IPEの果樹園2013

今週のReview

7/8-13

 

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中国経済と金融危機 ・・・金融政策の再評価 ・・・委縮するリヴァイアサン ・・・エジプトの軍事クーデタ ・・・新興諸国の限界 ・・・安倍,第4の矢を射る? ・・・第1次世界大戦の教訓

 [長いReview]

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l  中国経済と金融危機

FP JUNE 27, 2013

Crunch Time

BY MICHAEL PETTIS

先週の流動性逼迫に足る数週間,中国における短期融資の金利が急騰し,世界市場に波紋を広げた.ほとんどの金融機関が中国の予想成長率を引き下げた.

しかし,その予想はまだ高すぎるだろう.中国経済は,輸出と投資による高成長から,国内の家計支出による成長へと,転換過程に入った.

注目すべきは,政府の姿勢である.政府は.投資と債務に存した成長を転換する中国経済のリバランスについて後退しなかった.それは胡錦濤が成長率を下げることを拒んだ姿勢と対照的である.

中国政府は難しいゲームを始めている.世界は,この持続的成長に向けた中国の転換が重要であることを理解し,これに協力しなければならない.アメリカ,ヨーロッパ,日本は貿易摩擦に関する対立を避けるべきだ.超強力な中国経済の時代は終わった.過去の累積した債務の中で緩やかな成長を模索する.

FT July 2, 2013

Risks of a hard landing for China

By Martin Wolf

中国の新しい指導部は最大の難問に取り組もうとしている.空を飛ぶ勢いの経済を減速するのだ.

シャドー・バンキングを管理するのは難しい.しかし,より大きな問題は,経済の減速が墜落につながるリスクである.10%の成長から6%の成長に変わることは,単に,4%の変化ではない.中国経済はジャンボジェット機である.「近年,このジェット機のエンジンのいくつかが不調であった.操縦士は減速をし始めたが,もしあまりに減速すれば,スピードが落ちて墜落する・・・」

市場がこうした重要な構造変化を円滑に実現するとは思えない.円滑な着陸を導くには,政府がこれまでにないような大胆な介入をしなければならないときもあるだろう.例えば,巨額の財政赤字を出すことになる.それは新指導部が望まず,予想もしていないだろうが.

YaleGlobal, 2 July 2013

Get Ready for The Next China

Stephen S. Roach

次の中国が誕生しつつあるのに,アメリカには世界第2の経済が変化することへの準備がない.アメリカはまだ旧中国との関係に頼る経済だ.

中国政府には戦略がある.より均衡した,消費主導の成長モデルに移行するために,サービス部門で雇用と消費を増やし,都市化による所得の増大を促し,セーフティーネットを強化する.しかし,それは容易でない.地方政府や国有部門による反対にあうだろう.

アメリカはこうした中国の変化に戦略対話で応じるべきだ.サービス主導の経済に中国が変化することは,世界のサービス貿易で支配的なアメリカ企業の利益になる.アメリカの消費者は,この5年間,氷漬けである.成長の新しい源泉として,中国のサービス市場は欠かせない.


l  金融政策の再評価

Project Syndicate 30 June 2013

Economic Rebalancing Acts

Robert Skidelsky

私は財政刺激策を支持する.金融政策では,たとえ非正統的な金融緩和策でも,機能しないだろう.市場はそれほど弱気であり,完全雇用を回復するほど銀行が融資することはない.中央銀行が思いのままに融資をできる,というのは間違いである,とわれわれは経験から知っている.

旧来のケインズ主義が言うように,総需要の不足に苦しんでいるのであるから,財政赤字は減らすべきではなく増やすべきである.そして,1年から2年後に民間・公的債務を減らす最も良い方法は,今,成長を起こすことだ.

緊縮派とケインズ派とのもうひとつの論争は,どのような経済を回復するのか,という問題だ.危機前の経済は銀行だけに問題があった,と考える者は,中央銀行による「マクロ・プルーデンシャル規制」を主張する.銀行の国有化や分割を主張する者もいるが,危機後の回復は銀行部門をどうするかに限定される.

しかし,銀行融資の過剰は,より深刻な問題の兆候でしかない,と考えることもできる.融資は不平等の拡大とともに増えた.社会民主主義の社会福祉政策に変わって,安価な融資が供給されたのだ.だから危機後の社会は,富と所得を再分配しなければならない.

