IPEの果樹園2013

今週のReview

2/25-3/2

 

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ドローン戦争の時代 ・・・シンガポールの場合 ・・・大規模な人口移動 ・・・サイバー空間の軍備拡大 ・・・G20と通貨戦争 ・・・中国が世界No.1になるとき ・・・北朝鮮の核実験 ・・・市場だけでは解決できない ・・・ユーロ圏はなぜできたか? ・・・中国と黒字国の改革 ・・・安倍首相は大胆で賢明か? ・・・ロボット時代の雇用問題

 [長いReview]

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主要な出典 Bloomberg, China Daily, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, Global Times (China), The Guardian, NYT: New York Times, Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, WP: Washington Post, WSJ: Wall Street Journal Asia, Yale Global そして、The Economist (London)


l  ドローン戦争の時代

FP FEBRUARY 14, 2013

Hate Obama's Drone War?

BY ROSA BROOKS

他国で,テロリストと疑う人物(アメリカ市民でも)を殺害する,アメリカのドローンによる防衛政策は,国際秩序における「主権」という概念を追放する.

オバマ政権は,それを正当化するために「危急の必要」(imminence)という概念を用いた.ジョージ・オーウェルの恐れた話法である.

アメリカは他国におけるドローンの使用を国連安保理によって承認されていないから,これはテロリストによる攻撃を避けるための,しかも,他国がそれを十分に抑えることができない(またはテロリストを抑える気が無い)場合の,危急の自衛策なのである.

この表面的には合理的な説明も,循環論である上に,その判断がアメリカ政府のみによって行われる正当化の手続きであると分かれば,誰も受け入れることはないだろう.(他国がアメリカにおいてそのような攻撃を正当化できない.)

この方針は,すでに揺らいでいる国連憲章の集団的な安全保障の基礎を失わせるものである.ドローン政策を批判する「人権擁護団体」と,アメリカ政府は,ともに,「主権」を国家に備わる当然の権利と見なさない.それは獲得され,あるいは,失われる.

1990年代,内政不干渉の原則は人権団体によって攻撃されてきた.バルカン半島の内戦やルワンダの虐殺は内戦不干渉の代償とみなされた.ジェノサイドを止めるために国際社会の介入が支持されるようになった.グローバリゼーションや国際協力の必要性を求めて,主権概念の定義は,国際平和を維持する軍事力の抑制と,人権擁護という普遍的要求との,微妙なバランスで修正されてきた.

9・11テロでは,アメリカが国際社会にテロ対策としての軍事介入,そして,主権概念の修正を求めた.テロから数カ月後の報告書で,主権国家には住民の安全を守る責任がある,と主張している.その責任を果たさない国家,内戦や,反政府軍の横行,弾圧や国家破綻を示す場合には,内政不干渉は支持されず,国際社会が介入によって住民の安全と人権を保護しなければならない.そして,R2Pa "responsibility to protect")という概念が急速に広まった.その結果,R2Pを無視する国家に対して,介入する権利が認められることになる.

アメリカ政府は,ドローン攻撃を,R2P原則に依拠して正当化しようとする.ジェノサイドや内戦に対する概念は,テロのような人権無視にも適用可能であるからだ.しかし,ドローン攻撃は,住民の人権を守るための介入で要求されたような安保理の承認や透明性を無視している.

主権による内戦不干渉はたびたび悪用されてきた.しかし,主権を無視した後の国際秩序とは,何を基礎にするのか?

WP February 15, 2013

In defense of Obama’s drone war

By Charles Krauthammer

オバマのドローン戦争をめぐって論争は混乱している.三つの問題を分離して答えなければならない.

1.大統領には,他国で殺害を命じる権利があるのか? ・・・(a) 顕著な脅威に対する自衛権(イエメンでアメリカ攻撃を準備しているテロリスト).(b) アルカイダとの戦争状態は継続している(この場合,緊急性を証明する必要はない).

2.大統領には,アメリカ市民(Anwar al-Awlaki)を法的な審査を経ることなく暗殺させる権利があるのか? ・・・アメリカに対して武器を取った以上,その人物は外国の軍隊に属する兵士と同じである.アメリカ市民としての憲法によって守られるのではなく,戦時法に従う.

