前半から続く)


l  ヨーロッパは問題に答えよ

FT March 1, 2013

The sneaky device that is devaluation

By Philip Stephens

通貨価値の切り下げは,財政緊縮策と同じように,生活水準を低下させる.しかし,それが見えにくい.変動レート制の時代が政治的に好まれる理由である.ドイツのように,賃金を凍結して生産性を上げる(いわゆる内的切り下げ)より,切り下げるほうが容易である.

切り下げは,世界経済が成長し,インフレが抑制されているとき,成功する.しかし,切り下げは慢性化する恐れがある.

Project Syndicate 01 March 2013

The Euro’s House Divided

Jean Pisani-Ferry

FP MARCH/APRIL 2013

Going South

BY MOHAMED A. EL-ERIAN

数十年も前にJohn Maynard Keynesが見事に指摘したように,問題は南欧から北欧に移った."If you owe your bank a hundred pounds, you have a problem. But if you owe a million, it has."

流動性危機と支払い不能危機とを見分けることは難しい.明確な区別はないのだ.ユーロ危機は,ギリシャの流動性危機として認識され,EUの指導者たちはそう主張してきた.その結果,何度も救済融資を追加した.北欧の,特に,ドイツ国民の同意を得ることが重要だと言われた.

しかし,事態は悪化し続け,問題は拡大している.政治家たちは重要な決断を回避し続けた.これはシステムの危機につながるものではないか? すでにGDP153%に達するギリシャ債務の返済は維持できないだろう.政治家たちが繰り返す2つの主張は信用されなくなった.1.ギリシャは成長して返済できる.2.公的融資の元本は損なわれない.

EUは分裂し,政治的決断を下す指導者がいない.ECBが示した「必要なら何でもする」という保証は,解決策ではない.ギリシャは,ユーロ圏を出て自らデフォルトする(安定化のための支援を受ける)か,ユーロ圏内で公的債務を大幅に減額する(そして公的援助を与える)しかない.

NYT March 2, 2013

Are There Any Europeans Left?

By OLIVIER GUEZ

Project Syndicate 05 March 2013

Learning from Germany

Daniel Gros

10年前,ドイツはヨーロッパの病人だった.不況,失業,財政赤字,特に競争力がなかった.10年たって,ドイツは改革の手本とみなされている.しかし,それは間違いだ.

ドイツは確かに,支出を削って財政赤字を解消し,賃金抑制と労働市場改革を実行した.しかし,特にサービス部門の改革は避け,生産性上昇に成功していない.構造改革で生産性を高める,という意味では,ドイツは手本にならない.

Project Syndicate 05 March 2013

A Rest Stop for Europe

Ashoka Mody

Project Syndicate 05 March 2013

Why Europe?

Harold James

なぜヨーロッパは統一するのか? 特に,統一が経済状況を悪化させるとわかっているとき,なぜ統一を維持するべきなのか?

統一が繁栄の基礎である,というのは,19世紀のイタリアやドイツが国民国家を統一したときのロマンチックな理想であった.それは1848年の革命が失敗した後,より経済的な諸力によって推進された.

ドイツとイタリアの経済ナショナリズムは諸利益集団の連携をもたらし,ビスマルクやカブールの指導する国民統合に向かった.しかしこの国民運動は経済成長が失われると崩壊した.そして,より攻撃的で,敵対的,文化的アイデンティティを暴力的に主張する運動に変わった.

マリオ・モンティは19世紀的な愛国者の末裔である.国民的な統一は経済に必要な条件だ,と主張する.同様に,次はヨーロッパも統一する.それによって貿易が増え,金利が低下し,投資が増える,と宣伝された.しかし,その大きなコストは,デフォルトのできないユーロ圏内で,今示されている.

歴史的に類推すれば,フランスのアンシャン・レジームは何度もデフォルトし,低金利と返済期間の延長をもたらした.しかし,歳入が増えない中で,財政悪化はフランス革命をもたらし,革命政権は裕福なエリートから資産を没収した.

