IPEの果樹園2013

今週のReview

3/4-9

 

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イタリア選挙とユーロ危機 ・・・移民の洪水 ・・・安倍政権の金融政策 ・・・朝鮮半島の革新 ・・・新しい国際システム ・・・QEと金融政策への懸念 ・・・ケリー国務長官と中国 ・・・重債務国の債務減額 ・・・新しい国際金融システム

 [長いReview]

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l  イタリア選挙とユーロ危機

NYT February 21, 2013

The Rise of a Protest Movement Shows the Depth of Italy’s Disillusionment

By RACHEL DONADIO

徴税人を攻撃し,腐敗した政治家を攻撃し,金融投機を攻撃して,街から街へ,絶叫して回った.インターネットに詳しいコメディアン,グリッロBeppe Grillo の行った“Tsunami tour” は,金曜日にローマへ到着した.そのとき,彼はイタリア第三の政治勢力を得たことに気づいた.

228日にローマ法王は辞任し,経済不況の中,グリッロの「5つ星運動」Five Star Movementは,イタリア国民に広がる幻滅によって急上昇した.左右の政党から政治スキャンダルが続き,国民は反システムを掲げる勢力に共感した.ユーロ圏に残留するかどうか,国民投票を行う,と主張してきた.

Silvio Berlusconiの自由の人民党には連携する相手がいない.中道左派であるPier Luigi Bersaniの民主党と,テクノクラート内閣を指導したMario Montiの市民運動が協力できる可能性はある.しかし,選挙で誰も明確な勝利を得られないまま不安定な連立政権ができれば,ユーロ危機が再燃するかもしれない.それ以上に,グリッロの勝利は,イタリア政治が完全に統治能力を失った,という不安を高めるだろう.

グリッロの「5つ星運動」は政治的経験のない新人候補ばかりで,既存政治に不満を共有するだけで,意見は何も一致しない.グリッロは,NATOのアフガニスタンにおける活動を批判し,子どもへのワクチン投与強制や水道の民営化を批判する.また,イタリアの移民の子供に国籍を与える法改正に反対する.政府債のスプレッド拡大は「幻覚」である,という.

民主党のFederico Fornaro候補は,彼らには破壊する計画しかない,旧システムを破壊するが,新システムは築かれず,カオスだけが残る,と批判する.

ローマの市民,Stefano Anidoriはグリッロに投票するという.これまで20年間,左派に投票してきたが,同じ顔を観るのに失望し,飽きたから.政治学者のRoberto D’Alimonteによれば,グリッロもイタリア特有の「政治的な発明」である.イタリア人は,ナチズム,キリスト教民主主義,ベルルスコーニ,を発明した.そして,グリッロだ.

FT February 28, 2013

Italy exposes wider crisis of democracy

By MarkMazower

イタリアの選挙は,ユーロ危機の政治学を示した.ユーロ危機は収まった,株価が上昇した,という楽観に流れた我々は間違っていた.アイルランドは回復し,ギリシャの離脱はない,という人々は,政治の悪化を観ていない.

ギリシャには資本が流入している.それは正しい方向だ.しかし,民主主義の赤字はさらに拡大した.有権者の投票の10%がネオナチの政党Golden Dawnに流れている.イタリアにこのような政党が無いのは幸いだ.しかし,政府の民主的な正当性は大きく損なわれた.

ギリシャと同様に,イタリア人も,欠陥はあってもヨーロッパにとどまり,緊縮策の必要性も認めつつある.しかし,ローマの政治階級は,有権者から見て問題解決を託するに足る人々ではない.信頼をすべて失っている.彼らは国民に犠牲を求める道徳的な資格を持たない.

他方,イタリアのMario Monti,ギリシャのLucas Papademosといったテクノクラートは,政治的に汚れていないが,政治の外から銀行業や経済学に従うだけで,もはや有権者に好まれない.

こうして政治階級に対する信頼を失った人々が,民主主義の諸制度に失望するのはわずかな違いでしかない.極右への誘惑,革命のレトリックに固執する反資本主義,政党政治を否定したアナーキー,すなわち,グリッロの5つ星運動だ.

