前半から続く)


l  ユーロ圏の調整過程

VOX 26 April 2013

Current-account surpluses in the Eurozone: Should they be reduced?

Alexandr Hobza, Stefan Zeugner

経常収支赤字国の調整,支出(消費,投資)削減が議論になっているが,危機の前には,それに対応する黒字国,特に,ドイツの大幅な黒字があった.黒字が累積することをどう見るか,も問題である.その調整はユーロ圏全体の問題である.

世界的に金利が低下する中で,黒字国の貯蓄が金融機関によって積極的にユーロ圏の赤字諸国に融資された.それは単一の金融市場を形成するという見通しによって,周辺部で供給を超える需要を刺激し,経常収支の赤字を増大させていたのだ.

国境を超える金融監督が欠けていたために,こうした融資や投資のリスクが大きくなり過ぎた.すなわち,ドイツの金融機関は対外資産,特に,アメリカの住宅モーゲージによる金融デリバティブで膨大な損失を抱え込んだ.それはユーロ圏内の不均衡を融資するときも同じであった.

しかも,黒字諸国の賃金と物価は抑制されていたから,ユーロの増価ももたらしただろう.ドイツの銀行システムにおいて,地方銀行は国内の融資よりも対外融資を好んだかもしれない.過剰な貯蓄や投資は,市場の変化によって抑制されるべきであったが,市場や政策の失敗がそれを妨げたかもしれない.黒字国自身とユーロ圏にとって,構造改革が望ましい.

FT April 29, 2013

The eurozone is still vulnerable

Howard Davies

VOX 30 April 2013

Did the euro kill governance in the periphery?

Jesús Fernández-Villaverde, Luis Garicano, Tano Santos

BLOOMBERG May 1, 2013

For Germans There Is No Alternative to the Euro

By Jan F. Kallmorgen

ユーロを採用するべきか,とドイツ国民は一度も問われたことがない.ドイツに新しい政党Alternative for Germanyが誕生し,ドイツ・マルクへの回帰を主張している.

ユーロが成立後,ドルに対して急速に減価したとき,マルクの強さに誇りを持っていたドイツ人はそれを嫌っただろう.ギリシャが財政に関して統計を偽っていたとき,ドイツ人は南欧への偏見を強めただろう.また救済融資の条件を知ったとき,ドイツ人は改革の実行可能性を疑った.

昨年の夏,ECBが赤字国の政府債券を購入して拡大策を採ったとき,世界はそれを歓迎したが,財政の健全さを尊重するドイツ人はもっと明確に反対の声を上げた.そして,ドイツの200人のエコノミストたちが連名で,メルケル首相のユーロ政策を批判する公開書簡を新聞に載せた.

しかし,ドイツ人の3分の2はユーロを維持することを望んでいる.多くのドイツ人はEUがもっと厳格な政策を危機に対して示すべきだと考えている,しかし,同時に,ドイツ・マルクでは,ペセタやフランと同様に,人民元やドル,レアルとも競争できないことを知っているのだ.

FT May 2, 2013

France and Germany must repair their relationship

By Bruno Le Maire

FT May 2, 2013

France’s economy needs to become more German

Philipp Hildebrand

FP MAY/JUNE 2013

Think Again: European Decline

BY MARK LEONARD, HANS KUNDNANI

YaleGlobal, 2 May 2013

Rescuing the European Model

Joergen Oerstroem Moeller


l  ブッシュの遺産

WP April 26, 2013

Bush’s legacy keeps getting worse

By Eugene Robinson

WP April 26, 2013

The Bush legacy

By Charles Krauthammer


l  アメリカのいない世界

WP April 27, 2013

How to build a second American century

By Richard N. Haass

2度目の「アメリカの世紀」が始まる.それはイデオロギーの対立や,全体主義の妥当ではなく,新しい時代の課題に応える有益な,国際的枠組みを築くことに焦点を向けるだろう.すなわち,気候変動,大量破壊兵器の拡散,伝染病の蔓延,貿易・投資の保護主義,テロ,90億人がこの惑星に居住できる,ということだ.

