IPEの果樹園2013

今週のReview

8/12-17

 

*****************************

アメリカFRB次期議長争い ・・・ヒトラー風の憲法改正 ・・・消費税引き上げ ・・・スノーデン事件が示すもの ・・・世俗派都市エリートと宗教 ・・・アメリカン・ドリームの解体 ・・・ユーロ危機の選択肢 ・・・中国の成長可能性 ・・・インド準備銀行の新総裁 ・・・新正常への回帰 ・・・Bo Xilai裁判が示すもの

 [長いReview]

******************************

主要な出典 Bloomberg, China Daily, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, Global Times (China), The Guardian, NYT: New York Times, Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, WP: Washington Post, WSJ: Wall Street Journal Asia, Yale Global そして、The Economist (London)


l  アメリカFRB次期議長争い

NYT August 1, 2013

Sex, Money and Gravitas

By PAUL KRUGMAN

女性にFRB議長は務まらない,というキャンペーン.

Project Syndicate 02 August 2013

The Federal Reserve in a Time for Doves

Kenneth Rogoff

世界の中央銀行として最強であり,アメリカの公職において大統領に次ぐ強い影響力を持つ,と言われるFRB議長の決定は重要だ.それを決めるのはオバマ大統領である.

サマーズLawrence SummersもイエレンJanet Yellenも,その経験や金融政策の知識は十分に条件を満たしている.両社とも,FRBが物価の安定性を過度に重視することに批判的である.それは,通常なら候補としての欠点であるが,今は違う.

金融政策の知識や能力は重要であり,1920年代,30年代,1970年代の失敗はそれを示している.サマーズがクリントン政権下で金融緩和に熱心であった,と批判する者もいるが,彼は同時に,政府債務危機を処理してきたし,インフレ連動債の発行を主張している.イエレンがサンフランシスコ連銀の総裁であったとき,アメリカ住宅バブルが起き,特に担当地区で大きなバブルを生じているが,彼女は他の者よりも早くから警告していた.

誰も失敗しないことは不可能だが,失敗から学ぶことが重要だ.ウィンストン・チャーチルは1925年にイギリスが金本位制を再建したときの大蔵大臣であった.それは破滅的な結果に終わった.

中央銀行総裁は,政治的な圧力に対抗しなければならない.市場関係者が金融緩和を望んでも,インフレ期待を抑制するためには,「保守的」な「金融引き締め策を好む人物が求められる.それは結果的に長期金利を抑え,同時に,賃金と物価の上昇圧力を回避するからだ.

しかし,75年で最悪の金融危機後に,低すぎるインフレ目標を強調するのは間違っている.今はインフレ抑制を喧伝した効果を緩和し,デフレ期待を抑えるリフレ政策が求められている.「ハト派」の議長を指名することが正しいのである.

FT August 4, 2013

Why Obama should pick Yellen to lead the Fed

By JamesHamilton

どのような人物が求められるか,オバマの答えは明快だった.インフレを抑え,金融市場が新たな不安定性を生じないように,経済を成長させる人物だ.私はその評価に同意するし,それは現在のイエレン副議長である,と思う.

アメリカの住宅市場で起きている問題を,イエレンは最初に指摘した連銀スタッフの一人である.2005年の後半,住宅価格の下落は住宅所有者の資産を減らし,消費支出に及ぶ.住宅価格にはバブルの要素がある,と指摘した.

8月,Jackson Hole の会議で,シカゴ大学のラジャンRaghuram Rajanが金融市場に関する予言的な報告を行った.規制緩和,複雑な金融商品,短期融資に過度に依存した金融システムが結びついて,非常に壊れやすい環境ができている.

これに対して,当時,多くの学者や中央銀行家たちは反対した.サマーズも,基本的に,いくらかラッダイト的なこの研究の前提は,概ね,間違いである,と述べた.しかし,ラジャンの予告した危機が始まると,その問題の大きさをイエレンはきわめて正しく理解していた.当時,住宅市場の規模は金融市場の10から15%であったから,大きな危機になるとは考えられていなかったのだ.イエレンは,融資を行う相手の信用が不確実になり,破滅的な収縮が起きると考えた.また,金融機関がリスク評価に用いる数学モデルの不十分さを指摘していた.

イエレンは,危機からの回復が遅れることを重視し,連銀による量的緩和を支持する一人であった.彼女の経済予測は,the Wall Street Journalによると,過去4年間に公表された連銀の上級スタッフ15人の内で最高の評価を受けた.イエレンは自分の主張を明快に行うし,意見が対立する相手も,その違いをさかのぼって理解し,説得できた.