ブラッセルや北部の債権諸国が,債務は支払うしかない,という主張を繰り返すなら,緊縮策の我慢は続かない.ドイツ大統領Joachim Gauckが述べたように,諸民族の共和国という発想が再生されなければならない.ヨーロッパはユーロを失うか,それとも,政治危機が制御不能になるか?

Gauckは,超国家的な政策決定や,国際協力が,第2次世界大戦の苦しみから人々を救い,尊厳や統治能力を回復する条件であったことを思い起こせ,と注意する.ヨーロッパの協力は,経済計画,為替管理,ケインズ主義,コーポらティスト的な労資関係,などであった.しかし,1970年代に,スタグフレーションでそれらが信用を失った.1985-94年,Jacques Delorsが指導して,金融協力,資本移動,金融規制の緩和,などにヨーロッパを向けた.

古い発想は捨てたが,かつての高成長や国内政治制度への郷愁,称賛は,現在の低迷から黄金時代に見える.成長と民主主義はヨーロッパ市民にとって同じものだった.未来は,不況,失業,独裁に向かうのか?

成長が回復できなければ,ヨーロッパは統合だけでなく,民主主義も失う.


l  移民の洪水

YaleGlobal, 25 February 2013

Guestworkers: Hard To Turn Off Flow

Jagdish Bhagwati

アメリカにおけるヒスパニック人口の重要性はわかっているのに,移民法の改正は進まない.アメリカ人口の17%2012年大統領選の投票の10%が彼らのものだ.民主・共和両党は移民労働者の一時的雇用the guestworker programを拡大しようとしている.

しかし,一時的雇用であれば,労働市場の需給に応じて変化するとか,これによって非合法移民を一掃できる,という期待は満たされないだろう.

不況になっても,強制的な国外退去は人権団体から反対を受ける.Alejandro Portesは,自発的な移民労働者の帰還を助ける資金を給付する制度を提唱している.しかし,それが非合法移民の減少にはならないだろう.

移民法の改正には2つのポイントを知っておくべきだ.1.合法移民を増やすと,非合法移民も増える.2.労働組合は,その政治的影響力は低下したが,合法的な労働者の流入が何であれ,ゲストワーカー計画にも反対するだろう.

アメリカは移民の主要な目的地であるから,合法化の仕組みを変えても,それを超える移民が流入する.むしろ,労働者の権利を差別しないことが重要である.それは事実上の奴隷制だ,というthe Southern Poverty Law Center の発行した“Close to Slavery: Guestworker Programs in the United States”が,特に,労働者の移動性を重視している.

19636月,ケネディー大統領は移民の割当制を「耐えがたいもの」と批判し,彼の死後,1965年に廃止された.大統領を決める力を持ったヒスパニックにも,許されないことだ.


l  安倍政権の金融政策

FT February 24, 2013

Challenges for the new Governor of the Bank of Japan

by Gavyn Davies

昨年10月以来,20%の円安,28%の日経平均株価上昇が示すように,アベノミクスは顕著な成果を上げて,日本はようやく20年の流動性の罠から逃れるチャンスを得た.

この変化が実現するには日銀の次期総裁指名が重要である.日銀は2%のインフレ目標を始めて明確にし,無制限の金融緩和も受け入れた.しかし,それが見せかけの姿勢であれば,ヘッジファンドが狙っている.

武藤,黒田,岩田の候補者には,金融政策や財務省,円安を促す外債購入,安倍政権との関係で違いがある.日銀はインフレ目標に関して,まだ,矛盾する長期の予測や金融政策を維持している.特に,日銀当局は金融政策の対象を長期の国債や,社債,ETFs(株式)に拡大することを嫌っている.

次期総裁は,こうした日銀当局と対立し,強烈な対抗策,たとえば,スイス型の円安為替レート固定化と,ECBドラギ総裁にならった,そのために何でもやる,という発言があるかもしれない.あるいは,政府と協力する声明を発表して,財政赤字の貨幣化を始めるかもしれない.

