IPEの果樹園2013
今週のReview
4/29-5/4
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ドイツとユーロ ・・・Reinhart-Rogoffの90%命題 ・・・保守党がEUを守る ・・・チェチェンの歴史とテロ ・・・中国と労働者の変身 ・・・日本は何を目指す? ・・・危機後のラトビア ・・・金融危機後に学んだこと ・・・ホロコースト博物館
[長いReview]
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l ドイツとユーロ
SPIEGEL ONLINE 04/18/2013
Looking
Beyond Europe
German
Firms Wary of Euro Zone
By David Böcking
ドイツの中小企業に関する新しい調査によれば,彼らはユーロ圏に関心を失いつつある.そしてユーロ圏の外,特に,新興経済の成長に期待している.
2011年に「共通通貨ユーロに代わるまともな対案は存在しない」という宣伝を行ったところ,ドイツの株式市場を代表するような大企業の経営者が考えているとしても,ドイツの中小企業が集まる中部Mittelstandから不満が出た.「ユーロ圏からの離脱や資格喪失は可能でなければならない」という意見だ.
彼らはヨーロッパの景気がよくなるとは期待しておらず,むしろ,たとえ為替変動や関税,投資リスクがあるとしても,成長する新興経済に期待している.
Project Syndicate 23 April 2013
Should
Germany Exit the Euro?
Hans-Werner Sinn
ジョージ・ソロスはドイツがユーロ債の発行を認めないなら,ユーロ圏を離脱するべきだ,と主張した.それは間違った,危険な火遊びである.
多くの投資家たちがソロスに同調しているが,彼らは有毒債券を手放し,安全な債券を買って逃げ出したいだけである.そしてユーロ債の販売で得た儲けは,タックス・ヘイブンに隠すのだ.
もしソロスの言うような選択を示されたら,ドイツ人の多くはユーロ圏からの離脱を選ぶだろう.ユーロの実験は終わる,その主要な目的が,ドイツ連銀によるヨーロッパ支配を終わらせることだったのを忘れたのか?
ソロスの主張には法的根拠がない.また,ユーロ債は危機を解決できない.ソロスはその原因を理解していないのだ.ユーロ危機は通貨統合内部の病気が示す兆候である.その病気とは,南欧諸国の競争力がないことだ.
南欧は物価を下げ,ドイツなど北欧は物価を上げねばならない.すなわち,南欧の投資は減り,北欧で増える.もし政府間でユーロ債を通じて投資が北から南に誘導されるなら,それが妨げられる.
政治的に見て,ドイツのユーロ圏離脱は大きな間違いである.なぜなら,再びライン河沿いに対立が生まれるからだ.戦後ヨーロッパは独仏の和解によって繁栄を実現してきた.
唯一の残された選択肢が,安価な融資によって生じた物価の歪みを正すため,たとえ嫌われても,財政規律を回復して現実に戻ることだ.無責任な融資や投資を行った者は,その投資が失敗に終わり,あるいは,その国が破産すれば,自分たちで責任を持つ.納税者による財政移転は行わない.
l Reinhart-Rogoffの90%命題
FT April 23, 2013
Austerity
loses an article of faith
By Martin Wolf
関連性を示すことは,原因を意味するものではない.
低成長が債務を増やすこともありうる.日本がそうだ.高債務は低成長の原因なのか,結果なのか? 私は低成長が債務を増やしたと思う.イギリスはどうか? 危機の前,イギリスの債務比率は300年間で最低であった.今ではギリシャに近い.低成長が債務を増やしたのだ.さらに言えば,金融危機により,両者が悪化した.
債務が成長に何を意味するか,考える場合,その債務が何によってまず起きたのか,を問わねばならない.戦争か? 放漫財政か? 質の高い公共投資か? 債務の増大から,低成長も,成長加速も,起こりうるのだ.
それは債務削減のコストにも影響する.金融危機で成長が低下しているとき,債務削減を急ぐことは間違いである.「刺激策が常に正しい」というのも,「緊縮策が常に正しい」というのも,間違っている.
