IPEの果樹園2013

今週のReview

6/17-15

 

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NSAとインターネット ・・・ツキディデスの罠 ・・・バーナンキと出口戦略 ・・・シンガポールの医療システム ・・・安倍首相「第3の矢」 ・・・もう一つの歴史 ・・・世界貿易システムの転換

 [長いReview]

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l  NSAとインターネット

NYT June 6, 2013

President Obama’s Dragnet

By THE EDITORIAL BOARD

テロ対策と何の関係もないアメリカ人に対しても,電話の会話データが日常的に収集されていた.これはオバマ政権が繰り返し表明してきた権力乱用に関する決まり文句と異なるものだ.すなわち,テロリストは現実の脅威であり,信頼してほしい.われわれはあなたに説明しないけれど,内部のメカニズムであなたの権利を侵さないようにしている,と.

こうした保証は全く信用できない.かつて透明性と説明責任を約束した大統領が,新聞社の電話記録を集め,テロの容疑でアメリカ市民を殺害する秘密命令を出していた.政府は今やすべての信頼を失った.オバマは,政府があらゆる与えられた権力を行使し,あまりにも容易に乱用することを示した.

この行為を擁護して,Senator Dianne Feinstein of California(このような濫用を阻む機関the Senate Intelligence Committeeの議長)は,だれでも将来にテロリストとなる可能性があるから,と述べた.しかし,彼女自身,データがどのように収集されているか知らない,というのに,何が言えるのか?

愛国者法を廃止するべきだ.

FP JUNE 6, 2013

Why the NSA Needs Your Phone Calls…

BY STEWART BAKER

このような,収集後の規制を行うことで,諜報行為を合法化できるのか? という問題に応じるためには,例を挙げるのがよいだろう.

イエメンのアルカイダがアメリカ国内の協力者に,高度な爆弾製造の技術者を送る連絡を傍受した場合だ.・・・「私(イエメンのテロリスト)は彼(アメリカ国内の協力者)に使い捨て携帯電話であなた(技術者)に連絡するよう命じた.明日の午前11時に,あなたの使い捨て携帯電話が鳴る.あなたが出ると,彼は他の電話機の番号だけを言う.あなたは市場で新しい電話機を買って,その番号に午後2時に電話しなさい.」

この場合,アメリカ人の誰かが,次のテロ計画と関係して,午前11時に,イエメンの技術者に電話することは十分に証明できる.しかし,アメリカ国内の協力者が誰か,どこにいるか,まったくわからない.その人物は,3時間後にイエメンに連絡するだろう.この協力者を捕えることは非常に難しい.

NSAは,このパターンに合致した通話記録をすべての電話会社に頼んで一つずつ調べさせるべきか? その費用は膨大で,しかも成果はほとんど期待できない.むしろ,イエメンとアメリカとの通話データをすべてプールして,NSA自身が見つけることだろう.

こうした技術は,データの利用を最小化し,データの恣意的利用からアメリカ人を守ることが重要である.それでも,多くの人は,政府なんて信用できない,というかもしれない.たとえ両党と3権がチェックしても,膨大なデータを持った政府はこれを乱用するだろう,と.

私も,最初そう感じた.しかし,このモデルを好まないとしたら,その場合,「何と比べて」好まないのか,が重要である.通常の法の執行は,その行動だけでなく,テロリストが誰かを特定してから行われる.そのモデルに固執すれば,より多くのテロ行為を国内に生むのではないか?

NYT June 8, 2013

Your Smartphone Is Watching You

By ROSS DOUTHAT

安全保障の専門家Bruce Schneierが,最近,書いたように,インターネットが監視国家によって浸食されたのではない.インターネットこそが,事実上,監視国家そのものである.初めから,その匿名性こそが衝撃であった.New Yorkerの有名な風刺漫画(コンピュータを使う2匹の犬)が示したように,「インターネットでは,だれもあなたが犬だなんて知らないよ.」

問題は,われわれが有効な参照例を持たないことだ.論争は,しばしば20世紀の全体主義的警察国家に言及する.プライヴァシー情報が独裁的な一党支配に利用されたのだ.そのモデルは,確かに,権威主義体制がインターネットを利用することを批判している.しかし,アメリカはFacebookを利用して東ドイツになろうとしているわけではない.ソフトな専制国家,明るい警察国家,と呼ぶ方がよい.支配者の弾圧に利用するというより,IRSスキャンダルが示したような,ビッグ・データの悪用に不安を覚える時代に,われわれは生きるだろう.

