前半から続く)

WP July 3, 2013

Obama needs to support democracy, oppose a coup in Egypt

By Editorial Board

アメリカの権威と影響力の低下を示す事件である.

カイロ駐在のアメリカ大使Anne W. Pattersonは,反対派が政府の転覆を図る姿勢を強く批判していた.しかしオバマ政権は,現在の危機は政治過程によってのみ解決できる,と述べるが,軍事クーデタに反対する姿勢はあいまいだ.

FP July 3, 2013

Could Mohamed ElBaradei Be Egypt's Next Ruler?

Posted By David Kenner

FP July 3, 2013

The Brotherhood Isn't Backing Down

Posted By David Kenner

FP July 3, 2013

Egypt's Military Suspends Constitution, as U.S. Shifts Away from Morsy

Posted By John Hudson

FP July 3, 2013

Downfall in Cairo

BY MARC LYNCH

アメリカ政府でモルシの解任を残念に思う者はいないだろう.しかし,大衆デモと軍の介入が政治の安定性を回復するとか,民主的な体制をもたらすと信じる者もいない.ムスリム同胞団の政権は残念な結果をもたらしたが,問題はそれを正す政治制度が弱く,正当性を欠いたことだった.もしデモや軍部が後者を犠牲にして前者を解決したのであれば,政治の回復は難しい.

アメリカは公然とクーデタを支持してはいないが,それがワシントンにエジプト政治への影響を強める機会であると理解している.そうであれば,2011年,2012年に試みた以上に,軍は国民の意思を尊重し,市民的なルール,重要な政治的合意の形成を急ぐよう,働きかけるべきだ.

オバマ政権はこの数年間,一貫して民主的な体制の安定化を,ムスリム同胞団の政治参加(しかし,支配するのではない状態)とともに,願ってきた.それ故,反対派が民主政治を組織する力の不足にも,ムスリム同胞団が反対派を含める合意形成に向かわない姿勢にも,強く不満であった.

アメリカが民主的な政治過程を重視する姿勢は,ムスリム同胞団が選挙で敗北することを求めた.しかし,モルシが勝利した後,議会でも反対派が大統領を抑制するほど議席を得られず,政治が機能しなくなった.アメリカ政府がムスリム同胞団とモルシを支援している,という誤解が広まったことは,非常に大きなダメージとなった.エジプトの政治は決して見通しがよくないが,両者が同盟を結ぶことはありえなかった.また,ムスリム同胞団の政治参加を支持したことは,ムバラク体制への大規模な報復を抑制した点で,成功であった.

国家の破綻や大規模な暴力は回避されたが,エジプトが弱体政権と,軍事介入,大衆デモからなる循環を際限なく続けるリスクがある.エジプト政治体制の移行における問題は,対立を処理できる,確立された合法的なゲームのルール,政治論争を解決する制度的チャンネル,が欠けていることだ.ワシントンでは,憲法の制定作業がそれをもたらすと期待していた.

その過程が失敗した今,政治合意の形成は,憲法改正であれ,主要な政治勢力・社会集団の国民的な「対話」であれ,これからにかかっている.私は,クーデタの将来に深く懐疑的である.アメリカはその影響力を最大限に生かして,事態がこれ以上悪化するのを避けるだけだ.

FP July 3, 2013

Our Friend in Cairo

BY TED CRUZ

FP July 3, 2013

American Freedom and Egypt's Coup

Posted By Kori Schake

FP JULY 3, 2013

Can a Coup Ever Be Democratic?

Posted By Joshua Keating

FP July 3, 2013

Exclusive: Egyptian Ambassador to U.S.: Morsy Ouster 'Not a Coup' but 'a Popular Uprising'

Posted By Isaac Stone Fish

BLOOMBERG Jul 3, 2013

Democracy Loses in Egypt and Beyond

By Noah Feldman

WSJ July 3, 2013

Witnessing a Coup in Egypt

By ERIC TRAGER

The Guardian, Thursday 4 July 2013

This is not a coup, but the will of Egypt's people

Amira Nowaira

軍は民衆の要求に従って権限を行使した.これはクーデタではない.モルシが最後の演説で繰り返した「正当性」は,民衆の意思に従うことで得られる.モルシとムスリム同胞団はエジプトを破壊した.正統性はない.

