IPEの果樹園2013

今週のReview

3/25-30

 

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習近平の課題 ・・・チョムスキー,チャベス ・・・ユーロ圏の改革 ・・・キプロス救済の破滅的要素 ・・・イラク戦争の10周年 ・・・グローバル化と不平等 ・・・日本の改革 ・・・貿易ブロック間交渉

 [長いReview]

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l  習近平の課題

Global Times | 2013-3-18

China's biggest challenges stem from success

Zbigniew Kazimierz Brzezinski

中国は,その成功のゆえに困難な,危険な状況を迎えている.例えば,膨大な数の中産階級,インターネットで世界とつながる若者たちだ.また多数の人々が海外を旅行し,外国で学んでいる.こうした状況で,権威主義的な体制,検閲システム,特権的な関係,それは腐敗・汚職や富の不当な捜査をおもたらすが,多くの人々がそれに対して不満を強め,我慢できなくなる.

中国の指導者たちはこのことを理解し,憂慮している.西側から批判する者は,13億人の中国の事情を軽視しがちであり,それは間違っている.しかし,私たちも中国の問題をオープンに議論する中で,中国自身が自分たちにふさわしい解決策を見つける,というのが最善であると考えている.

FT March 19, 2013

Dripping pigs rain on a political parade

By Patti Waldmeir in Shanghai

中国とは,川に豚の死骸が上海の水道水を供給する場所にいっぱい浮くような国なのか? これが超大国か? それは政治的に重要な問題だ.そのニュースには,水の汚染,有毒な食品,信用できない政府,これらが詰まっているからだ.

それゆえ習近平の「中国ドリーム」が脅かされる.北京の大気汚染や上海の豚の死骸に驚くのは西側だけでなく,中国人もそうだ.しかし,それが病気の豚を違法に取引するのを禁止した結果であれば,プラスの意味もある.そして,有機豚,幸せな豚,が宣伝され,高値で売られている.

中国ドリームを実現するには,子供たちが親の世代よりも多くの所得を手にするときだろうが,その前に,豚の死骸が流れていない川や,澄み切った青空を,中国は取り戻す必要がある.


l  チョムスキー,チャベス

Project Syndicate 20 March 2013

The Chávez Way

Robert Skidelsky

ヴェネズエラの中央銀行副総裁と話したとき,この国の人々は石油の富を当然とみなし,だれもあくせく働かない,と聞いた.ヴェネズエラ経済はレント・シーキングに支配され,富裕層たちは石油からの収入を支配するために,ポピュリストたちはそれを分配するために戦った.そしてどちらのグループも自分の利益のためにふんだんに奪った.誰も,富を創り出すことに関心を持たなかった.

チャベスは大統領として,国営石油会社PDVSAと戦った.そして2003年に,その政治的支配を確立し,職員の40%を解雇した.彼の社会事業はPDVSAの予算としてそのまま富を利用した.確かに,腐敗やクローニズムもあっただろう.しかし,ヴェネズエラの貧困率はラテンアメリカで最大の減少幅を示した.

外国資本を嫌って追放したために,PDVSAは生産量が増えず,その富を失って,ヴェネズエラは次第に高率のインフレに苦しむようになった.ドルに固定した通貨ボリバルは,2013年初めに32%切り下げ,ドル建債券を廃止した.それは投機的に利用されていたのだ.しかし,資本市場を失ったチャベスは,市場よりも高い金利で,石油の販売契約を担保に,中国から融資を受けて経済危機をしのいだ.

その権威主義的支配と浪費にもかかわらず,彼は国民から熱狂的に愛された.そして,中国の台頭,アメリカの相対的な地位低下,長期の商品価格高騰,2008年の西側金融危機が作った政治・経済的な実験の余地を,チャベスは生きたのである.


l  ユーロ圏の改革

Project Syndicate 19 March 2013

Europe, Italian-Style

Michael Spence

ECBがイタリアやスペインの改革を条件に債券市場や銀行システムを安定化したことは,ユーロ危機を緩和した.しかし,その傾向は続かず,失業率は高いままで,イタリアの議会選挙は改革を進めたモンティ首相を敗北させる結果であった.緊縮策ばかりでは有権者の不公平感を強めるだけである.しかし,意外なことに,債券市場はイタリア政治の混乱を静観している.