FP June 10, 2013

The real threat behind the NSA surveillance programs

Posted By Stephen M. Walt

あなたの電話やインターネット利用からNSAによって情報が盗まれることを心配するとしたら,それはないだろう.3億人のアメリカ国民を調べるのは多すぎるからだ.

われわれの民主主義に対する本当のリスクは,政府を批判する潜在的な反体制派,調査報道に従うジャーナリスト,政府の政策の一部が愚劣であるとか,反倫理的,あるいは,非合法であると考える誰かにとって,新しい状況を創り出すことだ.

あなたがそのような批判的活動を目指すなら,それを好ましくないと思う者が,あなたのことを調べるかもしれない.政治家ではなく,単に中位の官僚かもしれないし,政府を防衛することに熱中する人物かもしれない.誰であれ,あなたのことを調べて,過去の秘密が,あるとき,インターネット上にばら撒かれているのを知ることになる.

誰であれ,政府の政策に挑戦する者は,その問題と何の関係もない私的な行為でも,反対者の餌食にされてしまう.この勝負は政府に圧倒的な優位がある.なぜなら,政府は情報収集に何十億ドルもかけることができるからだ.

重要な問題に関する活発な論争は健全な民主主義に不可欠な条件である.そのためには,アウトサイダーによる精査と反論が重要だ.しかし,政治家や官僚が何をしているかについて,それを監視する十分な資源を市民は持たない.だから私たちはジャーナリストや学者,その他の独立した発言を,不正行為,汚職,加護に関して,必要としている.もしこうした独立した発言が,政府による情報収集で,以前のケースのように,報復を恐れる弱い立場になれば,たとえそれが合法的な形でも,沈黙を強いられるだろう.その結果は,政府の裁量が拡大し,汚職が増え,失敗を暴露されにくくなる,ということだ.

活気ある,反骨の,自由な精神を持つ市民の国ではなく,おとなしい羊だけの国になる.

FT June 11, 2013

A tech arms race is pitting states against their citizens

By Ian Bremmer

しかし,「情報通信革命」に対抗して,「データ革命」が始まった.それは認められる脅威に対して,政府が防衛から攻撃に転じることだ.すでにインターネットで集める有権者に関する詳細な情報は,高度な選挙戦略に欠かせない要素である.

ビッグ・データの分析は,本質として,何も邪悪なものではない.それは官僚たちが市民の要望を知るうえで有益だ.また,公衆衛生を高め,交通渋滞を避け,インフラ投資を目的に合ったものにし,犯罪を減らし,治安を改善する.しかし,だれが活動家と犯罪者の区別をするのか? 誰がテロリストを認めるのか? 潜在的なテロリストである,と?

政府は大量の情報を集めており,その乱用の危険を高めている.情報通信革命は個人にパワーを与え,データ革命は国家にパワーを与える.その戦いは始まったばかりで,どちらが優位を得るかは,まったくわからない.


l  ツキディデスの罠

NYT June 6, 2013

Obama and Xi Must Think Broadly to Avoid a Classic Trap

By GRAHAM T. ALLISON Jr.

米中首脳会談で,官僚たちが用意した,さまざまな問題が話し合わせるだろう.しかし,それだけでは二人の指導者が最も重要な課題に取り組むことにならない.それは要するに,米中が「ツキディデスの罠」を避けられるか? ということだ.

1500年以来,興隆する大国が支配的な大国に挑戦した15のケースで,11は戦争に至った.オバマと習は,この比率に逆らえるだろうか? 2000年以上前に,将軍であり,歴史家でもあったツキディデスが明瞭に分析したように,ペロポネソス戦争の原因は2つあった.アテネの興隆と,それに対するスパルタの恐怖心である.

