IPEの果樹園2013

今週のReview

6/3-8

 

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アベノミクスと不安定化 ・・・オバマ演説への反応 ・・・スウェーデンの移民暴動 ・・・地球エンジニアリング ・・・ヨーロッパ:危機と克服 ・・・シリアと非介入 ・・・ナチスの犠牲者に対する賠償

 [長いReview]

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l  アベノミクスと不安定化

NYT May 23, 2013

Japan the Model

By PAUL KRUGMAN

一世代前,日本は称賛され,恐れられていた.優れた経済の見本として.ビジネス書のベストセラーの表紙には侍の絵が載り,日本的経営の真髄を教える,と書かれていた.マイケル・クライトンのスリラー小説などでは,世界市場を制覇するために犠牲を顧みず働き続ける集団として,日本企業が描かれた.

その後,日本は長い不況に落ち込み,世界は関心を失った.一握りのエコノミストたちを除いて.それにはバーナンキも含まれていた.この日本にこだわるエコノミストたちは,島国の経済的苦境を,我々すべてにとっての予兆であると見たのだ.ある大きな,政治的に安定した国がひどい苦境に落ち込んだとしたら,同じことが他の国にも起きるのではないか?

ある意味で,「アベノミクス」が本当に重要であるのは,先進諸国のだれも,安倍晋三ほど明確な政策転換をしていないことだ.西側世界は経済的敗北主義に沈んでいる.

アベノミクスは成功するか? まだわからない.木曜日の株価下落も,この流れを変えるものではない.長期金利の上昇を警戒する者もいる.しかし,長期金利上昇と株価上昇は,日本のデフォルトを懸念するのではなく,楽観の回復を示すものだ.

FT May 28, 2013

Japan’s bumpy road to a recovery

By Martin Wolf

債券利回りは上昇し,株価は下落した.しかし,アベノミクスの失敗を証明した,というのはバカげている.債券利回りが上昇するのは景気回復を示している.株価はいつでも下落するものだ.リスクがあるのはわかっていることだし,先週の動きはそれではない.実際,金利も,株価も,為替レートも,これまでの成功を損なっていない.

確かに,この政策転換には不安定化のリスクがある.インフレ率を高める,そして,低金利を維持する,という目標には混乱が生じる.国債の価格下落は銀行の資産を損ない,景気回復に必要な融資を抑制させる.円安に対してはアジア諸国の反発がある.特に,中国は為替レートを操作する点で日本以上に強い姿勢を持つから,伊藤隆俊がFTへの投書に示したような円安擁護は「通貨戦争」への不安を強める.

1に,債券利回りは上昇するだろうが,実質金利が低下するには,インフレ期待よりもそれを抑えることが重要だ.そのために,日銀は長期金利を誘導しなければならない.金利の上限(それは移動するだろうが)を超えた場合,無制限に債券を購入して抑制する.例えば,物価が一定の水準になるまで,金利はゼロに抑えられる.こうして日銀は一定の予測可能性を保証する.

2に,政府と日銀は国債管理の方法について合意するべきである.ラディカルな債券貨幣化もこの方法の一部に含まれる必要がある.預金準備の恒久的な引き上げは,預金者に対する課税になるだろう.銀行が政府に対して超低利融資を続けることは,日本の条件において正しいことだ.すなわち,成長の見込みは少なく,民間融資は伸びず,国債の残高があまりにも大きい.利回りの低下は円安を促し,資産価格の上昇は支出を促すので,望ましい.

3に,円安についての懸念は当然だ.日本の経常黒字は,企業部門の貯蓄を相殺するために生じている.その影響を最も受けるのは中国であるから,IMFの庇護の下で,日本は為替レートにかかわる政策の原則について中国と話し合うべきだ.ところが安倍のナショナリズムは,中国との衝突をもたらすだろう.中国と日本が争えば,アジア諸国は苦しむ.

不安定化のリスクはある.しかし,日本は経済停滞を抜け出すべきだ.それは円安に頼るのではなく,構造改革によって決まる.所得分配を企業から株主に有利に変えること,企業は,実質賃金を引き上げ,減価償却を抑え,内部留保に課税し,配当を増やす.安倍は日本のビジネス階級と闘わねばならない.

