(前半から続く)
l アメリカの都市
FT June 7, 2013
The
future of the American city
By Edward Luce
l シンガポールの医療システム
FT June 7, 2013
Thank
you, Singapore
By Gillian Tett
シンガポールで髄膜炎になり,命をなくすところだった.しかし,アメリカと違って,シンガポールの医療システムでは,医師が訴訟を恐れず最善の抗生物質を投与して私を救ってくれただけでなく,その費用も,アメリカでは考えられないほど安く済んだ.
アメリカは,他の西側諸国より多い,GDPの約18%を医療システムに支出して,一部の素晴らしい成果を除くと,幼児死亡率や平均寿命などで劣っている.シンガポールは4.6%しか支出しないが,保険システムで運営され,その保険料はアメリカのわずか2%である.幼児死亡率や平均寿命など,アメリカよりも優れている.
William Haseltineの研究によれば,シンガポールの医療システムは全体として住民のために設計された.それに比べて,アメリカでは競争と自己中心主義が支配している.アメリカ人は,シンガポールのような「管理型資本主義」を受け入れない.しかし,もう一つの特徴である,消費者の圧力は学ぶべきだろう.病院は価格や結果をすべて公表しており,患者はそれを見て病院を選ぶ.
もしアメリカ人が,シンガポールの医療費と比較できるなら,今の医療制度を改革したいと願うだろう.
NYT
June 8, 2013
Want
to Fix Social Security? Use the Right Wrench
By ROBERT J. SHILLER
l イスタンブールの広場で
FT June 7, 2013
Turkey:
A change of tempo
By David Gardner and Daniel Dombey
WP June
8, 2013
How
Europe can save Turkey
By Steven A. Cook
FP
JUNE 11, 2013
How
the War in Syria Has Helped to Inspire Turkey's Protests
BY SOPHIA JONES
The
Guardian, Wednesday 12 June 2013
Europe
must condemn Erdoğan, but without hubris or illusions
Timothy Garton Ash in Berlin
毎年,どこかの国の,どこかの広場で,私たちは目撃する.プラハ,キエフ,テヘラン,モスクワ,カイロ.今は,イスタンブールのタクシム広場だ.いずれの広場でも多くの魂を動かす写真が伝えられてくる.若い,モダンな,都市の,おそらくは世俗的な,若い女性が,武装した,ヘルメットをかぶって顔の見えない,男と対峙している.彼は,反動的な,権威主義の,支配者を代表する.アヤトラ,プーチン大統領,スルタン,トルコではエルドアンだ.
われわれは彼ら,若者たちの側に立つ.われわれと彼らは一つの民衆である.テレビや新聞が伝える映像は強い影響を及ぼす.
しかし,この感覚は間違いである.一面では,世界の諸都市で連帯し,共通の何かを持って行動をしている.しかし,他面では,それが間違いをもたらす.これらの広場は異なる瞬間,異なる状況の産物だ.彼らを結びつけたのは,ただ一つ,エルドアンが新しいスルタンになることを阻む,という願いだ.
10年の長期政権が指導者にもたらした慢心は著しい.エルドアンは外遊から戻って,世界の支持者に向けて挨拶した.その多くの暴言は,彼が地域の改革を導く希望ではなく,恐怖支配のシンボルになったことを示した.それでもトルコは民主主義であり,中国より多くのジャーナリストを投獄したが,彼は50%を超える支持を得たのだ.
われわれはトルコの闘いを見守るしかない.しかし,沈黙すべきではないだろう.同時に,トルコがフランス型の共和制に変わることなど期待してはいけない.おそらく今後,政治的にはエルドアンの後継者が権力を継承し,より穏健な,自由民主主義に近づく.そして,イスラム教徒が多数を占める国として中東で支配的な関心を集め,再び,EU加盟の有力な候補になるだろう.
もしトルコが数年を経て,こうした変化を実現するなら,タクシム広場で催涙ガスに耐える若者たちの抗議は,決して無駄ではない.
YaleGlobal, 13 June 2013
Turkey’s
Economic Miracle Under Fire
Dilip Hiro
guardian.co.uk,
Friday 7 June 2013
9
reasons Keynesians aren't winning the argument – and what to do about it
Phillip Inman
緊縮派に対してケインズ派が勝利すると信じる者が犯しやすい間違った前提を示す.
l IMFの救済融資失敗報告
NYT
June 7, 2013
The
I.M.F. Admits Mistakes. Will Europe?
