善懲悪の素朴な悪者だけを示す日本軍がオンライン・ゲームに出てくる.南京大虐殺は記念館などを通じて繰り返し日本の恐怖を呼び起こし,国民党軍の果たした役割は全く否定されている.他方,日本では,ヨーロッパ帝国主義からアジアを解放する戦争であった,という小林ヨシノリの『戦争論』が65万冊も売れた.自民党は,左派の教員組合が示した歴史観を否定し,ナショナリズムと怪しいノスタルジーを精力的に広めている.

東アジアは国際対立を緩和する制度を欠いたまま,日中間の対立するイデオロギーが,次第に,1937年の深刻な状態に近づくのかもしれない.


l  消費税引き上げ

FT August 2, 2013

Sales tax rise to hit Japanese growth

By Jonathan Soble in Tokyo

浜田宏一は,1年延期するか,引き上げ率を1%に抑えるよう,示唆した.黒田日銀総裁は,消費税引き上げの影響は小さい,と予定通りの引き上げを支持した.

WSJ August 6, 2013

The Tax Debate Japan Needs

安倍首相の次の課題は4月に予定される消費税の引き上げだ.首相はそれを,成長を促す税制改革に向けた,機会とみなすべきだ.

支出削減では不十分だ.現在の税制が破たんしているのだ.法人税率は,アメリカに次いで,世界第2位の高さである.経営者の所得には56%が課税される.しかし,政府歳入がGDPに占める率は他の開発諸国に比べて遅れている.高い限界税率は労働意欲をそぐ.高い税率は政府に免税制度や抜け穴を強く求め,その結果,経済判断は歪み,控除の対象が大幅に増え,税収を減らす.

安倍は,限界税率を引き下げ,控除や抜け穴を廃止するべきだ.また,地方政府への財政移転を見直す必要がある.主に中央政府の決める法人税の一部が地方財政を支えているから,彼らはその引き上げを強く求める.地方財政の税源を拡大し,個々の地方政府に決定をゆだね,競わせるべきだ.また,中央政府は企業への二重課税を廃止し,他の開発諸国と同様に,特にサービス部門で,企業の設立や展開を助けるべきだ.

また,労働移動や女性の就業を妨げる税制も廃止するべきだ.妻に対する控除額や,勤続年数に応じた退職金制度は,労働参加・移動を低下させている.


l  スノーデン事件が示すもの

Project Syndicate 02 August 2013

The Snowden Time Bomb

Harold James

世界金融危機の後,指導者たちは繰り返した.大恐慌は再現しない.なぜなら,金融政策は改善されているし,国際協調は制度化されているから.

しかし,たった一人の男Edward Snowdenが,その現実を暴露した.

2008-09年の危機後に重要な役割を果たしたのは,IMFG20である.主要工業諸国が回復を示したせいで,それがたとえ弱いものでも,国際機関の強化は注目されなくなった.しかし,将来も危機は起きるし,その処理にはもっともっと強力な国際機関が必要だ.

世界金融危機が示した諸問題は,経常収支不均衡,調整の分担,金融改革と成長との両立,など,IMFがもっと強く,もっと効果的に主張すべきことだ.しかし,この点で力を得たのはG20であった. G20は,グローバルな経済レジームを改革する流れを受けて,20094月のロンドン・サミットで,世界銀行とIMFに追加の融資財源を与え,そのヨーロッパ偏重の国際機関に対して,新興諸国を取り込み,政治的正統性を補った.

しかし,その後の政策監視は各国データの集積に失敗し,特に,財政刺激策の強調は成功しなかった.スノーデンEdward Snowdenが示したように,ロンドン・サミットでもイギリス政府は各国代表の通話内容を盗聴していたのだ.指導者間の信頼など,全く存在せず,彼らの能力にも大きな疑問を生じた.


l  世俗派都市エリートと宗教

Project Syndicate 05 August 2013

The Arab Wars of Religion

Shlomo Ben-Ami

ヨーロッパが数百年を要したように,アラブ世界も今,世俗派の権力と宗教的権力とが戦っている.イスラムとは政治である,と,かつてイランのホメイニが述べたように,イスラム主義者は政治を分離して考えない.世俗派の支配体制が崩壊したところでは,どこでもイスラム勢力が政治権力を握る.それを奪い返すには軍隊に頼るしかない.

