IPEの果樹園2013

今週のReview

6/10-15

 

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失業問題と制度 ・・・マクロ経済政策の模索 ・・・トルコの抗議行動 ・・・中国の影響力 ・・・グローバリゼーションの不安定化 ・・・米中首脳会談 ・・・ユーロ危機と国家介入主義

 [長いReview]

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l  失業問題と制度

Project Syndicate 31 May 2013

Austerity and Demoralization

Robert J. Shiller

失業が悲劇であるのは,単にGDPが失われるからではなく,社会から切り離された個人的,情緒的なコストが大きいからだ.

しかし,緊縮策の支持者は,これを労働倫理や規範の改善・強化とみなす.福祉への依存を減らし,創造性や起業家精神を刺激する,というのだ.確かに,修道僧や軍事教練ではそうかもしれないが,不況による失業者にとっては,単なる拒絶や排除を意味するだけである.

人間的な価値や思索の時間を与えられる,と肯定的に見るものもある.実際,ケインズは100年後の世界(2030年)では,人々が13時間しか働かず,週15時間でよい,と考えた.あと17年しかないが,そうなるとは思えない.

失業は資本主義の産物である.必要ない人々は余計なものになる.逆に,伝統的な家族農業では,失業が存在しない(余暇が増えるだけだ).緊縮策とは,現代の経済が人と人とのつながりを欠き,それ(失業状態)がモラルを破壊することを意味する.

不況に際して,ドイツのように,自尊心を保つワーク・シェアリングを求める国もある.この場合,労働者は雇用を減らすより,労働時間を減らして雇用を維持し,ケインズの理想に近づく.

しかし,ワーク・シェアリングにも問題がある.それは固定的なコストがあるから,生活が苦しくなることだ.たとえば,健康保険の支払や住宅とその債務のように,労働時間を減らすときに,同様に減ることはない.また,どの仕事も同様に減らすことができないために,不公平な印象を生じる.それは職場の労働倫理は損なう.雇用者は,むしろ一部の労働者を解雇して職場から去らせ,労働倫理を維持することを好む.

次第に労働時間が減ることは,社会の進歩,と考えるが,財政引き締めで失業することは,それほど幸せとみなさない.緊縮策は労働倫理の理由で支持できない.むしろ,その社会に帰属するという社会契約が必要だ.

逆に,債務による財政刺激策は,雇用されている者が負担して失業を減らす点で,ワーク・シェアリングに似ている.

Project Syndicate 31 May 2013

Conflict Management and Economic Growth

Raghuram Rajan

ヨーロッパの経済危機において,さらに長期にわたる日本の経済危機において,特に興味深い点は,深刻な社会対立が観られないことである.

社会的な平和を維持できるのは,選挙制度や,民主的な代表による立法,効果的な裁判制度,などが,先進諸国では不況期の人々の不満をうまく吸収しているからだ.他方,貧しい諸国にはこうした制度が欠けている.成長は社会集団間の対立を緩和するが,不況になると緊張が高まる.消費は習慣による部分が大きく,所得が減少してもそれを変えようとしない.

制度がうまく機能する社会では,負担が予測可能な形で分担される.もっとも苦しい層には,最低賃金や失業保険があり,債権者と債務者には信頼できる破産処理手続きがある.こうした明確な制度的メカニズムがないと,人々は苦痛を回避するためには街頭で訴えるしかない.その結果は,各社会集団の交渉力によって決まる.しばしば交渉は決裂し,ストライキ,ロックアウト,暴力的衝突など,すべての者の所得を破壊する.

法体系が確立されている場合,予測可能で実効的な制度的処理が不満を解消する.しかし,例えばインドのように,労働者が解雇を実質的に禁止するような労働契約の履行を求めれば,企業は解雇できず,それゆえ雇用それ自体を回避しようとする.その結果,企業は公式な法の監視を免れるような小規模の経営に抑えるか,あるいは,組合との労働契約の外で,非公式の雇用者を増やす.あるいは,大企業は労働者を雇用せずに,資本集約的な設備に投資する.

