IPEの果樹園2013

今週のReview

2/25-3/2

 

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ドローン戦争の時代 ・・・大規模な人口移動 ・・・サイバー空間の軍備拡大 ・・・G20と通貨戦争 ・・・北朝鮮の核実験 ・・・ユーロ圏はなぜできたか? ・・・中国と黒字国の改革 ・・・安倍首相は大胆で賢明か? ・・・ロボット時代の雇用問題

 [長いReview]

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l  ドローン戦争の時代

FP FEBRUARY 14, 2013

Hate Obama's Drone War?

BY ROSA BROOKS

他国で,テロリストと疑う人物(アメリカ市民でも)を殺害する,アメリカのドローンによる防衛政策は,国際秩序における「主権」という概念を追放する.

1990年代,内政不干渉の原則は人権団体によって攻撃されてきた.バルカン半島の内戦やルワンダの虐殺は内戦不干渉の代償とみなされた.ジェノサイドを止めるために国際社会の介入が支持されるようになった.グローバリゼーションや国際協力の必要性を求めて,主権概念の定義は,国際平和を維持する軍事力の抑制と,人権擁護という普遍的要求との,微妙なバランスで修正されてきた.

9・11テロでは,アメリカが国際社会にテロ対策としての軍事介入,そして,主権概念の修正を求めた.テロから数カ月後の報告書で,主権国家には住民の安全を守る責任がある,と主張している.その責任を果たさない国家,内戦や,反政府軍の横行,弾圧や国家破綻を示す場合には,内政不干渉は支持されず,国際社会が介入によって住民の安全と人権を保護しなければならない.そして,R2Pa "responsibility to protect")という概念が急速に広まった.その結果,R2Pを無視する国家に対して,介入する権利が認められることになる.

アメリカ政府は,ドローン攻撃を,R2P原則に依拠して正当化しようとする.ジェノサイドや内戦に対する概念は,テロのような人権無視にも適用可能であるからだ.しかし,ドローン攻撃は,住民の人権を守るための介入で要求されたような安保理の承認や透明性を無視している.

WP February 15, 2013

In defense of Obama’s drone war

By Charles Krauthammer

オバマのドローン戦争をめぐって論争は混乱している.三つの問題を分離して答えなければならない.

1.大統領には,他国で殺害を命じる権利があるのか? ・・・(a) 顕著な脅威に対する自衛権(イエメンでアメリカ攻撃を準備しているテロリスト).(b) アルカイダとの戦争状態は継続している(この場合,緊急性を証明する必要はない).

2.大統領には,アメリカ市民(Anwar al-Awlaki)を法的な審査を経ることなく暗殺させる権利があるのか? ・・・アメリカに対して武器を取った以上,その人物は外国の軍隊に属する兵士と同じである.アメリカ市民としての憲法によって守られるのではなく,戦時法に従う.

3.誰が暗殺リストを作る・決めるのか? ・・・戦時においては司令官がすべての命令を発する正当な権限を持つ.確かにオバマはホワイトハウスにいて決定を下すが,それはベトナム戦争でも同じであった.第二次世界大戦で爆撃した都市のリストを決めたのは誰で,その法的な手続きや,権限が問われただろうか?

この戦争には前線がなく,終わりがない.それが何か異なるだろうか? 聖戦主義者たちは世界を戦場にすると決意している.彼らが制圧されない限り,我々が敗北を受け入れるつもりはない.「テロとの戦い」とは戦争ではなく,法の執行が問題なのである,という者に対しては,この問題を分析しても無駄である.彼らは,まったく異なる,遠い星の住民である.


l  大規模な人口移動

l  FP FEBRUARY 14, 2013

Don't Fear the Migrants

BY FRANK JACOBS

オバマが一般教書を読んでいた頃,中国では沿海部の都市と内陸との間で,春節Chunyunの民族大移動が起きていた.およそ2億人が移動する.それは世界最大の人口移動である.2013年には,約40日間で,34億人が旅行した.

中国人の移動はほとんど国内で起きているが,それは人口移動が成長を高めることを示している.かつて,移動を禁止されていた貧しい農民たちが,都市に出て工場で働き,中国の成長に貢献した.それはまた,移動が一方通行ではないことも示している.