あるいは,ヨーロッパ統一は,しばしば結婚にたとえられる.結婚とは,他者を排除する者だ.ヨーロッパの政治家たちはアメリカを排除したがった.また,Martin Wolfは,この結婚が高い離婚費用によって維持される,と指摘した.伝統的な結婚では,豊かになるときも,貧しくなるときも,病気になっても健康でも,この関係を変えることはない.だから,何度も喧嘩し,暴力をふるう者が,結婚で仲直りするというのは感心しない.

ヨーロッパ人は,結婚が何であり,なぜ結婚すべきなのか理解していなかった.物質的な豊かさと平和を約束され,結婚の至福を願った.不幸な結婚は,今のヨーロッパを示している.経済状況は悪化しているのに,結婚に縛られる.彼らはそれについて,まだ,説明されていない.

Project Syndicate 06 March 2013

A Global "New Deal"?

Yannos Papantoniou

FT March 7, 2013

Political centre at risk as eurozone fears revive

By Peter Spiegel in Brussels


SPIEGEL ONLINE 03/01/2013

Harvard Economist

Legalizing Drugs Suits Ideal of American Freedom

YaleGlobal, 4 March 2013

The Choice: More Immigrants or Fewer Citizens?

Joseph Chamie


Project Syndicate 01 March 2013

Why Iran Won’t Budge

Shlomo Ben-Ami


l  スターリン崇拝の復活

FP MARCH 1, 2013

Stalin Lives

BY MASHA LIPMAN

SPIEGEL ONLINE 03/05/2013

Six Decades Later

Stalin Cult Alive and Well in Russia

By Uwe Klussmann


VOX 2 March 2013

Sovereign default and the rules of engineering

Ugo Panizza

VOX 3 March 2013

Incentives for avoiding delayed sovereign defaults

Ugo Panizza


l  最低賃金

NYT March 2, 2013

The Business of the Minimum Wage

By CHRISTINA D. ROMER


l  権力の真空

WP March 2. 2013

Why the people in power are increasingly powerless

By Moises Naim

権力は空っぽだ.規模は力を示さない.官僚は管理できない.地位は権威をもたらさない.我々は,それでも安定性を維持できるのか?

21世紀になって,政治権力に3つの変化が起きた.より多くの革命が起き,より大きな移動性が生じ,人々の価値観が大きく変わった.忍耐を欠く,情報を得た,中産階級が世界中に増えている.彼らは,腐敗した,無能な政府に我慢できない.しかも人々は急速に移動性を高めている.エスニック,信仰,専門技術を理由に,世界の2億人以上が異なる土地で生活している.消費が増え,エネルギーや情報の需要が増え,個人の自由や男女の平等,権威主義体制への不満が,これまでにないほど広まっている.

その結果,権力者とそれに挑戦する人々とを隔ててきた障壁の多くが失われた.それは良いことである.自由な社会,選挙,有権者の選択肢,政治的な活動の新しい在り方,法益や投資の増加,消費の選択.・・・しかし,同時に,我々の収入,家族,生活が脅かされる.


l  援助の意味

The Observer, Saturday 2 March 2013

Aid has transformed Africa. Now is the time for growth and governance

Tony Blair

2005年のGleneaglesサミット(G8)は,まれに見る,大きな成果を上げた.アフリカを,私は優先テーマに掲げた.援助と債務削減は実行され,大きな成果につながった.

WP March 8, 2013

Why we give foreign aid

By Charles Krauthammer

援助とは,価値や利害を共有する同盟国を支援するか,友好的でない国から譲歩を引き出すために,行う.


l  災害のグローバリゼーション

NYT March 2, 2013

The Scary Hidden Stressor

By THOMAS L. FRIEDMAN

アラブの春,中国の冬期干ばつ,他の穀倉地帯(ウクライナ,カナダ,ロシア,オーストラリア)における記録的な高温や洪水.すべてはつながっていた.研究者はこれを「災害」のグローバリゼーションと呼ぶ.


l  アメリカ外交

The Observer, Sunday 3 March 2013

Ten years on, the case for invading Iraq is still valid

Nick Cohen

FT March 3, 2013

Lessons from Iraq a decade after war

FT March 4, 2013

What Kerry must do in the Middle East

Richard Haass

NYT March 4, 2013

Come Home, America

By ELIZABETH COBBS HOFFMAN

FP MARCH/APRIL 2013

The Inside Story of How the White House Let Diplomacy Fail in Afghanistan

BY VALI NASR

guardian.co.uk, Tuesday 5 March 2013

A veteran's remorse: what have we done to Iraq?

