IPEの果樹園2013

今週のReview

5/13-18

 

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シリア内戦と介入 ・・・日本の改革 ・・・機械化・雇用・労組 ・・・経済と経済学の革新 ・・・アラブのマーシャル・プラン ・・・中国と安全保障 ・・・中国と国際制度 ・・・ユーロ危機と債務処理 ・・・優れた政治指導者

 [長いReview]

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主要な出典 Bloomberg, China Daily, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, Global Times (China), The Guardian, NYT: New York Times, Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, WP: Washington Post, WSJ: Wall Street Journal Asia, Yale Global そして、The Economist (London)


l  シリア内戦と介入

FP MAY 2, 2013

Would Machiavelli Have Drawn a Red Line?

BY ROSA BROOKS

外交において「受け入れられない"unacceptable"」という言葉がよく利用されている.同様の意味で,アメリカ政府は"red lines" "lines in the sand"と言う.

そのリストは長い.・・・イランの核武装は受け入れられない.北朝鮮の核武装も受け入れられない.パキスタンのテロ組織とのつながりや政治腐敗は受け入れられない.ソマリアにおけるエリトリアの介入,ロシアのグルジア侵攻,リビアの市民への攻撃,中国の貿易慣行,ダマスカスにおけるテロ攻撃を非難する国連安保理の決議案,中東における国境を超える武器供与,シリアにおける化学兵器の使用,・・・

この言葉には2つの問題がある.1.その言葉を使うことでアメリカの利益は実現できるのか,不明である.2.その言葉がもたらす嫌悪感が,逆に,危険な行動を促すかもしれない.それは我々が止めようとしている行動である.

「一般に,アメリカの外交官は,外国やその指導者を,行儀の悪い幼児のように扱う.確かに,彼らはしばしばそうであるが,マキャベリが明白に理解していたように,それは重要ではないのだ.重要なのは,我々の利益を実現することであり,潜在的な紛争の危険を避けることであり,他者を瀬戸際に追い込んでしまわないことである.我々に従え,さもないと攻撃するぞ,と言うのは,しばしば事態を悪化させ,政治的体裁を維持して妥協できる機会を奪ってしまう.」

「伝統的なリアリストの理論は,国家を利己的で合理的な主体と考える.しかし,「国家」を統治するのは人間であり(たとえ邪悪な独裁者でも),諸個人は文化の産物であるし,厳格な便益の計算と同様に,自分のエゴや周囲の人々が寄せる期待に影響されている.」国家が侮辱され,面目を失うことはないが,人間はそれを気にする.そして,結局,イランの核政策やシリアの軍事戦略を決めているのは,こうした人間である.」

シリアに対する「レッド・ライン」という主張は,イランや北朝鮮に対する警告と同じで,外交として間違っている.マキャベリが言うように,「賢明さ」とは,問題の本質を見極める方法を知っていること,そして,より小さい悪を選択すること,である.

The Guardian, Friday 3 May 2013

Syria: a roadmap to peace

David Owen

FP MAY 3, 2013

How Syria Ruined the Arab Spring

BY MARC LYNCH

アメリカの評価を損なわないために介入する,というのは,戦争の間違った理由である.警告ラインなどすぐに消える.それはニュース・サイクルでしかない.「アメリカがシリアに介入するのは,それがアメリカの利益を守るからであり,シリアにおけるおぞましい暴力行為を効果的に止められるからである」.

シリアの悪夢は「アラブの春」のイメージを変えた.アラブの春では,警察による弾圧はあっても,軍隊は民衆に発砲しなかった.シリアの内戦は,アルカイダなどの聖戦主義者に戦場を与えた.シリアは彼らが増殖する破綻国家になった.

アラブ民衆は体制に立ち向かうことを恐れるようになった.西側の軍事介入はなく,シリアは中東における新しい冷戦を生み出した.アラブ世界でも,西側でも,メディアの状態が変わった.他の革命後の改革は関心を集めず,シリアの暴力行為だけに報道が集中した.アラブ世界では,アルジャジーラが人々に共通の情報を提供する役割を担ってきたが,その姿勢が政府によって曲げられた.もはやアラブ・メディアは混乱状態だ.SNSがそれに代わることはできない.

シリアの惨劇によってアラブの春が終わることはない.これは長期に及ぶ構造変化であるから.しかし,その国際社会に及ぼす病理学的な効果は深刻だ.

