前半から続く)


l  薄氷のアベノミクス

FT May 17, 2013

Japan premier Shinzo Abe unveils goals to re-energise the economy

By Jonathan Soble in Tokyo

NYT May 18, 2013

So Far, the Battery Charger Is Working in Japan

By JEFF SOMMER

NYT May 20, 2013

Japan’s New Optimism Has Name: Abenomics

By MARTIN FACKLER

ソニーの黒字,ホンダのフォーミュラ・ワン再開だけでなく,消費者にも復活の兆しがある,という.安倍のショック療法は効いているようだ.

しかし,今のところ,楽観は富裕層と,いくらか株式を保有している者,円安で利益を得た者,に限られている.安倍の行動を促したのは,中国の言動に刺激され,日本人に広がる危機感であっただろう.安倍は日本人の意識を変える「チアリーダー」を自認する.

アベノミクスへの懐疑論も根強い.特に,日本の硬化症を打開する3本目の矢は,まだ評価できない.新しい富が十分に広まって,特に賃金が上昇して,景気回復が確実にならない限り,アベノミクスは呪文でしかない.近隣諸国との通貨摩擦,成長をともなわないインフレというスタグフレーションが待っている.

タクシー運転手や最近退職した男性は,アベノミクス受益者への不満を感じている.

BLOOMBERG May 20, 2013

Japan Inc. Should Take a Look in the Mirror

By William Pesek

オリンパス社の重役であったMichael Woodfordは,ソニーが外国人の助言を無視したことに驚かない.日本企業は自分たちの失敗を隠すために集団で行動する.

しかし,アベノミクスで利益を得た日本の企業重役や政治家たちは,かつての慢心を復活させている.将来の首相候補でもある,大阪の橋下市長は,従軍慰安婦を戦時下の兵士たちに必要だったと擁護し,こうした強姦や性的奴隷制を容認する政治家が,日本では,何らその代償を支払わないことを示した.安倍の仲間による靖国集団参拝や,安倍自身が731と描かれた練習機の操縦かんを握るのも同様だ.

日本株式会社は過去の慢心を反省していないし,歴史から学ぼうとしない.

FT May 21, 2013

Abenomics will only damage Japan’s neighbours

By David Li

中国はアベノミクスのショック・アブソーバーになっている.過去3年間,中国の貿易黒字は着実に減少してきた.

WSJ May 22, 2013

Singing the Abe Electric

By JOSEPH STERNBERG

FT May 23, 2013

Shinzo Abe will not revive Japan by rewriting history

By Philip Stephens

安倍晋三による日本復活には2つのプラス(攻撃的な金融緩和を指示した,国内対立を超えてTPPを推進した)と1つのマイナス(愛国心を強調して歴史の見直しを進める)がある.

FT May 23, 2013

Japan slump tests faith in Abenomics run

By Ben McLannahan in Tokyo

木曜日,日経225が,20113月の大震災以来,最大の下げ幅を示した.これはアベノミクスの破局を示すのか? 構造変化や世代間の変化を示す安倍の「第3の矢」が問われる.

FT May 23, 2013

Bernanke’s sneeze and Tokyo’s cold

WSJ May 23, 2013

An Abenomics Reality Check


FT May 19, 2013

It doesn’t make much sense but I’m a eurofanatic

By WolfgangMünchau

FT May 20, 2013

Why I shifted sides in the UK’s civil war over Europe

By Gideon Rachman


l  中国とTPP

FT May 19, 2013

China’s national problems start in local government

By GeorgeMagnus

FT May 19, 2013

Beijing’s Arctic goals are not to be feared

By LindaJakobson

FT May 19, 2013

Chinese cyber crime: More crooks than patriots

By Kathrin Hille

BLOOMBERG May 19, 2013

Why China’s Riches Won’t Bring It Freedom

By Pankaj Mishra

経済成長と自由民主主義が世界に広まる,というのは,全く,支配者側の歴史観でしかない.Freedom Houseの最新リポートでも,規則的に民主的な選挙を行うインドのような国でも,個人の権利やその可能性の実現という点で,自由主義は後退している.自由主義と民主制を個人の責任や工業資本主義と結びつけるのは,欧米だけの考えだ.

