IPEの果樹園2013

今週のReview

7/8-13

 

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中国経済と金融危機 ・・・金融政策の再評価 ・・・委縮するリヴァイアサン ・・・エジプトの軍事クーデタ ・・・新興諸国の限界 ・・・国際機関の信頼不足 ・・・安倍,第4の矢を射る? ・・・第1次世界大戦の教訓 ・・・ドーハ・ラウンドとTPP

 [長いReview]

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主要な出典 Bloomberg, China Daily, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, Global Times (China), The Guardian, NYT: New York Times, Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, WP: Washington Post, WSJ: Wall Street Journal Asia, Yale Global そして、The Economist (London)


l  中国経済と金融危機

FP JUNE 27, 2013

Red Herring

BY ZACHARY KARABELL

FP JUNE 27, 2013

Crunch Time

BY MICHAEL PETTIS

先週の流動性逼迫に足る数週間,中国における短期融資の金利が急騰し,世界市場に波紋を広げた.ほとんどの金融機関が中国の予想成長率を引き下げた.

しかし,その予想はまだ高すぎるだろう.中国経済は,輸出と投資による高成長から,国内の家計支出による成長へと,転換過程に入った.

過去2年,特に2013年は,中国本土の企業が海外子会社を使って外国融資を取り入れ,偽の貿易書類で輸出利益の名目で資金を取り入れ,それを人民元で融資していた.中国人民銀行は,輸出や国内向け直接投資によるドル売りを,為替レートを維持するために,人民元で買い取る.その人民元を国内市場で調達した.そのコストはドル資産をアメリカ財務省証券で保有する利回りよりも大幅に高く,外貨準備が増えるほど中央銀行は損失を増やす.また,大企業が外国で借りて資金を国内に持ち込むことで,通貨供給が増えた.

5月になって,政府はこうしたことをやめさせた.外国からの資金が止まって,信用の拡大を続けることが難しくなった.金利の急上昇と資金供給の減速が,銀行システム内に強く流動性逼迫を生じたのだ.

注目すべきは,政府の姿勢である.政府は.投資と債務に存した成長を転換する中国経済のリバランスについて後退しなかった.それは胡錦濤が成長率を下げることを拒んだ姿勢と対照的である.

中国政府は難しいゲームを始めている.世界は,この持続的成長に向けた中国の転換が重要であることを理解し,これに協力しなければならない.アメリカ,ヨーロッパ,日本は貿易摩擦に関する対立を避けるべきだ.超強力な中国経済の時代は終わった.過去の累積した債務の中で緩やかな成長を模索する.

2013-06-28 (China Daily)

After the liquidity crunch

By Louis Kuijs

Project Syndicate 30 June 2013

Li Keqiang’s Bottom Line

Zhang Jun

Li Keqiang首相が成長率の低下をどこまで許すのか? これは構造改革を進める過程が始まったことを意味しており,有益な現象であるからだ.融資を増やすだけでは意味がない.なぜなら,2008年以来の巨額の刺激策がGDP2倍まで債務残高を増やしており,融資はその借換えにすぎない.

最近の金融引き締めと不動産取引の規制は,投資の伸びを抑えた.成長率が堪えられないほど低くなれば,刺激策を再開するだろう.人民元の増価や賃金上昇は,投資を減らすが,同時に,新しい成長モデルへの移行を強く促している.より強力で,安定した経済の実現を,首相は望み,中国国民も必要としている.

FT July 1, 2013

China’s long march

BLOOMBERG Jul 1, 2013

China’s Slowdown Could Slam Hong Kong

By William Pesek

FT July 2, 2013

Risks of a hard landing for China

By Martin Wolf

中国の新しい指導部は最大の難問に取り組もうとしている.空を飛ぶ勢いの経済を減速するのだ.

シャドー・バンキングを管理するのは難しい.しかし,より大きな問題は,経済の減速が墜落につながるリスクである.10%の成長から6%の成長に変わることは,単に,4%の変化ではない.中国経済はジャンボジェット機である.「近年,このジェット機のエンジンのいくつかが不調であった.操縦士は減速をし始めたが,もしあまりに減速すれば,スピードが落ちて墜落する・・・」

2008年,純輸出のエンジンは止まった.それに代わって,特に2009年,投資が伸びた.そのせいで,GDPに占める投資の割合はさらに増大した.投資のエンジンに注がれる燃料は,融資である.爆発的な融資の増大は,2009年に30%も及んだ.政府は,今度,この融資と投資への依存を減らそうとしている.残されたエンジンは,政府と民間の消費である.

