IPEの果樹園2013

今週のReview

3/18-23

 

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国籍とグローバル市民 ・・・中国新政権の改革案 ・・・緊縮策の賛否 ・・・北朝鮮の最期 ・・・イギリス経済の改革 ・・・ユーロ危機 ・・・イラク戦争の10周年 ・・・情報社会・戦争 ・・・東北大震災・福島から2年 ・・・金融市場の回復 ・・・移行期と金融政策 ・・・IMF改革 ・・・コンクラーベ

 [長いReview]

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主要な出典 Bloomberg, China Daily, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, Global Times (China), The Guardian, NYT: New York Times, Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, WP: Washington Post, WSJ: Wall Street Journal Asia, Yale Global そして、The Economist (London)


l  国籍とグローバル市民

YaleGlobal, 5 March 2013

Citizenship of Convenience

Tyler Grant

アメリカ国籍を取るために,子供をアメリカで出産する旅行が大きなビジネスbirth tourismになっている.台湾の市民にとって特にそれが魅力的であるのは,子供がアメリカ国籍を取っても,台湾の医療保険を利用し続けることができるからだ.彼らはこれによって,アメリカの学校をほとんどタダで利用し,同時に,台湾の医療を安く利用する.そして,双方の国で公的な負担が増す.

これを減らすためには,3つの方法がある.1.台湾の経済が回復する,218-21歳に達したとき,台湾とアメリカの国籍をどちらか一つ選ばせる.3.子供のアメリカ国籍を保険として考える親を減らすように,東アジアの平和と安定性を高める.

NYT March 10, 2013

Mr. President, Tear Down This Wall

By MICHAEL DEAR

今や,アメリカとメキシコは約700マイルの壁で分離されている.移民となる人たちは,この壁の上や下,あるいは,壁を通り抜け,壁を回避して入国する.アメリカへの移民流入を管理する手段として,国境の要塞化した壁は非常にふさわしくないものだ.しかもそれは,深刻な持続的影響を及ぼす.すなわち,国境の両側でコミュニティーを損なうのだ.

その傷が癒せないものになる前に,我々は壁を倒すべきである.

それは911の後,ジョージ・W・ブッシュ大統領が国土安全保障省を設立し,メキシコ国境の要塞化を命じたことから始まった.国境パトロールも7年間で倍増し,21000人以上になった.証明書を持たない移民たちが特定され,告発され,国外追放された.

確かに移民数は減ったが,それは要塞やパトロールの成果というより,アメリカとメキシコの経済情勢に反応したものである.

それにもかかわらず,オバマ大統領はブッシュ氏の計画を大部分継承し,2012年の国外追放者数はかつてない水準,ほぼ41万人に達した.国土安全保障省のJanet Napolitano長官は,こうした努力を続けることで,包括的な移民法改正を有権者が支持するようになる,と主張する.

しかし,アメリカによる壁の建設は,無意味というより,むしろ馬鹿げたことである.

曲がりくねったリオ・グランデ川に沿って影をまっすぐに建設することはできず,その北側に直線にできた壁は,各地にゴルフコースから大学キャンパスに及ぶ土地を切り離してしまう.今やアメリカ人が「(壁の)メキシコ側」に住むことになる.テキサスの壁は,その多くが貧困地区やマイノリティーの土地に建つ.そして億万長者の所有地になると,突然,その周囲を迂回する.アリゾナでは,主要なフリーウェーにも検問所ができた.逮捕者や麻薬の応酬が増えるけれど,住民たちは交通の遅れを嫌う.アリゾナ州民は他州からの訪問者に,「ようこそ警察国家へ」とあいさつする.カリフォルニアでは,峡谷を流れる川の水を利用するために多くのトンネルが掘られ,その出入り口には柵がある.しかし,移民たちがこれを利用するだろう.

住民たちは壁のもたらす災厄に慣れるが,古来の人的な生態系システムを損なうことに変わりない.境界線の両側で,人々は生活を分かち合ってきた.彼らは「超国境型の市民」である.この第三の国民にとって,地域経済こそはシナジー効果をもたらすのであり,実際,国境の諸州は両国でも高い成長を遂げている地域である.しかも,国境や河川を両国の委員会によって管理する伝統があった.