それがアメリカの世紀である,という6つの理由がある.

1.経済力でも軍事力でも群を抜いている.2.競争できる国は現れていない.中国も,EUも,日本も,ロシアも,その社会・政治に問題が多い.3.将来も,彼らは自国の経済,社会,政治問題に対応することを優先するしかない.4.アメリカは他国の反発を買うような方法を採っていない.5.人口,肥沃な土地,水,エネルギーの埋蔵量,に恵まれている.アメリカの人口は増大し,しかも,その年齢バランスが良い.開放的で,移民を受け入れている.6.高成長に戻る力がある.なぜなら,高度な教育システム,起業のための資本供給,リスクを取ることに向いた法体系,革新の文化がある.

公共教育,インフラ,移民法,医療保険,組合,法人税,社会給付,債務依存,などの問題を解決することだ.そして選択による戦争を避ける.それらはアメリカの政治にかかっている.アメリカの指導しない21世紀とは,地域や世界の諸問題に対して,集団的な意思や能力が低下した,カオスである.

Project Syndicate 30 April 2013

The World Without America

Richard N. Haass

アメリカにとって最大の脅威は,中国でも,北朝鮮でも,イランの核武装でも,テロでも,気候変動でもない.アメリカのパワーの国内的条件を失うことだ.アメリカ以外の世界の成功も,アメリカのパワーにかかっている.

それは経済的な理由による.しかも,アメリカは革新をもたらし,アイデアをもたらし,世界的な規模の様々な挑戦に立ち向かう世界を助ける.

アダム・スミスは,「見えざる手」が自由市場の成功を約束する,と述べたが,地政学的な世界ではそれは無意味である.グローバルな挑戦に対して,グローバルな対応が必要であり,そのための方式を定めて,実行を強いるには,命令を下す指導者の見える手が求められる.それが秩序ある世界だ.

それは,アメリカだけで世界の問題を解決できる,ということではない.ユニラテラリズムは機能しない.しかし,マルチラテラリズムは,それを提唱するのは容易だが,設計し,実行することが難しい.それを実行する能力を持つ国は,アメリカしか存在しない.

そのためには,アメリカがパワーの国内の条件を回復しなければならない.アメリカが秩序を維持しない世界は,中国,ロシア,ヨーロッパ,日本,インド,・・・が秩序を提供する世界ではない.誰も指導しない世界だ.そこでは慢性的に危機と紛争が起きる.アメリカ人にも,この惑星の圧倒的多数の住民にも,好ましくない.

NYT April 30, 2013

It’s a 401(k) World

By THOMAS L. FRIEDMAN

私たちは新しい世界に住んでいる.Facebook, Twitter, 4G, iPhones, iPads, high-speech broadband, ubiquitous wireless and Web-enabled cellphones, the cloud, Big Data, cellphone apps and Skype.それは「ハイパーコネクティッド・ワールド」だ.

それは動機のある者にとっては,すべてを自分でアレンジできる素晴らしい世界だ.しかし,動機のない者には,彼らを守る壁も,天井も,床も消滅した,過去の安定性が失われてしまった世界だ.私はそれを「401(k)の世界」と呼ぶ.

もはや,政府も,企業も,組合も,あなたのために,ほとんど何もしてくれない.年金を確保したければ,自分で投資するために学ぶしかない

私たちは常にバーを飛び越えねばならず,自分の動機と能力を高めていなければならない.この世界を恐れる人も多いだろうが,世界は元に戻らない.彼らがすべてこの世界から利益を受けるように,政府は支援する策を考えるしかない.

Project Syndicate 02 May 2013

The New Economy of Fealty

Harold James

FT May 2, 2013

The threats to Asia’s fragile balance of power

By Philip Stephens

最も活気のある経済でありながら,アジアは最も発火しやすい地域である.

