(前半から続く)
l 新しい国際システム
FT February 24, 2013
The
cyber age demands new rules of war
Zbigniew Brzezinski
ウィーン会議から200年かけて,国際システムが形成されてきた.ウィーン会議以後の国際システム,あるいは国家間の行動に関する「ゲームのルール」を決めた.メッテルニヒ,タレーラン,カースルリーなどは,平和から戦争に至るまでの移行について,共通の概念を構築した.確かに戦争は平和と根本的に異なるが,それでも,国家間の行動にはルールが必要だった.
技術の変化がこうした区別を失わせ,国際システムは危機に入った.核兵器の使用が,その破壊力の故に,核保有国の行動を慎重なものにしたが,他方,核保有による新しいグローバルなヒエラルキー秩序が生まれた.離れた目標を暴力的に破壊する高度な能力が開発され,他方で,国境を越えてテロ活動を国家が支援した.宣戦布告なしに,遠隔操作の無人攻撃機dronesが個人の標的,ときには無関係な市民をも殺害した.他国の軍事的な工業施設を破壊する目的でコンピューター・ウィルスが撒かれた.外国の指導者や,武器を開発する科学者を暗殺した.諜報機関や,民間企業の情報を得るため,コンピューターをハッキングした.より包括的なサイバー戦争に対する準備,社会経済システムや重要な政府機関へのサイバー攻撃能力が高められた.
すでに脆弱な状態の国際システムが崩壊するリスクは明らかに存在する.起源の不確実さによって生じる機能マヒの恐怖が,社会的なカオスを広めるだろう.国家間の対立や,コミュニケーション技術の発達はそれを加速する.大衆を動かす,衝動的な,ポピュリスト的騒動と,国家間の地政学的パワー・シフトが連動する.
こうした状況で競争する諸国家は,自国の行動を主観的に判断する.核時代の初期の慎重さを学ぶべきだ.我々は率直に話し合わねばならないが,同時に,アメリカの自制が敵による国際システムの脆弱さの利用を許すものであってはならない.
冷静で,しかも,断固とした抑止.そこから出発して,新しい,真に互恵的なゲームのルールを築かねばならない.
NYT February 24, 2013
A
New Cold War, in Cyberspace, Tests U.S. Ties to China
By DAVID E. SANGER
Project Syndicate 25 February 2013
The
Cacophony of the World
Dominique Moisi
ナポレオン戦争後の平和を「ヨーロッパの協調」と呼ぶ.Henry Kissingerは,それが物理的な均衡だけでなく,道義的なものであり,パワーと正義とは実体的な調和状態にあった,と述べた.それは1914年の第一次世界大戦で終わった.
20世紀前半の野蛮な戦争を経て,冷戦における2極化,1989年以後のアメリカの超大国化,そして新しい国際秩序が求められる時代になった.それは「ヨーロッパの協調」をグローバルに再生するだろうか?
残念だが,むしろグローバルな不協和音が起きそうだ.なぜなら,国際的なレフェリーの不在,グローバリゼーション,情報革命,アクターの増加とその価値観・目標の多様さ,国家の内外における分裂状態,・・・パワーはかつてのように圧倒的なものではなくなり,得やすくなったが,失われやすいものだから.
FP FEBRUARY 25, 2013
The
New Westphalian Web
BY KATHERINE MAHER
約365年前,100人を超える外交官と王子たちが,現在のドイツ北東部にあるMunster and Osnabruckなどの都市に集まって,近代世界の基本的枠組みについて合意した.ウェストファリア条約である.それが依拠したのは,領土的な主権,すなわち,国境で分割された国民国家であった.
1983年1月1日に,コンピューターがネットワーク上で情報交換する標準プロトコル,TCP/IPの導入が決まった.そこから始まったインターネットの世界は,野性的で,境界のあいまいな,規制されない世界であった.文化やアイデンティティ,地理的な境界を離れた世界に,「サイバースペース」という名前がついた.
すべての新規なフロンティアと同様,この世界に現れた初期の入植者たちも独立を宣言した.その一人であるJohn Perry Barlowは,1996年の「サイバースペース独立宣言」において,工業世界の諸政府に告げている.「我々が集まるサイバースペースに,あなたたちは主権を持たない.・・・サイバースペースはあなたたちの境界の中にはない.」
インターネットは多くのグリッドからなるため,情報を阻止したり,検閲したりすることはできない.それはネットによって有害なものとみなされ,住民たちはその経路を迂回する.