それこそが真の革命である.しかし,安倍にその覚悟があるようには見えない.

FT May 30, 2013

Markets Insight: Real danger of Abenomics is it goes too far

By Henny Sender

アベノミクスの真の危険は,インフレと円安がなかなか進まないことではなく,それが過度に進むことである.

もしアメリカ連銀の金融緩和がアメリカ経済を回復させるなら,ドルは強くなり,円は急落するだろう.それは2%のインフレ目標を超えて,輸入コスト上昇によるインフレをもたらす.金利の上昇を招き,アベノミクスの根本矛盾である,高インフレと超低金利,という状態が不可能になる.

日本は,悪性のインフレと高金利に苦しむようになるだろう.それは日本が輸入エネルギーに大きく依存していることから避けられない.円安による競争力の改善は,エネルギー価格の上昇によって失われる.

BLOOMBERG May 30, 2013

Abe’s Economic Revival Smacks Into Japan’s Reality

By Wlliam Pesek

田総裁の債券購入や円安にも,一層,深刻な問題が起きている.金融緩和が機能するには,株価上昇が生じる「自信回復」の要素と消費者の支出が重要だった.しかし,株式を買ったのは主に外国投資家である.日本人の株式保有は少なく,消費は増えない.株式の40%は裕福な上位20%に所有され,株式保有者の3分の260歳以上だ.

日銀の超緩和政策も,深刻なモラル・ハザードを生じている.黒田総裁が2%のインフレを続けるという目標を宣言しているときに,債券を保有し続ける投資家などいない.彼らは債券を売るだろう.政府の税収が債券利回りを超えて増えるのでない限り,財政破たんを避けることができる,という説明を黒田は求められている.

政府の選挙向けハッピー・トークや宣伝に踊った時期は,ほんの始まりでしかない.


l  オバマ演説への反応

FP MAY 23, 2013

Authorize This

BY ROSA BROOKS

素晴らしい演説だった.ジョークは一切ない.

オバマが述べた最も重要な点は,ドローンと特殊部隊による戦争は,永久に続くべきではないし,終わらせる,ということだ.議会に,911後の武力行使を認めたAUMFを撤廃するように求めた.

また,初めて,標的の殺害に関する深刻な法律上の問題を認めた.軍事力ですべてのテロリストを掃討する,という考え方を否定し,会う快打を自称するすべての集団に戦争を拡大することを拒む,と主張した.

guardian.co.uk, Monday 27 May 2013

Obama's terrorism speech: seeing what you want to see

Glenn Greenwald

政治家の技量とは,広く異なる考えを持つ人々に語りかける能力,そして彼らがその話を聞いて去るとき,自分たちの聴きたい話であったと信じさせる能力である.オバマはこの意味で,ビル・クリントンに並ぶ天才である.まったく異なる価値観を持つ,和解できない人々が,オバマは彼らに同意した,と感じた.

ある者は,「テロとの戦い」がすぐに終わる,と聞いた.ある者は,戦争は永久に続くし,その規模も拡大する,と聞いた.ある者は,大統領が世界中の多くの国でおよそ5年間も人々の殺害に関与し,それに苦しんだ,と聞いた.・・・

何が真実であるにせよ,疑いないことは,オバマの演説は彼の行動とほとんど何の関係もない,ということだ.オバマは何度も,彼の価値観や政策を演説で示したが,それと逆のことをしていた.彼は今度もそれを実行しないだろう.

むしろ驚くのは,こうした現実と異なる演説を,明敏なジャーナリストや知識人でも支持する者がいることだ.オバマは政権獲得当初から,ブッシュの醜い政策を継承した.その世界市民的で,知的なスタイルは,東海岸のエリートや民主党系の州と進歩的知識人に好まれた.CIAは,オバマの利用価値をよく知っており,西ヨーロッパで反戦気分が高まっているとき,新しい魅力的な戦争の顔を得たのだ.