The Guardian, Thursday 4 July 2013

Mobs make fickle friends. Egypt is not Les Misérables

Simon Jenkins

FT July 4, 2013

When is a coup not a coup?

by Gideon Rachman

オバマは「軍事クーデタ」とは呼ばない.なぜなら軍事支援を停止することになるから.

西側政府は,道義的な善悪で説明したがる.自由の戦士と独裁者.民主派と専制支配.しかし,国際事情・外交はしばしば醜い選択である.冷戦時代がそうであった.

モルシは民主的選挙で大統領になった.しかし,ムスリム同胞団はイスラム法で憲法を動かす.西側の価値にある,少数派の権利や言論の自由を訴えるのは反政府デモだ.

FT July 4, 2013

New Egypt president Adli Mansour promises early elections

By Borzou Daragahi and Heba Saleh in Cairo

FT July 4, 2013

The Cairo coup is a rude awakening

By Philip Stephens

FT July 4, 2013

Egypt’s second revolution is about securing the first

By Ezzedine Choukri Fishere

FT July 4, 2013

Egypt: it’s right to hold judgment if Morsi’s ouster is a coup

By John McDermott

FT July 4, 2013

Morsi’s downfall will entrench Brotherhood’s sense of victimhood

By Roula Khalaf in London

FT July 4, 2013

Egypt’s army is not democracy’s guide

SPIEGEL ONLINE 07/04/2013

Egypt Putsch

End of the Road for Muslim Brotherhood

By Ulrike Putz in Cairo

SPIEGEL ONLINE 07/04/2013

Egypt's Cunning General

How the Military Plans to Keep Power

By Raniah Salloum

SPIEGEL ONLINE 07/04/2013

'Setback for Democracy'

World Leaders Critical of Egyptian Coup

ヨーロッパや世界の指導者たちはエジプトの軍事クーデタを批判した.ドイツのGuido Westerwelle外相は,できるだけ速やかに憲法の秩序に戻るべきだ,と述べた.

SPIEGEL ONLINE 07/04/2013

Post-Coup

Egyptians Have High Hopes for 'Second Revolution'

By Ulrike Putz in Cairo

クーデタで将来が改善されると群衆は思うが,それはわからない.少なくと,エジプトにおける民主主義の実験は失敗した.軍が短期で権力を移譲するとは思えない.

NYT July 4, 2013

Egypt’s Revolution Part II

By THOMAS L. FRIEDMAN

われわれは,将来,この日を,政治勢力としてのイスラムが後退し始めた日として回想できるだろうか?

エジプトでは,非イスラム教徒の反政府運動が軍にモルシとムスリム同胞団の権力を奪うように求めた.トルコでは,世俗の(非宗教的な)都市の若者たちが反政府デモを行った.イランの有権者は,イスラム聖職者の認めた候補の中で最もリベラルな候補を大量得票で大統領にした.チュニジアでも,リビアでも,イスラム政党が世俗の勢力との妥協を受け入れている.

ムスリム同胞団が支持を失った背景を理解する言葉は,「盗まれた」である.モルシが勝利したときのことを思い出す.ムスリム同胞団の支持者だけで51%の得票は不可能であった.彼らは世俗の,敬虔な,しかしイスラム主義ではない有権者に訴えた.モルシは中道の政治を行い,経済の回復と社会の包摂に焦点を向ける,と.多くの中道派の都市エリートがモルシに投票したのは,その対立候補がムバラク体制を継承する軍人だったからだ.