FP April 23, 2013
Think
Again: Austerity
BY ANDERS ASLUND
いわゆる世界金融危機になって,「緊縮」の言葉が乱用されている.その本来の意味は,「予算赤字を減らす手段」であり,「責任ある財政政策」である.
緊縮に関する5つの神話を捨てるべきだ.
1.「成長には財政刺激策が必要だ.」 逆に,健全な財政状態が長期の成長の条件である.成長は,資本労働,人的資本,技術,強固な制度が作り出す.ケインズの議論は,1970年代のスタグフレーションに適用できなかった.財政刺激策が有効である条件は限られている.また,小国の場合,国際金融市場のアクセスが早期に閉ざされる危険がある.
ケインズ主義の2度目の死は,あまりにも引き延ばされている.財政的な拡大策は無益であり,ヨーロッパにおいては有害である.
l 保守党がEUを守る
FT April 19, 2013
To
stay in Europe, vote Conservative
By Timothy Garton Ash
矛盾した話だが,もしあなたが,イギリスはEUにとどまるべきだ,と思うなら,保守党に投票し,保守党を強くしたいなら,労働党に投票しなければならない.
なぜか? 反共産主義者のリチャード・ニクソンがアメリカと共産主義中国との国交を回復できたように,保守党の首相だけが,EU帰属・離脱を問う国民投票で,勝利できるからだ.キャメロン首相は2017年までに国民投票を行うと約束した.最新の調査では40-50%がEU離脱を支持すると答えている.
誰なら心配を深めるナショナリストたちを安心させることができるか? それは,唯一,保守党である.キャメロンは,海峡を挟んで,イギリスのユーロ懐疑派議員たちが好む二つのR(再交渉と財源移管)を推進できないだろう.しかし,もう一つのR(EU改革)には多くの国で強い要求がある.首相の意図としては,それが最大の望みであるが,「改革」の名のもとに彼の望むもの,もっと「柔軟な」ヨーロッパ,を手に入れる.
しかし,メルケルは関心を持たないし,イギリスの大陸におけるパートナーも特別な条件をイギリスに認めることはないだろう.キャメロンが再交渉で得るものは何もない.しかし,それでもイギリスがEUに残るべき理由は明白だ.
再交渉は,他の諸国にも望むものがあるから,小さな取引なら可能である.それを大きく見せるわけだ.「再交渉の成果」は,EU帰属を望む野党とビジネス界から支持される.
l チェチェンの歴史とテロ
guardian.co.uk, Friday 19 April 2013
Chechnya's
centuries-long bloody strife goes global
Stephen Kinzer
2人の若いチェチェン人,Dzhokhar and Tamerlan Tsarnaevがどのような動機で実行したのか,まだわからないが,何世紀にもわたる流血の歴史を持つチェチェンが,ボストン・マラソンで起きたテロにつながっている.
このロシアの小さな共和国は,コーカサスの山中にあり,世界で最も執念深い,冷酷な戦士や,テロリストを生んできた.パキスタンやサウジアラビアのように,境界を越えて暴力を輸出した土地はほかにもあるが,チェチェンほど長い戦争と抵抗,テロの歴史を持つ土地はない.
それは帝国主義の失敗の一つである.13世紀から14世紀にかけて,チェチェンはモンゴル帝国の支配に屈しなかった数少ない人々の一つであったが,その後も,トルコ,ペルシャ,ロシアが支配を企て,恐るべきコストを払って独立を守った末に,1859年,ロシア帝国に吸収された.
すべてを征服され,すべてを破壊されたが,それでも彼らは屈しなかった.
第2次世界大戦中,スターリンはチェチェンがナチスに協力したという罪で,全人口をシベリアやカザフスタンに追放した.戦後,帰還を許されるまでに,何万人もが死亡した.
ソ連が崩壊しても,この長い戦争は終わらず,むしろ激化した.現在,ロシアを支配するプーチンは,その硬い意志によってチェチェンの反政府勢力を粉砕し,独立はおろか,いかなる自治もチェチェン人に認めない.