世界の移民人口は,2000年の15000万人から2010年の21400万人(世界人口の3%)に増加した.国内の人口移動は,74000万人が生まれた土地から遠く離れて働いている.8人に1人は移民である.各地で,中国の春節を小さくしたような民族移動が起きている.人口移動は,それに伴う資金の移動を引き起こす.


l  サイバー空間の軍備拡大

FP FEBRUARY 20, 2013

The Cool War

BY DAVID ROTHKOPF

冷戦(コールド・ウォー)ではなく,「クール・ウォー」the Cool Warの時代になる.

「クール・ウォー」で,戦争が起きることは少なくなるだろう,常に,ライヴァルを弱め,主権を損ない,その防衛力を奪う,攻撃的な手段が開発・使用される.それは技術的な最先端の能力を必要とし,戦争の条件を根本的に変えていく.不断の能力拡大・革新が求められる.

すべての者がインターネットにつながり,膨大なデータを処理し,高速で移転する時代には,サイバー攻撃の影響が大きく,しかも,予想できなくなる.ドローン作戦に関する論争はその一部でしかない.


l  G20と通貨戦争

FT February 18, 2013

Why the currency-war deniers are wrong

Lorenzo Bini Smaghi

G7G20が通貨戦争を防ぐことに必ずしも成功しないのは,金融政策に関する合意が失われているからだ.

伝統的な合意では,金融政策はインフレが問題にならなければ成長と雇用を目指した.インフレ期待が抑えられているうちは,金利はできるだけ低くして,消費や投資を促すことができた.為替レートは,各国の金融政策の結果として,金融市場に委ねられていた.そのような条件では,為替レートが弱い国は経済の基本的条件が弱く(デフレ的で,投資を促す低金利,そして通貨安),通貨戦争は起きなかった.

しかし,現実の経済は複雑だ.

1.為替レートは経済の基礎的条件を無視してオーバーシュートすることがある.為替レートを介入によって安定化することは,協調して行わなければ効果がない.国際協調は利害が反するから非常に難しかった.

2.より重要なことに,今度の不況では,金融政策の成長を促す効果が失われた.

急速な成長のためには,債務を減らさなければならない.そのためには債権者と債務者の間で再分配が行われる.これは容易なことではない.特に,民主的なシステムの下では.極端な借入を行った者が救済され,債権者や将来世代が犠牲を強いられる(という主張によって),議会が承認することはありえない.

そこで,議会を介さずに,中央銀行を使って巧妙に行うことが考えられた.中央銀行がリスク資産を購入して現金を供給し,また,金利を低くして融資を再開させる.

そのような介入が永久に続くなら,すなわち,金利の低下が長期にわたって維持されるなら,それはCarmen Reinhart and Kenneth Rogoffが「金融抑圧」と呼ぶものになる.金利はインフレ率よりも低くなり,損失は中央銀行が吸収して将来世代に負わされる.この決定は民主的な手続きによらず,(政府により)中央銀行の役割として担わされる.中央銀行が財政政策の一部になってしまう.

投資家たちは,(政治システムや中央銀行が金融抑圧を拒む)外国の資産を買うことなどで,金融抑圧から逃げようとする.それゆえ,経済的条件に照らしてよりも,金融抑圧国の通貨が減価し,そうでない国の通貨は増価する.

こうして通貨戦争が起きた.通貨戦争は後者が前者と同じ金融抑圧を採用することでしか回避できない.通貨の平和とは,中央銀行による(まともな)資産所有者の抑圧であり,世界中でリスク資産を購入すること,要するに,新しい金融危機なのだ.


l  北朝鮮の核実験

FT February 17, 2013

View from N Korea is of a nuclear world

By Aidan Foster-Carter

北朝鮮は掩蔽壕から世界を見ている.攻撃されればされるほど,深く掘るのだ.

北朝鮮は核爆発によって生まれた.それは広島,長崎において爆発し,予想外に早い日本の40年に及ぶ植民地支配を終わらせた.アメリカとソ連は「一時的に」南北を占領したが,その分断は今日に及んでいる.