財政刺激策は,何らかの社会改革と結びついている.他方,緊縮派はそれらに反対し,需要を高めることを支持する場合も,金融政策だけを使用する.

自動車やガソリンに依存する社会から,エネルギーを節約し環境を守る社会へ,民間から公的消費へ,経済政策の目標が変わるのだ.GDPの成長を最大化するのではなく,「幸福」や「福祉」,「よい生活」を求めている.危機は,銀行の失敗だけでなく,むしろ貨幣だけが目的となった社会において起きた.


l  委縮するリヴァイアサン

FT June 28, 2013

A Leviathan cowed – welcome to Britain in 2023

By Janan Ganesh

緊縮策に限らず,国家は多方面で萎縮する.多くのディストピア作家が恐れたような未来は来ない.社会給付,公共サービス,課税,軍事介入,などは減少する.EUから離脱し,スコットランドは独立し,ロンドンはより大きな権限(財政,労働ビザ)を得る.


l  エジプトの軍事クーデタ

The Observer, Saturday 29 June 2013

Egypt: a revolution on the brink of self-destruction

Observer editorial

数万人の群衆がモルシ大統領の辞任を求めている.1年前に選挙で決めた大統領だ.大統領を支持する,ムスリム同胞団以外の支持者を含む,デモも集まっている.暴力的な衝突が起きて,「内戦」を警告する宗教指導者がいる.

2011年の「パン,自由,社会正義」を求めた革命は,全く違うものになった.エジプトの国益は実現しない.シリアのアサドによる流血の体制維持を喜ばせるだけだ.地域の反民主主義勢力が勢いづき,民主派は失望する.人口8500万のエジプトは,誇り高い,広く認められた,アラブ世界の盟主である.エジプトが30年に及ぶムバラク独裁を倒したとき,アラブの春は世界中の抑圧された人々を刺激した.

民衆が願うのは,もっと基本的な,経済状態の改善だ.食料の価格が急騰し,燃料は不足している.雇用も,教育の機会もなく,外貨準備も信用も枯渇し,貧困が増して反政府デモに向かっている.こうした不満に,モルシ大統領は信用できる答を示せなかった.

モルシやムスリム同胞団を含む,すべての党派が合意して,経済問題を改善することが求められている.「パン,自由,社会正義」の実現を目指すなら,まずパンを人々に与えることだ.

FT July 1, 2013

Egyptians stage a second revolution

By Roula Khalaf

2年前にムバラクを倒したときより,群衆はさらに大きかった,という者がいる.西側専門家は,これが「スローモーションの」クーデタである,という.

しかし,軍の意図に関わらず,モルシの権力を奪われた支持者たちは反発し,大衆の支持する民主主義が大きく後退するだけでなく,イスラム主義者の過激化を刺激するだろう.権力の穏健な仲介者を望んだ反政府派も,強硬な軍事支配体制の出現に失望するかもしれない.

NYT July 1, 2013

Young Activists Rouse Egypt Protests but Leave Next Steps to Public

By BEN HUBBARD

2か月前,5人の若者たちがカイロのコーヒー・ショップに集まった.そして,大衆の不満を集めるシンプルな署名運動を始める.モルシが就任して1年になる630日に,辞任を求めて大統領官邸へのデモを呼びかけた.アラビア語で「謀反」を意味する“tamarrod”と名付けた.

運動は成功し,若者たちはムスリム同胞団に反抗する英雄になった.抗議集会に招かれ,ジャーナリストが取り上げ,テレビ・ショーにも出た.彼らはイスラム教徒で,個人的には信仰心も篤いが,ムスリム同胞団の政治的なイスラム主義を信用できない.

しかし,彼らの運動は,若者たちの強さと弱さを示している.革命以後のエジプトの政治変化を反映すると同時に,それを持続的な政治組織に転換することには失敗しているからだ.彼らは政治過程に大衆を組織する方法がわかっていない.若者たちは,何を望まないか,しかわからず,何を望むのか,は示せない.

