IPEの果樹園2013
今週のReview
4/29-5/4
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ドイツとユーロ ・・・Reinhart-Rogoffの90%命題 ・・・保守党がEUを守る ・・・チェチェンの歴史とテロ ・・・ボストン・テロの後に ・・・中国と労働者の変身 ・・・経済と社会の再生 ・・・日本は何を目指す? ・・・政治秩序の脆さ ・・・危機後のラトビア ・・・金融危機後に学んだこと ・・・NATOは時代遅れか? ・・・シリアとサリン ・・・移民の同化と社会組織 ・・・ホロコースト博物館
[長いReview]
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主要な出典 Bloomberg, China Daily, FP:
Foreign Policy, FT: Financial Times, Global Times (China), The Guardian,
NYT: New York Times, Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, WP: Washington
Post, WSJ: Wall Street Journal Asia, Yale Global そして、The Economist (London)
l ドイツとユーロ
SPIEGEL ONLINE 04/18/2013
Looking
Beyond Europe
German
Firms Wary of Euro Zone
By David Böcking
ドイツの中小企業に関する新しい調査によれば,彼らはユーロ圏に関心を失いつつある.そしてユーロ圏の外,特に,新興経済の成長に期待している.
2011年に「共通通貨ユーロに代わるまともな対案は存在しない」という宣伝を行ったところ,ドイツの株式市場を代表するような大企業の経営者が考えているとしても,ドイツの中小企業が集まる中部Mittelstandから不満が出た.「ユーロ圏からの離脱や資格喪失は可能でなければならない」という意見だ.
彼らはヨーロッパの景気がよくなるとは期待しておらず,むしろ,たとえ為替変動や関税,投資リスクがあるとしても,成長する新興経済に期待している.
FT April 21, 2013
A
German path for the eurozone
キプロスへの救済プログラム,アイルランド,ポルトガルへの融資延長が,ドイツ議会の多数で可決された.それはドイツの政治家が与野党を含めて現在のユーロ圏支援に合意していることを示す.しかし,それはまた,ドイツの有権者たちに,放漫財政の赤字国を愚かにも支援している,という不満につながる.
メルケル首相は選挙後の連立がどうなるかわからないために,現在の慎重な姿勢を変えないだろう.しかも,ユーロ圏の解体を唱える政党Alternative für Deutschlandが現れている.彼らが政権を脅かすことはないが,連立に影響を与える.
ショイブレ財務大臣は,銀行同盟に関しても慎重で,有権者が支持しない預金保険の財源を認めていない.しかし,それを欠くなら,ユーロ圏の危機は完全に終わらないだろう.ドイツが改革や財政規律を要求したことは必要であったが,銀行同盟を完成することがユーロ圏の将来を確かなものにする,とドイツの政治家たちは直接に訴えるべきだ.
SPIEGEL ONLINE 04/22/2013
German
'Alternative'
Parallel
Currency Idea Carries Great Risks
By Sven Böll
Project Syndicate 22 April 2013
Europe
in Depression?
Federico Fubini
Project Syndicate 23 April 2013
Should
Germany Exit the Euro?
Hans-Werner Sinn
ジョージ・ソロスはドイツがユーロ債の発行を認めないなら,ユーロ圏を離脱するべきだ,と主張した.それは間違った,危険な火遊びである.
多くの投資家たちがソロスに同調しているが,彼らは有毒債券を手放し,安全な債券を買って逃げ出したいだけである.そしてユーロ債の販売で得た儲けは,タックス・ヘイブンに隠すのだ.
もしソロスの言うような選択を示されたら,ドイツ人の多くはユーロ圏からの離脱を選ぶだろう.ユーロの実験は終わる,その主要な目的が,ドイツ連銀によるヨーロッパ支配を終わらせることだったのを忘れたのか?
ソロスの主張には法的根拠がない.また,ユーロ債は危機を解決できない.ソロスはその原因を理解していないのだ.ユーロ危機は通貨統合内部の病気が示す兆候である.その病気とは,南欧諸国の競争力がないことだ.
彼らはあまりにも低い金利で融資を受けられたために,賃金が上昇し,生産性の改善を超えて物価が高くなったし,輸入が超過した.この過剰な物価や名目所得を維持したまま,ユーロ債がそれを融資するとしても,問題は何も解決しない.黒字国からの融資の頼りすぎることは,深刻な政治的問題に至る.