こうしたことがチェチェンからテロに及ぶ者を生んだ.ボストン・マラソンにおけるテロは,それらに比べれば,子供のいたずらにすぎない.1999年,モスクワのショッピング・センターが爆破され,64人が死亡した.2002年,モスクワの劇場が占拠され,120人が死亡した.2004年,ベスランの学校が攻撃され,ほとんどが子供である380人が死亡した.その3年後,モスクワの地下鉄が2人の女性テロリストによる自爆攻撃を受け,39人が死亡した.
ロシアもその野蛮さでこの戦いを進めてきた.ロシア軍は1990年代以来,何万人ものチェチェン人を殺害した.1994-95年のチェチェン戦争時には,その首都であるグロズヌイを占領した.分離独立派の指導者,Shamil Basayevは,ロシアの特殊部隊によって暗殺されたと考えられている.そしてプーチンは,Ramzan Kadyrovをチェチェンの支配者として自由にふるまわせている.アメリカ国務省を含む,多くの外部関係者によれば,このKadyrovが最悪の野蛮な人物で,秘密の監獄で拷問や殺人を続けている.2006年には,その犯罪を暴くジャーナリスト,Anna Politkovskayaが殺害されたが,この事件にも自らかかわっているという.
チェチェン人は,ずっと以前に,戦いを境界の中に限らなくなった.アフガニスタンやイラクで,アメリカの支援する軍隊とも戦っている.これに対して,彼らは兵士や資金の援助を受けているのだ.この戦いは,宗教的なものでもある.イスラム教徒であるチェチェン人の中には,グローバルな西側との戦いに共鳴する者がいる.
ジョージ・ブッシュの「テロとの戦い」は,その副産物として,グローバルなテロ攻撃を生んだ.
FT April 22, 2013
Russia
must let the world into Chechnya
By Thomas de Waal
西側の疑問に対するロシアの対応は決まっている.これは国際的な「テロとの戦い」の一部である.これは純粋にロシアの内政問題である.しかし,こうした説明はますます無意味になっている.ボストン事件があり,もうすぐソチで冬季オリンピックがある,治安対策の協力が必要だ.
ロシアの研究者Alexei Malashenkoは,北コーカサスを「内なる外国」と呼んだ.そこはギリシャ正教ではなくイスラム教が支配的で,人口減少ではなく人口増加が,50%に達する失業が問題である.今やモスクワを追い出すのではなく,より多くのモスクワの(民政による)支援を必要としている.
モスクワは,安全保障と人権に関するヨーロッパの会議に参加し,北コーカサスを開放して,その再建を目指すべきだ.
l 中国と労働者の変身
FT April 22, 2013
Migrant
workers shape China’s future
By James Kynge
中国が『世界の工場』になるとき,地方からの移民(出稼ぎ)労働者が,18世紀のイギリス産業革命の労働者たちよりも少ない賃金で,世界中のショッピング・モールに並ぶ製品を供給した.今,中国は次の大きな経済進化を始めている.およそ2億2000万人と推定される移民労働者たちが,その権利として,製品の消費者に変身するのだ.
それは中国という国の,心理,社会,世代における変身でもある.1990年代の相対的な豊かさの中で生まれた移民たちは,1980年代や70年代に生まれたものよりも支出を好む.
かつて,幾分,オーウェル的な色彩のスローガンが労働者たちの勤労を要求していたが,立場が逆転した.2010年に,労働力は過剰から不足に転換したのだ.交渉の決定力は職場のボスではなく,移民労働者たちの手に移った.
移民労働者たちの所得は急速に増大している.北京から見れば,移民労働者家族の活気は,成長モデルのバランス回復と,都市化の促進にとって,非常に重要である.中国経済を投資主導から消費主導の成長に転換するのは彼らである.Li Keqiang首相は戸籍制度を改革し,彼らが都市の定住するように促すつもりだ.福祉の公平な給付も,彼らの消費を刺激するだろう.