真の問題は改革のコスト,その分担である.あまりにも税金逃れが蔓延しているために,政府が改革のために増税を受け入れれば,すでに税金を支払っている有権者が追加の負担を強いられ,ますます不公平な分配を強制される.モンティは税金を支払わせるような改革を試みたが,それには長い時間がかかる.結果的に,失業率が高まり,特に若者の雇用は失われた.

通貨の切り下げは,競争力の問題を生産性を高めることで解決するのに,長期的に代わるものではない.しかし,少なくとも3つの方法でそれに貢献する.

1.改革のコスト分担をより公平に行える.2.変動レート制は自動的な調整メカニズムを意味しており,政治的な交渉の難しさを回避できる.3.イタリアにおける短期・中期の需要不足を緩和できる.政府が財政支出で需要を追加できないなら,非貿易財部門の縮小に対して,貿易財部門を拡大して成長と雇用を補うのだ.緊縮策を取る国は,好調な他の国から需要を分けてもらう.

危機の主要な教訓は,制度の設計ミスである.ユーロ圏内では,各国政府がばらばらに,インフラ,教育,研究,技術への投資を行っている.各国の労働市場,社会福祉,競争力政策も異なっている.それらが成長,所得,雇用を異なったものにする.こうした政策の多様さを許しながら,その結果が収斂すると期待するのは間違いだ.調整メカニズムが必要だが,外的な切り下げもインフレも利用できず,労働者の移動性も低い.

Project Syndicate 19 March 2013

Europe’s Lost-and-Found Decade

Barry Eichengreen

ヨーロッパ経済は,危機後に急速な回復を遂げた新興市場のような,「フェニックス型回復」にはならないようだ.むしろ,最も起りそうなシナリオは日本型の低成長もしくは停滞だ.

アメリカや世界経済の回復の遅れは,輸出によって緊縮策の弊害を緩和する試みを不可能にする.それはちょうど,1990年のアメリカ経済の不況が,日本の輸出を抑え,失われた10年を導いたのと同じである.最後に,不動産市場も銀行の資産を大きく損ない,日本型のシナリオをもたらしている.ヨーロッパでも,20年前の日本と同様,損なわれた金融システムの強化にはほとんど何もしていない.

一つ,重要な違いがある.それは失業率だ.日本では最高でも4%の水準を越えるのはまれであったが,ユーロ圏では社会的崩壊に近い12%に達し,なお上昇している.スペインとギリシャでは失業率が30%,特に若者は恐るべきことに60%が失業している.

ヨーロッパは,日本よりも社会的な危機の可能性が高い.問題は,有権者が無害なコメディアンを選ぶか,もっと悪性のファシスト政治家を選ぶか,ということだ.彼らはドイツ政府を嫌い,ECBを嫌うだけでなく,マイノリティーや移民集団も攻撃する.


l  キプロス救済の破滅的要素

guardian.co.uk, Sunday 17 March 2013

Savers across Europe will look on in horror at the Troika's raid on Cyprus

Michael Burke

これは銀行の債務を政府に,すなわち,家計に転嫁するものである.彼らはこの融資の決定に何もかかわっていない.

ロシアのオリガークや課税逃れ,マネー・ロンダリングが問題であれば,その責任はむしろ,こうした金融取引を認めたヨーロッパの機関や国際機関にある.さらに,課徴金は安定性を理由に要求されている.救済資金がなく,現金自動支払機が止まれる,と預金者や銀行システムを脅かしているのはトロイカなのに.

キプロスの条件は,他国,例えばスペインよりも悪い.その理由は,キプロスが破産しても影響が少ないからだ.特に,ヨーロッパの大銀行は影響を受けないと思われている.それはトロイカの愚かな考えでしかない.ヨーロッパ中の預金者がキプロスを観て,預金を安全な国営の貯蓄機関や有銀貯金に移動させている.直接の銀行取付ではなくても,多くの国で銀行システムは弱まるだろう.

FT March 17, 2013

Europe is risking a bank run

By Wolfgang Münchau

銀行取付を始めるのは非合理的であるが,すでに始まった銀行取付に参加するのは合理的である,と,イングランド銀行総裁Sir Mervyn Kingは述べた.土曜日の夜,財務大臣たちはユーロ圏の銀行取付に火をつけたかもしれない.