Project Syndicate 07 June 2013

Mao-Nixon” 2.0

Minghao Zhao

しかし,残念ながら,現状は悪化しつつある.かつて米中を接近させたソ連の脅威はもはやない.両国の戦略担当者は,伝統的な脅威の視点を超えて,経済的安定性,エネルギー・資源の安全保障,技術進歩,気候変動,人口問題,サイバー・セキュリティーなどに,もっと焦点を向けるべきだ.こうした問題の解決には,単独でなく,同盟諸国の協力が必要だ.

毛・ニクソンの会談で,雪解けが可能になった.習・オバマ会談は冷却化を防ぐものだ.両国は協力し,未来を築くときだ.


l  バーナンキと出口戦略

BLOOMBERG Jun 11, 2013

Can Bernanke Avoid a Meltdown in the Bond Market?

By Jim O’Neill

過去数週間は,バーナンキが超緩和政策を逆転し始めたとき,何が起きるかを示した.金融市場が乱高下し,特に資産は通常の変動を超えるだろう.

正常な水準に戻るとしたら,10年もの財務省証券の利回りは2.2%ではなく,4%になるだろう.その移行は,債券市場から株式投資に向かわせる.こうした予想があるから,バーナンキがほんの少しでもFOMCの同僚から量的緩和の縮小を求める圧力を受けると,市場は敏感に反応する.

株式市場も同時に下落するかもしれないが,それは続かない.正常への回帰は,長期投資家にとって,債券でなければ株式に投資することを意味するからだ.


l  シンガポールの医療システム

FT June 7, 2013

Thank you, Singapore

By Gillian Tett

シンガポールで髄膜炎になり,命をなくすところだった.しかし,アメリカと違って,シンガポールの医療システムでは,医師が訴訟を恐れず最善の抗生物質を投与して私を救ってくれただけでなく,その費用も,アメリカでは考えられないほど安く済んだ.

アメリカは,他の西側諸国より多い,GDPの約18%を医療システムに支出して,一部の素晴らしい成果を除くと,幼児死亡率や平均寿命などで劣っている.シンガポールは4.6%しか支出しないが,保険システムで運営され,その保険料はアメリカのわずか2%である.幼児死亡率や平均寿命など,アメリカよりも優れている.

William Haseltineの研究によれば,シンガポールの医療システムは全体として住民のために設計された.それに比べて,アメリカでは競争と自己中心主義が支配している.アメリカ人は,シンガポールのような「管理型資本主義」を受け入れない.しかし,もう一つの特徴である,消費者の圧力は学ぶべきだろう.病院は価格や結果をすべて公表しており,患者はそれを見て病院を選ぶ.

もしアメリカ人が,シンガポールの医療費と比較できるなら,今の医療制度を改革したいと願うだろう.


l  IMFの救済融資失敗報告

Project Syndicate 12 June 2013

Europe’s Way Out

Dani Rodrik

構造改革が成功するというのは,生産性の低い分野が縮小して解雇され,生産性の高い分野で雇用が増えることだ.しかし,緊縮策は需要を奪うから,生産力は過剰になり,新雇用は実現しない.しかも,ユーロ圏周辺では,債務の累積と競争力の問題を解決しなければならない.現在のような緊縮策と,構造改革を進めても,失業が増えるだけで,債務を減らすための輸出は伸びない.

どうすればよいか? 債務を削減する.そして,周辺諸国に需要を再配分する.すなわち,ユーロ圏全体で,黒字国,特にドイツは需要を拡大する.非貿易財の価格を下げる.周辺経済の民間賃金を協調して下げる.ECBのインフレ目標を引き上げる.

究極的には,EUの制度を改革し,構造的な収斂(特に,労働市場の統合)を促すことだ.しかし,短期的に需要を高めるケインズ製作を無視するなら,長期の目標も達成できない.

Project Syndicate 13 June 2013

Lessons of a Greek Tragedy

Barry Eichengreen

ギリシャを訪問すれば,疑問を持つはずだ.政策担当者は,金融危機に直面したとき,もっと違う対応を選択すべきではなかったか?

