IPEの果樹園2013

今週のReview

4/22-27

 

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社会民主主義の展望 ・・・「マギー」・サッチャーとは? ・・・北朝鮮と核戦争 ・・・経済学の答は変わる ・・・グアンタナモの捕囚 ・・・ユーロ圏の論争 ・・・中国とガバナンスの多面性 ・・・東京裁判の反対意見 ・・・ボストン・マラソンとテロ事件 ・・・デフレと金融政策

 [長いReview]

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l  社会民主主義の展望

guardian.co.uk, Friday 12 April 2013

Tony Blair is right: the post-1945 social democratic model has to change

Patrick Diamond

ヨーロッパの社会民主主義が最高潮に達した時代,第2次世界大戦後の30年間,高い成長と安定した雇用が実現した.インフレは抑えられて,生活水準,実質賃金は改善した.労働組合の強い交渉力により,資本と労働の間で労働者に有利に再分配された.社会民主主義の関心とイデオロギーが政治論争において重視された.

2008年の金融危機はそのすべてを変えた.失業,倒産,財政赤字の衝撃によって苦しんだだけでなく,社会民主主義者も金融部門の利益にあまりにも近づいたことを責められた.それは資産バブルや銀行の経営失敗をもたらしたのだ.グローバリゼーションは,所得や富の不平等が拡大する中では,もはや多数の利益にならない.

社会民主主義のプロジェクトは,2008年後の世界に,その基本的な枠組みを再生するだろう.金融危機よりも高齢化の方が財政に大きな影響を及ぼす,と推定される.株式市場の成果は期待できず,民間の年金に頼る諸国は,ますます年金所得が減り,他方,財や介護サービスの価格は上昇する.開発諸国において,年金と医療は「時限爆弾」である.

まず,社会民主主義者は,政府支出の拡大より,少ない支出でその賢明さを示すべきである.社会正義を実現するのは,政府の規模ではなく,すべての者に福祉や機会を提供する能力である.ヨーロッパを席巻する妖怪,若者の失業と世代を超えて人々を苦しめる不利な条件を,今すぐ解消するべきだ.底辺への競争を助けて低賃金に補助金を支払うのではなく,スキルを高め,雇用を得やすい状態に向けて改革を促すべきだ.

支出によって貧困が減るように,その使い方を厳しく見直すことが必要だ.上昇するコストを抑え,新しい必要に応じるため,公共サービスは不断に革新されねばならない.社会民主主義者は,現状維持ではなく,革新の精神を広めるのである.


l  「マギー」・サッチャーとは?

FT April 12, 2013

Thatcher’s legacy is Britain’s isolation

By Anne-Marie Slaughter

サッチャーが首相になってから18カ月後に,私はオックスフォードに来た.それは灰色の,暗い秋で,その気候と同様に,寒々とした雰囲気であった.私のカレッジから通りを隔ててあるベンチに,絶望したホームレスが一日中寝ていた.慢性的な失業の危機で,保守党の友人に尋ねても,誰もサッチャーが次の総選挙で勝つとは思っていなかった.

そのとき,フォークランド紛争が起きた.突如として,「マギー」・サッチャーはウィンストン・チャーチルの生まれ変わりとなった.大西洋を超えて咆哮したチャーチルより,だいぶスケールは小さかったが.レーガンはイギリスとアルゼンチンのどちらにも味方せず.ヘイグ国務長官にアルゼンチンの主権を認める仲裁案を勧めたが,サッチャーは「レディーは振り返らない」と拒絶した.それはイギリスに帝国の栄光を取り戻すノスタルジーを高めた.

彼女は強烈な反共産主義の情熱を持ち,ドイツへの核ミサイル配備でも,対ソ姿勢でも,レーガンを支持した.さらに,1991年には,クウェートを占領したサダム・フセインを追い出すために軍事力の行使を支持し,当時のジョージ・HW・ブッシュ大統領の決断を促し,「鉄の女」という評価に磨きをかけた.しかし,世界に示すイギリスの位置に関して,彼女は時代錯誤の,危険な見方をしていたのだ.それはチャーチルどころか,もっと前の19世紀の考え方,すなわち,ヨーロッパ内の勢力均衡を維持する役割をイギリスが担う,というものだ.21世紀にそんな見方を採れば,イギリスは世界政治から取り残されるしかない.