イエレンこそ,連銀が何を試み,それはなぜなのか,市場との対話を必要とするときに,金融界や実業界が求める指導者である.

Project Syndicate 05 August 2013

The Changing of the Monetary Guard

Joseph E. Stiglitz

誰が連銀の議長になろうと,2008年の金融危機にいくらかの責任がある.

金融市場のプレーヤーたちは,その多くが金融監督の緩みによって,危機前に莫大な利潤を得たし,危機後も彼らが寛大な救済策を適用され,資本を再強化するのを助けられ,しばしば巨額のボーナスを得て退場したことに感謝しているだろう.彼らは世界経済を破綻寸前にまで追いやったのに.金融緩和は株価が回復するのを助けたが,まさに,新しい資産バブルを創っている.

確かに,危機前の水準より下で停滞しているヨーロッパのGDPに比べて,アメリカ経済はGDPが増えたが,庶民の生活は危機前よりも低下しており,所得の増大はほとんどすべてが頂点の富裕層に起きている.

中央銀行家たちは束縛されない市場の素晴らしさを過剰に信奉するあまり,その乱用やバブルを無視し,物価の安定性だけを強調した.しかし,インフレの高まるコストは,金融的な過剰がもたらす破局に比べたら,わずかなものである.彼らはそれを,扇動しないまでも,許容していたのだ.証券化のリスク,より広くは,過剰なレバレッジ,シャドー・バンキング・システムである.

危機を介した中央銀行家もいた.オーストラリア,ブラジル,カナダ,中国,インド,トルコ,などである.彼らは経験から知っていた.束縛のない市場は常に効率的でないし,自己規律的でもない.例えば,マレーシアは1997-98年の金融危機に際して資本規制を導入した.それは,当時,多くの非難を浴びた.しかし,彼らの措置は正しかったことをIMFが認め,今回,短い不況で危機から脱したことで証明された.

次のFRB議長になる者は,優れた金融規制の重要性を理解し,アメリカの銀行システムをビジネスに対する信用供給,特にアメリカの庶民や中小企業に融資することに戻すべきだ.

その人物は様々な異なる見解を持つ人々と協力しなければならず,危機に対する直接の経験と正しい判断力を示さねばならない.アメリカ財務省は,2007-08年の東アジア金融危機を処理しそこなった.さらに重要なことは,次の危機を防ぐことであり,自由放任型の市場信仰は危機への近道でしかない.

まだ壊れやすい回復過程を確かに固めつつ,金融政策の継続性,相互理解と信頼に基づくアメリカ連銀の指導力,グローバルな協力関係を得るには,イエレンこそ最適だ.民主党議員の3分の1が明確に彼女を支持している.

FP AUGUST 5, 2013

Larry Summers, Anger Translator

BY DANIEL ALTMAN

バーナンキはthe House Committee on Financial Servicesのメンバーから質問を受けて答えた.サマーズならどう答えただろうか,考えてみよう.

連銀にガイダンスを与えてはどうか,という話もあるが? ・・・バーナンキ:「われわれの計画や思考を伝えることは非常に重要だとずっと考えている.市場は我々のメッセージを理解し始めたし,浮動性は顕著に減少している.」・・・サマーズ:「説明するのはいとわない.説明が好きだから,教授をしている.しかし,3度までだ.それでもわからないときは,仕方ない.」「私を責める者がいる.デリバティブのトレーダーは確かにクズだ.金融政策を理解していない.ここでは議論しないが.」

BLOOMBERG Aug 5, 2013

Who Does America’s Banker Wants as Fed Chairman?

By William Pesek

かつて90年代にTimes誌によって世界救済委員会“The Committee to Save the World”と称えられたサマーズだが,この地域でイエレンの支持が高いのもそれが理由の一つだ.サマーズたちは,危機に陥った国に単一の処方箋を押し付けた.

アジアにおいて,ますます市場はドルによって決まり,だれも自国の中央銀行のことを気にせず,むしろバーナンキの発言に注目する.アメリカが危機になるとドルの洪水が押し寄せ,アメリカの景気が回復するとドルが干上がる,というのはアジアにとって理不尽だ,と彼らは感じている.

グリーンスパンが1994年,突然,金利を上げて,ドルにほぼ固定していたアジア通貨を動揺させた.今は,サマーズが量的緩和を急に逆転させるのを心配する.アジア地域はイエレンを支持している.