しかし,国境の壁はこうした協力関係や結束を低下させた.壁が人々の生活をばらばらにし,その景観を汚す.ここに住む多くのものにとって,国境警備隊やドローンが飛ぶのを見ると,占領軍だと思うだろう.こうした要塞化を続けるのに,今後20年間に,アメリカは65億ドルを支出する.それは非合法移民を阻止するのに愚かなほど大きな額である.

我々が勇敢であるかどうかにかかわりなく,いつかこの壁は崩壊する.ベルリンの壁も,事実上,一夜にして崩壊した.そしてその破片は,冷戦終結の記念品として売られた.国境の壁もそうだ.失敗した移民政策の証明である.住民たちの怒りの対象として,廃品回収業者や記念品販売店の餌食になるのを待っている.

少しはスミソニアン博物館に展示したほうがよいだろう.アメリカのアイデンティティが持続可能な,健全さを回復したことの記念として.

Project Syndicate 12 March 2013

National Governments, Global Citizens

Dani Rodrik

財,サービス,資本が国境を越えて市場がグローバル化する一方で,政治家たちは国内に対する責任・権限だけに制約されている.金融のグローバリゼーション,市場の失敗,不安定化,危機,などは「ガバナンス・ギャップ」を生じる.しかし,超国家的な官僚制度は,世界銀行でも,EUでも,民主主義の赤字に苦しみ,正当性の問題に直面する.

一つの解決策は,グローバルな市場に民主的国家の管理を拡大することである.これは保護主義に向かう危険もあるが,不可能ではないし,健全なグローバリゼーションにとって有害なものでもない.規制の多様性を維持し,擦り切れた社会的交渉過程を再生するような,各国政府による管理範囲の拡大は,グローバル経済の機能を高めるだろう.

次の解決策は,政策エリート(その多くはエコノミスト)が好むような,婉曲に「グローバル・ガバナンス」と呼ばれる国際機関の強化である.G20IMFの強化,バーゼル銀行委員会による規制,などがある.しかし問題は,こうした機関が政府間組織でしかなく,グローバルな市民によって権限と責任を負うのではないことだ.それ故,その正当性は限られる.結局,銀行や企業を救済するのは各国政府であり,債務,流動性,財政赤字,失業・福祉手当を決めるのは各国政府である.

しかし,第3に,各国の関心をよりグローバルに変える,という解決策がある.それは「国民」としての市民が次第に自分たちを「グローバルな」市民と認識することで起きる.各国政府も,こうした市民たちの声に応える責任があるからだ.最貧国への債務免除を主張する民間団体が,特に豊かな諸国の若者を中心に,それぞれの政府を動かした.多国籍企業もそのような圧力を受けてグローバルに労働環境を見直したし,自国の人権問題を外国の政治指導者に訴えることで改善しようとする活動家たちが現れる.環境規制についても,国際競争力を損なうものとして無視する姿勢から,グローバルな環境意識に目覚めた地元の市民たちが規制強化に成功するケースが発展途上諸国でも増えている.

グローバルな市民という意識は,まだ国民意識に比べて弱い.しかし,若者や,教育のある者,専門職などでは,その割合が高い.世界政府はないが,グローバル市民という意識が各国の政策を変えるのである.


l  中国新政権の改革案

BLOOMBERG Mar 6, 2013

Where Have China’s Workers Gone?

By Yukon Huang and Clare Lynch

中国の労働力供給(そして「人口配当」)は枯渇し,ルイス・モデルの転換点に達したのかもしれない.急速に成長が終わって,賃金が上昇する.2003年から未熟練労働力の不足が注目され,中国のエコノミストたちはこの可能性に言及した.しかしIMFは転換点を2020-25年と推定している.地方の農業部門にはまだ多くの低賃金労働者が存在しているから,労働者の移動を妨げている障壁をなくせば,転換点はまだ問題にならない,という意見もある.

