IPEの果樹園2013

今週のReview

3/18-23

 

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国籍とグローバル市民 ・・・中国新政権の改革案 ・・・緊縮策の賛否 ・・・北朝鮮の最期 ・・・イギリス経済の改革 ・・・ユーロ危機 ・・・イラク戦争の10周年 ・・・情報社会・戦争 ・・・東北大震災・福島から2年 ・・・金融市場の回復 ・・・移行期と金融政策 ・・・IMF改革

 [長いReview]

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l  国籍とグローバル市民

NYT March 10, 2013

Mr. President, Tear Down This Wall

By MICHAEL DEAR

今や,アメリカとメキシコは約700マイルの壁で分離されている.移民となる人たちは,この壁の上や下,あるいは,壁を通り抜け,壁を回避して入国する.アメリカへの移民流入を管理する手段として,国境の要塞化した壁は非常にふさわしくないものだ.しかもそれは,深刻な持続的影響を及ぼす.すなわち,国境の両側でコミュニティーを損なうのだ.

その傷が癒せないものになる前に,我々は壁を倒すべきである.

曲がりくねったリオ・グランデ川に沿って影をまっすぐに建設することはできず,その北側に直線にできた壁は,各地にゴルフコースから大学キャンパスに及ぶ土地を切り離してしまう.今やアメリカ人が「(壁の)メキシコ側」に住むことになる.テキサスの壁は,その多くが貧困地区やマイノリティーの土地に建つ.そして億万長者の所有地になると,突然,その周囲を迂回する.アリゾナでは,主要なフリーウェーにも検問所ができた.逮捕者や麻薬の応酬が増えるけれど,住民たちは交通の遅れを嫌う.アリゾナ州民は他州からの訪問者に,「ようこそ警察国家へ」とあいさつする.カリフォルニアでは,峡谷を流れる川の水を利用するために多くのトンネルが掘られ,その出入り口には柵がある.しかし,移民たちがこれを利用するだろう.

我々が勇敢であるかどうかにかかわりなく,いつかこの壁は崩壊する.ベルリンの壁も,事実上,一夜にして崩壊した.そしてその破片は,冷戦終結の記念品として売られた.国境の壁もそうだ.失敗した移民政策の証明である.住民たちの怒りの対象として,廃品回収業者や記念品販売店の餌食になるのを待っている.

少しはスミソニアン博物館に展示したほうがよいだろう.アメリカのアイデンティティが持続可能な,健全さを回復したことの記念として.

Project Syndicate 12 March 2013

National Governments, Global Citizens

Dani Rodrik

財,サービス,資本が国境を越えて市場がグローバル化する一方で,政治家たちは国内に対する責任・権限だけに制約されている.金融のグローバリゼーション,市場の失敗,不安定化,危機,などは「ガバナンス・ギャップ」を生じる.しかし,超国家的な官僚制度は,世界銀行でも,EUでも,民主主義の赤字に苦しみ,正当性の問題に直面する.

一つの解決策は,グローバルな市場に民主的国家の管理を拡大することである.これは保護主義に向かう危険もあるが,不可能ではないし,健全なグローバリゼーションにとって有害なものでもない.規制の多様性を維持し,擦り切れた社会的交渉過程を再生するような,各国政府による管理範囲の拡大は,グローバル経済の機能を高めるだろう.

次の解決策は,政策エリート(その多くはエコノミスト)が好むような,婉曲に「グローバル・ガバナンス」と呼ばれる国際機関の強化である.G20IMFの強化,バーゼル銀行委員会による規制,などがある.

しかし,第3に,各国の関心をよりグローバルに変える,という解決策がある.それは「国民」としての市民が次第に自分たちを「グローバルな」市民と認識することで起きる.各国政府も,こうした市民たちの声に応える責任があるからだ.最貧国への債務免除を主張する民間団体が,特に豊かな諸国の若者を中心に,それぞれの政府を動かした.多国籍企業もそのような圧力を受けてグローバルに労働環境を見直したし,自国の人権問題を外国の政治指導者に訴えることで改善しようとする活動家たちが現れる.環境規制についても,国際競争力を損なうものとして無視する姿勢から,グローバルな環境意識に目覚めた地元の市民たちが規制強化に成功するケースが発展途上諸国でも増えている.