オバマ演説の目的は,明らかに,彼の秘密主義や,報道の自由に対する戦争,果てしない軍国主義化など,進歩派が抱く不満を抑えることだった.しかし,その中身は何もなく,良い気分を高める修辞に満ちている.

FT May 28, 2013

Rethinking the US war on terror

政治的管理とメディアの時代,何でもそのレンズが屈折させてしまう.オバマの対テロ戦略も試されている.

右派も左派も,彼の言うことを嫌った.保守派はオバマがテロに対して軟弱だと感じ,リベラルはオバマが殺人兵器であるドローンに頼っている,と感じた.しかし,どちらもアメリカの最高司令官が直面する不可避の困難な選択を考慮していない.

オバマは,このジレンマから逃げなかった点で称賛される.雄弁家として,表面的な解決を採らず,戦争を定義する論争を,911の波紋からアメリカの政策を切り離す論争を呼び掛けた.その要請を,われわれは真剣に受け止めるべきだ.

オバマは,911からアメリカが慎重に離脱する姿勢を示し,単純化された解決を採用しなかった.この「中途半端なドクトリン」を批判する者もいるだろう.指導者の決断は,全てか,無である,と思うかもしれない.しかし,オバマは理性的に事実を強調した.


l  スウェーデンの移民暴動

FT May 24, 2013

Riots in Sweden: Fire in the people’s home

By Martin Sandbu and David Crouch

ストックホルムの北部,郊外のRinkebyで,自動車が難題も放火され,暴動が広がった.木曜日まで静かであったが,Husbyの暴動が数十の郊外地区にも広がった.

フランスやイギリスでも暴動は起きたが,スウェーデンはその独自の社会モデル(the Folkhemmet – the people’s home)を信じていたから,ショックはさらに大きい.高い税金を負担しても,公共サービスを維持し,集団主義的な精神を持っていたはずだった.

人種差別に反対する団体Megafonenによれば,暴動は警察の人種差別的な対応から起きた.513日に,ポルトガル出身の69歳の男性が,自室でナイフを持って抵抗したため,警察官により射殺された.これに抗議するデモが行われ,警察は「けだもの」,「サル」と彼らを侮辱した,という.自動車に放火され,投石が始まった.パトカーや警察署もその対象になった.

そこには犯罪組織が関与した,という話もある.極右団体が警察に協力を申し入れたが,それは受け入れられていない.

失業率や学校の大きな差が人種差別を示している.経済的な不公正は,政府の公共政策の見直しによって強まった.スウェーデンのネオリベラリズムはイギリス以上に極端な形で実現された,とthe Network for Järva’s Futureの指導者はいう.彼らは警察の対応も,暴徒たちのヴァンダリズムも,ともに批判している.しかし,既存政党の対策はあいまいだ.

スウェーデン社会の素晴らしい面をたたえる移住者たちもいる.また,この国を我が家にしてほしいと願う老人たちもいる.あきらめることは許されない.

The Guardian, Sunday 26 May 2013

Sweden: reading the riots

Editorial

2006年以来,約140億ポンドの減税を行い,それは福祉国家を解体し,ホームレスは4倍に増えた.子供の貧困が増え,特に移民家庭の子供が最も深刻だ.OECDは,他の開発諸国に比べて,スウェーデンの不平等が急速に拡大しているという.それは移民たちの隔離を強めた.スウェーデン生まれの人々は,移民たちの3分の1の失業率である.


l  地球エンジニアリング

NYT May 26, 2013

Geoengineering: Our Last Hope, or a False Promise?

By CLIVE HAMILTON

300万年で初めて,大気中の二酸化炭素が400ppmを超えたことを恐れていないとしたら,あなたは科学を知らないか,その価値を否定しているのだ.

温暖化ガスの排出量が容赦なく増加しているために,地球の気候変動はもはや回復不可能な過程になった,という不安が強まっている.そして多くの科学者は気候変動への異なる対策を検討し始めた.地球エンジニアリングである.それは大規模な介入によって地球の気候システムを変える科学である.

