前半から続く)


l  アメリカン・ドリームの解体

NYT August 3, 2013

Crumbling American Dreams

By ROBERT D. PUTNAM

私の住む町,人口6050人の,Port Clinton, Ohioは,1950年代にアメリカン・ドリームを体現していた.銀行家の子供にも,工場労働者の子供にも,同じく,素晴らしい機会が開かれていた.

しかし,半世紀を経て,経済や社会の格差が広がった.町の高校the Port Clinton High SchoolPCHS)にBMWを停める裕福な学生もいれば,その横には,ボロボロの老朽化した自動車に,クラスメートのホームレス家族が住んでいる.

強い労組と完全雇用,継続する好景気があった.深刻な経済不安を感じる家族は少なかった.私のクラスメートたちは,驚異的な社会的上昇と所得の増加を実現した.公立,私立を問わず,カレッジは学費が安く,奨学制度があった.

私がJと呼んでいた友人のスター・クォーターバック(白人)は,町の貧困地区で育った.彼の父は,家族を養うために2つの仕事を兼ねていた.朝7時から3時までPort Clinton Manufacturingで働き,その後,3時半から夜の11時まで缶詰工場で働いた.家族は,自動車がないので,隣人の車に便乗して,毎週,教会に通っていた.Jの父は彼にカレッジへの進学を望んだ.Jは,好成績を示して奨学金を得たことで,債務なしに卒業し,その後,高校のフットボール・コーチになっている.

私の友人が述べたように,「われわれは貧しかったが,そのことを知らなかった.」 しかし,事実は,われわれが受けた社会的支援の広がりと深さという点で,われわれは豊かだったのだ.そのことを,われわれは知らなかった.

地平線の向こうからは,しかし,われわれの子供や孫たちの生きる機会を激変させる経済・社会・政治の暴風雨が迫っていた.それは驚愕の,絶望的な,激変であり,Port Clintonをアメリカ格差社会の典型にした.

地域を支えた主要な工場が閉鎖され,製造業の雇用が失われた.奨学金を給付する団体もなくなった.

私の孫とほぼ同じ年齢のRは(18歳,白人,女性),その労働と才能にもかかわらず,非常に困難な,絶望的な生活に陥っている.彼女の祖父は私のクラスメートであったかもしれない.しかし,彼女の祖父は,カレッジではなく,当時の高給で,安定した,ブルーカラーの道を選んだ.その後,工場が閉鎖され,労働者の職場が失われると,その子供たちは仕事がなく,麻薬と犯罪に引き込まれ,不安定な関係しかなくなった.孫のRが,両親の離婚後,経験した孤独,不信,社会的な孤立の話は恐るべきものだ.

労働者階級が崩壊しただけでなく,同時に,新しい上流階級が誕生した.専門職の裕福な中産階級がPort Clintonに流入し,ゲーティッド・シティに豪華な邸宅を建てた.そして,エリー湖にヨットを浮かべたのだ.それは,1950年代が示した平等主義のエトスとあまりにも対照的である.「われわれ」という感覚が,意識の底から完全に失われてしまった.

Rのような子供たちを,「われわれの子供」と意識できるまで,アメリカは膨大な経済的コストを支払うだろう.アメリカン・ドリームも,単なる歴史に虚構でしかなくなる.

NYT August 4, 2013

The Price of ‘Made in China’

By PETER NAVARRO

ブルックリンとスタッテン島とをつなぐ橋は,その鋼鉄部品を中国に外注した.アメリカの企業には,それに必要なスペースや設備,資金がなかったからだ.

しかし,生産を外注することで,われわれの経済は死滅する.


The Guardian, Sunday 4 August 2013

Colin Wilson's glumness entranced me as a budding teenage existentialist

Terry Eagleton


l  ユーロ危機の選択肢

FT August 4, 2013

Europe’s reforms need more than a new rule book

By Tony Barber

Project Syndicate 05 August 2013

Europe’s Fake Normal

Mohamed A. El-Erian

NYT August 5, 2013

The Euro’s Morality Lesson

By ROGER COHEN

FT August 6, 2013

A strong commission is the key to a stable Europe

By Mujtaba Rahman

VOX 6 August 2013

To end the Eurozone crisis, bury the debt forever

Pierre Pâris, Charles Wyplosz

表面的に平静でも,ユーロ債務危機は悪化している.どうすれば危機は解決するのか? 5つの主要な選択肢を考える.