グローバルな市民という意識は,まだ国民意識に比べて弱い.しかし,若者や,教育のある者,専門職などでは,その割合が高い.世界政府はないが,グローバル市民という意識が各国の政策を変えるのである.


l  中国新政権の改革案

FT March 12, 2013

Urbanisation is only a partial panacea for China

Yukon Huang

所得格差,汚職,社会的不満が高まる中で,温家宝から李克強に首相が交代する.李克強は都市化を,さまざまな問題の解決策と考えている.しかし,都市住民は交通渋滞や大気汚染に苦しんでおり,都市を解決策とは考えない.

都市化は生産性を高め,貧富の差や地域間格差を減らすのか? 財政的に持続可能なのか? 都市の過密による諸問題を回避できるのか? そして,都市のエリート層から強い反対は生じないか?


l  緊縮策の賛否

Project Syndicate 13 March 2013

The Economist’s Stone

Jeffrey Frankel

財政政策と金融政策は,1930年代の経験から学んで,景気循環を緩和する政策として確立された.J.M.ケインズは不況期に拡大的な,そして好況期には引締め的な,積極的財政政策を主張した.ミルトン・フリードマンも同様に大恐慌期の金融政策が引き締められたことを批判した.しかし,政府には正しい時期を判断する能力がないから,裁量的な政策決定に反対した.

1970年代の高インフレの経験から,先進諸国の政策担当者たちは正しい知識を見失ったか,新しい理論を信奉した.しかし,好況期の拡大策も,不況期の緊縮策も,ともに間違っている.財政政策は,金融政策に比べて科学ではなく錬金術だ,と批判されるが,その正しい使い方と時期を我々は学んだはずだった.


l  北朝鮮の最期

FT March 11, 2013

Prepare for endgame in North Korea

By Gideon Rachman

「我々の大陸間弾道ミサイルは発射準備ができている.・・・もしわれわれがボタンを押せば,ミサイルは発射され,その連射がワシントンを襲うだろう.アメリカ帝国主義者たちの牙城,悪の巣窟は,・・・火の海となる.」

北朝鮮の行動について中国を責めるのは無理がある.しかし,中国は北朝鮮の隣国であり,緊密な同盟国,その経済支援が北朝鮮を存続させている.それでも中国の説得が成功しなかったのは,中国の戦略上の迷いがあるからだ.すなわち,朝鮮半島の南北統一より,北朝鮮の体制を維持するほうがよい,と考えているのだ.

しかし,現状維持は南北再統一よりも危険であることを知るだろう.北朝鮮が核攻撃によって脅迫を繰り返せば,韓国や日本は核武装を目指し,アジアの核軍拡競争が始まるからだ.しかも,北朝鮮のように,体制崩壊の危険があり,国民を大量に餓死させ,あるいは,強制収容所で使役しても権力を維持するような国が,核保有諸国の通常の「相互確証破壊」に従うとは思えない.

こうして,それらに代わる解決策として,外部世界が北朝鮮に体制の安全保障を約束し,核放棄を合意させる,という提案が残る.しかし,その政策は道義的に受け入れられないし,その実効性を保証できない.いかなる約束にも,北朝鮮は,核武装をあきらめたリビアのカダフィが陥った結末を考えるだろう.

すなわち,北朝鮮の核兵器を取り除く唯一の方法は体制転換である,ということだ.ただし,体制の崩壊を知るときこそ,核兵器を使用する危険が最も高まる時期である.アメリカも中国も,最悪のシナリオを考えておくしかない.破滅的な体制崩壊になっても,アメリカ軍は緊急時に北朝鮮の核を管理し,安全性を維持する準備をしている.この計画に中国の協力を得て,さらに共同展開を準備する時期である.


l  イギリス経済の改革

The Guardian, Friday 8 March 2013

Britain: a nation in decay

Ha-Joon Chang

ポンドの大幅な切り下げにもかかわらず,イギリスの貿易赤字が続いている.ポンド安に反応して輸出できる工業力を失ってしまったのだ.

この論争が見失っているのは,イギリス経済の長期的な将来だ.2007年に比べて,ポンドはドルに対して30%,円に対して50%,苦しむユーロに対してでも20%,価値を減らしている.それでも貿易赤字を続けているのだ.サービス輸出が減るのは,金融部門のショックの後では当然だが,製造業輸出でも切り下げ後に8%減った.これは異常である.1997年の金融危機の後,韓国の製造業輸出は,ウォンがドルに対して35%減価したため,15%増やしたのだ(1995-971998-2001).