期待は大きい分だけ,次期総裁の言動が失望をもたらす危険もある.

FT February 28, 2013

Japan’s chance to end its long stagnation

By Paul Sheard

黒田は日銀の敗北主義的な説明を変えることだ.特に,現在の白川総裁は,デフレを実体経済の成長低下によるものと説明し,人々のインフレ期待に及ぼす金融政策の効果を弱めた.新しい指導部は,この悪循環を断つべきだ.そして,金融政策を国内のリスク資産や外債の購入にまで拡大して,その発言を実際に信じられるものとして示すことだ.


l  朝鮮半島の革新

Project Syndicate 22 February 2013

Renewing the South Korean Miracle

Wonsik Choi, Richard Dobbs

韓国は1960年代,70年代の改革によって成長し,OECDの援助を受ける立場から,OECDに加盟し,援助を与える立場に変わった.一人当たりGDP3000ドルを超えている.

しかし,輸出志向の製造業に依拠した国家主導の資本主義,というモデルはもはや有効ではない.特に,一般の庶民が成長から取り残されている.中産階級の半分が債務に依存して生活水準を維持し,その社会的ストレスは,離婚,出生率,自殺に示されている.

問題は二つだ.第1に,現代,LG,サムソン,など,少数の超生産的なグローバル企業に比べて,サービス部門の賃金が低い.大企業の雇用は1995年以降に3分の1も減った.第2は,中産階級の家計が金融的な負担に苦しんでいる.特に,子供の教育費が大きく,「教育の軍備拡大競争」が過熱している.その結果,子供の数が減って,人口が急速に減少した.また家計は住宅の保有を優先し,その購入のための債務負担に苦しんでいる.

NYT February 24, 2013

Shared Wounds in Korea

By SUKI KIM

朝鮮半島,北緯38度線の軍事境界線の南北には,奇妙な類似した感情がある.

朴クネの当選を助けた韓国人を「5060世代」と呼ぶ.彼女は1961年から1979年までこの国を支配した独裁者,朴正煕の娘である.その最後の5年間は,事実上のファーストレディーであった.1974年に母親が北朝鮮の協力者により殺害されたからだ.

彼女は幼いころの家,青瓦台(韓国大統領府)に戻った.1979年に,私も子供であったが,朴大統領が殺害された日のことを生き生きと思い出せる.両親は私に,外でこのことを口にするな,と警告した.政府のことを公然と語るものは逮捕されたからだ.私は学校で沈黙を守ったが,それも生徒たちが泣くのを見るまでだった.彼らも知っていたし,すぐに,学校の皆が泣き始めた.

人々の不安が何であったのか,悲しみか,恐怖か,それはわからない.しかし,朴正煕は子供が知っている唯一人の指導者であった.彼がいなくなったら北朝鮮が攻めてくる,と誰かがささやいた.

調査のために訪れていた北朝鮮で私が目撃した,金正日の亡くなったピョンヤンの様子は,興味深いことに,その当時のソウルに似ていた.若い北朝鮮人たちは絶望していた.まるで空が崩壊し,両親を亡くしたかのように,彼らの顔は暗かった.政府が直ちにしたことは,20代の新指導者キム・ジョンウンが金日成にそっくりだ,という宣伝だった.偉大な指導者の遺伝子が継承されたことを知らせたのだ.

FT February 27, 2013

China should abandon North Korea

By DengYuwendeputy editor of Study Times, the journal of the Central Party School of the Communist Party of China

北京は,北朝鮮を捨てて,朝鮮半島の再統一を促すべきだ.

1.国家間の関係をイデオロギーで判断するのは間違いだ.2.地理的な理由で北朝鮮を安全保障上の同盟国として重視するのは時代遅れだ.3.北朝鮮は改革開放に進まない.4.北朝鮮は中国との関係から離れている.1960年代から,北朝鮮は歴史を見直し,その建国の過程に中国の若者たちが流した血の重要性を消し去った.5.核兵器を得た北朝鮮は,その移り気な外交から見て,北京に対する脅迫にもそれを使うだろう.