By THE EDITORIAL BOARD
guardian.co.uk,
Sunday 9 June 2013
IMF
and Greece: Institutional Monstrous Failure
Editorial
ギリシャへの救済融資を組んだトロイカの仲間である欧州委員会とIMFとの間で,非難合戦が転機を迎えた.
IMFの報告書は,そのギリシャ向け融資が間違った予測によって支持された,と認めた.それは極端な緊縮策となって,経済を破壊した.GDPは2009年に比べて5%減少すると予測したが,実際は,その3倍以上も下落した.2012年の失業率を15%と予測したが,25%であった.
最初は,迅速な償却やデフォルトを検討したが,実際は融資になって,ギリシャ国民が不況にもかかわらず利子支払を続けている.IMFは,早期に債務を組み替えるのが最善の策であった,と認めている.しかし,ユーロ圏の官僚や政治家はそれを拒んだのだ,と批判している.トロイカ内部の混乱は,2010年と同様に,2013年になっても続いている.
IMFは債務国の破産処理を認めるべきだ.そして,ユーロ圏は緊縮策をやめて,財政刺激策に転換するべきだ.
FT
June 9, 2013
Hail
the outbreak of honesty about Greece’s bailout
By Wolfgang Münchau
最も正直で明晰なユーロ危機の分析をIMFが出版した.わずか50ページで,ギリシャ救済融資の間違いを,簡潔,冷静に分析している.それはまたヨーロッパの政策合意が間違いであると述べている.この3年間,多くの批評家が同様に批判されてきたが,IMFもそれに加わった.
ギリシャはこのまま不況と債務不履行の悪循環を続けるだろう.あるいは,ユーロ圏を離脱して一方的にデフォルトするだろう.それを避けるには,政策を根本的に変えるしかない.しかし,現実的な成長の回復と構造改革のスピードを前提にした政策を採用することは,北欧諸国により多くの財源を求めることになり,タブーである.
IMFは,欧州委員会やECBの決めた政策に従うことに不満を示し,独自の見解を明確にした.欧州委員会はこれに憤慨するだろう.もしIMFが政策転換を要求するなら,トロイカからの離脱も考えるべきだ.
BLOOMBERG
Jun 9, 2013
On
the IMF’s Big Fat Greek Woulda-Shoulda-Coulda
By Megan Greene
Project
Syndicate 12 June 2013
Europe’s
Way Out
Dani Rodrik
ユーロ圏でも緊縮策は人気がない.欧州委員会は財政赤字の上限を守る期限を緩和した.しかし,これは姿を変えただけで,同じである.
構造改革が成功するというのは,生産性の低い分野が縮小して解雇され,生産性の高い分野で雇用が増えることだ.しかし,緊縮策は需要を奪うから,生産力は過剰になり,新雇用は実現しない.しかも,ユーロ圏周辺では,債務の累積と競争力の問題を解決しなければならない.現在のような緊縮策と,構造改革を進めても,失業が増えるだけで,債務を減らすための輸出は伸びない.
どうすればよいか? 債務を削減する.そして,周辺諸国に需要を再配分する.すなわち,ユーロ圏全体で,黒字国,特にドイツは需要を拡大する.非貿易財の価格を下げる.周辺経済の民間賃金を協調して下げる.ECBのインフレ目標を引き上げる.
究極的には,EUの制度を改革し,構造的な収斂(特に,労働市場の統合)を促すことだ.しかし,短期的に需要を高めるケインズ製作を無視するなら,長期の目標も達成できない.
Project Syndicate 13 June 2013
Lessons
of a Greek Tragedy
Barry Eichengreen
ギリシャを訪問すれば,疑問を持つはずだ.政策担当者は,金融危機に直面したとき,もっと違う対応を選択すべきではなかったか?
政策の決定的な失敗は,危機の始まるときに起きた.2010年の前半,ギリシャが金融市場のアクセスを失ったことは明白だった.公的債務は持続不可能であり,即座に,組み替えるべきであった.
もしギリシャの債務の3分の2を免除していたら,ギリシャは債務超過から抜け出せた.その結果,(その後の超過債務を維持する利払いに代えて)銀行の資本を増強し,増税(緊縮)ではなく減税(刺激)し,投資を再開して景気を回復できただろう.たとえ数か月では無理でも,1年も待たずに.
