IPEの果樹園2013

今週のReview

3/11-16

 

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ドイツの移民政策 ・・・中国は変わる ・・・安倍政権 ・・・金融取引税・ロンドン談 ・・・道化師とポピュリズム ・・・ヨーロッパは問題に答えよ ・・・ウゴ・チャベス死去 ・・・ガザ・マラソン

 [長いReview]

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l  ドイツの移民政策

SPIEGEL ONLINE 02/28/2013

The New Guest Workers

A German Dream for Crisis Refugees

By SPIEGEL Staff

南欧・東欧からの新しい,高度な技術を持った移民たちが,ドイツに大量に流入している.若く,高等教育を受け,多言語を話す,彼らはドイツ経済の将来の繁栄のために,まさに必要な労働者たちである.ドイツは彼らがこの国に住んでくれることを望んでいる.

彼らが接する社会は,もはや過去の敵意や差別を示す社会ではない.保守派も含めて,ドイツ社会は自分たちが移民を必要としていることを,ゆっくりではあるが,理解するようになった.特に,地方の小さな町がそうである.労働者の数は減っており,引退後の老人たちは移民が増えることで生活水準を維持できる.現在の経済を維持するためにも,毎年,40万人の移民純流入が必要だ.

もちろん,一部には,非常に貧しい,違法な仲介者に建設現場で搾取され,ホームレスになるような移民もいる.社会福祉の給付を目的に流入する移民を排除することに関心がある.かつては移民労働者を締め出すことが政治家たちの主要な約束であった.

人口統計が示すドイツの変化を,移民国家になることを拒んできた社会も次第に受け入れた.アメリカ,ロシアに次いで,世界3位の外国人が多く住む国になっていた.2000年に,社会民主党のシュレーダー首相がドイツ版グリーンカードを導入し,2001年,キリスト教民主同盟とも合意して,移民政策が転換した.ドイツは移民を必要としている,という文章で始まる序文が,それを示している.

・・・さあ,どうぞかけてください.お住まいは? お仕事の希望はありますか?


l  中国は変わる

WSJ March 6, 2013

Pegging Rebalancing's Winners and Losers

By ANDREW STEEL

中国経済は,リバランス,すなわち投資よりも消費を重視した成長モデルに移行しなければならない.習近平は,まさにこうした変化を指導すると述べている.しかし,それは企業や経営者,投資家にとって何を意味するのか?

リバランスにより,中国企業は投資の決定が自由になり,資本をめぐって競争し,収益を上げ,賃金や配当を上げねばならない.それはコストの上昇を意味し,特に,鉄鋼などの巨大産業は政治的な反対を刺激する.製品の多様化や労働集約的な過程を減らすことで,対応するだろう.

しかし,リバランスがもたらす対外的な意味は,強大な資本移動をともなう対外不均衡の是正につながる,という期待である.確かに,知的所有権保護の強化や法の支配は,当面,外国企業に有利である.しかし,中期的には,中国の企業の革新を促し,その製品の質を改善するだろう.

FT March 7, 2013

China must seize rare chance for reform

By ZhangWeiying

胡錦濤から習近平に変わる人民代表大会を経て,中国の新しい指導部にとって困難な改革が始まる.それは長く延期されてきた憲法と民主主義に基づくシステムへの移行である.改革を怠れば,経済成長も社会の安定性も失う危険がある.

悲観論者は,既得権層の反対によって改革できない,というが,歴史的に見て,改革は既得権層から起きた.思想の力を軽視するべきではない.鄧小平は市場開放に向けて改革を行ったが,それは自分の利益や現状維持のためではなく,新しい社会主義の思想を追求したからだ.

また,改革が既得権層にとって革命を避ける最善の策であった.例えば,1832年以来,イギリスは選挙権を拡大して,既得権層が支持勢力の拡大に努めた.それは支配階級がシステムの崩壊に向かう危険を認めていたからだ.中国指導部の長老であるWang Qishanが,A.トクヴィル『アンシャン・レジームとフランス革命』を読むように指示したのは,同じ意味であろう.