キプロスは破綻していないし,預金者にその損失を強いたわけでもない.それは課徴金として課税されたのだ.法的には富裕税,経済的にはヘアカットと言われる.10万ユーロを超える預金が保護されないのは預金保険の原理である.私はヘアカットに賛成だが,すべての少額預金者にまで課徴金を課すのは理解できない.

そのロジックは,ドイツが完全な救済融資の合意を拒んだ結果,救済資金は不足し,残りをヘアカットとして預金者が負担することになったのだ.富裕税だけでは足りなかった.

南欧の政治不安が深まるだろう.この合意の政治に及ぼす長期的な影響は,非常に大きいものだが,短期的にも,キプロス以外の諸国にまで銀行取付が広がる.むしろ,まだ起きていないことが不思議なのだ.ユーロ圏には銀行取付を抑える様々な障壁が残っているが,恐怖が決定的な水準に達すると,そのような制度的障壁は容易に超えられる.そして銀行取付はそれ自体で拡大し始める.

この数週間に取付が始まると断言はできないが,そうなることが合理的である.

FT March 18, 2013

Cyprus shows German line is hardening

By Quentin Peel in Berlin

土曜日の朝,預金が救済資金を分担する,というニュースに,ドイツは非常に肯定的な反応であった.そうでなければ議会は承認しない,Wolfgang Schäuble蔵相は良くやった,と.

これまで社会民主党はメルケルを批判しながら,金融危機を深めたと非難されないように議会では提案を支持してきた.しかし,次の選挙を前にして,その態度が変わってきた.SPDのトップは,ユーロ債を使って危機を緩和する提案をFT紙上で行った.しかし,ドイツの有権者は,破たんした債務者を無条件で救済するモラル・ハザードを強く拒んでいる.キプロスは,その経済規模の8倍も外国人の預金を受け入れている.

NYT MARCH 18, 2013

Should Depositors Save Cyprus’s Banks?

Edward Harrison ・・・ヨーロッパは「救済“bailout”に疲れた」.そして,「民間部門に負担を求める」ことが政治家や学者によって強く支持されるようになった.すなわち,納税者ではなく,銀行に支払わせるべきだ.しかし,ここでヨーロッパはためらった.何らかの“bail-in”ガイドラインを示すべきであったのに,銀行や政府が損失を出した時に対応することだけ示した.

キプロスは9か月も債務問題を処理できず,ギリシャに対して融資し,膨張した銀行を救済する資金がない.ユーロ圏の諸国が負担を分かち合うにも,それを抑制するために,キプロス救済にはより大きな割合で民間部門が負担するべきだった.銀行はほとんど債券を保有せず,預金がその対象になった.

支払い不能の銀行を特定し,保証額を超える預金者にその金融機関の株式と交換させるべきだった.しかし,理由はわからないが,キプロス政府はそうしなかった.保証されていた預金にまで手を出した.そして,だれもが憤慨したのだ.キプロスであれば,ユーロ圏の他の国でもやるだろう,と預金者は不安になっている.

NYT MARCH 18, 2013

A Bank Levy in Cyprus, and Why Not to Worry

By ANDREW ROSS SORKIN

Jim O’Neillchairman of Goldman Sachs Asset Management)は「危機の感染を考慮しない無謀な決定だ」と非難し,Mark J. Granta market commentatorとしてユーロ危機の展開を予言した)は「レイプ」と呼んだ.

しかし,心配することはない.何も起こらない.ヨーロッパの株価は1%も下落せず,アメリカの投資家たちは無視した.

モラル・ハザード論の支持者たちは頭を冷やすべきだ.キプロスは小さい.救済額は130億ユーロでしかない.預金者からの課徴金も騒がれ過ぎだ.取付のパニックを警告するが,より賢明な投資家は,キプロスとスペインやポルトガルとの違いを知っている.同じことは起きないのだ.何か月も前から危険と分かっているキプロスの銀行に,巨額の預金を置いているロシア人が,どこにでもいるわけではない.

これはロシアとヨーロッパ,とくにドイツとの,政治的に困難な歴史の一部である.そして,過去5根間の預金金利の平均は5%であったから,たとえ今回の救済案で10%の課徴金を支払っても,その預金額は,アメリカの銀行で年1%のまま置いたよりも増えている.