しかし,その後,さまざまな選択において,モルシとムスリム同胞団は,その約束を破って自分たちの権力を拡大した.だからモルシに投票した多くの人が,非常に重要なものを奪われた,と感じるようになった.彼らが長く求めてきた民主的なエジプト,平等な成長が,失われたのだ.2011年に,タハリール広場でムバラク体制と闘った若者たちこそ,革命がムスリム同胞団によって盗まれた,と強く感じた.

社会の包摂が停滞するか,成功するか,それはすべての人々が将来に向けた改革の見通しを共有できるかどうかにかかっている.すべての政治的アクターは(軍を含めて),エジプトを成長の経路に乗せるため,経済・治安・政治改革の民主的な合意に到達できるだろうか? あるいは,最新の大統領を追放することだけしか合意できない?

NYT July 4, 2013

A Coup, but Backed by the People

By SARA KHORSHID

NYT July 4, 2013

ElBaradei Seeks to Justify Ouster of Egypt’s President

By DAVID D. KIRKPATRICK

WP JULY 4, 2013

Egypt’s lost opportunity

By Fareed Zakaria

過去30年間,エジプトのムバラクに,反対派の投獄をやめて,民主的な改革をするように求めたアメリカ政府は,そのたびに反論された.「アメリカは,ムスリム同胞団が権力を握ることを望むのか?

われわれは独裁体制のもたらした不幸なダイナミズムを目撃している.極端な専制支配は,極端な反対勢力をもたらす.体制が弾圧を強めるほど,反対派はイスラム主義に傾き,頑固で,ときに暴力的な集団になる.

モルシとムスリム同胞団は,この悪循環を解く機会であった.民主主義とリベラルな秩序に向けて,権力を分割し,憲法に従う政府を樹立する.トルコのエルドアンRecep Tayyip Erdogan首相は,この10年,最近まで成功していた.モルシは異なる指導者になるべきだった.南アフリカのマンデラのような指導者だ.

マンデラは権力を得たとき,アフリカ人が新しい南アフリカで重要な役割を果たせるように権力を行使した.権力を得た人々が,アパルトヘイトを作った人々に報復を望んでも,彼はそれに屈しなかった.

アメリカは軍部を支持したと非難され,ムスリム同胞団を支持したと非難される.しかし,エジプトの将来を決めるのは新しい指導者だ.

WP JULY 4, 2013

U.S. must suspend aid after Egypt’s coup

By Editorial Board

FP JULY 4, 2013

The Only Thing We Have to Fear…

BY JAMES TRAUB

BLOOMBERG Jul 4, 2013

A Coup by Any Other Name

By Fouad Ajami


l  アメリカの移民

WP June 28, 2013

Immigration promotes entrepreneurship and prosperity

By Reid Hoffman


FP JUNE 28, 2013

Squeal Like a Pig

BY JAMES TRAUB

FT July 3, 2013

Why the doors have slammed in Edward Snowden’s face

By Philip Stephens

FP July 3, 2013

Independence Day Greetings to Edward Snowden

Posted By Stephen M. Walt


l  ラトビアの首相

SPIEGEL ONLINE 06/29/2013

Latvian Prime Minister

'We Have Learned From Our Mistakes'


l  新興諸国の限界

NYT June 29, 2013

Takin’ It to the Streets

By THOMAS L. FRIEDMAN

自由な選挙で選ばれた政府が,投票箱の反対票ではなく,抗議デモを受けるのはなぜか?

1.リベラルの伝統に反する,「多数派支配」の民主主義が広まっている.ロシア,トルコ,エジプト.その政府は「多数派」によって支持された専制体制である.彼らはいったん権力を握ると,反対派を弾圧し,メディアを支配する.

2.中産階級の労働者は,福祉国家の縮小と,ますます要求の厳しくなる労働市場に,挟撃されている.急速なグローバル化と機械化は,勤勉な労働者でも生き残ることを難しくした.ストレスに苦しむ労働者たちに,旧政治組織・指導者は応えていない.