キャッチアップ型の成長を実現した日本やドイツは,成長と個人の自由とを結びつけることなどなかった.「富国強兵」は,最近まで,個人の権利を犠牲にしても,集権化した強い国家が工業化と軍備拡大を加速する必要を説いていた.

中国もそうだ.しかも今,成長から取り残されたままの多くの中国人にとって,中央の官僚たちが説くイデオロギーは,新儒教主義のように,豊かな者のための思想でしかない.開発国家は,技術者や官僚のエリートによって支配され,個人よりも国家共同体が重視されている.これもまた,アジア的進歩史観として,間違って,輸出されている.

Global Times | 2013-5-20

China’s expanding house presses rest of global village

By Kishore Mahbubani

NYT May 20, 2013

U.S. and European Union Set to Negotiate Settlements in Chinese Solar Panel Cases

By KEITH BRADSHER

NYT May 21, 2013

China’s Brutal One-Child Policy

By MA JIAN

FT May 22, 2013

It won’t be easy to build an ‘anyone but China’ club

By DavidPilling

異なる特徴,異なる動機を持つNew Zealand, Vietnam, Peru, Japan and the US.共通していることは何か? 彼らはTPPに参加を希望している.ここには中国が含まれていない.

この2つの特徴が結びついている.第1に,TPPは,世界第2の市場を持つ中国を排除した,「高水準の」貿易協定である.第2に,TPPは,中国がWTOに加盟して世界市場に参加することから生じた不安から生まれた.すなわち,中国はWTOに加盟してもルールに従わないだろう.通貨操作,国有企業への政治的・金融的支援,知的財産の無視.・・・

中国が受け入れるしかないようなルールによる統一市場を作ってしまうこと.それがTPPの動機である.しかし,例えば衣料品貿易で,中国を排除して,ベトナムに関税が免除される.それはベトナムの衣料産業を大いに刺激するだろうが,ベトナムも中国と同様に市場経済ではない.また,日本の安倍政権はTPP参加を主張するが,それはアメリカによる安全保障を確保するためだ.

TPPは,こうして経済ではなく政治の産物になる.各国は政治的にTPPを歪曲し,さまざまな例外分野や多国籍企業・政治団体の主張を盛り込んで,秘密交渉が進められている.

こんな時代遅れの合意に向かうより,中国を参加させるほうがよい.

WSJ May 22, 2013

China Seeks to Calm Anxiety Over Rice

By JOSH CHIN in Beijing and TE-PING CHEN in Hong Kong

FT May 23, 2013

Many investors may not be living in the real world

By Stephen King


l  欧米の経済改革

NYT May 19, 2013

Derivatives Reform on the Ropes

By THE EDITORIAL BOARD

FT May 20, 2013

Robin Hood tax: A long shot

By Ralph Atkins in London and Alex Barker in Brussels

guardian.co.uk, Thursday 23 May 2013

What is the economic responsibility of corporate America?

Heidi Moore

Project Syndicate 23 May 2013

Boards on Their Backs

Simon Johnson

VOX 23 May 2013

The banking crisis as a giant carry trade gone wrong

Viral Acharya, Sascha Steffen


l  ロボット

NYT MAY 19, 2013

Disruptions: Helper Robots Are Steered, Tentatively, to Care for the Aging

By NICK BILTON

ロボットによる老人介護.料理,洗濯,掃除,庭木の管理.


l  金融緩和とバブル

FT May 20, 2013

Don’t expect emerging markets to be flooded in cheap money

By Ruchir Sharma

アメリカや日本の金融緩和が,通貨戦争を刺激し,資本を成長する新興経済に殺到させる,と言われている.