戸籍による移住の抑制,毛沢東時代を知らない世代の労働者は移動に対する誘因となる賃金アップが大きい,土地売却の権利がない,地方の生活水準を改善する政策,大学卒業者の増加を目指した教育政策,未熟練労働者を求める工場とのミスマッチ,工場が農村に労働者を求めて移動する.

ルイスの転換点より,産業の高度化も含めて,労働力の熟練や必要な場所に関するミスマッチを埋めることが重要になってくる.

FT March 12, 2013

Urbanisation is only a partial panacea for China

Yukon Huang

所得格差,汚職,社会的不満が高まる中で,温家宝から李克強に首相が交代する.李克強は都市化を,さまざまな問題の解決策と考えている.しかし,都市住民は交通渋滞や大気汚染に苦しんでおり,都市を解決策とは考えない.

都市化は生産性を高め,貧富の差や地域間格差を減らすのか? 財政的に持続可能なのか? 都市の過密による諸問題を回避できるのか? そして,都市のエリート層から強い反対は生じないか?

FT March 13, 2013

Village crackdown crushes China reform hopes

By Rahul Jacob in Hong Kong

NYT March 13, 2013

Stealing Books for the Poor

By YU HUA

FT March 14, 2013

China must push for economic change

By Henry Paulson

マイナス金利,地方政府の財政赤字,中国は生産性上昇と成長を維持するために,また,欧米の失敗から学んで,金融自由化を行うチャンスである.


l  緊縮策の賛否

NYT March 7, 2013

The Market Speaks

By PAUL KRUGMAN

オバマの財政赤字を批判してきた保守派は,市場から何を聴いているのか? 市場の声が告げているのは,ワシントンの政治論争に支配的な不安や偏見には,根拠がない,ということだ.

Project Syndicate 13 March 2013

The Economist’s Stone

Jeffrey Frankel

財政政策と金融政策は,1930年代の経験から学んで,景気循環を緩和する政策として確立された.J.M.ケインズは不況期に拡大的な,そして好況期には引締め的な,積極的財政政策を主張した.ミルトン・フリードマンも同様に大恐慌期の金融政策が引き締められたことを批判した.しかし,政府には正しい時期を判断する能力がないから,裁量的な政策決定に反対した.

1970年代の高インフレの経験から,先進諸国の政策担当者たちは正しい知識を見失ったか,新しい理論を信奉した.しかし,好況期の拡大策も,不況期の緊縮策も,ともに間違っている.財政政策は,金融政策に比べて科学ではなく錬金術だ,と批判されるが,その正しい使い方と時期を我々は学んだはずだった.


l  北朝鮮の最期

FP MARCH 7, 2013

Time Is Running Out on North Korea

BY SEN. ROBERT MENENDEZ

The Guardian, Friday 8 March 2013

Kim Jong-un doesn't appear to know what he's looking for

Aidan Foster-Carter

北朝鮮の行動は,北風と太陽で考えるより,オオカミ少年の童話のほうが適当だ.北はあまりにも多くの脅迫や警告を与えることで,結局,何を求めているのか,わからない.南北の軍事境界線を横断するだろうか?

その懸念がないのは,Kaesongの工業団地を観ればわかる.南北対立が最も厳しい時期にも,太陽政策の遺産である,この地区は閉鎖されなかった.もし南北が労働者やスタッフを引き上げたら,あるいは,彼らを人質に取ったら,戦争が始まるだろう.

FT March 8, 2013

The growing threat from North Korea

NYT March 10, 2013

As North Korea Blusters, South Breaks Taboo With Nuclear Talk

By MARTIN FACKLER and CHOE SANG-HUN

FT March 11, 2013

Prepare for endgame in North Korea

By Gideon Rachman

「我々の大陸間弾道ミサイルは発射準備ができている.・・・もしわれわれがボタンを押せば,ミサイルは発射され,その連射がワシントンを襲うだろう.アメリカ帝国主義者たちの牙城,悪の巣窟は,・・・火の海となる.」