南欧は物価を下げ,ドイツなど北欧は物価を上げねばならない.すなわち,南欧の投資は減り,北欧で増える.もし政府間でユーロ債を通じて投資が北から南に誘導されるなら,それが妨げられる.
もしドイツがユーロ圏を離脱すれば,ユーロの価値は失われ,この問題は解決される.しかし,問題を抱えた諸国がユーロ圏に残るから,競争力の問題は続くだろう.要するに,競争力を失った国はすべてユーロ圏を離脱し,その各国通貨を切り下げるしかない.今のところ,彼らはそれを望んでいない.
政治的に見て,ドイツのユーロ圏離脱は大きな間違いである.なぜなら,再びライン河沿いに対立が生まれるからだ.戦後ヨーロッパは独仏の和解によって繁栄を実現してきた.
唯一の残された選択肢が,安価な融資によって生じた物価の歪みを正すため,たとえ嫌われても,財政規律を回復して現実に戻ることだ.無責任な融資や投資を行った者は,その投資が失敗に終わり,あるいは,その国が破産すれば,自分たちで責任を持つ.納税者による財政移転は行わない.
FT April 24, 2013
Europe’s
ills cannot be healed by monetary innovation alone
By Yves Mersch
ユーロ圏は三つの問題に苦しんでいる.国家の財政危機,銀行の脆弱さ,景気の悪化,である.その管理するやり方次第では,好循環にも,悪循環にもなる.
銀行の破綻を回避するために政府が救済し,政府の財政も悪化している.両社の信用が低下し,不況が続く.それを解消するのが銀行同盟だ.監督と,銀行の整理と,そのための財源を得なければならない.財源を民間から,あるいは,政府から得る仕組みが明確になれば,金融市場は回復し,極端な金融政策は必要なくなる.
FT April 24, 2013
Global
Insight: Politics draws out accidental truth on austerity Europe
By Peter Spiegel in Brussels
FT April 25, 2013
Merkel
speech highlights European divide
By Michael Steen in Frankfurt, James Wilson in Dresden and Peter Ehrlich in Berlin
l Reinhart-Rogoffの90%命題
NYT April 18, 2013
The
Excel Depression
By PAUL KRUGMAN
情報化の時代には,数式の間違いが破滅をもたらす.NASAの火星探査機も,JPMorgan Chaseの取引失敗も.そして,Excelの操作ミスで世界不況さえ起きかねない?
2010年にハーヴァード大学の2人のエコノミストCarmen Reinhart and Kenneth Rogoffが“Growth in a Time of Debt,”という研究を発表し,政府債務がGDPの90%を超えると成長率は急速に低下する,と主張した.
この主張は直ちに神聖視されて,疑えない事実,財政規律を守らねばならない理由となった.エコノミストの合意であるかのように使用されたが,それは間違いだった.最初から反対意見があった.政府債務と不況とは,その因果関係が逆であるかもしれない,と主張された.厳しい不況だから政務債務が増えたのだ.日本の場合,明らかにそうである.
Reinhart-Rogoffが主張した関係は,同じような調査を行った他の研究では発見できなかった.結局,その元の統計表を示した後,1.データの省略,2.通常とは異なる,疑わしい手続き,3.Excelの操作ミス,があるとわかった.政府債務と成長との関係はあるが,90%という閾値はないのだ.
この失敗は,緊縮策に固執する政治家たちの主張が背景にあった.政策担当者,政治家,評論家たちが,Reinhart-Rogoffの主張を利用したのだ.失業があっても,不況が続いても,社会給付を削るために.この間違った政策は彼らの責任だ.経済理論が要請しているのではない.
これが終わっても,また,緊縮策を正当化する主張を見つけるだろう.
FT April 19, 2013
Reinhart-Rogoff
austerity case still stands
By Anders Aslund
Reinhart-Rogoffの失敗はKrugman によって緊縮策の攻撃に利用されたが,それは間違いだ.彼らの主張の核心は何も損なわれていない.
彼らは次のように警告した.「金融危機の後,政府債務が膨張することが,経済活動に危機の悪影響が及ぶのを政府がどこまで相殺するべきか,考える際に重視するべき要因である.」
FT April 19, 2013
A
dose of reality for the dismal science
By Adam Posen
政策をめぐる論争は激しく,経済学を利用することもしばしばだ.エコノミストも政治的立場を反映した政策を支持するためにデータを提供する.常にデータから新しい真実が生まれるとしても,政策担当者の考え方に確立されるまで,長い時間がかかる.