たとえ「治療」が成功しても,地域によって生じる異なった効果は深刻な国際対立を生じる.例えば,太陽光を遮るフィルターがインドやパキスタンで干ばつをもたらしても,それが温暖化によるものか,太陽光フィルターによるものか,自然現象なのか,科学的に区別できない.同じ地球エンジニアリングで,インド人は苦しみ,アメリカ人は快適であるとすれば,だれが介入手段(グローバル・サーモスタット)の管理を担うのか?

想像してみればよい.30年後,破滅的な干ばつや飢饉で起きた抗議デモに対して,権力を握る中国共産党が,大気中に硫酸化のフィルターを築いて,地球の急激な冷却を試みるかもしれない.アメリカ大統領は,公式に中国を非難しつつも,中国の硫酸を散布する飛行機を撃墜しないし,「カウンター地球エンジニアリング」を実行することもない.

地球エンジニアリングは軍事的に重大な意味を持つ.西側の地政学者たちは,グローバル・ガバナンスのシステムが得られるまで,実験を中止するように呼びかけている.

そもそも,地球温暖化の抑制に介入的な手段で解決策があるなら,人々は化石燃料を抑制しないし,炭素税も導入しないだろう.われわれが生活スタイルを変えることもない.温暖化ガスの排出量を削減できなかった原因が,産業利益,成長神話,消費者の保守主義であれば,地球エンジニアリングが成功する間,それらは現状を維持し続ける.


l  ヨーロッパ:危機と克服

FT May 26, 2013

Europe’s future looks more Japanese than German

By WolfgangMünchau

ドイツは21世紀の初めに賃金を抑制して競争力を高めた.しかし,今ドイツの賃金はスペインやイタリアよりも急速に上昇している.だからユーロ危機の問題は解決できるのだろうか? しかし,問題は調整の規模と,それに要する時間である.

赤字国の緊縮策は調整をもたらすのか? デフレが競争力を回復し,成長をもたらすから.この機体は実現しないだろう.第1に,デフレは成長を破壊する.第2に,銀行危機とそれにかかわる信用逼迫が解消しない.名目成長率が低いので,債務がインフレで減ることはない.ECBはインフレを抑え,ドイツはユーロ・ボンドを受け入れない.

銀行同盟がすべての問題を解決する,とも思えない.利潤を上げない部門が大幅に整理されるだろうか? 吸収合併や大規模な国有化が行われる? もちろん,そんなことは起きないだろう.

1に,銀行同盟の財源は各国毎に負担する.ユーロ圏ではない.それは一国内で経済部門間の債務再編を行うだけだ.ユーロ圏全体には,まだ債務を負担する余地があるけれど,債務諸国にはない.

2に,ヨーロッパにはラディカルな銀行再編の歴史がない.ヨーロッパの銀行監督は,その気性として,自国の銀行を国際競争から守るためのものであって,国際的なレフェリーではない.危機が起きれば,彼らは次の景気回復まで銀行を生き延びられるようにした.

銀行の再編は,これまでと同様に,徐々に進められるだろう.資本増強は少なく,ストレス・テストや資産評価はあいまいだ.その結果,信用逼迫は解消されず,次の景気回復はなかなか来ない.政策担当者たちは,債務デフレや緊縮策のマイナスの影響を認めようとしない.

これは見えない形で,債務を削減し,ユーロ・ボンドを導入しているのだ.周辺諸国の債務は追加融資や低金利で減免されている.EMSによる銀行整理が行われる.この過程は長い時間を要するだろう.その間,民間部門は力強い回復を示さず,政府分門も財政黒字を出すような協定に縛られて刺激策を採れない.

周辺の成長地域に輸出を伸ばすことで補完できるとしても,不十分である.つまり,われわれは低成長とゾンビ銀行の時代,日本のいわゆる「失われた20年」を経験するのだ.

Project Syndicate 30 May 2013

Where Europe Works

Anders Åslund

スウェーデンの諸都市に起きた暴動は,北欧モデルの優秀さを信じる者にとって大きなショックであった.