James Jeffrey

guardian.co.uk, Thursday 7 March 2013

Reconciliation in Iraq is impossible without US truth about its dirty war

Ben Emmerson


BLOOMBERG Mar 3, 2013

How Democracy Kills in Indonesia and Pakistan

By Pankaj Mishra

宗教的マイノリティーの武装勢力.政府と武装勢力の双方における人権の無視.軍・諜報機関の介入.過激派支援.イスラム主義.セクトによるパワー・ポリティクス.世俗派の政党政治との分離.イスラム地域における地方政治の変化.政治的分割と非寛容.選挙による多数派形成・解決案は不可能.主流政党政治の新旧エリートが作るパトロン関係.

非リベラルの政治は広がる.民主主義は正義や公平の概念を広め,各地に非リベラルのモンスターを育てる.そこに資源問題が加わる.略奪的な資本主義と奪い合いの政治制度の下には,貧困や仕事のないことを苦しむ人々が多くいる.彼らは富や買収からも取り残されている.


VOX 4 March 2013

Periphery economies: National governments must be prepared to provide stimulus

Richard Wood


l  ウゴ・チャベス死去

FT March 5, 2013

Populist who built power through petrodiplomacy

By Benedict Mander

チャベスHugo Chávez58歳で亡くなった.近年のラテンアメリカで,最も議論を招いた,ドンキホーテ的指導者であった.彼は21世紀型社会主義革命を自称し,ポピュリズム運動と融合させたカリスマであった.それ故,彼が死亡した後,この運動はラテンアメリカでも,ヴェネズエラでも,持続しないだろう.

両親は貧しい教員であり,6人の子供を育てることができず,チャベスは祖父の牧場で育った.プロ野球選手になろうとし,17歳で,カラカスにおいて軍事学校を学び,4年後,軍隊に入った.歴史上の英雄たちに強い関心を持ち,自分はシモン・ボリバルの生まれ変わりと信じた,という.閣議では左の席をボリバルの霊のために空けておいた.

FT March 5, 2013

End of Chávismo spells woe for Castros

By WilliamDobson

NYT March 5, 2013

Chávez Dies, Leaving a Bitterly Divided Venezuela

By WILLIAM NEUMAN

チャベスはヴェネズエラを根本的に変えた.無視され,排除されていた,多くの貧しい人々を力づけ,勇気を与えた.しかし同時に,彼の支配は社会を分裂させ,その死は多くの不確実さを残した.カリスマの消えた,危険な土地だけが残る.

チャベスは長い間,政権転覆や暗殺を企てたと,アメリカを非難してきた.彼はアメリカを,国内の諸問題,インフレや社会犯罪から,目をそらすために利用した.

15年近くにわたって,チャベスは政治運動を組織し,自分を中心に政府を動かしてきた.重要な政治的決定は自分で行い,政治生活のすべての側面を支配した.彼は熱狂的な,しばしば宗教的な支持者を生み出し,同様に,狂信的な反対派を生じた.