実際は,インドから南アフリカ共和国まで,経常収支赤字に悩む指導者たちは資本流入を求めている.2008年のピークに比べて,国際資本移動は60%に減少している.

通貨の供給は増えているが,それはどこに向かうのか?  Brazil, Russia and South Africaよりも,改革を進めるthe Philippines, Thailand and Turkeyに向かう.そして成長の機会があれば,アメリカや日本に投資される.

VOX 20 May 2013

Helicopter money as a policy option

Lucrezia Reichlin, Adair Turner, Michael Woodford

FT May 22, 2013

Asian debt: Beware of bubbles

By Paul J Davies in Hong Kong

東南アジアでは債券市場が拡大し,企業の資金調達だけでなく,バブルの不安がある.また,消費者の債務が増えている.低金利で,成長を求めて東南アジアの新興市場に集まる資金は,将来,逆転する.それに対する準備はあるか?


SPIEGEL ONLINE 05/20/2013

Cowboys on the Rhine

US Firms Flout German Labor Practices

By Janko Tietz


l  政治による災厄

FP MAY 20, 2013

What the Hell Was That All About?

BY AIDAN FOSTER-CARTER

FP MAY 20, 2013

Getting to Yes with the Taliban

BY JOHN ARQUILLA

FP MAY 20, 2013

Metternich in Baghdad

BY RAMZY MARDINI


l  気候変動抑制への行動

FT May 21, 2013

Global inaction shows that the climate sceptics have already won

By Martin Wolf

気候変動の研究の著者たちは,その98.4%が人間の起こした温暖化を肯定している.それを否定するのは1.2%であり,不確実とするのが0.4%である.現在,大気中にあるCO230%は人類が直接にもたらした結果だ.新興諸国が成長すれば,その排出量は裕福な諸国に近づく.温暖化が進むだろうが,懐疑論者は,何もするな,という.

何もしないことは大規模な災害によって終わるだろう.その前にできることがある.

1.炭素税.2.原子力発電.3.自動車などの,排出量規制と技術革新.4.低炭素燃料の世界貿易体制.5.利用可能な技術の貧困諸国への移転.6.研究・開発への政府投資.7.気候変動に対処する投資.大規模な人口移動を含む.8.大規模な,地球工学.


l  都市をめぐる社会闘争

SPIEGEL ONLINE 05/21/2013

Urban Class Warfare

Are Cities Built for the Rich?

現代において階級闘争は都市で起きている,とDavid Harveyは語る.都市化が社会紛争にどのような影響を与えるのか,インタビューに応えた.

脱工業化とともに,マルクス主義者の考える伝統的な階級闘争は消滅し,それに代わって,都市闘争が重要になった.都市生活空間の生産・再生産をめぐる闘争に注目しなければならない.アメリカでは,AFL-CIOが国内労働者と移民労働者との間で協力して闘争し始めている.

資本家によって搾取された余剰は,都市の公共空間に組織的な投資を行うことで解決されるだろう.都市は富裕層のためにではなく,労働者・貧困層のために再生され,それによって景気循環を回避できる.中国,トルコ,など,新興市場の景気回復が早いのはそれを示している.

オバマは,Goldman Sachsではなく,都市開発業者を救済するべきだったのだ.都市空間は,歴史的にさまざまな政治闘争で形成されてきた.都市中心部を追放された住民たちが結集したパリ・コミューンのモデルを見習うべきだ.

公園ごとにウォール街占拠運動を再生するという意味ではなく,政治力が必要である,という意味だ.しかし,左派の政治運動は衰えている.それゆえ,自発的な表現が取られている.新しい試みとして,都市は,それ自体がユニークな文化的魅力を示すことで,企業に追加的な地代を要求できる.

Project Syndicate 23 May 2013

The Human City

Parag Khanna

2030年までに世界人口の60%が都市に居住するだろう.この急速な都市化を持続可能なものにすることが,人類の優先課題である.“The Human City”は,さまざまな技術開発と,国際的な協力によって可能になる.それを実現するのは,世界各地の貧しい都市住民であるから.