3.誰が暗殺リストを作る・決めるのか? ・・・戦時においては司令官がすべての命令を発する正当な権限を持つ.確かにオバマはホワイトハウスにいて決定を下すが,それはベトナム戦争でも同じであった.第二次世界大戦で爆撃した都市のリストを決めたのは誰で,その法的な手続きや,権限が問われただろうか?

この戦争には前線がなく,終わりがない.それが何か異なるだろうか?  聖戦主義者たちは世界を戦場にすると決意している.彼らが制圧されない限り,我々が敗北を受け入れるつもりはない.「テロとの戦い」とは戦争ではなく,法の執行が問題なのである,という者に対しては,この問題を分析しても無駄である.彼らは,まったく異なる,遠い星の住民である.

WSJ February 18, 2013

The President Has Too Much Latitude to Order Drone Strikes

By RICHARD N. HAASS


l  シンガポールの場合

BLOOMBERG Feb 14, 2013

Singapore’s Population Bubble

By William Pesek

シンガポールでは非常に珍しいものが見られた.抗議活動だ.アラブの春や,中国のジャーナルストたちの街頭抗議,日本政府の政策に反対する群衆,ほどではないが,それは熱帯のける吹雪を探すほど,シンガポールに起きないと思われていた.

ニューヨーク市の半分しかない都市国家で,330万人の国民と200万人の外国人が働いている.Lee Hsien Loong首相が人口予測を含む報告書を出した.人口の増加(2030年に30%増)が前提されている.すなわち,移民流入である.国民の多くが移民排斥のムードに流れて,政府を批判している.他方,人民行動党政府は,人口の減少したシンガポールを,裕福な銀行家も雇用も失われた,低賃金労働者がさまようディストピアとして宣伝する.

これは人口バブル,“Ponzi demography”である.出生率の引き上げや移民流入の促進で人口が増えれば,財・サービスへの需要が増え,融資が増え,税収が増え,企業の利潤が増える.しかし,バブルはいつか破裂する.所得格差,債務の重圧で消費や投資は失われ,公的支援と財政赤字が増え,環境の悪化が進み,人々の不満は政府に向かい,街頭抗議活動を始める.

日本や韓国と同じように,シンガポールも輸出主導型成長モデルの限界に達した.労働者たちの生産性を高め,革新を続けることで,中国やインドとの競争が強める地域に開放経済を維持しなければならない.

2013-02-16 (China Daily)

Discontents of demography

By Xin Zhiming


l  大規模な人口移動

l  FP FEBRUARY 14, 2013

Don't Fear the Migrants

BY FRANK JACOBS

オバマが一般教書を読んでいた頃,中国では沿海部の都市と内陸との間で,春節Chunyunの民族大移動が起きていた.およそ2億人が移動する.それは世界最大の人口移動である.2013年には,約40日間で,34億人が旅行した.

中国人の移動はほとんど国内で起きているが,それは人口移動が成長を高めることを示している.かつて,移動を禁止されていた貧しい農民たちが,都市に出て工場で働き,中国の成長に貢献した.それはまた,移動が一方通行ではないことも示している.

世界の移民人口は,2000年の15000万人から2010年の21400万人(世界人口の3%)に増加した.国内の人口移動は,74000万人が生まれた土地から遠く離れて働いている.8人に1人は移民である.各地で,中国の春節を小さくしたような民族移動が起きている.人口移動は,それに伴う資金の移動を引き起こす.

しかし,受入国の側には不安がある.ローマ帝国が滅んだのも異民族の流入によるものではなかったか? 今も,各地に民族の離散や強制移住の悲劇が残っている.輸送手段が発達して,移民たちの流れは加速する.19世紀の地理学者,E.G. Ravensteinが述べたように,ヨーロッパの都市は人口増加よりも移民によって形成された.都市は文化的な多様化に向けた極になった.今ではオランダにムスリムの市長が当選し,ロンドンの白人居住者は50%を割った.

1989年までは,ポーランドとイギリスは,イデオロギー的にも地理的にも全く離れた場所で,何も関係が無かった.第2次世界大戦後に,母国の共産主義政権を嫌って帰国しなかったポーランド人の居住者がわずかにロンドンにあるだけだった.しかし,2004年にポーランドがEUに加盟し,多くのポーランド人がロンドンで働き,暮らすようになった.東欧諸国やロシア,アフガニスタン,イラク,バングラデシュ,からも来た.