既得権を考えるとき,権力者の利害の一致を示すものと誤解してはならない.支配的エリートの間には,しばしば,支配者と被支配者との間よりも深刻な利害対立がある.Bo Xilai失脚の騒動がそれを示した.共産党の最高幹部でさえ,いつでも,法的手続きもなしに,投獄されうる.19世紀以前にイングランドの改革がそうであったように,エリート自身の身の安全を守るためにも,法の支配が必要である.

しかし,指導部の能力は低下した,という批判がある.革命が終わって,官僚制による支配が続き,指導者たちはそのシステム内での地位を高める人物に変わってしまった.政治システムの移行を指導できる者はいない,というのだ.

歴史は偶発的な事件によって変化する.歴史的条件や家族の背景が旧指導部と異なるだけでなく,新指導部の能力はより高く,改革への強い使命感や革新性を持っているように見える.習近平はこの機会を逃してはならない.


l  安倍政権

FT March 3, 2013

Japan: Hey, big spender

By Jonathan Soble

23年前のピークを超えない株価,群を抜く政府の債務依存度,技術革新に負けた大企業,人口減少とデフレ.日本はギリシャ型の最悪局面に向かっているように見えた.

しかし昨年12月,安倍政権が成立してから,何かが変わった.彼がその前から数か月間も唱えた「日本復活」は,通貨市場で円安を促し,輸出企業の利益を増やして,自己実現的な予言となった.株価も上昇した.そして先週は,日銀総裁として,黒田東彦を指名した.

その記録から見て,安倍内閣がこのような成果をもたらすことは期待されていなかった.右翼の政治家系に生まれ,最初の政権は1年も持たなかった.経済学を知らず,参議院の多数を失い,腸の衰弱で辞任した.

アベノミクスが成功するとしたら,円安で輸出企業の利益が増え,金融緩和とインフレ期待が投資や消費を刺激し,政府は規制緩和を進めるからだろう.しかし,逆に,日本経済には余剰生産力があり,インフレはまだ起きない,と考えられている.他方,財政赤字を続ける条件であった長期金利が上昇し始めるかもしれない.安倍はまだ,構造改革について具体的に何もしていない.

参議院選挙が終わって,自民党が多数を得たら,安倍はナショナリストの目標を前面に出すだろう.中国や韓国との対立も再燃する.


l  金融取引税・ロンドン談

FT March 1, 2013

The case of Brussels and banker bonuses

By MartinWolf

イギリス下院議会で3人が議論している.

ヨーロッパが大嫌いな保守党議員は,「まったくばかげているよ!」と,うなる.「この議会もどきのヨーロッパがロンドンのシティに課税して,我々のもっとも貴重な産業を傷つけるというのか?

隣の穏健派労働党員は高笑いだ.「キャメロンとオズボーンが銀行家たちを守る戦争でも始まるかい? それはいいね.ヨーロッパ議会は巧妙だよ.イギリス国民が支持する手段を見つけてくる.保守党員でも,今では,このボーナス文化を嫌っているじゃないか.」

そこへ希望あふれる若い自由民主党員が「その通りです」と口をはさむ.彼は経済学が得意だ.「ボーナスは間違ったインセンティブをもたらしています.銀行は過度のレバレッジで利益を増やそうとし,その失敗のコストは国民が被るのです.すなわち,直接的には救済資金の投入,間接的にはこの不況です.BISの銀行監督局は,金融危機のコストをGDP60%と推定しました.もういい加減やめるべきです.」


l  道化師とポピュリズム

FT March 1, 2013

Beppe Grillo, the man out to sack Rome

By Guy Dinmore

サリディニアの荒廃した村,Decimoputzuが,救世主を探していた.土地を奪うと脅す銀行に対して,絶望した農民たちはハンガー・ストライキを行ったが,メディアも政治家も彼らを無視していた.だから彼らのために戦う者が来てくれると知って,村人たちは喜んだ.たとえそれが舞台の喜劇俳優であったとしても.

それが,200711月,グリッロBeppe Grilloの取り上げた「失われた大義」の一つであった.「喜劇役者が農民たちの利益を守らねばならない世界なんて,どうなってるんだ?」 と,グリッロは語っている.

グリッロは複雑な人物で,家族のことは明かさない.「5つ星運動」が単なる政党になったら,支持は失われると考える.選挙で多くの票を得たことにより,反対派の指導者か,連立政権を組むか,その選択を迫られる.