これまで,減速は円滑に進められた.しかし,このまま6%の成長に至るには,多くのリスクがある.

1.投資は急激に減少する.なぜなら投資は経済成長によるものだから.停滞する経済では投資がゼロになる.10%の成長から6%の成長に変わるとき,特に在庫投資は大きく減少する.2.固定資本の投資が急激に減少する.3.投資の減少による需要の減少が利潤を減らす.4.信用の拡大によるブームの後,成長の減速は銀行のバランスシートを悪化させる.処理できない多くの不良債権が生じる.また,ブームの時期に増大したオフバランスシートの取引は管理できておらず,さらに処理が難しい.

もちろん,中国のキャッチ・アップは続くし,6%の成長を実現する経済構造は,たとえば消費がGDP65%を占め,投資は35%であるような姿になる.そのためには,所得分配が大きく変わらなければならない.産業構造も,製造業に比べて,サービス部門がもっと拡大する.

市場がこうした重要な構造変化を円滑に実現するとは思えない.円滑な着陸を導くには,政府がこれまでにないような大胆な介入をしなければならないときもあるだろう.例えば,巨額の財政赤字を出すことになる.それは新指導部が望まず,予想もしていないだろうが.

FT July 2, 2013

Markets Insight: China’s curb on credit growth spells trouble

By John Plender

FT July 2, 2013

Inside Business: Pity the banks after Beijing’s blunt move

By Simon Rabinovitch in Shanghai

NYT July 1, 2013

Loan Practices of China’s Banks Raising Concern

By DAVID BARBOZA

YaleGlobal, 2 July 2013

Get Ready for The Next China

Stephen S. Roach

次の中国が誕生しつつあるのに,アメリカには世界第2の経済が変化することへの準備がない.アメリカはまだ旧中国との関係に頼る経済だ.

中国政府には戦略がある.より均衡した,消費主導の成長モデルに移行するために,サービス部門で雇用と消費を増やし,都市化による所得の増大を促し,セーフティーネットを強化する.しかし,それは容易でない.地方政府や国有部門による反対にあうだろう.

しかし,新指導部の選択は明確だ.財政・金融政策は新しい目標に合わせて行動している.金融引き締めは容易に逆転しないし,原則に対する財政刺激策は抑制されている.天井知らずの高成長の時代は終わったのだ.

習近平の指導部はすでに教育キャンペーンを始めている.中国共産党CCPの指導により,4つの悪い風(formalism形式主義, bureaucracy官僚制, hedonism享楽主義 and extravagance無駄遣い)が改革される.CCPは市民の核心的利益に焦点を当て,公平で安定した成長を実現するよう求めている.

アメリカはこうした中国の変化に戦略対話で応じるべきだ.サービス主導の経済に中国が変化することは,世界のサービス貿易で支配的なアメリカ企業の利益になる.アメリカの消費者は,この5年間,氷漬けである.成長の新しい源泉として,中国のサービス市場は欠かせない.

アメリカはこれまで人民元の為替レートについて苦情を言い続けていた.それは最初から意味のない論争であった.102か国と貿易するアメリカが,中国との2国間で交渉しても貿易不均衡は変化しない.20057月以来,すでに人民元は35%も増加し,中国の経常収支黒字はGDP3%以下に減っている.戦略対話のテーマを混乱させるだけだ.また,サイバー攻撃の問題も,その後のアメリカのNSAスキャンダルで論調が変化した.双方が,攻撃的な諜報活動に関して,対話により抑制するときである.

米中,双方がリバランスをめざし,重大な転換の時期に入っている.両国とも余剰労働力(アメリカの構造的失業,中国の農村部労働者)を吸収しなければならない.中国は4兆ドルの外貨準備を減らすだろう.この非対称的な世界で,非対称的なリバランスを進める米中の対話は,何よりも重要だ.

