IPEの果樹園2013

今週のReview

4/15-20

 

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日銀の戦い ・・・北朝鮮のゲーム ・・・政治論争を回復する ・・・ユーロ危機の決断 ・・・マーガレット・サッチャーとその遺産 ・・・次のグローバル・アーキテクチャ ・・・歴史のポートフォリオ

 [長いReview]

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l  日銀の戦い

Project Syndicate 05 April 2013

The Promise of Abenomics

Joseph E. Stiglitz

アベノミクスは,欧米でも多くのエコノミストが求めていること,すなわち,金融政策,財政政策,構造改革を組み合わせた包括的な戦略である.

日本政府に必要なことは,規制緩和より,正しい規制によって,例えば雇用の慣行を改め,もっと競争を促すことである.政府は結果を管理できず,それを促すだけである.しかし,サービス部門の生産性改善,特に医療と工業力とのリンクは有用である.

もっと女性を雇用し,その活躍を可能にすること,もっと労働者の英語力を高めて国際ビジネスに生かすこと,など,日本経済の若返りを促す戦略は,日本の労働者の教育水準,製造業のデザイン力,世界で最もダイナミックな経済に囲まれているという条件を考えれば,十分に成功する理由がある.

Project Syndicate 08 April 2013

Abenomics and Asia

Lee Jong-Wha

日本が15年に及ぶデフレを脱却して,景気回復を実現することは,他国にとっても望ましい.問題は,それが世界経済や,特に周辺のアジア諸国の経済を損なわないか,ということだ.アベノミクスはもっと国内の改革に重点を置くべきなのである.

日本の経済停滞の根本原因は,その金融システムが機能せず,民間需要が乏しいことだ.1990年にバブルが崩壊して,日本の金融システムは資産を減らした.しかも,その後の資産市場の回復が遅いために企業や家計のバランスシートが痛んだままで,銀行は積極的な融資ができなかった.

日本だけが通貨を安くして輸出を伸ばそうとする国ではない.多くの新興諸国の政府・通貨当局が市場に介入し,競争力を高めようとしている.しかし,それは近隣窮乏化政策であり,通貨戦争や保護主義をもたらすことによって,だれの利益にもならない.

通貨市場への介入,保護主義,資本規制を避けるには,アジア諸国が一層の為替レートに関する合意形成,金融政策に関する監視と政策協調を実現することが望ましい.それによって,アジアの域内相互貿易が発展するような,建設的で安定した条件を維持できるのだ.

FT April 9, 2013

Japan’s unfinished policy revolution

By Martin Wolf

アベノミクスは成功するか? これは金融部門の債券保有と実物投資の交換を促す政策である.日本の企業部門が形成する構造的な貯蓄過剰を解消できるかどうか,がカギである.金融政策は,短期的に,その解消を促す.しかし,下手をするとインフレ期待が破滅的に高まって,日本はハイパーインフレーションに進む.極端な円安は為替規制を必要とするかもしれない.

問題の根本は,企業部門が機能せず,過剰貯蓄を経営者が失敗の隠ぺいに使っていることだ.


l  北朝鮮のゲーム

BLOOMBERG Apr 10, 2013

Why Capitalism Won’t Change North Korea’s Regime

By Andrei Lankova professor of history at Kookmin University in Seoul

韓国も台湾も,1960年には,アフリカ諸国と同様の貧しい国であった.そして,政府は民主的ではなく,リベラルでもない,軍事政権や独裁体制であった.彼らには資源がなく,輸出によって生きるしかなかった.その成長モデルは世界の予想を超えて成功した.

権威主義的な「開発独裁体制」の第2世代は,革命の第1世代が去った中国とベトナムであった.彼らは異なるイデオロギーを唱えていたが,ある意味で,一層,臆面もない過酷さで,先の開発独裁モデルを模倣した.そして成功したのだ.

しかし,北朝鮮は模倣しなかった.なぜなら,少なくとも15倍の高い生活水準を実現した隣国が,同じ言葉,同じ民族として横に存在したから.北朝鮮の政治エリートたちは,非常に合理的に,韓国と同じ開発モデルを採用することが危険であると判断したのだ.国民は,失敗した政府に従わなくなるだろう.それは自殺行為だ.東西ドイツの格差でさえ,3倍程度であった.