その最悪の例が,ベルリンの壁が崩壊した後,東西ドイツの再統一にサッチャーが示した姿勢である.ヘルムート・コールが回顧したものによれば,サッチャーはヨーロッパの指導者たちの前で,「我々は2度もドイツを倒したのに,今,また戻ってくる」と述べた.

FT April 18, 2013

Thatcher was right – there is no ‘society’

By Samuel Brittan

サッチャーは述べている.「何か問題があると,それは政府が対応することだ,と考えるあまりにも多くの人がいる.我々はそういう時代を生きてきた.「補助金がもらえる.」「ホームレスだから,住宅に入れる.」 彼らは自分の問題を社会に押し付けるのだ.しかし,もちろん,社会なんてものはないのだ.男や女がおり,家族があるだけだ.政府は人々によって何かを実現するが,人々はまず自分の面倒を見なければならない.それができてから,次に隣人たちの面倒をみる.義務もなしに,多くの資格があると思っている人が多すぎる.」

政府とは,人々が互いに助け合い,ただ乗りする者に貢献を求めるメカニズムである.それは,方法的な個人主義であった.サッチャーは,衰退する北部の受け取る支援は,神秘的な国家という実体から生じるのではなく,他の市民たちから得ているのだ.サッチャーはこのことを責めた.


l  北朝鮮と核戦争

WP April 12, 2013

Kim’s dangerous game

By David Ignatius

キムと北朝鮮軍が自殺行為である戦争に向かうことなど,本当に,可能だろうか? アナリストたちはしばしば,これを非合理的で,あり得ないことと考える.しかし,過去に北東アジアのある国が,半分は神としての性格を帯びた指導者により,無思慮で,自己破滅的な戦争をアメリカに対して行ったことを考えてみるべきだ.それは,日本帝国だ.


l  経済学の答は変わる

FT April 12, 2013

The end of the line

Review by Lawrence Summers

Austerity: The History of a Dangerous Idea, by Mark Blythの書評です.

経済学に関する古いジョークに,問題は変わらないが,答が変わる,というのがある.1960年代,70年代なら,不況や失業に対する答えは,需要を維持する財政赤字であっただろう.しかし,次の世代になると,答は全く異なる.1990年代,景気循環は抑制され,「多いなる安定」が実現した,と言われる.重要なことは信認や透明性であって,政府は不安定化をもたらすような間違いを犯さず,債務を減らせば良いのだ.しかし,金融危機が起きて,さまざまな拡大策を議論し始めた.

しかし,Blythの見解には,2つの行き過ぎがある.1.どこでも,いつでも,財政引締め策は間違いだ,と主張してはいけない.2.銀行やバブルの受益者を救済することは好ましくないとしても,リーマン・ショックが示したように,救済融資が必要なときもある.アイスランドとスペインは違うのだ.


l  グアンタナモの捕囚

NYT April 14, 2013

Gitmo Is Killing Me

By SAMIR NAJI al HASAN MOQBEL

私は210日からハンガー・ストライキをしている.すでに体重は30ポンド以上減った.私は,彼らが私の尊厳を回復するまで,何も食べないつもりだ.

私はグアンタナモに11年と3カ月,拘留されている.私は何の罪にも問われたことが無い.裁判を受けたことが無い.

誰も,私を脅威とは思わないだろう.オサマ・ビン・ラディンの護衛出会ったと言うが,私はビデオを観ていただけだ.幼友達が,アフガニスタンの工場で,月に50ドル稼げると言った.私は家族を支えていた.旅行したことがなく,アフガニスタンも知らなかったが,私はやってみたのだ.

