前半から続く)


l  地球エンジニアリング

NYT May 26, 2013

Geoengineering: Our Last Hope, or a False Promise?

By CLIVE HAMILTON

300万年で初めて,大気中の二酸化炭素が400ppmを超えたことを恐れていないとしたら,あなたは科学を知らないか,その価値を否定しているのだ.

温暖化ガスの排出量が容赦なく増加しているために,地球の気候変動はもはや回復不可能な過程になった,という不安が強まっている.そして多くの科学者は気候変動への異なる対策を検討し始めた.地球エンジニアリングである.それは大規模な介入によって地球の気候システムを変える科学である.

宇宙空間に鏡を並べることや,大気中の二酸化炭素を集めて炭素を固定化し,取り除くことなど,さまざまな提案がある.しかし膨大な工業インフラに依拠した文明を守るために,さらに広大な工業インフラを建造することには,地球温暖化の深層の原因が作用している.すなわち,化石燃料に関わる産業利益・ロビーと,どれほど小さな犠牲も嫌う,裕福な消費者たちである.

海洋に鉄分を増やすことや,大気に硫黄分を増やすことが地球を冷やすとしても,それが与えるさまざまな影響を我々に評価できるだろうか? 植物が光合成によって気候に影響しているとしても,大気への硫酸散布が,たとえば,その下で10億人が暮らすインドのモンスーンに及ぼす影響は不確かなものだ.

たとえ「治療」が成功しても,地域によって生じる異なった効果は深刻な国際対立を生じる.例えば,太陽光を遮るフィルターがインドやパキスタンで干ばつをもたらしても,それが温暖化によるものか,太陽光フィルターによるものか,自然現象なのか,科学的に区別できない.同じ地球エンジニアリングで,インド人は苦しみ,アメリカ人は快適であるとすれば,だれが介入手段(グローバル・サーモスタット)の管理を担うのか?

アメリカ,イギリス,ドイツ,そして中国でも,すでに研究が進んでいる.いくつかの研究はそれほど高額ではないから,中規模の国家や,超資産家,宗教団体でも実施できるだろう.

想像してみればよい.30年後,破滅的な干ばつや飢饉で起きた抗議デモに対して,権力を握る中国共産党が,大気中に硫酸化のフィルターを築いて,地球の急激な冷却を試みるかもしれない.アメリカ大統領は,公式に中国を非難しつつも,中国の硫酸を散布する飛行機を撃墜しないし,「カウンター地球エンジニアリング」を実行することもない.

地球エンジニアリングは軍事的に重大な意味を持つ.西側の地政学者たちは,グローバル・ガバナンスのシステムが得られるまで,実験を中止するように呼びかけている.

そもそも,地球温暖化の抑制に介入的な手段で解決策があるなら,人々は化石燃料を抑制しないし,炭素税も導入しないだろう.われわれが生活スタイルを変えることもない.温暖化ガスの排出量を削減できなかった原因が,産業利益,成長神話,消費者の保守主義であれば,地球エンジニアリングが成功する間,それらは現状を維持し続ける.

地球エンジニアリングの影響を,われわれは本当に理解できるのか?

NYT May 29, 2013

Ecology Lessons From the Cold War

By JACOB DARWIN HAMBLIN

地球生態系の多様性を守るという主張は,今ではクジラや白熊の保護だと思われているが,1950年代に始まったとき,それは人類の生存をかけた,冷戦と同じ意味であった.


l  グローバル企業と課税

BLOOMBERG May 26, 2013

Apple’s Tax Dodge Should Prompt Rethink in Ireland

By Megan Greene

The Guardian, Monday 27 May 2013

Globalisation isn't just about profits. It's about taxes too

Joseph Stiglitz

FT May 29, 2013

Why Google and Eric Schmidt really don’t care about tax

By Philip Stephens


l  ヨーロッパ:危機と克服

FT May 26, 2013

Europe’s future looks more Japanese than German

By WolfgangMünchau

ユーロ圏の危機を解決するのはケーキの一切れでしかない.この問題の複雑さは古くからある議論だ.

ドイツは21世紀の初めに賃金を抑制して競争力を高めた.しかし,今ドイツの賃金はスペインやイタリアよりも急速に上昇している.だからユーロ危機の問題は解決できるのだろうか? しかし,問題は調整の規模と,それに要する時間である.