発展途上諸国が成長するには,基本的な法・社会制度が重要なのだ.


l  マクロ経済政策の模索

Project Syndicate 04 June 2013

The Threat to the Central-Bank Brand

Mohamed A. El-Erian

中央銀行は市場との対話を強調し,市場を誘導しているが,それはブランドを乱用することになる.ブランドを維持するのは難しい.なぜなら,ブランドへの信頼は過剰になるからだ.AppleFacebookの株価があまりにも高騰し,結局,大きく下落した.ブランドがあっても,株価は現実の基礎条件から永久に乖離できない.

中央銀行も,株価を上げて,資産効果やアニマル・スピリッツを刺激し,成長を高める,という考えには無理がある.市場はゆがみ,間違った資源配分が強まっている.失望の結果,中央銀行の政策効果や独立性は大きく損なわれるだろう.

過度の積極的介入主義,非伝統的な政策はやめるべきだ.

Project Syndicate 06 June 2013

Quantitative Quicksand

Allan H. Meltzer

連銀の量的緩和策QEは景気回復に役立たず,雇用を増やしていない.バーナンキはその理由を考えなければならない.

今のところインフレは抑制されている.それは銀行が準備金の膨張にもかかわらず融資しないからだ.銀行は準備として0.25%の金利を得られる.他方,預金者への支払はほとんどゼロである.何もしなくても,リスクなしに利益を得ている.現在の利子率で銀行が融資するのは,政府,大企業,不動産業者だけであり,新興企業や住宅の新規購入者には融資しない.金利の低下から利益を得る投機家と銀行だけが利益を上げ,金融緩和で意図されているような拡大効果はない.

アメリカ経済が直面しているのは,需要の問題ではない.実物経済の問題を金融政策で解決することはできない.供給側に関係する政策が問題だ.

FT June 6, 2013

A lot is riding on US jobs data

Mohamed El-Erian

最近まで,投資家たちは中央銀行と,特にリスク資産で,単純なウィン・ウィン・ゲームを楽しんできた.株式,高利回り債券,新興市場通貨など,中央銀行の金融緩和が支持するままに,投資家たちは買っていれば儲かるはずだった.中央銀行の政策が成功するのは,資産価格を引き上げ,その結果,成長や雇用が高まるという手順であったからだ.

この楽観的な見通しは,データや公式発表によって否定された.慎重にデータを見るなら,成長は投資家に失望をもたらした.また,バーナンキの資産購入を漸減するという説明は,投資家の不安を支持した.

最近,日本の株価が急落したことも政策への不安を強めた.日本は,最も困難な初期条件を抱えている.人口減少,政策への信頼性欠如,構造改革への強い抵抗,縮小する国内需要ではなく他国の需要を奪うことへの依存.日本は,現在の中央銀行が採用する実験的な政策の無効さを示す指標とみなされるようになっている.

資産価格は下落し,投資家たちはウィン・ウィン・ゲームから投げ出された.ますます彼らは長期的な視点を重視し,中央銀行のリフレ政策が成功するかどうか,見極めようとしている.雇用統計が,弱い回復を続けるのか,もっと強い回復,あるいは弱い回復を示すのか,投資家も金融政策担当者も注目している.

それは,他の政策部局や政治家が動かず,金融市場を通じた中央銀行の実験的政策に,マクロ経済運営があまりにも大きく頼っていることを示している.中央銀行家は,その短期の目標達成も,彼らの信認も,投資家たちの予測できない変化に大きくさらされている.


l  トルコの抗議行動

FT June 3, 2013

Turkey’s protesters have been let down by all sides

By Dani Rodrik

イスタンブールに残る,わずかな緑地を守る運動であった.しかし,全国規模の,さまざまな主張を含む,何万もの不満を抱くトルコ人が集まる抗議運動になった.