ヨーロッパ市民は,各国経済モデルの強さと弱さが急速に変化していることを知るべきだ.1980年,北欧諸国は慢性的な財政赤字,インフレ,通貨切り下げに苦しんでいた.ドイツはユーロ圏の病人だった.硬化症,低成長,高失業というヨーロッパの代表だったのだ.

1979年にサッチャーが政権を執ったイギリス,1981年にレーガンが大統領になったアメリカを,今,想像するのは難しい.労働市場を自由化し,政府を解決策とはみなさなくなった.

北欧では1982年に,デンマークで福祉国家の改革が始まった.Poul Schlüter首相がデンマーク・クローナをドイツ・マルクの価値に固定した.そして規制緩和を始めたのだ.1990年の初めに,ノルウェー,スウェーデン,フィンランドで,不動産登記と金融・通貨危機が起きた.1991年,スウェーデンの有権者は社会民主党を政権から追放し,連立政権の首相であるCarl Bildtが,1992年に切下げと規制緩和を行った.政府支出を徐々に減らして,GDP5分の1以下にした.政府債務も減らした.

同様の危機と改革は,1989年に東欧,1991年のバルチック諸国でも共産主義体制が崩壊して起きた.ポーランドの首相,Leszek Balcerowiczは,共産主義を脱して,一夜にして市場経済に移行する方法を示し,世界を驚嘆させた.中欧もバルチック諸国もそれに従った.エストニアの首相,Mart Laarは,1994年,個人所得にフラット・タックスを導入し,1999年に,再度,首相となって企業利潤に対する課税を撤廃した.競争的な減税がヨーロッパに広がった.

自由市場の思想は確立されて,社会福祉国家から社会福祉社会へ,という改革が国際的に波及していった.公共部門も民間企業との競争にさらされ,より効率化された.


l  シリアと非介入

Project Syndicate 28 May 2013

The Syria Lessons

Anne-Marie Slaughter

外交は,軍事力による明確に裏付けがなければ,空疎な会談である.シリアにおけるオバマの戦略は,「うるさく話すが,棍棒は捨ててしまった.」

地域機構は,まだ大国の介入なしに問題を解決できない.シリアに関する最近の会話で,外交の専門家が,植民地時代の中東の国境線は続かないし,引き直されるに違いない,と語った.私も,中東の混乱をヨーロッパの30年戦争にたとえたことがある.当時の参加国では人口の半分から4分の3が殺害された.

われわれはどれほどの犠牲を出せば,殺戮が一層の殺戮しか生まない,と理解するのか? 子供や親が虐殺されるのを見た者,妻や娘,姉妹が強姦されるのを見た者,家畜や住居を気ままに破壊されるのを見た者は,それを忘れることなどない.彼らは報復の気持ちを心に秘めて,それを世代から世代へと継承する.正義がなされて,その敵意を鎮めるまでは.紛争は,成長を阻止し,社会資本の形成を妨げ,政治制度をマヒさせる.

だから,殺戮の連鎖を止める必要がある.


l  ナチスの犠牲者に対する賠償

SPIEGEL ONLINE 05/29/2013

Holocaust Reparations

Germany to Pay 772 Million Euros to Survivors

ドイツ政府は,ホロコーストの生存者が高齢化していることで介護に対する約8億ユーロの支払に合意した.イスラエルにおけるドイツ政府とナチスの侵略によるユダヤ人犠牲者に対する基金(a fund for Jewish victims of Nazi aggression)との合意によるものだ.

「われわれは,ドイツがナチスの犠牲者に対して歴史的な責務を果たす,という約束を守る.」と,交渉団の議長であるStuart Eizenstat元アメリカ大使は述べた.


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The Economist May 18th 2013

Japan’s master plan

Japan and Abenomics: Once more with feeling

Disaster in Syria: The least-bad choice

Guidance for insects: Brood 2030

Business in the Democratic Republic of Congo: Murky minerals

Stockmarkets: Don’t worry, be happy

(コメント) アベノミクスの不安は,国内の債務累積と,外交における摩擦である,という当然の指摘です.デフレ心理を転換する「衝撃と恐怖」作戦なのだ,と.しかし,供給された貨幣が国内の生産的投資に向かうのか? 第3の矢の中身次第です.なぜ安倍は変身したのか? 