こうした点を考慮すれば,中国政府は北朝鮮を見放すべきだ.最善の道は,北朝鮮と韓国との再統一に向けてイニシアティブを取ることだ.そして,ワシントン,東京,ソウルとの関係を弱める.それは中国に対する地政学的な圧力を緩和し,台湾再統一に向けて準備するものだ.

次善の策は,影響力を行使して,北朝鮮に親中国の政府を作る.そして安全保障を提供し,核兵器を放棄させて,正常な国家への移行を促すことだ.


l  新しい国際システム

FT February 24, 2013

The cyber age demands new rules of war

Zbigniew Brzezinski

ウィーン会議から200年かけて,国際システムが形成されてきた.ウィーン会議以後の国際システム,あるいは国家間の行動に関する「ゲームのルール」を決めた.メッテルニヒ,タレーラン,カースルリーなどは,平和から戦争に至るまでの移行について,共通の概念を構築した.確かに戦争は平和と根本的に異なるが,それでも,国家間の行動にはルールが必要だった.

すでに脆弱な状態の国際システムが崩壊するリスクは明らかに存在する.起源の不確実さによって生じる機能マヒの恐怖が,社会的なカオスを広めるだろう.国家間の対立や,コミュニケーション技術の発達はそれを加速する.大衆を動かす,衝動的な,ポピュリスト的騒動と,国家間の地政学的パワー・シフトが連動する.

こうした状況で競争する諸国家は,自国の行動を主観的に判断する.核時代の初期の慎重さを学ぶべきだ.我々は率直に話し合わねばならないが,同時に,アメリカの自制が敵による国際システムの脆弱さの利用を許すものであってはならない.

冷静で,しかも,断固とした抑止.そこから出発して,新しい,真に互恵的なゲームのルールを築かねばならない.


l  QEと金融政策への懸念

Project Syndicate 27 February 2013

America’s Strategy Vacuum

Stephen S. Roach

アメリカ連銀の政策担当者たちに,量的緩和政策を無制限に続けることへの疑念が生じている.

連邦公開市場委員会(FOMC)は,129-30日の会合で,「さらなる資産の購入がもたらす潜在的なコストとリスクについて」不満を示した.出口戦略における不安定化,連銀のバランスシートが膨張することで生じる資本損失.

アメリカは典型的な自由放任システムとして,あまりにも長く,戦略を市場の見えざる手にゆだねてきた.そのせいで,政府は事後的な修復策に追われ,予想外の問題に間違った対応を取る.連銀は,次の危機を防ぐよりも,危機後の処理に焦点を当てている.「財政の崖」に注目する財政政策も同じである.近視眼的アプローチが危機を招く.

かつてMichael Porterは,アメリカ企業経営の戦略の不足,短期的成果主義を批判した.企業の磯決定において,機能的効率性を見る短期戦術と,成功の戦略をもたらす長期ビジョンとが結びついていない.

Project Syndicate 28 February 2013

Ten QE Questions

Nouriel Roubini

1.  純粋なオーストリア学派的対応はバブルをくじき,不況に至る.他方,QEは必要な民間,及び政府のデレバレッジ・債務削減を延期し,大量のゾンビ金融機関・家計・企業,最後にはゾンビ政府を生じる.オーストリア学派とケインズ主義との中間が,QEを時間とともに解消する方策に向かう.

2.  QEを繰り返すことは,時間とともに効果を失う.

3.  外国為替市場における効果は,ゼロサム・ゲームであり,「QE戦争」だ.

4.  新興市場に向かう資本移動が,多くの難しい問題を生じている.

5.  株式,住宅,商品,債券,信用市場でバブルを生じる.

6.  経済改革を求められる政府に,それを延期するモラル・ハザードが生じる.

7.  QEの出口戦略が難しい.

8.  債権者から債務者へ,貸し手から借り手へ,所得と富が再分配される.

9.  深刻な予期しない結果が生じる.

10.正統的な金融政策に戻れなくなる.