警察の野蛮さが憤慨を広めた.エルドアンRecep Tayyip Erdogan首相の強硬な発言が事態を悪化させた.ツイッターを非難し,報道への圧力をかけた.エルドアンは,一部の過激派と言うが,その運動は,集会の自由や平和的講義,公共空間の保存,警察の野蛮な振る舞いをやめさせること,など,基本的な権利を求めている.政府の権力乱用に対する不満が多くの参加者を集めている.

西側では,トルコ経済の成果をエルドアン首相への信認に結びつけるが,成長は外部からの借り入れによる過熱した水準であり,新興経済の成果としては際立ったものでもない.公共事業は広くクローニズムによる腐敗を示している.

軍に対する民生の優位は,不正な手続きも含めた裁判劇によって,軍人を罪に落とすことで得た.平和的な方法で和解したのではないため,将来の対立の元になるだろう.

残念ながら,トルコ国内には政治的反対運動が存在しない.トルコの既存の政治党派は,すべて,民主的な勢力ではないことに注意するべきだ.


l  中国の影響力

BLOOMBERG Jun 3, 2013

China Crisis Is Good for the Global Economy

By William Pesek

オーストラリアがパニックになり,日本,韓国,シンガポール,台湾の輸出企業も心配している.もし人民元が安くなったら,もし中国がヨーロッパへの投資をやめたら,と考えるだろうが,中国の成長モデルは以前から持続不可能であるとわかっていた.中国の景気後退は好ましい.

胡錦濤の下で,なぜ改革は進まなかったのか? 既得権者や抗議の声を恐れて,改革する政治的意志が全くなかったからだ.習近平は,それを変えるチャンスを得た.資本をより効率的に使用し,地方政府の財政に規律を求め,労働者の都市への移住と移籍を認めて,社会サービスの教授,賃金の上昇を促すことだ.

今や,官僚や政治家の汚職より,環境破壊・大気汚染の解決が,政治的関心を集めている.日本の経験を見ても,環境問題への包括的な対策,法律の改正や炭素税の導入を検討するべきだ.いまだに刺激策や金融緩和によって成長回を望むものもいるが,この景気後退を新しい成長モデルに向けるべきだろう.

YaleGlobal, 4 June 2013

Asia’s New Triangle

Harsh V. Pant

中国がインドとの境界を侵略して数日後に,インド首相はアジアにおける中国のもう一つのライバル国,日本を訪問した.その滞在は1日延長されることにもなった.インド首相が東京に来たことについて,中国メディアは,インド人に中国への反感を煽るものだ,として日本を批判した.こうしたことすべてが,わずか数週間内に起きた.

FT June 5, 2013

Global Insight: Korea lies at heart of Xi-Obama power struggle

By Gideon Rachman in London

中国は,後進的で,貧しい,最悪の独裁国家を支援する立場であり,他方,アメリカはサムスンのような世界的な優良企業やポップスターを擁する韓国との同盟関係を維持する.しかし,中国が隣接する朝鮮半島に及ぼす影響力は大きく,経済的には急速に,韓国もアメリカより中国の影響圏に吸収されていく.韓国企業にとって最大の市場は中国であり,中国の主要都市との間に1日約200便も直行便が飛んでいる.北朝鮮との対抗でも,独自に核武装を求める声が強い.

経済的な中国圏,戦略的なアメリカ圏の間で,韓国と朝鮮半島の行方がアジアのバランス・オブ・パワーを決定的に変える契機となる.


l  グローバリゼーションの不安定化

FT June 6, 2013

Nations are chasing the illusion of sovereignty

By Philip Stephens

国家が戻ってきた.1945年の多角的秩序・国際機関は崩壊し,各地にナショナリズムが復活してきた.伝統的な国家主権が強調され,1648年のウェストファリア体制が理想になる.