中東圏でも,マグレブ,トルコでさえ,イスラム主義が政治を動かしている.シリアの内戦は国外勢力を加えて地域全体に紛争を拡大する.一つの希望は,権力を失ったムスリム同胞団が民主主義の価値を認め,政治をゼロサムではないと理解することだろう.

FP AUGUST 5, 2013

The Snake That Eats Itself

BY DARON ACEMOGLU, JAMES A. ROBINSON

トルコは中東の政治モデルであった.それは,強力で,政治的にも活発な軍部と,教育を受けた,生活水準の高いエリート(しばしば官僚),そして,貧しい,保守的な,イスラム教徒の間で,その統合をもたらすモデルである.最近のエルドアン政権に対する反発が示すように,その民主主義も表面的なものでしかなかったようだが,トルコの最近の歴史には重要な教訓がある.特に,エジプトにとって.

政府が平和的なデモに強硬な弾圧姿勢を取ったのは,社会の深刻な分断状態を反映している.社会的分断は,しばしば,政治的な利用されてきた.それを,西洋化したリベラルなエリートと,宗教的な大衆との対立,と見るのは間違いである.対立の本質は,政治・社会・経済的な不平等にある.

クズネッツSimon Kuznetsが主張したように,経済発展の初期には不平等が拡大する.それ故各地の社会は亀裂を生じ,すでに政治権力や特権的な地位を得ていた者たちだけが豊かになった.ラテンアメリカの多くがそうであったように,教育,福祉,道路,政治的発言などに現れた社会的分断状態は,不公平の感覚を強めた.近代化が多くのポピュリスト的な指導者を生んだのは当然だ.

トルコも,エジプトも,包括的な民主主義体制を必要としている.信条・信仰や性別,社会的地位に関係なく,全ての社会勢力が権力を共有する.社会的分断が深まれば,それはますます困難になる.この悪循環を断つ容易な答えはなく,政治過程に勢力均衡を維持する制度を築くことはいずれの社会でも難しい.

南アフリカが,黒人と白人との分断状態を克服する民主主義的体制へ移行できたのは,ネルソン・マンデラのような,ビジョンと勇気を持った指導者がいたからだ.


l  アメリカン・ドリームの解体

NYT August 3, 2013

Crumbling American Dreams

By ROBERT D. PUTNAM

私の住む町,人口6050人の,Port Clinton, Ohioは,1950年代にアメリカン・ドリームを体現していた.銀行家の子供にも,工場労働者の子供にも,同じく,素晴らしい機会が開かれていた.

しかし,半世紀を経て,経済や社会の格差が広がった.町の高校the Port Clinton High SchoolPCHS)にBMWを停める裕福な学生もいれば,その横には,ボロボロの老朽化した自動車に,クラスメートのホームレス家族が住んでいる.

強い労組と完全雇用,継続する好景気があった.深刻な経済不安を感じる家族は少なかった.私のクラスメートたちは,驚異的な社会的上昇と所得の増加を実現した.公立,私立を問わず,カレッジは学費が安く,奨学制度があった.

私がJと呼んでいた友人のスター・クォーターバック(白人)は,町の貧困地区で育った.彼の父は,家族を養うために2つの仕事を兼ねていた.朝7時から3時までPort Clinton Manufacturingで働き,その後,3時半から夜の11時まで缶詰工場で働いた.家族は,自動車がないので,隣人の車に便乗して,毎週,教会に通っていた.Jの父は彼にカレッジへの進学を望んだ.Jは,好成績を示して奨学金を得たことで,債務なしに卒業し,その後,高校のフットボール・コーチになっている.