Project Syndicate 04 March 2013

What is Italy Saying?

Joseph E. Stiglitz

イタリア選挙の結果は明白だ.ヨーロッパの指導者たちは受け入れよ.彼らが追及してきた緊縮策は有権者たちに拒否された.

ヨーロッパの人材や資源(人的,物的,自然)は危機前と変わらないのに,その処方箋が間違っていた.膨大な資源が利用されていないのだ.これほどの無駄を生じている対応が,解決策だとはとても言えない.

もっと違う政策ならうまく行っただろう.ヨーロッパの財政を連邦制にする.アメリカほどでなくても,今の比率よりはもっと連邦財政支出を増やす.銀行同盟を作る.共通の預金保険・銀行整理・監督を含む,本当の銀行同盟だ.そのための資金を得るのにユーロ債を発行する.

成長戦略を欠いている.ドイツの黒字は中国と同じ規模に達してしまった.明らかにドイツの賃金を上げ,周辺部では輸出と生産性を上げる産業政策が必要だ.逆に,内的切り下げはうまく行かない(少なくともユーロ圏では).そんなことができるなら金本位制が大恐慌に至る理由はなかった.内的切り下げ,緊縮策,単一市場,というのは破滅の組み合わせだ.

ヨーロッパ統合は,平和と繁栄とを実現する政治的構想であった.しかし今は,内外の不和を拡大している.構造改革は必要だろう.しかし,EU規模の制度を改革することこそ,最も重要な構造改革だ.ドイツの対応は遅すぎる.

Project Syndicate 04 March 2013

Send in the Clowns

Ian Buruma

政治的なエスタブリッシュメントに対する憤慨は世界的な現象である.中国のブロガー,アメリカのティー・パーティー,イギリスのヨーロッパ嫌い,エジプトのイスラム主義者,オランダのポピュリスト,ギリシャの極右,タイの「赤シャツ」には共通点がある.現状維持を憎みと,自国のエリートに対する侮蔑を示すことだ.

我々はポピュリズムの時代に生きている.既存の権威やメディアは急速にその影響力を失いつつある.

ポピュリズムは必要な是正手段かもしれない.政党が硬直化し,メディアは権力者に媚び,官僚たちは大衆の必要に応えない.銀行家やテクノクラートが管理するグローバル化した世界では,多くの人が公共の議論から締め出されたと感じ,自分は捨てられたと感じている.他方,政治家たちは深刻な危機を処理する力もなく,自分の利権を守るのが精一杯だ.国民は,通常では考えられないような候補に投票して,不満を示すくらいしかできない.

しかし,ポピュリズムは悪性である.1930年代は暴力に向かった.今はそうでもない.西側の文明を破壊するとか,オバマはアメリカを破滅させるコミュニストだ,などと主張しているが.

現代のポピュリズムには,2つの特徴あるタイプが存在する.超富裕なビジネス・エリートと,道化師だ.前者には,英米メディアのRupert Murdoch,イタリアのSilvio Berlusconi,タイのThaksin Shinawatraがいるし,後者は,アメリカのテレビ解説者Jon Stewart and Stephen Colbert,メキシコのBrozo,フランスのColucheがいた.問題は,どちらがより有害か,ということだ.

中世の法廷には道化師がいて,彼だけが王様に真実を話すことができた.それは現代の道化師も同じである.両社が決定的に違うのは,道化師は政治権力を握りたくない,という点だ.オランダのPim Fortuynは,2002年に暗殺される前に,自分が首相になる恐怖を語っていた.今は,イタリアのBeppe Grilloが注目されている.ヨーロッパ最大の政治勢力を率いるプロの道化師になった.

道化師たちは論争を喚起するが,これは健全だ.プロの政治階級を批判し,語られない真実を人々に告げる.ビジネス・エリートは全然違う動機がある.彼らは自分のビジネス帝国を拡大しようとしている.それが脅かされることを許さない.政治権力や裁判はそのための道具である.

ベルルスコーニはイタリア人の夢をよく知っている.自分の資産を使って,その夢を利用するのだ.傍若無人で,道化師のようにふるまい,その連れ歩く女性達さえ,彼の人気の一部である.つまり,タイクーン(財界の大物)たちは,本質的に,反民主主義なのだ.