NYT March 5, 2013

A Polarizing Figure Who Led a Movement

By SIMON ROMERO

guardian.co.uk, Tuesday 5 March 2013

Hugo Chávez kept his promise to the people of Venezuela

Oscar Guardiola-Rivera

NYT March 5, 2013

In the End, an Awful Manager

By RORY CARROLL

BLOOMBERG Mar 5, 2013

Chavez’s Legacy of Ruin

By the Editors

The Guardian, Wednesday 6 March 2013

Hugo Chávez: an unfinished revolution

The Guardian, Wednesday 6 March 2013

Chávez will continue to inspire – but not in Europe

Martin Kettle

FT March 6, 2013

Chávez leaves legacy of economic disarray

By FranciscoToro

FT March 6, 2013

After Chávez, a chance for progress

FT March 6, 2013

Venezuela: To the heir, a poisoned chalice

By Benedict Mander

SPIEGEL ONLINE 03/06/2013

Narcissus from Caracas

Chávez Death Ends an Era in South America

By Klaus Ehringfeld in Mexico City

FT March 6, 2013

Chávez death exposes flaws in China’s foreign policy

Ian Bremmer

ウゴ・チャベスは偉大な人物か? カラカスの群集や,他のヴェネズエラの都市でも,街でも,人々は,そうだ,と答えるだろう.Fidel CastroEvo Morales in Bolivia and Rafael Correa in Ecuador, あるいは,彼の政治的同盟者たち,Lula da Silva and Cristina KirchnerIran, Russia and even Chinaも,そうだ,と答えるだろう.ヨーロッパ,アフリカ,アジアの諸国でも,左派の集まりで尋ねれば,そうだ,と答えるだろう.それに対して,ワシントン,ロンドン,その他の多くの首都では,チャベスは偉大なトラブルメーカー,とみなされている.偉人ではない.

チャベスの夢は民衆を魅了した.彼はヴェネズエラの社会を変え,ラテンアメリカを変え,国際政治を変えた.しかし,その夢は彼や,彼の国の能力をはるかに超えていた.

彼の味わった困難は,石油資源が豊富な国に共通する問題であった.工業や農業で雇用が少なすぎたのだ.豊富な資金が国内補助金や同盟諸国に支出された.しかし,農民たちは大都市に集まり,農地を耕さず,なんでも輸入されて国内の雇用を損なった.

チャベスは教育に多く支出したし,真の貧困層の味方であった.しかし,国家は二重の官僚制に支配され,無駄が多く,さまざまな非効率さを示した.チャベスは旧官僚制度を信用せず,新規に官僚を雇用したからだ.

チャベスは裁判や選挙に介入し,新聞社に圧力をかけ,憲法を修正して大統領の多選を可能にした.こうしたことは多くの批判を受けた.強い反米姿勢を示したが,それはラテンアメリカを世界に独自な存在として再生するためであった.

NYT March 6, 2013

Latin America After Chávez

By LUIZ INÁCIO LULA da SILVA

NYT March 6, 2013

Hugo Chávez

FP MARCH 7, 2013

Hugo's Banker

BY HENRY SANDERSON, MICHAEL FORSYTHE

FP March 7, 2013

The End of the Latin American Left

BY ALVARO VARGAS LLOSA

WP March 8, 2013

The enduring legacy of despots

By Anne Applebaum

60年前の今週,スターリンJoseph Stalinが死んだ.その最期は,娘が伝えている.彼は窒息し,苦しんで,部屋の中にいた幹部たちを一瞥し,死んだ.その後,彼らは急いでモスクワに帰還し,権力継承の闘いに入った.誰もスターリンがしたことを正しく評価せず,その後も,スターリニズムの時代を検証し,議論する者はいなかった.

チャベスの最期はどうであったか.彼は,スターリンほど多数を殺害しなかった.その後の影響も違うはずだ.しかし,チャベスが権力を得てから成人した世代は,この男と,その果てしない思想の放出によって,自分たちを形成したのだ.彼以外には何も,それほど重大な影響をふるわなかった.彼の政治運動は終わっても,スターリンと同様,国民の姿勢や考え方に,政治文化として,深刻な影響が残る.少しでも早く,彼らはチャベスの時代を評価しなければならない.


l  男性の中のIMF専務理事

SPIEGEL ONLINE 03/05/2013

Among Men

How Christine Lagarde Beat the Odds to Head IMF

By Marc Hujer


l  虐殺と裁判

NYT MARCH 5, 2013

Can We Afford to Forgive Atrocities?