中国の台頭,ナショナリズムの相互刺激,アメリカのアジア旋回,そして,北朝鮮というジョーカー.中国はますます攻撃的になり,日本では歴史を書き直す政権が誕生し,領土や歴史問題をめぐる対立に火を点け,アメリカは中国を抑え,北朝鮮を抑え込もうとするが,日本が不要な衝突を生じる中で,安全保障条約を利用することを警戒している.

アジアの平和が維持されるには,私たちが祈るしかない.


l  ボストンの教訓

NYT April 27, 2013

The Lesson of Boston

By FRANK BRUNI

Project Syndicate 29 April 2013

The Message from Boston

Anne-Marie Slaughter

Project Syndicate 02 May 2013

America’s Enemy Within

Ian Buruma


l  主要諸国の金融政策協調

FT April 28, 2013

The world wisely edges away from talk of a currency war

By Barry Eichengreen

サミットの外交的な声明に注目する価値などめったにない.しかし,G20の最近の声明には,注目すべき一文がある.「金融政策は,国内物価の安定化に向けられるべきであり,それは各中央銀行の権限に従って景気回復を支持し続けるべきだ.」

ここには見過ごせない追加された意味がある.すなわち,日銀は批判されずに,承認されたのだ.2%というインフレ目標に向けて金融資産を積極的に購入できる.またアメリカ連銀は,その量的緩和と将来に向けた誘導政策により,インフレ抑制と雇用拡大を追求できる.さらに,財政刺激策も,利用できるなら,してよい.

前回の会議で「通貨戦争」が議論されたことと比べて,大きな前進である.他国の中央銀行は,日銀やアメリカ連銀が行動しなければ,事態は一層悪化すると理解したのだ.資本流入や自国通貨の増価は不快であるが,アメリカや日本の不況が再来するのはもっと耐え難い.

なぜ転換が起きたのか? 第1に,日銀の黒田総裁は,その政策意図を説明するのに成功した.デフレを終わらせ,金融機関が多様なリスクを取るようにする意図はあるが,円安を目指すものではない.そして,国債だけでなく,外国政府債券を購入することはやめた.

また,バーナンキ連銀議長は,連銀の金融緩和が他国の中央銀行との競争的切り下げを招く,という非難を退けた.これは「近隣窮乏化政策」ではなく,むしろポジティブ・サムの「近隣富裕化」政策である,と主張した.

2に,新興市場の政策担当者たちは,もし資本流入がマクロ経済や金融市場にとって危険であるなら,資本流入に課税や規制するなど,マクロ・プルーデンシャル政策を採用するべきだ,と考えた.それはすでに採用されていることである.シンガポールは住宅購入により多くの頭金を世休し,香港は不動産取引税を倍増させて,銀行の不動産融資に追加の資本を要求した.ブラジルも,「通貨戦争」という非難をやめて,過剰な資本流入に資本取引税を主張している.

政策担当者たちは,それに代わるものを理解し,互いに明確に計画を説明することで,「通貨戦争」の霧が晴れるのを待つべきだ.

Project Syndicate 29 April 2013

The Trapdoors at the Fed’s Exit

Nouriel Roubini

アメリカ連銀の金融緩和により,金融資産のバブルが形成されるのは避けられない.金利を正常に戻すとき,資産市場の崩壊とハードランディングの危険は非常に高い.

連銀の政策に関して,もっと積極的な信用創出の管理,リスク・テイキング,レバレッジを利用できる,という意見と,慎重な金融政策に戻るべきだ,という意見が対立している.


l  アイスランドとラトビア

NYT April 28, 2013

Iceland Ousts Government That Steered It Out of Crisis

By SARAH LYALL

アイスランドの金融危機後,政権を握って改革を進めた社会民主党などの中道左派連立政権が選挙で敗北し,危機前に政権を長期に支配し,危機の条件を創った独立党が権力を奪回した.