Project Syndicate 28 February 2013

Two Dollar Fallacies

Martin Feldstein

アメリカの財政・金融政策は持続可能ではない.アメリカ国民の高齢化により,政府の債務/GDP比率は100%を超えて,さらに加速的に悪化する.アメリカ連銀や,中国などの黒字諸国がアメリカの債券を買っているが,それはいつまでも続かない.

アメリカの政策に信頼を失った諸国がポートフォリオを変えることで,ドルへの取り付け(ドル暴落)が起きる心配がある.アメリカのドルが準備通貨であるから,そのような心配は不要だ,という説明は間違っている.

1990年代後半から,韓国,台湾,シンガポールのような国々が,輸出指向型の成長を実現し,外貨準備を蓄積した.特に,1997-98年の危機を生じた,通貨への投機的攻撃を避けるために,準備を増やした.こうした諸国は2000億ドルも,そして,中国は3兆ドルも,外貨準備を保有するようになった.この規模は,国際収支不均衡を融資するために必要な額をはるかに超えている.各国は主要な資産として投資し,利回りとリスクによって判断するようになる.

要するに,アメリカはもはや,1960年代のフランス財務大臣,ジスカール・デスタンが述べたような,「途方もない特権」を失ったのだ.


l  ケリー国務長官と中国

FP FEBRUARY 27, 2013

While America Slept

BY KISHORE MAHBUBANI

地政学が誕生して以来,No.1の大国は新興の大国を阻んできた.No.1の国がNo.2の国に平和的にその地位を譲った唯一のケースが,イギリスとアメリカだった.その理由は,基本的に文化的なものだ.両国はともにアングロサクソン文化であった.

アメリカと中国は,もちろん,このケースに当てはまらない.しかし,これまで中国の台頭が平和的に実現してきたのは,中国が屈辱を堪えたからか,アメリカが肝要にそれを許したからか,双方で全く異なった認識がある.

アメリカが長期的,戦略的な観点で,中国との協力関係を尊重しながらNo.2の地位に退く様子は全くない.つまり米中の関係は,今後,一層の対立を生じ,古来のパターンをたどるだろう.グローバルな混乱期に備えるほかないのだ.


l  新しい国際金融システム

WSJ February 26, 2013

Why There Will Be No New Bretton Woods

By BENN STEIL

中国,日本,韓国は,近頃,意見を対立させているが,資本移動やその経済的影響に関して,アメリカ連銀の慎重さを欠く金融政策のせいで経済的主権を失うことへの信念を共有している.

201011月の講演で,中国人民銀行総裁Zhou Xiaochuanはそれを説明した.アメリカの金融政策は,アメリカにとって最適であっても,世界にとって最適ではない.その役割は矛盾している.この問題は1944年のブレトン・ウッズ会議から,1961年のヨーロッパ諸国通貨の交換性回復,そして,1971年のニクソン・ショックまで,解決されていない.

ブレトン・ウッズの金融闘争は,近代史における特異な分岐点であった.上昇する反植民地主義の超大国,アメリカが,その経済的圧力により,支払い不能の,同盟相手であるイギリス帝国を,植民地支配や貿易,金融の面で譲歩させた.しかし,アメリカに頼った多くの同盟諸国がドル不足であるような状態でできた金融アーキテクチュアは,世界貿易が必要とする十分なドル供給を拡大できなかったし,その通貨価値を維持し,金兌換を保証するほど十分にドル供給を抑制できなかった.

中国が2国間で,日本,ブラジル,ロシア,トルコと合意し,ドルを介さず,直接に決済することは,世界貿易に介入する動機を与える.ブレトン・ウッズでアメリカが葬ったこの戦略が,今また復活する.

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The Economist February 16th 2013

The missing $20 trillion

The global economy: Phoney currency wars

Redeveloping London: What’s the plan?