3.スマートフォン,タブレット,Facebook,ブログ,など,双方向の通信手段で労働者たちは抗議運動に加わる.人々の不満は,雷のように,瞬時に社会を覆う.

以前に比べて専制支配は難しくなったが,民主制も不安定だ.より多くの人々が,より多くの手段で,彼らの不満を語り,通りを占拠する.

NYT June 30, 2013

The Revolt of the Rising Class

By BILL KELLER

FT July 1, 2013

Booms, busts and protests – normal life in emerging countries

By Ruchir Sharma

新興諸国の『奇跡』は終わったのか?

トルコやブラジルで中産階級が反政府デモをしている.高成長にひた走る中国経済で信用危機が起きた.新興諸国の債券,株式,通貨市場から資金が逃げ出している.

短い「最適な成長経済状態」は2003年に始まった.半世紀の停滞,90年代の通貨・債務危機,など,苦しみの中で新興諸国に新しい指導者が現れた.ダ・シルヴァ,プーチン,エルドアン,など.彼らは経済を安定化し,アメリカ連銀がITバブル破裂後の回復を促す金融緩和の波に乗った.安価な融資を得て,成長率は3.6%から7.5%に高まった.

しかし,2008年にアメリカで金融危機が起きると,アメリカに比べて新興諸国は成長を維持していた.成長率は高く,株価は上昇を続けた.それが今や,世界の財や資金の動きが減少し,これまで成長していた新興諸国は,こうした商品ブームや信用拡大から独立した,成長の条件を見いだせていないことが分かったのだ.

新興諸国はブーム・バスト・サイクルに戻った.しかし,世界人口の80%が世界GDP40%しか占めていない.キャッチ・アップと成長の余地はあるだろう.

FP JULY 2, 2013

Beyond the Barricades

BY CHRISTIAN CARYL


NYT JUNE 29, 2013

The New Prostitutes

By ROBERT KOLKER


l  アメリカ企業重役の報酬

NYT June 29, 2013

An Unstoppable Climb in C.E.O. Pay

By GRETCHEN MORGENSON


l  ユーロ危機の転換点

FT June 30, 2013

The EU will regret terminating a banking union

By Wolfgang Münchau

FT June 30, 2013

EU banking union

FT June 30, 2013

Eurobonds: A change of gear

By Ralph Atkins and Michael Stothard

Project Syndicate 30 June 2013

The Euro on the Mend

Jean Pisani-Ferry

NYT July 1, 2013

Europe’s Truths

By ROGER COHEN

危機は,政治が明日よりも先のことを観るなら,政治統合の促進剤である.

Project Syndicate 02 July 2013

The Risk of European Centralization

Otmar Issing

WSJ July 4, 2013

How to Leave the Euro

By ROSS MCLEOD


l  ブラジル

Project Syndicate 30 June 2013

Exhausted Brazil

Luiz Felipe Lampreia

ルセフ政権の見通しは暗い.成長は減速し,国際競争力も低下している.例えば,中国からの輸入品があふれている.これに対して保護主義的な反応が起きている.野心的な公共投資はなかなか進まない.進んでも無駄が多い.今ではブラジル国民が通りで抗議デモに集まっている.

ルセフと閣僚たちは正統派の政策を信用していない.しかし,それに代わるものもない.

guardian.co.uk, Monday 1 July 2013

Brazil's people are crying out for change, so let's seize the moment

Bethania Assy and Bruno Cava


guardian.co.uk, Monday 1 July 2013

Farming subsidies: this is the most blatant transfer of cash to the rich

George Monbiot


Project Syndicate 01 July 2013

Ireland and the Austerity Debate

Mohamed A. El-Erian


l  国際機関の信頼不足

Project Syndicate 01 July 2013

The Global Trust Deficit

Peter Blair Henry

国際的な政策協調によって,世界経済はその潜在能力を十分に実現する.しかし,グローバル・ガバナンスは少数の先進諸国によってあまりにも支配されてきた.その先進諸国が約束を守らず,政策協調に反している.発展途上諸国のIMFに対する信頼は低下し,BRICsは独自の開発投資期間を提案し,ほかにも地域的な国際融資制度が模索されている.2008年のG20が求めた保護主義の抑制を無視して,すでに800以上の保護主義政策が採用されている.