イギリスの貿易赤字がもっと悪化しないのは,一次産品輸出が増えているからだ.すなわち,原油,鉱物資源,食料,である.イギリス経済は,生産者として高度化するのではなく,むしろ退行している.

高度な生産力を得るために,至急,長期戦略を立てるべきだ.政府,民間部門・企業,組合,教育機関,研究機関が参加する,広範な公的諮問委員会が,将来の経済にとってエンジンとなる分野と技術を特定する.そして,R&D支援,中小企業融資保証,政府契約を通じて育成する.インフラ投資や教育は,産業によって異なっている.

政府が短期の刺激策を繰り返しても問題を解決できない.長期について考える時期だ.


l  ユーロ危機

VOX 9 March 2013

European imbalances

Hans-Werner Sinn, Akos Valentinyi

ユーロ危機は,3つの危機が結びついたものである.国際収支危機,政府債務危機,銀行危機,である.政府債務危機と銀行危機が重視されてきたが,国際収支危機を回避するには,切り下げる必要がある.それには,外的な切り下げと内的な切り下げがある.どちらが望ましいかは容易に決められない.

ギリシャ,アイルランド,イタリア,ポルトガル,スペインの経常収支が大幅な赤字になったのは,第1に,ユーロ圏ができたことで,為替レートの変動リスクがなくなり,各国の債務破たんリスクも無視されるようになったことだ.第2に,ユーロ圏内で急速に経済過程の収斂が進む,と信じられ,このキャッチアップ過程に応じて,貧しい諸国ほど,経常収支赤字を埋める大きな資本流入が起きたことだ.

それらは周辺諸国に投資ブームと融資ブームをもたらし,物価水準と賃金を上昇させた.その結果,こうした諸国の競争力は失われたのだ.彼らが国際収支を均衡化するには,内的切り下げ,もしくは,ユーロ圏を離脱してから外的な切り下げによって,物価水準を下げねばならない.

内的切り下げは緊縮策と長期のデフレーションを維持することで実現できる.もちろん,それは失業率の上昇など,非常に大きな困難を伴う.他方,中枢諸国がインフレを高めることで周辺の内的切り下げを行う,というのは,中枢諸国がインフレをコストを受け入れず,ECBがそれを阻止する限り,実現しない.

外的切り下げの前提であるユーロ圏の離脱は,さらに追加的なコストをもたらす.なぜならユーロから国民通貨単位へ,すべての資産,債務,契約が転換されねばならないから,全く予想しない形で実行しない限り,価値の下がる資産への取り付けが発生する.切り下げが予想されるなら,企業や銀行の資産はすべて引き出されるだろう.その混乱は,雇用や生産,輸出を低下させる.そして,民主的な国家では,こうした変更を秘密に行うことはできないのだ.

また,こうした通貨の変更は実行できないだろう.もし政府が対外債務の通貨建を変更するなら,それはすべての対外債務のデフォルトになる.その予想が民間債権者を資産価値の喪失から逃れるために海外資産への転換に向かわせる.ユーロ圏内の式にどうは非常に緊密であるから,こうした操作は大規模かつ迅速に行える.

内的切り下げは困難である.しかし,外的切り下げもコストを抑えることはできないし,大きな感染コストがある.通貨建の転換は,短期的に雇用や生産を失わせ,さらにユーロ圏の安定性や持続可能性をも疑わせる.

だから,政策担当者は,デフレのコストを理解しているが,内的切り下げを選択するのである.


l  イラク戦争の10周年

WP March 9, 2013

Ten years after the invasion, did we win the Iraq war?

By Andrew J. Bacevich

1次世界大戦は,当時,単に大戦と呼ばれたが,ドイツの敗北であった.しかしフランスとイギリスが勝利したか,と言えば,それはまた別の問題だ.わずか20年後に,一層の犠牲を生む大戦争を始めたことを考えるなら,勝利とは言えない.また,その後のイギリス政治家たちに,オスマン帝国を分割するという勢力拡大への野心を与えた.それは致命的な誤りだった.