IMFが過去の間違いを認めてその姿勢を修正したように,真実は極端な緊縮でも刺激でもなく,その中間である.緊縮策は不況を強いることがあるから,不況を脱してから財政再建を目指すべきである,と.
政府債務が成長にどのような影響を及ぼすかは,その赤字の原因や経済経路による.
FT April 19, 2013
Austerity
blues
The Guardian, Sunday 21 April 2013
There's
no need for all this economic sadomasochism
David Graeber
FT April 21, 2013
Perils
of placing faith in a thin theory
By Wolfgang Münchau
FT April 23, 2013
Austerity
loses an article of faith
By Martin Wolf
関連性を示すことは,原因を意味するものではない.
低成長が債務を増やすこともありうる.日本がそうだ.高債務は低成長の原因なのか,結果なのか? 私は低成長が債務を増やしたと思う.イギリスはどうか? 危機の前,イギリスの債務比率は300年間で最低であった.今ではギリシャに近い.低成長が債務を増やしたのだ.さらに言えば,金融危機により,両者が悪化した.
債務が成長に何を意味するか,考える場合,その債務が何によってまず起きたのか,を問わねばならない.戦争か? 放漫財政か? 質の高い公共投資か? 債務の増大から,低成長も,成長加速も,起こりうるのだ.
それは債務削減のコストにも影響する.金融危機で成長が低下しているとき,債務削減を急ぐことは間違いである.「刺激策が常に正しい」というのも,「緊縮策が常に正しい」というのも,間違っている.
ユーロ圏内で緊縮策が必要であるとしても,アメリカやイギリスでは刺激策の余地があった.そうした違いを考慮せずに,どこでも緊縮策を求めた結果,不況からの脱出が長引き,不要な長期のコストを生じている.
SPIEGEL ONLINE 04/24/2013
EU
Austerity Dispute
How
Barroso Let His Opinion Slip
By David Böcking
FP April 23, 2013
Think
Again: Austerity
BY ANDERS ASLUND
いわゆる世界金融危機になって,「緊縮」の言葉が乱用されている.その本来の意味は,「予算赤字を減らす手段」であり,「責任ある財政政策」である.
緊縮に関する5つの神話を捨てるべきだ.
1.「成長には財政刺激策が必要だ.」 逆に,健全な財政状態が長期の成長の条件である.成長は,資本労働,人的資本,技術,強固な制度が作り出す.ケインズの議論は,1970年代のスタグフレーションに適用できなかった.財政刺激策が有効である条件は限られている.また,小国の場合,国際金融市場のアクセスが早期に閉ざされる危険がある.
2.「アウトプット・ギャップがあるから刺激策は必要だ.」 景気循環を抑えるには,財政政策より,金融政策の方が適している.そもそも5年も10年も続く景気循環はありえない.別問題だ.3.「緊縮策が成長を損なう.」 危機の前に財政赤字を放置していたからだ.4.「緊縮策が効果を発揮するのは遅い.」 資本市場のアクセスは即座に反応する.5.「ギリシャはドイツの緊縮策の犠牲になっている.」 Paul Krugmanはそう言うが,間違いだ.ギリシャはEUの財政安定化基準を守らなかった.ギリシャへの救済融資は史上最も緩い条件で行われた.その後もギリシャは緊縮を行っていない.自由化も守っていない.
ケインズ主義の2度目の死は,あまりにも引き延ばされている.財政的な拡大策は無益であり,ヨーロッパにおいては有害である.
FT April 25, 2013
The
New Deal for Europe: more reform, less austerity
By Philip Stephens
高債務が成長を損なう,という陣営が攻めていたが,今度は,低成長が債務を増加させる,という陣営が反攻している.
かつてエコノミストたちは「賢者の石」を見つけたと信じて,金融自由化を推進したことを覚えているだろうか?
経済政策を決定する者が注意しなければならないのは,経済学の権威に従って判断するには重要すぎる,ということだ.2度とこうした過ちを犯してはならない.刺激策だけで成長は回復しない.特に,若者を雇用し,革新を実現する,労働市場の改革が必要だ.財政再建はタイミングが重要である.インフラの整備は長期的な成長をもたらすこともある.