1.公的債務のスプレッドが縮小しても,それは危機の解決を意味していない.ECBが介入することを市場が知っているだけだ.2.また,債務/GDPの比率にはいくつか問題がある.それは公的資産を無視している.社会保障など,財源の無い公的な債務を無視している.3GDPの成長を無視している.だから不況期の債務安定化策は失敗した.

債務が維持不可能になれば,いずれ債務危機を避けられない.解決に向けた選択肢は5つある.

1.   財政を黒字にして,長期的に債務を減少させる.トロイカの救済条件は,長期の見通しを示さなかった点で失敗だ.最初に債務を削減し,財政を黒字化して,時間をかけて返済する.

2.   公的資産の売却.しかし,その額が不明である.さらに,短期では売却できない.

3.   古典的な債務の組み換え.しかし,公的債務は銀行システムに資産として組み込まれている.債務の組み換えは銀行危機になる.政府はその介入によって債務を増やすだろう.銀行の資本増強ができるのは,the European Stability Mechanismであろう.その財源でも不十分だ.

4.   債務免除.パリ・クラブによる債務免除は,債権国から債務国への財政移転であり,政治的問題を生じる.また,小国なら免除できるが,ギリシャ,アイルランド,スペイン,ポルトガル,イタリア,フランスの12000億ユーロ,債権諸国のGDP30%という規模では,経済的に見ても不可能だ.

5.   債務の貨幣化.政府に処理できなければ,中央銀行が最後の貸し手になる.短期の債券売買で介入したように,ECBは長期債券も購入する.ただし,ECBの長期債保有が増えても,問題は解決しない.なぜなら,ECBの保有する債権を介して,赤字国から黒字国に金利が支払われる.それは解決すべき方向と逆だ.そこで,債務の貨幣化が求められる.赤字国は債券を発行して,その債券を担保にECBが無利子の融資を行う.

それはECBの信用を損ない,インフレ的である,という反対がある.しかし,現状ではインフレは起きない.モラル・ハザードを抑え,ECBの信用を維持するには,債務の貨幣化が2度と起きないように,赤字国が財政赤字を解消し,黒字を続けること,すなわち,財政規律の制度化,が重要だ.

BLOOMBERG Aug 6, 2013

If You Think Europe Is Fine, Look at Italy

By Simon Johnson

FT August 7, 2013

Opening up the ECB will undermine its independence

Lorenzo Bini Smaghi

Project Syndicate 07 August 2013

A Weaker Euro for a Weaker Europe

Franz Nauschnigg

ドイツのくり字をユーロで調整できないことが問題であった.しかし,ユーロ安,人民元高が進んで,PIIGSの中国に対する赤字が減少することが,新しい支援となるだろう.

FT August 8, 2013

Why the eurozone will come apart sooner or later

By Samuel Brittan

もう十分だろう.ユーロ圏は維持できない.

1999年にユーロが始まってから,ドイツの単位労働コストは累積で13%以下しか増えていない.しかし,ギリシャ,スペイン,ポルトガルの単位労働コストは20%から30%,イタリアはそれ以上に増えた.ドイツの経常収支黒字がGDP6%になっても当然だ.この不均衡があるのに,銀行同盟やハーモニゼーションを議論しても意味はない.

単一通貨は加盟国から為替レートを奪うが,互いの経済を調和させる力が働く,と主張された.それは間違いだった.

この先には限られた展開が待っている.第1に,周辺諸国の「緊縮」策が成功する.何年かかるのか? 第2に,周辺諸国が停滞し続ける.第3に,ありえないことだが,ドイツなど北欧が拡大策,すなわち,インフレを受け入れる.第4に,いくつかの国がユーロ圏を離脱する.それは様々な破壊力を及ぼすが,アルゼンチンができたように,危機を終息するかもしれない.

もし賭けるとしたら,私は4番だ.

しかし,いつまでユーロを続けるのか,予想することはできない.

シャルルマーニュは800年に神聖ローマ帝国を建て,1806年にナポレオンが解体した.その後,ドイツの領邦国家体制は統一権力を持たず,1834年の関税同盟を経て,ようやく1871年にドイツ帝国が成立した.確かに歴史は加速しているだろうが,どれくらいか?


l  ドイツのウォルマート

NYT August 4, 2013

In Germany, a Union Culture Clashes With Amazon’s Labor Practices

By NICK WINGFIELD and MELISSA EDDY

 


FT August 5, 2013

Bangladesh: Pinned back by politics

By Victor Mallet


l  中国の成長可能性

Project Syndicate 05 August 2013

Long Live China’s Boom

Justin Yifu Lin

中国の成長は続く.後発諸国は,世界の技術フロンティアの内にある.それゆえ,過去30年間の高成長が続くかどうかは,中国の技術導入の可能性によって決まる.