こんなセリフはハリウッド映画の中でDr Evilが吐くだけだ,と思うだろうが,そうではない.これは実在の国の,実在の人物が,実在の核兵器を手段として,先週,述べたものだ.ジョージ・W・ブッシュ大統領が2002年に行った「悪の枢軸」演説は,誤ったイラク戦争を招いた点で非難されたが,北朝鮮の現在の行動を見る限り,その指摘は予見的であったように思う.「世界で最も危険な体制が,世界で最も破壊的な兵器によって脅迫するのを許すつもりはない.」

北朝鮮は,まだアメリカを核攻撃する能力を持たないが,韓国や日本は攻撃できる.無法国家,大量破壊兵器,テロリズムの結びつきに,ブッシュ氏は真の脅威を観た.問題は,それから11年たって,その有効な対応策を誰も知らない,ということだ.

ブッシュ氏は,イラクに軍事介入して失敗した.それは,大量破壊兵器がなかったから失敗であった,という意味ではない.オバマは,制裁と外交を組み合わせる戦略をイランに対して取ったが,失敗した.中国は,北朝鮮に対して対話と説得を行ったが,失敗した(そして国連の制裁に加わった).

北朝鮮の行動について中国を責めるのは無理がある.しかし,中国は北朝鮮の隣国であり,緊密な同盟国,その経済支援が北朝鮮を存続させている.それでも中国の説得が成功しなかったのは,中国の戦略上の迷いがあるからだ.すなわち,朝鮮半島の南北統一より,北朝鮮の体制を維持するほうがよい,と考えているのだ.

しかし,現状維持は南北再統一よりも危険であることを知るだろう.北朝鮮が核攻撃によって脅迫を繰り返せば,韓国や日本は核武装を目指し,アジアの核軍拡競争が始まるからだ.しかも,北朝鮮のように,体制崩壊の危険があり,国民を大量に餓死させ,あるいは,強制収容所で使役しても権力を維持するような国が,核保有諸国の通常の「相互確証破壊」に従うとは思えない.

こうして,それらに代わる解決策として,外部世界が北朝鮮に体制の安全保障を約束し,核放棄を合意させる,という提案が残る.しかし,その政策は道義的に受け入れられないし,その実効性を保証できない.いかなる約束にも,北朝鮮は,核武装をあきらめたリビアのカダフィが陥った結末を考えるだろう.

すなわち,北朝鮮の核兵器を取り除く唯一の方法は体制転換である,ということだ.ただし,体制の崩壊を知るときこそ,核兵器を使用する危険が最も高まる時期である.アメリカも中国も,最悪のシナリオを考えておくしかない.破滅的な体制崩壊になっても,アメリカ軍は緊急時に北朝鮮の核を管理し,安全性を維持する準備をしている.この計画に中国の協力を得て,さらに共同展開を準備する時期である.

それは必要なのだ.映画の中のDr Evilが「アメリカを焼き払うぞ」と脅すように,まったく信じられないかもしれないが.

NYT MARCH 11, 2013

North Korea Declares 1953 War Truce Nullified

By CHOE SANG-HUN

YaleGlobal, 11 March 2013

Annoyed, China Sticks With North Korea

Nayan Chanda

guardian.co.uk, Tuesday 12 March 2013

North Korea: tighten your seatbelt

北朝鮮は1953年の休戦協定を破棄した.バラク・オバマの軍事顧問は,北朝鮮が韓国に対して核攻撃を行えば,「アメリカの全面的な軍事的報復」を覚悟せよ,と警告した.中国は,日本が主権を主張する無人島に調査団を送る,と発表した.

シートベルトがあるために,より大きな危険を冒しても大丈夫と考え,危険な運転が促されることを「シートベルト効果」という.北朝鮮は,核兵器とミサイルの実験が成功したことで,より大きな危険を冒すかもしれない.

釣魚島は台湾に最も近い.台湾政府は中国に2段階の解決策を提案している.

guardian.co.uk, Tuesday 12 March 2013

Why US 'basketball diplomacy' with North Korea might just work

Daniel Pinkston

NYT MARCH 12, 2013

Nuclear Neighbors for North Korea?