他のほとんどの有益なグローバル資源とは異なり,インターネットはおおむね政府の支配を免れていた.初期においては,特に,だれもそれで利益を上げていなかったから.その世界を管理したのは政府ではなく,エンジニアや学者,マニア,などの集まる団体,事後的な標準化の集まり,分散した多数の利害関係者によるシステムであった.後から,ダウンロードの無法性やポルノ規制を求めた法律家や政府は,その管理に失敗した.そして,この構造的な独立性が,インターネットを「世界の公開フォーラム」に転換した.
ブロガーのような自己発信の技術はサイバースペースを現代のスピーカーズ・コーナーに変え,政治的主張を容易にしている.しかし,情報は常にパワーであったから,政府はこれを管理しようとする.インターネットは独裁者を脅かすだけではない.それは新しい政治参加や抵抗の手段となり,既存の民主主義体制を脅かしている.情報を隠すこと,硬直した,頑迷な政府,腐敗した政治家,さまざまなマイノリティーの意見,などが新しい政治において注目される.
政府がサイバースペースを放置することは許されなくなった.WWWの無法状態に,新しいウェストファリア体制を求めている.中国の情報管理体制や,アメリカの目指している商業利用に必要な知的所有権,法体系の導入,など.それ以上に深刻な傾向は,サイバースペースがさまざまなマイノリティーによって分断されることだ.
サイバースペースは,もはやリバタリアンたちだけのものではない.サイバー戦争を準備する諸国家の戦場である.各国は,重要な金融・軍事・個人情報を,サイバー攻撃から守ろうとしている.そして,インターネットの軍事化が進むにつれて,プライヴァシーや匿名性,自由な表現のメリットは,安全保障に関する軍事的優先事項と対立するようになる.その解決策は見つかっていない.
365年前に,外交官と王子たちが集まって,戦争を終わらせる議論の中から国境を確立した.サイバースペースも分断するのか?
FP February 26, 2013
The
'too hard' box
Posted By Stephen M. Walt
FT February 28, 2013
Wary
Obama cannot shut out the world
By Philip Stephens
NYT February 27, 2013
Censorship’s
Many Faces
By YU HUA
l 自由と繁栄
NYT FEBRUARY 24, 2013
Less
Innovation, More Inequality
By EDMUND S. PHELPS
FT February 25, 2013
West
complacent over why nations fail
By Gideon Rachman
アダム・スミスの『国富論』と同様,Daron Acemoglu and James Robinson, Why Nations Fail. が成功したのは,時代を示すからだ.
アメリカやイタリアの政治的混乱をニュースで観ながら,この本を読むと,西側の人間は慰められる.こうした混乱を経ても西側は豊かになるのだ,と.なぜなら,「自由こそが世界を豊かにした」という歴史が,そこに示されているから.
この政治的信念を,中国の20年を超える高成長は根本的に損なったはずだが,著者たちは受け入れない.中国には自由がなく,富が収奪されるシステムにより,成長が持続的な経済発展であるはずはないからだ.そして,アメリカのやり方が優れている,という政治的な主張こそが似つかわしい.逆に,アメリカの政治システムが抱える問題を解決する必要は見失ってしまう.
中国の成長で最も顕著なことは,そのラディカルなプラグマティズムである.他方で,アメリカの政治論争はしばしば手続きや原則に縛られている.
l QEと金融政策への懸念
FT February 25, 2013
Bank
puts its economic reputation at stake
DeAnne Julius
イングランド銀行の金融政策会議がその信頼を失っている.9人の委員のうち,総裁を含む3人が政策の変更に賛成したのだ.すでに2年以上も目標インフレ率を上回り,経済ン居ついてプラスのニュースがあるのに,一層の量的緩和QEを求めるのは意外なことだ.
これは,金融政策会議の内部で,戦略の再編が起きていることを意味する.量的緩和策の効果に関するエコノミストたちの対立がある.しかも,G8が注意したような,「通貨戦争」につながる為替レートの目標設定と介入を警戒する声がある.QEは,明らかにポンド安を促しており,イギリス政府は対外不均衡の解消についてドル安を歓迎している.しかし,それがインフレ率を高めることには懸念がある.