WSJ July 3, 2013

Productivity Boost for China

By YONG SIEW WAH

WSJ July 3, 2013

The Ambivalent Would-Be Hegemon

By DAVID ZWEIG

Project Syndicate 04 July 2013

China’s Risky Finances

Zhang Monan


l  金融政策の再評価

FP JUNE 27, 2013

When the World's Sugar Daddy Turns Sour

BY DAVID ROTHKOPF

Project Syndicate 28 June 2013

Why Is US Inflation So Low?

Martin Feldstein

Project Syndicate 28 June 2013

Starving the Squid

J. Bradford DeLong

アメリカ経済は,金融という吸血イカが頭に張り付いて,どんどん地を吸い取られているから回復できないのだ.

経済に占める金融の輪リア愛は大幅な上昇した.それとともに,金融進化や金融部門の拡大は,経済成長や技術革新との関係を失ってしまった.それは本来の望ましい機能を離れて,あまりにも強い政治力を持ち,将来の産業につながる革新を促すことなどなくなった.

NYT June 29, 2013

Tremors From the Fed’s Grand Experiment

By JEFF SOMMER

Project Syndicate 30 June 2013

Economic Rebalancing Acts

Robert Skidelsky

グローバルな経済危機がどのように起きたか,われわれは知っている.アメリカで破裂した住宅バブルは,銀行業によってグローバル化し,不良債権,銀行破たん,金融ひっ迫を起こした.融資が失われて,経済活動が干上がった.

政府は銀行救済し,経済を維持しようとしたが,財政危機に陥った.誰もが債務を縮小するとき,経済活動は回復しない.この対策として,「緊縮派」は財政の再建を求めた.債務を減らして健全化すれば,投資家の信頼が回復する,と考える.他方,ケインズ派は大規模な景気刺激策(すなわち,財政赤字の拡大)なしには不況が続く,と考える.

私は財政刺激策を支持する.金融政策では,たとえ非正統的な金融緩和策でも,機能しないだろう.市場はそれほど弱気であり,完全雇用を回復するほど銀行が融資することはない.中央銀行が思いのままに融資をできる,というのは間違いである,とわれわれは経験から知っている.

旧来のケインズ主義が言うように,総需要の不足に苦しんでいるのであるから,財政赤字は減らすべきではなく増やすべきである.そして,1年から2年後に民間・公的債務を減らす最も良い方法は,今,成長を起こすことだ.

緊縮派とケインズ派とのもうひとつの論争は,どのような経済を回復するのか,という問題だ.危機前の経済は銀行だけに問題があった,と考える者は,中央銀行による「マクロ・プルーデンシャル規制」を主張する.銀行の国有化や分割を主張する者もいるが,危機後の回復は銀行部門をどうするかに限定される.

しかし,銀行融資の過剰は,より深刻な問題の兆候でしかない,と考えることもできる.融資は不平等の拡大とともに増えた.社会民主主義の社会福祉政策に変わって,安価な融資が供給されたのだ.だから危機後の社会は,富と所得を再分配しなければならない.

再分配は財政刺激策と一致する.低所得層の消費が短期に増えるからだ.そして,長期的に,経済の債務依存が減少する.富裕層への増税は投資家に不信をもたらすが,消費の増大はその効果を相殺するだろう.あるいは,再分配だけでなく,エネルギーの節約を目指すべきだ,という主張もある.われわれはより多くの車carsより,より多くのケアcaresを必要としている.財政刺激策は,衣料や教育,環境保護に支出されるべきだ,と.

財政刺激策は,何らかの社会改革と結びついている.他方,緊縮派はそれらに反対し,需要を高めることを支持する場合も,金融政策だけを使用する.

自動車やガソリンに依存する社会から,エネルギーを節約し環境を守る社会へ,民間から公的消費へ,経済政策の目標が変わるのだ.GDPの成長を最大化するのではなく,「幸福」や「福祉」,「よい生活」を求めている.危機は,銀行の失敗だけでなく,むしろ貨幣だけが目的となった社会において起きた.