新興諸国の発言力を強くしれ,国際機関の信頼の不足を解消し,正統性を高めるべきである.


l  西側諸国間のスパイ

FP July 1, 2013

News Flash: States Spy on Each Other

Posted By Stephen M. Walt

FT July 3, 2013

Europe should turn itself into a cyber war fortress

By Markus Kerber

Project Syndicate 04 July 2013

The Snowden Effect

Ana Palacio


l  安倍,第4の矢を射る?

WSJ July 2, 2013

Don't Think of a Tiger

By JOSEPH STERNBERG CONNECT

アジア諸国のこれまでの成長モデルは,金融抑圧と投資重視から変化している.韓国の経済民主化,日本のアベノミクス,中国のリバランス.

FT July 3, 2013

Japan is not ready for the fourth of Shinzo Abe’s arrows

By David Pilling

日本経済は,安倍の第4の矢を受け入れることができるか? それは消費税の引き上げ(2段階で10%に引き上げ)である.

安倍は財政による拡大策を主張しないが,その弾力性を主張した.財政刺激策に続いて,今度は増税するのだろうか?

消費税引き上げを実行することは,アベノミクスを真剣に市場が評価するためにも,重要である.それは日本財政の混乱を解決する第1歩になるからだ.こうした意見の根拠は,1GDP240%に達する政府債務,2.高い支持率を利用できる,3.債券市場の監視を受けている.金利上昇や資本逃避,また,消費者の信頼感も.

しかし,インフレ率を2%にすることが目標であれば,消費税の引き上げは延期すべきである.片足でアクセルを踏みながら,反対の足でブレーキを踏むことになるからだ.

どちらも主張も決定的ではない.一方では,アベノミクスの第1,第2の矢は表面的で,構造改革だけが重要だ,と考える者がいる.彼らは生産性の上昇と財政再建を重視する.他方で,主にインフレを促すことで名目成長を実現することを重視する者もいる.日本が債務を増やしたのは,デフレによって名目GDP1990年のレベルに停滞していることが原因だ.2%のインフレで3-4%の名目成長を実現すれば,政府の債務問題は改善する.財政引き締めは必要ない.

将来,消費税を引き上げるとしても,いつが適当か,よく考えるべきだ.


l  1次世界大戦の教訓

Project Syndicate 03 July 2013

Financial Crisis and War

Harold James

1次世界大戦が起きた背景には,金融のグローバリゼーションがあった.すなわち,ドイツの台頭を恐れたイギリスが金融ネットワークを戦略的に利用し,それに対抗して米独の金融ネットワークが構築され始めたことである.金融は軍備増強に変わるものとして重視され,その決定は国際秩序を非常に脆弱なものにした.

1907年の金融危機はアメリカに発し,その他の世界に及んだ.それは国際金融システムの壊れやすさを示して,現代の金融危機と類似の反応を引き起こした.

当時の覇権国,イギリスは,金融を戦略的に利用することを考えた.イギリスは,海軍とグローバルな金融システムを結び付けて,その指導力を高めたのだ.海軍本部は,ドイツとの全面的な経済戦争を計画していた.

現代のGoogle, Apple, or Verizonがアメリカの諜報機関に協力しているように,当時の銀行ネットワークもイギリス政府に情報を提供していた.それは敵対する同盟の弱点を知るうえで重要だった.

1907年の金融危機に対して,イギリスのライバル諸国も独自の金融力が必要であると気づいた.アメリカの金融家たちは,イングランド銀行を中央銀行として頼るのではなく,ニューヨークで貿易手形を「貨幣化」(アクセプタンス)する交換所システムを推進した.