NYT March 12, 2013

South Korea Disputes North’s Dismissal of Armistice

By CHOE SANG-HUN

NYT March 13, 2013

Domestic Politics, Pyongyang-Style

By SHEILA MIYOSHI JAGER

WP March 14, 2013

North Korea’s high-stakes bluster

By Fareed Zakaria

北朝鮮の破滅的な発言は,これまでもそうであった.新しいのは,中国の態度である.共産党のシニア・アナリストが,中国は北朝鮮を切り捨てるべきだ,という論説をFTに発表した.

アメリカの関心は,核兵器と人権である.しかし,中国の関心は,北朝鮮からの難民流出と,韓国主導の再統一,である.それ故,アメリカは中国の関心に応えるべきであり,半島統一後の,核兵器の除去,韓国側への残留,統一朝鮮との新しい国際関係,を説明する必要がある.

Henry Kissingerは,中国政府が,北朝鮮を切り捨てた,あるいは,アメリカと北朝鮮の崩壊を共謀した,と観られるのを嫌っている,と指摘する.しかし,明らかに,中国政府はアメリカとの戦略的な対話を望んでいるし,北朝鮮が半島の不安定化を主導している,とみなしている.

WP March 14, 2013

North Korea and the price of patience

By David Ignatius

北朝鮮に対するオバマ政権の姿勢は,「戦略的ながまん(忍耐)」であった.


l  イギリス経済の改革

The Guardian, Friday 8 March 2013

Britain: a nation in decay

Ha-Joon Chang

ポンドの大幅な切り下げにもかかわらず,イギリスの貿易赤字が続いている.ポンド安に反応して輸出できる工業力を失ってしまったのだ.

連立内閣と野党との議論は正しい政策に結びつかない.政府は財政再建のために支出を削ることしか考えず,野党は,まるで理解の遅い生徒に教える教師のように,景気が悪いときに政府支出を減らしても,不況で財政赤字が増えるだけだ,と言い続けている.しかし,連立内閣の目標は景気回復ではない.彼らは福祉国家の解体を目指しているのだ.刺激策を説得しても無駄である.

この論争が見失っているのは,イギリス経済の長期的な将来だ.2007年に比べて,ポンドはドルに対して30%,円に対して50%,苦しむユーロに対してでも20%,価値を減らしている.それでも貿易赤字を続けているのだ.サービス輸出が減るのは,金融部門のショックの後では当然だが,製造業輸出でも切り下げ後に8%減った.これは異常である.1997年の金融危機の後,韓国の製造業輸出は,ウォンがドルに対して35%減価したため,15%増やしたのだ(1995-971998-2001).

イギリスの貿易赤字がもっと悪化しないのは,一次産品輸出が増えているからだ.すなわち,原油,鉱物資源,食料,である.イギリス経済は,生産者として高度化するのではなく,むしろ退行している.

高度な生産力を得るために,至急,長期戦略を立てるべきだ.政府,民間部門・企業,組合,教育機関,研究機関が参加する,広範な公的諮問委員会が,将来の経済にとってエンジンとなる分野と技術を特定する.そして,R&D支援,中小企業融資保証,政府契約を通じて育成する.インフラ投資や教育は,産業によって異なっている.

政府が短期の刺激策を繰り返しても問題を解決できない.長期について考える時期だ.

The Guardian, Saturday 9 March 2013

It's shameful the way Britain kowtows to the super-rich

Ian Jack

The Observer, Sunday 10 March 2013

Alan Sugar's attitude to apprenticeships is all too typical in Britain

Will Hutton


l  貧困

Project Syndicate 08 March 2013

Anti-Poverty 2.0

Jomo Kwame Sundaram

ミレニアム開発目標の成果も,この不況で失われつつある.厳しい現実は以前の政策合意,ワシントン・コンセンサスを否定する主張を強めている.マクロ政策を改善しても成長は貧困層に機会をもたらさない.もっと構造的な原因を重視するべきだ.

成長が社会政策の充実を通して貧困を減らすとき,成長や発展も持続可能なのである.