Mark Carney新総裁の就任は,市場との対話を重視し,フレキシブルなインフレ目標,という政策を強く主張した.もしポンド安とインフレ率の上昇が続けば,新総裁のコミュニケーションが厳しく試されるだろう.
VOX 25 February 2013
IMF
lending and banking crises
Luca Papi, Andrea F Presbitero, Alberto Zazzaro
Project Syndicate 27 February 2013
America’s
Strategy Vacuum
Stephen S. Roach
アメリカ連銀の政策担当者たちに,量的緩和政策を無制限に続けることへの疑念が生じている.
連邦公開市場委員会(FOMC)は,1月29-30日の会合で,「さらなる資産の購入がもたらす潜在的なコストとリスクについて」不満を示した.出口戦略における不安定化,連銀のバランスシートが膨張することで生じる資本損失.
その関心は,連銀が短期的な戦術に集中し,長期の戦略を欠いているという,従来からの重大な欠陥を示すものだ.2007-08年の金融危機に対して,連銀は従来のケインズ主義的な論理で,量的緩和,そして,その永続化戦術を採用した.それはQE1の成功イメージがあったからだ.
しかし,景気回復の目標は失敗であった.アメリカは一時的,循環的な不況を経験しているのではない.GDPの70%を占める家計消費が,バランスシート不況に苦しんでいる.彼らは支出を減らして対応しているのだ.大規模な財政・金融による刺激策には効果がない.
バランスシートの再生を加速する,別のアプローチが必要だ.水面下のモーゲージ(債務残額より市場の住宅価格が下落したケース)に対する債務免除,約150万家計に生じている差し押さえ住宅の過剰販売を減らすべきだ.債務免除は複雑な心理問題を生じるが,ノンリコース型の住宅ローンを,水面下になった場合,リコースできるように変えるのは,アメリカのレバレッジ文化を修正し,より大きな責任を取ることになる.
アメリカは典型的な自由放任システムとして,あまりにも長く,戦略を市場の見えざる手にゆだねてきた.そのせいで,政府は事後的な修復策に追われ,予想外の問題に間違った対応を取る.連銀は,次の危機を防ぐよりも,危機後の処理に焦点を当てている.「財政の崖」に注目する財政政策も同じである.近視眼的アプローチが危機を招く.
かつてMichael Porterは,アメリカ企業経営の戦略の不足,短期的成果主義を批判した.企業の磯決定において,機能的効率性を見る短期戦術と,成功の戦略をもたらす長期ビジョンとが結びついていない.
QEに頼るFOMCにも,戦略が欠けている.
Project Syndicate 28 February 2013
Ten
QE Questions
Nouriel Roubini
1. 純粋なオーストリア学派的対応はバブルをくじき,不況に至る.他方,QEは必要な民間,及び政府のデレバレッジ・債務削減を延期し,大量のゾンビ金融機関・家計・企業,最後にはゾンビ政府を生じる.オーストリア学派とケインズ主義との中間が,QEを時間とともに解消する方策に向かう.
2. QEを繰り返すことは,時間とともに効果を失う.債券市場の資金は必要な・支出する主体に向かわず,株式市場の回復も,成長が実現しなければ,短期で終わる.
3. 外国為替市場における効果は,複数の主要中央銀行がQEを採用すれば,効果(自国通貨の減価)を失う.それはゼロサム・ゲームであり,「QE戦争」だ.
4. 新興市場に向かう資本移動が,多くの難しい問題を生じている.不胎化と高金利は資本流入を抑えられず,不胎化しなければ過剰な流動性がインフレ加速やバブルになる.通貨の増価は競争力を損ない,経常赤字を増やす.資本規制は困難だ.マクロ・プルーデンシャル規制もバブルを防げない.
5. QEを採用した国と,その影響を受ける国の双方で,株式,住宅,商品,債券,信用市場でバブルを生じる.
6. 経済改革を求められる政府に,それを延期するモラル・ハザードが生じる.債券市場の規律が失われる.