「わずか2か月で政党の綱領を示せというのは無茶だ」と,若者の一人は言う.しかし,「皆がどの政党も信用できない,あなたたちを信用する,と言ってくれる.」

FT July 3, 2013

Egypt’s second chance

Richard Haass

モルシが誤解していたのは,民主主義の正統性は投票箱で多数を占めることではない,ということだ.選挙は必要条件ではあるが,決して十分条件ではない.また,民主主義はパワーの問題であるだけでなく,その制約の問題である.

多数派は少数派を守らねばならない.政府の各部門は他の部門を尊重しなければならない.政府は市民,社会,経済のために決定することについて一定の制約を認めねばならない.そのようなチェック・アンド・バランスが整備され,根付くには時間がかかる.エジプトは未成熟な民主主義であり,その権力を一部の集団にハイジャックされる危険があった.

だから軍隊は行動した.これをクーデタと非難する者もいるが,それは不正確である.軍による政治介入は危機を収拾するために起こされた.危機の原因は軍ではない.また軍は,支配する姿勢を示していない.司法当局とともに権力を暫定的に保持し,民政移管の予定表を示している.

それ故,外部からこれを非難し,制裁するのは適当でない.むしろ安定化と改革を支援するべきである.またムスリム同胞団は政治過程に参加させるべきだ.街頭で暴力的に抵抗するのではなく,議会で平和的に要求するべきだ.新しい選挙で彼らが再び権力を得るかもしれない.反対派も,街頭デモではなく,選挙を競うために,政治組織を整備するべきだ.

アラブの春は,宗派争い,暴力,無能なガバナンス,など,深い失望に変わった.独裁者を倒すことは,それに代わる優れた政治システムを実現することではない.エジプトは2度目のチャンスを得た.

FP July 3, 2013

Downfall in Cairo

BY MARC LYNCH

アメリカ政府でモルシの解任を残念に思う者はいないだろう.しかし,大衆デモと軍の介入が政治の安定性を回復するとか,民主的な体制をもたらすと信じる者もいない.ムスリム同胞団の政権は残念な結果をもたらしたが,問題はそれを正す政治制度が弱く,正当性を欠いたことだった.もしデモや軍部が後者を犠牲にして前者を解決したのであれば,政治の回復は難しい.

アメリカは公然とクーデタを支持してはいないが,それがワシントンにエジプト政治への影響を強める機会であると理解している.そうであれば,2011年,2012年に試みた以上に,軍は国民の意思を尊重し,市民的なルール,重要な政治的合意の形成を急ぐよう,働きかけるべきだ.

オバマ政権はこの数年間,一貫して民主的な体制の安定化を,ムスリム同胞団の政治参加(しかし,支配するのではない状態)とともに,願ってきた.それ故,反対派が民主政治を組織する力の不足にも,ムスリム同胞団が反対派を含める合意形成に向かわない姿勢にも,強く不満であった.

アメリカが民主的な政治過程を重視する姿勢は,ムスリム同胞団が選挙で敗北することを求めた.しかし,モルシが勝利した後,議会でも反対派が大統領を抑制するほど議席を得られず,政治が機能しなくなった.アメリカ政府がムスリム同胞団とモルシを支援している,という誤解が広まったことは,非常に大きなダメージとなった.エジプトの政治は決して見通しがよくないが,両者が同盟を結ぶことはありえなかった.また,ムスリム同胞団の政治参加を支持したことは,ムバラク体制への大規模な報復を抑制した点で,成功であった.

国家の破綻や大規模な暴力は回避されたが,エジプトが弱体政権と,軍事介入,大衆デモからなる循環を際限なく続けるリスクがある.エジプト政治体制の移行における問題は,対立を処理できる,確立された合法的なゲームのルール,政治論争を解決する制度的チャンネル,が欠けていることだ.ワシントンでは,憲法の制定作業がそれをもたらすと期待していた.

その過程が失敗した今,政治合意の形成は,憲法改正であれ,主要な政治勢力・社会集団の国民的な「対話」であれ,これからにかかっている.私は,クーデタの将来に深く懐疑的である.アメリカはその影響力を最大限に生かして,事態がこれ以上悪化するのを避けるだけだ.

NYT July 4, 2013

Egypt’s Revolution Part II

By THOMAS L. FRIEDMAN

われわれは,将来,この日を,政治勢力としてのイスラムが後退し始めた日として回想できるだろうか?