1947年に,トルーマン・ドクトリンはアメリカの努力を中東圏に向けさせた.イギリスがその地域から退却し始めて,アメリカのパワーがその利益を中東の変化において主張した.そうした努力が今に至る.現在のアメリカは,1920年代,30年代のイギリスの位置に戻った.しかし,それを引き継ぐ者はいない.


l  情報社会・戦争

FP MARCH/APRIL 2013

The Case for Big Brother

BY CHARLES KENNY

Big Brotherを嫌うオーウェル氏も,政府が発行するIDを持つことの便利さには感謝するだろう.運転免許証,社会保障カード,出生証明書,は近代世界において必須である.銀行口座を持つにも,住宅を買うにも,年金をもらうにも,投票し,運転し,外国旅行するにも,あなたは法的に認証されなければならない.これは良いことである.

世界には法的なIDを持たない人々が数億人もいる.発展途上諸国では40%の子供たちが出生証明を持たない.土地の権利が主張できず,法的に存在を認められず,貯金をマットレスの下に隠すしかない.だから,偽造の証明書が使われる.違法なIDで膨大な額の年金や支払いが奪われている.偽造できない,もっと確実なIDシステムの技術革新が求められている.DNAや脳波を使用するシステムが完成すれば,特に発展途上諸国に大きな利益をもたらす.

だから,オーウェル氏も,すべての者にその幸運を分かち合うべきだろう.

FT March 11, 2013

China must rein in its cyber assaults

Kurt Campbell

中国の外交に見られる原則のひとつは,中国に敵対する諸国の同盟関係を阻止することである.しかし,サイバー攻撃はまさにそれを促した.さらに,米中の指導的な企業団体が,中国のグローバル経済に統合化する方針を支持し,サイバー・テロやインターネット犯罪の危険性を警告している.

その解決に向けて,中国にとっての積極的な意味もある.中国政府は以前から西側が決めたルールや国際的責任を強いられることを嫌っていた.インターネットは,アメリカの西部開拓時代と同じ,無法地帯である.中国はルール作りの最初から参加するチャンスを得たのだ.インターネットのグローバル・レジームを設計するべきである.

最後に,障害となりうるのは,中国で増えている国際的に意識を高めた市民の行動である.その中には海賊行為や不快なものがある.中国だけでなく,どの国にもある,と関係者たちは主張するが,これを放置することは問題である.エリートたちの中にも,個人の尊厳とその(無法状態の利益より)リスクを意識して,姿勢を正す動きが見られるのは重要だ.


l  東北大震災・福島から2

Project Syndicate 10 March 2013

Fukushima’s Future

Shinichi Nakayama, Ian McKinley

日本の原子力産業,監督者,政府は,日本のような地質学的に脆弱な国において,地震や津波のような災害のリスクとそのもたらす結果を科学・技術が最小化することに失敗したのはなぜか,明確に説明する責任がある.なぜ低汚染地帯でも,人体にほとんど影響がないにもかかわらず,不合理なほど大きなコストを要する洗浄を行っているのか,なぜ明確に定義された,運用可能な廃棄物管理システムが確立されていないのか,説明しなければならない.その教訓は将来の事故を減らし,放射性物質やその他の有毒物質に汚染された地域で苦しむ人々を助けるものである.

汚染除去により修復すべき地域はあまりにも広大であり,知性と土地利用が非常に複雑な人口密集地帯であるから,かつてない十分な規模の計画が必要である.地域の理解を得て,国際社会に情報を提供するには,作業の結果を要約して,誰にでも利用しやすい形でウェブ上にプラットフォームを構築することが重要だ.

廃棄物の量は莫大であり,推定3000万立方メートル,東京ドームの容積の20倍以上もある.しかもその物質は非常に混じり合っていて処理しにくい.たまっていく袋詰めされた廃棄物の山は,必然的に倉庫が劣化するから,集中的な処理施設を計画し,開発することが中心問題である.


l  金融市場の回復

Project Syndicate 11 March 2013

The Great Disconnect

Kemal Derviş

要するに,我々は金融市場と社会・経済の包括的な福祉水準とが急速に乖離していく事態を目撃しているのである.アメリカや他の多くのところで,企業利潤は国民所得の割合でみて10年ぶりの高い水準である.多くの分野で労働節約的な機械化が進み,さらに,国際的な税制の違いを利用して納税額を減らす,など,大企業はグローバリゼーションの利益を享受している.

