IPEの果樹園2013

今週のReview

5/6-11

 

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政策・統計・階級 ・・・中国と世界秩序 ・・・チェチェンとシリア ・・・安倍晋三という政治 ・・・ヨーロッパの緊縮策 ・・・ユーロ圏の調整過程 ・・・アメリカのいない世界 ・・・主要諸国の金融政策協調 ・・・アイスランドとラトビア ・・・スコットランド独立と通貨

 [長いReview]

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l  政策・統計・階級

NYT April 25, 2013

The 1 Percent’s Solution

By PAUL KRUGMAN

ケインズ主義と緊縮派との激しい論争が続いてきたが,それは緊縮派の予言が現実によって否定され,また,その学問的な基礎が疑わしいものであるとわかって,はっきりと勝負がついた.こうしたことは珍しい.

その主要な研究(Alberto Alesina and Silvia Ardagna on “expansionary austerity” and Carmen Reinhart and Kenneth Rogoff on the dangerous debt “threshold” at 90 percent of G.D.P.)が,IMFの詳しい検証や論争を経て,間違いであるとわかったけれど,エリートたちの意見は変わらない,むしろ緊縮要求を強めるだろう.

これらの学術研究は,緊縮要求にともなう倫理的な後ろめたさを解消してくれる「科学」であった.

NYT April 25, 2013

Debt, Growth and the Austerity Debate

By CARMEN M. REINHART and KENNETH S. ROGOFF

20105月に,私たちは学術論文を発表した.その主要な発見は,44か国の200年間について,データから,年産出額に対して政府債務が90%を超える,重債務国は,顕著な低成長と結びついている,というものであった.

私たちの研究,さらには信用や尊厳をも,新聞やテレビが猛烈に攻撃した.憎悪や脅迫を含むメールを受け取ったし,公共部門の解雇や政府サービスの削減,増税について私たちを責める者もいた.それらは悲しむべき社会科学研究の政治化である.

因果関係について,私たちはそれが双方向に働くと考える.また,すべての時期,すべての場所で,成立する法則は存在しない.90%が魔法の閾値である主張したことは一度もない.重債務の時期は長く続いており,リベラル派が考えるように,単に不況期の問題ではない.

私たちは,重債務国にとって成長を目指すのは難しいと考える.しかし,低成長期に,失業が長引く中で,支出削減や増税が難しいことも知っている.構造改革をともなわない緊縮策はめったに成功しないし,貧困層や中産階級に負担を集中するような間違った政策を失敗する.刺激策をあまりに早く中止することも危険である.

私たちはラディカルな提案も支持したことがある.公的債務や民間債務の組み換え,ギリシャ,アイルランドなど,ヨーロッパ周辺諸国の債務引き下げ,債務額を下回った住宅の元本引き下げ,を提案した.

多くの国が,特に高齢化による医療費や年金の負担を考慮すれば,公的債務の累積に取り組むべきであり,貯蓄者から債務者への富の移転を意味する.この苦痛に満ちた問題を扱うことが研究者にとって重要なのだ.

Project Syndicate 29 April 2013

When Is Government Debt Risky?

J. Bradford DeLong

Carmen Reinhart and Ken Rogoffの研究は,90%に「閾値」という間違った言葉を使い,そのタイトルも誤用されるものであった.90%まで大丈夫とか,成長のために債務を減らそう,という主張と結びついた.

金利が低く,インフレはなく,株価は上昇しているときに,景気回復のための債務による支出増を支持することは正しい.

Project Syndicate 30 April 2013

Who’s Afraid of the Big Bad Debt?

Ricardo Hausmann

Krugmanは,債務の水準を無視する点で間違っている.債券市場の監視(警戒)という懸念は,英米を観れば間違いであった,と主張する.しかし,Reinhart/Rogoffは,世界的な観点で,債務の水準が問題となり,政府の地位を弱くする,と主張している.

現在のスペインもそうだが,金融の歴史には,多くの実例がある.重債務国への不安が顕在化して,一気に金利が上昇したのだ(Mexico in 1994, Russia in 1998, Ecuador in 1999, Argentina in 2001, Uruguay in 2002, the Dominican Republic in 2003, and even the UK in 1976).