IMFも今は同意している.しかし,当時はDominique Strauss-Kahn専務理事の下で,独仏政府の意向を受け,債務免除に反対したのだ.
欧州委員会は,IMFの自己批判を受け入れない.独仏の銀行を守るために,債務の組み換えを延期したのは正しかった,と主張している.ギリシャが犠牲になったのは仕方ない.
これに対して,ギリシャ政府は一方的に対抗するべきであった.今なら,政府もそう思うはずだ.債務の組み換えを,ギリシャ政府として既成事実にすべきであった.
明らかに,それはリスクをともなった.トロイカが支援を打ち切るかもしれない.そうなれば,ギリシャは一気に輸入を減らすしかなかった.ECBは緊急融資を止めるかもしれない.それは政府に資本規制とユーロ圏離脱を強いただろう.
しかし,先制することで,ギリシャ政府は交渉の土俵を作れた.つまり,こう主張できたはずだ.「我々には持続不可能な債務を組み替えるしか選択肢はない.しかし,ギリシャはユーロ圏に残りたい.われわれは改革するだろう.それに成功すれば,あなたたちの支援は続ける価値があるはずだ.」
この主張を受け入れさせる条件は,ギリシャの真剣な改革である.政府は公務員と組合を招いて交渉し,負担を公平に分担しなければならない.賃金と年金を広い分野で減額し,内的な切り下げを一気に進める.同時に民間の債務を組み換える.すべての者が犠牲を受け入れて,専門資格の開放や税制改革を行う.
しかし,政府はそうしなかった.トロイカの助言を受け入れ,集団的交渉システムを解体して,労働者の声を拒んだ.ギリシャは,それゆえ,賃金,年金,その他の責務に関して,社会契約を公平な形で見直すメカニズムを失ったのだ.利益集団は自分の利益のためだけに闘い,犠牲を受け入れず,改革は進まなかった.
ギリシャの改革が進まないことで,債権者の信頼は失われた.トロイカは,支援の条件に,先行して緊縮を求めた.増税と支出削減が不況をもたらし,公的債務は持続可能だ,という融資の前提を笑い話にした.
政府は支援を要請しているが,過去の失敗(ギリシャと国際社会)が短期的な未来の選択肢を制限している.
他国は教訓を学ぶべきだ.金融危機に直面した国民は,ギリシャの教訓から,その苦しみを避けることができる.それを知ることは,ギリシャで闘う者たちの喜びであろう.
WP June 8, 2013
Inside
the mind of Samantha Power
By James Mann
NYT
June 8, 2013
A
Golden Age for Intervention?
By NEIL MacFARQUHAR
l 安倍首相「第3の矢」
FT
June 9, 2013
Abe’s
hardest test
たとえ困難でも,政府は改革を実行しなければならない.通貨供給を倍増させる革命は,必ず国債の利回りを上昇させる.持続的な成長が実現できなければ,国債市場は管理不可能になる.
日本の問題は構造的である.労働市場は若者や女性を拒み,企業は内部留保を海外に投資し,移民政策は閉鎖したままだ.安倍首相は,その重要なテーマに手を付けていない.
NYT
JUNE 9, 2013
Japan
Is a Model, Not a Cautionary Tale
By JOSEPH E. STIGLITZ
私を含む多くの者が,政府が行動しなければ,アメリカは日本型の停滞に陥ると警告してきた.しかし,日本は行動し始めた.株価の短期的な変動に関係なく,アベノミクスは正しい.
日本のこの20年間は,単に,停滞と見るべきではない.日本の労働人口は急速に減少してきたから,今世紀の最初の10年,労働者一人当たりの実質GDPで見れば,日本はアメリカ,ドイツ,イギリス,オーストラリアよりも早く成長した.また,所得分配,高齢化する中での75歳以上の高齢者,子供の貧困,大学進学率と低失業率,を見れば,日本はアメリカより優れている.
安倍の目指す構造・金融・財政政策は,アメリカがもっと早く採用するべきものと同じだ.その構造改革は新鮮さに欠けるが,労働市場改革を含んでいる.女性の労働参加は特に遅れている.ほかにも,労働者はサービス部門に移動し,グローバルな擬革優位に変化に対応し,気候変動,高齢化に応じなければならない.特に,医療システムの効率化は,日本が取り組む世界的な課題だ.そしてこうした問題は市場だけで解決するのが難しい.