世界の技術フロンティアとの関係は,概ね,一人当たりGDPで示される.中国は,まだ,アメリカの21%でしかない.それは日本の1951年,シンガポールの1967年,台湾の1975年,韓国の1977年と同じ水準である.

BLOOMBERG Aug 5, 2013

A BRICS Bank Needs a Sense of Purpose to Succeed

By Jim O’Neill

FT August 6, 2013

Forget ‘taper’ risk: China is a bigger threat

By George Magnus

アメリカ連銀のQE終了より,新興市場,特に中国の示すデフレの不安こそが深刻なリスクだ.

Project Syndicate 06 August 2013

Chinese Reform Goes Local

Zhang Monan

BLOOMBERG Aug 8, 2013

China’s Worst Nightmare Is Turning Japanese

By William Pesek

世界のエコノミストや政治家にとって,「日本化Japanization」ほど恐ろしい言葉はない.アメリカのバーナンキも,ヨーロッパのドラギも,市場に貨幣を注ぎ込んで自分たちも「失われた10年」を経験しないように努めている.

中国もそうだ.JPMorganGrace Ngは,現在の中国が1980年代の日本と似ている,と警告する.日本は1980年から1990年の間に,政府債務のGDP比率を.127%から176%にまで上昇させた,来年には250%を超えるだろう.中国は,2000年から2012年に,105%から187%にまで上昇した.中国も急速に高齢化している.しかも日本のように豊かになる前に.

日本は輸出に依存した成長モデルに慢心し,転換の機会を失った.経常収支黒字や財政赤字,資産バブルによって,転換を延期し続けた.中国も同じ道をたどっているが,中国には日本ほど時間がない.問題は,政治が経済を支配していることだ.地方政治家は摩天楼や空港,高速道路,ホテル・チェーン,スタジアム,大学,などを建設し続けている.破産したデトロイトの債務,180億ドルなど,小さな額に見える.

ショックを緩和し,処理する方法はある.問題は,指導部がそれに政治的な覚悟を示すかどうか,である.


l  ワシントンポスト買収

NYT August 5, 2013

A Mogul Gets a Landmark in the Capital

By NICK WINGFIELD and DAVID STREITFELD

FT August 6, 2013

A long way from All the President’s Men

Jurek MartinJurekMartin

FT August 6, 2013

Bezos on Page One


l  インド準備銀行の新総裁

FT August 6, 2013

Rajan confronts India’s economic woes

By Amy Kazmin in New Delhi

IMFの元チーフ・エコノミストであるラジャンRaghuram Rajanが,インド準備銀行の総裁になる.ラジャンは2008年の金融危機を予測したことで有名だ.

その当面の任務は,動揺する通貨ルピーを安定化し,成長が減速するアジア第3のインド経済を活性化し,外資の流出を止めることだ.ルピーの価値は,ドルに対して,この2年間で39%も減少している.

FT August 7, 2013

Rajan dusts off plan for modernising India’s financial system

By Amy Kazmin in New Delhi

FT August 7, 2013

Rupee falls to lowest closing level

By James Crabtree in Mumbai

FT August 7, 2013

India’s new central bank governor will need serious political skill

By Arvind Subramanian

成長は減速し,財政赤字はGDP10%,インフレ率は3年以上も2ケタに近い,経常収支赤字は拡大して持続不可能な水準だ.短期投資は逃げてしまい,長期投資は規制や不確実さを嫌う.ルピーの減価が止まらない.しかも選挙を控えて,与党の議会派は財政支出を増やして選挙前に支持を増やしたい.

ラジャンは何をすればよいのか?

1に,通貨市場の平穏を回復する.次の半年に必要な250億ドルを外部から融資される必要がある.第2に,新しい銀行ライセンスを与える.それは銀行部門に民間の活力を与えるが,同時に,産業財閥のパワー拡大を許す.インド準備銀行RBIは,その選考過程を透明にしなければならない.

マクロ面で,ラジャンにできることは多くない.すべての中央銀行と同様に,RBIは財政赤字を抑制できないし,経常収支赤字もコントロールできない.金利と流動性によってインフレを抑えるだけだ.しかし,インフレを抑えてほしいという声はほとんどない.人々は成長を求めている.選挙前に,ラジャンがインフレ抑制を行うのは難しい.