貧困,失業,不平等,富の極端な集中,についての関心と不安が広まっているにもかかわらず,現状を変えるような成長モデルは現れていない.ヨーロッパの主流派に対して,反対派は,21世紀の現実に適応できない旧左翼と,ポピュリスト,右翼の排外主義,ファシストなどに分裂している.

こうして株価と現実経済との乖離が生じている.現在の趨勢は政治的に維持されている.しかし,長期的に見て,そのギャップが拡大し続けることはありえない.資産価格が現実を無視してオーバーシュートすれば,暴落するしかない.


l  移行期と金融政策

VOX 13 March 2013

The leaderless global economy: Can economic history suggest lessons?

Peter Temin, David Vines

1920年代,30年代の覇権の移行期は,今とよく似た状況だった.イギリスからアメリカへの移行は,迅速でも,容易でもなかった.

1次世界大戦後の債務は1920年代にハイパーインフレーションを生じた.その後,1920年代半ばには,一時的にドイツへの融資が行われ,いくらか景気回復も起きた.しかし,ドイツ賠償金問題は解決されなかった.1931年,通貨危機の中,ドイツが金本位制を離脱し,イギリスも続いて離脱した.その後,アメリカは引き締め政策を取り,1930年代の大不況に至る.

ヨーロッパもアメリカも,財政的な均衡と国際収支均衡を回復するには,その上限を安定化し,長期的な成長に戻ることが重要である.債務国が成長するには,かつて通貨危機に陥ったアジアがそうであるように,輸出を伸ばすことが有効だ.そして,ハリケーンに襲われた地域がインフラを修復するように,国際投資が行われる.成長が歳入を増やすことで,財政赤字も対外債務も支払えるのだ.

こうした移行期の貿易や投資を融資するには,ヨーロッパ内でドイツと南欧諸国が,世界的規模ではアメリカと東アジア,特に中国が,協力しなければならない.歴史は,こうした国際協力が実現可能であると示している.


l  IMF改革

FT March 14, 2013

Time for the IMF to follow the Vatican

Mohamed El-Erian

ヴァチカンがIMFに先駆けて指導者をヨーロッパ以外から抜擢すると考えた者は,ほとんどいなかったはずだ.アルゼンチンから新しい法王フランシスが誕生し,IMF専務理事を選ぶ,時代遅れになった国籍ルールの思慮のなさが,ますます明確になった.

法王フランシスの誕生は,ヨーロッパがもはやカトリック教会を支配する時代ではないこと,そのダイナミズムは発展途上諸国にあることを示すものであり,相対的な意味で,外部の視点を取り込むことが孤立した境界に生じた信用失墜に対処することを認めるものであり,カトリックの刷新に創造的思考と啓発を求めるものである.

こうした議論の本質は,国籍によって縛られたIMF線も理事の決定プロセスに改革が必要な理由と一致している.よりオープンで,透明な,候補者の長所を比較できる選考過程が求められる.

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The Economist March 2nd 2013

Aspiring Africa

Special Report Emerging Africa: A hopeful continent

Italy’s disastrous election: Send in the clowns

Charlemagne: Rome’s bad spell

Japan and America: Spin and substance

Banyan: Not as smooth as silk

(コメント) マリやアルジェリアのテロ事件が起きたアフリカ大陸で,その急速な変貌を読むのは驚きです.アフリカ諸国の人々の4人に3人は携帯電話を利用している,その数はインドの利用者に等しい,なんて想像もしませんでした.アフリカの躍進は,中国からの需要と投資だ,と言われてきましたが,この特集記事は,1.戦争・暴力が減った.2.独裁者が減り,民間人が政治に影響を及ぼすようになった.3.社会主義型の経済モデルが消滅した,という変化を挙げます.

イタリア選挙結果とユーロ危機再来を,二人の道化師(グリッロ,ベルルスコーニ)と,ユーロ圏の制度改革が遅すぎること,に注目して議論します.日米関係をアメリカがどう見ているか,という考察も,アフガニスタンからNATO軍が撤退することで中央アジア諸国に広がる不安定化,という視点も,説得的です.

