IPEの果樹園2013

今週のReview

6/17-15

 

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NSAとインターネットの情報収集 ・・・ツキディデスの罠 ・・・バーナンキと出口戦略 ・・・シンガポールの医療システム ・・・イスタンブールの広場で ・・・IMFの救済融資失敗報告 ・・・安倍首相「第3の矢」 ・・・もう一つの歴史 ・・・世界貿易システムの転換

 [長いReview]

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主要な出典 Bloomberg, China Daily, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, Global Times (China), The Guardian, NYT: New York Times, Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, WP: Washington Post, WSJ: Wall Street Journal Asia, Yale Global そして、The Economist (London)


l  NSAとインターネットの情報収集

NYT June 6, 2013

President Obama’s Dragnet

By THE EDITORIAL BOARD

テロ対策と何の関係もないアメリカ人に対しても,電話の会話データが日常的に収集されていた.これはオバマ政権が繰り返し表明してきた権力乱用に関する決まり文句と異なるものだ.すなわち,テロリストは現実の脅威であり,信頼してほしい.われわれはあなたに説明しないけれど,内部のメカニズムであなたの権利を侵さないようにしている,と.

こうした保証は全く信用できない.かつて透明性と説明責任を約束した大統領が,新聞社の電話記録を集め,テロの容疑でアメリカ市民を殺害する秘密命令を出していた.政府は今やすべての信頼を失った.オバマは,政府があらゆる与えられた権力を行使し,あまりにも容易に乱用することを示した.

この行為を擁護して,Senator Dianne Feinstein of California(このような濫用を阻む機関the Senate Intelligence Committeeの議長)は,だれでも将来にテロリストとなる可能性があるから,と述べた.しかし,彼女自身,データがどのように収集されているか知らない,というのに,何が言えるのか?

2001年に,愛国者法Patriot Actを導入したRepresentative Jim Sensenbrenner, Republican of Wisconsin自身が,その濫用を恐れていた,という.NSANational Security Agency国家安全保障局)による情報収集は,この法律がどれほど間違った形で利用できるか,を示している.愛国者法を廃止するべきだ.

FP JUNE 6, 2013

Why the NSA Needs Your Phone Calls…

BY STEWART BAKER

報道されたようなPRISMによるインターネット情報の大規模な収集は,プライヴァシー,法律,憲法を否定するものか? そうではない.

まず,the Foreign Intelligence Surveillance Court, known as the FISA Courtが発した命令は,合法である.アメリカ市民の自由を侵すものではない.政府は10名ほどの連邦判事がメンバーである法廷で,その命令が合法的であることを示す必要があったからだ.あなたはそれでもこの命令を好まないかもしれないが,これを合法でない,とは言えない.

命令の法的な根拠は,政府の3権と両党で慎重に検討された.それでもあなたは,これが違法でないとしても,疑問を持つかもしれない.アメリカ人の電話を何でも盗聴できる,などと政府は正当化できるのか?

それはできない.NSAは,その対象がスパイやテロリストであるという十分な理由がなければ,盗聴できない.さらに国家安全保障法が求めているのは,その最小化である.法律は,その情報の利用を厳しく制限している.NSAは,合法的に収集した情報でも,その内容の確認や利用は最小でなければならない.

このような,収集後の規制を行うことで,諜報行為を合法化できるのか? という問題に応じるためには,例を挙げるのがよいだろう.

イエメンのアルカイダがアメリカ国内の協力者に,高度な爆弾製造の技術者を送る連絡を傍受した場合だ.・・・「私(イエメンのテロリスト)は彼(アメリカ国内の協力者)に使い捨て携帯電話であなた(技術者)に連絡するよう命じた.明日の午前11時に,あなたの使い捨て携帯電話が鳴る.あなたが出ると,彼は他の電話機の番号だけを言う.あなたは市場で新しい電話機を買って,その番号に午後2時に電話しなさい.」

この場合,アメリカ人の誰かが,次のテロ計画と関係して,午前11時に,イエメンの技術者に電話することは十分に証明できる.しかし,アメリカ国内の協力者が誰か,どこにいるか,まったくわからない.その人物は,3時間後にイエメンに連絡するだろう.この協力者を捕えることは非常に難しい.

NSAは,このパターンに合致した通話記録をすべての電話会社に頼んで一つずつ調べさせるべきか? その費用は膨大で,しかも成果はほとんど期待できない.むしろ,イエメンとアメリカとの通話データをすべてプールして,NSA自身が見つけることだろう.