WP April 25, 2013
The
Reinhart/Rogoff brawl
By Robert J. Samuelson
VOX 25 April 2013
Public
debt and economic growth, one more time
Ugo Panizza, Andrea F Presbitero
l 中国の防衛白書
NYT April 18, 2013
Is
China Changing Its Position on Nuclear Weapons?
By JAMES M. ACTON
中国の防衛白書は,核を先制使用しない,という約束を削除した.これは重大な方針転換である.それはアメリカの同盟諸国,特に,日本を刺激するだろう.
北朝鮮による核の危機管理が問われる中でも,中国は,アメリカのアジアにおける軍事力が拡大して,中国の長距離核ミサイルを無力化することを恐れている.しかし,むしろアジア諸国間の信頼醸成こそが重要だ.
NYT April 18, 2013
Toward
a Nuclear Deal With South Korea
By THE EDITORIAL BOARD
l 保守党がEUを守る
FT April 19, 2013
To
stay in Europe, vote Conservative
By Timothy Garton Ash
矛盾した話だが,もしあなたが,イギリスはEUにとどまるべきだ,と思うなら,保守党に投票し,保守党を強くしたいなら,労働党に投票しなければならない.
なぜか? 反共産主義者のリチャード・ニクソンがアメリカと共産主義中国との国交を回復できたように,保守党の首相だけが,EU帰属・離脱を問う国民投票で,勝利できるからだ.キャメロン首相は2017年までに国民投票を行うと約束した.最新の調査では40-50%がEU離脱を支持すると答えている.
誰なら心配を深めるナショナリストたちを安心させることができるか? それは,唯一,保守党である.キャメロンは,海峡を挟んで,イギリスのユーロ懐疑派議員たちが好む二つのR(再交渉と財源移管)を推進できないだろう.しかし,もう一つのR(EU改革)には多くの国で強い要求がある.首相の意図としては,それが最大の望みであるが,「改革」の名のもとに彼の望むもの,もっと「柔軟な」ヨーロッパ,を手に入れる.
しかし,メルケルは関心を持たないし,イギリスの大陸におけるパートナーも特別な条件をイギリスに認めることはないだろう.キャメロンが再交渉で得るものは何もない.しかし,それでもイギリスがEUに残るべき理由は明白だ.
再交渉は,他の諸国にも望むものがあるから,小さな取引なら可能である.それを大きく見せるわけだ.「再交渉の成果」は,EU帰属を望む野党とビジネス界から支持される.
もし逆に,今の世論が示すように,労働党が勝利したらどうなるか? 労働党政権は,二つのRを取り下げ,改革を主張するだろう.そして何としても国民投票を避けようとする.なぜなら,長引く不況と,保守党内でUKIP(独立党)やユーロ嫌いの新聞と組んだ新しい指導者は,EU離脱を主張するのであり,労働党政権ではナショナリストの不安を抑えられないからだ.
銀行同盟などがきっかけで,ドイツが条約改正を目指す気配はないが,もしユーロ圏の成長が回復し,従来の(銀行・財政・政治)統合化に向けたドイツ式の立憲的手法が再現したら,ブラッセルへの権限移譲が求められる.労働党や自民党の政権にできるのは,条約を変えない,というだけだ.
だから保守党の指導者は問われる.イギリスのためか,保守党のためか?
guardian.co.uk, Tuesday 23 April 2013
Should
Scotland have its own currency? Our panel's verdict
Alistair Darling, Lesley Riddoch, Patrick Harvie and John Swinney
スターリングか,スターリング離脱か? 通貨同盟か,国境紛争か?
FT April 23, 2013
Sovereign
Scots may have to drop sterling
By John Kay
1992年にチェコスロヴァキアが分裂したとき,新しい2国は同一通貨を使用し,先の交渉に委ねた.しかし,19日たって,スロヴァキアからチェコ共和国への大規模な投機的資本移動が起きた.銀行システムを安定化する緊急行動が採られ,3か月後,2つのクローナが誕生していた.
スコットランド独立を国民投票が認めたら,投機的資本移動が起きるだろう.あるいは,そうした結果を示す世論調査の出た日かもしれない.スコットランドには3つの選択肢がある.ユーロ,スターリング,独自通貨,である.ユーロを採用する意見はエジンバラにもブラッセルにもない.スコットランドは参加基準を満たしていない.ウェールズや北アイルランドともに,イングランドの通貨同盟を続けるのが賢明だろう.しかし,スコットランド影響力は小さい.