北朝鮮が成長するには,外交の資本や技術を受け入れる必要がある.しかし,情報交換や輸送・移動に厳しい統制がある国で,そのような開発は不可能である.中国共産党の多くの党員たちが,自分や親族が企業の重役になって,成長を自分たちの蓄財に利用しているのは公然の秘密である.しかし,北朝鮮はその可能性を持っていない.もし北朝鮮が成長するとしたら,企業の主要ポストはすべて韓国からのスタッフが占めるだろう.資本,教育,経験,政治的コネで,彼らの方が大幅に優れているからだ.

北朝鮮の支配層は,また,自分たちの支配の野蛮さをよく知っており,権力を失ったときの報復を恐れている.もし「人権」を国民に説明すれば,と,かつて北朝鮮の官僚は西側外交官に語った.・・・彼らはすぐに私たちを殺すだろう,と.

彼らは,ジョージ・オーウェルの1984年を生きるしかない.

BLOOMBERG Apr 11, 2013

How to Defeat North Korea

By Andrei Lankov

北朝鮮問題に,簡単な,すぐにできる答えなどない.

北朝鮮の行動を変えるには,その体制の性格を変えるしかない.問題は,それがどうすればできるのか,である.

北朝鮮のプロパガンダは,韓国の繁栄を否定する,という難問を抱えていた.その情報が正しく伝わるなら,北朝鮮の体制は維持できなくなる.それには3つの経路があるだろう.1.知識人や文化人,技術者,エリートの交流.2.ケソン工業団地や,DVDプレーヤー,携帯電話など,公式のルート以外で伝わる情報,3.北朝鮮からの難民が非公式に維持している家族との連絡手段.

次第に,北朝鮮の知識人や専門家が逃げ始めるだろう.そして北朝鮮が崩壊するに至るなら,彼らが北に戻って,故郷の再生に貢献するのである.南では何が実現できており,現代世界はどうなっているのか,彼らが伝えるはずである.今,彼らに投資することが,それを可能にする.


l  政治論争を回復する

FT April 5, 2013

Lunch with the FT: Michael Sandel

By Edward Luce

アメリカのメディアが「モラル・ロック・スター」と名付けたように,サンデルMichael Sandelは,スリラー作家やテレビ俳優のように多くの観衆を惹きつける.インドで彼の話を聞くために集まったのは,わずか5000人であったが,ソウルでは,野外スポーツ競技場に14000人が集まった.中国だけで,彼のオンライン講義を聴くために集まった訪問者が3000万人を超えた.しかし,その講義はソクラテス式の対話術である.

しかしなぜ,非常に異なる諸国で,これほど多くの聴衆があなたの講義を聴きに来るのか? と尋ねた.それに対して,サンデルはしばらく考えてから応えた.「公衆の討論において,どこでも強い不満があるからだ.正義や倫理,価値の問題について,議論が欠けている.・・・人々は,政治政党がこうした問題に答えていない,と考えている.」

1997年,サンデルは,京都議定書が環境問題に「取引可能な排出権」という仕組みを認めて,倫理的なスティグマ(負い目)を取り除いた,とエコノミストたちを非難した.エコノミストは,サンデルが市場の働きを理解していないと批判し,サンデルは,エコノミストが何にでも正しい価格を知っていると間違って主張している,という.こうした生活全体・社会の市場化をサンデルは批判するが,それは場所によって異なっており,アメリカと中国で最も市場が肯定的に受け入れられている.


l  ユーロ危機の決断

Project Syndicate 09 April 2013

Germany’s Choice

George Soros

当初,ユーロ圏はどの国の債券も同じようにリスクがないものとして市場で取引されていた.しかし,ギリシャ危機後,デフォルトの妖怪が復活し,復讐ともいえる負担を求めて,重債務諸国を第三世界の外貨建て債務に苦しむ諸国と同じにした.

このことが理解できたら,その解決策も示されている.一言でいうなら,それはユーロ・ボンド(ユーロ債)だ.