日本の人口に匹敵する,1億3100万人の都市戸籍を持たない住民が公式に戸籍を得るなら,彼らの勤労だけでなく,その支出パワーが,中国の運命を決める.
FP April 24, 2013
Kerry
calls for a ‘special relationship' with China
Posted By Josh Rogin
John Kerry国務長官は『特別な関係』という言葉を,イギリスやイスラエルに対して使ったが,今度のアジア訪問では,それが中国を意味した.
ワシントンDCでの桜祭りでは,John Kerryは日本にも,この言葉を使った.
l 日本は何を目指す?
NYT April 23, 2013
Japan’s
Unnecessary Nationalism
By THE EDITORIAL BOARD
昨年12月に首相となった安倍晋三は,経済の活性化,地震・津波からの回復,北朝鮮,といった難しい政策課題を説かねばならない.このようなときに近隣諸国との論争を刺激するのは無益であるが,それこそ彼とそのナショナリスト仲間が行ったことである.
木曜日に,168人の議員が集団で靖国神社に参拝した.第2次世界大戦の戦犯を含む,日本の戦没者を祀っている.それは近年における最大の集団参拝であった.
安倍氏とその仲間は,このことがどれほど中国や韓国にとって深刻な問題とみなされるか,知っている.その反応は予測できた.日中間で領土問題を平和的に解決すべきであるのに,また北朝鮮の核問題を解決するために協力すべきであるのに,日本の政治家たちが中国と韓国の敵意を煽るのは愚かなことである.
歴史的な傷を広げるより,未来に向けて,経済再生とアジアの民主主義を担うべきだ.
l 危機後のラトビア
FT April 23, 2013
Latvia:
Reaching for the euro
By Richard Milne
ロシア系住民やロシアからの資本流入が大きな割合を占めるラトビアでは,ソ連から独立して以来,ヨーロッパとの統合化を深めることが政治の目標であった.
地政学的な理由で,ラトビアはEUを求め,NATOを求め,次に,ユーロを求めている.キプロス危機以後,ユーロ圏は2つに分割される傾向がある.ラトビアの政治家はコアのユーロ圏を目指す.そのためにも,ラトビアは厳しい財政緊縮策を採ってきた.
しかし,国民はユーロが本当に望ましいのかどうか,疑っている.イタリアの選挙結果を伝えるテレビ映像を観て,これが自分達の求める未来だろうか? と問う.賃金を20-40%も削減された公務員たちは,今も政府を批判する.自国通貨の切り下げができる方が,アイスランドのように,失業を抑えることができた.ただし,アイスランドは今も資本規制に頼っている.
小国は投機に弱い.大きな船に乗るべきだ,と政治家は考える.ユーロ圏による通貨や銀行システムの安定化,長期の投資を支持するエストニアやポーランドの経験があっても,答を出すのは難しい.
l 金融危機後に学んだこと
WP April 25, 2013
Hard
lessons in Keynesian economics
By David Ignatius
もうすぐイングランド銀行総裁を退任するMervyn Kingは,J.M.ケインズと同じ知的な情熱を示した.先週,ワシントンでIMF・世銀の会合に出席し,イギリス大使館において夕食会が開かれた,そこには4人の現・元US財務長官,3人の中央銀行総裁,2人のIMFトップ官僚,そしてイギリス蔵相が参加していた.
Kingは,その前半のキャリアでイングランド銀行の金融政策に厳格な「インフレーション・ルール」を確立することに尽力した.それは長期の繁栄の時代に貢献した.しかし,2008年の金融危機が起きて,Kingはその危機に対して,創造的かつ苦痛を避けることなく調整することを使命とした.
Kingがこの危機で戦っていたのは,その最悪の脆弱性が銀行システムそのものにある,ということだった.単に有毒債権が生じた流動性の危機ではない.世界中の巨大銀行に自己資本が不足しており,その多くは支払い不能なのである.