こうした技術は,データの利用を最小化し,データの恣意的利用からアメリカ人を守ることが重要である.それでも,多くの人は,政府なんて信用できない,というかもしれない.たとえ両党と3権がチェックしても,膨大なデータを持った政府はこれを乱用するだろう,と.

私も,最初そう感じた.しかし,このモデルを好まないとしたら,その場合,「何と比べて」好まないのか,が重要である.通常の法の執行は,その行動だけでなく,テロリストが誰かを特定してから行われる.そのモデルに固執すれば,より多くのテロ行為を国内に生むのではないか?

The Guardian, Friday 7 June 2013

Obama is like Apple, Google and Facebook: a once hip brand tainted by Prism

Jonathan Freedland

政府と大企業は,われわれを奴隷にするために共謀している,という昔からある暴力論が証明されたようだ.アメリカのNSAが我々のオンライン生活をのぞいている,とThe Guardianは暴露した.われわれのe-mailも,Skypeの会話も.

最も破壊されたのはアメリカ政府のイメージだ.バラク・オバマは常に,AppleFacebookと共通点が多かった.現代的で,クールな姿勢が,競争相手を倒してきた.しかし,GoogleFacebookも,ずっと前に無邪気さを失い,他の大企業同様,金儲けのうまい経営者の道具になった.オバマは,かつて反対して諜報活動を,むしろ拡大していたのだ.

グアンタナモ基地を閉鎖せず,ドローンを多用し,Foxの記者を国務省が追跡し,AP通信の電話記録を2か月間も収集した.リベラルがオバマの行動を擁護することは難しい.

Starbucks, Amazon and Googleがあまりにも少ししか税金を支払わないことに気付いたとき,最も攻撃されたのはStarbucksだった.その消費者は通りにある他の店に行くことで抗議できたから.しかし,Amazonを避けることは難しいし,Googleについては不可能だ.諜報機関は今や,全国民を監視でき,その手段は民営化されて,ウェブ上の巨大企業にアウトソーシングされている.

われわれの選択肢は,この魔法使いを瓶に戻して,昔の時代に戻る.…ありそうにない.あるいは,政府が情報を求めても,企業がそれを拒む.…難しい.あるいは,法律を変えて,無限に情報を求める幹部の要求を抑える.

技術の変化は,あまりにも諜報に利用しやすい環境を作ってしまった.しかし,それを広めているのは私たちだ.

FT June 7, 2013

America and China entwined in a web of warfare

By John Gapper

FT June 7, 2013

Data intelligence complex is the real story

By Edward Luce in Washington

NYT June 7, 2013

Making a Mountain Out of a Digital Molehill

By CHARLES A. SHANOR

FP JUNE 7, 2013

Obama’s Surveillance State

BY SUZANNE NOSSEL

私たちは監視国家に住んでいる.それは公認の事実になった.

ジョージ・オーウェルの『1984年』や,映画『マイノリティ・レポート』のような仮想的なディストピアに共鳴して,政府に監視されているという恐怖が強まる.

NYT June 8, 2013

Your Smartphone Is Watching You

By ROSS DOUTHAT

「次の911を生き延びるには,そこまでやるしかない.」・・・「情報化時代には起きると決まっていたことだ.私は何も隠していない.」・・・ 利用者たちの中には,“Nothing to Hide”と名づけて,政府の潜在的な査察を承認する者もいる.

彼らは時代の本質を表している.・・・何も隠さない.何も恐れない.プライヴァシーはないのだ.誰でも入れ.・・・すべてのスマートフォン,ソーシャル・メディアのログイン・ページには,そんなモットーが書かれている.

安全保障の専門家Bruce Schneierが,最近,書いたように,インターネットが監視国家によって浸食されたのではない.インターネットこそが,事実上,監視国家そのものである.初めから,その匿名性こそが衝撃であった.New Yorkerの有名な風刺漫画(コンピュータを使う2匹の犬)が示したように,「インターネットでは,だれもあなたが犬だなんて知らないよ.」

しかし次第に,利用者たちは変化して,日常の友人関係をインターネットに移し始めた.それは彼らがさまざまな敵や見知らぬ者,元恋人,などに生活をさらすことになった.だからそこには,一定の限度が必要だったはずだ.インターネットではプライヴァシーが守れないから,権力者でも罠に落ちた.