もし新しい財政協定に従い,諸国がすべての既発債をユーロ債に転換できるなら,そのプラスの効果はまさしく魔法のように現れる.デフォルトの危険は消滅し,リスク・プレミアムがなくなる.銀行のバランスシートが即座に改善し,債務諸国の予算もそうだ.例えばイタリアなら,GDP4%が節約でき,予算は黒字化する.緊縮ではなく刺激策が採用され,成長が回復し,債務比率も下がる.手に負えなかった諸問題が蒸発して,まさに,悪夢から覚めるわけだ.

ユーロ・ボンドはドイツの信用状態を悪化させるのではない.逆に,それはアメリカやイギリス,日本の債券に比べて良好であろう.

確かに,ユーロ・ボンドは万能薬ではない.それだけで景気は回復しないし,競争力の格差は解消しない.各国が構造改革を進め,EUは銀行同盟を必要としている.しかし,ドイツがユーロ・ボンドを受け入れることが,その他の改革を推進する.

ドイツはユーロ・ボンドを拒む権利がある.しかし,重債務諸国が集団で苦境から脱出するのを拒む権利はない.つまり,もしドイツがユーロ・ボンドを拒むなら,ドイツがユーロ圏を離脱するべきなのだ.ドイツが抜けたユーロ圏が発行するユーロ・ボンドでさえ,驚くだろうが,米英日の債券よりも良好な条件で取引されるだろう.

なぜなら,ドイツが抜けることでユーロは安くなるからだ.債務諸国の競争力が改善し,債務も実質価値が減少する.デフォルトのリスクは消滅して,維持可能になる.他方,ドイツなど,ユーロ圏を去る諸国は,調整のコストを負担する.通貨価値が高まり,競争力を失って,自国市場でもユーロ圏からの厳しい競争にさらされる.また,ユーロ建ての債権や投資は大幅な損失を被るだろう.

逆に,イタリアが離脱することは,ユーロ建て債務を支払えなくなり,その組み換えによりグローバルな債券市場が混乱に陥る.離脱するとしたら,イタリアではなく,ドイツである.

ユーロ・ボンドを認めるか,ユーロ圏を離脱するか,ドイツ国民が決めるべきだ.どちらにも理由があり,どちらが優れているとは断言できない.もし今国民投票すれば,離脱が多数を占めるだろう.しかし,集中的な討論が人々の心を変え,ユーロ・ボンドを承認するかもしれない.

問題は,ドイツが選択を強制されていないことである.メルケル首相は,少なくとも選挙が終わるまでは,現状のまま,ユーロ圏を維持する最低限の行動しか採らないだろう.

ドイツの選択によって,いずれであってもユーロ圏は明確に回復する.ドイツもそうだ.悪化するままにすれば,いずれ,無秩序な形でユーロ圏が解体するだろう.ヨーロッパの歴史的な実験は失敗し,金融的混乱と不況が残る.それはドイツの利益にもならない.


l  マーガレット・サッチャーとその遺産

The Guardian, Monday 8 April 2013

Margaret Thatcher's Britain: we still live in the land Maggie built

Jonathan Freedland

我々は今もマーガレット・サッチャーが建てた国に住む.

周りを観ればよい.駅に行けば,鉄道会社が競争している.彼女がもたらした民営化の産物だ.道を走る自動車は,ほとんどイギリス製ではない.冷酷な「市場の力」に圧倒されて,イギリス産業の多くは衰退した.水道も,電話も,今では政府のものではない.

当時のイギリスを今思えば,まるで外国のようだ.労働党の古株が,家族を売るようなものといったが,マーガレット・サッチャーは1945年以来の産業国有化をすべて逆転させた.彼女はイギリスの景色だけでなく,イギリス人の心を変えた.

"There is no such thing as society". その言葉は誤解されてきたが,何度も言及されるのは彼女の信条を示すからだろう.個人主義を称え,集団的なものを侮蔑した.

その粗雑な意味で,サッチャーの精神は1980年代の即席で富をつかむ精神,強欲賛美につながった.シティの規制緩和,ビッグ・バンは,2008年の世界金融危機に至るバブルの種をまいた.

FT April 8, 2013

Radical Margaret Thatcher showed the power of character

By Philip Stephens

物事を変える指導者には,信念,勇気,幸運が必要だが,サッチャーはこのすべてを豊富に持っていた.あれほどのガッツを持った政治家はいなくなったし,その激しさは,おそらく毛沢東主義者にも劣らなかった.