この危機に対して,Kingは銀行の自己資本増強を求め,その後,さらに厳しい規制を求めた.不満をのべつ銀行家に対して,Kingは,マーガレット・サッチャーの市場革命を唯一逃れた部門だ,と反撃した.銀行家たちはKingの決意に負けた.
この10年間は,Kingにとって,ケインズの発見したことを強化する経験であった.1.投資家の心理的な偏屈さは,強気においては「アニマル・スピリッツ」と呼ばれ,弱気になると「極端な流動性選好」となる.いかなる金融政策も人々が恐怖に駆られていると,支出や投資することを説得できなかった.
2.ケインズは赤字国と黒字国との間に国際的な構造がなければならないと考えた.それは第2次世界大戦後のブレトンウッズ体制であったが,グローバルなシステムは弱く,特に,ユーロ圏には欠けていた.財政移転も為替レートによる切下げも欠いて,ユーロ圏では効果的な内的均衡回復メカニズムがなかった.
ユーロ圏は,イギリス的な「やりくりmuddling through」によって危機を長引かせている.Kingはそれが失敗すると考える.真の連邦制を目指すのは,たとえ称賛されるとしても,1000年かかる.今,各国に選択できることは,ユーロ圏の解体だ.
Kingは,経済学の技術論からより大きな問題にまで洞察を深める天分を示した.
l ホロコースト博物館
WP April 25, 2013
Unfinished
business at the Holocaust Museum
By Editorial Board
なぜワシントンにホロコースト博物館があるのか? 何のためにあるのか? 事件はヨーロッパで起きた.犠牲者はアメリカ国民の極一部のエスニシティーに集中している.
博物館は展示するだけではない.アメリカの警察官や軍人,判事への教育プログラムもある.最近,博物館は,体の不自由な子供が一人で死なないように,ガス室へ行った母親のあわてて書いたメモを手に入れた.彼女は夫に愛していると伝え,彼が息子を甘やかさないようにと注意した.その息子がたった一人の子供になるから.
「私たちの最大のメッセージは,ホロコーストが起きたという事実だけでなく,それは起きる必要がなかったということです.ホロコーストは防げたのであり,指導者たちの失敗でした.」と,Sara J. Bloomfield館長は語る.
ルワンダで,ダルフールで,今もシリアで,虐殺は起きている.アメリカはそれに対してほとんど何もしなかった.博物館の第2の使命は失敗である,と結論する.その仕事は終わらない.
「ある日,虐殺に加担した者が,その翌日には一人のユダヤ人を助けることができただろう.」 人々に考えてほしい.「あなたなら何をしただろうか?」 「あなたは何をするだろうか?」
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The Economist April 13th 2013
Freedom fighter
Margaret Thatcher: No ordinary
politician
Japan: Revolution in the air
Monetary policy in Japan: Opening the
floodgates
Germany and the euro: Right target,
wrong shots
Germany and the euro: Don’t make us Führer
Digital currencies: A new specie
(コメント) マーガレット・サッチャーを記事は絶賛します.それ以前のイギリス政治と経済を変えたからです.それはイデオロギーであり,またフォークランド紛争による愛国心でした.私は,安倍首相が,サッチャーを模倣したい状況に,不安を感じます.
日本の金融緩和が,ようやく民心を一新し,日経平均が1万3000円を超えたら,女子高生や女子大生のメンバーで作るバンドがスカートを脱ぐ,と宣言し,どちらも実現した,グラフを観よ,しかし,写真はない,という楽しい記事に感心します.
ユーロ危機についてメルケルにヒトラーの髭や軍服を着けてもドイツ国民は怒っていない.しかし,ドイツが危機の原因だ,という意見には反対だ.危機を解決する道はあるが,ドイツは行動しない.・・・しかし,本当にドイツが行動することを望むのか?
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IPEの想像力 4/29/13
「アベノミクス」に関する議論を読むと,ABCDフィッピーを想います.「アベノミクス」は,複合的な「日本病」を,デフレから治癒する新しい試みです.