債務の水準は重要であり,債務の通貨建は一層重要である.アメリカのドルは世界の準備通貨であり,日本も自国通貨建で債券を発行できるから危機を回避できている.


l  中国と世界秩序

Project Syndicate 29 April 2013

China’s New Path

Martin Feldstein

習近平,李克強の指導部は,市場型の改革と消費・サービスに依拠した成長モデルへの移行を唱えている.年成長率は10%から,次の10年は7%に減速するだろう.

中産階級労働者の貯蓄と国有企業による投資に頼るのではなく,その消費による成長を実現すれば,国内貯蓄は減り,経常収支黒字も減少する.すでにそれはGDP2%以下の水準である.今後も中国が外国企業の買収や資源の取得に対して投資するとすれば,次第に海外債券を購入するより,それらを売却するようになるだろう.中国の外貨準備も減少する.

WSJ April 30, 2013

Welcome to General Tso's Motors

By EDWARD NIEDERMEYER

アメリカ自動車会社は政府による救済だけで生き延びたのではない.GMは生産を中国に移転し始めた.これにより中国のやる気を引き出せると考えている.

中国で行う自動車の生産は,全体が中国企業による下請けになってきた.GMは上海に新しい技術センターを開設し,積極的に技術移転を行っている.それを促すような政策がある.


l  安倍晋三という政治

WP April 27, 2013

Shinzo Abe’s inability to face history

By Editorial Board

安倍晋三が政権を執ったときから,一つの問題がはっきりと答えを求めていた.安倍は,日本のために,その個人的なナショナリズムの感情,特に,歴史の見直し,を抑えられるだろうか?

これまでは,その答えが肯定的であった.しかし,今週,それは逆転されるリスクを示した.韓国の植民地化について問われると,それは学術研究や国際社会の問題であって,立場によって見方は変わる,と答えた.

確かに歴史は常に再解釈される.しかし,変わらない事実がある.日本は朝鮮を植民地化し,満州を植民地化し,さらに中国の他の地域にもそれを広げた.日本はマレーシアを侵略し,攻撃した.なぜ,ヨーロッパで数十年前にドイツがしたように,歴史を直視できないのか?

安倍の求める軍事力の強化や憲法改正には合理的な理由がある.しかし,彼が戦前の帝国を懐古する気分であるなら,国民の懐疑は深まり,近隣諸国の反発を受けて,国内改革の力も失うだろう.

FT April 28, 2013

Shinzo Abe must resist dangerous distractions

それは時間の問題であった.日本の安倍首相は,その内なるデモン(邪心),ナショナリズムの衝動を抑えてきた.しかし,今や70%の高い支持率を得て,彼の仮面は剥げ落ちた.

戦没者を弔いたい,という彼のもっともな願いは,靖国参拝という間違った場所に向かっている.そこは,救いがたい天皇崇拝のナショナリズム・カルト集団が組織したものだ.安倍は,右派の信頼を得ていることを利して,もっと論争を生じない非宗教の記念施設を推進するべきだろう.


l  ヨーロッパの緊縮策

FT April 29, 2013

Not all European countries can be Germany

By AlexanderPrivitera

1990年代,東西再統一は西ドイツ企業に高熟練で安価な東欧労働力を利用可能にした.東ドイツへの大規模なインフラ投資にもかかわらず,ドイツ企業の多くは東ドイツよりも東欧に投資した.旧ソ連圏の諸国がドイツのサプライ・チェーンに組み込まれた結果,ドイツの労働者たちはますます厳しい競争圧力にさらされた.失業が増大し,ドイツはヨーロッパの病人になった.

1990年代末にユーロ圏が誕生し,ドイツの競争力を奪ってきた貨幣価値の変動(ドイツ・マルクの増価)が消滅し,ユーロ圏内の金利が下がって需要を刺激した.それらはドイツからの輸出を増やした.また労働市場の制約は,ドイツ外の労働力を利用することや,ドイツの労働組合が弱体化して緩和された.

しかし,このドイツの失業減少は,労働市場の2極化によって達成されたものである.シュレーダーのAgenda 2010は,ユーロ圏周辺諸国の苦境を解決するものではない.その時期や条件を見ずに,ドイツのモデルを強制すれば,彼らを崖から突き落とすだけである.


l  ユーロ圏の調整過程

VOX 26 April 2013

Current-account surpluses in the Eurozone: Should they be reduced?