FT April 8, 2013

Margaret Thatcher: Right about nearly everything

By NiallFerguson

反対派は今も認めたくないだろうが,彼女は多くの点で正しかった.偉大な政治家の多くがそうであるように,彼女も自国より外国で高く評価されている.

労働組合,国有産業,インフレーション,そして外交政策,すなわち,フォークランド諸島,ゴルバチョフ,冷戦終結,ヨーロッパ,単一通貨,ユーロ圏.

っ唯一,彼女が間違ったのは,東西ドイツの再統一に強く反対したことだろう.しかし,この点でも,将来の歴史家や,現在もすでに東欧や南欧は,その正しさを感じているかもしれない.ドイツは野心的になった.

Project Syndicate 08 April 2013

Margaret Thatcher’s Lessons for Europe

Harold James

彼女はイギリスで非常に嫌われた.それは2つの敵と戦ったからだ.一方は労働組合,もう一方はエスタブリッシュメントだ.

イギリスの支配階級は,大恐慌と第2次世界大戦の経験に由来する協定を守っていた.高い税率と莫大な資源再分配を条件に,自分たちのねじれた儀式,時代遅れの階級制,多くの身分を維持していた.その結果,非効率がはびこり,労働争議が頻発し,生産性は低く,経済は停滞し続けた.

サッチャーは,アメリカ的な生活の最良の側面を取り入れることで,そんなイギリスを改造しようとしたのだ.すなわち,個人の指導力と起業家精神,何でもやってやるという生活スタイルだ.

WP APRIL 9, 2013

Margaret Thatcher’s revolution

By David Ignatius

彼女はカリギュラの眼とマリリン・モンローの唇を持っている,と,ヨーロッパの主要国を指導した最後の社会主義者であったフランソワ・ミッテランはサッチャーのことを語った.彼女こそ,ガバナンスとしての社会主義を埋葬するのに手を貸したのだ.

サッチャー以前には,イギリスの経済問題がしばしばその国民性のせいにされた.それゆえ改善策はない,と.サッチャーは,国民性を問題の一部と考え,それは経済原則を受け入れることで変えられる,と考えた.ロンドンのハイゲート墓地で眠るマルクスの霊は,このトーリー版経済決定論を聴いて,身をよじったことだろう.

The Guardian, Thursday 11 April 2013

The Iron Lady is dead but Thatcherism lives on

Gary Younge

1964年,Martin Luther Kingはノーベル平和賞を受賞したが,その後の調査でもアメリカ国民の63%は彼を好ましくないと見ていた.彼は市民権運動の指導者であったが,国民の85%は,黒人が「人種間の平等を急いで求めすぎている」と考えていたのだ.また,ベトナム戦争にも公然と反対していた.キングが暗殺されて6日後に,下院で「人種間の不和や紛争を煽り,・・・(暗殺事件に至る)邪悪さの種をまいた」と,彼自身を非難する議員がいた.

キングに対する非難が消えて,国民の宝と祝福されるまでに,45年が経っていた.1986年に,彼の誕生日は祝日になった.「われわれは過去を観るとき,現在の視点でのみ,それを理解する.」と,歴史家EH Carrは,『歴史とは何か』で述べている.キングをアメリカ人が評価するようになったのは,人種による隔離を法律が間違いと認め,ベトナム戦争は失敗であった,富の再分配に関してもキングが述べたことは正しかった,という合意が形成されてからである.

マーガレット・サッチャーも同じである.彼女の死は,分極化した,激しい論争と問題を引き起こした.彼女の示した問題は,今なお分断を生じており,その決意が解決をもたらしたと信じる者ばかりではないからだ.失業や不平等が増大する今,保守党の率いる政権は緊縮策を採って,社会的な移動は減り,貧困が広がり,福祉が削減されている.彼女の死を巡って,過去だけでなく,現在の問題に関して,代理戦争が過熱している.