NYT May 5, 2013

Syria Is Not Iraq

By BILL KELLER

FP May 6, 2013

How Syria didn't ruin the Arab Spring

Posted By Daniel W. Drezner

FP May 6, 2013

Red-Line Follies

BY DAVID ROTHKOPF

The Guardian, Tuesday 7 May 2013

Barack Obama is running out of time to end Middle East dithering

Simon Tisdall

FP May 7, 2013

Israel’s Three Gambles

BY DANIEL BYMAN, NATAN SACHS

イスラエルがシリアを攻撃した.イスラエル空軍が,ヒズボラに向かうイラン製の地対地ミサイルを標的にし,同時に,ダマスカス周辺の軍事施設を破壊した.それはイスラエル諜報機関の優秀さを示すだけでなく,報復や周辺地域を不安定化する危険を意味する.

イスラエルは化学兵器や先端兵器が敵の手に渡るのを恐れている.特に,イスラエルとヒズボラの長期のバランスが変化するのを嫌う.より広い意味では,イラン,シリア,ヒズボラの同盟関係を破りたいのだ.

しかし,空爆はギャンブルだった.それが成功するには,3つの前提が必要だ.1.シリア政府は報復しない.内戦に忙しい.2.ヒズボラも報復できない.レバノンを代表する地位を失いつつある.3.最終的には,近隣諸国の干渉でシリアが崩壊する.

この最後の点で,シリアにかかわる同盟諸国をまとめるため,アメリカは重要な意味を持つ.しかし,オバマ政権は明確な戦略を示していない.

WP May 7, 2013

Questioning Syrian Intervention

By Eugene Robinson

YaleGlobal, 7 May 2013

Expanding Civil War: After Syria, Iraq?

Mohammed Ayoob

イラクの政策転換が,シリアと同じような,セクト対立と完全な内戦に向かっている.イラクの国内政治には,今もアメリカとトルコが重要な役割を果たしているけれど,サウジとイランとの権力争い,そして,この地域のシーア派とスンニ派との対立が主要な流れを決める.

アメリカによるサダム・フセインの権力崩壊は,皮肉なことに,イランの影響力を拡大する機会となり,アメリカの影響は衰えている.イラクが内戦状態に向かうことは,イランとサウジアラビアの外からの介入が加速している.そして同じシナリオが,NATOの撤退するアフガニスタンやパキスタンでも起きるだろう.

国内対立や地域のセクト間対立が,しばしば,完全に一つに連なる,高度に覚醒した地域不安を中東に生み出す.

FP May 7, 2013

Leave Bad Enough Alone

BY EDWARD LUTTWAK

「今,最も権威ある意見はこうだ.オバマ大統領はシリアのアサド体制を権力の座から追放する決定的な行動を取ることに失敗した.その理由は,政権内部の対立,シリア周辺のバランス・オブ・パワーに関する誤算,オバマの不決断である,と.しかし,別の説明もある.オバマ政権は苦しい経験から学んで計算された抑制を示したのだ.さらに言えば,イスラムの紛争地帯から抜け出て,中国の包摂に向かう,という戦略上の優先順位を守った,と.」

独裁者を倒したアラブの3か国は失望する結果になっている.チュニジアは慢性的な暴力に苦しみ,リビアは地域とエスニックによる分裂に至り,エジプトはムスリム同胞団が典型的な政治の失敗を示している.モルシ大統領は,前任者のムバラクよりも権威主義的になり,深刻な経済悪化をまともに経営することもできない.

これら3か国は非常に異なる条件でありながら,同様に民主的な安定した国家に転換できなかった.そこに共通する理由として,イスラム教の政治的な役割を見ないわけにいかない.現代のイスラム世界は,どこも非常に貧しく,民主主義的な効果的ガバナンスを支える状態にない.さまざまなアナーキーが存在するだけだ.

中東や中央アジアでセクト間の紛争にかかわった10年から,このことを学んだアメリカは,新しい責任を自覚した.それは,中国の台頭が北アフリカや中東,アフガニスタンに及ぼす影響を抑えることである.また,中国の周辺地域では,民主主義的な諸国,経済的に進んだ人民が,アメリカに一層の関与を求めている.

アメリカは冷静に,自制と戦略的優先順位に従うべきだ.

FT May 8, 2013

Syrian civil war is going regional

NYT May 8, 2013

Diplomatic Stirrings on Syria

By THE EDITORIAL BOARD

ロシア政府がアサド体制への支援をやめることが,交渉による解決をアサドに受け入れさせる鍵である.シリアが不安定化し,長期にわたってテロ集団の温床になることは,ロシアの利益ではないから.