現在の都市化は,化石燃料の消費を増やし,家庭の水の消費を増やし,食糧需要を増やす一方で,住宅建設が可耕地を失わせる.世界中で急増する失業問題,若者の雇用問題,不平等,機械化,ロボットの導入,などを解決するのも,都市の市民社会を再建する仕事かもしれない.シンガポールや東京で無人の地下鉄や自動車が走り出す.シンガポールの「グリーン・シティ」では,労働者たちが情報通信インフラで離れたまま仕事をこなし,移動や輸送に伴うエネルギー消費を大幅に減らす.


l  オクラホマの竜巻

NYT May 21, 2013

After the Tornado, a War Zone

By CAROLYN WALL

Mile after mile, so much is gone. Shopping malls, convenience stories, bowling alleys, hospitals and clinics, movie theaters, three schools and thousands of homes, now a war zone. In a few cases, first responders heard faint cries from under rubble, but shortly those whimperings stopped.

WP May 23, 2013

Oklahoma needs help, not ideology, after tornado

By E.J. Dionne Jr.


l  アイスランドの選挙結果

VOX 21 May 2013

Iceland’s post-Crisis economy: A myth or a miracle?

Jon Danielsson

金融危機後の経済改革に成功したはずの政府が,なぜ選挙によって政権を失ったのか? 海外の評論家は危機処理を理想化したが,アイスランド人は違う見方であった.

確かに,インフレ率は3%,失業率は5%,財政はほぼ均衡している.通貨価値は安定し,昨年,成長率はプラスの1.6%であった.この数値は素晴らしい.しかしその背後には,深刻な失敗が隠されている.

為替レートは,選挙前に強くなったが,資本規制がなくなればもっと減価し,インフレになるだろう.資本規制をしなければ深刻な国際収支問題が起きるとして,一時的に,導入したが,その後も強化して続けられている.

最も重大な問題は投資率の低下である.その原因は,将来の為替レートに関する不安だ.投資家たちは決定を延期している.ほかにも,改革派の連立政権は投資家と敵対しており,特に資源関連の投資を妨げた.税制も赤字削減のために頻繁に変更し,不確実さを強めた.

改革派の政権は社会福祉を守った,と言われるが,実際は不平等が急速に拡大した.年金,医療に関する貧困層の扱いは悪化した.住宅債務の免除を宣言した,というが,その最大の受益者は富裕層であった.他方,Icesaveのイギリス・オランダ預金者など,外国の債権者に対しては,その要求に屈した.

選挙で最大の争点は,外国債権者の扱いであった.有権者が求めたのは,成長政策,EU反対,外国債権者への強硬姿勢,であった.

WSJ May 23, 2013

Iceland's Electoral Rebuke

By HANNES H. GISSURARSON


l  シリア内戦

NYT May 21, 2013

Tell Me How This Ends

By THOMAS L. FRIEDMAN

厳しい自然環境の下では,人々が集団で有利な環境を確保する.環境の悪化が「アラブの春」に影響しただろう.人口爆発,環境の管理ミス,教育の失敗が,いかなるイデオロギーや集団にも,この土地を統治不能にした.

シリア,イエメン,リビア,エジプトが発展するには,その内部で対立する勢力が協力しなければならない.シリアのスンニ派,キリスト教徒,アラウィート派,イエメンとリビアの諸部族,エジプトのムスリム同胞団,サラフィスト,リベラル派.しかし,協力に必要な信頼が最も不足している.グローバル化した世界では,条件さえ整えば急速な発展も可能である.

もしアサド体制が崩壊すれば,シリアは2つの戦争を経て,3つに分割されるだろう.最初はスンニ派とアラウィート派の内戦,次に,反政府勢力内の抗争である.即座に平和維持軍を送れば,スンニ,アラウィート,クルドが支配する地域が誕生する.それが発展をもたらす保証はない.

反政府勢力に武器を送る前に,われわれが求めるものは何か,よく考えることだ.