RBIの基本目標を明確にすることだ.物価の安定であり,ルピーの水準ではない.意見の頻繁な変更を避ける.特別な金融市場やセクターではなく,広義の政策手段に集中する.必要であると説明するなら,不人気な引き締め策も継続する.

それ故,選挙が終わるまでは動かず,その後に,正規の改革を推進するだろう.すなわち,近代化,情報通信システム,規制の改善・強化,金融的な包摂.

FT August 8, 2013

India needs more than a new broom

Project Syndicate 08 August 2013

The Paranoid Style in Economics

Raghuram Rajan


l  新正常への回帰

FT August 6, 2013

The global economy is now distinctly Victorian

By Adam Posen

世界経済は正常に回帰しつつある.しかし,それは完全雇用や,リスクのない世界が回復することを意味しない.多極化した世界で,富裕諸国と有能な貧困諸国との間で技術水準が急速に収斂する.新興市場で中産階級が増大する.あらゆる面で政治家は論争するが,それと同時に,特に低熟練労働の抗議の声は無視される.世界は相対的な物価の安定性を維持するけれど,その実質的な経済の浮動性は高い.これは19世紀後半の旧正常に回帰することだ.

例えば,アメリカの世紀は終わった.そして,複数の準備通貨が存在する世界だ.世界の知的所有権など,公共財はだれも守らない.それが新興諸国の追い上げを加速している.中国の台頭やデジタル時代を得意なものとみてはならない.かつて,アメリカもドイツも同じように台頭した.同時に,技術の先頭を行くものは開発の利益を失い,技術が停滞するかもしれない.企業間の競争は激化し,国際的な競争と進出が重要になる.国家が支援する大規模プロジェクトが19世紀後半に増えた.

その後,グローバリゼーションは崩壊した.低熟練労働者たちの不満を聴こうとしないエリート政治家に対して,大衆的な抗議が起きた.彼らに呼応する新政治運動も各地に誕生した.支配層は,中央銀行の独立性,国際金本位制,財政の健全性,に頼っていた.

旧正常への回帰は,今では再現しないはずだ.1914年に戦争を起こした国内政治と国際関係は,今や存在しない.しかし現代のセーフティー・ネット,福祉国家,大国間の核抑止,なども,やはり現状維持に偏っている.

Project Syndicate 08 August 2013

The Ghost of Inflation Future

Brigitte Granville


FT August 6, 2013

Zero-hours work for Britain’s zero-hours economy

By John McDermott


FT August 6, 2013

Mongolia travels the distance to its magic moment

Kurt Campbell

SPIEGEL ONLINE 08/07/2013

Mining the Gobi

The Battle for Mongolia's Resources

By Bernhard Zand


l  Bo Xilai裁判が示すもの

BLOOMBERG Aug 6, 2013

Bo Xilai’s Trial Exposes Truth About China

By Minxin Pei

政治スキャンダルは,一党支配体制の神話を破壊する.もっとも魅力的な神話は,毛沢東後の共産党が,党内対立を克服し,統一を維持するシステムを完成した,というものだ.この「権威主義体制の持続性」により,中国指導部が民主化を回避できる,と言われた.すなわち,指導部の規則的な交代,競争的な党内人事,強制的な引退,など.

しかし,実際は権力闘争が続いている.党のあいまいな体制内で,ルールによる制約を回避する.勝者は,その能力ではなく,強力な仲間を集めるのに優れていることを示す.指導部内に,政治的忠誠は存在しない.

もう一つ,広く受け入れられた神話は,共産党人事の能力主義である.Bo Xilaiが政治局委員に登ったのは,その開発モデルが優れていたからではない.彼は非常に大きな政治的野心を持ったために,大きなリスクを犯し,敵対者に無慈悲な戦略を取った.しばらくは成功したが,敵対者たちは挑戦しなかった.

しかし,恐怖心が敵対者を団結させ,Boを失脚させる.法廷で彼が観るのは,この体制の欠陥である.

Project Syndicate 07 August 2013

Bo Xilai Between the Dragon And His Wrath

Ma Jian

NYT August 7, 2013

From Maoist Criminal to Popular Hero?

By PIN HO


FT August 7, 2013

Obama veto leaves patents under a cloud

By Richard Waters


Project Syndicate 07 August 2013

The Battle for Water

Brahma Chellaney


NYT August 7, 2013

Life Lessons From a Most Unlikely Duo

By NICHOLAS D. KRISTOF

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The Economist July 27th 2013

Emerging economies: The Great Deceleration

Emerging economies: When giants slow down

America’s public finances: The Unsteady States of America

Charlemagne: Sire, there are no Belgians

(コメント) BRICSに代表される世界経済の「キャッチ・アップ」型「収斂」が終わります.その成長は続きますが,減速します.“NEXT 11”は,BRICSほど大きな影響を生まないでしょう.世界経済にグローバリゼーションの逆転をもたらす懸念もあります.