7. QEの出口戦略が難しい.早すぎても,遅すぎても,バブルを生じる.金利上昇で景気回復をくじく.中央銀行を含む,長期債券保有者の資産が大きく破壊される.
8. 債権者から債務者へ,貸し手から借り手へ,所得と富が再分配される.デレバレッジに至るすべての調整は,特に債務の貨幣化は,非民主的である.
9. 深刻な予期しない結果が生じる.もし過度のインフレが起きると,銀行はリスクを警戒して,融資を増やさない.
10.正統的な金融政策に戻れなくなる.物価安定に対するアンカーが失われる.アメリカ連銀はマイナス金利の効用を説き始めている.
短期の効果も,その意図しない結果や長期の影響に関して,QEはわからないことが多い.その副作用が強烈であるかもしれない.
Project Syndicate 28 February 2013
Two
Dollar Fallacies
Martin Feldstein
アメリカの財政・金融政策は持続可能ではない.アメリカ国民の高齢化により,政府の債務/GDP比率は100%を超えて,さらに加速的に悪化する.アメリカ連銀や,中国などの黒字諸国がアメリカの債券を買っているが,それはいつまでも続かない.
アメリカの政策に信頼を失った諸国がポートフォリオを変えることで,ドルへの取り付け(ドル暴落)が起きる心配がある.アメリカのドルが準備通貨であるから,そのような心配は不要だ,という説明は間違っている.
1990年代後半から,韓国,台湾,シンガポールのような国々が,輸出指向型の成長を実現し,外貨準備を蓄積した.特に,1997-98年の危機を生じた,通貨への投機的攻撃を避けるために,準備を増やした.こうした諸国は2000億ドルも,そして,中国は3兆ドルも,外貨準備を保有するようになった.この規模は,国際収支不均衡を融資するために必要な額をはるかに超えている.各国は主要な資産として投資し,利回りとリスクによって判断するようになる.
要するに,アメリカはもはや,1960年代のフランス財務大臣,ジスカール・デスタンが述べたような,「途方もない特権」を失ったのだ.
しかし,アメリカ・ドル以外に何を準備にするのか,という反論も間違っている.巨額のポートフォリオ投資家は,単一の通貨の資産に投資しない.さまざまな通貨の,さまざまな金融資産に分散するのだ.もし彼らがドルやドル建の債券をリスクが高いと判断したら,ポートフォリオ内の資産配分を変えるだろう.それによって,資産の売却や購入がなくても,ドル暴落を生じる.
ドルの価値は10年前に比べて10%も下がった.しかし,アメリカが巨額の経常収支赤字を続け,財政赤字の削減にも,連銀の資産保有の制限にも成功しないなら,ドルへの需要が減少し,ドル暴落と金利急騰に至る.
FT February 25, 2013
Nokia:
From ‘burning platform’ to a slimmer management model
By Andrew Hill
l ケリー国務長官と中国
FT February 25, 2013
What
Kerry needs to know about Iran
By Hossein Mousavian
FP FEBRUARY 27, 2013
While
America Slept
BY KISHORE MAHBUBANI
地政学が誕生して以来,No.1の大国は新興の大国を阻んできた.No.1の国がNo.2の国に平和的にその地位を譲った唯一のケースが,イギリスとアメリカだった.その理由は,基本的に文化的なものだ.両国はともにアングロサクソン文化であった.
アメリカと中国は,もちろん,このケースに当てはまらない.しかし,これまで中国の台頭が平和的に実現してきたのは,中国が屈辱を堪えたからか,アメリカが肝要にそれを許したからか,双方で全く異なった認識がある.
アメリカが長期的,戦略的な観点で,中国との協力関係を尊重しながらNo.2の地位に退く様子は全くない.つまり米中の関係は,今後,一層の対立を生じ,古来のパターンをたどるだろう.グローバルな混乱期に備えるほかないのだ.
FT February 28, 2013
John
Kerry: an able performer in a tough role
Ian Bremmer
WP February 28, 2013
The
challenge from China
By Fareed Zakaria
国務長官になったジョン・ケリーの最初の外国訪問はヨーロッパと中東の9か国であった.しかし,私は2か国だけを訪問するべきだったと思う.それは,中国と日本だ.