WP May 22, 2013

Testing time for Syria’s rebels

By David Ignatius

FT May 23, 2013

Peace talks are more useful to the US than to Syria’s opposition

By Roula Khalaf


WSJ May 23, 2013

The Global Solar Cartel


l  イギリスのヨーロッパ戦略

Project Syndicate 23 May 2013

Britain, Ireland, and Europe

David Miliband

(アイルランドの経営者と労働者に,労働党党首の兄David Milibandが語った.)

4つのテーマがある.・・・1EUは,短期的にリスクが高いが,中長期的には21世紀において強い.2.財政再建と構造改革について,西側各国は正しいバランスを欠いている.技術革新の刺激や,拡大策も必要だ.3.移民,主権,福祉の改革が示すように,政治と経済とが逆向きで,矛盾している.4.イギリスがEUに残ることは双方にとって利益がある.EU離脱の議論は,成長志向の改革を妨げる.

世界の変化がすべての国に影響している.経済的パワーは西側から東や南の新興経済へシフトし,地殻変動が起きている.情報アクセスが民主化され,政府・民間部門を変えている.資源が枯渇し,非石油商品価格は上昇している.イスラム教徒が多数の諸国,トルコ,湾岸諸国,インドネシア,などが発言力を強めている.安全保障でも人道援助でも,イスラム世界との協力が必要だ.経済的,社会的な連結は拡大,深化し,瞬時に行われる.

一方では,アドホックな連携が増加し,ヴァーチャルな,弾力的なネットワークが形成される,という考え方がある.しかし,そのような関係がいくら増えても,イギリスにとってEUとの関係に代わるものはないだろう.安全保障で協力し,ルールを共有し,集団的に努力する.周辺の新興経済もEUを通じて包摂する.

EUは,第2次世界大戦後の独仏同盟や,冷戦期の対ソ戦略だけでなく,今も,この緊密に連携し,激しく競争する,ある意味では混沌とした世界で,加盟諸国の平和と繁栄の源泉である.この相互依存から抜け出すことを主張するのは,幻想である.

EUを改革する必要がある.しかし,それは外からではなく,加盟諸国との信頼によって,内側から改革するのだ.イギリス独立党の興隆は広く議論されているが,それはヨーロッパに反対するよりも,既存のイギリス政党,いつも同じことしか言わない政治家たちに反発するものである.

ユーロ危機が,連邦主義や懐疑論を強めた.しかし,連邦主義もその否定も,ユーロ危機を解決しない.EUの正当性には,一国一票制と,加重された多数決制と,両方が必要だ.Timothy Garton Ashは,3つの要求が矛盾して機能しないことを示した.国民政治は今も強く残り,ヨーロッパの政策は疎遠であり,世界市場の要求は厳しく,しかも移り変わる.

イギリスは何を求めるべきか? ヨーロッパの離脱ではなく,ヨーロッパからの後退でもない,一層のヨーロッパ統合,すなわち,もっと違う,優れたヨーロッパである.そのために,イギリスとアイルランドは互いに与えるものがあり,協力できる.ヨーロッパにおける強い同盟関係を結ぼう.

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The Economist May 11th 2013

Wall Street is back

Angry young Indians: What a waste

India’s demographic challenge: Wasting time

South Korea and the United States: Park’s progress

Factory women: Girl power

The politics of immigration: Don’t mess

(コメント) ウォール街の復活に関する特集記事は,私には関心の無い内容でした.世界金融危機が起きたのに,その改革は少しも進まなかった,という印象が強いです.

インドの「人口配当」と,中国の出稼ぎ女工たちの話は,もっと強いインパクトがありました.各地で,仕事のない若者の不満や絶望が,技術革新や国際競争におびえる正規労働者・高齢者の不安と並んで蓄積されています.インドの若者たちも,中国の女工たちも,改革を求めて立ちあがるときです.