FT March 14, 2013

My meeting with Hugo Chávez

By Matthew Garrahan in Los Angeles


l  ユーロ危機

FT March 8, 2013

Beyond the bazooka of eurozone bailouts

By John Dizard

VOX 9 March 2013

European imbalances

Hans-Werner Sinn, Akos Valentinyi

ユーロ危機は,3つの危機が結びついたものである.国際収支危機,政府債務危機,銀行危機,である.政府債務危機と銀行危機が重視されてきたが,国際収支危機を回避するには,切り下げる必要がある.それには,外的な切り下げと内的な切り下げがある.どちらが望ましいかは容易に決められない.

ギリシャ,アイルランド,イタリア,ポルトガル,スペインの経常収支が大幅な赤字になったのは,第1に,ユーロ圏ができたことで,為替レートの変動リスクがなくなり,各国の債務破たんリスクも無視されるようになったことだ.第2に,ユーロ圏内で急速に経済過程の収斂が進む,と信じられ,このキャッチアップ過程に応じて,貧しい諸国ほど,経常収支赤字を埋める大きな資本流入が起きたことだ.

それらは周辺諸国に投資ブームと融資ブームをもたらし,物価水準と賃金を上昇させた.その結果,こうした諸国の競争力は失われたのだ.彼らが国際収支を均衡化するには,内的切り下げ,もしくは,ユーロ圏を離脱してから外的な切り下げによって,物価水準を下げねばならない.

内的切り下げは緊縮策と長期のデフレーションを維持することで実現できる.もちろん,それは失業率の上昇など,非常に大きな困難を伴う.他方,中枢諸国がインフレを高めることで周辺の内的切り下げを行う,というのは,中枢諸国がインフレをコストを受け入れず,ECBがそれを阻止する限り,実現しない.

外的切り下げの前提であるユーロ圏の離脱は,さらに追加的なコストをもたらす.なぜならユーロから国民通貨単位へ,すべての資産,債務,契約が転換されねばならないから,全く予想しない形で実行しない限り,価値の下がる資産への取り付けが発生する.切り下げが予想されるなら,企業や銀行の資産はすべて引き出されるだろう.その混乱は,雇用や生産,輸出を低下させる.そして,民主的な国家では,こうした変更を秘密に行うことはできないのだ.

また,こうした通貨の変更は実行できないだろう.もし政府が対外債務の通貨建を変更するなら,それはすべての対外債務のデフォルトになる.その予想が民間債権者を資産価値の喪失から逃れるために海外資産への転換に向かわせる.ユーロ圏内の式にどうは非常に緊密であるから,こうした操作は大規模かつ迅速に行える.

内的切り下げは困難である.しかし,外的切り下げもコストを抑えることはできないし,大きな感染コストがある.通貨建の転換は,短期的に雇用や生産を失わせ,さらにユーロ圏の安定性や持続可能性をも疑わせる.

だから,政策担当者は,デフレのコストを理解しているが,内的切り下げを選択するのである.

guardian.co.uk, Sunday 10 March 2013

The Byzantine empire's own 'eurozone' crisis offers a lesson for the EU today

Peter Frankopan

guardian.co.uk, Monday 11 March 2013

A short history of austerity: it almost never works

Aditya Chakrabortty

FT March 11, 2013

Dutch deficits

オランダでも,周辺が苦しんでいるように,不況期の財政赤字の削減には限界がある.

SPIEGEL ONLINE 03/11/2013

Jean-Claude Juncker Interview

'The Demons Haven't Been Banished'

FT March 12, 2013

East’s ‘transition backlash’ alerts core EU

By Neil Buckley in London

ブルガリア政府が,先月,タイ規模な抗議デモの圧力で崩壊したとき,「緊縮策」への拒否が再び起きた,と考えられた.しかし,その背景は違う.

ブルガリア,ルーマニア,ハンガリー,東欧の共産主義体制崩壊後,移行経済の苦しみを味わってきた市民たちは,現在の金融危機後の不況において,改めて支配エリートたちの無能さ,マフィアの私的な利益によって移行過程が歪められ,破滅をもたらしたことの責任を問い始めている.

FT March 13, 2013

The multilingual dividend

By Andrew Hill

FT March 14, 2013

EU needs austerity and reform, not spending

By Guido WesterwelleGermany’s foreign minister

悪いのは外から押し付けられた「緊縮策」である.だから,それを拒むことで,成長は容易に再開できる.こんな間違った旧来の発想が再生しつつある.