Dani Rodrikが明確に述べたように,「経済学が利潤最大化だけの問題を解くのであれば,それは経営学と同じである.経済学は社会の規律を問題にし,社会は市場価格と異なる別の視点でコストを計算する.」

WSJ July 1, 2013

The Fed Should Start to 'Taper' Now

By MARTIN FELDSTEIN

債券を大量に購入しても,雇用を増やす効果はない.その弊害は高まっている.金融政策の転換は難しい.

guardian.co.uk, Wednesday 3 July 2013

Ben Bernanke's gilt-edged end of term report

Heidi Moore

VOX 3 July 2013

The impact on the financial sector of long-term low nominal-interest rates

Viral Acharya, Richard Portes, Richard Reid


l  イングランド銀行の新総裁

FT June 27, 2013

A change of guard at the Old Lady

FT July 1, 2013

Please be sure to share your thoughts, Mr Carney

By JohnTaylor

FT July 4, 2013

How Mark Carney can succeed in his mission at the Bank of England

By Martin Wolf


l  アメリカと炭素税

NYT June 27, 2013

Invest, Divest and Prosper

By PAUL KRUGMAN

WSJ June 27, 2013

The 'Social Cost of Carbon' Gambit

NYT JUNE 28, 2013

The Myriad Benefits of a Carbon Tax

By LAURA D'ANDREA TYSON

WP June 28, 2013

U.S. takes key climate change steps, but the world must do more

By Jim Yong Kim


NYT June 27, 2013

Don’t Talk With the Taliban

By HUSAIN HAQQANI


l  マンデラ

The Guardian, Friday 28 June 2013

When Nelson Mandela goes, the global village will lose its elder

Jonathan Freedland

NYT June 29, 2013

Mandela and Obama

By BILL KELLER

WP June 29, 2013

Mandela’s letters from prison built a new South Africa

By Steven Mufson

人種による国土の分離を主張する者もいた.人民から切り離された27年間の牢獄暮らしの間も,マンデラは手紙を書いて仲間を和解に向けて説得した.唯一の白人女性の,南アフリカ会議メンバーであったHelen Suzmanに,あなたが守る基本的価値,自由と法の支配について,手紙を書いた.

FT June 30, 2013

Obama’s trip to Africa is too little – and very late

By Edward Luce

歴史は繰り返さないが,ときに,韻を踏むことがある.

オバマには,中東やアフリカに関する戦略があるのか? アフリカは,オバマがあまりにも長い間,アフリカへの関心を持たなかったことを許すだろう.大統領として初めてアメリカを訪問するオバマと,94歳でその生涯を終わりつつあるマンデラが出会う.

海外援助の時代は終わった.世界で最も早く成長する経済の上位10か国は,その8か国がアフリカにある.この新しい投資機会を得たのは,まず中国であり,トルコ,インド,ブラジルであった.オバマの外交は持続せず,タッチ・ダウンでしかないが,地政学のゲームには時間がかかる.アメリカは関与する際に,その国を「パキスタン化」してはならないが,他方で,ドローンは包摂政策の代わりにならない.

アメリカが中東から出て「アジア旋回」を唱える間に,中国は何度もアフリカを訪問し,世界中に旋回した.中国のアフリカ向け投資は,国際商品(資源,農産物)だけでなく,製造業にも多い.オバマのアジア旋回は,アフリカにも向ける必要がある.


l  委縮するリヴァイアサン

FT June 28, 2013

A Leviathan cowed – welcome to Britain in 2023

By Janan Ganesh

緊縮策に限らず,国家は多方面で萎縮する.多くのディストピア作家が恐れたような未来は来ない.社会給付,公共サービス,課税,軍事介入,などは減少する.EUから離脱し,スコットランドは独立し,ロンドンはより大きな権限(財政,労働ビザ)を得る.


l  グーグルを分割せよ

FT June 28, 2013

Real progressives believe in breaking up Google

By Richard Sennett


l  エジプトの軍事クーデタ

FT June 28, 2013

Morsi takes Egypt towards the abyss

The Observer, Saturday 29 June 2013

Egypt: a revolution on the brink of self-destruction

Observer editorial

数万人の群衆がモルシ大統領の辞任を求めている.1年前に選挙で決めた大統領だ.大統領を支持する,ムスリム同胞団以外の支持者を含む,デモも集まっている.暴力的な衝突が起きて,「内戦」を警告する宗教指導者がいる.