赤字国の緊縮策は調整をもたらすのか? デフレが競争力を回復し,成長をもたらすから.この機体は実現しないだろう.第1に,デフレは成長を破壊する.第2に,銀行危機とそれにかかわる信用逼迫が解消しない.名目成長率が低いので,債務がインフレで減ることはない.ECBはインフレを抑え,ドイツはユーロ・ボンドを受け入れない.

銀行同盟がすべての問題を解決する,とも思えない.利潤を上げない部門が大幅に整理されるだろうか? 吸収合併や大規模な国有化が行われる? もちろん,そんなことは起きないだろう.

1に,銀行同盟の財源は各国毎に負担する.ユーロ圏ではない.それは一国内で経済部門間の債務再編を行うだけだ.ユーロ圏全体には,まだ債務を負担する余地があるけれど,債務諸国にはない.

2に,ヨーロッパにはラディカルな銀行再編の歴史がない.ヨーロッパの銀行監督は,その気性として,自国の銀行を国際競争から守るためのものであって,国際的なレフェリーではない.危機が起きれば,彼らは次の景気回復まで銀行を生き延びられるようにした.

銀行の再編は,これまでと同様に,徐々に進められるだろう.資本増強は少なく,ストレス・テストや資産評価はあいまいだ.その結果,信用逼迫は解消されず,次の景気回復はなかなか来ない.政策担当者たちは,債務デフレや緊縮策のマイナスの影響を認めようとしない.

これは見えない形で,債務を削減し,ユーロ・ボンドを導入しているのだ.周辺諸国の債務は追加融資や低金利で減免されている.EMSによる銀行整理が行われる.この過程は長い時間を要するだろう.その間,民間部門は力強い回復を示さず,政府分門も財政黒字を出すような協定に縛られて刺激策を採れない.

周辺の成長地域に輸出を伸ばすことで補完できるとしても,不十分である.つまり,われわれは低成長とゾンビ銀行の時代,日本のいわゆる「失われた20年」を経験するのだ.

FT May 27, 2013

Germany must lead by example on fixing its banks

By Ashoka Mody

FT May 30, 2013

Bank capital is Europe’s big problem

Lorenzo Bini Smaghi

ユーロ圏の金融政策は機能しなくなっている.ECBが金利を下げても,波及メカニズムが壊れて,金利は国によって大きく異なっている.財政再建のデフレ効果を抑える金融緩和が無駄になる.

中小企業の融資を助ける提案はいくつかあるが,それには問題もある.金融政策の波及メカニズムが壊れているのは,銀行の流動性ではなく,不況が続くと損失を吸収することができない,という不安を投資家は持っているのだ.だから銀行は,中小企業のような信用の劣る相手に融資しない.

この問題を解決するには,銀行が自己資本を増やすしかない.銀行は株式市場で十分に資本調達するため,最悪のシナリオを考慮していなければならない.また,公的資本が予防的に投入されなければならない.

アメリカではTARPによる主要銀行への資本強化が行われたが,それは銀行の反対を抑え,信用逼迫を防止した.もしヨーロッパが同様の仕組みを実行しないなら,ますます,日本の失われた10年に似てくる.日本では銀行システムの再編は遅れ,デフレが進んだ.

FT May 30, 2013

A race between growth and populism

By Philip Stephens

Project Syndicate 30 May 2013

Where Europe Works

Anders Åslund

スウェーデンの諸都市に起きた暴動は,北欧モデルの優秀さを信じる者にとって大きなショックであった.

ヨーロッパ市民は,各国経済モデルの強さと弱さが急速に変化していることを知るべきだ.1980年,北欧諸国は慢性的な財政赤字,インフレ,通貨切り下げに苦しんでいた.ドイツはユーロ圏の病人だった.硬化症,低成長,高失業というヨーロッパの代表だったのだ.

1979年にサッチャーが政権を執ったイギリス,1981年にレーガンが大統領になったアメリカを,今,想像するのは難しい.労働市場を自由化し,政府を解決策とはみなさなくなった.