しかし,今やアジアはアメリカの債券を多く保有し,アメリカにとっての銀行家である.オバマは議長を決めるとき,アジアの意向も考えてはどうか?

WP August 6, 2013

The biggest loser in the Fed debate

By Mohamed A. El-Erian

サマーズとイエレンの候補者争いは,次第に,ネガティブなものになっている.このまま続くと,次の議長が重要な政策を決めるときに,市場の反応を悪化させる危険がある.これまでも,議長の優れた成果は,その能力だけでなく,ますます人柄についてのイメージによって影響を受けた.

オバマは候補者争いを放置せず,速やかに決断を下すべきだ.

FT August 7, 2013

Why Obama should not pick Summers for the Fed

By Scott Sumner

次のFRB議長に求められるのは,債券市場の利回りが7%程度から急激に低下し,このままゼロに近い水準が続く中で,将来も繰り返し訪れる不況を回避する決意である.イエレンはバーナンキの量的緩和を支持したし,もっと強い政策を望んでいる.他方,サマーズは金融政策が効果を持たず,むしろ財政刺激策が正しい,と主張する.

しかし,Christina Romer and David Romerの最近の研究によれば,連銀が金融政策を失敗した3つの重大なケースは,いずれも金融政策が支出に与える効果を強く悲観したときだった.すなわち,1930年代の大不況,1966-81年のインフレ,そして,2008年後半の消費の落ち込み,景気回復の遅れ,である.あのとき,リーマンショック後の金融救済だけを指導して,サマーズは消費の落ち込みを軽視した.同時に,消費を維持する積極的な緩和策が必要であった.

サマーズは危機において指導的な政策転換を担えるかもしれないが,彼に金融政策をゆだねるべきではない.


l  ヒトラー風の憲法改正

theguardian.com, Friday 2 August 2013

The Japanese finance minister's Nazi comments hark back to a dark past

Rana Mitter

「ヒトラー風の憲法改正」Constitutional reform à la Hitler? アメリカに押し付けられた憲法を,ワイマール憲法と同様に,ナチス風の静かな破壊で,戦争できるように変えてしまおう.

麻生の発言だけでなく,日本が同様に憲法改正や軍事拡張を主張する政治家たちによって変化しているのは,中国との対抗を意識するからだ.日中関係は1937年から始まった戦争によって今も大きく影響されている.この戦争が持つ意味を,ともに国内政治と国際政治において安定した形にできないのだ.

中国の大衆文化では,勧善懲悪の素朴な悪者だけを示す日本軍がオンライン・ゲームに出てくる.南京大虐殺は記念館などを通じて繰り返し日本の恐怖を呼び起こし,国民党軍の果たした役割は全く否定されている.他方,日本では,ヨーロッパ帝国主義からアジアを解放する戦争であった,という小林ヨシノリの『戦争論』が65万冊も売れた.自民党は,左派の教員組合が示した歴史観を否定し,ナショナリズムと怪しいノスタルジーを精力的に広めている.

東アジアは国際対立を緩和する制度を欠いたまま,日中間の対立するイデオロギーが,次第に,1937年の深刻な状態に近づくのかもしれない.

VOX 5 August 2013

Bowling for Adolf: How social capital helped to destroy Germany’s first democracy

Hans-Joachim Voth, Nico Voigtländer, Shanker Satyanath

ワイマール共和国の崩壊は世界史の転換点であった.それは殺戮を好むナチ党に権力を与えることになる.多様なイデオロギーや緊密な社会ネットワークを持つ戦間期のドイツが,急速に,ナチスによる社会の崩壊を助けてしまう.政治学者のPutnamは,民主主義における社会資本の重要性を強調した.この考えは,1830年代に,トクヴィルAlexis de Tocquevilleがアメリカ社会について述べたものを引き継いでいる.

2013-08-08 (China Daily)

Flight or Fight: Miyazaki vs Aso

By Philip J. Cunningham

歴史問題を解決しなければ,現在にも歪みが生じる.歴史論争は,過去を掘り返す以上に,過去の間違いを将来繰り返さないために,何度も回想される必要がある.事実をゆがめることこそ問題の一部であり,それを黙って見過ごしてはならない.

日本の軍国主義がそうだ.日本に関して,南京大虐殺や,従軍慰安婦,戦犯を称える靖国神社,を報道する外国メディアは多い.しかし,日本で展開されている論争に注目するべきだ.