このアメリカのシステム構築にかかわったPaul Warburgは,ハンブルグの大銀行家の弟で,アメリカへの移民であったが,兄Maxはドイツ皇帝ウィルヘルム2世の顧問であった.Warburg兄弟は,イギリスの産業・金融独占に対抗する,独米の制度を強力に推進した.彼らは,ドイツとアメリカが年々その力を増し,イギリスは停滞する,と確信していたのだ.

2008年の金融危機に対して,ドル融資に頼る各国はアメリカの連銀とスワップを結んで対応するしかなかった.こうした欠陥を正すには,銀行の再国有化や,大銀行の分割が必要だった.アメリカの外国銀行支店に対する規制見直しは,諸外国に金融的保護主義や制裁を懸念させた(イランや北朝鮮にはすでに制裁が実施されている).ロシア,ヨーロッパ,中国,など,各地で地政学が銀行業務に「介入している.

こうした発想が,1914年の戦争に至ったのである.2007-2008年後の世界もそれに近い.


YaleGlobal, 4 July 2013

Need to Tear Down Another Wall

Jean-Pierre Lehmann


l  ドーハ・ラウンドとTPP

Project Syndicate 04 July 2013

The Free-Trade Charade

Joseph E. Stiglitz

「ドーハ・ラウンドはアメリカが農業補助金の破棄を拒んだため粉砕された.」それは真に開発ラウンドであれば避けられない問題だ.発展途上諸国の貿易の70%は農業に関係している.アメリカの綿花補助金は,わずか2500人の裕福な農家に対して支払われる.それでもアメリカは,ブラジルに買収工作した.

最近進められている自由貿易交渉は,欧米間も,中国を除く太平洋諸国とアメリカも,管理貿易体制が目的だ.それは特殊な産業利益を守るロビー活動の産物だ.TPPがアジアのグローバル・サプライ・チェーンを破壊する恐れがある.

******************************

The Economist June 22nd 2013

Tibet: A new way forward

The Federal Reserve: Clearer, but less cuddly

Majoritarianism: Zombie democracy

Protests in Brazil: Taking to the streets

Turkey’s protests: Erdogan cracks down

Clayton, Dunbilier & Rice: Engineers of a different kind

The Sino-Japanese war: The start of history

(コメント) チベットに対する中国の政策転換を予想させる事件です.彼らは,最後の焼身自殺者を止めることができる,と思います.アメリカ連銀の非伝統的な金融緩和政策の評価は,まだわかりません.

チャベスやプーチンが示したように,世界各地で「選挙の多数を得た」独裁体制が広まっています.トルコも,ブラジルも,エジプトも.しかし,司法の独立性や,少数者の発言権を保障する制度,情報公開や,政治家・政策を批判できるジャーナリズム,など,民主主義の内実がありません.日本の選挙は,どうでしょうか?

私が特に興味を持ったのは,企業を再生する投資家の役割,中国人の意識と21世紀の形に影響し続ける日中戦争の経験,に関する記事です.

******************************

IPEの想像力 7/8/13

エジプトの軍による憲法停止は衝撃的です.カイロでは圧倒的な群衆が軍を支持しているように見えますが,大統領を支持するデモも起きています.

軍事クーデタの政治的な意味は様々です.①シリアのように,外国の軍事支援も加わり,大量の犠牲者を出す内戦に向かう.②ポーランドのように,外部からの介入を回避するため,軍事政権が反政府運動を弾圧(その後,権力の移譲を容認)する.③アルジェリアのように,独立後,民主化過程でイスラム主義運動に権力を奪われ,軍部と協力して弾圧,テロも激化する.