北欧では1982年に,デンマークで福祉国家の改革が始まった.Poul Schlüter首相がデンマーク・クローナをドイツ・マルクの価値に固定した.そして規制緩和を始めたのだ.1990年の初めに,ノルウェー,スウェーデン,フィンランドで,不動産登記と金融・通貨危機が起きた.1991年,スウェーデンの有権者は社会民主党を政権から追放し,連立政権の首相であるCarl Bildtが,1992年に切下げと規制緩和を行った.政府支出を徐々に減らして,GDP5分の1以下にした.政府債務も減らした.

同様の危機と改革は,1989年に東欧,1991年のバルチック諸国でも共産主義体制が崩壊して起きた.ポーランドの首相,Leszek Balcerowiczは,共産主義を脱して,一夜にして市場経済に移行する方法を示し,世界を驚嘆させた.中欧もバルチック諸国もそれに従った.エストニアの首相,Mart Laarは,1994年,個人所得にフラット・タックスを導入し,1999年に,再度,首相となって企業利潤に対する課税を撤廃した.競争的な減税がヨーロッパに広がった.

自由市場の思想は確立されて,社会福祉国家から社会福祉社会へ,という改革が国際的に波及していった.公共部門も民間企業との競争にさらされ,より効率化された.

システムの改革が成功するケースには,共通の特徴があった.1.福祉国家の深刻な危機を経験した.2.選挙によって政権が交代し,改革派に民主的な正統性が与えられた.3.強力な指導者が現れた.重要な改革は合意によって行われたのではなく,改革の成功に従って合意が形成された.4.福祉国家を根本的に変える指導者は,自由市場のイデオロギーを確信していた.


l  中国・ヨーロッパの貿易摩擦

FT May 26, 2013

The EU should end its fruitless trade dispute with China

By Wu Hailong

FT May 27, 2013

EU trade push against Chinese solar panels seriously weakened

By Joshua Chaffin in Brussels and Chris Bryant in Frankfurt

NYT May 28, 2013

China Divides Europe in Fight Against Tariffs

By KEITH BRADSHER and MELISSA EDDY


l  ヨーロッパの金融取引税

FT May 27, 2013

Brussels should drop the tax on financial transactions

By Elizabeth Corley

FT May 27, 2013

EU sheds light on corporate taxes

FT May 28, 2013

Europe should embrace a financial transaction tax

By AvinashPersaud

FT May 28, 2013

Europe’s FTT risks bond market backfire

By Ralph Atkins in London

WSJ May 30, 2013

The Transaction-Tax Climbdown


l  トルコ経済の成長

Project Syndicate 27 May 2013

Why Turkey is Thriving

Jeffrey D. Sachs

トルコに来れば,この10年で達成された経済成果に驚くだろう.高成長,不平等の減少,技術革新が起きている.

その成果は,トルコに隣接する諸国と比べるなら,一層,驚異的である.西はキプロス,ギリシャ,南東にシリア,東はイラン,イラク,北東にはアルメニア,グルジアがある.世界で,これ以上に複雑な地域を探すのは難しい.

トルコの興隆は基礎条件の改善によるものだ.バブルや資源の発見があったのではない.資源はないが,産業に競争力がある.観光業でも,2012年に3600万人がトルコに来た.

優れたインフラ,優れた教育,持続可能な技術にも優れた成果を上げている.その輸出市場は,アメリカやヨーロッパから,アフリカ,東欧,中東,アジアの新興諸国にシフトしている.

最も重要なことは,Recep Tayyip Erdoğan首相と,Ali Babacanが率いる経済チームが基礎に忠実に,しかも長期的な視点で,成長を実現したことだ.銀行システムの短期的な危機が起きた後,2003年にErdoğanは政権を執った.IMFから救済融資を得た後,銀行部門を再生し,予算管理,インフラ,教育,保健,技術に投資を行った.また,賢明な外交姿勢で周辺諸国に敵を作らなかった.

トルコの成長は,政府の能力と国民のスキルによるものだ.


l  シリアと非介入

guardian.co.uk, Tuesday 28 May 2013

Syria and the Middle East: our greatest miscalculation since the rise of fascism

Simon Jenkins

Project Syndicate 28 May 2013

The Syria Lessons

Anne-Marie Slaughter

外交は,軍事力による明確に裏付けがなければ,空疎な会談である.シリアにおけるオバマの戦略は,「うるさく話すが,棍棒は捨ててしまった.」

地域機構は,まだ大国の介入なしに問題を解決できない.シリアに関する最近の会話で,外交の専門家が,植民地時代の中東の国境線は続かないし,引き直されるに違いない,と語った.私も,中東の混乱をヨーロッパの30年戦争にたとえたことがある.当時の参加国では人口の半分から4分の3が殺害された.