エジプトでは,非イスラム教徒の反政府運動が軍にモルシとムスリム同胞団の権力を奪うように求めた.トルコでは,世俗の(非宗教的な)都市の若者たちが反政府デモを行った.イランの有権者は,イスラム聖職者の認めた候補の中で最もリベラルな候補を大量得票で大統領にした.チュニジアでも,リビアでも,イスラム政党が世俗の勢力との妥協を受け入れている.

ムスリム同胞団が支持を失った背景を理解する言葉は,「盗まれた」である.モルシが勝利したときのことを思い出す.ムスリム同胞団の支持者だけで51%の得票は不可能であった.彼らは世俗の,敬虔な,しかしイスラム主義ではない有権者に訴えた.モルシは中道の政治を行い,経済の回復と社会の包摂に焦点を向ける,と.多くの中道派の都市エリートがモルシに投票したのは,その対立候補がムバラク体制を継承する軍人だったからだ.

しかし,その後,さまざまな選択において,モルシとムスリム同胞団は,その約束を破って自分たちの権力を拡大した.だからモルシに投票した多くの人が,非常に重要なものを奪われた,と感じるようになった.彼らが長く求めてきた民主的なエジプト,平等な成長が,失われたのだ.2011年に,タハリール広場でムバラク体制と闘った若者たちこそ,革命がムスリム同胞団によって盗まれた,と強く感じた.

社会の包摂が停滞するか,成功するか,それはすべての人々が将来に向けた改革の見通しを共有できるかどうかにかかっている.すべての政治的アクターは(軍を含めて),エジプトを成長の経路に乗せるため,経済・治安・政治改革の民主的な合意に到達できるだろうか? あるいは,最新の大統領を追放することだけしか合意できない?


l  新興諸国の限界

NYT June 29, 2013

Takin’ It to the Streets

By THOMAS L. FRIEDMAN

自由な選挙で選ばれた政府が,投票箱の反対票ではなく,抗議デモを受けるのはなぜか?

1.リベラルの伝統に反する,「多数派支配」の民主主義が広まっている.ロシア,トルコ,エジプト.その政府は「多数派」によって支持された専制体制である.彼らはいったん権力を握ると,反対派を弾圧し,メディアを支配する.

2.中産階級の労働者は,福祉国家の縮小と,ますます要求の厳しくなる労働市場に,挟撃されている.急速なグローバル化と機械化は,勤勉な労働者でも生き残ることを難しくした.ストレスに苦しむ労働者たちに,旧政治組織・指導者は応えていない.

3.スマートフォン,タブレット,Facebook,ブログ,など,双方向の通信手段で労働者たちは抗議運動に加わる.人々の不満は,雷のように,瞬時に社会を覆う.

以前に比べて専制支配は難しくなったが,民主制も不安定だ.より多くの人々が,より多くの手段で,彼らの不満を語り,通りを占拠する.


l  安倍,第4の矢を射る?

FT July 3, 2013

Japan is not ready for the fourth of Shinzo Abe’s arrows

By David Pilling

日本経済は,安倍の第4の矢を受け入れることができるか? それは消費税の引き上げ(2段階で10%に引き上げ)である.

安倍は財政による拡大策を主張しないが,その弾力性を主張した.財政刺激策に続いて,今度は増税するのだろうか?

消費税引き上げを実行することは,アベノミクスを真剣に市場が評価するためにも,重要である.それは日本財政の混乱を解決する第1歩になるからだ.こうした意見の根拠は,1GDP240%に達する政府債務,2.高い支持率を利用できる,3.債券市場の監視を受けている.金利上昇や資本逃避,また,消費者の信頼感も.

しかし,インフレ率を2%にすることが目標であれば,消費税の引き上げは延期すべきである.片足でアクセルを踏みながら,反対の足でブレーキを踏むことになるからだ.

どちらも主張も決定的ではない.一方では,アベノミクスの第1,第2の矢は表面的で,構造改革だけが重要だ,と考える者がいる.彼らは生産性の上昇と財政再建を重視する.他方で,主にインフレを促すことで名目成長を実現することを重視する者もいる.日本が債務を増やしたのは,デフレによって名目GDP1990年のレベルに停滞していることが原因だ.2%のインフレで3-4%の名目成長を実現すれば,政府の債務問題は改善する.財政引き締めは必要ない.