財政刺激策はインフラ投資や総需要を維持する上で重要だが,日本の債務依存が問題にされる.しかし,債務依存は低成長の結果でもあり,低成長を続けることは答にならない.
確かに,金融政策の効果は限られている.しかしデフレを逆転させる上で,特に資源の遊休化を防ぐ点で重要である.それは円安を通じて作用しているが,アメリカの量的緩和も同じであり,グローバルな協調によって事態が改善すると思う.
なぜアメリカも,成長と平等な社会を目指してアベノミクスを採用しないのか? それは政治的な闘争が政府の行動を阻んでいるからだ.もしアベノミクスが目標の半分でも達成すれば,アメリカの政治も動くだろう.
FP
June 10, 2013
'We
Face a Very Serious Chinese Military Threat'
INTERVIEW BY ISAAC STONE FISH
Project
Syndicate 11 June 2013
All
Quiet on the Currency Front
Jeffrey Frankel
協調しない金融政策で国内経済の均衡を達成するには,為替レートが変化するのを避けられない.供給側に変化が起きるには時間がかかる.それは競争力の改善を「通貨戦争」ではない.
1930年代について,Barry Eichengreen and Jeffrey Sachsが示したように,金本位制の離脱が切下げと財政緊縮策からの自由をもたらし,大恐慌を終わらせた.「通貨戦争」という非難を気にすることはない.
日本は,当初,安倍首相が円安のみを強調したのは間違いだった.中国は「通貨操作」を非難されたが,為替レートを固定することは許されている.スイスの例がそれに近い.しかし,G8で議論するのは無駄だ.
FT
June 12, 2013
Abe
should aim his third arrow at Japan’s farmers
By Takatoshi Ito
第3の矢は失望をもたらした.デフレの罠を抜け出すには,投資家の期待を高めなければ成功しない.
すでに安倍首相は,日本のTPP参加に向けて強い指導力を示した.自民党の政治基盤である農民団体を敵にしても,政府は構造改革を進める必要がある.農業保護を削減することは,改革にとって象徴的な意味がある.
やるべきことはわかっている.安倍首相は(非農業分野の)企業が農地を所有できるように法改正するべきだ.これによって日本の総合商社が機会をつかみ,農産物の生産・流通・輸出を増やすだろう.それには若い優秀な農民を必要とするから,彼らは職場も所得も失わない.生産コストの高い,小規模農地,そして米作のほとんどが65歳以上,については,農地の補償を得て,大規模化され,生産性を高めるだろう.
大規模化は農地の生産性を倍増し,耕作制限(減反)などの規制による生産コストの低下も考慮すると,米の生産コストは3分の1になる.それは関税を必要としなくなるだけでなく,輸出を可能にする.
アベノミクスが成功するには,国債市場の安定を保ち,危機を回避しなければならない.それには,第3の矢として,農業を改革することだ.
WSJ June 12, 2013
In
(Partial) Defense of Abenomics
By JOSEPH STERNBERG
WSJ June 12, 2013
Mr.
Abe's Scattershot Reforms
By TAKEO HOSHI AND ANIL K. KASHYAP
産業政策の使いまわしや,短期的な需要の追加策はやめたほうがよい.経済特区や,第三セクターのアイデアも失敗した.もっと目標を絞るべきだ.
1.経済の潜在成長率を高める.すなわち,物的生産資本,人的資本,生産性の上昇だ.2.測定可能な改善策に政策を使用する.たとえば,新興企業の制約となる規制を一時的な解除する機関を設ける.また,雇用システムを改善して,人的資本の配分を効率化する.
FT June 13, 2013
Equity
rout gives Japan bulls sharp reality check
By Ben McLannahan in Tokyo
l 金融市場改革
VOX 9
June 2013
Everything
the IMF wanted to know about financial regulation and wasn’t afraid to ask
Sheila Bair
NYT
JUNE 11, 2013
‘Financialization’
as a Cause of Economic Malaise
By BRUCE BARTLETT
l ガスプロムの失敗
BLOOMBERG
Jun 9, 2013
Gazprom’s
Demise Could Topple Putin
By Anders Aslund
l もう一つの歴史
NYT
June 9, 2013
The
Ghosts of Europe Past
By BRENDAN SIMMS
EUを2度の世界大戦後がもたらした平和を維持する成果とみなすより,神聖ローマ帝国と比較する方がよい.