Alexandr Hobza, Stefan Zeugner

世界的に金利が低下する中で,黒字国の貯蓄が金融機関によって積極的にユーロ圏の赤字諸国に融資された.それは単一の金融市場を形成するという見通しによって,周辺部で供給を超える需要を刺激し,経常収支の赤字を増大させていたのだ.

国境を超える金融監督が欠けていたために,こうした融資や投資のリスクが大きくなり過ぎた.すなわち,ドイツの金融機関は対外資産,特に,アメリカの住宅モーゲージによる金融デリバティブで膨大な損失を抱え込んだ.それはユーロ圏内の不均衡を融資するときも同じであった.

BLOOMBERG May 1, 2013

For Germans There Is No Alternative to the Euro

By Jan F. Kallmorgen

ユーロが成立後,ドルに対して急速に減価したとき,マルクの強さに誇りを持っていたドイツ人はそれを嫌っただろう.ギリシャが財政に関して統計を偽っていたとき,ドイツ人は南欧への偏見を強めただろう.また救済融資の条件を知ったとき,ドイツ人は改革の実行可能性を疑った.

昨年の夏,ECBが赤字国の政府債券を購入して拡大策を採ったとき,世界はそれを歓迎したが,財政の健全さを尊重するドイツ人はもっと明確に反対の声を上げた.そして,ドイツの200人のエコノミストたちが連名で,メルケル首相のユーロ政策を批判する公開書簡を新聞に載せた.

しかし,ドイツ人の3分の2はユーロを維持することを望んでいる.多くのドイツ人はEUがもっと厳格な政策を危機に対して示すべきだと考えている,しかし,同時に,ドイツ・マルクでは,ペセタやフランと同様に,人民元やドル,レアルとも競争できないことを知っているのだ.


l  アメリカのいない世界

WP April 27, 2013

How to build a second American century

By Richard N. Haass

2度目の「アメリカの世紀」が始まる.それはイデオロギーの対立や,全体主義の妥当ではなく,新しい時代の課題に応える有益な,国際的枠組みを築くことに焦点を向けるだろう.すなわち,気候変動,大量破壊兵器の拡散,伝染病の蔓延,貿易・投資の保護主義,テロ,90億人がこの惑星に居住できる,ということだ.

それがアメリカの世紀である,という6つの理由がある.

公共教育,インフラ,移民法,医療保険,組合,法人税,社会給付,債務依存,などの問題を解決することだ.そして選択による戦争を避ける.それらはアメリカの政治にかかっている.アメリカの指導しない21世紀とは,地域や世界の諸問題に対して,集団的な意思や能力が低下した,カオスである.

NYT April 30, 2013

It’s a 401(k) World

By THOMAS L. FRIEDMAN

私たちは新しい世界に住んでいる.それは「ハイパーコネクティッド・ワールド」だ.

それは動機のある者にとっては,すべてを自分でアレンジできる素晴らしい世界だ.しかし,動機のない者には,彼らを守る壁も,天井も,床も消滅した,過去の安定性が失われてしまった世界だ.私はそれを「401(k)の世界」と呼ぶ.

もはや,政府も,企業も,組合も,あなたのために,ほとんど何もしてくれない.年金を確保したければ,自分で投資するために学ぶしかない

私たちは常にバーを飛び越えねばならず,自分の動機と能力を高めていなければならない.この世界を恐れる人も多いだろうが,世界は元に戻らない.彼らがすべてこの世界から利益を受けるように,政府は支援する策を考えるしかない.


l  主要諸国の金融政策協調

FT April 28, 2013

The world wisely edges away from talk of a currency war

By Barry Eichengreen

サミットの外交的な声明に注目する価値などめったにない.しかし,G20の最近の声明には,注目すべき一文がある.「金融政策は,国内物価の安定化に向けられるべきであり,それは各中央銀行の権限に従って景気回復を支持し続けるべきだ.」

ここには見過ごせない追加された意味がある.すなわち,日銀は批判されずに,承認されたのだ.2%というインフレ目標に向けて金融資産を積極的に購入できる.またアメリカ連銀は,その量的緩和と将来に向けた誘導政策により,インフレ抑制と雇用拡大を追求できる.さらに,財政刺激策も,利用できるなら,してよい.