共産主義が崩壊したとき,人々はポストモダン国家を夢見た.関心が共有され,平和と繁栄を分かち合う.EUは新しい国際秩序のモデルであった.グローバリゼーションが相互依存を強める中で,それは夢ではなく厳しい現実になった.伝染病,テロ攻撃,核拡散,大規模移民,・・・ 資本移動,グローバル・サプライ・チェーン,デジタル時代の緊密化,・・・

その流れは,新興諸国がますます,既存の支配国家が作ったルールに従うより,国家を強化するにつれて転換した.彼らは,ホッブズの絶対的主権を求めた.アメリカは世界の警察官を辞任し,ヨーロッパはユーロ危機で分裂した.主権は犯すべきでない,という主張が,シリア内戦を激化させた.

しかし,アイルランドで聞いたように,グローバリゼーションを支持する声は今もある.大国であれ,小国であれ,相互依存の現実を否定することはできない.非国家主体へのパワーの分散も続くだろう.ヨーロッパの世界経済に占める割合は縮小し,中国の環境悪化やグローバルな開放システムへの依存は続く.比較的自給的なアメリカでも,その安全や繁栄を孤立して維持できはしない.

人々はナショナリズムに回帰できないし,新しい枠組みを求めている.しかし,政治家がそれを実現するより,失敗した例が歴史にはあまりに多い.


l  米中首脳会談

NYT June 1, 2013

How to Play Well With China

By IAN BREMMER and JON M. HUNTSMAN Jr.

オバマ政権が採ってきた姿勢は,基本的に,真剣な対話を含まないヘッジ政策であった.中国の台頭に備えて,より多くの資源をアジアに移す「アジア旋回」を採用した.しかし,それが中国の多くの政府関係者に,冷戦下の封じ込めを感じさせた.中国の不満は米中対立に悪化する恐れがある.

アメリカと中国は,世界最大の経済圏,世界最大の貿易国,世界最大の汚染源である.アメリカは世界最大の債務国であり,中国は世界最大の債権国だ.世界経済のバランス回復,気候変動,無法国家の処罰,アジアの平和,など,アメリカと中国が協力しなければ何も解決できない.

アメリカは中国に自分たちの望むアプローチを採用させることはできない.アメリカはそのようなパワーを持っていない.中国はあらゆる点でアメリカと異なっており.何世紀にもわたってそうであった.それゆえ,中国は新しいルールを決めるだろうし,アジアや世界の覇権をアメリカと争うだろう.

米中G2の枠組みは機能しない.中国指導部がそれを受け入れない.中国は自国を発展途上国とみなし,アメリカと同じような広範な責任を引き受ける気はない.しかし,米中双方は,特定の分野に限って,互いの信頼や協力を得ることができる.

オバマ大統領と習主席は,原則に合意し,パートナーシップを高めるために共同声明を準備するときだ.相互の利益が明白な分野として,クリーン・エネルギーの技術開発,科学研究の協力,発展途上諸国の紛争解決,がある.

他方,中国が核心的利益と考える問題で,アメリカの批判は他の分野でも協力を拒む結果になる.チベット,領土紛争,人権,など,アメリカは中国の立場も認めたうえで,正直な仲介者になることだ.アメリカの進めるTPPは,中国を孤立させるものではない.むしろ,中国との貿易拡大に不安を感じている諸国を安心させるものである.

中国企業のアメリカ投資が摩擦を生じたが,米中はこの問題で,どの分野を拒み,どの分野は歓迎するのか,明確にしておくべきだ.中国における知的所有権や投資制限,ハッカーも問題である.

米中双方から,オバマと習に直接連絡できる作業グループを設けるのがよい.そして,紛争のリスクを避け,特にサイバー攻撃問題で,双方のレッド・ラインがどこにあるかを確認するのだ.習は,ゴルバチョフと同じように改革の必要性を認めているが,情報公開の必要性は認めない.オバマにもそれを変えることはできない.

この二人の関係は,レーガンとゴルバチョフ以上に重要である.なぜなら,両国は相互の経済構造を確実に破壊する力を持っているからだ.

FT June 4, 2013

The great powers’ relationship hinges on the Pacific

By Robert Zoellick

米中は,世界最強の国として戦略的な関係を結ぶ.