問題は,われわれが有効な参照例を持たないことだ.論争は,しばしば20世紀の全体主義的警察国家に言及する.プライヴァシー情報が独裁的な一党支配に利用されたのだ.そのモデルは,確かに,権威主義体制がインターネットを利用することを批判している.しかし,アメリカはFacebookを利用して東ドイツになろうとしているわけではない.ソフトな専制国家,明るい警察国家,と呼ぶ方がよい.支配者の弾圧に利用するというより,IRSスキャンダルが示したような,ビッグ・データの悪用に不安を覚える時代に,われわれは生きるだろう.

こうした状況では,過激な運動や反体制派にはリスクの大きい,パラノイアはよりまともで,陰謀論が頻発する.しかし,危険な人々は予防的に,あるいは,迅速にとらえられるから,このプライヴァシートセキュリティーとの交換は多くのアメリカ人にとって合理的である.インターネットから完全に離脱しない限り.

NYT June 8, 2013

Fixing the Digital Economy

By JARON LANIER

guardian.co.uk, Sunday 9 June 2013

This abuse of the Patriot Act must end

Jim Sensenbrenner

guardian.co.uk, Monday 10 June 2013

Edward Snowden: saving us from the United Stasi of America

Daniel Ellsberg

The Guardian, Monday 10 June 2013

Snowden's revelations must not blind us to government as a force for good

Polly Toynbee

FT June 10, 2013

In Snowden’s privacy fight, the spies are likely to win

By Gideon Rachman

情報の収集だけでなく,その著しい乱用を示さない限り,西側政府は勝つだろう.

SPIEGEL ONLINE 06/10/2013

Prism Exposed

Data Surveillance with Implications for the World

By Marcel Rosenbach, Holger Stark and Jonathan Stock

ユタ州の南部,ソルトレイクで,アメリカの対外諜報機関NSAは,最も高価な極秘作戦を行っている.10万平方メートルの敷地に,超高速コンピューターを収めた巨大な建物を建築中だ.総工費は約20億ドル,少なくとも50億ギガバイトのデータを保存できる.その冷却システムにかかる費用だけでも,年4000万ドルだ.

NSA職員Thomas Drake and Bill Binney3月に語ったところでは,この施設は個人の情報を蓄積する.それは,e-mailsSkypeの会話,Googleのサーチ,YouTubeビデオ,Facebookの投稿,銀行の資金移動,など,あらゆる電子データをふくむ.

ドイツ政府は国民の情報について説明を求められている.メルケル首相は,来週,ベルリンを訪問するオバマ大統領と話し合う.

NYT June 10, 2013

Hong Kong Seen as Likely to Extradite Leaker if U.S. Asks

By KEITH BRADSHER

NYT June 10, 2013

A New Kind of Leaker for an Internet Age

By DAVID CARR

WP June 10, 2013

Big Brother isn’t watching you

By Marc A. Thiessen

FP June 10, 2013

The real threat behind the NSA surveillance programs

Posted By Stephen M. Walt

あなたの電話やインターネット利用からNSAによって情報が盗まれることを心配するとしたら,それはないだろう.3億人のアメリカ国民を調べるのは多すぎるからだ.

われわれの民主主義に対する本当のリスクは,政府を批判する潜在的な反体制派,調査報道に従うジャーナリスト,政府の政策の一部が愚劣であるとか,反倫理的,あるいは,非合法であると考える誰かにとって,新しい状況を創り出すことだ.

あなたがそのような批判的活動を目指すなら,それを好ましくないと思う者が,あなたのことを調べるかもしれない.政治家ではなく,単に中位の官僚かもしれないし,政府を防衛することに熱中する人物かもしれない.誰であれ,あなたのことを調べて,過去の秘密が,あるとき,インターネット上にばら撒かれているのを知ることになる.

これは誇張ではない.ブッシュ政権がサダム・フセインに抱いた疑い,ナイジェリアからウランを入手する工作に関する話を,真実ではないと暴露したJoseph Wilsonとその妻は,CIAによってキャリアを破壊されかけた.David Petraeusがスキャンダルで辞任したのは,FBIの下位職員が彼のe-mailsを調べ始めたからだ.かつてCIA長官であったJ. Edgar Hooverが地位を長期に守るため秘密情報を利用し,公職者の欠点をファイルしていた.ニクソンや,他の政治指導者も同じことをした.

誰であれ,政府の政策に挑戦する者は,その問題と何の関係もない私的な行為でも,反対者の餌食にされてしまう.この勝負は政府に圧倒的な優位がある.なぜなら,政府は情報収集に何十億ドルもかけることができるからだ.