BLOOMBERG Mar 18, 2013

Euro Area Ruins Its Progress With Cyprus Deal

By Megan Greene

キプロスの救済融資は2つの理由で成立した.第1に,ドイツ社会民主党が預金者負担を求めた.ドイツからの救済融資がロシアのオリガークに利用されるのを拒んだのだ.ドイツ政府の提案は,社会民主党の賛成がなければ議会で承認されない.第2に,IMF170億ユーロの救済を得られなければキプロス債務は持続不可能だ,と主張した.つまり,キプロスは債務を減らすか,銀行債務を減らすか,預金から集めるしかない.しかし,キプロス政府債はイギリスの法によって守られており,銀行は債券をほとんど持たなかった.

ECBはこの危機を鎮静化できるだろう.そして,それが銀行同盟への道を推進することになる.

VOX 18 March 2013

Cyprus: The next blunder

Charles Wyplosz

ヨーロッパは新しい大失策を示した.

新しい要素は,銀行預金に「課税」することだ.それはヨーロッパ中の預金保険を信用できないものにする.2008年は逆だった.アイルランドは銀行を守るために,預金の全額を保証した,その結果は政府の破たんと救済融資につながった.ギリシャ救済が特殊ケースである,という主張は間違いだとわかった.

預金への課税は,2001年にアルゼンチンが資金流出を止めるために預金封鎖をした‘corralito’になるだろう.それは経済取引を崩壊させ,一気に苦痛を高めて,国民の怒りは政府を2度も崩壊させた.キプロスの危機を長引かせれば,同じことになる.

救済融資を行っても,金融監督は各国の支配に従っている.金融監督は特殊利益集団に深く結びついているから,この救済融資も条件は守られないだろう.

FT March 19, 2013

Big trouble from little Cyprus

By Martin Wolf

「ラクダは,委員会が設計した(失敗作の)馬だ,と言われる.これは厳しい環境に適応したラクダに対して,まったく不当な主張である.だが,残念なことに,ユーロ圏の救済融資には,不当と言えない.」

まず,なぜ銀行の再編が必要なのか? キプロス政府は,多くの債務を負い,それを救済できないほど肥大化した銀行部門に責任を持っている.

EUが直接にユーロ圏の銀行の資本を増強するなら,その額は重要でなくなっただろう.しかし,銀行同盟はまだ機能せず,ロシア人の預金を救済することに主要国が反対した.

預金に課税することは泥棒である,という意見が多い.それはナンセンスだ.キプロスの銀行は資産をほとんど待たず,それでも預金者にはいつでも引き出しに応じると約束している.それは政府による支払いを前提しているからだ.銀行預金は政府債務なのである.

銀行が損失を出した場合,負担をどうするか.Nicos Anastasiadesキプロス首相は,預金に課税すると決めた.それは少額預金者に少なく,高額預金者にはもっと多く課すべきだろう.しかし,ロシア政府は憤慨するし,預金者も怒っている.

なぜ納税者が銀行を救わねばならないか? それは不当なことか? 政府は,納税者を代表して,この危険な金融システムを作った.納税者がそのコストを分担しなければならない.しかし,保証されていたはずの預金者にまで課税したのは失敗だった.また,銀行間の違いを慎重に区別して預金したものまで,一律に課税した.これは強奪に等しい.

キプロスに限らず,どこでも銀行はわずかな資本で危険なビジネスを行っている.それは政府を支払い不能にする危険がある.しかし,銀行救済を拒めば危機は拡大し,海外にも波及する.緊密に統合化したユーロ圏が崩壊する危険がある.

もっと多くの自己資本を要求し,財政を健全にして財源を確保し,規制を強化して,ユーロ圏全体で金融監督と財政支援を行うべきだ.

FT March 21, 2013

Markets Insight: US ‘snowbird’ effect is what Europe needs

By Gillian Tett

数十年前,フロリダは経済的に遅れていた.アメリカ北部やカナダからフロリダに旅行者が増え,その不動産を購入する人が増えた.それは,アメリカ内の通貨システムや文化に共通性があり,インフラ投資が行われたこともあるが,同時に,法的な予測可能性が高いことも重要だった.

同じパターンはヨーロッパにも表れている.ドイツやオランダ,フィンランドの年金生活者が,ギリシャやキプロスの別荘を購入して,暖かい土地で老後を楽しむ.それが金融危機や緊縮策を緩和するかもしれない.しかし,それはアメリカよりも少なく,最近はむしろ,不穏な南欧よりもマイアミの不動産が売れている,という.