FT April 30, 2013

Why the Baltic states are no model

By Martin Wolf

緊縮策を支持する者は,単に道徳的な主張ではなく,それが有効であることを示さねばならない.ヨーロッパでは,それがバルト海諸国,特に,ラトビアの緊縮策成功である.

その主張は正しいのか?

金融危機の前,バルト海諸国は融資の増大によるブームに沸いていた.ラトビアの経常収支赤字は,2007年,GDP22%にもなっていた.民間部門への資本流入がそれを支えていたのだ.しかし,金融危機で4つの災厄がやってきた.すなわち,資本流入の突然死,資産価格の崩壊,不況,財政赤字の膨張,である.ラトビアは,EUIMF,北欧諸国などから,寛大な条件の融資を得たが,IMFの経済顧問であったOlivier Blanchardは,ユーロとの為替レートを固定した融資プログラムが破滅に終わるだろう,と考えていた.

しかし,実際は財政赤字を減らして,政府は計画を実行した.その代わり,2007年の第4四半期と谷の間にGDP25%も縮小した.2012年の16%という成長を「成功」と呼ぶのは問題である.ラトビアは危機前に比べて,2008-2012年の累計で年産出額の77%を失ったのだ.失業者も今は減ったが,それでも201212月にまだ14%が失業している.

要するに,ラトビアは歴史上最悪の不況を経験したのである.これを手本とする国があるだろうか?

ラトビアなど,バルト海諸国が厳しい調整を実現できたのは,4つの条件があったからだ.1.労働コストが非常に低かった.技術導入のフロンティアが大きいことを意味する.2.小国開放経済である.輸出による回復が可能であった.3.外国の銀行が主要な役割を担った.それは本国の財政基盤の確かさによって金融システムを救った.4.ユーロ圏参加をあきらめた場合,ロシアに頼るしかなくなる.国民はそれを強く拒んでいた.

たとえ小国がまねる稀なケースであるとしても,バルト海諸国がヨーロッパの緊縮策を支持するモデルだ,などと主張するのは狂気の沙汰である.


l  バングラデシュの衣料工場崩壊

SPIEGEL ONLINE 04/29/2013

Europe's Moral Quandary

The High Human Price of Cheap T-Shirts

By Hasnain Kazim, Nils Klawitter and Wieland Wagner

ヨーロッパ向けTシャツの生産連鎖をなすバングラデシュの高層化した苦汗工場が,基本的な安全基準も満たさず,崩壊事故で数百人の犠牲者を出した.

NYT April 29, 2013

Clothed in Misery

By M. T. ANDERSON

衣料製品の生産工場が崩壊したのは,自分たちと関係ない,別の世界の話だと思うだろう.しかし,歴史的には,工業化の初期に,アメリカでも同様の事故が起きた.(1878 Washburn mill explosion in Minneapolis, the 1905 Grover Shoe Factory disaster in Brockton, Mass., the 1911 Triangle Shirtwaist Factory fire in Manhattan) しかしなかでも,New England の衣服工場が最も悪名高い事故を起こした.(the 1860 collapse of the Pemberton Mill in Lawrence, Mass) 数百人の男女が,がれきの下で,また,ランプの灯から生じた火事で,死んだのだ.

価格を1-3%だけ上げれば事故は防げるだろう.しかし,こうした事故は何度も循環して起きっている.安全基準に関して,もっと公共の圧力をかけるべきだ.これは地球の裏側であっても,我々と無縁の問題ではない.

The Guardian, Tuesday 30 April 2013

Bangladeshi workers need more than boycotts

Vijay Prashad

FT May 1, 2013

Tragedies in Bangladesh are preventable and must be stopped

By John Gapper

NYT April 30, 2013

The Most Hated Bangladeshi, Toppled From a Shady Empire

By JIM YARDLEY


l  中印国境地帯

WSJ April 29, 2013

While Delhi Dithers, Beijing Gets Adventurous

By HARSH V. PANT

FT April 30, 2013

India to take ‘every step’ to deal with Chinese incursion

By Victor Mallet in New Delhi

ヒマラヤのインドと中国の国境地帯で,インドが支配している地域に18キロ,人民解放軍が入った.野党は批判するが,インド政府はその影響を抑えている.中国は何も説明しない.