NYT May 8, 2013

New Diplomatic Push to End Civil War in Syria

By STEVEN LEE MYERS and RICK GLADSTONE

WP May 9, 2013

A beginning for Syria talks

By David Ignatius

アサドを除く移行政権を作って,戦闘を終わらせる.アメリカのケリー国務長官とロシアのラヴロフ外相は,この点を合意した.しかし,どうやって? どのような集団が交渉や政権に参加するのか? オバマ政権はイランの参加を否定しているが,地域に長期的な体制を築くためには,イランの参加も欠かせない.

WP May 9, 2013

U.S. credibility is not on the line in Syria

By Fareed Zakaria

オバマの発言「レッド・ライン」は,アメリカ外交についての信頼を損なう,としてJohn McCain and Lindsey Graham上院議員は非難した.イランや北朝鮮が見ているぞ,と.

しかし,1983年にレバノンへ海兵隊を送ったレーガン大統領も,数か月後に撤収を命じた.冷戦下でアメリカの信用を損なった,という批判に,そのような人もいるだろうが,状況は常に変化する,と答えた.実際,冷戦はアメリカの勝利に終わった.

もし言葉通りに信用を守るなら,アメリカはイランや北朝鮮とも戦争することになっただろう.研究者は,アメリカが約束を守るために無駄にした多くの人命と財政負担を示している.信用というのは,現時点の利益,バランス・オブ・パワーによって評価されるべきで,過去の発言で犠牲を増やすべきではない.

シリアについて,アメリカはより多くの避難所を設けて,それを維持できるように支援すべきである.避難民たちが必要な物資を得られるよう,他国と協力すべきである.また,反政府勢力をもっと強固な統一組織にするよう試みることだろう.

しかし,シリアの紛争は,基本的に,レバノンやイラクと同じ,少数派のエリートと抑圧されてきた多数派との内戦である.彼らは,もし敗北すれば殺害され,「エスニック・クレンジング」になると知っている.だから,死ぬまで戦うのだ.和平への道は,唯一,集団間の政治的合意である.アメリカが軍事介入しても,一時的な変化が起きるだけで,問題は何も解決しない.その後,一層の流血が生じ,アメリカは何もできず,取り残される.


l  日本の改革

FT May 3, 2013

Abe has tough job convincing Japan on the return of inflation

By Jonathan Soble in Tokyo

Project Syndicate 03 May 2013

The Japanese Experiment

Mohamed A. El-Erian

日本の革命的な政策転換は,その決定的な展開が海外の動向に依存している.安倍首相の政策は,日本の歴史を否定するような経済政策の実験である.

政策の変化とは,月に750億ドルの債券を日銀が購入することだ.それは比率でみるなら,現在,アメリカ連銀が行っている量の3倍である.そして,インフレ目標を2%にして,2年で達成すると決めた.

日本の株価は,この政策が議論され始めてから55%も上昇した.そして円は,危機に苦しむユーロに対しても20%減価した.この政策は,株価上昇で得た「富」が支出を促し,投資家の「アニマル・スピリット」を刺激して経済全体に波及する,と考えられている.

しかし,高齢化する日本の人口は,資産効果や「アニマル・スピリット」を弱めている.資源の移動は困難で,金利はすでに低く,デフレが続いてきた.日本政府の債務はGDP238%にも達している.経済政策の革命どころではない.その失敗によって,投資が日本から逃避することも懸念されている.

日銀だけでは不十分なのだ.2つの条件が必要だ.すなわち,1.根本的な構造改革を実行すること.2.日本が外国の需要を奪うことについて,外国政府の黙認が続くこと.

アメリカに指導されたG20が,日本の政策を支持したため,不満はある程度抑えられた.日本が構造改革に成功して成長すれば,外国政府も報復するより構造改革を進めるだろう.逆に,日本が改革を怠れば,外国政府は市場を失うことに不満を強め,通貨戦争や,その他の近隣窮乏化政策が始まる.

NYT MAY 7, 2013

Japan Says It Will Abide by Apologies Over War

By MARTIN FACKLER

FT May 8, 2013

China and the post-tsunami spirithaverevived Japan

By David Pilling

なぜアベノミクスは受け入れられたのか? 日本人はなぜ,突然,変わったのか? それには2つの要因が作用している.2011年の津波と,中国の台頭だ.

日本人の安全保障に関する不安と,日本の経済規模を抜いた中国への不安が強まった.すなわち,アベノミクスは安倍晋三のナショナリズムと一緒に受け入れられたのだ.だから,TPPに賛成しても,その動機は疑わしい.重要な改革は何も行われていない.