アメリカ議会で演説した韓国の大統領は4人もいるのに,日本の首相は交代するばかりで名前も覚えてもらえません.移民について強硬な発言を繰り返すUKIPが人気を高めたからと言って,保守党も移民攻撃で競うのは,政治家の浅はかな姿勢として軽蔑されるでしょう.

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IPEの想像力 5/27/13

日本の政治家が決して主張しないことを,アメリカやイギリスの政治指導者は明確に主張しています.それは,平和と繁栄をもたらす秩序について,国家を超えて人々を説得することです.

たとえば,アメリカのオバマ大統領は,「テロとの戦い」を終えるため,ドローンを戦略の一部とする国際安全保障の考え方を支持するよう演説しました.

オバマ政権は,イラクやアフガニスタンから撤退し,グアンタナモ基地を閉鎖する,と約束していました.しかし,その過程は非常に困難なもので,今も約束を果たせていません.逆に,アフガニスタンへの増派,ビン・ラディンの特殊部隊による殺害,ドローンのよるテロリストの暗殺,・・・など,反対派だけでなく,支持者からも厳しい批判を浴びています.

それと並行して,国内経済の再生こそが最重要な防衛政策である(アメリカにとって最大の脅威は政府債務だ)と考え,シェール・ガス革命によってエネルギー輸出国に変身し,リビアやシリアへの介入には慎重な姿勢を維持しました.中東の紛争地から撤退して,成長地域をめぐる中国との対抗を意識した「アジア旋回」を唱え,同時に,尖閣諸島の日中衝突を回避し,景気回復のために米中戦略対話を重視し,北朝鮮に対して中国の協力や日韓協調を強く求めています.

アメリカという最強国の権力を行使する指導者として,オバマはさまざまな要求や理想の間に,自分が正しいと信じる方針を見出し,選択しなければなりません.自分の主張が完全に正しいと証明することはできません.それでも論争を通じて多くの人を説得し,彼の方針・考え方が支持されること,彼の選択が正しかったと言える結果を残すこと,すなわち,正当性と秩序が求められています.

また,イギリス労働党のデイヴィッド・ミリバンドは,イギリスとアイルランド,EUとの関係について演説しました.

世界は急速に変化している.財政再建であれ,移民であれ,社会福祉改革であれ,孤立して理想的な解決を議論するだけでは,こうした重要問題を解決できないのです.イギリスの将来には,EUがあり,隣国アイルランドがあり,欧米から中国や新興諸国へのパワーシフト,それによる国際秩序の不安定化を避けられないでしょう.重要な統合過程の中で生きることが求められます.

それゆえミリバンドは,イギリス国内の無責任なEU離脱論を批判し,かつて植民地として,長くイギリスとの武装闘争を経てきたアイルランドにおいて,EU改革のための同盟を呼び掛け,新しいEUでユーロ危機(それは危機で傷ついたアイルランド経済の再生でもあるでしょう)を解決しよう,と訴えます.

日本の政治指導者たちも,中国や韓国との領土紛争を解決し,安全保障を確立し,地域市場統合や国際秩序に関する構想を積極的に示すべきでしょう.オバマやミリバンドが必要です.中国や韓国の政治家たちと,共通の理想や秩序について積極的に議論し,支持を訴える姿勢が,アメリカ大統領に会う前に,もっと重要なはずです.

互いを非難する言葉ではなく,国家や民族の偏見をぬぐい去ることで,人としての共感や尊敬を得る歴史的な経験を,もっと共有できるはずです.

毎年,日本と韓国の指導者は,重要な記念日に,互いの国会や記念行事に政治指導者を招待し,両国の歴史的な転換点について演説してもらうのがよいでしょう.両国民が同じ歴史を生きたことを意識し,その時代の苦しみや各国が直面した課題,内部の矛盾や対立について,率直に語ることで理解が深まると思います.

日本の明治維新や敗戦とは何であったのか? 朝鮮戦争や高度成長とは何であったのか? 同じ時代に生きていた日本人や韓国人の経験を知ることは,今までにない歴史観を育てるでしょう.

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