カラコルム街道は重要な位置にあり,インド,中国,パキスタン,などが狙っている.

FT April 30, 2013

Shaky pillars for an Indian revival

By James Crabtree in Mumbai

Project Syndicate 30 April 2013

Why India Slowed

Raghuram Rajan

Global Times | 2013-5-2

New Delhi bears brunt of border hysteria

By Global Times

中国兵はインドの支配領域を侵犯していない.インドの主要紙がそのような間違った情報を流し,野党の政治家たちに影響を与えているのは重大な問題である.しかし,政府間の情報交換は円滑に行われ,境界の平和が維持されている.

NYT May 2, 2013

Where China Meets India, Push Comes to Shove

By GARDINER HARRIS and EDWARD WONG


l  世界のパワー

FP MAY/JUNE 2013

Minister No

Sergei Lavrov and the blunt logic of Russian power.

BY SUSAN B. GLASSER

FP MAY/JUNE 2013

'The Law of Politics' According to Sergei Lavrov

INTERVIEW BY SUSAN B. GLASSER

FP MAY/JUNE 2013

Xi's War Drums

BY JOHN GARNAUT

習近平に近いと言われる,タカ派のLiu Yuan将軍は,中国の近代化は日本との戦争で2度も粉砕された,と書いた.「今,我々の経済建設は重要な局面にある.我々は(釣魚島の)衝突によって,この過程が破壊されるのを許さない.アメリカと日本は中国のキャッチアップを恐れ,中国の発展を封じ込めるために何かしてくるだろうが,我々は騙されてはならない.」

習は,ソ連の政治システムが軍を掌握していなかったから,ゴルバチョフの排除に失敗し,崩壊した,と考える.

しかし実際には,共産党の支配が人民解放軍を弱くしている.汚職,リスク回避,階層的秩序,すべてが弱さの兆候だ.たとえアメリカ軍の介入がなくても,日本は軍事衝突に勝つだろう,と予測する者もいる.

FP MAY/JUNE 2013

The End of the Gandhis

Can Rahul Gandhi run India? Can anybody?

BY JAMES TRAUB | MAY/JUNE 2013


l  オランダの王位継承

The Guardian, Tuesday 30 April 2013

What Queen Elizabeth can learn from Queen Beatrix

Simon Jenkins

SPIEGEL ONLINE 04/30/2013

Modern Monarch

Holland Crowns a Laid-Back King

By Gesa Mayr


l  ECBの金利引き下げ

FT April 30, 2013

Markets Insight: More ECB ‘shock and awe’ tactics needed

By Ralph Atkins in London

FT May 1, 2013

Draghi faces an obvious choice

ユーロ圏の雇用情勢はこれ以上ないくらい悪い.失業率は12.1%2600万人が職を見いだせない.若者の失業率はその約2倍である.スペインの25歳以下の若者は半数が失業中だ.

不況が続き,企業は価格を引き上げる余地などない.インフレがECBの目標を下回っているのであるから,ECBは金利を下げて,デフレになるのを阻止するべきだ.日本が示すように,デフレになれば,そこから抜け出すことは非常に難しい.

しかし,利下げだけでは成長に結びつかない.周辺において,金融緩和の伝達メカニズムが壊れている.スペインやイタリアの金利はドイツよりも大幅に高く,中小企業は銀行から融資をしてもらえない.

ECBは,もっと中小企業SMEに直接ターゲットを絞った政策を実行するべきだ.SMEの債券を担保として受け入れるとか,企業向けの融資を増やした銀行には低利融資を行う.また,銀行がECBに残している準備金にマイナスの金利を課すと,融資を増やすだろう.

ドイツが遅らせている銀行同盟の成立も急ぐべきだ.