重要な問題に関する活発な論争は健全な民主主義に不可欠な条件である.そのためには,アウトサイダーによる精査と反論が重要だ.しかし,政治家や官僚が何をしているかについて,それを監視する十分な資源を市民は持たない.だから私たちはジャーナリストや学者,その他の独立した発言を,不正行為,汚職,加護に関して,必要としている.もしこうした独立した発言が,政府による情報収集で,以前のケースのように,報復を恐れる弱い立場になれば,たとえそれが合法的な形でも,沈黙を強いられるだろう.その結果は,政府の裁量が拡大し,汚職が増え,失敗を暴露されにくくなる,ということだ.

活気ある,反骨の,自由な精神を持つ市民の国ではなく,おとなしい羊だけの国になる.

FP June 10, 2013

The differences between whistleblowing Edward Snowden and Bradley Manning -- and some similarities to Daniel Ellsberg

Posted By Thomas E. Ricks

FP JUNE 10, 2013

Control+Freedom+Delete

BY DAVID ROTHKOPF

The Guardian, Tuesday 11 June 2013

NSA surveillance: The US is behaving like China

Ai Weiwei

FT June 11, 2013

America: Church versus state

By Geoff Dyer

FT June 11, 2013

A tech arms race is pitting states against their citizens

By Ian Bremmer

1世代前には,専制君主が国内の情報を管理し,市民が外部の情報に接するのを阻止できた.しかし今や,人々は情報機器を持ち,Satellite television, mobile phones with cameras, Facebook, YouTube and Twitter,情報をどこからでも容易に手に入れる.政府も様々な新しい技術を駆使するが,元CIA要員のEdward Snowdenが暴露したように,それを秘密にしておくことは難しい.

中国はインターネット世界を「万里の長城」“great firewall”で管理しているが,タカ派も認めるように,政府の監視能力より,はるかに急速にインターネット利用者が増えている.ロシア,サウジアラビア,イラン政府も検閲を試みるが,かつて国営テレビと国営ラジオで情報統制できた時代には戻れない.

しかし,「情報通信革命」に対抗して,「データ革命」が始まった.それは認められる脅威に対して,政府が防衛から攻撃に転じることだ.すでにインターネットで集める有権者に関する詳細な情報は,高度な選挙戦略に欠かせない要素である.

ビッグ・データの分析は,本質として,何も邪悪なものではない.それは官僚たちが市民の要望を知るうえで有益だ.また,公衆衛生を高め,交通渋滞を避け,インフラ投資を目的に合ったものにし,犯罪を減らし,治安を改善する.しかし,だれが活動家と犯罪者の区別をするのか? 誰がテロリストを認めるのか? 潜在的なテロリストである,と?

政府は大量の情報を集めており,その乱用の危険を高めている.情報通信革命は個人にパワーを与え,データ革命は国家にパワーを与える.その戦いは始まったばかりで,どちらが優位を得るかは,まったくわからない.

SPIEGEL ONLINE 06/11/2013

US Prism Scandal

'Security Is Not an End in Itself'

A Commentary by German Justice Minister Sabine Leutheusser-Schnarrenberger

NYT June 11, 2013

Hong Kong, a Strange Place to Seek Freedom

By LAW YUK-kai

香港に逃げたEdward J. Snowdenは,「自由な発言の強い伝統を持つ」ことと,「街頭における抗議活動の長い伝統がある」と,ビデオでその理由を述べた.このニュースは,多くの香港住民,特に,人権を求めてきた我々を驚愕させた.

1997年に中国に返還されて以来,それまでのイギリス統治下で守られてきた法の支配や市民の権利は,「一国二制度」のあいまいなものに変わった.20124月・5月の,香港ジャーナリスト協会による調査は,メディアで働く彼らの3分の1が,過去12か月間,監督者による自主検閲を受けていた,と述べた.

彼のケースがどうなるかは,少なくとも,香港における個人の権利が危うい状態について国際的関心を高めてくれるだろう.

WP June 11, 2013

Edward Snowden’s NSA leaks are backlash of too much secrecy

By Dana Milbank

WP June 11, 2013

Edward Snowden’s NSA leaks show we need a debate

By Eugene Robinson

WP June 11, 2013

The NSA is doing what Google does

By Richard Cohen

WP June 11, 2013

Edward Snowden’s grandiosity

By Matt Miller

WP June 11, 2013

In NSA programs, democracy works in secret

By Editorial Board

NYT June 11, 2013

The Price of the Panopticon

By JAMES B. RULE

NSAは電話の会話やオンライン記録から数百万件の情報を集めている,というニュースに対して,市民の41%しか「受け入れられない」という反応を示していない.プライヴァシーや市民の権利を守る者,リバタリアンにとって,この無関心な態度は深刻な政治的変化を見逃している.