彼を信用したのは間違いだった.仕事はなく,家族に仕送りもできなかった.2001年のアメリカによる侵攻で,私はパキスタンに逃げ出した.皆そうだった.私はパキスタンで逮捕された.イエメン大使館にスタッフに会いたいと言ったが,カンダハルに送られ,最初の飛行機でグアンタナモに来た.

先月,私は病気になって入院し,食事を拒否した.私は頭と足をベッドに縛られた.26時間,その状態で,トイレにも行けず,祈ることも許されなかった彼らは私の喉にカテーテルを差し込み,食事を強制的に流し込んだ.私は苦しみ,吐き出したかったが,吐けなかった.私は今も,独房で椅子に縛られ,1日に2回,食事を強制的に流し込まれる.ときには,眠っているときを狙ってやって来る.

私がここにいるのは,オバマ大統領が拘留者をイエメンに送り返すことを認めないからだ.私はここで死にたくない.しかし,オバマ大統領もイエメンの大統領も,何もしてくれない.

私の政府はどこにあるのか? 私は35歳だ.家族のもとに帰る以外,何も望まない.

状況は絶望的だ.少なくとも40人がハンガー・ストライキをしている.人々は衰弱し,私は血を吐いた.我々の投獄に終わりはない.


l  ユーロ圏の論争

Project Syndicate 16 April 2013

What’s Stopping Europe?

Allan H. Meltzer

オランド大統領はフランス企業にギリシャへの投資を勧め,ユーロ危機は終わったと述べたが,それは間違いである.ギリシャの不況は,単に需要が足りないとか,債務が多すぎると言うだけではない.ギリシャの生産コストはまだドイツよりも約30%も高く,この差が解消しなければ,危機は終わらない.ギリシャは輸出できず,輸入が続く.

生産コストは,賃金を抑えるか,生産性を高めることで低下する.いくらかの調整は起きたが,それは恒久的なものではない.

数年前から私が,成長と財政再建を組み合わせる政策,として提案しているのは,債務の多い南欧諸国が集団で「弱いユーロ」を切り下げることである.それは北欧の「強いユーロ」に対して変動レートを採用し,減価することで生産コストを20-25%調整する.そして,もし財政健全化や欧州委員会の示す基準を満たせば,再び,「強いユーロ」に参加すればよい.

健全なユーロを得ることは成長を回復し,財政や,労働市場・財市場の改革にも進むだろう.

VOX 16 April 2013

Are Germans really poorer than Spaniards, Italians and Greeks?

Paul De Grauwe, Yuemei Ji

ECBの報告がこれほど悪用されるのは珍しい.

ドイツの所得分配が余りにも不平等であることが,貧しいドイツ人にとって,ユーロ圏の財政移転は公平でないという印象を強めている.


l  中国とガバナンスの多面性

WSJ April 15, 2013

Does China Really Want a Nuclear Japan and South Korea?

By BOB CORKER

北朝鮮の核武装を破棄させる圧力を行使できるのは中国である.もし北朝鮮が核による威嚇を続けるなら,韓国や日本は抑止力としての核武装を目指すだろう.東アジアにおける核兵器の拡散は迫っている.中国はそのリスクを軽視していないか?

FT April 16, 2013

Tears, reality TV and the Chinese dream

By Patti Waldmeir in Shanghai

習近平とその妻は,まるで1960年のケネディー夫妻のようにふるまう.それは外観だけでなく,習の言葉「チャイニーズ・ドリーム」に明白だ.しかも,そう思うのは彼だけではない.

25000万人が観る人気TV番組MasterChef China が新しいチャンピオンZhao Danを紹介した.その話では,彼女が33歳のシングルマザーであり,台湾系の父親は失業している.彼は料理をしなかった.最終戦で,Zhaoは母親と登場する.彼女は肝臓病の末期で,移植しなければ死を待つだけである.審査員たちは,賞金の半分を母親の治療に使うことを認めた.

対抗したHong Hongxingも,不作によって幼い息子を育てることは難しく,あまりにも貧しくて病気の父親を訪ねることができなかった.2人の話に視聴者は涙を流したに違いない.しかし,この勝負を決めたのは料理の腕なのか,それとも,かわいそうな話なのか,という議論が起きた.