NYT May 2, 2013

Central Bank Takes Step as Europe’s Downturn Drags On

By JACK EWING

WP May 3, 2013

Europe has no exit

By Robert J. Samuelson

Hans-Werner SinnIfo Institute for Economic Research)がthe Peterson Institute for International Economicsで講演した.George Sorosと論争するなど,有名な人物だ.彼の意見では,ヨーロッパは安価な融資の結果,競争力を失った諸国がそれを回復するまで,今の緊縮策を続けるしかない.

しかし,緊縮策を続けるだけでは,社会システムが崩壊する危険がある.そこでドイツが物価の上昇を認め,ユーロ安を受け入れることが必要だ.あるいは,競争力のない諸国が,一時的にユーロ圏を離脱して切り下げることもできる.ただし,その場合はデフォルトが広がるだろう.現実には,これらを組み合わせることになる,と.

William Clineは,デフォルトを予告するのは破滅を招く,と批判した.Jacob Kirkegaardは,経常収支赤字ならECBの融資で維持できる,と指摘した.

誰にも答えはわからない.少なくとも,ヨーロッパに出口はない.


l  スコットランド独立と通貨

FT May 1, 2013

Time to prepare for the scottie

DeAnne Julius

スコットランドの独立を問う国民投票まで2年を切った.もし独立する場合,その通貨はどうするのか? イギリス大蔵省はその理性的な面の分析をまとめた.

現在,イングランドとスコットランドは緊密に統合された経済圏を形成し,通貨同盟が成功している.スコットランドへの財政移転や,金融危機に際して,イングランド銀行によるスコットランドの主要銀行救済も行われた.

独立した場合,スコットランドには3つの選択肢が考えられる.1.ポンドを利用したカレンシー・ボード制,2.ユーロの採用,3.独自通貨とユーロもしくはポンドへの暗黙の固定化.

いずれの場合も,スコットランドの経済規模は小さいから交渉力は限られ,取引コストは増し,為替レートの激しい変動にさらされるリスクが高い.しかし,北欧諸国が示しているように,実行可能な政策はある.


l  新しいBRICS開発銀行

Project Syndicate 01 May 2013

A New World’s New Development Bank

Amar Bhattacharya, Mattia Romani, Nicholas Stern, Joseph E. Stiglitz


l  マレーシアの選挙

FT May 2, 2013

Malaysia: Climate for change

By Jeremy Grant

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The Economist April 20th 2013

Clean, safe and it drives itself

China’s economy: Speed isn’t everything

Japan’s nuclear future: Don’t look now

Free trade with Iceland: The rice man cometh

Banning the sex industry: Naked ambition

(コメント) 自動車に将来はない,と思っていましたが,記事の予想は全く逆でした.自動車は人類に高い移動性を実現した道具であり,もっと効率がよくなり,もっと環境汚染や温暖化を抑制でき,さらに自動運転が広まって,世界を再編するほどの影響力を発揮するだろう,というわけです.・・・そうかな?

中国の成長率が低下することは,すでに示された都市の環境悪化や農村部の土地収奪に対する抗議活動を見ても,社会的に正当な転換です.他方,日本政府は,自民党が権力を回復したことで脱原発を語らなくなり,むしろ「アベノミクス」の成功が円安とエネルギー価格上昇,貿易赤字の抑制,すなわち,原発再開にかかっている,と考え始めたのです.

アイスランドに関して,2つの記事がありました.中国との自由貿易協定を結ぶ? それは,中国が魚を安く買いたい,というより,北極海航路を押さえるための布石です.セックス産業を消滅させる法案? サウジアラビアも同じですが,フェミニズムに関して全く逆の立場です.

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IPEの想像力 5/6/13

ゴールデンウィークでしたから,古本屋に行って北方健三の『楊家将』を手に入れ,大いに楽しみました.快晴の日曜日には天理まで走りました.