戦争を否定する「平和憲法」の改定を求める論争が激しくなっている.一方には,アニメーターの宮崎駿Hayao Miyazakiに代表される,反対派(憲法の擁護)がいる.他方に,漫画ファンを自称する,オリンピックのライフル狙撃選手でもあった,エリート層の保守政治家,麻生太郎Taro Aso副総理がいる.麻生は,最近,ナチスのように改憲するのがよい,と述べた.

日本人は,彼ら2人に代表されるように,戦争をどのように記憶するべきか,今も対立した見方を示して争っている.宮崎の最新作は,ゼロ戦,を取り上げている.全ての国に様々な人がおり,ナショナリズムを広め,それに同調することを強制した最悪の時代にも,正しい行いを尊ぶ人たちがいたことが,そのテーマである.

平和を愛する日本人は,軍国主義や過去の失敗を再現しないために,立ち上がるときだ.


l  消費税引き上げ

FT August 2, 2013

Sales tax rise to hit Japanese growth

By Jonathan Soble in Tokyo

浜田宏一は,1年延期するか,引き上げ率を1%に抑えるよう,示唆した.黒田日銀総裁は,消費税引き上げの影響は小さい,と予定通りの引き上げを支持した.

NYT August 5, 2013

I.M.F. Calls for Japan Reforms and Plan to Clear Debt

By THE ASSOCIATED PRESS

WSJ August 6, 2013

The Tax Debate Japan Needs

安倍首相の次の課題は4月に予定される消費税の引き上げだ.首相はそれを,成長を促す税制改革に向けた,機会とみなすべきだ.

昨年の国会で,2015年までに消費税を10%に引き上げることが合意されている.安倍は,経済状態が増税に耐えられないと判断すれば,最初の8%に引き上げることを延期できる.しかし,それは政府の財政再建に向けた約束を疑わせるかもしれない.現在の経済成長では,たとえ消費税を10%にしても,まだ2023年にGDP3%にあたる財政赤字が出ると予想されている.

支出削減では不十分だ.現在の税制が破たんしているのだ.法人税率は,アメリカに次いで,世界第2位の高さである.経営者の所得には56%が課税される.しかし,政府歳入がGDPに占める率は他の開発諸国に比べて遅れている.高い限界税率は労働意欲をそぐ.高い税率は政府に免税制度や抜け穴を強く求め,その結果,経済判断は歪み,控除の対象が大幅に増え,税収を減らす.

安倍は,限界税率を引き下げ,控除や抜け穴を廃止するべきだ.また,地方政府への財政移転を見直す必要がある.主に中央政府の決める法人税の一部が地方財政を支えているから,彼らはその引き上げを強く求める.地方財政の税源を拡大し,個々の地方政府に決定をゆだね,競わせるべきだ.また,中央政府は企業への二重課税を廃止し,他の開発諸国と同様に,特にサービス部門で,企業の設立や展開を助けるべきだ.

また,労働移動や女性の就業を妨げる税制も廃止するべきだ.妻に対する控除額や,勤続年数に応じた退職金制度は,労働参加・移動を低下させている.

GDP200%を超える政府債務に対して,減税を考えることはできない,という主張は間違っている.OECDも成長を促す税制を支持し,消費税は20%以上に引き上げるよう提案している.

WSJ August 7, 2013

Japan Cries Out for Daycare

By MINAMI FUNAKOSHI

FT August 8, 2013

Bank of England chief Carney warns against Japanese ‘mistakes’

By John Aglionby

イングランド銀行のカーニーMark Carney総裁が,イギリスの景気回復では日本の失敗を繰り返さない,と発言した.日本は1990年代前半に2つの失敗を犯した.すなわち,銀行部門を十分に改革しなかった.刺激策を中止するのが早過ぎた.

FT August 8, 2013

Kuroda backs sales tax rise as BoJ keeps monetary policy on hold

By Jonathan Soble in Tokyo


l  スノーデン事件が示すもの

Project Syndicate 02 August 2013

The Snowden Time Bomb

Harold James

世界金融危機の後,指導者たちは繰り返した.大恐慌は再現しない.なぜなら,金融政策は改善されているし,国際協調は制度化されているから.

しかし,たった一人の男Edward Snowdenが,その現実を暴露した.

2008-09年の危機後に重要な役割を果たしたのは,IMFG20である.主要工業諸国が回復を示したせいで,それがたとえ弱いものでも,国際機関の強化は注目されなくなった.しかし,将来も危機は起きるし,その処理にはもっともっと強力な国際機関が必要だ.