私の友人が述べたように,「われわれは貧しかったが,そのことを知らなかった.」 しかし,事実は,われわれが受けた社会的支援の広がりと深さという点で,われわれは豊かだったのだ.そのことを,われわれは知らなかった.

地平線の向こうからは,しかし,われわれの子供や孫たちの生きる機会を激変させる経済・社会・政治の暴風雨が迫っていた.それは驚愕の,絶望的な,激変であり,Port Clintonをアメリカ格差社会の典型にした.


l  ユーロ危機の選択肢

VOX 6 August 2013

To end the Eurozone crisis, bury the debt forever

Pierre Pâris, Charles Wyplosz

表面的に平静でも,ユーロ債務危機は悪化している.どうすれば危機は解決するのか? 5つの主要な選択肢を考える.

1.公的債務のスプレッドが縮小しても,それは危機の解決を意味していない.ECBが介入することを市場が知っているだけだ.2.また,債務/GDPの比率にはいくつか問題がある.それは公的資産を無視している.社会保障など,財源の無い公的な債務を無視している.3GDPの成長を無視している.だから不況期の債務安定化策は失敗した.

債務が維持不可能になれば,いずれ債務危機を避けられない.解決に向けた選択肢は5つある.

1.   財政を黒字にして,長期的に債務を減少させる.トロイカの救済条件は,長期の見通しを示さなかった点で失敗だ.最初に債務を削減し,財政を黒字化して,時間をかけて返済する.

2.   公的資産の売却.しかし,その額が不明である.さらに,短期では売却できない.

3.   古典的な債務の組み換え.しかし,公的債務は銀行システムに資産として組み込まれている.債務の組み換えは銀行危機になる.政府はその介入によって債務を増やすだろう.銀行の資本増強ができるのは,the European Stability Mechanismであろう.その財源でも不十分だ.

4.   債務免除.パリ・クラブによる債務免除は,債権国から債務国への財政移転であり,政治的問題を生じる.また,小国なら免除できるが,ギリシャ,アイルランド,スペイン,ポルトガル,イタリア,フランスの12000億ユーロ,債権諸国のGDP30%という規模では,経済的に見ても不可能だ.

5.   債務の貨幣化.政府に処理できなければ,中央銀行が最後の貸し手になる.短期の債券売買で介入したように,ECBは長期債券も購入する.ただし,ECBの長期債保有が増えても,問題は解決しない.なぜなら,ECBの保有する債権を介して,赤字国から黒字国に金利が支払われる.それは解決すべき方向と逆だ.そこで,債務の貨幣化が求められる.赤字国は債券を発行して,その債券を担保にECBが無利子の融資を行う.

それはECBの信用を損ない,インフレ的である,という反対がある.しかし,現状ではインフレは起きない.モラル・ハザードを抑え,ECBの信用を維持するには,債務の貨幣化が2度と起きないように,赤字国が財政赤字を解消し,黒字を続けること,すなわち,財政規律の制度化,が重要だ.

FT August 8, 2013

Why the eurozone will come apart sooner or later

By Samuel Brittan

もう十分だろう.ユーロ圏は維持できない.

1999年にユーロが始まってから,ドイツの単位労働コストは累積で13%以下しか増えていない.しかし,ギリシャ,スペイン,ポルトガルの単位労働コストは20%から30%,イタリアはそれ以上に増えた.ドイツの経常収支黒字がGDP6%になっても当然だ.この不均衡があるのに,銀行同盟やハーモニゼーションを議論しても意味はない.

単一通貨は加盟国から為替レートを奪うが,互いの経済を調和させる力が働く,と主張された.それは間違いだった.

この先には限られた展開が待っている.第1に,周辺諸国の「緊縮」策が成功する.何年かかるのか? 第2に,周辺諸国が停滞し続ける.第3に,ありえないことだが,ドイツなど北欧が拡大策,すなわち,インフレを受け入れる.第4に,いくつかの国がユーロ圏を離脱する.それは様々な破壊力を及ぼすが,アルゼンチンができたように,危機を終息するかもしれない.