財政同盟を求められるから,独立の動機であった財政的な分離の目標が失われてしまう.その場合の交渉は難しいだろう.一方的にイングランド銀行の政策に自国通貨を固定する方法もある.エクアドルがドルを使用し,モンテネグロがユーロを使用しているように.しかし,彼らは通貨を非常に乱用したから,今では他国の通貨を使用している.
他方,デンマークやスウェーデンも独自通貨を維持し,ユーロにほぼ固定している.それは最善ではないが,可能な選択肢である.
l チェチェンの歴史とテロ
guardian.co.uk, Friday 19 April 2013
Chechnya's
centuries-long bloody strife goes global
Stephen Kinzer
2人の若いチェチェン人,Dzhokhar and Tamerlan Tsarnaevがどのような動機で実行したのか,まだわからないが,何世紀にもわたる流血の歴史を持つチェチェンが,ボストン・マラソンで起きたテロにつながっている.
このロシアの小さな共和国は,コーカサスの山中にあり,世界で最も執念深い,冷酷な戦士や,テロリストを生んできた.パキスタンやサウジアラビアのように,境界を越えて暴力を輸出した土地はほかにもあるが,チェチェンほど長い戦争と抵抗,テロの歴史を持つ土地はない.
それは帝国主義の失敗の一つである.13世紀から14世紀にかけて,チェチェンはモンゴル帝国の支配に屈しなかった数少ない人々の一つであったが,その後も,トルコ,ペルシャ,ロシアが支配を企て,恐るべきコストを払って独立を守った末に,1859年,ロシア帝国に吸収された.
しかし,チェチェン人はエスニックとしても文化においてもロシアと異なり,何世代にもわたって,ロシアからの独立を求めて闘い続けてきた.ロシアによるチェチェン支配の企ては,トルストイの小説を通じて,世界文学にまでその影響を残している.トルストイにとって,チェチェン人は「死ぬほど勇敢な」反抗者たちであった.
すべてを征服され,すべてを破壊されたが,それでも彼らは屈しなかった.
第2次世界大戦中,スターリンはチェチェンがナチスに協力したという罪で,全人口をシベリアやカザフスタンに追放した.戦後,帰還を許されるまでに,何万人もが死亡した.
ソ連が崩壊しても,この長い戦争は終わらず,むしろ激化した.現在,ロシアを支配するプーチンは,その硬い意志によってチェチェンの反政府勢力を粉砕し,独立はおろか,いかなる自治もチェチェン人に認めない.
こうしたことがチェチェンからテロに及ぶ者を生んだ.ボストン・マラソンにおけるテロは,それらに比べれば,子供のいたずらにすぎない.1999年,モスクワのショッピング・センターが爆破され,64人が死亡した.2002年,モスクワの劇場が占拠され,120人が死亡した.2004年,ベスランの学校が攻撃され,ほとんどが子供である380人が死亡した.その3年後,モスクワの地下鉄が2人の女性テロリストによる自爆攻撃を受け,39人が死亡した.
ロシアもその野蛮さでこの戦いを進めてきた.ロシア軍は1990年代以来,何万人ものチェチェン人を殺害した.1994-95年のチェチェン戦争時には,その首都であるグロズヌイを占領した.分離独立派の指導者,Shamil Basayevは,ロシアの特殊部隊によって暗殺されたと考えられている.そしてプーチンは,Ramzan Kadyrovをチェチェンの支配者として自由にふるまわせている.アメリカ国務省を含む,多くの外部関係者によれば,このKadyrovが最悪の野蛮な人物で,秘密の監獄で拷問や殺人を続けている.2006年には,その犯罪を暴くジャーナリスト,Anna Politkovskayaが殺害されたが,この事件にも自らかかわっているという.
チェチェン人は,ずっと以前に,戦いを境界の中に限らなくなった.アフガニスタンやイラクで,アメリカの支援する軍隊とも戦っている.これに対して,彼らは兵士や資金の援助を受けているのだ.この戦いは,宗教的なものでもある.イスラム教徒であるチェチェン人の中には,グローバルな西側との戦いに共鳴する者がいる.