金日成はすべてを賭けて南への侵攻を試みたが,マッカーサー将軍によって反撃された.そのときマッカーサーは,北朝鮮とそれを支援する中国の軍隊に核兵器の使用を唱えて解任された.1975年にはシュレジンガー国務長官が,北朝鮮がサイゴン陥落を利用して南下することを牽制するため,核攻撃を示唆した.当時の韓国の独裁者,パク・チョンヒは,アメリカに阻止されるまで極秘に核兵器を開発しようとしていた.その娘が225日に韓国の新大統領となる.

北による核開発は,援助や制裁によって阻止する試みと挫折が繰り返されてきた.10年前,ジョージ・W・ブッシュ大統領は,「悪の枢軸」として北朝鮮を含めたが,それは若いスピーチライターが,語調を考えて,イスラム国家ではない国を求めたからであった.しかし,ここに言及された北朝鮮は核兵器の保有を強く望んだ.同時に,イスラエル,パキスタン,インドは核兵器を保有し,しかもアメリカからの援助を得ている.彼らはそう見たわけだ.

もはや北朝鮮に制裁できるような交流は西側にない.そして中国は北朝鮮の崩壊と難民の流入,韓国・アメリカによる核管理と吸収を恐れている.制裁するよりも,中国は貿易と投資を増やしているのだ.中国の指導部はそれを計算するが,インターネットには,「太った狂犬」としてキム・ジョンウンを嫌い,北朝鮮との同盟関係を否定する声が高まっている.

だからキム・ジョンウンは冷静になって,中国指導部の怒りをバランスできる範囲に抑えなければならない.核兵器で安全は得られない.

WSJ February 19, 2013

How to Answer the North Korean Threat

By JOHN BOLTON

明白な代案は,北朝鮮の体制を転換することだ.アパルトヘイト後の南アフリカ,ソ連崩壊後のウクライナやベラルーシは核兵器を廃棄した.それを実現する最善の道は,平和的に朝鮮半島を再統一することである.

中国は決して同意しない,と反対する者は言うが,北京は北朝鮮の核保有に公式に反対している.それはアジアを不安定化し,中国の経済発展を妨げるからだ.それでも食糧支援や人道援助を続けたのは,北朝鮮の体制が突然崩壊して,大量の難民が中国に向かうこと,あるいは,米軍が北側に入ることを恐れるからだ.

どちらの不安も誇張されている.第1に,アメリカ,韓国,日本の政府は,北朝鮮の体制が崩壊した後の安定化と支援によって難民が生じないように手を尽くすと約束するべきだ.人道的な観点でも,また南北統一を金体制崩壊後に計画的に行う意味でも,それは望ましい.

2に,米軍が鴨緑江にまで北上する必要はない.アメリカは軍事境界線の南にとどまるだろう.あるいは,どこであれ半島の南部に駐留し,アジア・太平洋に展開できればよい.それを中国の指導者は嫌うだろうが,(鴨緑江を越えるより)その方がよいと考えるはずだ.

最善の道は,中国を説得することだ.もし中国が同意しなければ,その結果が,日本や韓国の核武装であることを知るだろう.


l  ユーロ圏はなぜできたか?

VOX 17 February 2013

Making the European Monetary Union

Harold James

政治統合を欠いた通貨統合は不可能である,と主張し,ユーロ圏に統一の金融当局だけでなく,統一国家を主張する意見がある.Thomas SargentPaul de Grauweもそうだ.しかし,それはユーロ成立の過程を誤解している.

ユーロは二つの理由でできた.第1に,国際通貨秩序の問題.第2に,ドイツの黒字累積,である.

前者は,ドルに依拠した調整可能な為替レート体制(ブレトン・ウッズ体制)が,1960年代後半から70年代の初め,ドル準備乗る席とアメリカ金融政策にかかる政治圧力で崩壊したことである.1980年代半ばのドル高が保護主義に向かうのを避けるため,G7諸国は1987年にルーブル合意で目標相場圏を採用した.