グアテマラの元独裁者Efraín Rios Monttが,国家の指導者として初めて,大量虐殺の罪で法の裁きを受ける.

裁判は,戦争,内戦,政治的弾圧の後に,平和を促す役に立つか? 告発の脅しは,独裁者の辞任をさらに困難にするのか? 生き残った者が逆際したものを許し,先に進むことは,民主主義にとって良いことなのか?


l  ガザ・マラソン

guardian.co.uk, Tuesday 5 March 2013

Hamas's ban on women running Gaza marathon is a missed opportunity

Nabila Ramdani

長距離レースの運営は難しいものだ.ガザ・マラソンは,イスラエルが不当に占領する問題を世界に発信する重要な機会であった.それは破壊された建物を避け,穴だらけの道路を迂回し,地中海の海岸線のように蛇行する,世界で最も危険なコースとなった.

それでも今回のマラソンには807名のランナーが参加を準備していた.その3分の1は国連難民局UNRWA (the UN agency for palestine refugees)が組織したものだ.

その中止の理由が驚きであった.軍事的衝突の危険があるから,ではなく,多くのランナーが集まって,(ハマスにとって)あまりにもリベラルな参加者になったから,特に,女性ランナーが男性ランナーと一緒に走るのを排除するために,中止となった.ハマスは,この貴重な機会を失ったのだ.


NYT March 5, 2013

The Professors’ Big Stage

By THOMAS L. FRIEDMAN

MITとハーヴァードが開催した“Online Learning and the Future of Residential Education”について.


FP MARCH 7, 2013

A Very Special Envoy

BY JOEL WIT, JENNY TOWN

FP MARCH 7, 2013

Time Is Running Out on North Korea

BY SEN. ROBERT MENENDEZ


l  財政赤字は重要だ

WSJ March 7, 2013

The Federal Reserve's 'Fiscal Crunch' Trap

By DAVID GREENLAW, JAMES D. HAMILTON, PETER HOOPER AND FREDERIC MISHKIN

WP March 8, 2013

Deficits do matter

By Joe Scarborough and Jeffrey D. Sachs

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The Economist February 23rd 2012

The death of a country

China’s cyber-hacking: Getting ugly

Corporate espionage: Who needs cyber-spying

(コメント) シリアの内戦拡大を防がなかった(特に,飛行禁止空域を設けなかった),オバマの不介入という決断を批判しています.シリアの犠牲者が増えているだけでなく,この国の位置は,中東やヨーロッパ,ロシアへの重要な関係を示しているからです.ここに民兵集団とイスラム過激派とギャングの支配する土地が現れてもよいのか?

中国からのサイバー攻撃は,人民解放軍が関与している,という調査報告書が出ました.アメリカ政府の重要情報や,行政機能,空港や鉄道・港湾・電力など,インフラ管理システム,また,民間企業の新技術や経営にかかわる常用情報,など,あらゆるものをハッカーたちは盗み,あるいは,破壊します.

そして,中国に進出した企業が被る犯罪集団による略奪行為(特に,利益を上げる生産ラインと原材料をすべて盗まれるケースがある),それを取り締まらない中国警察の姿勢に,強い不満が述べられています.

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IPEの想像力 3/11/13

東北大震災のときも,Reviewを書く以外,私には何もできませんでした.(IPEの想像力 3/14/11,IPEの想像力 3/21/11

NHKスペシャル「メルトダウン 連鎖の真相」(再放送)を観て,驚きました.多くの人が恐れたメルトダウンは,すでに早くから起きていたのです.日本に住めなくなる,というのは本当だったのか・・・ そのリスクを認識できないような怪物を,私たちは育てている,と実感しました.

震災を契機に,日本が復活する,という希望がありました.復興需要に期待する声,既存の政治秩序を転換し,以前から存在した東北地方の苦悩を解消するという願い,原発と津波に最終的な解決策を決断するよう求める声,も多くありました.しかし,政治的な動きは変化を感じさせることなく,緊急性という理由以外には,党派的な利益,閉塞した言語と秩序に,終始したように思います.