Zhao Danは,新しいレストランを開き,チャイニーズ・ドリームを実現する.

Project Syndicate 16 April 2013

China’s Dream World

Minxin Pei

支配エリートはどこでも,民主主義と権威主義体制との違いはなく,巧妙な宣伝で民衆を刺激し,自分たちの支配を正当化できる,と考えている.

新しい指導者となった習近平は,新しいスローガンと実現しない約束によって10年を過ごしてはいけない.「中国民族の偉大な再興」を唱えた「チャイナ・ドリーム」とは何か?

その中身は定義されていない.習は何も語らないからだ.中国の宣伝機関は何もかも信用を損なってしまう.国民はそれに飽きて,もっと中身を求めている.習は能力ある指導者として信頼されるために,チャイナ・ドリームのより明確な,より限定された,勇気を与える姿を,自分で示さねばならない.宣伝機関に委ねてはいけない.


l  東京裁判の反対意見

BLOOMBERG Apr 14, 2013

To Erase Militarist Past, Japan Must Re-Learn It

By Pankaj Mishra

保守派の日本人は,安倍晋三のように,東京裁判や戦後の日本について批判的であり,インド人の判事Radha Binod Palが判決に異議を唱えたことに感謝する.しかし,その1235頁の反対意見を読んでみれば,まったく異なる多くのことを学ぶだろう.

靖国神社に行けば,歴史とは程遠い多くの自由な解釈が許されていることを知る.日本の汎アジア主義が,中国だけでも1000万人以上の命を奪った,という認識はない.

確かに,世界中の政府が自国の過ちを容易に忘れるのであり,日本だけが例外ではないが.真実は,社会経済的な必要と,地政学的な圧力の産物だ.


l  ボストン・マラソンとテロ事件

NYT April 15, 2013

Bombs at the Marathon

By THE EDITORIAL BOARD

マラソンは人々を結ぶスポーツ・イベントだ.誰が勝つか,負けるか,ではなく,どの国から来たか,でもない.ランナーたちを知らないにもかかわらず,彼らの奮闘と体力に沿道の人々が声援を送る.ボストンでは1897年からそうだった.

来年もランナーたちは集まるだろう.いかなるテロも,アメリカの伝統であるマラソン大会を止めることはない.

FP April 16, 2013

On the Boston Marathon attacks

Posted By Stephen M. Walt

一つの教訓は,テロが我々の社会や自由に与える影響は,我々が冷静である限り,非常に小さい,ということだ.人々は間違った情報による憶測で責任を問うことはしなかった.混乱やパニックは起きなかった.

テロのない理想郷を実現することはできないが,われわれは慎重に警備体制を敷き,経験によって改善し続ける.またテロ攻撃の動機を知り,次のテロが起きるのを防ぐために役立てる.我々の最大の責任は,悲劇に直面したときも,それに負けない強い社会を作ること,その危険を限定し,たとえ,突然,テロに直面しても屈しない社会を築くことである.


l  デフレと金融政策

FT April 16, 2013

How central banks beat deflation

By Martin Wolf

なぜ高所得国はデフレから抜け出せないのか?

一つの見方は,インフレが起きる恐れがないから,算出の不足をもっと積極的に財政刺激策で補うことができる,というものだ.ケインズ主義的なマクロ安定化が復活した.

しかし,別の見方は,構造的な問題だ,というものだ.危機の前,労働者たちの多くは建設など,バブルに関連する職種に就いていた.危機によって,彼らは間違ったスキル,間違った場所に固定されてしまい,容易に新しい職種に移動できない.さらに,最初は一時的な失業であっても,不況が長引くことで長期失業に代わり,彼らのスキルやネットワークが失われてしまう.そのことがさらに新しい就業を困難にする.