アメリカはすでに大国であるが,そのパワーは現状維持の政策ではなく,アメリカの理想や利益を拡大するものである.中国は新興の大国であるが,その政策は秩序と不干渉に関する伝統的見解に依拠している.

米中両国は,21世紀の新しい問題や脅威に対して,経済的な相互依存だけでなく,経済と安全保障との関係がどうなっているかを理解して,外交を決定しなければならない.中国もアメリカも,それぞれの改革案を持っており,相互利益の理解から議論を始めるべきだ.食料,安全保障,水,エネルギー,環境,そして,より深く,流動的な,中国の貯蓄を民間部門の発展や投資に広く利用できる金融市場が,共通の利益である.

中国もアメリカも国内的な理由で改革を目指しているが,協力することでそれはさらに前進する.中国のサービス分野と情報技術における競争が,WTOとの交渉が推進するだろう.また,中国が人民元取引を自由化すれば,国際通貨制度は複数通貨によって機能するだろう.開発や環境問題でも,協力の機会が多く存在する.

安全保障分野での関係構築は,一層の難しい.しかし,経済的機会を保証することを基礎に,海洋の自由,オープン・スカイ,エネルギーと資源への自由アクセス,大量破壊兵器の拡散防止,などで協力できる.アジア太平洋における両国の相違は,こうしたグローバルな関心を圧倒するかもしれない.しかし,中国の行動が近隣諸国の反発を招くなら,アメリカの同盟諸国の繁栄と拡大から孤立することになる.アメリカと中国は協力して,平和的な諸国家の地域統合を推進するべきだ.

オバマと習は.型どおりの挨拶を超えて,彼らの戦略を和解させる必要がある.

FP JUNE 4, 2013

Xi's Not Ready

BY MICHAEL AUSLIN

こうした首脳会談でも,同盟諸国との関係を扱う視点が重要だ.日本やイギリスに比べて,中国との関係は全く異なる.中国は今も,先端軍事技術を盗み,知的財産を盗み,世界中でルールに従わない無法国家を支援している.

それでもアメリカが対話を試みる理由は,単純化すれば,アメリカが中国に経済的に依存しているからだ.両国間の貿易や投資がどうなるか,中国の軍備強化がどうなるか,アメリカ政府は心配している.そして,オバマ政権は中国を,RIMPACの海軍演習に招待し,最高レベルの戦略経済対話を毎年開催する.

これでは人参ばかりで,棍棒はない.国際政治の基本を忘れている.指導者の個人的な親密さで,国家の行動は変わらない.オバマ政権は,対話重視という罠に落ち込んでいる.外交を決めるのは国益であり,そのリストを持って,結果を得なければならない.

FT June 6, 2013

China and America should strike a grand bargain

By Arvind Subramanian

習近平主席は,来週,オバマ大統領と会談する.さらに10年の在職中に,次のアメリカ大統領,WTO事務総長,世界銀行総裁,IMF専務理事にも会うだろう.

それゆえ,これから米中は重大な合意に達する.アメリカがこうした機関でパワーの低下を受け入れ,中国がシステムの真の目的,自由で公平なグローバリゼーションのために,グローバルな指導力をより多く引き受ける.しかし,その前に,両国間で増大する相互不信を克服しなければならない.

中国は開放型のグローバル・システムから最大の利益を得ている.しかし,そのルールがアメリカによって作られてきたことを残念だと感じている.例えば,アメリカはIMFの投票権を譲らないし,世界銀行の融資能力をなかなか増やさない.だから中国はそれと並行する機関を設けた.

情報空間での諜報戦や中国の重商主義的な政策,国家資本主義,また,アメリカの進めるTPPが相互不信を強めている.