そこには所得格差の経済的な効果が示されているし,輸送・通信手段の発達も影響している.アメリカは移民流入を抑えることに熱心だが,そのような心配には意味がない.移民たちは経済的な機会のある土地へ向かう.アメリカへの移民流入は減少している.そして,世界多くの土地において,春節の大移動が再現される.

FT February 18, 2013

On migration, the US should copy the UK

By Martin Ruhs and Philip Martin

NYT February 20, 2013

Immigration Reform and Workers’ Rights


l  サイバー空間の軍備拡大

FT February 15, 2013

Cyber skulduggery threatens us all

By Misha Glenny

FT February 19, 2013

Cyber war games

温家宝の蓄財に関する報道後にNYTが中国のハッカーによる攻撃を受けた,と公表した.中国政府は激しく否定するが,Mandiant(ウェブ・セキュリティー・コンサルタント)の報告書は人民解放軍とのつながりを指摘している.

中国,アメリカ,その他の,サイバー空間で軍事的,あるいは,ビジネス情報に関わる脅威となるような行動を一方的に拡大するのではなく,それを報告するべきである.そして,核兵器に関して行っているように,共通のルールを設けるのが正しい.

NYT February 19, 2013

China’s Cybergames

FP FEBRUARY 20, 2013

The Cool War

BY DAVID ROTHKOPF

冷戦(コールド・ウォー)ではなく,「クール・ウォー」the Cool Warの時代になる.

それは以前からわかっていたことだが,NYTへの攻撃を指揮したのが人民解放軍の上海に拠点がある61398部隊である,と報道された.そして,こうしたことはアメリカも行っている,と分かっているので,中国を非難することに大きな意味はない.

「クール・ウォー」で,戦争が起きることは少なくなるだろう,常に,ライヴァルを弱め,主権を損ない,その防衛力を奪う,攻撃的な手段が開発・使用される.それは技術的な最先端の能力を必要とし,戦争の条件を根本的に変えていく.不断の能力拡大・革新が求められる.

すべての者がインターネットにつながり,膨大なデータを処理し,高速で移転する時代には,サイバー攻撃の影響が大きく,しかも,予想できなくなる.ドローン作戦に関する論争はその一部でしかない.

ある意味では,「クール・ウォー」が常態となり,熱い戦争が必要なくなる.自分たちの能力や重要な情報・資産を奪われる恐怖に染まる.

WP February 21, 2013

Chinese cyberspies have hacked most Washington institutions, experts say

By Craig Timberg and Ellen Nakashima

FP FEBRUARY 21, 2013

Listening In

Y LAURA PITTER


guardian.co.uk, Friday 15 February 2013

Finland has an education system the US should envy ? and learn from

Linda Moore


Project Syndicate 15 February 2013

A Golden Rice Opportunity

Bjorn Lomborg

ビタミン入りの遺伝子組み換え米“golden rice”がフィリピンで栽培される.GMフードに反対する者は,事実を知らずに反対することがある.また,GMフーズの有益さとリスクを正しく評価していない.大企業に有利,農民には変えない,といった主張は,GMフードを禁止する十分な理由にならない.

Project Syndicate 21 February 2013

The Food Threat to Human Civilization

Paul R. Ehrlich, Anne H. Ehrlich


FP FEBRUARY 15, 2013

The Terrible Twos

BY JAMES TRAUB

FP February 19, 2013

Arms and influence

Posted By Stephen M. Walt

WP February 21, 2013

U.S. needs to show Egypt some tough love

By Robert Kagan and Michele Dunne


l  G20と通貨戦争

FT February 15, 2013

The G20 is a sad sign of our uncooperative world

Moisés Naím

政府は協力しなければ解決できない問題が増えているのに,政府間の協力は非常に難しい.多くの国が参加するよりも,できるだけ少数の国で合意する,「ミニラテラリズム」が必要だ.そして,必要があれば他国も参加する.このルールは,11票の民主主義を無視したものであるが,行動できないまま破局に向かうよりも,優れた解決策を示すことができるだろう.