Schumpeter: How to make a killing

Free exchange: Middle-income claptrap

(コメント) タックス・ヘイブンに関する特集記事があります.しかし,どうでしょうか? 国際金融に欠かせない共通グリッドのような機能に注目する視点が,違法な資金の洗浄や脱税への批判と並置されています.確かに,「通貨戦争」を批判して,グローバル金融政策の端緒を見るのは重要です.これらが合わさって,どんな子億歳金融アーキテクチュアになるのか・・・

ロンドン中心地区の南部,Nine Elmsの巨大な再開発計画が議論されています.外国からの資金が不動産市場に大量に流入して,あたかも北京の大気汚染のように,ロンドン住民を苦しめています.地域行政の変化,公共輸送インフラ(ロンドン地下鉄の延長)が,これに応じたわけです.

特殊部隊の経験が企業文化に転用される話,「中所得国の危機」に関する批判,も面白いです.

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IPEの想像力 3/4/13

末永先生の退官を記念し,長寿企業を扱う経済学部のシンポジウムで,月桂冠の大倉社長が,酒屋がつぶれる3つの理由を挙げておられました.火事,腐敗,凶作,です.

・・・酒造業は火を使うので,火事を出すことがある.延焼もある.また,自然酵母や気温の変化に左右されていた時代は,酒の品質が一定でなかった.腐ってしまうことがある.そして,凶作でコメを食べることもできないときは,酒造が禁止された.

企業が長命であるには,首都・政治的中心から離れているほうがよい.京都は公家の街であり,お公家さんは口が肥えている,など,いろいろなアイデアが出されました.

No.1が次第に西側からアジアへ,特に,中国へ移っていくとき,国際システムはどうなるのか? さまざまな視点から語られるようになりました.ブレトン・ウッズ会議と国際通貨システムの誕生に関して,2つの論説を紹介しています.

KISHORE MAHBUBANIは,英米の移行を除いて,それが平和的なものであったことはない,と考えます.中米間の国際システムに関する理解は,その価値観や政治姿勢を含めて,大きく異なり,英米両国が同じ文化であったことは例外でしかない,と.他方,BENN STEILは,ブレトン・ウッズ会議が解きえなかった難問が再現しつつある,と考えます.それは国際通貨の供給に関する制度の構築であり,それが円滑に機能する政治的条件を見出すことです.

しかし,<文化>とは何でしょうか?

私たちは地理的な近接性によって,さまざまな環境や変化を共有しています.家族や地域社会,そして,ますますテレビやインターネットを通じて,価値観や感覚を相互に刺激しながら,<人>として成長します.文化的地域主義が重要な意味を持つことは,その事例によっては決定的でしょう.覇権国(No.1)の移行については,そうかもしれません.しかし,国際通貨制度は,必ずしもそうではない,と思うのです.

それぞれの地域的文化ができるだけ自由に発展することを許すのも,優れた国際システムの重要な条件です.アメリカ化,中国か,という違いを強調するMAHBUBANIの論調は,その移行が何か決定的な断絶であることを歴史の宿命であると誤解させます.

誰でも知っているように,文化的な違いはあるけれど,それに帰属する具体的な人間は非常に多様であり,柔軟です.中国人だから,アメリカ人だから,日本人だから,という理由で,何かを説明することは,多くの場合間違っています.同時に,互いに正しいと認めていることでも,それを実現する過程において,深刻な違和感や合意形成の難しさを発見するのです.

<都市>の盛衰がそうであるように,物理的・技術的な環境が激しく変化する中で,たとえば,戦争や通貨危機(逆に,急速な成長,長期の安定)があれば,人々の感覚も大きく変化します.住民も,その土地の文化も,常に移行過程にあるのです.

アメリカの小説をブックオフで試しに2冊買いました.しかし,すっかり落胆しました.山本周五郎の短編のほうが,はるかに充実しています.今,『深川安楽亭』を読んでいます.少し時間ができたので,長いReviewばかり書いていますが,研究も行き詰まったかな,と思うとき,弛緩した心に,短編の中の人物が絶叫して(あるいは,深い沈黙で),私に覚醒を促します.

小説であるのに,この激しさは何でしょうか? 作家の天才によって結晶した人間を感じます.そして,これほど複雑で,深い人間味を理解し,分割された世界の反対派さえも信頼する政治家がいなければ,文化を超える制度の構築は成功しないのです.

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