2011年の「パン,自由,社会正義」を求めた革命は,全く違うものになった.エジプトの国益は実現しない.シリアのアサドによる流血の体制維持を喜ばせるだけだ.地域の反民主主義勢力が勢いづき,民主派は失望する.人口8500万のエジプトは,誇り高い,広く認められた,アラブ世界の盟主である.エジプトが30年に及ぶムバラク独裁を倒したとき,アラブの春は世界中の抑圧された人々を刺激した.

エジプトは「第2の革命」に進む,と言われる.しかし,完全な転換を目指した革命が,権威主義的な支配体制に戻る危険がある.没収された体制は,はるかに悪いものになる危険だ.しかし,Abdel Fattah al-Sisi将軍は,このまま放置すれば「暗いトンネル」に入る,と軍による行動を正当化し,対立する各派の合意形成を求めた.

しかし,革命の理想を守り,各派の合意を形成することは不可能だ.モルシ大統領は包括的な政権を組織しなかった.コプト教徒や女性を排除し,イスラム化を進めた.また,独立した司法やメディアを尊重しなかった.独裁体制から継承した野蛮な警察組織を制御できず,聖戦主義者のルクソール市長も容認した.

民衆が願うのは,もっと基本的な,経済状態の改善だ.食料の価格が急騰し,燃料は不足している.雇用も,教育の機会もなく,外貨準備も信用も枯渇し,貧困が増して反政府デモに向かっている.こうした不満に,モルシ大統領は信用できる答を示せなかった.

モルシやムスリム同胞団を含む,すべての党派が合意して,経済問題を改善することが求められている.「パン,自由,社会正義」の実現を目指すなら,まずパンを人々に与えることだ.

BLOOMBERG Jun 30, 2013

To Save Egypt’s Economy, Move Quickly

By Caroline Freund

FT July 1, 2013

Egyptians stage a second revolution

By Roula Khalaf

2年前にムバラクを倒したときより,群衆はさらに大きかった,という者がいる.西側専門家は,これが「スローモーションの」クーデタである,という.

軍が,48時間で両派に合意を見いだせなければ介入する,と警告したことが,モルシの解任を意味するかどうかは明確でない.軍は,その予算を官僚が精査して削減することに反対していた.また,政府の統治が無能で,モルシが国家を分断し,聖戦主義者と結びつくことを警戒するようになっていた.

モルシが社会の多くの勢力を権力から排除したことで,旧体制の反革命派と左派リベラルの革命派が同盟することを促すことになった.モルシの反対派が共有する唯一の戦略は,軍の介入を支持して,民主主義を革命の最初の時点に戻すことである.しかし,ムバラク追放後の政治過程にかかわって失敗した軍は,政治介入に消極的である.ある外交官の意見では,軍の介入によって民間から暫定的な指導体制が指名されるだろう.

しかし,軍の意図に関わらず,モルシの権力を奪われた支持者たちは反発し,大衆の支持する民主主義が大きく後退するだけでなく,イスラム主義者の過激化を刺激するだろう.権力の穏健な仲介者を望んだ反政府派も,強硬な軍事支配体制の出現に失望するかもしれない.

FT July 1, 2013

Egypt’s army gives politicians ‘last chance’ to end crisis

By Heba Saleh and Borzou Daragahi in Cairo

NYT July 1, 2013

Egypt’s Army Issues Ultimatum to Morsi

By DAVID D. KIRKPATRICK, KAREEM FAHIM and BEN HUBBARD

FP July 1, 2013

Not quite a coup, but pretty much

Posted By H.A. Hellyer

NYT July 1, 2013

Military Ultimatum in Egypt

By THE EDITORIAL BOARD

NYT July 1, 2013

Young Activists Rouse Egypt Protests but Leave Next Steps to Public

By BEN HUBBARD

2か月前,5人の若者たちがカイロのコーヒー・ショップに集まった.そして,大衆の不満を集めるシンプルな署名運動を始める.モルシが就任して1年になる630日に,辞任を求めて大統領官邸へのデモを呼びかけた.アラビア語で「謀反」を意味する“tamarrod”と名付けた.

運動は成功し,若者たちはムスリム同胞団に反抗する英雄になった.抗議集会に招かれ,ジャーナリストが取り上げ,テレビ・ショーにも出た.彼らはイスラム教徒で,個人的には信仰心も篤いが,ムスリム同胞団の政治的なイスラム主義を信用できない.