重大な合意とは,IMFや世界銀行のような多角的金融機関における中国のパワーと影響力を拡大し,米欧と均衡するまで,アメリカが協力することである.アメリカも,特に債務危機のヨーロッパも,すでにこうした機関で拒否権を持っていない.あるいは,もし彼らがそうしたければ,中国もそうするだろう.通貨でも,貿易でも,それは可能だ.

中国は,グローバルな金融ショックに対する集団的な保険を提供できる.中国は,新しい貿易自由化の多角的交渉を主催できる.チャイナ・ラウンドだ.もし中国が国内で,為替や金融の自由化,国家資本主義の抑制に向けた改革を進めるなら,その主張は信用される.

アメリカはなぜ協力するのか? 中国が既存の機関でパワーを得るなら,その内部にとどまって改革する動機が高まる.その場合,例えば,市場を閉ざすことや,知的所有権を損なうことを望まない.アメリカは,多角主義を通じて,行動を正当化する規範によって中国を抑制すること,ソフト・パワーによる中国への影響力を保持できる.

中国は,国内改革を進めながら,なぜ余分な責任を引き受けるのか? それは,これら2つの目標が一致するからだ.競争の促進や金融の自由化は,中国の国内改革でもある.国際システムの不安定化は好ましくない.

今,アメリカは相対的な衰退の中で,国際システムが中国の台頭に対する最大の防御であると理解する.そのために,本能と利益を抑えて,パワーを譲ることだ.


l  ユーロ危機と国家介入主義

Project Syndicate 04 June 2013

The Latin Difference

Harold James

フランスのオランドFrançois Hollande大統領は常に,新しいラテン同盟を唱えてきた.緊縮財政に対抗して,スペインやイタリアと同盟するのだ.その見解では,ラテンは所得や富をもたらす国家の能力をより拡大し,個人の仕事に執着する「プロテスタントに勝っている.

近代の経済的差異は,宗教的というより,2つの異なる制度的・憲法的な枠組みに由来する.ヨーロッパにおいて,それは2つの革命,すなわち,平和的で,富をもたらした,1688年のイギリス名誉革命と,暴力的で,富を破壊した,1789年のフランス革命に発している.

イギリスでは,浪費的で,専制的なスチュアートに対して反乱が起き,債務への新しいアプローチを採用するウィリアムとメアリーの王室を立てた.すなわち,代表制の議会で投票を行い,政府は国民全体に対して,債務支払いの責任を持つと表明するのだ.この立憲的アプローチが,宮廷の浪費や戦争への出費を抑えた.それは結果的に,借り入れコストを低下させ,うまく機能する資本市場を誕生させた.それは民間の借り入れコストも下げたのだ.

他方,フランスのアンシャン・レジームでは,規則的に財政破たんを繰り返したが,それは国家債務の満期を延長し,利払いを削減する形を取った.しかし,このことが新規借り入れコストを上昇させたため,フランスもイギリス型のアプローチを中途半端に採用した.すなわち,アメリカ独立革命の後,フランスの支配層は旧来の債務不履行というモデルに戻らず,東インド会社の再編に絡む投機で生じた民間投資家の損失も含めて,政府が吸収したのだ.

しかし,即座に既存の税制が限界に達し,より多くの歳入が得られないまま,大規模な没収による国有財産が政府債務の基礎にされた.それは金融・財政の安定化につながるよりも,国家の能力に対する過度の期待を生じ,社会的な緊張を強めた.

債務不履行を何としても避けるという原則がフランス革命に至った.政治システムが,あまりにも多くの債務を引き受け,コストを無視して支払いを続けたからだ.イギリスはその逆である.フランスには,リスクを正しく評価する資本市場もできなかった.

フランス革命が残した,国家主義的な社会改造,という強力な神話は,今も彼らを苦しめている.

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The Economist May 25th 2013

How to save Obama’s second term

The euro crisis: The sleepwalkers

Settlers in Xinjiang: Circling the wagons

(コメント) アメリカではオバマ政権が,ヨーロッパではメルケルやオランドが,中国では習近平が,国内秩序の再編と安定化に取り組んでいます.その成否は,今後の国際秩序に反映されるでしょう.