政策の決定的な失敗は,危機の始まるときに起きた.2010年の前半,ギリシャが金融市場のアクセスを失ったことは明白だった.公的債務は持続不可能であり,即座に,組み替えるべきであった.

もしギリシャの債務の3分の2を免除していたら,ギリシャは債務超過から抜け出せた.その結果,(その後の超過債務を維持する利払いに代えて)銀行の資本を増強し,増税(緊縮)ではなく減税(刺激)し,投資を再開して景気を回復できただろう.たとえ数か月では無理でも,1年も待たずに.

IMFも今は同意している.しかし,当時はDominique Strauss-Kahn専務理事の下で,独仏政府の意向を受け,債務免除に反対したのだ.

欧州委員会は,IMFの自己批判を受け入れない.独仏の銀行を守るために,債務の組み換えを延期したのは正しかった,と主張している.ギリシャが犠牲になったのは仕方ない.

これに対して,ギリシャ政府は一方的に対抗するべきであった.今なら,政府もそう思うはずだ.債務の組み換えを,ギリシャ政府として既成事実にすべきであった.

明らかに,それはリスクをともなった.トロイカが支援を打ち切るかもしれない.そうなれば,ギリシャは一気に輸入を減らすしかなかった.ECBは緊急融資を止めるかもしれない.それは政府に資本規制とユーロ圏離脱を強いただろう.

しかし,先制することで,ギリシャ政府は交渉の土俵を作れた.つまり,こう主張できたはずだ.「我々には持続不可能な債務を組み替えるしか選択肢はない.しかし,ギリシャはユーロ圏に残りたい.われわれは改革するだろう.それに成功すれば,あなたたちの支援は続ける価値があるはずだ.」

この主張を受け入れさせる条件は,ギリシャの真剣な改革である.政府は公務員と組合を招いて交渉し,負担を公平に分担しなければならない.賃金と年金を広い分野で減額し,内的な切り下げを一気に進める.同時に民間の債務を組み換える.すべての者が犠牲を受け入れて,専門資格の開放や税制改革を行う.

しかし,政府はそうしなかった.トロイカの助言を受け入れ,集団的交渉システムを解体して,労働者の声を拒んだ.ギリシャは,それゆえ,賃金,年金,その他の責務に関して,社会契約を公平な形で見直すメカニズムを失ったのだ.利益集団は自分の利益のためだけに闘い,犠牲を受け入れず,改革は進まなかった.

ギリシャの改革が進まないことで,債権者の信頼は失われた.トロイカは,支援の条件に,先行して緊縮を求めた.増税と支出削減が不況をもたらし,公的債務は持続可能だ,という融資の前提を笑い話にした.

政府は支援を要請しているが,過去の失敗(ギリシャと国際社会)が短期的な未来の選択肢を制限している.

他国は教訓を学ぶべきだ.金融危機に直面した国民は,ギリシャの教訓から,その苦しみを避けることができる.それを知ることは,ギリシャで闘う者たちの喜びであろう.


l  安倍首相「第3の矢」

NYT JUNE 9, 2013

Japan Is a Model, Not a Cautionary Tale

By JOSEPH E. STIGLITZ

私を含む多くの者が,政府が行動しなければ,アメリカは日本型の停滞に陥ると警告してきた.しかし,日本は行動し始めた.株価の短期的な変動に関係なく,アベノミクスは正しい.

安倍の目指す構造・金融・財政政策は,アメリカがもっと早く採用するべきものと同じだ.その構造改革は新鮮さに欠けるが,労働市場改革を含んでいる.女性の労働参加は特に遅れている.ほかにも,労働者はサービス部門に移動し,グローバルな擬革優位に変化に対応し,気候変動,高齢化に応じなければならない.特に,医療システムの効率化は,日本が取り組む世界的な課題だ.そしてこうした問題は市場だけで解決するのが難しい.

財政刺激策はインフラ投資や総需要を維持する上で重要だが,日本の債務依存が問題にされる.しかし,債務依存は低成長の結果でもあり,低成長を続けることは答にならない.

確かに,金融政策の効果は限られている.しかしデフレを逆転させる上で,特に資源の遊休化を防ぐ点で重要である.それは円安を通じて作用しているが,アメリカの量的緩和も同じであり,グローバルな協調によって事態が改善すると思う.