世界第2と第3の経済規模を持つ,中日間の関係は,領土をめぐる数か月に及ぶ緊張から,歴史的な問題も含めて悪化し,双方ともエスカレーションを止める気がない.年間3500億ドルに達する両国間の貿易額は減少している.偶発的事故や誤算から,事態が容易に制御不能になるだろう.
しかし,緊張緩和に役立つほど,米中関係は深められていない.オバマ政権は中国にパートナーとなる姿勢を示してきた,特に,オバマと親しいZbigniew Brzezinskiは,米中G2を提唱してきたが,それは成功しなかった.中国政府はこの誘いを,自身の経済発展に向けた政策に対する障害とみなし,あるいは,アメリカの作った政策に中国を巻き込むだけの罠とみなした.あるいは,中国が力をつけたことの成果と見なす者たちは,さらに強くなることを目指した.
中国側の冷淡さに対して,アジア諸国は中国の台頭について,アジアが中国の裏庭になる,という不安感を強めている.アメリカ政府はこれに応じて,アジア旋回を唱え,中国の覇権追求にバランスを取る役割を明確に示した.これがまた,中国からは封じ込めとみなされ,米中関係を悪化させている.米中戦略経済対話が高官レベルで開催されても,互いに深い信頼感は生まれていない.
日本の強硬姿勢は国内的な理由が大きい.しかし,中国はすでにアジアの支配的大国になっている.同時に,その成長モデルは国内の様々な社会・政治的移行の問題を抱えている.
アジアが持続的な安定性を得るには,米中関係が深まることが重要だ.ケリーは今すぐ,両国への訪問を準備せよ.
FP FEBRUARY 28, 2013
Welcome
to the Middle East, Mr. Secretary
BY MARC LYNCH
WSJ February 25, 2013
China
Has Its Own Debt Bomb
By RUCHIR SHARMA
guardian.co.uk, Tuesday 26 February 2013
The
false-alarmists behind this shrinking population panic
Dean Baker
FT February 27, 2013
China
pushes lending into the shadows
By David Pilling
WSJ February 27, 2013
A
Banking Paper Tiger
By EDWARD CHANCELLOR
l 重債務国の債務減額
FT February 26, 2013
The
sad record of fiscal austerity
By Martin Wolf
guardian.co.uk, Wednesday 27 February 2013
Greece
and Spain helped postwar Germany recover. Spot the difference
Nick Dearden
1923年,ドイツ国民は食糧切符で交換した.ヴェルサイユ条約が求めた賠償は,ナチスの台頭と第2次世界大戦につながった,と多くのものが指摘する.
60年前の今日,ロンドンの会議はドイツの戦後債務を半分に減らす合意に達した.それはヨーロッパの戦後再建に不可欠だった.そして,今,同じ債務の名目で支払いを求められるヨーロッパの人々の苦しみと対照的である.
ドイツの債権者には,アメリカ,イギリス,フランスだけでなく,ギリシャ,スペイン,パキスタン,エジプトも含まれていた.ドイツの債務水準はGDPの4分の1ほどであり,現在のギリシャ,アイルランド,ポルトガル,スペインの水準より低い.強い西ドイツは共産主義に対する要塞であったし,ロンドンに集まった債権者たちは,債務者が返済できるようにする責任があることをよく理解していた.ドイツの占領者が数年前まで自国民を苦しめたギリシャのような国も,西ヨーロッパの安定と繁栄を回復するために債務減額に参加した.
ロンドンの合意で非常に画期的な点は,ドイツの返済額をその貿易黒字からのみ支払うと認めたことだ.しかも,返済額は毎年の輸出額の3%以内と決めた.これが意味するのは,返済を受けるためにはドイツからの輸入を増やす必要があった,ということだ.債権者たちは,ドイツ経済の成長や繁栄に関心を持った.
重債務国に対するこの治療薬に比べて,1980年代以来,無思慮な貸し手が新規融資によって救済され,債務諸国の政府は緊縮と市場自由化を強いられている.それによって「より競争的な経済になる」というわけだ.
しかしその結果は,1980年代,90年代のラテンアメリカも,現在のギリシャ,アイルランド,スペインも,貧困が増大し,不平等が拡大した.アフリカでは,80年代,90年代に1億2500万人も極度な貧困状態にある人口が増えた.ギリシャ経済は20%以上も縮小し,若者の2人に1人が失業している.