他方,民主的な選挙が答えを出せない場合も多いのです.ネパール,スリランカ,チベット,など,アジアの民主主義が脱線する様をThe Econmistは紹介しています.日本でも,決して民主主義がうまく機能しているとは思えません.元駐日英国大使,ヒュー・コータッツィの「岐路に立つ日本の外交」(『国際金融』1250)を読んで,改めて,そう思いました.

サッチャリズムやレーガノミクスが,市場改革だけでなく,強烈な反共主義でもあったように,アベノミクスは,反中国・軍事戦略を目的とした経済強化策(強靭国家論)です.単なる経済政策ではありません.むしろ,日銀と協調したデフレ脱却の政策転換を宣伝することで,有権者の支持を高めた後に,本来のアベノミクスが出現します.議会の多数派を支配したとき,戦後日本の占領軍・憲法=民主主義を解体し,戦前の日本帝国がその栄光を正しく評価できる日本人・愛国精神を取り戻す,という政治プロジェクトなのです.

私は,戦後民主主義がその役割を果たしたからこそ,これから,日本の憲法改正を論争することに賛成です.エジプトがそうであるように,新しい憲法にはさまざまな議論があるでしょう.政治指導者たちは,国論を統一する気概を示してほしいです.エジプトは多数決を急ぎ過ぎました.

The Econmistは,Rana Mitter, China’s War and Japan, 1937-1945 を紹介しています.21世紀の国際秩序は中国の意見や行動を知ることなしに考えられません.ではその中国は,なぜ現在のような考え方,社会・政治制度を採用するにいたったのか? 中国共産党が内戦に勝利した以上に,西洋列強と日本による植民地化で最弱国に落とされ,日本との戦争では「中国の歴史が終わってしまう」という危機感を抱いたことをMitterは重視します.

現在の中国人の国家や経済体制を決定したのは,日本との戦争で被った略奪や破壊,殺戮の恐怖と,中国文明が消滅する,という強い危機意識でした.中国人の眼で見た経験,その記憶が,アジアの歴史を変えました.たとえば,中国人民解放軍の司令官Xiong Xianyuの日記が引用されます.彼は,日本軍の侵攻を止めるために,黄河の堤防を爆破しました.その洪水で100万人の中国人が死にます.・・・「私の胸は痛んだ.」・・・水流は「1万頭の馬」となって流れ出した.

それでも,あるいは,だからこそ,私は日本の指導者たちが中国・韓国との和解に積極的でなければならないと思います.コータッツィが指摘するように,日本は孤立して平和や繁栄を築くことなど不可能であり,日本人もまた「日本の間違った支配者たちの犠牲者だった」から.極東軍事裁判所の意義を否定するような安倍首相や,「戦争犯罪者の名誉回復」を望むような閣僚が,日本の政府であることを憤る日本人も多いのです.経済政策としてのアベノミクスとは別の問題です.

北京の大気汚染,地方における不動産開発バブル,人民元の増価,など,中国の爆発的なキャッチ・アップ型工業化が減速する兆候は明らかです.都市中産階級の生活改善や環境保護,民主的制度と市民的な権利の保障,が中国で重要になってくると予想されます.サービス部門の拡大,公害対策やグリーン・エネルギーへの転換,など,アメリカが意識する以上に,日本の政府や産業界は中国の改革に大きなチャンスを見出すでしょう.

安倍首相は,多くの問題に答えないまま,アベノミクス祭りの半身で「日本の復活」を声援するように求めます.困難な,長期的課題には答えず,金融市場の楽観がもたらした4半期の成果で選挙を有利に進めます.もし,それが民主主義の政治に避けられない欠陥であるなら,トルコの詩人が示した新しい抵抗と連帯の姿,“standing man” を,日本でも,アジアでも,広めてほしいです.http://www.guardian.co.uk/commentisfree/2013/jun/18/turkey-standing-man

尖閣諸島によってナショナリズムを刺激すれば,アジアの共通市場はヨーロッパのように戦塵の中からしか現れません.あなたが重視する問題の現場に行って,8時間,沈黙して立ち続けることです.

******************************