・・・災害もまた政治経済過程なのです.1周年の頃,東北の被災地を歩いて,何ができるかを考えました(東北被災地への調査旅行).そして,自分が研究してきたことから考察しよう,と思いました.(IPEの想像力 4/18/11,IPEの想像力 7/18/11) それは世界中の災害とその復興を比較し,ガバナンスを問うことでした.

2周年を迎えて,NHKスペシャル「故郷を取り戻すために 3年目への課題」を観ました.今も,被災地の風景は何も変わらない,と感じます.番組はその背景として,3つの問題を指摘していました.

1.「住民合意」は難しい.時間がかかり,(以前の,あるいは,新しい)まとめ役はおらず,住民の意識がますます分散していく.他方,行政には財源や長期のビジョンが求められる.

2.その意味で,行政は復興計画に「事業空白地帯」を作りたくない.高台移転と産業中心地の復興とが矛盾し,対立する.人々の「働く場がない」.復興を待てずに工場や事務所は移転し,復興に役立ちたいと地元に残っていた若者も,次第に,仕事のある土地へ移住していく.

3.「自治体職員の疲弊」が増す.震災で多くの職員を亡くし,他の自治体からスタッフを借りて,復興のために激増した行政への需要に応えている.しかし,行政と住民との意見の違いはなかなか埋まらず,住民や民間企業の間にも違いが生じている.不満が募り,時間と予算には限りがある.ストレスによる休職,うつ病,自殺が起きている.

見えない,という意味で重要なのは,政治家の姿です.住民合意に向けて議論を刺激し,計画化や財源確保,実行に向けた行政に指導力を発揮し,職員を鼓舞するのは,政治家の本来の役割ではないでしょうか? 地方政治家と中央との関係,そして,政治家の力量が問われています.

きっと,人口減少とコンパクト・シティ構想,ボランティアの参加,自治体行政の転換(弾力化・広域化),グローバリゼーション,新興企業群の誘致,などが,新しく政治に参加する若者たちによって議論されるでしょう.行政には,それに応じて,制度という形を与える使命があると思います.

日経新聞は,「政策空回り 復興に格差」という言葉で,今の感覚を表現します.

復興についての復興相や地方首長の意見は震災によって変わった意識を否定する「復旧」に近いと思いました.人口減少は困るでしょう.しかし,高齢化や地方産業の衰退,若年層の流出は以前からあった問題です.インフラ整備や産業誘致は,新しいアイデアと民間の担い手がなければ進みません.

スーパーやコンビニは災害に強い,と称賛します.しかし,商店街の復興は難しくなります.消費者としての住民にとって便利なものが,労働者や生活者としては職場を失い,地域の文化や自治を失わせる,と批判されます.災害もグローバリゼーションの一部なのだ,と感じます.

同じ311日の日経新聞の第1面には,「サウジで汚染監視」,「中国,海洋局の権限強化」が載っています.国際面では,人口増加や産業誘致のためエチオピアが進める発電用ダム建設にエジプトが強く反対している,という記事.チベットでは政府による鉄道やインフラの整備や地下資源開発が進む.漢民族の移住を促し,国有企業の進出も続くが,チベット族の雇用や収入は伸びず,焼身自殺による抗議が2009年以降で100人を超えた,と関係者は言います.

こんな記事もありました.「イケアが低価格ホテル」をチェーン展開する,という話です.アメリカのマリオット・ホテルと提携,運営はノルウェーのノルディックホスピタビリティーが担当し,イケアは不動産を発掘し,内装や家具も提供するのでしょう.

ガザ・マラソン(http://www.unrwa.org/etemplate.php?id=965)から学んで,東北でもマラソン大会を開いてください.そして,ガザからも子供ランナーたちを被災地に招いてはどうでしょうか? 震災と戦災は,大人たちの,あるいは,政治の失敗という点で同じです.マラソンを通じて,彼らはきっと多くのことを学ぶでしょう.

私にできることは,こんな提案だけです.どうぞ,被災地からも果樹園を検索し,新しいアイデアを得てください.

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