また,別の見方をすると,展望が開ける.インフレ目標は,労働市場と同様に,インフレを固定することになった,というものだ.労働者が名目賃金の下落を嫌うのはよく知られている.同様に,インフレ目標の成功は,失業の水準が変わってもインフレを固定している.金融政策の余地は,以前よりも拡大したのではないか.

VOX 17 April 2013

Augmented inflation targeting: Le roi est mort, vive le roi

Richard Baldwin, Daniel Gros

インフレ目標は死なず,進化した.政府の行動は遅れ,しくじった.しかし,中央銀行は「連合軍のノルマンディー上陸作戦」のように,果敢に行動した.それは‘augmented inflation targeting’, ‘ inflation targeting 2.0’, or ‘inflation targeting plus’と呼ばれた.

問題があるのは確かだが,ほかに選択肢はない.チャーチルの言葉を借りれば,インフレ目標は他のすべての金融政策を除いて,最悪の金融政策である.

Project Syndicate 17 April 2013

Central Banks’ Outdated Independence

Mario I. Blejer

「中央銀行の独立性」という考え方は,世界金融危機によってその意味を失いつつある.金融政策の目標をあまりにも狭くとらえた結果,資産市場や商品市場でのバブルを放置し,銀行システムの安定性を損なったのではないか? また,金融危機が発生してから,中央銀行は否応なくインフレ目標から外れ,非伝統的な政策をとって,資産の購入を拡大している.

それは,金融政策の,しばしば逆進的な,所得分配に影響する効果を強め,政治的選択に従うものである.また,単に金融政策が政治介入にさらされるというだけでなく,さまざまな目標を扱うことで,中央銀行の政策には民主主義の赤字が問われることになる.

FT April 17, 2013

The BoJ makes its Pearl Harbor decision

By David Pilling

日銀黒田総裁の政策転換は,「悪名高い真珠湾攻撃」を思い出す.

日本の財政状態は持続不可能であり,支出の半分は借金であるのに,労働者の人口は急速に減少している.債務が限界に達するのは明らかだ.真珠湾攻撃のように,最初に紙幣を大量に印刷して,景気を立て直すことで優位を得るチャンスに賭けている.

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The Economist April 6th 2013

Korean roulette

Mexico’s new president: Pena’s promising start

Economic policy: A world of cheap money

Special Report China and the Internet: A giant cage

(コメント) (日吉ダムマラソンに参加して,読む時間が足りませんでした.)

記事は,北朝鮮に対するハードな選択を求めています.ただし,中国が協力することを前提に.メキシコ大統領の革命的な転換姿勢には驚きます.まるで,裕福な諸国の中央銀行のようです.どちらも,決して容易に変わらないと思われていた方針を180度転換しました.

中国のインターネットが社会に何をもたらすのか,以前ほど革命的なものではないのか,という疑問が広がります.それは政府が与える民衆のアヘンでしょうか?

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IPEの想像力 4/22/13

ボストン・マラソンの爆弾テロは,私に二つのアイデアを刺激しました.チェチェンとソーシャル・ネットワークです.

政治とテロについて考えるとき,たとえば,チェチェンやチベットは深刻な問題を示しています.現状を変える,何か新しい答えはないのか,ネットに現れるアイデアを私は探しています.

ソーシャル・ネットワークや市民からの情報提供“crowd-sourced information”がテロ犯罪の容疑者を迅速に発見し,追い詰めた,というのは,以前のロンドン・テロで監視カメラが示した威力と並んで,ネット社会の可能性を示しています.つまり,・・・

ふつう,政策とその効果は,ずっと後になって統計データにより評価されます.もし“crowd-sourced information / investigation”が広く実現すれば,政策の効果をリアル・タイムで確認できると思います.たとえば,「アベノミクス」が,どのような分野で,どのような効果を発揮しているのか,だれが主要な利益を得て,だれが損失を被るのか,私たちは実際に市民から関連する情報を集めることができるでしょう.

日本だけでなく,構造改革が難しいのは,変化への不安や分配への不平等な効果について,不満があるからです.政府や政治への不信感,むやみに非難し合う政党や政治家への悲観論,無力感も重要でしょう.政治家に頼らず,直接,政策に影響を及ぼすことはできないのでしょうか?