しかし,彼らの運動は,若者たちの強さと弱さを示している.革命以後のエジプトの政治変化を反映すると同時に,それを持続的な政治組織に転換することには失敗しているからだ.彼らは政治過程に大衆を組織する方法がわかっていない.若者たちは,何を望まないか,しかわからず,何を望むのか,は示せない.

運動は最初からイデオロギーを示さず,全てのエジプト人が参加できる民主主義を求めた.「これはエジプト人民の声である.もしわれわれが政党に変われば,それは歴史的な失敗だ」と,創設者でただ一人の女性は応える.

彼らの運動は2200万人の署名を集めたという.それを検証することは不可能だが.国連に検証してもらう,という計画は放棄した.他方,モルシの支持者がこれに反発し,“tagarrod”(不偏不党)という告発運動と,モルシを支持する大衆デモを始めた.

「わずか2か月で政党の綱領を示せというのは無茶だ」と,若者の一人は言う.しかし,「皆がどの政党も信用できない,あなたたちを信用する,と言ってくれる.」

FP JULY 1, 2013

You Say You Want a Revolution?

BY DAVID ROTHKOPF

FP July 1, 2013

Celebrating a Disaster in Egypt

Posted By Mohamed El Dahshan

FP July 1, 2013

Know Your Egyptian Generals

Posted By David Kenner

BLOOMBERG Jul 1, 2013

Egypt Needs Consensus, Not Revolution

By the Editors

Global Times | 2013-7-1

Democracy no panacea for Egypt’s deep woes

By Zhang Yi

アラブの春はエジプト人に明るさをもたらさなかった.彼らは失望を深めている.自分たちの国が正しい方向に進んでいると思うエジプト人は,2011年に65%,昨年53%いたが,今では30%しかいない.

独裁者を倒しても,新しい政府は依然として同じ政治,社会福祉,信仰のままである.たとえ民主的に選ばれたとしても,モルシは民衆の期待に応えられなかった.民主主義は,一般に,世界政治の方向と信じられている.しかし,中東のように,異なる信仰があり,チェック・アンド・バランスを欠く国では,民主主義の(マイナスの)副作用が避けられない.

革命後のエジプトは,経済状態や人民の生活水準が低く,民主主義にふさわしい社会の成熟を達成していなかった.政治党派は互いに反対のための反対を繰り返し,国家を指導することがなかった.無秩序と混乱は,民主主義への尊敬を失わせた.

民主主義は反対派の唱える祈りではない.もっと実際的に,社会を前進させなければならない.現実に対応して,大衆の意見と権力との間に体系的なつながりを見出すべきである.

FT July 2, 2013

There is no uniform answer to Egypt’s problems

By David Gardner

軍のヘリコプターが他はリール広場の上空を飛んで,群衆にエジプト国家を投げ下ろす.リベラルや左派の群衆から歓声が上がり,政権崩壊を祝う花火が炸裂する.

エジプト人の革命を望む気持ちがどれほど強くても,彼らは軍の介入を避けられないように見える.エジプトがそうであれば,この地域全体もそうだ.制度は弱く,イデオロギーは破たんしており,その真空を埋めるのは軍隊だ.エジプトに始まり,イギリスの植民地,フランスの植民地,シリアとその周辺にまで及んだ.

ナセルGamal Abdel-Nasserの汎アラブ主義も,多くの者には昔話だ.1950年代と60年代,エジプト,シリア,イラクに広がった.しかし汎アラブ主義は新しい権力を得た政治エリートのイデオロギーであり,クーデタを「革命」と呼ぶだけで,各地のブルジョアジーや歴史的な組織,代表制の民主主義を窒息させた.アラブ世界が得たのは,社会的な地位と主要な国家機関を支配する軍隊だけだった.

大統領になったモルシは,最初,トルコの体制をまねるように見えた.ムバラクが権力を失った後,国家を支配していた将軍たちを解任したからだ.しかし,新体制は軍と同盟し,その特権を含めてイスラム主義的な憲法を強引に成立させた.