しかし,その後のヨーロッパでは,仏蔵相Edouard Balladurと独外相Hans Dietrich Genscherにより厳格な為替レート体制を目指すことが合意され,それをドロール委員会は中央銀行家たちによる通貨同盟への期限と計画として示したのだ.

後者のドイツ黒字問題は,ブレトン・ウッズ体制下で,赤字国が外貨準備枯渇から厳しい引き締めを強いられることをフランスの政治エリートたちは嫌っていた.他方,フランスが引き締めを回避するためにドイツに拡大策を要求することを,ドイツは超インフレの記憶に影響された国民,特に,物価安定を重視する(強力で,独立した)ドイツ連銀が嫌っていた.

そこで独仏は,高度な政治メカニズムを設けて問題を回避しようとした.しかし,やはりフランスの政治家たちには緊縮策が強いられ,ドイツ連銀にはインフレ容認が求められる,と懸念された.つまり,通貨同盟は,このような政治過程を消し去る(見えなくする)ことが目的であった.金融政策は物価安定を目標として自動的に決まる.

VOX 21 February 2013

Panic-driven austerity in the Eurozone and its implications

Paul De Grauwe, Yuemei Ji,

金融市場の動きは恐怖やパニックを生じ,自己破壊的になりうる.それに対する金融・財政政策が過度にデフレに傾くことで,ユーロ圏を苦しめている.

金融不安やパニックに経済政策の変更で対応してはならない.南欧諸国は赤字の削減に取り組むべきだが,そのタイミングや程度は合理的に選択するべきであり,パニックによって決めてはならない.また,北欧諸国は同様に緊縮策を急ぐよりも,財政赤字を拡大してユーロ圏全体の需要を刺激する余地がある.


l  中国と黒字国の改革

Project Syndicate 19 February 2013

The Saver’s Dilemma

Michael Pettis

過去200年間で最大の国際金融危機は,貯蓄過剰の諸国から貯蓄不足の諸国に資本が還流する過程に生じた緊張が原因であった.たとえば,ドイツとスペインの間に形成された債務が,ユーロ危機を生じ,経済に均衡回復rebalanceが強制された.

ドイツとスペインの貯蓄率が異なるのは,文化的な違いを議論する通説と違って,その国の政策の結果である.

1に,家計がGDPに占める割合である.第2に,所得分配.第3に,家計の借入に対する態度.例えば,スペインでは不動産ブームのせいで,富が増えると信じた人々が借入を増やして消費した.

そして,この3つの要素に影響する外国の政策がある.例えば,ドイツは1990年に労使が合意して賃金を抑制した.それは貯蓄率を高め,対外黒字を累積した,スペインのような他国の赤字を増やした.スペインには3つの対応があった.1.保護主義や切り下げで赤字を拒む.2.国内生産・雇用(そして国内貯蓄)を減らして,ドイツの過剰貯蓄を吸収する.3.ドイツの過剰貯蓄を借り入れて,国内の消費や投資を増やす.

スペインは,ユーロ圏であり,失業を避けた.つまり,3.による赤字と債務の増大を選択した.その多くは不動産とインフラ投資に消えた.もしドイツがそれほど過剰貯蓄を持たなかったとしたら,スペインの債務はもっと早く抑えられ,貿易に介入するか(あるいは,ユーロ圏を出て切り下げるか),失業を増やしただろう.そして,切下げと同じくらい,賃金を下げねばならなかったはずだ.

低貯蓄国の調整は,高貯蓄国が調整しなければ非常に困難だ.この点が重要だ.貯蓄と投資はグローバルに均衡するのである.低貯蓄国の不況を強いることで彼らがユーロ圏から離脱するなら,調整の負担はドイツの失業増加となって現れる.ドイツが貯蓄率を引き上げたことに戻るわけだ.


l  安倍首相は大胆で賢明か?

BLOOMBERG Feb 19, 2013

Shinzo Abe Is Brave, But Is He Wise?

By Clive Crook

安倍の日銀批判は正しい.日本銀行は金融政策を失敗してきた.そのインフレ目標は曖昧で,低すぎた.名目的な低金利でも,それはデフレによって実質的な金融緩和でなくなる.日銀の量的緩和は短期資産の購入に限定された保守的なものだった.アメリカやイギリスのように,もっと長期資産を購入しなければならない.