NSAによる「接続情報」の収集は,潜在的なテロリストの発見に有益である,という.たとえそうであるとしても,問題は将来の変化だ.政府は何十億ドルも投資して新しい監視能力を構築している.テロ対策やその他の邪悪な敵に対する果てしないキャンペーンが続く国で,「ビッグ・データ」を握った国家がこのまま萎縮している,と考えるのはナイーブすぎる.

FP JUNE 11, 2013

America: Choosing Security Over Liberty Since 1798

BY HAYES BROWN

FT June 12, 2013

Big data has to show that it’s not like Big Brother

By John Gapper

FT June 13, 2013

Global Insight: China’s silence over US snooping is golden

By Kathrin Hille in Beijing

アメリカは正当化し,EUは懸念を示す.しかし,最も影響を受ける国である中国は,沈黙したままだ.沈黙は,難しい問題に対処するときの中国の長い伝統である.

アメリカは中国政府のサイバー攻撃や企業への窃盗を非難していたが,今や,Edward Snowdenの事件が沈黙を再び金にした.米中間のサイバー・セキュリティー問題を話し合う席で,立場が逆転し,中国こそがアメリカの諜報活動の犠牲者になったからだ.これで,両者はサイバー攻撃に関して「イーブン」になった.

しかし,国際交渉は始まったばかりだ.


l  ツキディデスの罠

NYT June 6, 2013

Obama and Xi Must Think Broadly to Avoid a Classic Trap

By GRAHAM T. ALLISON Jr.

米中首脳会談で,官僚たちが用意した,さまざまな問題が話し合わせるだろう.しかし,それだけでは二人の指導者が最も重要な課題に取り組むことにならない.それは要するに,米中が「ツキディデスの罠」を避けられるか? ということだ.

1500年以来,興隆する大国が支配的な大国に挑戦した15のケースで,11は戦争に至った.オバマと習は,この比率に逆らえるだろうか? 2000年以上前に,将軍であり,歴史家でもあったツキディデスが明瞭に分析したように,ペロポネソス戦争の原因は2つあった.アテネの興隆と,それに対するスパルタの恐怖心である.

1913年,興隆するドイツに対して,支配的なイギリスが不安を感じた.Norman Angellは戦争など不可能だと主張し,Andrew Carnegie1914年の新年の挨拶状に,国際平和が広まる,と確信を述べたが,半年後,第1次世界大戦が始まった.

少数の成功例には,19世紀後半の英米がある.しかし,当時の条件は,今,存在しない.イギリスはアメリカの近隣に強力な同盟国を持たなかった.むしろ,自国の近くに他の挑戦国(ドイツ)を抱えていた.アメリカの希望をできるだけ取り込まなければ,その挑戦国を抑えられなかった.

現在,中国は驚異的な興隆を果たし,アメリカは自分たちがNo.1であることを当然とみなしている.このまま官僚たちの用意した議題をこなすだけでは,戦争を避けられない.1回のサミットで合意するだけでなく,世代にわたる協定が必要だ.

FT June 7, 2013

Choreographing the US-China summit

Kurt Campbell

Project Syndicate 07 June 2013

Mao-Nixon” 2.0

Minghao Zhao

習とオバマとのthe “Sunnylands summit”は,1972年の毛沢東とニクソンとの会談に学ぶものだ.1969年,大統領となったニクソンには2つの課題があった.ベトナム戦争を終結させ,攻勢を強めるソ連に対抗することだ.中国との外交が,これらの不可能な課題に応えるニクソンにとっての転換軸であった.実際,中国は,アメリカと闘う北ベトナムを支援していたし,中ソ関係は悪化し,アムール川の国境線で衝突するに至った.ニクソンとキッシンジャーは,国務省や議会を避けて,パキスタンやルーマニアにある非合法なチャンネルで中国と接触していた.

Sunnylands summitが長期的に有益であるとしたら,それは毛・ニクソンと同様に,思想的・戦略的なレベルにおいてである.2人の目標は,現在の「競争的共存」が戦略的な対立にならないよう,今後,中国経済がアメリカ経済を追い越しても,安定的で,プラスの,協力関係を維持する,と確認することである.