FT February 16, 2013

G20 agrees to avoid currency wars

By Charles Clover in Moscow and Robin Harding in Washington

NYT February 16, 2013

Group of 20 Vows to Let Markets Set Currency Values

By DAVID M. HERSZENHORN

FT February 18, 2013

Why the currency-war deniers are wrong

Lorenzo Bini Smaghi

G7G20が通貨戦争を防ぐことに必ずしも成功しないのは,金融政策に関する合意が失われているからだ.

伝統的な合意では,金融政策はインフレが問題にならなければ成長と雇用を目指した.インフレ期待が抑えられているうちは,金利はできるだけ低くして,消費や投資を促すことができた.為替レートは,各国の金融政策の結果として,金融市場に委ねられていた.そのような条件では,為替レートが弱い国は経済の基本的条件が弱く(デフレ的で,投資を促す低金利,そして通貨安),通貨戦争は起きなかった.

しかし,現実の経済は複雑だ.

1.為替レートは経済の基礎的条件を無視してオーバーシュートすることがある.それは,Rüdiger Dornbusch35年前に示したように,金融市場の調整が実物経済よりも早いからであり,投資家の期待が自己実現的で,群集行動を起こしやすいからだ.為替レートを介入によって安定化することは,協調して行わなければ効果がない.国際協調は利害が反するから非常に難しかった.

2.より重要なことに,今度の不況では,金融政策の成長を促す効果が失われた.先進諸国が記録的な低金利であるのに,景気回復は人々を失望させるような状態である.それは債務の負担が大きいからだ.

急速な成長のためには,債務を減らさなければならない.そのためには債権者と債務者の間で再分配が行われる.これは容易なことではない.特に,民主的なシステムの下では.すべての債務を組み替える(長期・低利の債務に換える)なら,貯蓄者や機関投資家は損失を強いられ,金融システムの安定性を脅かす危険がある.また,モラル・ハザードを招くだろう.そのために公的融資を与えることは有権者の強い不満を招く.極端な借入を行った者が救済され,債権者や将来世代が犠牲を強いられる(という主張によって),議会が承認することはありえない.

そこで,議会を介さずに,中央銀行を使って巧妙に行うことが考えられた.中央銀行がリスク資産を購入して現金を供給し,また,金利を低くして融資を再開させる.

そのような中央銀行の金融資産購入が,短期的なポートフォリオの変化だけで済めば,通貨供給や再分配に長く残る効果は生じない.しかし,そのような介入が永久に続くなら,すなわち,金利の低下が長期にわたって維持されるなら,それはCarmen Reinhart and Kenneth Rogoffが「金融抑圧」と呼ぶものになる.金利はインフレ率よりも低くなり,損失は中央銀行が吸収して将来世代に負わされる.この決定は民主的な手続きによらず,(政府により)中央銀行の役割として担わされる.中央銀行が財政政策の一部になってしまう.

投資家たちは,(政治システムや中央銀行が金融抑圧を拒む)外国の資産を買うことなどで,金融抑圧から逃げようとする.それゆえ,経済的条件に照らしてよりも,金融抑圧国の通貨が減価し,そうでない国の通貨は増価する.

こうして通貨戦争が起きた.通貨戦争は後者が前者と同じ金融抑圧を採用することでしか回避できない.通貨の平和とは,中央銀行による(まともな)資産所有者の抑圧であり,世界中でリスク資産を購入すること,要するに,新しい金融危機なのだ.

NYT FEBRUARY 19, 2013

Currency War’ Is Less a Battle Than a Debate on Economic Policy

By STEVEN M. DAVIDOFF

BLOOMBERG Feb 20, 2013

Fight Club’ Is Morphing Into Currency Club

By William Pesek

216日のG20が終わって,公式には,通貨戦争が避けられた.しかし,その後もニュージーランド連銀のGraeme Wheeler総裁が述べたように,「kiwiNZドル)が一方的な投機にさらされたらいつでも介入の用意がある」.通貨市場は,目配せ,うなづき,握手の世界だが,この発言は強烈なパンチである.

G20の姿勢は明白だ.中央銀行は何をやってもよい.特定の水準を目指すことに言及しない限り,望みのままに介入する.中央銀行は,1996年の映画“Fight Club”の金融版になった.それは喧嘩のルールだ.資本規制も,介入も,必要だと思えばやることだ.いつ,どこで,何のためかを言うこともない.