われわれはどれほどの犠牲を出せば,殺戮が一層の殺戮しか生まない,と理解するのか? 子供や親が虐殺されるのを見た者,妻や娘,姉妹が強姦されるのを見た者,家畜や住居を気ままに破壊されるのを見た者は,それを忘れることなどない.彼らは報復の気持ちを心に秘めて,それを世代から世代へと継承する.正義がなされて,その敵意を鎮めるまでは.紛争は,成長を阻止し,社会資本の形成を妨げ,政治制度をマヒさせる.

だから,殺戮の連鎖を止める必要がある.

Project Syndicate 29 May 2013

A Talking Cure for Syria

Gareth Evans

NYT May 29, 2013

Chances of U.N. Peace Talks on Syria Appear Dim as Both Sides Dig In

By HALA DROUBI and RICK GLADSTONE

FT May 30, 2013

Have we reached the turning point in Syria?

Ian Bremmer

シリアは「Gゼロ」時代の典型的な戦争となり,主要国が代理戦争を始めている.

Project Syndicate 30 May 2013

Missing America

Joschka Fischer

アメリカを失った世界が現れている.それは新しい国際秩序ではない.政治的にあいまいで,不安定で,カオスも生じている.


FT May 28, 2013

When blue becomes the new white

By Patti Waldmeir in Shanghai

FT May 28, 2013

China would gain from carbon caps

NYT May 28, 2013

China to Seek More Equal Footing With U.S. in Talks

By JANE PERLEZ


l  核兵器とは何か?

FP MAY 28, 2013

Think Again: A Nuclear Iran

BY ALIREZA NADER

FP MAY 29, 2013

The Bomb Didn't Beat Japan... Stalin Did

BY WARD WILSON


l  国連平和維持軍

FP MAY 29, 2013

The Price of Peace

BY DAVID BOSCO

国連平和維持軍の費用は,兵士一人当たり,1028ドルである.毎月,各国に支払われる.1990年代の初めから,それはほとんど変わっていない.しかし,危険な任務が増えている.

平和維持軍は,裕福な諸国が支払い,貧しい諸国が兵士を出す.前者は,アメリカ,日本,イギリス,ドイツ,フランスであり,後者は,バングラデシュ,パキスタン,インド,エチオピア,ナイジェリア,ルワンダである.国連のカースト制度,と呼ぶブロガーもいる.


FT May 29, 2013

Plucky or rash, the Philippines is right to challenge China

By David Pilling


l  ナチスの犠牲者に対する賠償

SPIEGEL ONLINE 05/29/2013

Holocaust Reparations

Germany to Pay 772 Million Euros to Survivors

ドイツ政府は,ホロコーストの生存者が高齢化していることで介護に対する約8億ユーロの支払に合意した.イスラエルにおけるドイツ政府とナチスの侵略によるユダヤ人犠牲者に対する基金(a fund for Jewish victims of Nazi aggression)との合意によるものだ.

「われわれは,ドイツがナチスの犠牲者に対して歴史的な責務を果たす,という約束を守る.」と,交渉団の議長であるStuart Eizenstat元アメリカ大使は述べた.


FT May 29, 2013

France’s struggle is against much more than gay marriage

By Mark Mazower


l  不平等な社会

The Guardian, Thursday 30 May 2013

Half a million Britons using food banks. What kind of country is this becoming?

John Harris

100万人がフード・バンクを利用する.

Project Syndicate 30 May 2013

Inequality on the Horizon of Need

J. Bradford DeLong


VOX 30 May 2013

How do firm-level responses to trade affect industry productivity and the gains from trade?

Marc J. Melitz, Stephen Redding

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The Economist May 18th 2013

Japan’s master plan

Japan and Abenomics: Once more with feeling

Disaster in Syria: The least-bad choice

Guidance for insects: Brood 2030

Business in the Democratic Republic of Congo: Murky minerals

Stockmarkets: Don’t worry, be happy

(コメント) アベノミクスの不安は,国内の債務累積と,外交における摩擦である,という当然の指摘です.デフレ心理を転換する「衝撃と恐怖」作戦なのだ,と.しかし,供給された貨幣が国内の生産的投資に向かうのか? 第3の矢の中身次第です.なぜ安倍は変身したのか? 