しかし,残念ながら,現状は悪化しつつある.かつて米中を接近させたソ連の脅威はもはやない.両国の戦略担当者は,伝統的な脅威の視点を超えて,経済的安定性,エネルギー・資源の安全保障,技術進歩,気候変動,人口問題,サイバー・セキュリティーなどに,もっと焦点を向けるべきだ.こうした問題の解決には,単独でなく,同盟諸国の協力が必要だ.

毛・ニクソンの会談で,雪解けが可能になった.習・オバマ会談は冷却化を防ぐものだ.両国は協力し,未来を築くときだ.

FP JUNE 7, 2013

Do Two Dreams Equal a Nightmare?

BY MARCO RUBIO

FT June 9, 2013

Obama-Xi summit presented as a walk in the park

By Richard McGregor in Palm Springs

FT June 10, 2013

A subtle defrosting in China’s chilly war with America

By KevinRudd

WP June 11, 2013

Is China willing to listen to the world?

By Editorial Board

YaleGlobal, 11 June 2013

US and China Explore New Relationship

Robert A. Manning


l  バーナンキと出口戦略

BLOOMBERG Jun 6, 2013

Specter of Another Bond Crash Spooks Asia

By William Pesek

Project Syndicate 07 June 2013

Central Banking’s New Face

Paola Subacchi

VOX 8 June 2013

Exit strategies: Time to think about them

Charles Wyplosz

金融緩和の「出口戦略」を考えるときだ.2Alan Blinder and Don Kohnのインタビューを見て,出口戦略のポイントを考察する.・・・どのような金融政策に戻るのか? 金融資産市場の安定性が重視されることは間違いない.・・・いつ戻るのか? 早過ぎれば不況やデフレを招くが,遅すぎればインフレを招く.・・・中央銀行はどのような金融資産を操作するのか? そのバランス・シートが問題になっている.

Project Syndicate 10 June 2013

China’s Cold Eye on Hot Money

Zhang Monan

FT June 11, 2013

The overstated inflation danger

By Martin Wolf

インフレを警戒する声は,主に2つの理由で起きている.1.「量的緩和」による「紙幣の印刷」が増えている.2.政府債務が増大して,インフレによるデフォルトを好ましいと考える.

イギリスの事情を考えてみよう.

BLOOMBERG Jun 11, 2013

Can Bernanke Avoid a Meltdown in the Bond Market?

By Jim O’Neill

過去数週間は,バーナンキが超緩和政策を逆転し始めたとき,何が起きるかを示した.金融市場が乱高下し,特に資産は通常の変動を超えるだろう.

正常な水準に戻るとしたら,10年もの財務省証券の利回りは2.2%ではなく,4%になるだろう.その移行は,債券市場から株式投資に向かわせる.こうした予想があるから,バーナンキがほんの少しでもFOMCの同僚から量的緩和の縮小を求める圧力を受けると,市場は敏感に反応する.

1994年の債券市場暴落を想起すれば,こうしたことは驚くことではない.当時,グリーンスパン議長は金利を引き上げ始めると十分に分かっていたが,そのニュースは衝撃を起こした.オーストラリア債券が投げ売りになるとか,連銀が完全に信用を失う,という事態を予想するかもしれないが,そうではなかった.人々は,単に,アメリカとの金利差を利用して,オーストラリア(やヨーロッパ,その他の新興市場)債券を買っていた,というだけのことだ.

最近は,こうした利回りの追及がさらに広く,深く,行われている.1994年の衝撃が再現するのは間違いない.高利回りの地方債や新興市場債券は,最も大きく下落するだろう,金価格もそうだ.ヨーロッパの周辺諸国についても債券を私は買わない.バーナンキは投資家心理を誘導するため,透明性を重視した.グリーンスパンはわかりにくい表現を好んだ.しかし,そのような違いは,債券市場の変動に関係ないだろう.今は抑えられているが,インフレ期待も高まるだろう.

株式市場も同時に下落するかもしれないが,それは続かない.正常への回帰は,長期投資家にとって,債券でなければ株式に投資することを意味するからだ.

Project Syndicate 12 June 2013

The Ultra-Easy Money Experiment

William White

SPIEGEL ONLINE 06/13/2013

End of Cheap Money

Can the World Handle Higher Interest Rates?

By Martin Hesse, Anne Seith and Wieland Wagner


後半に続く)