WSJ May 8, 2013

Unearned Praise for Abenomics

By JOSEPH STERNBERG

円安が日本の経済を復活させるのではない.

円安によって,日本企業が輸出価格を引き下げ,輸出を伸ばした,ということはない.輸出価格を維持している.しかも円安はいつまでも続かない.日本が円安で成長できるのは,世界経済が好調なときである.円安は,安倍首相が大急ぎで経済改革を進める時間を与えた.

WSJ May 9, 2013

Abenomics Hits the Neighbors


l  苦汗工場

FT May 3, 2013

Boycotts will not help Bangladesh’s poor

By Tim Harford

FP MAY/JUNE 2013

Give Sam Walton the Nobel Prize

BY CHARLES KENNY

NYT May 8, 2013

Clothing Is New Front in Movement for Fair Trade

By STEPHANIE CLIFFORD


l  機械化・雇用・労組

SPIEGEL ONLINE 05/03/2013

Man vs. Machine

Are Any Jobs Safe from Innovation?

By Thomas Schulz

技術革新が雇用を奪う,という過去の警告は誇張されていた.しかし,今回は違う.機械化の急激な進行は世界の労働市場に影響を与えるだろう.コンピューターを利用するデジタル革命の普及である.

自動車の組み立てラインだけでなく,現金の受領,航空券のチケット処理,金融取引の計算,ネットによる旅行代理店,など.すべてが自動でできるから,雇用は減っていく.

金融危機で西側の経済は雇用の地殻変動を生じた.しかし,アジアもこの変化を免れない.人間と機械との戦いは,中国の工場でも雇用を減らしている.アメリカには,トラック,タクシー,バス,リムジンの運転手が400万人いる.こうした雇用が一瞬で消えることはない.しかし,かなり急速に消滅するだろう.

NYT May 3, 2013

The Idled Young Americans

By DAVID LEONHARDT

機能不全のヨーロッパ大陸には職のない若者があふれている.しかし,アメリカでも,職のない若者が政治論争の主役になるだろう.

教育,再訓練,雇用機会の紹介,あるいは,移民政策.既存企業はなかなか雇用を増やさない.新興企業は少ない.高度な技術や熟練を持つ移民をもっと多く受け入れるなら,起業と雇用を増やすことができる.

WP May 9, 2013

Labor wrestles with its future

By Harold Meyerson

資本主義が誕生してから,より高い報酬と安全な職場を求めてギルドや労働組合は雇用者と交渉してきた.アメリカの労働運動も200年の歴史を持つ.

しかし,このやり方は変化し始めている.集団交渉が間違っているからではなく,労働者が組合を結成しなくなったからだ.20世紀の半ばに3分の1であった組合の組織率が,昨年は6.6%でしかない.

労働組合は存亡の危機にある.組合の使命とは何か? 組合に属さない者の利益を実現するべきか? こうした問題には容易に答えられない.

多くの都市でファーストフードの労働者を組織するthe Service Employees International Union (SEIU)は,1日スト,を実施した.その目的は,マクドナルドのような特定企業の雇用契約ではない.多くの同様な労働者たちと共感を広めて,地方議会に最低賃金の引き上げを求めたのだ.

AFL-CIOも,同様に,新しい役割を模索している.雇用者との契約で決められた組合員でない場合にも,集団交渉に参加を呼び掛けている.「雇用者にもはや我々のメンバーを決めさせない.我々が決める.」 そして,我々は何になる必要があるのか,研究者や他の運動にかかわる仲間に問い続けている.

その改革の試みは,かつて労働騎士団(the Knights of Labor)が目指したものに近い.1880年代の労働者組織では,労働組合と,労働者の政治要求(8時間労働)と,友愛団体とが重なっていた.


l  経済と経済学の革新

VOX 3 May 2013

Fiscal consolidation: At what speed?

Olivier Blanchard, Daniel Leigh

財政再建の複雑な選択には,単純な指標は存在せず,各国が多くの要因を慎重に検討しなければならない.

l  乗数が,将来より今の方が大きいなら,財政再建は遅らせるべきだ.それが現在は大きいと考える理由が少なくとも3つある.1.現在は名目金利がゼロに近いので,将来,金利が正常化してから金融政策による財政再建策の衝撃緩和が行える.2.金融システムはうまく機能せず,企業や家計が融資を受けるのは難しい.現在の所得・利潤によって支出するとき,乗数は大きくなる.3.実証研究によれば,経済停滞は乗数を大きくする.

l  成長減速の危険があるとき,財政再建は遅らせるべきだ.