シリアへのさまざまな介入を検討し,17年毎に現れるセミにアメリカ政治の変化を解説し,コンゴの資源採取や,世界株価の行方を考えます.

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IPEの想像力 6/3/13

生老病死をめぐって,宗教的指導者は<神>の意思を語ります.しかし,1000年後を予想して民主的に選択するような<神>の制度化が,飢餓,伝染病,戦争を解決する試みと並んで,始まっています.

気候変動に対抗して求められる地球エンジニアリングは,海洋や大気の質を改変します.その対極には,地球人口のエンジニアリングも想像できます.これらは<神>の領域に関する「投資」でしょうか?

温暖化ガスの排出削減に目立った成果がない背景として,産業利益に従う政治(秘密交渉),成長至上主義の国家間競争(ナショナリズム),いかなる犠牲も受け入れない消費者主権(短期・個人主義的な経済学信仰)がある,という指摘は説得的です.日本の原発も,廃止されるという震災後の政治的意志は,すでにどこかへ蒸発してしまったように見えます.

温暖化の破壊的効果を抑制するには,沿岸部や暑い地域に居住する人々が,現在は寒冷地で人口の少ない地域に移住すればよいでしょう.あるいは,温暖化ガス抑制のために冷暖房を止めるため,暑い時期には涼しい地域に移住し,寒い時期には暖かい地域に移住する,「渡り鳥」型の居住を実現してはどうでしょうか? 輸送のコストを抑制するために,居住や産業の立地を変えることも重要になるでしょう.

先週のReviewでは,ドイツとスペインの間で労働者が移動して成長と統合化を支持し,また,金融危機後のアメリカで,医療や年金,教育の公的負担を抑えながら,同時にその質を高める,というミラクル・ショットをさまざまな国境を越えたサービスの利用に求めました.しかし今週,スウェーデンで移民暴動が起き,人種差別的な政治の亀裂がヨーロッパ全体に広がっていることを実感しました.

すべての国際投資を「投機」や「不安定化」として非難すべきでないように,移民にもさまざまな概念が必要です.そして異なった制度や政策があれば.その影響も異なるでしょう.アメリカの農業が,非合法なヒスパニック系移民に頼っている現状を変えることはできると思います.あるいは,フィリピンなど,東南アジアから,看護婦,家政婦,介護の労働者が円滑に入国すれば,世界各地のコールセンター,中国やインドからのウィルス対策ソフトの設定など,コンピューターや情報の管理・整理サービスと同様,国境を超えて利用できます.

しかし,エンジニアリングではなく,政治が重要です.移住とともに「同化」が強制されるなら,それは「エスニック・クレンジング」に似てくるでしょう.受け入れ社会の姿勢が,不況によって悪化すれば,たった数年でも,社会に及ぼす効果が大きく変質してしまうわけです.

エネルギー不足と生活水準に関して,「原発」の数を増やすことが望ましい,また,安全保障と兵役の回避に関して,「核武装」することが望ましい,と答える若者が増えています.それは,単に共通の経験が異なる,という「世代」のギャップだけでなく,保守派の政治宣伝と民主主義の衰退が大いに影響している,と私は思います.

「安全保障」とは何なのか? 原発を100基,原爆を1万発保有しても,私たちは安全でなく,繁栄もせず,社会的な亀裂を深めるだけかもしれません.原発と原爆に頼るゴジラ型の社会が,エコロジーと共存して「風の谷」に住むナウシカ型の社会よりも,地理的・軍事的理由から支配的になったとしても,将来,核戦争や温暖化による文明の破局を経験することで,逆転するのではないか? ・・・と想像します.

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NHKドキュメント72時間で,夜間診療専門医院の話を見ました.救急車が運んでくるのは,終電の泥酔した乗客だけでなく,たとえ重い病気でも,すぐに自宅に帰って介護してあげないと死んでしまう配偶者がいる老人です.<神>がほかの仕事で忙しいとき,老人を介護する若者を国の内外で見つけ出すのは,誰の仕事か?

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