これは2つの点で間違っている.第1に,金融危機で最も大きな被害を出した国は,選挙によって政権についた人々が緊縮策と構造改革を実行してきた.第2に,緊縮策と成長とを選択肢に考える政治スローガンは,本当の選択肢を観ていない.新しい債務と政府支出で成長が簡単に回復する,と主張する者は,それがせいぜい一時的なもので,持続的な高成長ではない,ということをわかっていない.そして債務に依存した成長は,いずれ破局に終わるのである.投資家たちが債務の返済に疑問を感じるとき,市場の信頼は失われる.

確かにヨーロッパは選択に直面している.労働市場の改革やR&D投資により競争力を高め,財政の健全性を回復することにより成長する,連帯の慎重なバランスを維持するのか,あるいは,かつて失敗した,旧来型の債務に依存する刺激策に戻るのか.


l  イラク戦争の10周年

FP MARCH 8, 2013

How Not to Repair a Broken Pot

BY JAMES TRAUB

WP March 9, 2013

Ten years after the invasion, did we win the Iraq war?

By Andrew J. Bacevich

歴史による判断は,暫定的なものであり,未完成で,見直される.戦争による勝利は,平和をもたらすより,しばしば,より多くの戦争に至る序曲であった.著名な戦略家,Scott Fitzgeraldが述べたように,勝利は没落の始まりである.

1次世界大戦は,当時,単に大戦と呼ばれたが,ドイツの敗北であった.しかしフランスとイギリスが勝利したか,と言えば,それはまた別の問題だ.わずか20年後に,一層の犠牲を生む大戦争を始めたことを考えるなら,勝利とは言えない.また,その後のイギリス政治家たちに,オスマン帝国を分割するという勢力拡大への野心を与えた.それは致命的な誤りだった.

10年前の今月,ジョージ・W・ブッシュのインナーサークルを形成した幹部たちが,何を達成しようとしたのか,後世の歴史家は判断に苦しむだろう.彼らが侵攻を正当化するために当初掲げた目標は,すべて失われたから.大量破壊兵器はなかったし,サダム・フセインはアルカイダと協力していなかった.中東の民主化も進まない.結果的に,この最後の計画だけが残った.しかし,戦争が長引くにつれて,その定義はもっと穏やかなものに変えられた.ブッシュ政権が掲げた大聖堂は,オバマ政権の下で崩れかけた車庫になった.

2001911日の後,アメリカはその指導的な大国の地位を確認するため,指名した敵を自分の意志に従わせようとした.アメリカはそれに失敗し,その地位も疑わしいものになった.ワシントンがそれを認めるかどうかに関係なく,イスラム教徒たちの自決権は拡大するだろう.確かに,アメリカ軍はバクダッドを占拠し,サダム・フセインを追放した.しかし,それが何であったのか?

1947年に,トルーマン・ドクトリンはアメリカの努力を中東圏に向けさせた.イギリスがその地域から退却し始めて,アメリカのパワーがその利益を中東の変化において主張した.そうした努力が今に至る.現在のアメリカは,1920年代,30年代のイギリスの位置に戻った.しかし,それを引き継ぐ者はいない.

WP March 9, 2013

Obama’s well-timed pivot to the Pacific

By Jim Hoagland

Project Syndicate 11 March 2013

The Iraq War Ten Years Later

Joseph S. Nye

この10年間に何が決定されたか? それ以上に重要なこととして,侵攻の決定が正しく行われたか?

イラク戦争の成果を主張する意見もある(選挙による政府.9%の成長.戦前の水準を超える原油輸出).しかし,そのコストはあまりに大きかった(15万人以上のイラク兵と4488人のアメリカ兵が死亡.約1兆ドルの費用),という意見もある.おそらくアメリカ国民の多くは,戦争の結果を悲観的に理解し,現在のアメリカ外交もその影響を受けている.

それを孤立主義と呼ぶものもあるが,むしろ慎重さ,プラグマティズムと呼ぶべきだろう.