これを観ても,ヨーロッパは経済圏としての将来を悲観するべきだろう.


l  イラク戦争の10周年

WP March 21, 2013

The painful lessons of Iraq

By David Ignatius

私の友人が,戦闘が始まってから数か月後に,私に言ったことを今も覚えている.「アメリカがかわいそうだ.あなたたちは苦境に陥っている.アメリカは中東の国と同じになるのだ.アメリカは決してイラクを変えられないだろう.しかし,イラクはアメリカを変える.」


l  グローバル化と不平等

NYT MARCH 18, 2013

Singapore’s Lessons for an Unequal America

By JOSEPH E. STIGLITZ

不平等は世界各地で拡大している.しかし,その影響は地域により,国によって違う.

シンガポールは,社会的・経済的な公平性を重視した成功例である.経済格差の小さい国は,高い成長も実現する.シンガポールが1963年にイギリスから独立して以来,どれほど大きな変貌を遂げてきたか,想像するのも難しい.当時は労働者の4分の1が失業もしくは低雇用状態であり,所得は現在の10分の1以下であった.

また,北欧諸国は,開放型で民主主義を重視したモデルを示している.成長と平等にはプラスの関係があるだけでなく,これら2つと民主主義の間にもある.それはまた,大きな不平等は経済を害するだけでなく,民主主義を弱める,と言える.

経済の諸力はグローバルに作用する.しかし,その結果がこれほど違うという事実は,各地域の諸力,特に政治が,このグローバルな諸力に形を与えているのだ.シンガポールと北欧は,平等な成長というものを示した.社会的正義を実現するには,子供たちへの教育が重要である.


l  日本の改革

FT March 20, 2013

Abe is right to favour Japan’s future

By David Pilling

日本政府がインフレを促進することは,世代間再分配を促す点で意味がある.日本の若い労働者は,バブル崩壊後のデフレによって政府が高齢者の利益を守る政策を優先した結果,多くの不利益を受けてきた.民間部門の債務処理は遅く,収益の減少に企業はコスト削減で対応し,若者たちを派遣やパートで利用した.それは不公平なだけでなく,若者たちが社会保障システムを離脱してしまうように,日本の将来を脅かしている.

デフレは,皮肉なことに,利益を生んでしまう.政府は財政赤字を続けて債務を低利で増大し,老人たちは利子を失ってもデフレで利益を得て,低賃金の若者もデフレによって生活費を抑制してきた.

日本のように政府債務の90%を日本人が保有する場合,問題はデフォルトのリスクではなく,世代間の苦痛の分配である.政府はもっとバブル期に蓄積された富に課税するべきである.インフレもその一つであるが,相続税,不動産税を引き上げるべきだ.もっと言えることは,資金の乏しい家計ではなく,利潤をため込んだ企業に課税するべきだ.


l  貿易ブロック間交渉

FP March 18, 2013

Trade Coalitions of the Willing

BY DANIEL ALTMAN

WTOの不幸なドーハ開発ラウンドより,オバマ政権は,もうすぐ日本も参加するTPPと,ヨーロッパとの大西洋自由貿易交渉によって,世界の自由貿易体制を指導するべきだ.ドーハ・ラウンドは,その複雑さと交渉システムのせいで失敗した.すべての国が多くの分野で妥協することは難しく,しかも,すべての国が合意の拒否権を持っていた.

代替案はすでにある.巨大な貿易ブロックを形成して,ブロック間で相互利益を拡大することだ.フランスやインドのような,交渉を止める国はいなくなる.それは本質的に有志同盟であるからだ.アメリカ政府はTPPAPECのすべての国の参加を求めるだろうが,それが実現しなくても交渉は止めなくてよい.

巨大貿易ブロックはゲームのルールを変えるだろう.TPPEUASEANの貿易圏内では生活水準や生産パターンが次第に収斂するから,その多様性を維持するために貿易を拡大しようとするはずだ.参加しなかった国は遅れに気づき,貿易や投資をより強く求めるだろう.

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The Economist March 9th 2013

The rise of the sharing economy

Forestry in Japan: Killing two birds with one tree

Tibet’s future: The limits of despair

Spain’s economy: Not yet the new Germany

(コメント) 「シェア・エコノミーの誕生」は,半信半疑なまま,深く驚きました.自分が持っているけれど使わない物を,他人に貸す.他人の物を使う.そんな取引が容易になってきた,というわけです.たぶん,これもインターネットです.人々はインターネット上の関係を緊密化し,その関係上で信頼し,取引コストの非常に小さな状態で,法律や税制が有利に働けば,柔軟な取引の拡大・制度化(企業化)を受け入れるのです.