SPIEGEL
ONLINE 06/10/2013
Decisive
Days for Euro
High
Court Considers ECB Bond Buys
By Melanie Amann, Thomas Darnstädt and Dietmar Hipp
The
Guardian, Thursday 13 June 2013
If
only Britain had joined the euro
Will Hutton
もしイギリスが労働党政権下の国民投票でユーロ加盟を決めていたら,その後,どうなっていたか? 競争力を維持する水準でユーロを採用していたら,イギリスは製造業の輸出が伸びて,投資が行われ,雇用が増え,シティだけに頼らない,よりバランスのとれた成長を実現しただろう.その後の2008年の金融危機もショックが小さかったであろう.
単一通貨は規律を求め,苦痛を伴うトレード・オフを強いただろうが,金融危機後の変動レートは銀行危機と近隣窮乏化的な切り下げを波及させるメカニズムになった.魔法の杖は存在しない.
FT
June 10, 2013
Asian
society: Changes from within
By David Pilling
BLOOMBERG
Jun 10, 2013
A
Strong Yuan Hurts China in More Ways Than One
By William Pesek
FT June 13, 2013
Politicians
should stop their talk of competitiveness
By Samuel Brittan
l 世界貿易システムの転換
VOX 12
June 2013
Future
of the world trading system: Asian perspectives
Richard Baldwin, Masahiro Kawai, Ganeshan Wignaraja
1995年に創設されて以来,WTOは実効性のある,ルールに依拠した,すべての参加国を同様に扱う,世界貿易システムを目指してきた.しかし,紛争処理の法廷が進展したものの,世界貿易の交渉フォーラムは機能していない.ドーハ・ラウンドは史上最長の交渉を続けているが,合意の見込みはまだない.
世界貿易システムはこの数年で根本的に変化した.新興市場の登場,国際生産ネットワーク,グローバル・サプライ・チェーン,新しい通商・産業政策,地域主義による通商協定の増加.
世界の工場として登場したアジアは,ますます世界経済の中心になりつつある.生産段階をスライスして,地理的に配置するアジアでは,各国が貿易や投資で緊密に結びついている.2050年までに,アジアが世界GDPの半分を占めるという予測もある.
アジアの自由貿易協定や経済政策は,脆弱な世界においても成長を維持してきた.他方で,2国間協定はアジア・ヌードルの弊害をもたらし,TPPとRCEPという超巨大貿易協定が競い合っている.アジアは世界経済にどのような影響を与えるのか? 地域協定と多角的交渉・世界ルールとの関係が問題になる.
FT June 13, 2013
China
is giving Europe a harsh lesson in geopolitics
By Philip Stephens
地政学的な変化は些細な事件にも示される.習近平主席がオバマ大統領との会談のために訪米したが,それと同時に,北京はブラッセルを痛烈に攻撃した.
ヨーロッパの通商委員が中国製ソーラー・パネルにダンピングの判定を下した.これに対して中国の社説は,要するに,「衰退するヨーロッパは身の程を知れ」と書いた.中国は貿易戦争を望まないが,保護主義にはその報復があると知るべきだ,と.ヨーロッパ製のワインに報復するだけでなく,EU加盟諸国に対する分断化を図った.それはチベット問題と同じである.
ヨーロッパはアメリカとのTTIP交渉でも,さまざまな分野で例外を要求した.ヨーロッパはあまりにも多くの特殊利益集団を国内に抱え,相互の規制を認め合って合意している.しかし,もっと大きな成果は,TTIPをTTPにつなぎ,ヨーロッパと日本もつなぐことだ.
ヨーロッパは多くを失うだろう.それはアメリカに比べて,経済的・軍事的な統一と強さがなく,資源も自給できないからだ.中国を恐れ,アメリカを妬むより,統一するか,消滅する覚悟をせよ.