天理教の本殿がどこかわからず,大きな建物を見つけて近づくと,それは学校であり,また進むと病院でした.歩いている男性に訪ねて,ようやく本部の礼拝場にたどり着きました.汗にまみれた,よれよれのランナーでしたから,法被を着て,ほうきを手にした若者に尋ねました.「入ってもよいでしょうか・・・?」 幸いにも,どうぞ,ということでしたから,地上から3メートルか4メートルで,廊下によってつながる礼拝場を.ゆっくりと見て回りました.

信者たちは正座してから,4度,大きな音を立てて拍手し,両手を返して,指先を後ろ向きに畳に突いて,頭を垂れました.一番大きな拝礼場の中央には,庭のような地面があり,その木製の台が信仰の象徴です.畳を敷いた広い礼拝場に座っていると,特有の仕草で手を緩やかに回し,簡単な調子の歌を唱える女性がいました.それは,威圧的な,あるいは,荘厳さを示す宗教歌ではなく,むしろ素朴な,純真な歌だな,と思いました.

すぐ近くに天理駅があります.駅前でパンを買って,電車を待ちながら遅い朝食にしました.

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中国の外交政策に関して,BBCの北京における議論を聴きました(BBC 06/03/2013).それを少し変えて,借用すれば・・・

A: 中国の台頭は東アジアの秩序を不安定化している.特に,中国と日本,ベトナム,フィリピンの領土紛争が悪化し,北朝鮮の核ミサイルも解決策が見当たらない.

B: 中国のパワーが増大する中で,周辺諸国との関係が変化するのは当然だ.また,かつてのヨーロッパ諸国による帝国主義は「海洋の発見」であった.今,大陸でも海洋でもない「海底」が発見された.「新領土(としての海底)」をめぐる帝国主義が復活する可能性がある.

C: 日中間で領土紛争が激化したのは,日本の政策が変化したからだ.中国はその犠牲者である,と中国側は認識している.石原慎太郎はナショナリズムを刺激し,日本側が田中角栄・鄧小平の合意を破って地位を変更し始めた.中国はこれに対応しなければならなかった.

D: 米中関係については,特に,オバマ政権の「アジア旋回」が重要だ.それは,ニクソン以来の米中における包摂戦略,相互依存の深化を転換する新しい外交であったのか? むしろ中東からの撤退を,「敗北」ではなく「勝利」と見せるための(ニクソン的な)戦略転換であり,それを正当化する表現だろう.

E: しかし,中国の民衆はポピュリズムを刺激された.この点で,世界金融危機も,アメリカの自信喪失と中国の台頭を加速した,と明確に意識している.

他方,中国の指導部はもっと冷静だ.アメリカに中国を封じ込める意図はないし,「アジア旋回」の中身は複雑であり,軍事的な次元に限らない,と理解している.しかし,中国はアメリカに従う気などない.中国の利益になることで合意するだけだ.

F: 2つの「例外主義」が衝突する.アメリカも中国も,自国が世界の中心で,秩序を担っている,と信じている.中国はアメリカの創った秩序を分担する気は全くない.中国の一人当たりGDP6000ドルでしかなく,貿易でも,気候変動でも,アメリカとまったく意見が異なる.

G: 米中関係が重要であり,各分野で協力できるような国際会議やメカニズムを構築することが望ましい.それが可能か,分からないが.

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私の講義は,まだ,シュメール文明からアッカドのサルゴン王です.現代のガバナンスの起源として.

・・・長期的な利益,全体としての利益を,国家が実現することを,「戦略」と呼ぶ.それは国家間で異なり,境界を越えて,一方的な実現を目指すとき,「帝国主義」になる.しかし,平和が維持されるなら,次第に貿易や投資,移民などの相互依存関係が深まり,交渉と協力が制度化される.通貨の問題が,最も影響を広げ,経済の安定性と成長の確保に重要である.

帝国も,宗教も,なくならない.しかし,その攻撃的な側面は,教育や制度,文化の変容によって緩和できる.・・・今では,ユーロ危機や,ボストン・マラソンのテロ事件などが,私たちの文明の水準を問うのです.

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