救国戦線は,リベラルも左派も世俗派も,何でも含む連合であり,政府ではなく軍と交渉した.アメリカやヨーロッパの同盟諸国も介入するのは難しい.特にアメリカは,エジプトが1979年にイスラエルと和平合意して以来,年間13億ドルも支援している.

ムスリム同胞団の失敗によって反対派は軍に助けを求めた.しかし,民主主義をもたらすのは民主派であり,軍の強制力ではない.

FP JULY 2, 2013

The Man on Horseback

BY ROBERT SPRINGBORG

NYT July 2, 2013

In Egypt, Democrats vs. Liberals

By SAMER S. SHEHATA

エジプト政治のジレンマ.リベラル派は民主的でなく,民主派はリベラルではない.

ムスリム同胞団は選挙で支持されたが,その約束は守らなかった.すべてのエジプト人を代表する,経済問題を解決する,通りを安全で清潔にする,交通渋滞を緩和する.

モルシが最も支持されたのは,軍の将軍たちを解任したときだ.今,大衆デモでムバラクを倒したエジプト人は,再びモルシを解任するように軍に求めた.しかし,民主的に選挙を経た大統領を,非民主的な軍の力で追放すること危険な先例となり,エジプト政治を混乱させるだろう.

イスラム主義者を政治的に統合することが,エジプトの安定した民主主義には必要である.

NYT July 2, 2013

Political Turmoil in Egypt Is Replay for White House

By MARK LANDLER

Project Syndicate 02 July 2013

Showdown in Egypt

Omar Ashour

BLOOMBERG Jul 2, 2013

How Did the U.S. Lose the Egyptian People?

By Jeffrey Goldberg

WSJ July 2, 2013

Egypt on the Brink—With No Clear Way Back

By FOUAD AJAMI

guardian.co.uk, Wednesday 3 July 2013

In Egypt, all eyes are on the army

Magdi Abdelhadi

guardian.co.uk, Wednesday 3 July 2013

Egypt's coup: a ruinous intervention

Jonathan Steele

FT July 3, 2013

Revolutionary standard-bearer finds ignominious end

By Borzou Daragahi in Cairo

FT July 3, 2013

Egypt’s second chance

Richard Haass

モルシが誤解していたのは,民主主義の正統性は投票箱で多数を占めることではない,ということだ.選挙は必要条件ではあるが,決して十分条件ではない.また,民主主義はパワーの問題であるだけでなく,その制約の問題である.

多数派は少数派を守らねばならない.政府の各部門は他の部門を尊重しなければならない.政府は市民,社会,経済のために決定することについて一定の制約を認めねばならない.そのようなチェック・アンド・バランスが整備され,根付くには時間がかかる.エジプトは未成熟な民主主義であり,その権力を一部の集団にハイジャックされる危険があった.

だから軍隊は行動した.これをクーデタと非難する者もいるが,それは不正確である.軍による政治介入は危機を収拾するために起こされた.危機の原因は軍ではない.また軍は,支配する姿勢を示していない.司法当局とともに権力を暫定的に保持し,民政移管の予定表を示している.

それ故,外部からこれを非難し,制裁するのは適当でない.むしろ安定化と改革を支援するべきである.またムスリム同胞団は政治過程に参加させるべきだ.街頭で暴力的に抵抗するのではなく,議会で平和的に要求するべきだ.新しい選挙で彼らが再び権力を得るかもしれない.反対派も,街頭デモではなく,選挙を競うために,政治組織を整備するべきだ.

アラブの春は,宗派争い,暴力,無能なガバナンス,など,深い失望に変わった.独裁者を倒すことは,それに代わる優れた政治システムを実現することではない.エジプトは2度目のチャンスを得た.

NYT July 3, 2013

Army Ousts Egypt’s President; Morsi Decries ‘Complete Military Coup’

By DAVID D. KIRKPATRICK, BEN HUBBARD and ALAN COWELL

NYT July 3, 2013

In Open Letter, Top Morsi Aide Says Coup Is Under Way

By DAVID D. KIRKPATRICK

NYT July 3, 2013

Crisis in Egypt

By THE EDITORIAL BOARD

NYT July 3, 2013

Military Reasserts Its Allegiance to Its Privileges

By BEN HUBBARD

後半へ続く)