60年前のドイツは成功例であり,30年前のラテンアメリカ債務危機は失敗例である.政策を間違ったヨーロッパの指導者たちの罪は明白だ.
WP February 27, 2013
Sequestration
stupidity
By Harold Meyerson
WP March 1, 2013
The
return of the euro crisis
By Robert J. Samuelson
Project Syndicate 26 February 2013
The
European-American Dream
Javier Solana
l 新しい国際金融システム
VOX 26 February 2013
Investigating
the effect of exchange-rate changes in Japan, China, east Asia, and Europe
Willem Thorbecke
WSJ February 26, 2013
Why
There Will Be No New Bretton Woods
By BENN STEIL
中国,日本,韓国は,近頃,意見を対立させているが,資本移動やその経済的影響に関して,アメリカ連銀の慎重さを欠く金融政策のせいで経済的主権を失うことへの信念を共有している.
2010年11月の講演で,中国人民銀行総裁Zhou Xiaochuanはそれを説明した.アメリカの金融政策は,アメリカにとって最適であっても,世界にとって最適ではない.その役割は矛盾している.この問題は1944年のブレトン・ウッズ会議から,1961年のヨーロッパ諸国通貨の交換性回復,そして,1971年のニクソン・ショックまで,解決されていない.
2008年の金融危機は,中国(3.3兆ドルの外貨準備)とアメリカ(15.9兆ドルの対外債務)に示される,国際収支の巨額の不均衡を問題として注目させた.アメリカは中国による為替レートの捜査を非難し,中国はアメリカの浪費癖や金融管理の欠如を非難した.
しかし中国は,1940年代のアメリカと異なり,グローバルな金融アーキテクチュアを再編する地位にない.現在のアメリカは,戦争によって破壊され,債務維持に苦労したイギリスとより,今でも強力である.自国通貨で短期債を発行し,世界の外貨準備の60%を占め,アメリカ以外の第3国から輸入する貿易の75%がドル建である.他方,中国は改革の青写真を持たず,ドル暴落による自分の(ドル建)金融資産がこうむる損失,輸出産業の崩壊,社会不安を免れない.
ブレトン・ウッズの金融闘争は,近代史における特異な分岐点であった.上昇する反植民地主義の超大国,アメリカが,その経済的圧力により,支払い不能の,同盟相手であるイギリス帝国を,植民地支配や貿易,金融の面で譲歩させた.しかし,アメリカに頼った多くの同盟諸国がドル不足であるような状態でできた金融アーキテクチュアは,世界貿易が必要とする十分なドル供給を拡大できなかったし,その通貨価値を維持し,金兌換を保証するほど十分にドル供給を抑制できなかった.
中国が2国間で,日本,ブラジル,ロシア,トルコと合意し,ドルを介さず,直接に決済することは,世界貿易に介入する動機を与える.ブレトン・ウッズでアメリカが葬ったこの戦略が,今また復活する.
FT February 27, 2013
Sell
currencies of serial QE offenders
By Bill Gross
「通貨戦争」というのは,通貨を弾丸のように見て,各国中央銀行が戦争しているイメージだ.しかし,これは間違いである.中央銀行が戦っているのは,金融危機後の不況であり,高失業率である.その手段は政府債券購入による量的緩和策QEだ.中央銀行は協力してQEに訴え,リフレ政策を取っている.
貨幣がどんどん印刷されれば世界中の通貨の価値は下がり,短期的には成長を促すが,長期的にはインフレが残る.
FT February 28, 2013
A
not-so-secret sterling devaluation ploy
By Samuel Brittan
l シリア
Project Syndicate 27 February 2013
The
Arab Revolutions’ Reality Check
Joschka Fischer
FP FEBRUARY 27, 2013
Ending
the Syrian War
BY SEN. ROBERT P. CASEY, JR.
WP February 28, 2013
Washington’s
last chance to help Syria
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The Economist February 16th 2013
The missing $20 trillion
The global economy: Phoney currency wars
Redeveloping London: What’s the plan?