将来,消費税を引き上げるとしても,いつが適当か,よく考えるべきだ.


l  1次世界大戦の教訓

Project Syndicate 03 July 2013

Financial Crisis and War

Harold James

1次世界大戦が起きた背景には,金融のグローバリゼーションがあった.すなわち,ドイツの台頭を恐れたイギリスが金融ネットワークを戦略的に利用し,それに対抗して米独の金融ネットワークが構築され始めたことである.金融は軍備増強に変わるものとして重視され,その決定は国際秩序を非常に脆弱なものにした.

1907年の金融危機はアメリカに発し,その他の世界に及んだ.それは国際金融システムの壊れやすさを示して,現代の金融危機と類似の反応を引き起こした.

当時の覇権国,イギリスは,金融を戦略的に利用することを考えた.イギリスは,海軍とグローバルな金融システムを結び付けて,その指導力を高めたのだ.海軍本部は,ドイツとの全面的な経済戦争を計画していた.

現代のGoogle, Apple, or Verizonがアメリカの諜報機関に協力しているように,当時の銀行ネットワークもイギリス政府に情報を提供していた.それは敵対する同盟の弱点を知るうえで重要だった.

1907年の金融危機に対して,イギリスのライバル諸国も独自の金融力が必要であると気づいた.アメリカの金融家たちは,イングランド銀行を中央銀行として頼るのではなく,ニューヨークで貿易手形を「貨幣化」(アクセプタンス)する交換所システムを推進した.

このアメリカのシステム構築にかかわったPaul Warburgは,ハンブルグの大銀行家の弟で,アメリカへの移民であったが,兄Maxはドイツ皇帝ウィルヘルム2世の顧問であった.Warburg兄弟は,イギリスの産業・金融独占に対抗する,独米の制度を強力に推進した.彼らは,ドイツとアメリカが年々その力を増し,イギリスは停滞する,と確信していたのだ.

2008年の金融危機に対して,ドル融資に頼る各国はアメリカの連銀とスワップを結んで対応するしかなかった.こうした欠陥を正すには,銀行の再国有化や,大銀行の分割が必要だった.アメリカの外国銀行支店に対する規制見直しは,諸外国に金融的保護主義や制裁を懸念させた(イランや北朝鮮にはすでに制裁が実施されている).ロシア,ヨーロッパ,中国,など,各地で地政学が銀行業務に「介入している.

こうした発想が,1914年の戦争に至ったのである.2007-2008年後の世界もそれに近い.

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The Economist June 22nd 2013

Tibet: A new way forward

The Federal Reserve: Clearer, but less cuddly

Majoritarianism: Zombie democracy

Protests in Brazil: Taking to the streets

Turkey’s protests: Erdogan cracks down

Clayton, Dunbilier & Rice: Engineers of a different kind

The Sino-Japanese war: The start of history

(コメント) チベットに対する中国の政策転換を予想させる事件です.彼らは,最後の焼身自殺者を止めることができる,と思います.アメリカ連銀の非伝統的な金融緩和政策の評価は,まだわかりません.

チャベスやプーチンが示したように,世界各地で「選挙の多数を得た」独裁体制が広まっています.トルコも,ブラジルも,エジプトも.しかし,司法の独立性や,少数者の発言権を保障する制度,情報公開や,政治家・政策を批判できるジャーナリズム,など,民主主義の内実がありません.日本の選挙は,どうでしょうか?

私が特に興味を持ったのは,企業を再生する投資家の役割,中国人の意識と21世紀の形に影響し続ける日中戦争の経験,に関する記事です.

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IPEの想像力 7/8/13

エジプトの軍による憲法停止は衝撃的です.カイロでは圧倒的な群衆が軍を支持しているように見えますが,大統領を支持するデモも起きています.

軍事クーデタの政治的な意味は様々です.①シリアのように,外国の軍事支援も加わり,大量の犠牲者を出す内戦に向かう.②ポーランドのように,外部からの介入を回避するため,軍事政権が反政府運動を弾圧(その後,権力の移譲を容認)する.③アルジェリアのように,独立後,民主化過程でイスラム主義運動に権力を奪われ,軍部と協力して弾圧,テロも激化する.