私が「ABCDフィッピー」(A高齢化、B官僚制、C中国、Dデフレ、F財政赤字・債務累積、I不平等・貧困の拡大、P政治的混迷、Y若者)を一括して議論すべきだと主張したのは,2010年11月22日のReviewでした.
「日本病」として欧米の論説がいくつも出たとき,私はこの複雑な合併症を,こう命名しました.その動機を書いています.
「一つ一つの問題を切り離して解決しようとすれば、いくつもの困難な改革に注意を奪われて、その一つでさえ容易に実現しないでしょう。しかし、高齢者の生活を安定させ、官僚制がさまざまな課題に有効に機能し、中国の成長を地域・国際秩序の中で日本企業や地域経済が積極的に受け入れることもできるでしょう。債務に依存した財政や、デフレに向かう企業・金融市場・消費の条件を変えること、そのために貧しい世帯や若者が政治や経済の意思決定に自ら参加し、改善する力を見いだせるような改革メカニズムを設計するなら、個々の難しい問題を、全体として解決できると思います。」
私は,閉塞した論争の中で消耗する日本のあり方を嫌いました.旧来の政治的分割線を破り,日本の「ガバナンス」を活性化する新しい論点を示すことを望んだのです.「ありえない」,「考えられない」ことを示そうとしました.
l 日本を分割して,日本語を主要な言語とする異なる国家間でガバナンスの革新を競う.
l 国民皆兵制を導入して,安全保障の知識と体験を共有し,将来のアジアの秩序に関する合意を形成する.
l 日本人の企業団地,集団居住区を世界各地に展開し,若者のグローバルな移動と就労を促す.
l 移民・難民の受け入れ,日本語教育や就労,社会的統合と連帯を積極的に支援する.
l 中国や韓国からの企業進出を歓迎し,その投資やネットワークによって革新と競争を促す.
l 政治的混迷を打開する明快な発言と指導力を得るため,ブレアを100人,サッチャーを100人,日本に輸入する.
民主党政権の主張は,ABCDフィッピーに対抗する戦略であったはずです.温暖化ガスの排出抑制や中国との関係を強化し,東アジア共同体を目指すこと.日米安保体制や沖縄普天間基地の移転に新しい視点で取り組むこと(再交渉).何より,社会福祉や年金制度を改革し(官僚制を批判し),その財源を消費税によって確かなものにする(高齢化による財政破綻を回避する),と主張しました.若者の失業,貧困,派遣労働者の問題も,積極的に取り上げるはずでした.
しかし,この合併症についての明確な診断(戦略)を欠いていたと思います.全体を観るより,むしろ,自民党政権に対する反対の企てを集めた雑多なものでした.その結果,「日本病」を解決できず,いくつかの症状が悪化する中で,国民の支持を失ったのではないでしょうか?
安倍内閣,自民党政権は,同じ過ちを犯しているかもしれません.デフレ脱却について日銀総裁と協力し,自民党だからこそ農村の有権者を説得して,TPP参加を交渉できる,というのは前進です.しかし他方で,中国は? 財政赤字は? 不平等や貧困は? 若者は? ・・・安倍政権の「3つの矢」が金融政策に過度の期待を持たせたことで,その限界が見えたとき,強い批判を受けねばなりません.
そこには,2006年10月に政権を執って,保守主義のイデオロギーによる改革が失敗したことの反省から得た戦略的思考があるのでしょう.日銀の政策転換をアピールし,デフレの悪循環を断つと主張したことで,円安を通じた輸出企業の利益を増やし,主要企業の株価が上昇しています.この魔法のような「ガバナンスの革新」を利用し,自民党が両院で多数を獲り,その後の憲法改正や戦後日本の再構築に向かう,というわけです.
むしろ,日本がもっと小国で,若者や農民が新しい政党を組織し,革新的なアイデアを実現する社会運動に富むとしたら,アイスランドやラトビア,北欧諸国,海賊党や「アラブの春」が示すような,激しい危機と,「日本の奇跡」を実現したかもしれません.
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