Schumpeter: How to make a killing
Free exchange: Middle-income claptrap
(コメント) タックス・ヘイブンに関する特集記事があります.しかし,どうでしょうか? 国際金融に欠かせない共通グリッドのような機能に注目する視点が,違法な資金の洗浄や脱税への批判と並置されています.確かに,「通貨戦争」を批判して,グローバル金融政策の端緒を見るのは重要です.これらが合わさって,どんな子億歳金融アーキテクチュアになるのか・・・
ロンドン中心地区の南部,Nine Elmsの巨大な再開発計画が議論されています.外国からの資金が不動産市場に大量に流入して,あたかも北京の大気汚染のように,ロンドン住民を苦しめています.地域行政の変化,公共輸送インフラ(ロンドン地下鉄の延長)が,これに応じたわけです.
特殊部隊の経験が企業文化に転用される話,「中所得国の危機」に関する批判,も面白いです.
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IPEの想像力 3/4/13
末永先生の退官を記念し,長寿企業を扱う経済学部のシンポジウムで,月桂冠の大倉社長が,酒屋がつぶれる3つの理由を挙げておられました.火事,腐敗,凶作,です.
・・・酒造業は火を使うので,火事を出すことがある.延焼もある.また,自然酵母や気温の変化に左右されていた時代は,酒の品質が一定でなかった.腐ってしまうことがある.そして,凶作でコメを食べることもできないときは,酒造が禁止された.
企業が長命であるには,首都・政治的中心から離れているほうがよい.京都は公家の街であり,お公家さんは口が肥えている,など,いろいろなアイデアが出されました.
No.1が次第に西側からアジアへ,特に,中国へ移っていくとき,国際システムはどうなるのか? さまざまな視点から語られるようになりました.ブレトン・ウッズ会議と国際通貨システムの誕生に関して,2つの論説を紹介しています.
KISHORE MAHBUBANIは,英米の移行を除いて,それが平和的なものであったことはない,と考えます.中米間の国際システムに関する理解は,その価値観や政治姿勢を含めて,大きく異なり,英米両国が同じ文化であったことは例外でしかない,と.他方,BENN STEILは,ブレトン・ウッズ会議が解きえなかった難問が再現しつつある,と考えます.それは国際通貨の供給に関する制度の構築であり,それが円滑に機能する政治的条件を見出すことです.
しかし,<文化>とは何でしょうか?
私たちは地理的な近接性によって,さまざまな環境や変化を共有しています.家族や地域社会,そして,ますますテレビやインターネットを通じて,価値観や感覚を相互に刺激しながら,<人>として成長します.文化的地域主義が重要な意味を持つことは,その事例によっては決定的でしょう.覇権国(No.1)の移行については,そうかもしれません.しかし,国際通貨制度は,必ずしもそうではない,と思うのです.
それぞれの地域的文化ができるだけ自由に発展することを許すのも,優れた国際システムの重要な条件です.アメリカ化,中国か,という違いを強調するMAHBUBANIの論調は,その移行が何か決定的な断絶であることを歴史の宿命であると誤解させます.
誰でも知っているように,文化的な違いはあるけれど,それに帰属する具体的な人間は非常に多様であり,柔軟です.中国人だから,アメリカ人だから,日本人だから,という理由で,何かを説明することは,多くの場合間違っています.同時に,互いに正しいと認めていることでも,それを実現する過程において,深刻な違和感や合意形成の難しさを発見するのです.
<都市>の盛衰がそうであるように,物理的・技術的な環境が激しく変化する中で,たとえば,戦争や通貨危機(逆に,急速な成長,長期の安定)があれば,人々の感覚も大きく変化します.住民も,その土地の文化も,常に移行過程にあるのです.
アメリカの小説をブックオフで試しに2冊買いました.しかし,すっかり落胆しました.山本周五郎の短編のほうが,はるかに充実しています.今,『深川安楽亭』を読んでいます.少し時間ができたので,長いReviewばかり書いていますが,研究も行き詰まったかな,と思うとき,弛緩した心に,短編の中の人物が絶叫して(あるいは,深い沈黙で),私に覚醒を促します.
小説であるのに,この激しさは何でしょうか? 作家の天才によって結晶した人間を感じます.そして,これほど複雑で,深い人間味を理解し,分割された世界の反対派さえも信頼する政治家がいなければ,文化を超える制度の構築は成功しないのです.
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