他方で,安倍は円安を強調して「通貨戦争」の非難を招いた.日本が金融緩和によって景気回復することは誰にとっても歓迎される.その副作用として円安が起きても,成長によって円高になる.しかし,安倍はこの区別を明確にできず,間違った.G7で財務大臣がこの点を明確にしたのは正しい.

また,安倍が財政刺激策を自慢するのは間違いだ.Adam Posenが述べたように,日本の財政刺激策は効果を失っている.確かに,日本の財政破綻を懸念することはないが,長年に及ぶ財政赤字で政府債務が累積し,民間の投資を妨げている.また債務維持コストが政府の公共投資も制約している.財政刺激策は長期に使うべきではなく,日本はそれを減らす時期だ.

しかし,3つ目の構造改革は,まだ不明確であるが,もっと強調した方が良い.たとえば,訪米時にオバマ大統領と会って,TPP参加を表明することが国内の反対派を抑え,改革を促すために重要だろう.むしろこの点で,安倍の大胆さが求められる.

FT February 20, 2013

Wanted: BoJ believer in monetary policy

By DavidPilling

安倍晋三の経済学の知識はベン・バーナンキの生け花の知識ほどではないかと思えば,彼の名を冠した「アベノミクス」を称えるのは大げさであるが,アベノミクスの核心とは,経済学の正統的な主張にある.すなわち,デフレは貨幣的な現象だ.日銀がそれを許す限り,デフレは解消しない.

1994年以来,GDPデフレーターは18%も下がったが,日銀はその主張を認めなかった.デフレは実物経済の減少であり,金融政策では治せない,と.日銀は人口減少や中国などからの安価な輸入財をその理由と主張した.

確かに日本人はデフレ経済に生きる道を学んだ.しかし,長期にわたるデフレは経済を腐食する.政府の債務比率は高まり,民間のアニマル・スピリッツも失われる.老人たちの貯蓄は物価の下落で価値を増すが,若者たちは住宅を建てるのも,企業を起こすのも,遅らせることになった.

日本は,新しい日銀総裁の下で,緩やかなインフレにおいて均衡する新しい経済に移行するべきだ.


l  ロボット時代の雇用問題

Project Syndicate 19 February 2013

The Rise of the Robots

Robert Skidelsky

非常に長期を考えれば,雇用は失われるだろう.2011年,中国企業はロボットに80億元投資した.しかも,機械化は製造業だけでなく,スーパーマーケットなどの低熟練労働にも広まっている.最近のFTの記事は,教育や医療における機械化を伝えている.

データ処理やロボット工学など,新しいタイプの雇用が生まれる,と楽観する意見もある.しかし,Twitterはソーシャル・メディア業界の巨人だが,Kidderminsterの中規模のじゅうたん工場ほどの雇用ももたらしていない.90億ドルの資本総額に対して,世界全部で,たった400人しか雇用していない.

貧しい諸国では雇用をシェアする現象が見られる.エコノミストたちはこれを「偽装失業」と呼ぶが,貧困を減らすことではなく,雇用を維持することが目標になれば,それは見直されるべきだろう.もし機会が労働者の雇用を半分にするなら,失業させるより,彼らの労働時間を半分にする方が良い.

しかし,そのためには,社会的な思考に革命を必要とする.

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The Economist February 9th 2012

Change in North Korea

North Korea: Rumblings from below

China’s currency: Yuan for the money

Online identity: Not a dog

(コメント) 北朝鮮の闇市場経済に驚きます.政府はこれを弾圧しません.なぜなら,弾圧策はすでに試みて失敗したからです.

新しい富裕層は政府に反対する姿勢を示しません.しかし,闇経済によっても庶民の窮状は改善できないでしょう.むしろ,体制の求めた平等な貧困より,韓国やアメリカのDVDを観ることで知った繁栄を彼らは得たいのです.キム・ジョンウンは,だから核兵器とミサイルの開発を急ぐのかもしれません.