もっと自分で評価し,その情報を集約(さらに検証)する(Google mapみたいな)独自のシステムがあれば,どの政策が自分たちの暮らしを改善するのか,私たちは納得できるし,それを実現する政府や政党をもっと積極的に応援するようになると思います.皆が,自分で集めたデータ,証拠,写真,隣人たちの証言,改善へのヒント,・・・を持ち寄ります.

特に,今こそ,派遣労働の実態や報酬の公平さを検証するシステムが重要です.日本の衰退を懸念する最も深刻な問題点は,非正規の賃金や労働条件の悪化,そこにいる若者たちに活躍する機会が乏しく,革新的な人々,野心的な意見を組織が取り込む力を持たないことです.企業は労働者たちの要求を受けて,正規の労働条件を安定化することに責任を負います.他方,雇用されない若者たちがどうなるか,それは企業の責任と考えません.企業は派遣やパートの形で弾力的な雇用契約を取り込めます.しかし,それが社会にもたらす影響は重視しません.

医療保険や生活保護,移民労働者の均等な働く機会,といった非常に論争的なテーマでも,もっと事実を広く集め,それをだれもが知ることで,論争は冷静になり,顕著な不正を速やかに正すとともに,良質な部分を育て,建設的な提案ができるでしょう.相互に利益を分かち合う分野を発見し,開拓・促進することが,新しいアイデアを持つ若者たちの活躍の場を広げるはずです.

TPPが本当に何を意味するのか,さまざまな試算が示されていますが,どれも前提やモデルが異なっており,評価に大きな違いがあります.もっと農家の人たちが自分の視点で,TPPが実現する変化を,常時,監視して情報を集約することができるなら,彼らももっとTPPに積極的にかかわり,暮らしや農業がどう変わるのか,政治家たちに説明と対策を求めるでしょう.・・・都市における市場価格の変化や適切な農業技術,気象情報,農薬や病気の知識を,アフリカの,貧しい農民たちが携帯電話で得るようになりました.それが革命的な影響を広めている,という記事に,私は感動します.なぜ日本でも,いろいろな問題について,同じようにできないのですか?

あるいは,中国政府は,地方政府に対して汚職の追放を求め,市民が集めた情報をマスコミに公開しています.日本でも,収賄や談合の情報を集めて,具体的な証拠や証言とともに,官僚・政治家と企業の行動を監視し,新規参入や競争を促進するべきでしょう.そして,それが単に価格を引き下げるための劣悪な工事や労働条件の悪化ではなく,優れた製品や革新的な手法によるものであった場合,これを市民たちに広く知らせることで,行政や政治の革新を進める条件にもするのです.

紛争地域の聖戦主義者(ジハーディスト)が,インターネットを通じて,豊かな諸国の移民や宗教的マイノリティー,若者の不満を吸収するリクルート活動を巧妙に組織していると思います.私たちがネット社会やネット上のコミュニティーに深くかかわる中で,閉ざされた親密な情報交換が“home-grown terrorists”の入り口になっているかもしれません.日本も,どれほど移民政策を抑制的にしても,その影響を免れないのです.

私は,潜在的なテロリストたちに「発言の自由」を積極的に与えてはどうか,と思います.彼らが社会的なリンクを回復するために,「ウィルス」に抗する「ワクチン」のような(少しTEDに似た)プログラムを開発します.豊かな社会に広まる不満を,テロ集団が吸収して,彼らの土地の訓練キャンプへ短期訪問旅行に勧誘するのであれば,学校や地域社会は,もっと自分たちのネットワークを充実させ,魅力的な,革新の機会が豊富にあることを教える職場や学校の短期訪問・参加企画を,若者たちに積極的に提供すべきでしょう.

・・・マラソンは,とてもシンプルで,ストイックな感動を呼ぶスポーツです.テロリストたちを生んだ紛争地域にも,彼らのマラソン大会を組織できる日が来てほしい,と願います.

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