タクシンを追放したのは軍部のクーデタと,それを支持したバンコクのエリート層であった.ベルルスコーニが政権を失った後,テクノクラートの政権をヨーロッパの銀行家やEU官僚が支持した.しかし,どちらも民主主義を再生したわけではない.むしろ事態は悪化した.必要なことは,主流派の政治家たちが大衆の憤懣を理解し,彼らに応えることだ.

道化師の登場は,その第一歩である.


l  ヨーロッパは問題に答えよ

FP MARCH/APRIL 2013

Going South

BY MOHAMED A. EL-ERIAN

流動性危機と支払い不能危機とを見分けることは難しい.明確な区別はないのだ.ユーロ危機は,ギリシャの流動性危機として認識され,EUの指導者たちはそう主張してきた.その結果,何度も救済融資を追加した.北欧の,特に,ドイツ国民の同意を得ることが重要だと言われた.

しかし,事態は悪化し続け,問題は拡大している.政治家たちは重要な決断を回避し続けた.これはシステムの危機につながるものではないか? すでにGDP153%に達するギリシャ債務の返済は維持できないだろう.政治家たちが繰り返す2つの主張は信用されなくなった.1.ギリシャは成長して返済できる.2.公的融資の元本は損なわれない.

EUは分裂し,政治的決断を下す指導者がいない.ECBが示した「必要なら何でもする」という保証は,解決策ではない.ギリシャは,ユーロ圏を出て自らデフォルトする(安定化のための支援を受ける)か,ユーロ圏内で公的債務を大幅に減額する(そして公的援助を与える)しかない.

Project Syndicate 05 March 2013

Learning from Germany

Daniel Gros

10年前,ドイツはヨーロッパの病人だった.不況,失業,財政赤字,特に競争力がなかった.10年たって,ドイツは改革の手本とみなされている.しかし,それは間違いだ.

ドイツは確かに,支出を削って財政赤字を解消し,賃金抑制と労働市場改革を実行した.しかし,特にサービス部門の改革は避け,生産性上昇に成功していない.構造改革で生産性を高める,という意味では,ドイツは手本にならない.

Project Syndicate 05 March 2013

Why Europe?

Harold James

なぜヨーロッパは統一するのか? 特に,統一が経済状況を悪化させるとわかっているとき,なぜ統一を維持するべきなのか?

統一が繁栄の基礎である,というのは,19世紀のイタリアやドイツが国民国家を統一したときのロマンチックな理想であった.それは1848年の革命が失敗した後,より経済的な諸力によって推進された.

ドイツとイタリアの経済ナショナリズムは諸利益集団の連携をもたらし,ビスマルクやカブールの指導する国民統合に向かった.しかしこの国民運動は経済成長が失われると崩壊した.そして,より攻撃的で,敵対的,文化的アイデンティティを暴力的に主張する運動に変わった.

あるいは,ヨーロッパ統一は,しばしば結婚にたとえられる.結婚とは,他者を排除する者だ.ヨーロッパの政治家たちはアメリカを排除したがった.また,Martin Wolfは,この結婚が高い離婚費用によって維持される,と指摘した.伝統的な結婚では,豊かになるときも,貧しくなるときも,病気になっても健康でも,この関係を変えることはない.だから,何度も喧嘩し,暴力をふるう者が,結婚で仲直りするというのは感心しない.

ヨーロッパ人は,結婚が何であり,なぜ結婚すべきなのか理解していなかった.物質的な豊かさと平和を約束され,結婚の至福を願った.不幸な結婚は,今のヨーロッパを示している.経済状況は悪化しているのに,結婚に縛られる.彼らはそれについて,まだ,説明されていない.


l  ウゴ・チャベス死去

FT March 5, 2013

Populist who built power through petrodiplomacy

By Benedict Mander

チャベスHugo Chávez58歳で亡くなった.近年のラテンアメリカで,最も議論を招いた,ドンキホーテ的指導者であった.彼は21世紀型社会主義革命を自称し,ポピュリズム運動と融合させたカリスマであった.それ故,彼が死亡した後,この運動はラテンアメリカでも,ヴェネズエラでも,持続しないだろう.