中国の通貨は,資本規制を維持したまま,海外の利用者を拡大しています.また,オンラインのID認証や管理に関して,闇の世界を抑える試みが始まっている.

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IPEの想像力 2/25/13

レムニックの『レーニンの墓』を読んでいます.すばらしい著作だと思います.

ソ連の崩壊過程を描いた,というより,スターリンの築いた秘密警察国家の本質を示す小説です.これは,おそらく,広島・長崎の後,核爆弾の競争的累積がもたらした冷戦という異常心理を,個人権力の神聖化に利用した極端なケースでした.この作品は,その個々の瓦解シーンを描くことで,私たちの想像の中に悪夢を再生するドキュメンタリー装置です.

ある若者は,公式の歴史から消された多くの人々の記録を探しています.体制に反対する者は拘束され,強制収容所に送られ,そこで亡くなる場合もありました.自分の父親がなぜいなくなったのか,その後,どうなったのか,まったくわからなかった,という娘から,感謝の手紙が届きます.また,ブハーリンなど,多くの指導者たちが,捏造された罪を告白し,有罪の判決を受けて処刑されました.そうすることでしか,家族や,自分の信じた理想を守れなかったからでしょう.

権力や体制を維持する,ということが,これほど多くの殺戮や弾圧を正当化することに,驚くほかありません.社会主義や国家主義,市場自由化,など,個人を超越するさまざまな正義が個々人の判断や想像力を縛ります.戦争や集団殺戮,飢餓状態は,そのような人間集団を培養する,共通の経験された運命なのです.

「中国の台頭」や「日本の軍国主義復活」を恐れ,互いにその歴史認識を批判することが,正しい,と思うのは,こうした権力の本質が今もあるからです.

北朝鮮では,市場が闇経済として拡大しています.キム・ジョンウンの核実験は,北朝鮮のキム独裁が何も変わらず,3世代目に及ぶことを示すのではなく,むしろ体制の終焉を予期したバーゲン・セールなのかもしれません.

たとえ核実験が成功しても,体制を侵食する闇経済の重要性はもはや否定できない,とThe Economistの記者は考えます.闇市場ではDVDも携帯電話も販売されるし,インターネットを観る人々から外国の情報が広がります.2009年に,政府が通貨のデノミや新紙幣を導入したのは,こうした闇経済と蓄財を一掃するためでした.しかし,闇市場が無ければ,ピョンヤンでは建設工事も進まない,とわかったときから,弾圧政策は放棄されたのです.

中国や韓国の製品を扱う国境貿易は,急速に富を蓄積する階層を形成しつつある,と言います.官僚や軍人たちが賄賂を得て闇取引に加わり,その拡大に貢献します.1990年代後半の飢饉で,100万人が死んだ頃から変化が起きた,と言われます.体制が食糧を供給できないことは,次第に,体制への忠誠心を損ない,むしろ外部とのつながりや,貨幣経済,人民元を重視する姿勢に変わってきたようです.

それでも,旧ソ連圏やアラブ諸国,アメリカやユーロ圏の失業者と違って,新富裕層や飢餓に苦しむ地方の住民たちは街頭に出て体制を批判しません.あまりにも幼少期から体制の正義を教育されたから,また,日本の植民地支配,それ以前も,長い王朝支配において,人々が体制を批判する歴史(その想像力)を持たなかったから,と研究者は指摘します.

日本でも国土が何度も戦場になり,内戦や飢餓の時期が続き,冷戦下の権力闘争が激化して,市民生活への弾圧や大規模な政治的粛清を組織的に行っていたら,その中に生まれた子供として,私たちも恐怖と飢餓,闇経済の時代を生きたでしょう.敗戦から朝鮮戦争の間に,もしソ連が占領地域を拡大して分断したら,あるいは,権力闘争に米ソの諜報機関から資金や武器が大量に流れたら,あるいは,朝鮮半島で核兵器が使用されていたら・・・

朝鮮半島の再統一が平和的に実現し,繁栄するアジア圏に帰属する幸運を,自分の子供たちが感謝しているかどうか,10年後,30年後の体制や権力の姿を想像するのは困難です.悲観するより,私は『レーニンの墓』を読みます.

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