サッチャーの生き続ける遺産とは,市場化,民営化,経済的階層分化,社会の解体,である.その犠牲者と受益者は,まだ生きているだけでなく,これからも生まれるだろう.BBC放送には,サッチャーに関する報道が偏っている,という苦情が殺到し,The Telegraphは,サッチャーについて述べたウェブサイトを閉鎖した.あまりにも悪用されたからだ.「魔女が死んだ」という『オズの魔法使い』の曲がチャート上位に現れた.

サッチャーは死んだが,サッチャリズムは生きている.それはイデオロギー的に批判されたが,その問題を解決することも,回避することも,まだわれわれにはできていない.

WP April 11, 2013

Could Margaret Thatcher’s reforms work in 2013?

By Fareed Zakaria

私はマーガレット・サッチャーを崇拝して育った.それは当然だった.1970年代のインドでは社会主義的な経済学が機能せず,サッチャー型のラディカルな改革に向いていた.しかし,それには12年を経て,深刻な経済危機が起きるまで,待たねばならなかった.

サッチャーの考えがそれほど反響を呼んだのは,その時代の諸問題に効果的な解毒剤となったからだ.1970年代の西側世界は,オイル・ショック,賃金上昇,インフレの爆発,低生産性,低成長,労働争議,高い税率,動脈硬化の国有企業,といった負荷によって動揺していた.

それらは,今の我々が直面する諸問題ではない.

アメリカやヨーロッパの労働者たちは,技術とグローバリゼーションによって低下する賃金を維持するのに必死である.西側経済は,他国における素晴らしいインフラ整備と,教育・訓練の改善によって,厳しいグローバル競争に直面している.彼らは,好調な資本と不調な労働,という2車線経済になっている.大卒は繁栄するが,優れたスキルのない者は後退し,結果だけでなく機会における不平等が拡大している.

マーガレット・サッチャーは「信念の政治家」であった.しかし,その成功は,彼女の信念が時代の中心問題に対応していたからである.現代の問題は,そうではない.


l  次のグローバル・アーキテクチャ

Project Syndicate 10 April 2013

What the World Needs from the BRICS

Dani Rodrik

BRICSが本当に重要な意味を持つとしたら,その人口規模と成長の可能性を基に,世界経済の課題に対して,自分たちの考え方,価値を明確にして,新しい解決のための国際的枠組みを提案し,責任ある行動をとることである.グローバルな経済アーキテクチュアの健全さや地球温暖化の防止策で,世界の行動は遅れており,その大きな代償を支払うのはBRICSである.

アメリカはリベラルな,ルールに依拠した,多国間体制を構築した.ヨーロッパは民主的価値と社会的連帯,最近,問題に苦しんでいるとはいえ,EUという制度を構築した.しかし,こうした旧大国は,新しいグローバルな秩序を将来に構築する正統性を持たないし,それにふさわしいパワーもない.BRICSが,旧秩序への不満を共有することにとどまらず,新しいグローバル・エコノミーに関するビジョンを示すことだ.

彼ら自身の経験から,その特徴はすでに表れている.指導者として行動せよ.


l  歴史のポートフォリオ

Project Syndicate 10 April 2013

The Use and Abuse of Monetary History

Barry Eichengreen

中央銀行には2つのタイプがある.1つは,攻撃型.もう1つは,沈着型である.もちろん,前者はアメリカ連銀であり,後者はECBだ.

その違いは,社会の歴史的な経験から生じた,という説明をよく聞く.1930年代の大恐慌で,アメリカ連銀は経済が崩壊するのを放置した.そのことがアメリカの中央銀行家の意識に強く残っている.次の不況を起こさないためには,攻撃的に行動する.

他方,ヨーロッパの金融政策を決定しているのは1920年代のハイパーインフレーションである.それには,中央銀行が財政赤字を許した,1970年代,80年代の記憶も加わった.

金融政策に限らず,他の政策,例えば外交でも過去の類推が重視される.リンドン・ジョンソン大統領は,ベトナム戦争で,ミュンヘン(ヒトラーへの宥和政策)の類推を用いた.そして,外交の研究で重要な結論は,それがしばしば間違いであった,ということだ.類推は「適合」していなかったのだ.

アメリカ連銀も,ECBも,もっと異なる時期について類推すれば,異なる政策を選択したであろう.少なくとも,ジョン・F・ケネディー大統領がキューバ・ミサイル危機でやったように,歴史の事例を一つの「ポートフォリオ」として整理し,現状にふさわしい選択肢を慎重に考慮する姿勢が必要だ.