オバマは,共和党との対立を避け,移民法改革,社会的給付の整理,税制改革に取り組みます.ヨーロッパでは,ユーロ危機を何とか抑えたはずの指導者たちの無為と沈黙が「夢遊病者たち」として批判されます.しかし,中国の進める西域への入植政策こそ,日本や世界に恐怖を与える社会改造計画かもしれません.

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IPEの想像力 6/10/13

アベノミクスだけでなく,世界の金融政策,金融市場が不安定化しています.投資と貯蓄のバランスを回復するような新しいメカニズムへの展望は,容易に見つかりません.政府は,為替レートや株価に頼ることなく,日本の社会・経済制度を改革し,成長を取り戻す努力を続けるべきです.

・・・なぜなら,転換する国際秩序の下で,日本は成長するアジアの辺境にあるからです.

辺境は,中心からの支配が弱く,新しい試みが始まる土地です.しかしまた,次第に衰退し,変化の波から外れた,荒廃した土地にもなります.

日本は,確かに世界第2位の経済規模を実現したとき,アメリカに国際秩序の転換を要求しませんでした.安全保障でも,資源・エネルギーでも,市場や技術でも,日本はアメリカの秩序に大きく依存していたからです.中国は,はるかに自立した政策を目指し,強い文化的自尊心を持つでしょう.しかし,こうした理解は,どちらも急速に失われる条件に拠るものです.

地理的に見れば,中国が,インドとともに,アジアの成長に決定的な影響を及ぼす時代は続くでしょう.貿易や通貨圏を含めて,ヨーロッパがアフリカや中東の成長に関与し,アメリカが南北アメリカ大陸の成長に関与して,グローバルな秩序と統合を模索する時代が来ると思います.

その変化の中で,日本が韓国や中国と,ダイナミックに協力する余地は多くあるはずです.少なくとも,法と,言葉,市場を共有できるなら.

・・・そして,核兵器が廃棄された後,暴力的な衝突を回避し,ドローンや諜報戦を抑える法・制度的条件と技術を人々は追求します.

日本と中国,韓国との軋轢は,特別な例ではないでしょう.もしイギリスがインドのすぐ横に位置して,インドの経済規模がイギリスを抜き,外交的な発言力も持つようになったら,イギリスが民主的制度や成長の条件を世界に広めた,などと言えないほど,植民地時代の罪を責められるかもしれません.あるいは,ヨーロッパがアフリカの植民地化,奴隷制,人種差別主義について責められ,アメリカが中南米への干渉や軍事侵攻,冷戦下の独裁政権支持を責められるでしょう.

新しい時代の地域統合は,こうした国家・民族間の歴史的怨恨を,深い相互理解に導くことができる,優れた指導者や民間部門の協力関係によって左右されます.

人口規模からみて,将来,日本はアジアのベルギーになり,中国とインドが対立する問題の交渉を担う場として,多くの国際機関が立地する,文化的・風土的に洗練された島になるかもしれません.1年以上も政府が成立しないまま,政治的混乱・分離独立で迷走するベルギーになるのは困るけれど,アジアのオランダなら,私はかなり満足です.

・・・大国による秩序だけが現実を変えると思うなら,衰退の兆候を見逃します.アメリカも,中国も,ヨーロッパも,困難な課題に満ちています.

アメリカの元CIA諜報員は情報を持って香港にのがれ,香港やトルコでは強権体制に反発して民衆が声を上げ,ヨーロッパの危機を解決できない「夢遊病者」のような政治家たちへの不満は高まっています.

軍事力,言語,経済成長の条件が変われば,大国の優位は劣位になり,小国の劣位は優位にもなります.日本の文化を愛する者は世界中にいて,日本の風土を愛する者は世界中から支援を寄せるでしょう.それが,まだ国家として領土を主張する存在であるかどうか,わかりませんが,<日本>はアジアのオランダやウェールズであり,住民たちの希望を実現します.

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