両親は貧しい教員であり,6人の子供を育てることができず,チャベスは祖父の牧場で育った.プロ野球選手になろうとし,17歳で,カラカスにおいて軍事学校を学び,4年後,軍隊に入った.歴史上の英雄たちに強い関心を持ち,自分はシモン・ボリバルの生まれ変わりと信じた,という.閣議では左の席をボリバルの霊のために空けておいた.

FT March 6, 2013

Chávez death exposes flaws in China’s foreign policy

Ian Bremmer

チャベスの夢は民衆を魅了した.彼はヴェネズエラの社会を変え,ラテンアメリカを変え,国際政治を変えた.しかし,その夢は彼や,彼の国の能力をはるかに超えていた.

彼の味わった困難は,石油資源が豊富な国に共通する問題であった.工業や農業で雇用が少なすぎたのだ.豊富な資金が国内補助金や同盟諸国に支出された.しかし,農民たちは大都市に集まり,農地を耕さず,なんでも輸入されて国内の雇用を損なった.

チャベスは教育に多く支出したし,真の貧困層の味方であった.しかし,国家は二重の官僚制に支配され,無駄が多く,さまざまな非効率さを示した.チャベスは旧官僚制度を信用せず,新規に官僚を雇用したからだ.

チャベスは裁判や選挙に介入し,新聞社に圧力をかけ,憲法を修正して大統領の多選を可能にした.こうしたことは多くの批判を受けた.強い反米姿勢を示したが,それはラテンアメリカを世界に独自な存在として再生するためであった.


l  ガザ・マラソン

guardian.co.uk, Tuesday 5 March 2013

Hamas's ban on women running Gaza marathon is a missed opportunity

Nabila Ramdani

長距離レースの運営は難しいものだ.ガザ・マラソンは,イスラエルが不当に占領する問題を世界に発信する重要な機会であった.それは破壊された建物を避け,穴だらけの道路を迂回し,地中海の海岸線のように蛇行する,世界で最も危険なコースとなった.

それでも今回のマラソンには807名のランナーが参加を準備していた.その3分の1は国連難民局UNRWA (the UN agency for palestine refugees)が組織したものだ.

その中止の理由が驚きであった.軍事的衝突の危険があるから,ではなく,多くのランナーが集まって,(ハマスにとって)あまりにもリベラルな参加者になったから,特に,女性ランナーが男性ランナーと一緒に走るのを排除するために,中止となった.ハマスは,この貴重な機会を失ったのだ.

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The Economist February 23rd 2012

The death of a country

China’s cyber-hacking: Getting ugly

Corporate espionage: Who needs cyber-spying

(コメント) シリアの内戦拡大を防がなかった(特に,飛行禁止空域を設けなかった),オバマの不介入という決断を批判しています.シリアの犠牲者が増えているだけでなく,この国の位置は,中東やヨーロッパ,ロシアへの重要な関係を示しているからです.ここに民兵集団とイスラム過激派とギャングの支配する土地が現れてもよいのか?

中国からのサイバー攻撃は,人民解放軍が関与している,という調査報告書が出ました.アメリカ政府の重要情報や,行政機能,空港や鉄道・港湾・電力など,インフラ管理システム,また,民間企業の新技術や経営にかかわる常用情報,など,あらゆるものをハッカーたちは盗み,あるいは,破壊します.

そして,中国に進出した企業が被る犯罪集団による略奪行為(特に,利益を上げる生産ラインと原材料をすべて盗まれるケースがある),それを取り締まらない中国警察の姿勢に,強い不満が述べられています.

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IPEの想像力 3/11/13

東北大震災のときも,Reviewを書く以外,私には何もできませんでした.(IPEの想像力 3/14/11,IPEの想像力 3/21/11

NHKスペシャル「メルトダウン 連鎖の真相」(再放送)を観て,驚きました.多くの人が恐れたメルトダウンは,すでに早くから起きていたのです.日本に住めなくなる,というのは本当だったのか・・・ そのリスクを認識できないような怪物を,私たちは育てている,と実感しました.

震災を契機に,日本が復活する,という希望がありました.復興需要に期待する声,既存の政治秩序を転換し,以前から存在した東北地方の苦悩を解消するという願い,原発と津波に最終的な解決策を決断するよう求める声,も多くありました.しかし,政治的な動きは変化を感じさせることなく,緊急性という理由以外には,党派的な利益,閉塞した言語と秩序に,終始したように思います.