前回の会議で「通貨戦争」が議論されたことと比べて,大きな前進である.他国の中央銀行は,日銀やアメリカ連銀が行動しなければ,事態は一層悪化すると理解したのだ.資本流入や自国通貨の増価は不快であるが,アメリカや日本の不況が再来するのはもっと耐え難い.

なぜ転換が起きたのか? 第1に,日銀の黒田総裁は,その政策意図を説明するのに成功した.また,バーナンキ連銀議長は,連銀の金融緩和が他国の中央銀行との競争的切り下げを招く,という非難を退けた.これは「近隣窮乏化政策」ではなく,むしろポジティブ・サムの「近隣富裕化」政策である,と主張した.

2に,新興市場の政策担当者たちは,もし資本流入がマクロ経済や金融市場にとって危険であるなら,資本流入に課税や規制するなど,マクロ・プルーデンシャル政策を採用するべきだ,と考えた.それはすでに採用されていることである.


l  アイスランドとラトビア

FT April 30, 2013

Why the Baltic states are no model

By Martin Wolf

金融危機の前,バルト海諸国は融資の増大によるブームに沸いていた.ラトビアの経常収支赤字は,2007年,GDP22%にもなっていた.民間部門への資本流入がそれを支えていたのだ.しかし,金融危機で4つの災厄がやってきた.すなわち,資本流入の突然死,資産価格の崩壊,不況,財政赤字の膨張,である.ラトビアは,EUIMF,北欧諸国などから,寛大な条件の融資を得たが,IMFの経済顧問であったOlivier Blanchardは,ユーロとの為替レートを固定した融資プログラムが破滅に終わるだろう,と考えていた.

しかし,実際は財政赤字を減らして,政府は計画を実行した.その代わり,2007年の第4四半期と谷の間にGDP25%も縮小した.2012年の16%という成長を「成功」と呼ぶのは問題である.ラトビアは危機前に比べて,2008-2012年の累計で年産出額の77%を失ったのだ.失業者も今は減ったが,それでも201212月にまだ14%が失業している.

要するに,ラトビアは歴史上最悪の不況を経験したのである.これを手本とする国があるだろうか?

ラトビアなど,バルト海諸国が厳しい調整を実現できたのは,4つの条件があったからだ.1.労働コストが非常に低かった.技術導入のフロンティアが大きいことを意味する.2.小国開放経済である.輸出による回復が可能であった.3.外国の銀行が主要な役割を担った.それは本国の財政基盤の確かさによって金融システムを救った.4.ユーロ圏参加をあきらめた場合,ロシアに頼るしかなくなる.国民はそれを強く拒んでいた.


l  スコットランド独立と通貨

FT May 1, 2013

Time to prepare for the scottie

DeAnne Julius

スコットランドの独立を問う国民投票まで2年を切った.もし独立する場合,その通貨はどうするのか? イギリス大蔵省はその理性的な面の分析をまとめた.

現在,イングランドとスコットランドは緊密に統合された経済圏を形成し,通貨同盟が成功している.スコットランドへの財政移転や,金融危機に際して,イングランド銀行によるスコットランドの主要銀行救済も行われた.

独立した場合,スコットランドには3つの選択肢が考えられる.1.ポンドを利用したカレンシー・ボード制,2.ユーロの採用,3.独自通貨とユーロもしくはポンドへの暗黙の固定化.

いずれの場合も,スコットランドの経済規模は小さいから交渉力は限られ,取引コストは増し,為替レートの激しい変動にさらされるリスクが高い.しかし,北欧諸国が示しているように,実行可能な政策はある.

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The Economist April 20th 2013

Clean, safe and it drives itself

China’s economy: Speed isn’t everything

Japan’s nuclear future: Don’t look now

Free trade with Iceland: The rice man cometh

Banning the sex industry: Naked ambition

(コメント) 自動車に将来はない,と思っていましたが,記事の予想は全く逆でした.自動車は人類に高い移動性を実現した道具であり,もっと効率がよくなり,もっと環境汚染や温暖化を抑制でき,さらに自動運転が広まって,世界を再編するほどの影響力を発揮するだろう,というわけです.・・・そうかな?