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The Economist March 30th 2013

Can India become a great power?

The Cyprus bail-out: This septic isle

Egypt: It’s the politics, stupid

Charlemagne: North is north

(コメント) インドは独立時に軍隊を政治から切り離すことに成功しました.しかしそのせいで,大国としての役割に必要な戦略的な思考を失ったようだ,と記事は注意します.

キプロスとエジプトの政治=経済危機は,その正しい解決策を見出すために,優れた政府の登場を待っています.しかし,間に合うのか?

フィンランドは確かに構造改革において優れた成果を上げたけれど,ユーロ圏内の調整の難しさは,もっと黒字諸国も理解し,赤字国の調整に協力しなければなりません.

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IPEの想像力 4/15/13

カリギュラとマリリン・モンローの両性を示すサッチャーの葬儀は,政治,の難しさを表しています.マイケル・サンデルは,「正義」に関する講義に人々が惹かれるのは,正義を語らなくなった政治家に対する不満が強いからである,と述べています.政治問題の市場化,数学化が進めば,墓場からサッチャーが這い出してくるでしょう.

ソロスの明晰な推論と提案に感銘を受けました.

ドイツのメルケル首相は,ユーロ圏を離脱するより,ユーロ債の発行を受け入れて,赤字諸国の構造改革に協力し,銀行同盟の成功を目指すことで,新しい政治課題を国民に示すときでしょう.ユーロ圏は,ユーロ債をめぐる対立より,財政や構造改革をめぐる政治家たちの相互不信,コスト分担の合意されたルールが欠けていることに制約されているのです.メルケルは,その呪縛を解く鍵を見つける必要があります.

「悪夢から覚める」という表現に,ガバナンスの真価が示されます.イタリアの予算赤字は消え,緊縮策よりも財政刺激策が可能になり,債券はデフォルトの不安を払しょくして,金融機関も資産が改善し,積極的に融資し始める.そうなれば,ECBもアベノミクスに負けずに,ユーロ高を阻止し,ドイツのインフレ率ではなく,ユーロ圏のインフレが起きるまで,積極的に金融緩和するでしょう.ドイツなどでは賃金が上昇し,労働集約的な関連産業が周辺諸国への移転を早めるのです.

北朝鮮の脅しは茶番劇である,と冷笑して,ソウルの野外スタジアムに集まった若い大観衆がステップを踏んでガンナム・スタイルを踊る・・・そんなテレビ・ニュースの映像に不安を覚えました.たとえ茶番劇でも,軍事衝突の危険が高まっているのは本当だ,と思うからです.

権力継承のために,核兵器を使った危機の限界を測っている北朝鮮の指導部が,テレビ映像で流れるガンナム・スタイルの侮蔑的な調子を,許せないと思うかもしれません.かつて韓国の哨戒艇を撃沈し,40名以上の犠牲者を出した以上,それを超える危機を望んでも不思議ではありません.ソウルに対して核兵器を使わないまでも,弾道ミサイル,公共機関や輸送・エネルギー部門へのハッキング,化学兵器,など,戦争状態を確認することが目的ではないでしょうか?

黒田総裁がどれほど金融政策の転換を唱えても,ユーロ債が発行されてヨーロッパの景気が回復し,あるいは,北朝鮮の危機が軍事衝突に至るなら,アベノミクスの将来は不透明になり,旧来のデフレが再現するでしょう.

つまり・・・ 政治とは何でしょうか?

Reviewを読むとき,きっと,こう思うでしょう.富をもたらす仕組みをもたらす支配を確立し,維持する儀式が続くことを,私たちは「政治」と呼ぶのだ.しかし,富と支配とが一致しないとき,それを変えるアイデアが旧社会を破壊する力と結び付き,革新を実現する.それは醜く,暴力的な過程であるかもしれません.その瞬間にも,政治は新しい協調のパターンを模索します.

変化する富の原理と分配の原理が,サンデルにとって,倫理的な問いを発し続けます.合理的な答えではなく,対話することで問題に関する共感と合意を広げる,というロマンチックな政治論の復活です.

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