もし賭けるとしたら,私は4番だ.


l  インド準備銀行の新総裁

FT August 7, 2013

India’s new central bank governor will need serious political skill

By Arvind Subramanian

成長は減速し,財政赤字はGDP10%,インフレ率は3年以上も2ケタに近い,経常収支赤字は拡大して持続不可能な水準だ.短期投資は逃げてしまい,長期投資は規制や不確実さを嫌う.ルピーの減価が止まらない.しかも選挙を控えて,与党の議会派は財政支出を増やして選挙前に支持を増やしたい.

ラジャンは何をすればよいのか?

1に,通貨市場の平穏を回復する.次の半年に必要な250億ドルを外部から融資される必要がある.第2に,新しい銀行ライセンスを与える.それは銀行部門に民間の活力を与えるが,同時に,産業財閥のパワー拡大を許す.インド準備銀行RBIは,その選考過程を透明にしなければならない.

マクロ面で,ラジャンにできることは多くない.すべての中央銀行と同様に,RBIは財政赤字を抑制できないし,経常収支赤字もコントロールできない.金利と流動性によってインフレを抑えるだけだ.しかし,インフレを抑えてほしいという声はほとんどない.人々は成長を求めている.選挙前に,ラジャンがインフレ抑制を行うのは難しい.

RBIの基本目標を明確にすることだ.物価の安定であり,ルピーの水準ではない.意見の頻繁な変更を避ける.特別な金融市場やセクターではなく,広義の政策手段に集中する.必要であると説明するなら,不人気な引き締め策も継続する.


l  新正常への回帰

FT August 6, 2013

The global economy is now distinctly Victorian

By Adam Posen

世界経済は正常に回帰しつつある.しかし,それは完全雇用や,リスクのない世界が回復することを意味しない.多極化した世界で,富裕諸国と有能な貧困諸国との間で技術水準が急速に収斂する.新興市場で中産階級が増大する.あらゆる面で政治家は論争するが,それと同時に,特に低熟練労働の抗議の声は無視される.世界は相対的な物価の安定性を維持するけれど,その実質的な経済の浮動性は高い.これは19世紀後半の旧正常に回帰することだ.

例えば,アメリカの世紀は終わった.そして,複数の準備通貨が存在する世界だ.世界の知的所有権など,公共財はだれも守らない.それが新興諸国の追い上げを加速している.中国の台頭やデジタル時代を得意なものとみてはならない.かつて,アメリカもドイツも同じように台頭した.同時に,技術の先頭を行くものは開発の利益を失い,技術が停滞するかもしれない.企業間の競争は激化し,国際的な競争と進出が重要になる.国家が支援する大規模プロジェクトが19世紀後半に増えた.

その後,グローバリゼーションは崩壊した.低熟練労働者たちの不満を聴こうとしないエリート政治家に対して,大衆的な抗議が起きた.彼らに呼応する新政治運動も各地に誕生した.支配層は,中央銀行の独立性,国際金本位制,財政の健全性,に頼っていた.

旧正常への回帰は,今では再現しないはずだ.1914年に戦争を起こした国内政治と国際関係は,今や存在しない.しかし現代のセーフティー・ネット,福祉国家,大国間の核抑止,なども,やはり現状維持に偏っている.

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The Economist July 27th 2013

Emerging economies: The Great Deceleration

Emerging economies: When giants slow down

America’s public finances: The Unsteady States of America

Charlemagne: Sire, there are no Belgians

(コメント) BRICSに代表される世界経済の「キャッチ・アップ」型「収斂」が終わります.その成長は続きますが,減速します.“NEXT 11”は,BRICSほど大きな影響を生まないでしょう.世界経済にグローバリゼーションの逆転をもたらす懸念もあります.

アメリカのデトロイト市が社会保障の負担で破産した事件や,ヨーロッパでベルギー国家が分裂状態を深める問題は,世界が新興市場の成長を失うとき,改善するより,さらに悪化するかもしれません.