日本の円が1115日以来13%も減価したと羨むなら,自分もすればよい.

FT February 21, 2013

Weaker pound is welcome but no panacea

By MartinWolf

ポンドが減価している.わーい! ・・・イギリス経済がバランスを回復するには,ポンドの実質為替レートがもっと減価すればよいのか?

Sir Mervyn King2月の金融政策会合で250億ポンドの資産購入を決めたことがポンドの減価を招いたのかもしれない.問題は,金融政策が為替レートを介して実現することだ.これについて,Sir Mervynは,金融政策の目的を,供給条件の改善,と述べている.投資を増やす,というわけだ.確かにこの点で,緊縮策に偏る政府は大きな失敗を犯した.

二つの研究が出ている.一つは,the LSE Growth Commission Investing for Prosperityであるが,テクノクラート的な発想で,公共投資の改善に有効な制度改革を提案する.しかし,公共投資は余りにも政治化されており,不況期に落ち込む.もう一つは,Lombard Street Researchに出たChristopher Smallwoodの報告である.それは,公共投資にケインズ的な需要面の効果を指摘する.

イギリス経済の混乱を正すのは,ポンドの減価(による輸出増)だけでなく,むしろ政府による投資である.金融政策と財政政策で,もっと需要を増やすことだ.

BLOOMBERG Feb 21, 2013

South Korea’s Central Bank Chief as Policy Rebel

By William Pesek

韓国銀行のKim Choong Soo総裁は,世界がゼロ金利の通貨の洪水に沈む中で,社会化規格を提唱し,実践してきた.韓国銀行の儒教文化・長幼の順を破壊して若手を幹部に昇進させ,女性スタッフを重要ポストに就け,移民受け入れ拡大策を支持した.

移民政策まで中央銀行総裁が主張するべきか? 世界中で,政治家が問題を解決できないとき,選挙を恐れない公職としての中央銀行総裁が行動した.さまざまな危機と挑戦に直面する韓国も,そうである.


l  学術論文と情報操作

FP February 15, 2013

On writing well

Posted By Stephen M. Walt

学術研究論文はなぜ文章がひどいのか? 第1に,哲学のように,問題そのものが難しい.第2に,問題を探求するロジックと,理解したことを提示するロジックとを混同している.効果的な論述は,落ち着いて,全体の構造をじっくり考えなければならない.それは論理的で,構造として必然性を感じるものでなければならない.

しかし,学術研究論文がひどくなるのは,実は,別に理由がある.第1の問題は,若い研究者に多いが,分かりにくいジャーゴンなどを共有することを研究の深遠さと誤解していることだ.第2の問題は,間違いであることを恐れることだ.明晰な論述は間違いもすぐにわかる.逆に,曖昧な論述は間違いであるかどうか分からない.彼らは批判を恐れているのだ.

学生たちに薦めるのは,Strunk and Whiteの古典(簡潔な文章を要求している),The Elements of StyleAnthony Weston A Rulebook for Arguments,である.そして,自分が尊敬する優れた論述をまねることだ.

結局,研究者が何を目標としているか,である.専門分野の業績,テニュア,サラリー,などであれば,ひどい論述も悪くないし,有益でさえある.しかし,研究のより広い世界に与えるインパクトを目指すなら,明晰で,効果的な論述でなければならない.

FT February 15, 2013

BB interviews…Noam Chomsky

By Matt Kennard

Chomskyは,the Wall Street JournalBusinessweekthe Financial Timesに載るレポートを称賛する.その意見は異なるが,ビジネス紙はより開放的で,自由である,と.特に,FTMartin Wolfのファンである,と述べた.

未来に対して,あなたが希望を持てることとは何か? ・・・ボリビアのような土地を見ることだ.おそらく人類にとっての最大の挑戦である気候変動について,世界各地を見れば,アメリカは世界1裕福であるが最悪の記録であり,ボリビアは南米で最悪から2番目の貧しい国だが,最良である.多数の先住民族がその活動の先頭に立っていることも注目できる.