l  ヒステレシス(履歴効果)があるから,財政再建は遅らせるべきだ.財政再建は長期に及ぶダメージを経済に与える.短期の景気循環だけでなく,長期の成長トレンドを損なうのだ.

l  累積債務問題や複数均衡があるとき,財政再建は遅らせるべきだ.自己資本の増強や増税は成長を損なう.政府のデフォルトを疑う投資家は,リスク・プレミアムとして高金利を求める.それは民間の融資に及ぶ.増税やインフレについての不確実性も増す.そして,債務が累積し,デフォルトが起こりうるほど高水準になったとき,危機もしくは改善の予想は自己実現的になる.複数均衡を改善に向ける一つの方法は,中央銀行がそれを助けるために低金利を続けることだ.しかし,中央銀行の役割を誇張してはいけない.

l  デフォルトのリスク評価は,債務水準とその時の経済状況をふくむ,複雑な判断である.特に,中期の再建計画が重要になる.市場の信認を得なければならない.改革の疲れや将来の政府を制約する決定は,ここで重要な問題になる.しかし,改革の機運が失われる前に,困難な決断が求められる.その意味では,財政再建を急ぐべきだ.

Project Syndicate 08 May 2013

Europe’s Irrelevant Austerity Debate

Daniel Gros

Carmen Reinhart and Kenneth Rogoffが示した政府債務がGDP90%を超えると成長を損なう,という主張は,債務累積と緊縮策を考える上で重要な論点を見落としている.それは,公的債務が外国人に対するものか,自国民に対するものか,という違いである.

外国人は政府の増税や支出削減について投票できない.また,自国民に対する債務であれば,それは(納税者から債券保有者への)再分配にすぎない.外国人への再分配は,国民の厚生水準を低下させ,資源を外国に移転し,通常,為替レートの減価と国内支出の減少をもたらす.

ユーロ危機は,為替レートが利用できないし,政府債務危機よりも外国債務危機になっている.ユーロ危機に苦しむのは,経常収支が赤字の国だけだ.例えば,1年間も政府のないベルギーや,OECD諸国で最高の債務依存水準にある日本を見ればよい.ユーロ危機は,経常収支が改善すれば消滅するだろう.Reinhart and Rogoff90%は無視すればよい.

BLOOMBERG May 9, 2013

Krugman, DeLong and Radical Centrism

By Clive Crook

VOX 9 May 2013

The cat in the tree and further observations: Rethinking macroeconomic policy

George A. Akerlof

(これら4つのコラムは最近の会議を考察している.IMF conference “Rethinking Macro Policy II: First Steps and Early Lessons”.

マクロ経済学者は金融危機を予測することに失敗した.しかし,現在の失業水準ではなく,大恐慌を回避した点で,経済政策は成功であった.

VOX 9 May 2013

Rethinking macroeconomic policy

Olivier Blanchard

再考と改革が話し合われた.しかし,まだ最終の目的地が見えない.金融政策の再定義なのか,金融規制の見直しなのか,マクロ・プルーデンシャルか?

一般的な方向として6つの進路が見える.

1.   金融規制 ・・・望ましい金融規制に関する合意はない.過去40年間で,有益は金融革新はATMだけだ,と言ったPaul Volckerを思い出す.証券化やデリバティブの評価,資本移動に関して,判断は難しい.

2.   金融部門の役割

3.   マクロ・プルーデンシャル

4.   ガバナンスと,マクロ・ミクロ・政策の役割分担

5.   債務の維持可能な水準 ・・・この点で,日銀の政策は興味深い.

6.   複数均衡と,市場とのコミュニケーション

VOX 9 May 2013

Preventing the next catastrophe: Where do we stand?

David Romer

ショックの大きさに見合った改革が行われていない.金融部門自身がショックの源泉となった.マクロ経済学も,金融システムも,もっと大きな改革を必要としている.

VOX 9 May 2013

The lessons of the North Atlantic crisis for economic theory and policy

Joseph Stiglitz

市場は,それ自体で,安定的でも,効率的でも,自己調整的でもない.標準的な経済モデルは外征的なショックを扱うことに向いている.しかし,ショックの多くは内生的である.

これはバランス・シート悪化による危機だけではない.構造的な転換が起きている.製造業部門からサービス分門へのシフトが起きる.それに加えて,北大西洋の諸国には比較優位の変化が大規模な構造調整を強いている.

このようなときに,市場は,効率的で,安定的な,社会的に受け入れられる結果を実現できない.成長,安定,好ましい分配をもたらす経済アーキテクチャーが必要である.失敗した経済モデルを正すべきである.


後半へ続く)