ジョージ・ブッシュの「テロとの戦い」は,その副産物として,グローバルなテロ攻撃を生んだ.
FP April 19, 2013
Chechen
war expert: 'This is a big deal'
Posted By Thomas E. Ricks
BLOOMBERG Apr 19, 2013
How
Chechnya's Conflict Became a Global Concern
By Marc Champion
FP APRIL 19, 2013
The
Invisible War
BY ANNA NEMTSOVA
彼らは成功と富を望んでいた.しかし,他面で,彼らはチェチェンやイスラム主義に強い関心を持った.なぜボストンで人々の生活を破壊したのか?
アメリカがアフガニスタンやイラクで多くのイスラム教徒を殺したからだ,という者がいる.彼はダゲスタンでイスラム教徒の人権を擁護する活動家だ.
Tsarnaev兄弟は中央アジアのキルギスタンに住んでいた(かつてスターリンが多くのチェチェン人を強制移住した).その後,家族は北コーカサスのダゲスタンに移住した.チェチェンの隣で,チェチェン人300万人が暮らす.
ダゲスタンの平和は続かなかった.モスクワが行った2度のチェチェン戦争(1994-96,1999)で,ロシアの通常兵器,空軍が使用され,報復が行われた.チェチェン人の主要な部族指導者に裏切りを求めた.その安定性は見せ掛けでしかない.むしろ反抗はチェチェンだけでなく,イスラム教徒が多く暮らす北コーカサス全域に広がった.
しかも,より過激なイスラム主義のセクトが拡大し,イスラム教徒間での衝突が深まった.汚れた戦争はむしろ激化している.ロシアの特殊部隊とテロリストによる攻撃が多くの人命を奪っている.今年の4か月でも,ダゲスタンの犠牲者は67人になる.あまりに多くのテロが起きるので,ボストンの事件にはほとんど関心がない.
アフガニスタンとイラクで戦争が始まってから,国際的な関心はチェチェンに向けられなくなった.私の同僚で,友人でもあるNatalia Estemirovaが殺害されたとき,その葬儀に集まったジャーナリストは非常に少なかった.それは悲しいことだった.
ボストン・マラソンのテロ事件で,再びインターネットにチェチェンの関心が現れた.北コーカサスで続く戦争は,今,ようやくアメリカに届いた.
FP APRIL 19, 2013
From
Bishkek to Boston
BY EUGENE HUSKEY
FP APRIL 19, 2013
Portrait
of a Chechen Jihadist
BY NICHOLAS CLAYTON
FP APRIL 19, 2013
The
Roots of Chechen Rage
BY OLIVER BULLOUGH
FP APRIL 19, 2013
Displaced
BY JOSHUA FOUST
NYT April 20, 2013
Boston
Attacks Turn Spotlight on Troubled Region of Chechnya
By PETER BAKER and C. J. CHIVERS
BLOOMBERG Apr 21, 2013
Boston
Revives Trauma for Chechens in U.S.
By Miriam Lanskoy
FT April 22, 2013
Russia
must let the world into Chechnya
By Thomas de Waal
プーチン大統領が2002年に「分離主義運動」を平定したと説明したにもかかわらず,紛争は終わらなかった.これまで西側はロシアが行う国内の戦争を止めるためにほとんど何もしてこなかった.ボストンの事件があるまでは,西側が標的になることもなかった.
今も,毎年,700人ほどが,北コーカサスにおける反政府勢力との低レベルの戦争で死亡している.そこはヨーロッパ最悪の紛争地域である.メディアに対する規制とロシア政府の無視する態度により,この戦争はほとんど報道されていない.
西側の疑問に対するロシアの対応は決まっている.これは国際的な「テロとの戦い」の一部である.これは純粋にロシアの内政問題である.しかし,こうした説明はますます無意味になっている.ボストン事件があり,もうすぐソチで冬季オリンピックがある,治安対策の協力が必要だ.
ロシアの研究者Alexei Malashenkoは,北コーカサスを「内なる外国」と呼んだ.そこはギリシャ正教ではなくイスラム教が支配的で,人口減少ではなく人口増加が,50%に達する失業が問題である.今やモスクワを追い出すのではなく,より多くのモスクワの(民政による)支援を必要としている.
モスクワは,安全保障と人権に関するヨーロッパの会議に参加し,北コーカサスを開放して,その再建を目指すべきだ.
(後半へ続く)