シリアへのさまざまな介入を検討し,17年毎に現れるセミにアメリカ政治の変化を解説し,コンゴの資源採取や,世界株価の行方を考えます.

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IPEの想像力 6/3/13

生老病死をめぐって,宗教的指導者は<神>の意思を語ります.しかし,1000年後を予想して民主的に選択するような<神>の制度化が,飢餓,伝染病,戦争を解決する試みと並んで,始まっています.

気候変動に対抗して求められる地球エンジニアリングは,海洋や大気の質を改変します.その対極には,地球人口のエンジニアリングも想像できます.これらは<神>の領域に関する「投資」でしょうか?

温暖化ガスの排出削減に目立った成果がない背景として,産業利益に従う政治(秘密交渉),成長至上主義の国家間競争(ナショナリズム),いかなる犠牲も受け入れない消費者主権(短期・個人主義的な経済学信仰)がある,という指摘は説得的です.日本の原発も,廃止されるという震災後の政治的意志は,すでにどこかへ蒸発してしまったように見えます.

温暖化の破壊的効果を抑制するには,沿岸部や暑い地域に居住する人々が,現在は寒冷地で人口の少ない地域に移住すればよいでしょう.あるいは,温暖化ガス抑制のために冷暖房を止めるため,暑い時期には涼しい地域に移住し,寒い時期には暖かい地域に移住する,「渡り鳥」型の居住を実現してはどうでしょうか? 輸送のコストを抑制するために,居住や産業の立地を変えることも重要になるでしょう.

先週のReviewでは,ドイツとスペインの間で労働者が移動して成長と統合化を支持し,また,金融危機後のアメリカで,医療や年金,教育の公的負担を抑えながら,同時にその質を高める,というミラクル・ショットをさまざまな国境を越えたサービスの利用に求めました.しかし今週,スウェーデンで移民暴動が起き,人種差別的な政治の亀裂がヨーロッパ全体に広がっていることを実感しました.

すべての国際投資を「投機」や「不安定化」として非難すべきでないように,移民にもさまざまな概念が必要です.そして異なった制度や政策があれば.その影響も異なるでしょう.アメリカの農業が,非合法なヒスパニック系移民に頼っている現状を変えることはできると思います.あるいは,フィリピンなど,東南アジアから,看護婦,家政婦,介護の労働者が円滑に入国すれば,世界各地のコールセンター,中国やインドからのウィルス対策ソフトの設定など,コンピューターや情報の管理・整理サービスと同様,国境を超えて利用できます.

しかし,エンジニアリングではなく,政治が重要です.移住とともに「同化」が強制されるなら,それは「エスニック・クレンジング」に似てくるでしょう.受け入れ社会の姿勢が,不況によって悪化すれば,たった数年でも,社会に及ぼす効果が大きく変質してしまうわけです.

エネルギー不足と生活水準に関して,「原発」の数を増やすことが望ましい,また,安全保障と兵役の回避に関して,「核武装」することが望ましい,と答える若者が増えています.それは,単に共通の経験が異なる,という「世代」のギャップだけでなく,保守派の政治宣伝と民主主義の衰退が大いに影響している,と私は思います.

「安全保障」とは何なのか? 原発を100基,原爆を1万発保有しても,私たちは安全でなく,繁栄もせず,社会的な亀裂を深めるだけかもしれません.原発と原爆に頼るゴジラ型の社会が,エコロジーと共存して「風の谷」に住むナウシカ型の社会よりも,地理的・軍事的理由から支配的になったとしても,将来,核戦争や温暖化による文明の破局を経験することで,逆転するのではないか? ・・・と想像します.

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NHKドキュメント72時間で,夜間診療専門医院の話を見ました.救急車が運んでくるのは,終電の泥酔した乗客だけでなく,たとえ重い病気でも,すぐに自宅に帰って介護してあげないと死んでしまう配偶者がいる老人です.<神>がほかの仕事で忙しいとき,老人を介護する若者を国の内外で見つけ出すのは,誰の仕事か?

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