他方,民主的な選挙が答えを出せない場合も多いのです.ネパール,スリランカ,チベット,など,アジアの民主主義が脱線する様をThe Econmistは紹介しています.日本でも,決して民主主義がうまく機能しているとは思えません.元駐日英国大使,ヒュー・コータッツィの「岐路に立つ日本の外交」(『国際金融』1250)を読んで,改めて,そう思いました.

サッチャリズムやレーガノミクスが,市場改革だけでなく,強烈な反共主義でもあったように,アベノミクスは,反中国・軍事戦略を目的とした経済強化策(強靭国家論)です.単なる経済政策ではありません.むしろ,日銀と協調したデフレ脱却の政策転換を宣伝することで,有権者の支持を高めた後に,本来のアベノミクスが出現します.議会の多数派を支配したとき,戦後日本の占領軍・憲法=民主主義を解体し,戦前の日本帝国がその栄光を正しく評価できる日本人・愛国精神を取り戻す,という政治プロジェクトなのです.

私は,戦後民主主義がその役割を果たしたからこそ,これから,日本の憲法改正を論争することに賛成です.エジプトがそうであるように,新しい憲法にはさまざまな議論があるでしょう.政治指導者たちは,国論を統一する気概を示してほしいです.エジプトは多数決を急ぎ過ぎました.

The Econmistは,Rana Mitter, China’s War and Japan, 1937-1945 を紹介しています.21世紀の国際秩序は中国の意見や行動を知ることなしに考えられません.ではその中国は,なぜ現在のような考え方,社会・政治制度を採用するにいたったのか? 中国共産党が内戦に勝利した以上に,西洋列強と日本による植民地化で最弱国に落とされ,日本との戦争では「中国の歴史が終わってしまう」という危機感を抱いたことをMitterは重視します.

現在の中国人の国家や経済体制を決定したのは,日本との戦争で被った略奪や破壊,殺戮の恐怖と,中国文明が消滅する,という強い危機意識でした.中国人の眼で見た経験,その記憶が,アジアの歴史を変えました.たとえば,中国人民解放軍の司令官Xiong Xianyuの日記が引用されます.彼は,日本軍の侵攻を止めるために,黄河の堤防を爆破しました.その洪水で100万人の中国人が死にます.・・・「私の胸は痛んだ.」・・・水流は「1万頭の馬」となって流れ出した.

それでも,あるいは,だからこそ,私は日本の指導者たちが中国・韓国との和解に積極的でなければならないと思います.コータッツィが指摘するように,日本は孤立して平和や繁栄を築くことなど不可能であり,日本人もまた「日本の間違った支配者たちの犠牲者だった」から.極東軍事裁判所の意義を否定するような安倍首相や,「戦争犯罪者の名誉回復」を望むような閣僚が,日本の政府であることを憤る日本人も多いのです.経済政策としてのアベノミクスとは別の問題です.

北京の大気汚染,地方における不動産開発バブル,人民元の増価,など,中国の爆発的なキャッチ・アップ型工業化が減速する兆候は明らかです.都市中産階級の生活改善や環境保護,民主的制度と市民的な権利の保障,が中国で重要になってくると予想されます.サービス部門の拡大,公害対策やグリーン・エネルギーへの転換,など,アメリカが意識する以上に,日本の政府や産業界は中国の改革に大きなチャンスを見出すでしょう.

安倍首相は,多くの問題に答えないまま,アベノミクス祭りの半身で「日本の復活」を声援するように求めます.困難な,長期的課題には答えず,金融市場の楽観がもたらした4半期の成果で選挙を有利に進めます.もし,それが民主主義の政治に避けられない欠陥であるなら,トルコの詩人が示した新しい抵抗と連帯の姿,“standing man” を,日本でも,アジアでも,広めてほしいです.http://www.guardian.co.uk/commentisfree/2013/jun/18/turkey-standing-man

尖閣諸島によってナショナリズムを刺激すれば,アジアの共通市場はヨーロッパのように戦塵の中からしか現れません.あなたが重視する問題の現場に行って,8時間,沈黙して立ち続けることです.

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