・・・災害もまた政治経済過程なのです.1周年の頃,東北の被災地を歩いて,何ができるかを考えました(東北被災地への調査旅行).そして,自分が研究してきたことから考察しよう,と思いました.(IPEの想像力 4/18/11,IPEの想像力 7/18/11) それは世界中の災害とその復興を比較し,ガバナンスを問うことでした.

2周年を迎えて,NHKスペシャル「故郷を取り戻すために 3年目への課題」を観ました.今も,被災地の風景は何も変わらない,と感じます.番組はその背景として,3つの問題を指摘していました.

1.「住民合意」は難しい.時間がかかり,(以前の,あるいは,新しい)まとめ役はおらず,住民の意識がますます分散していく.他方,行政には財源や長期のビジョンが求められる.

2.その意味で,行政は復興計画に「事業空白地帯」を作りたくない.高台移転と産業中心地の復興とが矛盾し,対立する.人々の「働く場がない」.復興を待てずに工場や事務所は移転し,復興に役立ちたいと地元に残っていた若者も,次第に,仕事のある土地へ移住していく.

3.「自治体職員の疲弊」が増す.震災で多くの職員を亡くし,他の自治体からスタッフを借りて,復興のために激増した行政への需要に応えている.しかし,行政と住民との意見の違いはなかなか埋まらず,住民や民間企業の間にも違いが生じている.不満が募り,時間と予算には限りがある.ストレスによる休職,うつ病,自殺が起きている.

見えない,という意味で重要なのは,政治家の姿です.住民合意に向けて議論を刺激し,計画化や財源確保,実行に向けた行政に指導力を発揮し,職員を鼓舞するのは,政治家の本来の役割ではないでしょうか? 地方政治家と中央との関係,そして,政治家の力量が問われています.

きっと,人口減少とコンパクト・シティ構想,ボランティアの参加,自治体行政の転換(弾力化・広域化),グローバリゼーション,新興企業群の誘致,などが,新しく政治に参加する若者たちによって議論されるでしょう.行政には,それに応じて,制度という形を与える使命があると思います.

日経新聞は,「政策空回り 復興に格差」という言葉で,今の感覚を表現します.

復興についての復興相や地方首長の意見は震災によって変わった意識を否定する「復旧」に近いと思いました.人口減少は困るでしょう.しかし,高齢化や地方産業の衰退,若年層の流出は以前からあった問題です.インフラ整備や産業誘致は,新しいアイデアと民間の担い手がなければ進みません.

スーパーやコンビニは災害に強い,と称賛します.しかし,商店街の復興は難しくなります.消費者としての住民にとって便利なものが,労働者や生活者としては職場を失い,地域の文化や自治を失わせる,と批判されます.災害もグローバリゼーションの一部なのだ,と感じます.

同じ311日の日経新聞の第1面には,「サウジで汚染監視」,「中国,海洋局の権限強化」が載っています.国際面では,人口増加や産業誘致のためエチオピアが進める発電用ダム建設にエジプトが強く反対している,という記事.チベットでは政府による鉄道やインフラの整備や地下資源開発が進む.漢民族の移住を促し,国有企業の進出も続くが,チベット族の雇用や収入は伸びず,焼身自殺による抗議が2009年以降で100人を超えた,と関係者は言います.

こんな記事もありました.「イケアが低価格ホテル」をチェーン展開する,という話です.アメリカのマリオット・ホテルと提携,運営はノルウェーのノルディックホスピタビリティーが担当し,イケアは不動産を発掘し,内装や家具も提供するのでしょう.

ガザ・マラソン(http://www.unrwa.org/etemplate.php?id=965)から学んで,東北でもマラソン大会を開いてください.そして,ガザからも子供ランナーたちを被災地に招いてはどうでしょうか? 震災と戦災は,大人たちの,あるいは,政治の失敗という点で同じです.マラソンを通じて,彼らはきっと多くのことを学ぶでしょう.

私にできることは,こんな提案だけです.どうぞ,被災地からも果樹園を検索し,新しいアイデアを得てください.

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