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IPEの想像力 3/18/13

BBCのニュースを聴いていると,新しいローマ法王の誕生と,新しい中国国家主席の誕生が,並んで話題になっていました.2人に共通したテーマは,「貧困」と「改革」です.

バラク・オバマと安倍信三という2人の政治指導者にとっても,「改革」はさまざまな意味で死活的な重要性を持つはずでした.しかし,2期目のオバマは,シリアには介入しない,ドローンによるテロ対策に頼る,メキシコとの国境に長大な壁を築く,金融の量的緩和に景気回復を委ねる,北朝鮮の暴走を中国に責任転嫁し,沈黙する,中東和平に関与しない,・・・ これが,オバマなのか? という気持ちです.歴史的な金融危機による大恐慌を回避しても,討論を通じて改革への国民合意を盛り上げる政治的意志は,制度の慣性に勝てなかった? 東北の大震災後に日本が改革を加速するという期待と同じように?

アベノミクスが成果を上げるためには,インフレだけでなく,賃金上昇と雇用がなければなりません.政府からの要請で主要企業はボーナスを増額した,ということですが,賃金も上がるのでしょうか? しかも財政赤字の問題を解決するには,長期的な成長を高め,同時に,社会保障システムの見直しが必要です.

自民党大会で参議院選挙の勝利に向けた安倍首相の演説をニュースが紹介していました.その政治的なスタイルは,英米の政治家にも共通する「優れたデザイン」を思わせます.しかし政治的センスは,やはり,偽物であると私は思いました.努力して成長する,強い国にする,先の選挙の勝利におごらない,というのは,有権者にアピールするための修辞でしかないからです.

現実を観れば,国民は高齢化しており,年金・社会保障システムの革新が必要です.その赤字をどうするか,といった限定された問題として解決策を示すことはできません.長期の,安定した,勤続年数に応じた賃金上昇の時代,日本の成長と大企業に依存した社会保障システムでバランスを取った時代は,はるか前に終わりました.賃金を仕事の実情に応じて決め,正規や派遣,パートの区別をなくし,新しい産業で積極的に雇用を増やせる仕組みについて社会が合意しなければなりません.新技術と新製品,消費者とをつなぐ条件,新興産業を育てるインフラを,各国は競って整備しようとしています.

金融政策や円安,株高を参院選挙に結びつけるアベノミクスで人気先取りが成功したとしても,日本経済,企業,雇用が長期の低成長を抜け出せる,とは限りません.私は黒田東彦日銀新総裁や浜田幸一内閣府参与に期待します.しかし,もしかしたら,黒田氏も浜田氏も,安倍首相が戦後日本解体計画を推進するための「道化師」になるかもしれません.

安倍氏の試金石はその保守主義と外交です.アメリカの金融政策,外交・安全保障は,日本の姿勢と関係なく決まっているように見えます.アメリカが(そして中国が)安倍首相をどう見ているか, The Economistの評価は妥当なものだと思いました.安倍首相の経済重視は,”only skin-deep” である,と疑っているのです.オバマ政権は安倍氏の憲法改正論を支持しないし,ケリー国務長官は,尖閣諸島の紛争について,日本側に立った軍事介入を明言しません.

日米中の関係は連動して変化します.アメリカにとっての関心は,TPP参加交渉と普天間基地移転です.安倍氏はこれらを実現できると約束しました.他方,周辺諸国との国境紛争について強硬姿勢を容易に変えようとしない中国政府が,大気汚染に関する国民の不満には,これまでの方針を変えただけでなく,政府の能力の限界と成長政策に無理があることを認めました.日本と環境技術や政策の情報を共有し,周辺諸国との紛争を解決すれば,黄砂の対策に,国際河川の利用に,温暖化ガスの排出抑制に,中国こそが指導的な役割を果たせるでしょう.

安倍首相は,習近平国家主席の演説が「愛国心」を強調した姿勢に,きっと共感したでしょう.国を思う気持ちが平和や繁栄と矛盾せず,国際的な威信を高めるとともに,他国から敬意を得るには,ナショナリズムと違う何かが必要です.2人の指導者はこの共通したテーマを競ってください.

金融危機後の世界でも,道化師が真実を語るとしたら,こう言うでしょう.ローマ法王,中国国家主席,アメリカ大統領,日本首相が協力して,「貧困」に取り組む,と決まった.

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