10年はイラク戦争の長期的結果を評価するには早いが,ブッシュ政権の決定プロセスを評価するには十分だろう.侵攻を正当化する3つの主張があった.アルカイダとの結び付き,中東の政治を変える,大量破壊兵器,である.それは十分に調査・検証されていなかったし,第2次世界大戦後のドイツや日本の占領に例えるのは軽率であるし,イラク占領において有効な準備が欠けていた.大量破壊兵器の保有は当時の見解として広く共有されていたが,やはり不十分な検証であった.

思慮を欠いた現実認識と不必要なリスクを冒すことが,しばしば,「不運」の一部である.将来の歴史家たちは,こうした欠点をブッシュ氏の失敗とみなすだろう.

FP MARCH 12, 2013

The Iraq War That Might Have Been

BY MICHAEL R. GORDON, BERNARD E. TRAINOR

FP MARCH 13, 2013

Learning Curve

BY JAMES DOBBINS

FT March 14, 2013

After hubris in Iraq, hesitation in Syria

By Philip Stephens


l  情報社会・戦争

FP MARCH/APRIL 2013

The Case for Big Brother

BY CHARLES KENNY

Big Brotherを嫌うオーウェル氏も,政府が発行するIDを持つことの便利さには感謝するだろう.運転免許証,社会保障カード,出生証明書,は近代世界において必須である.銀行口座を持つにも,住宅を買うにも,年金をもらうにも,投票し,運転し,外国旅行するにも,あなたは法的に認証されなければならない.これは良いことである.

世界には法的なIDを持たない人々が数億人もいる.発展途上諸国では40%の子供たちが出生証明を持たない.土地の権利が主張できず,法的に存在を認められず,貯金をマットレスの下に隠すしかない.だから,偽造の証明書が使われる.違法なIDで膨大な額の年金や支払いが奪われている.偽造できない,もっと確実なIDシステムの技術革新が求められている.DNAや脳波を使用するシステムが完成すれば,特に発展途上諸国に大きな利益をもたらす.

だから,オーウェル氏も,すべての者にその幸運を分かち合うべきだろう.

FP MARCH 7, 2013

Inside the Black Box

BY MARC AMBINDER

FT March 11, 2013

China must rein in its cyber assaults

Kurt Campbell

まるでスパイ小説のような人民解放軍61398部隊によるサイバー攻撃やハッキングに関する調査報告は,アメリカによる「反撃」の要請やハイテク攻撃,企業情報防衛の必要を強く意識させることになった.しかし,その解決策は伝統的な軍事・安全保障の考え方(報復と抑止)にはない.

インターネットは本質においてグローバルな公共財であり,犯罪者を見つけ出し,それが広くコミュニティーに被害を及ぼさないようにするのは非常に困難だ.インターネットの利用者がメール・アカウントの管理やパスワードの変更を慎重に行わないことを責めても解決策にはならない.その影響の広がりは国連のルールを要請するだろう.

中国の外交に見られる原則のひとつは,中国に敵対する諸国の同盟関係を阻止することである.しかし,サイバー攻撃はまさにそれを促した.さらに,米中の指導的な企業団体が,中国のグローバル経済に統合化する方針を支持し,サイバー・テロやインターネット犯罪の危険性を警告している.

その解決に向けて,中国にとっての積極的な意味もある.中国政府は以前から西側が決めたルールや国際的責任を強いられることを嫌っていた.インターネットは,アメリカの西部開拓時代と同じ,無法地帯である.中国はルール作りの最初から参加するチャンスを得たのだ.インターネットのグローバル・レジームを設計するべきである.

最後に,障害となりうるのは,中国で増えている国際的に意識を高めた市民の行動である.その中には海賊行為や不快なものがある.中国だけでなく,どの国にもある,と関係者たちは主張するが,これを放置することは問題である.エリートたちの中にも,個人の尊厳とその(無法状態の利益より)リスクを意識して,姿勢を正す動きが見られるのは重要だ.

FP MARCH 13, 2013

The Great Cyberscare

BY THOMAS RID


後半へ続く)