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IPEの想像力 8/12/13

8月は日本の戦争を意味します.敗戦が日本を変え,日本人の記憶と,それを通じて現在の支配的な意識,共通の政治的なセンスを再生し続けます.戦争の記憶は,「なぜ始まったか」ではなく,「なぜ終わったか」という形で意識される「終戦」です.現在の政治家たちが,被爆者や戦没者の「支持」を奪い合う政治舞台です.

中国や韓国では,当然,それと異なる戦争,日本の「侵略」が記憶されているでしょう.それは解放のための戦争であり,独立の回復が祝福される国民統一の舞台です.

The Economistのインターネット版ビデオで,記者たちの対談を観ていました.815日の靖国神社参拝が注目される理由は,靖国神社に戦犯が祀られているからであり,日本が戦争に関する反省を欠いている,と中国や韓国が問題視するからだ,と述べています.同時に,日本は戦後の再建過程において自尊心を失った,と自民党内の安倍首相のグループは考えており,党内の勢力再編を計算しているだろう.靖国参拝は,彼らにとって重要な約束である.その意味で,ナショナリストの安倍首相が今後も経済政策に関心を集中するかどうか,選挙で勝利した後の姿勢を判断する材料になる,と指摘します.

8月は,広島・長崎の原爆投下,沖縄戦,ソ連侵攻,玉音放送,マッカーサー司令官,闇市,などが「戦争」として強調されます.

シンガポールでは,日本軍がイギリス植民地を「解放」した後,いかに野蛮な暴力と略奪,恐怖によって支配したか,を決して忘れない,とリー・クアンユーは書いています.日本軍は,反対する恐れがある者を海岸に集めて大量に殺害しました.日本軍は,見せしめとして,些細な理由で激しい暴力を日常的にふるいました.

日本のテレビ放送が,特攻隊や学徒出陣を取り上げることもあります.しかし,特攻隊を「悲劇」として描き,若者たちに同情するのは,間違っている,と思いました.自爆して敵の船を沈めるよう,若者たちに求める「作戦」は,もはや勝利を期待できない状況で,戦争状態を継続しようとする指導部の「恐怖心」や「愚劣さ」を示すものです.若者たちは死ぬ必要がなかったし,死ぬべきでもなかった,訓戒で死ぬことを求められなければ,捕虜になって帰還できたはずです.

誰が若者たちを殺したのか? もし特攻隊を「愛国心」や「愛国者」の理想にしてしまえば,彼らの死だけを称え,降伏して家族に再会し,戦後の社会再建に役立つという選択を否定することになると思います.靖国神社が(文明ではなく)野蛮であるのは,こうした「死」を賛美すること,失敗した戦争行為を「愛国」とみなし,既存の・自国の支配体制を擁護する「政治・宗教性」が悪質だからです.

もし特攻隊がなければ,若者たちの多くは生きて帰れたでしょう.占領した地域から,もっと早期に撤収し,本土を防衛することと外交による停戦を急ぐことが政治の中心課題になった,と思うのは歴史に反する妄想でしょうか?

「自爆テロ攻撃」は,911でアメリカの政治テーマとなりました.イラクやアフガニスタンでは今も多くの犠牲者を出し続けています.世界中の反政府勢力やテロ集団が,「特攻隊」の悲劇を繰り返しているとき,それを日本では賛美しているのです.

炎暑の中で,お盆の行事が,8月の戦争を後悔させます.日本だけでなくアジア各地の戦場で殺された者が,記憶を通じて,私たちに異なる能力を要求しています.また,特攻隊と似た若者たちの「死」を賛美する現在のテロ組織を通じて,私たちも想像します.

8月は,宮崎駿の,ラピュタ,ナウシカ,トトロ,黒猫,紅ブタ,などと再会できる季節です.多くの外国人が,炎暑の京都や広島の原爆ドームだけでなく,ミヤザキ・アニメを観るでしょう.

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