Project Syndicate 11 June 2013

All Quiet on the Currency Front

Jeffrey Frankel

協調しない金融政策で国内経済の均衡を達成するには,為替レートが変化するのを避けられない.供給側に変化が起きるには時間がかかる.それは競争力の改善を「通貨戦争」ではない.

FT June 12, 2013

Abe should aim his third arrow at Japan’s farmers

By Takatoshi Ito

3の矢は失望をもたらした.デフレの罠を抜け出すには,投資家の期待を高めなければ成功しない.

すでに安倍首相は,日本のTPP参加に向けて強い指導力を示した.自民党の政治基盤である農民団体を敵にしても,政府は構造改革を進める必要がある.農業保護を削減することは,改革にとって象徴的な意味がある.

やるべきことはわかっている.安倍首相は(非農業分野の)企業が農地を所有できるように法改正するべきだ.これによって日本の総合商社が機会をつかみ,農産物の生産・流通・輸出を増やすだろう.それには若い優秀な農民を必要とするから,彼らは職場も所得も失わない.生産コストの高い,小規模農地,そして米作のほとんどが65歳以上,については,農地の補償を得て,大規模化され,生産性を高めるだろう.

大規模化は農地の生産性を倍増し,耕作制限(減反)などの規制による生産コストの低下も考慮すると,米の生産コストは3分の1になる.それは関税を必要としなくなるだけでなく,輸出を可能にする.

アベノミクスが成功するには,国債市場の安定を保ち,危機を回避しなければならない.それには,第3の矢として,農業を改革することだ.


l  もう一つの歴史

The Guardian, Thursday 13 June 2013

If only Britain had joined the euro

Will Hutton

もしイギリスが労働党政権下の国民投票でユーロ加盟を決めていたら,その後,どうなっていたか? 競争力を維持する水準でユーロを採用していたら,イギリスは製造業の輸出が伸びて,投資が行われ,雇用が増え,シティだけに頼らない,よりバランスのとれた成長を実現しただろう.その後の2008年の金融危機もショックが小さかったであろう.

単一通貨は規律を求め,苦痛を伴うトレード・オフを強いただろうが,金融危機後の変動レートは銀行危機と近隣窮乏化的な切り下げを波及させるメカニズムになった.魔法の杖は存在しない.


l  世界貿易システムの転換

VOX 12 June 2013

Future of the world trading system: Asian perspectives

Richard Baldwin, Masahiro Kawai, Ganeshan Wignaraja

世界貿易システムはこの数年で根本的に変化した.新興市場の登場,国際生産ネットワーク,グローバル・サプライ・チェーン,新しい通商・産業政策,地域主義による通商協定の増加.

世界の工場として登場したアジアは,ますます世界経済の中心になりつつある.生産段階をスライスして,地理的に配置するアジアでは,各国が貿易や投資で緊密に結びついている.2050年までに,アジアが世界GDPの半分を占めるという予測もある.

アジアの自由貿易協定や経済政策は,脆弱な世界においても成長を維持してきた.他方で,2国間協定はアジア・ヌードルの弊害をもたらし,TPPRCEPという超巨大貿易協定が競い合っている.アジアは世界経済にどのような影響を与えるのか? 地域協定と多角的交渉・世界ルールとの関係が問題になる.

FT June 13, 2013

China is giving Europe a harsh lesson in geopolitics

By Philip Stephens

地政学的な変化は些細な事件にも示される.習近平主席がオバマ大統領との会談のために訪米したが,それと同時に,北京はブラッセルを痛烈に攻撃した.

ヨーロッパの通商委員が中国製ソーラー・パネルにダンピングの判定を下した.これに対して中国の社説は,要するに,「衰退するヨーロッパは身の程を知れ」と書いた.中国は貿易戦争を望まないが,保護主義にはその報復があると知るべきだ,と.ヨーロッパ製のワインに報復するだけでなく,EU加盟諸国に対する分断化を図った.それはチベット問題と同じである.