アメリカのデトロイト市が社会保障の負担で破産した事件や,ヨーロッパでベルギー国家が分裂状態を深める問題は,世界が新興市場の成長を失うとき,改善するより,さらに悪化するかもしれません.

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IPEの想像力 8/12/13

8月は日本の戦争を意味します.敗戦が日本を変え,日本人の記憶と,それを通じて現在の支配的な意識,共通の政治的なセンスを再生し続けます.戦争の記憶は,「なぜ始まったか」ではなく,「なぜ終わったか」という形で意識される「終戦」です.現在の政治家たちが,被爆者や戦没者の「支持」を奪い合う政治舞台です.

中国や韓国では,当然,それと異なる戦争,日本の「侵略」が記憶されているでしょう.それは解放のための戦争であり,独立の回復が祝福される国民統一の舞台です.

The Economistのインターネット版ビデオで,記者たちの対談を観ていました.815日の靖国神社参拝が注目される理由は,靖国神社に戦犯が祀られているからであり,日本が戦争に関する反省を欠いている,と中国や韓国が問題視するからだ,と述べています.同時に,日本は戦後の再建過程において自尊心を失った,と自民党内の安倍首相のグループは考えており,党内の勢力再編を計算しているだろう.靖国参拝は,彼らにとって重要な約束である.その意味で,ナショナリストの安倍首相が今後も経済政策に関心を集中するかどうか,選挙で勝利した後の姿勢を判断する材料になる,と指摘します.

8月は,広島・長崎の原爆投下,沖縄戦,ソ連侵攻,玉音放送,マッカーサー司令官,闇市,などが「戦争」として強調されます.

シンガポールでは,日本軍がイギリス植民地を「解放」した後,いかに野蛮な暴力と略奪,恐怖によって支配したか,を決して忘れない,とリー・クアンユーは書いています.日本軍は,反対する恐れがある者を海岸に集めて大量に殺害しました.日本軍は,見せしめとして,些細な理由で激しい暴力を日常的にふるいました.

日本のテレビ放送が,特攻隊や学徒出陣を取り上げることもあります.しかし,特攻隊を「悲劇」として描き,若者たちに同情するのは,間違っている,と思いました.自爆して敵の船を沈めるよう,若者たちに求める「作戦」は,もはや勝利を期待できない状況で,戦争状態を継続しようとする指導部の「恐怖心」や「愚劣さ」を示すものです.若者たちは死ぬ必要がなかったし,死ぬべきでもなかった,訓戒で死ぬことを求められなければ,捕虜になって帰還できたはずです.

誰が若者たちを殺したのか? もし特攻隊を「愛国心」や「愛国者」の理想にしてしまえば,彼らの死だけを称え,降伏して家族に再会し,戦後の社会再建に役立つという選択を否定することになると思います.靖国神社が(文明ではなく)野蛮であるのは,こうした「死」を賛美すること,失敗した戦争行為を「愛国」とみなし,既存の・自国の支配体制を擁護する「政治・宗教性」が悪質だからです.

もし特攻隊がなければ,若者たちの多くは生きて帰れたでしょう.占領した地域から,もっと早期に撤収し,本土を防衛することと外交による停戦を急ぐことが政治の中心課題になった,と思うのは歴史に反する妄想でしょうか?

「自爆テロ攻撃」は,911でアメリカの政治テーマとなりました.イラクやアフガニスタンでは今も多くの犠牲者を出し続けています.世界中の反政府勢力やテロ集団が,「特攻隊」の悲劇を繰り返しているとき,それを日本では賛美しているのです.

炎暑の中で,お盆の行事が,8月の戦争を後悔させます.日本だけでなくアジア各地の戦場で殺された者が,記憶を通じて,私たちに異なる能力を要求しています.また,特攻隊と似た若者たちの「死」を賛美する現在のテロ組織を通じて,私たちも想像します.

8月は,宮崎駿の,ラピュタ,ナウシカ,トトロ,黒猫,紅ブタ,などと再会できる季節です.多くの外国人が,炎暑の京都や広島の原爆ドームだけでなく,ミヤザキ・アニメを観るでしょう.

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