IMF1945年以降の世界経済で最も重要な国際機関であったが,その強化は進んでいない.むしろ危機ごとに融資は力を失い,1997年のアジア危機では間違った政策を強要した,と責められた.IMFの救済融資は,アメリカとその金融機関に利用されたのだ,と.

その後,2007年以降の危機では,最初からアメリカの問題と見られていたし,IMF専務理事の交代人事も含めて,ヨーロッパの政治家たちに振り回されていることが明白になった.ユーロ危機の救済は,ヨーロッパだけをIMFが優遇している,と嫌われたのだ.IMFの分析は混乱し,その政策は間違いだった.

世界金融危機が示した諸問題は,経常収支不均衡,調整の分担,金融改革と成長との両立,など,IMFがもっと強く,もっと効果的に主張すべきことだ.しかし,この点で力を得たのはG20であった. G20は,グローバルな経済レジームを改革する流れを受けて,20094月のロンドン・サミットで,世界銀行とIMFに追加の融資財源を与え,そのヨーロッパ偏重の国際機関に対して,新興諸国を取り込み,政治的正統性を補った.

しかし,その後の政策監視は各国データの集積に失敗し,特に,財政刺激策の強調は成功しなかった.スノーデンEdward Snowdenが示したように,ロンドン・サミットでもイギリス政府は各国代表の通話内容を盗聴していたのだ.指導者間の信頼など,全く存在せず,彼らの能力にも大きな疑問を生じた.

ウラジミール・プーチンはスノーデンに1年間の保護を認めたが,彼は今年のペテルスブルグ・サミットを主催する.

FP AUGUST 2, 2013

The Whistleblower May Have to Hold His Tongue

BY ANNA NEMTSOVA

theguardian.com, Tuesday 6 August 2013

Obama's abuse of the Espionage Act is modern-day McCarthyism

John Kiriakou

FT August 7, 2013

Edward Snowden is the least of America’s problems with Russia

By Philip Stephens

BLOOMBERG Aug 7, 2013

Obama Snubs, Russia Laughs, Putin Wins

By Leonid Bershidsky

Project Syndicate 08 August 2013

Surveillance and American Liberty

Joseph S. Nye

アメリカ市民の自由とは,ロシアや中国が非難するように,単なるまやかしなのか?

この問題は,外国機関への諜報活動と,自国民への国内情報収集という,2つの問題に分けて考えるべきだ.

スノーデンによる諜報活動の暴露が注目される前から,米中サミットでオバマ大統領が中国によるサイバー攻撃や知的財産の略奪を問題にしていた.確かに米中間で多くの諜報活動が行われているだろうが,それには明らかに違いがある.国家間の政治・軍事的な諜報活動は国際法が禁じておらず(国内法が禁止しても),他方,知的財産権は国際法によって認められており,その盗用・略奪は違法である.

安全保障の情報を交換し,諜報活動を禁止することは,米中双方にとって利益がある.

アメリカ政府も,貿易自由化交渉の準備段階でEU代表の情報を傍受していたことは間違いであった.こうした行為は相互の利益を損なっており,オバマ大統領は非難すべきだった.他方で,市民的自由に関しては,アメリカの民主主義的伝統に従っても,国家の安全保障とのバランスには難しい関係がある.

オバマ政権は,それを現行法に従って認められたものであると主張した.しかし,その法的枠組みの維持は,先月,議会で僅差により承認されたにすぎない.反対派は,共和党のティー・パーティーと民主党のリベラルが連携した.

リンカーンも,F.D.ルーズベルトも,同様のジレンマを抱えたが,アメリカ社会は911後のテロ攻撃が抑制されたおかげで,そのバランスを安全保障から市民的自由に戻し始めた,と言える.


l  世俗派都市エリートと宗教

NYT August 2, 2013

Put Middle East Peace to a Vote

By STACIE GODDARD

The Observer, Saturday 3 August 2013

There is hope for the future amid the turmoil of the Middle East

Tony Blair

Project Syndicate 05 August 2013

The Arab Wars of Religion

Shlomo Ben-Ami

ヨーロッパが数百年を要したように,アラブ世界も今,世俗派の権力と宗教的権力とが戦っている.イスラムとは政治である,と,かつてイランのホメイニが述べたように,イスラム主義者は政治を分離して考えない.世俗派の支配体制が崩壊したところでは,どこでもイスラム勢力が政治権力を握る.それを奪い返すには軍隊に頼るしかない.