中国の成長率が低下することは,すでに示された都市の環境悪化や農村部の土地収奪に対する抗議活動を見ても,社会的に正当な転換です.他方,日本政府は,自民党が権力を回復したことで脱原発を語らなくなり,むしろ「アベノミクス」の成功が円安とエネルギー価格上昇,貿易赤字の抑制,すなわち,原発再開にかかっている,と考え始めたのです.

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IPEの想像力 5/6/13

ゴールデンウィークでしたから,古本屋に行って北方健三の『楊家将』を手に入れ,大いに楽しみました.快晴の日曜日には天理まで走りました.

信者たちは正座してから,4度,大きな音を立てて拍手し,両手を返して,指先を後ろ向きに畳に突いて,頭を垂れました.一番大きな拝礼場の中央には,庭のような地面があり,その木製の台が信仰の象徴です.畳を敷いた広い礼拝場に座っていると,特有の仕草で手を緩やかに回し,簡単な調子の歌を唱える女性がいました.それは,威圧的な,あるいは,荘厳さを示す宗教歌ではなく,むしろ素朴な,純真な歌だな,と思いました.

すぐ近くに天理駅があります.駅前でパンを買って,電車を待ちながら遅い朝食にしました.

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中国の外交政策に関して,BBCの北京における議論を聴きました(BBC 06/03/2013).それを少し変えて,借用すれば・・・

A: 中国の台頭は東アジアの秩序を不安定化している.特に,中国と日本,ベトナム,フィリピンの領土紛争が悪化し,北朝鮮の核ミサイルも解決策が見当たらない.

B: 中国のパワーが増大する中で,周辺諸国との関係が変化するのは当然だ.また,かつてのヨーロッパ諸国による帝国主義は「海洋の発見」であった.今,大陸でも海洋でもない「海底」が発見された.「新領土(としての海底)」をめぐる帝国主義が復活する可能性がある.

C: 日中間で領土紛争が激化したのは,日本の政策が変化したからだ.中国はその犠牲者である,と中国側は認識している.石原慎太郎はナショナリズムを刺激し,日本側が田中角栄・鄧小平の合意を破って地位を変更し始めた.中国はこれに対応しなければならなかった.

D: 米中関係については,特に,オバマ政権の「アジア旋回」が重要だ.それは,ニクソン以来の米中における包摂戦略,相互依存の深化を転換する新しい外交であったのか? むしろ中東からの撤退を,「敗北」ではなく「勝利」と見せるための(ニクソン的な)戦略転換であり,それを正当化する表現だろう.

E: しかし,中国の民衆はポピュリズムを刺激された.この点で,世界金融危機も,アメリカの自信喪失と中国の台頭を加速した,と明確に意識している.

他方,中国の指導部はもっと冷静だ.アメリカに中国を封じ込める意図はないし,「アジア旋回」の中身は複雑であり,軍事的な次元に限らない,と理解している.しかし,中国はアメリカに従う気などない.中国の利益になることで合意するだけだ.

F: 2つの「例外主義」が衝突する.アメリカも中国も,自国が世界の中心で,秩序を担っている,と信じている.中国はアメリカの創った秩序を分担する気は全くない.中国の一人当たりGDP6000ドルでしかなく,貿易でも,気候変動でも,アメリカとまったく意見が異なる.

G: 米中関係が重要であり,各分野で協力できるような国際会議やメカニズムを構築することが望ましい.それが可能か,分からないが.

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私の講義は,まだ,シュメール文明からアッカドのサルゴン王です.現代のガバナンスの起源として.

・・・長期的な利益,全体としての利益を,国家が実現することを,「戦略」と呼ぶ.それは国家間で異なり,境界を越えて,一方的な実現を目指すとき,「帝国主義」になる.しかし,平和が維持されるなら,次第に貿易や投資,移民などの相互依存関係が深まり,交渉と協力が制度化される.通貨の問題が,最も影響を広げ,経済の安定性と成長の確保に重要である.

帝国も,宗教も,なくならない.しかし,その攻撃的な側面は,教育や制度,文化の変容によって緩和できる.・・・今では,ユーロ危機や,ボストン・マラソンのテロ事件などが,私たちの文明の水準を問うのです.

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