被災地の住宅不足と花粉症対策の話は別記します.中国政府の弾圧と投資にもかかわらず,チベットにおける抗議の焼身自殺は広がります.スペインの債務危機はかつてのドイツと同じような制度改革から競争力と成長を実現する,という期待を紹介しています.

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IPEの想像力 3/25/13

確かに,キプロスの債務やタックス・ヘイブンの問題は以前から指摘されていました.しかし,ギリシャよりさらに小さなキプロス(人口80万人)が,ユーロ圏を崩壊させる危機にまで拡大する危険性は,よく理解されていなかったのです.すなわち,1EU内タックス・ヘイブンの救済を嫌うドイツ国内選挙前の論戦,2.銀行同盟とモラル・ハザードにこだわるドイツ政治家と有権者の意識,3.小口預金への課税を組み込んだ救済融資案への反発と国際的波及,4.キプロス国内の政治エリートや銀行家,ロシア富裕層との関係,など.

キプロス問題では,ドイツの発言と行動が注目を集めています.ギリシャやスペインで社会紛争が広まり,キプロス救済では,ロシア人富裕層へ重く課税することがロシア政府の反発を呼びます.債務・通貨危機は,第1次世界大戦前のように各国政治状況が悪化するなら,ユーロ圏解体,ドイツとロシアとの戦争にさえ至るリスクになるのです.(ロシアの地政学的な駆け引きについては,ロイターの論説でFelix Salmonが考えています.)

昼のニュースを観ていて,日本の外務大臣が映りました.そして,この人を全く知らない自分に驚きました.自民党も大きく変わったな? いや,外交問題は安倍首相の最大の難所であるから,これは自分で管理するのだろうか? この危険な時期に,大物の政治家はだれも引き受けなかった? 問題がこじれた時に責任を取らせる? ・・・などと邪推しました.

日本の政治は,硬直化した社会制度を変える前に,政治の硬直化を打破しなければなりません.

・・・「アメリカ人,ヨーロッパ人が力を結集できなければ,彼らの未来がどのようなものになるかを知るのは簡単だ.日本に目を向ければ,容易に想像がつく.」(ファリード・ザカリア「先進民主国家体制の危機―改革と投資を阻む硬直化した政治」『フォーリン・アフェアーズ・リポート』2013 NO.2

・・・Barry Eichengreen David Pillingの論説紹介も日本に言及しています.見てください.

The Economistの囲み記事は,大震災から2年目の東北における住宅不足と,日本人の深刻な花粉症アレルギーとを結び付けて,一石二鳥(一木二鳥)の解決策を検討します.林業の経営者の高齢化,安価な木材輸入の自由化,住宅需要の冷え込み,など,花粉症を広めた政治経済的な原因はいろいろあるでしょう.しかし,農林水産大臣,厚生労働大臣,建設業界,高齢者層,などが協力して,花粉症対策として大量の杉を切って,その風土に適した木に植え替え,東北の被災者のために新しい住宅を建てるのです.しかし,関係者が協力できれば,というとき,日本ではそれを見捨てます.・・・日本の政治が悪い.

ザカリアの論説は,こうも書きます.かつて欧米諸国やIMFは発展途上国に成長の処方箋として,次のような指示を与えた.

「世界市場の競争に経済を開放する構造改革を実施し,労働力の流動性を高め,無駄が多く,経済をゆがめている補助金制度をなくして,成長を刺激する投資に特化せよ.」

これは,現在,問題に直面した先進諸国に必要な処方箋であるが,政治の硬直性によって,実施されない.政治は特殊利害による集団が支配するから,新しい制度や改革を受け入れない.

・・・ちょうど,バブル崩壊後,また,大震災後の日本政治がそうであるように.そして私は,NATO軍が撤退した後のアフガニスタンで,ガバナンスが,女性たちがどうなるのか,心配です(IPEの想像力 1/23/12IPEの風 5/7/2007).

日本人に理解しやすいイメージを重ねるなら,キプロス問題とは,アイスランドの金融破綻と尖閣諸島を重ねたような位置にあるのです.だから今,岸田外務大臣が,こうした問題に重要な提案を行い,解決に向けて協力を促す力が日本の政治にあることを示してほしいです.

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