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The Economist June 1st 2013

British politics and the young

Urbanization: Some are more equal than others

China’s shadow banks: The credit kulaks

Online labour exchanges: The workforce in the cloud

Buttonwood: A great migration

(コメント) イギリスの若者は多いに変化しているが,その声を聞く能力が政党に欠けている,という記事です.それは,中国の都市化やシャドー・バンキングにも,ある意味で,共通しています.政治がその力を行使する根拠は,制度化された利益に集中します.

労働市場の改革こそ,世界中で議論されている難問です.それは,インターネット上で技能と仕事・報酬をマッチさせ,あるいは,言語を学んで,国境を超える労働者たちによって,すでに始まっているわけです.

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IPEの想像力 6/17/13

本当の果樹園が鳥や虫にとって豊かな命の泉であるように,この果樹園も思索の糧となり,読者の楽しみとなることを,私は願います.

たとえば,NSA(アメリカ国家安全保障局)による情報収集に関して,多くの論説がありました.STEWART BAKERROSS DOUTHATの擁護論も,NYTStephen M. Waltの政府批判も,インターネット時代の政治と安全保障,自由を考えるために有益でしょう.

Gillian Tettが指摘するようなシンガポールの医療・保険システムがあれば,日本の財政破たんを緩和し,革新的な医療の普及や国際競争を取り入れることもできるでしょう.特に,高齢者の医療と介護に独自のシステムを開拓するのは,超高齢化国家・日本の課題です.

そして,Barry Eichengreenが示したギリシャ危機の教訓こそ,今,安倍首相は学ぶべきだと思います.黒田・日銀総裁とともに,首相は危機に対する先制攻撃を通じて,交渉の舞台を作ることに成功しました.デフレを脱し,成長を高めるための条件をめぐって,新しい社会契約を議論するときです.労働市場や税制を,何のために変えるのか,負担や協力を合意しなければなりません.

そのためにも,Takatoshi Itoが言うように,農業部門の改革を大いに進めてほしいです.なぜなら,Dani RodrikJOSEPH E. STIGLITZWill Huttonが指摘するように,市場自由化・統合・競争力のあり方と構造改革とは結びついているからです.

しかし,安倍氏の歴史観や国家観が,こうした国民のための改革にふさわしいか? と言えば,私は後ろ向きであると感じます.

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原理主義をどう思うか? という質問を受けました.イスラム原理主義,市場原理主義,キリスト教やヒンズー教,政策や思想,社会運動について,「原理主義」と呼ぶ人,呼ばれる人たちは,何を意図しているのでしょうか? 原理からの逸脱を厳しく批判するケースと,元来の問題からあまりにも広く原理を適用することを批判するケースがある,と私は思いました.

宗教の場合,私は,それが人間にとって耐えられないような悲しみ・不幸・災厄に直面したとき,内面の苦痛を軽くし,生きることを肯定できるように,エネルギーを他の人々への同情や奉仕に向けるように導くことが,古来,心の処し方ではなかったか,と考えます.それが特定の宗教という形になるのは,言葉と同じように,人々が共有する信念が,この点で,効果的であったからでしょう.

他方,宗教の示す強い帰属意識は,他の問題でも,包括的な解決策を求めるケースに利用されます.政治家と宗教指導者とが同じ原始社会では,原理主義が強化されたでしょう.現代でも,宗教指導者の示す解決策が失敗すれば,信仰心を称えて容易に問題をすり替え,内面的な充足を得るために異教徒や他者を攻撃します.

原理主義は,信仰心が人間の悲しみを緩和する内面の問題に回帰し,同時に,さまざまな現実の社会・政治・経済問題を解決できる包括的な政策能力を高めることで,次第に消滅するのではないか,と答えました.

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学生たちが,核武装や憲法改正(戦争の容認),人種差別も,簡単に(?)肯定するのは,なぜでしょうか? その社会の指導的な人物の言動,マスメディアが流布するアイドルやタレントたちの言動が影響しているのかもしれません.

しかし,圧倒的に経験や考え方が異なるのは事実です.愛国主義とサッカー・ファン(フーリガン)が結びつくように.せめてゼミ生には,もっと果樹園を読んでほしい.

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