中東圏でも,マグレブ,トルコでさえ,イスラム主義が政治を動かしている.シリアの内戦は国外勢力を加えて地域全体に紛争を拡大する.一つの希望は,権力を失ったムスリム同胞団が民主主義の価値を認め,政治をゼロサムではないと理解することだろう.

FP AUGUST 5, 2013

The Snake That Eats Itself

BY DARON ACEMOGLU, JAMES A. ROBINSON

トルコは中東の政治モデルであった.それは,強力で,政治的にも活発な軍部と,教育を受けた,生活水準の高いエリート(しばしば官僚),そして,貧しい,保守的な,イスラム教徒の間で,その統合をもたらすモデルである.最近のエルドアン政権に対する反発が示すように,その民主主義も表面的なものでしかなかったようだが,トルコの最近の歴史には重要な教訓がある.特に,エジプトにとって.

政府が平和的なデモに強硬な弾圧姿勢を取ったのは,社会の深刻な分断状態を反映している.社会的分断は,しばしば,政治的な利用されてきた.それを,西洋化したリベラルなエリートと,宗教的な大衆との対立,と見るのは間違いである.対立の本質は,政治・社会・経済的な不平等にある.

クズネッツSimon Kuznetsが主張したように,経済発展の初期には不平等が拡大する.それ故各地の社会は亀裂を生じ,すでに政治権力や特権的な地位を得ていた者たちだけが豊かになった.ラテンアメリカの多くがそうであったように,教育,福祉,道路,政治的発言などに現れた社会的分断状態は,不公平の感覚を強めた.近代化が多くのポピュリスト的な指導者を生んだのは当然だ.

トルコでも,1946年に設立された民主党the Democratic Party (DP)が,ビジネスに近い,保守派として,軍事的・官僚的な,トップダウンの政治エリートに対抗し,民衆に支持を呼びかけた.1950年に選挙で大勝したDPは,貧しい,地方の,教育を受けていない,信仰心の強い人々に支持された.その主張は,ポピュリスト的で,イスラム色を強め,国家エリートを苦しめる内容になっていた.

しかし,DPの指導者は貧困層を救済するために権力を求めたのではなかった.汚職が蔓延していた.彼らも敵対者を弾圧し,新聞を検閲した.1960527日,官僚と知識人エリートに広く支持されて,軍事クーデタが起きた.その後の40年間に,3度のクーデタで,軍部が政治に介入した.それはエリートと社会との亀裂を深めた.

もしクーデタが失敗し,DPが支配を続けていたら,民主主義は確立されたのか? おそらく自分たちの独裁体制を強化しただろう.それは,エジプトのムスリム同胞団と同じである.

トルコも,エジプトも,包括的な民主主義体制を必要としている.信条・信仰や性別,社会的地位に関係なく,全ての社会勢力が権力を共有する.社会的分断が深まれば,それはますます困難になる.この悪循環を断つ容易な答えはなく,政治過程に勢力均衡を維持する制度を築くことはいずれの社会でも難しい.

南アフリカが,黒人と白人との分断状態を克服する民主主義的体制へ移行できたのは,ネルソン・マンデラのような,ビジョンと勇気を持った指導者がいたからだ.

YaleGlobal, 6 August 2013

Iran’s Mounting Malaise

Jamsheed K. Choksy

Project Syndicate 06 August 2013

The Myth of Khaki Democracy

Ian Buruma

エジプトとタイには,似たところがほとんどない.しかし両国は,選挙で権力を得た指導者(Thaksin Shinawatra in Thailand and Mohamed Morsi in Egypt)を軍事クーデタで追放することに,教育ある,自ら民主的だと称する民衆が支持した点で共通している.

発展途上諸国で,世俗の,多かれ少なかれ西洋化された,都市的エリートと,地方のまずしい民衆との間にあるギャップを,どうやって橋渡しするべきか? 軍隊と協力して弾圧するのか? あるいは,もう一度,民主主義を試すのか?

NYT August 6, 2013

Daring to Fail

By THOMAS L. FRIEDMAN

WSJ August 6, 2013

The Paranoid Style in Turkish Politics


FP AUGUST 2, 2013

Escalation Cause

BY DAVID GOMPERT, TERRENCE KELLY


The Observer, Saturday 3 August 2013

The Great War: we are as blind to our times as the innocent lovelorn boy was in 1913

Henry Porter


l  中国の汚染問題

NYT August 3, 2013

Life in a Toxic Country

By EDWARD WONG


後半へ)