NYT June 13, 2013
Sentiment
Builds in China to Press Claim for Okinawa
By JANE PERLEZ
l 英帝国の汚名
NYT June 12, 2013
Atoning
for the Sins of Empire
By DAVID M. ANDERSON
******************************
The Economist June 1st
2013
British politics and the young
Urbanization: Some are more equal than
others
China’s shadow banks: The credit kulaks
Online labour exchanges: The workforce
in the cloud
Buttonwood: A great migration
(コメント) イギリスの若者は多いに変化しているが,その声を聞く能力が政党に欠けている,という記事です.それは,中国の都市化やシャドー・バンキングにも,ある意味で,共通しています.政治がその力を行使する根拠は,制度化された利益に集中します.
労働市場の改革こそ,世界中で議論されている難問です.それは,インターネット上で技能と仕事・報酬をマッチさせ,あるいは,言語を学んで,国境を超える労働者たちによって,すでに始まっているわけです.
******************************
IPEの想像力 6/17/13
本当の果樹園が鳥や虫にとって豊かな命の泉であるように,この果樹園も思索の糧となり,読者の楽しみとなることを,私は願います.
たとえば,NSA(アメリカ国家安全保障局)による情報収集に関して,多くの論説がありました.STEWART
BAKERやROSS DOUTHATの擁護論も,NYTやStephen M. Waltの政府批判も,インターネット時代の政治と安全保障,自由を考えるために有益でしょう.
Gillian Tettが指摘するようなシンガポールの医療・保険システムがあれば,日本の財政破たんを緩和し,革新的な医療の普及や国際競争を取り入れることもできるでしょう.特に,高齢者の医療と介護に独自のシステムを開拓するのは,超高齢化国家・日本の課題です.
そして,Barry Eichengreenが示したギリシャ危機の教訓こそ,今,安倍首相は学ぶべきだと思います.黒田・日銀総裁とともに,首相は危機に対する先制攻撃を通じて,交渉の舞台を作ることに成功しました.デフレを脱し,成長を高めるための条件をめぐって,新しい社会契約を議論するときです.労働市場や税制を,何のために変えるのか,負担や協力を合意しなければなりません.
そのためにも,Takatoshi
Itoが言うように,農業部門の改革を大いに進めてほしいです.なぜなら,Dani RodrikやJOSEPH E.
STIGLITZ,Will Huttonが指摘するように,市場自由化・統合・競争力のあり方と構造改革とは結びついているからです.
しかし,安倍氏の歴史観や国家観が,こうした国民のための改革にふさわしいか? と言えば,私は後ろ向きであると感じます.
・・・・
原理主義をどう思うか? という質問を受けました.イスラム原理主義,市場原理主義,キリスト教やヒンズー教,政策や思想,社会運動について,「原理主義」と呼ぶ人,呼ばれる人たちは,何を意図しているのでしょうか? 原理からの逸脱を厳しく批判するケースと,元来の問題からあまりにも広く原理を適用することを批判するケースがある,と私は思いました.
宗教の場合,私は,それが人間にとって耐えられないような悲しみ・不幸・災厄に直面したとき,内面の苦痛を軽くし,生きることを肯定できるように,エネルギーを他の人々への同情や奉仕に向けるように導くことが,古来,心の処し方ではなかったか,と考えます.それが特定の宗教という形になるのは,言葉と同じように,人々が共有する信念が,この点で,効果的であったからでしょう.
他方,宗教の示す強い帰属意識は,他の問題でも,包括的な解決策を求めるケースに利用されます.政治家と宗教指導者とが同じ原始社会では,原理主義が強化されたでしょう.現代でも,宗教指導者の示す解決策が失敗すれば,信仰心を称えて容易に問題をすり替え,内面的な充足を得るために異教徒や他者を攻撃します.
原理主義は,信仰心が人間の悲しみを緩和する内面の問題に回帰し,同時に,さまざまな現実の社会・政治・経済問題を解決できる包括的な政策能力を高めることで,次第に消滅するのではないか,と答えました.
・・・・
学生たちが,核武装や憲法改正(戦争の容認),人種差別も,簡単に(?)肯定するのは,なぜでしょうか? その社会の指導的な人物の言動,マスメディアが流布するアイドルやタレントたちの言動が影響しているのかもしれません.
しかし,圧倒的に経験や考え方が異なるのは事実です.愛国主義とサッカー・ファン(フーリガン)が結びつくように.せめてゼミ生には,もっと果樹園を読んでほしい.
******************************