そして,少し沈黙した後,Chomskyは述べた.・・・それは「自然の権利」と呼ばれているが,「生存の権利」と呼ばれるべきだ.


l  中国が世界No.1になるとき

FP FEBRUARY 16, 2013

Will China Ever Be No. 1?

BY GRAHAM ALLISON, ROBERT D. BLACKWILL

中国は世界第1の経済になるのか? アジアや世界で第1のパワーを得るのか? 日本のように,中国も西側の秩序に参加するのか?

正しい答は誰にもわからない.しかし,たった一人に訊くとすれば,それはリー・クアンユーだろう.彼の答えは,yes, yes, and noである.西側の秩序の発展に関わってこなかった中国が,その役割や参加資格,責任を問われることには同意しないだろう.

21世紀は中国の世紀であり,それは20世紀がアメリカの世紀であるのと同じだ.中国は急いでアメリカの地位を奪わない.繁栄を確保し,優れた技術や知識を得た労働者が世界中の物を作り,アメリカの軍事技術やハイテクの優位を奪ってからしか,軍事的な挑戦は行わない.

もしリーが正しければ,米中の対立はこの数10年で激化する.それが戦争を避けられるかどうかは,双方の指導者にかかっているが,1500年以来,そのような15のケースで11が戦争に至った.成功するケースになるには,双方の指導者が大きな調整を受け入れることである.

2013-02-16 (China Daily)

A trilateral cooperation of mutual gain

By Bhaskar Koirala

YaleGlobal, 20 February 2013

Vietnam’s Economy Needs Reoriented Foreign Policy

David Brown

Project Syndicate 21 February 2013

The Road to Asian Unity

Jaswant Singh

アジアには緊張を緩和する制度がないと嘆くことが多い.しかし,統一は舞台裏で進むだろう.国境を超えるインフラ整備である.

インドとパキスタンのバス路線開通,中国とベトナムの鉄道結合,インドとバングラデシュの道路建設,ミャンマー,パキスタンにおける新しい港やパイプライン.地域の製造業がサプライチェーンに統合される中で,新しい経済統合が形成される.

アフガニスタンとインドを結ぶ道路.トルクメニスタンからパキスタンまでのパイプラインが通るだろう.ベンガル湾における中国の港湾開発投資.雲南省南部とミャンマーを結ぶパイプライン.「マラッカ・ジレンマ」を解消するための中国の投資.中国とインドに挟まれたミャンマーのプラグマティズム.パキスタンの港湾整備はシンガポールから中国の手に渡った.中国の建設するパン・アジア鉄道.雲南省からバンコク,シンガポールに及ぶ.カンボジア,ベトナム,ラオスを経て昆明に帰る.2015年が完成目標だ.インドの道路も中央アジアに伸びる.

それは,中国の衛星国家を作るのか? 対等なアジア諸国の交流を促すのか? アジア統合において,指導者たちはパワーだけでなく,繁栄を目指す.


l  北朝鮮の核実験

Global Times | 2013-2-16

China needs to adhere to NK policy

FT February 17, 2013

View from N Korea is of a nuclear world

By Aidan Foster-Carter

北朝鮮は掩蔽壕から世界を見ている.攻撃されればされるほど,深く掘るのだ.

北朝鮮は核爆発によって生まれた.それは広島,長崎において爆発し,予想外に早い日本の40年に及ぶ植民地支配を終わらせた.アメリカとソ連は「一時的に」南北を占領したが,その分断は今日に及んでいる.

金日成はすべてを賭けて南への侵攻を試みたが,マッカーサー将軍によって反撃された.そのときマッカーサーは,北朝鮮とそれを支援する中国の軍隊に核兵器の使用を唱えて解任された.1975年にはシュレジンガー国務長官が,北朝鮮がサイゴン陥落を利用して南下することを牽制するため,核攻撃を示唆した.当時の韓国の独裁者,パク・チョンヒは,アメリカに阻止されるまで極秘に核兵器を開発しようとしていた.その娘が225日に韓国の新大統領となる.

北による核開発は,援助や制裁によって阻止する試みと挫折が繰り返されてきた.10年前,ジョージ・W・ブッシュ大統領は,「悪の枢軸」として北朝鮮を含めたが,それは若いスピーチライターが,語調を考えて,イスラム国家ではない国を求めたからであった.しかし,ここに言及された北朝鮮は核兵器の保有を強く望んだ.同時に,イスラエル,パキスタン,インドは核兵器を保有し,しかもアメリカからの援助を得ている.彼らはそう見たわけだ.

もはや北朝鮮に制裁できるような交流は西側にない.そして中国は北朝鮮の崩壊と難民の流入,韓国・アメリカによる核管理と吸収を恐れている.制裁するよりも,中国は貿易と投資を増やしているのだ.中国の指導部はそれを計算するが,インターネットには,「太った狂犬」としてキム・ジョンウンを嫌い,北朝鮮との同盟関係を否定する声が高まっている.

だからキム・ジョンウンは冷静になって,中国指導部の怒りをバランスできる範囲に抑えなければならない.核兵器で安全は得られない.

BLOOMBERG Feb 18, 2013

China’s New Leader Needs Grip on Wacko Next Door

By William Pesek

習近平は,北朝鮮に対する100%の支持を転換するだろう.北は経済改革を進めるべきだし,中国は韓国との関係を重視するし,中国は国際システムにおける地位の改善から大きな利益を受けている.北朝鮮の逸脱がそれを損なうようなことは許さない.

オバマは,一般教書演説で,核兵器ではなく,国際的な責務に従うことで繁栄や平和は得られる,と北朝鮮について述べた.同じことは中国にも言える.中国は北朝鮮を抑えることで,米中関係の新局面を示すチャンスを得た.

FT February 19, 2013

North Korea is testing China’s patience

By KurtCampbell

WSJ February 19, 2013

How to Answer the North Korean Threat

By JOHN BOLTON

212日の北朝鮮による3度目の核実験は,衛星を軌道に打ち上げてから数カ月後に行われ,北朝鮮が核武装国家の地位に非常に近付いていることを示した.

交渉によって北朝鮮の核開発を止められると主張していた者は,今,現実を受け入れ,抑止と封じ込めを行うべきだと主張している.制裁が無意味であったのに,北朝鮮が核兵器や核開発技術を輸出しないように制裁するべきだ,という.

軍事力の行使は,韓国民がそれを拒否する限り選択肢に入らない.彼らは,北朝鮮が韓国に核・化学・生物兵器で報復することを恐れているのだ.それは日本でも同じである.

アメリカの観点では,核が安全な諸国に拡散しても構わない.しかし,「核のない世界」を掲げるオバマ大統領は,これまでアメリカによる核の傘に頼ってきた日本や韓国,その他の諸国に疑念を生んでいる.また,アメリカが一方的な核の削減を行えば,逆に,核の拡散を刺激することを理解していないようだ.

明白な代案は,北朝鮮の体制を転換することだ.アパルトヘイト後の南アフリカ,ソ連崩壊後のウクライナやベラルーシは核兵器を廃棄した.それを実現する最善の道は,平和的に朝鮮半島を再統一することである.

中国は決して同意しない,と反対する者は言うが,北京は北朝鮮の核保有に公式に反対している.それはアジアを不安定化し,中国の経済発展を妨げるからだ.それでも食糧支援や人道援助を続けたのは,北朝鮮の体制が突然崩壊して,大量の難民が中国に向かうこと,あるいは,米軍が北側に入ることを恐れるからだ.

どちらの不安も誇張されている.第1に,アメリカ,韓国,日本の政府は,北朝鮮の体制が崩壊した後の安定化と支援によって難民が生じないように手を尽くすと約束するべきだ.人道的な観点でも,また南北統一を金体制崩壊後に計画的に行う意味でも,それは望ましい.

2に,米軍が鴨緑江にまで北上する必要はない.アメリカは軍事境界線の南にとどまるだろう.あるいは,どこであれ半島の南部に駐留し,アジア・太平洋に展開できればよい.それを中国の指導者は嫌うだろうが,(鴨緑江を越えるより)その方がよいと考えるはずだ.

最善の道は,中国を説得することだ.もし中国が同意しなければ,その結果が,日本や韓国の核武装であることを知るだろう.

Global Times | 2013-2-19

China's choice is to unleash or reel in a nuclear North Korea

By Lee Dong-jun

Project Syndicate 19 February 2013

The World’s North Korean Test

Christopher R. Hill


(後半へ続く)