IPEの果樹園2013

今週のReview

2/11-16

 

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移民自由化政策 ・・・ヨーロッパのアフリカ介入 ・・・トーマス・フリードマンの社会革命論 ・・・アベノミクスの正しい評価 ・・・新しい経済戦略 ・・・変貌する中国の可能性 ・・・オバマの新しい非戦争 ・・・小国の金融危機 ・・・ソーシャル・メディアとエジプト革命

 [長いReview]

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l  移民自由化政策

FT February 1, 2013

Balkan migrants

移民たちは,イギリスに働くために来るのであって,政府の給付を得るために来るのではない.政府統計によれば,労働年齢で給付を受ける移民はわずか7%でしかなく,イギリス生まれの市民の17%に比べて大幅に低い.また,彼らはイギリス人がしたがらない仕事(果物の収穫,食事の供給,ホテルの労働,老人介護施設など,労働不足が明らかな職場)を引き受けている.

イギリスは多文化社会の成功例であることを誇りにしている.2004年の自由化後にイギリスに来たポーランド人女性たちは,今やベビーブームを担っている.彼らは税金を支払うだけでなく,多くの子供を育てて,彼らが年金を支払ってくれる.

FT February 4, 2013

The folly of Britain’s immigration policy

By Robert Hahn

移民の流入が経済的繁栄に貢献することは,多くの証拠が示している.通念と違って,移民は地域の最底辺の雇用や賃金を下げるとは限らない.

なぜなら移民は,その出身国と受入国の両方で,富と雇用を増やすからだ.それは原理的には,自由貿易論,と同じである.著名な経済学者たちによるいくつもの研究が,もし労働者の自由移動が実現すれば,世界の産出額は倍増する,と示唆している.世界経済は70兆ドルから140兆ドルになるのだ.もしあなたがイギリスの移民規制を徐々に緩和すれば,資本ストックの増加が,労働生産性の上昇により,賃金へのマイナスの影響を大幅に減らすだろう.


l  ヨーロッパのアフリカ介入

FT February 7, 2013

Intervention: the US won’t, Europe can’t

By Philip Stephens

オランド政権は,マリにおける軍事介入に際して,アメリカのオバマ政権が,当初,なかなか支持しなかったことを不満に思っていたのだ.少し前まで,ヨーロッパはアメリカの軍事力をどうやって抑えるかに腐心していたのだが,今は,オバマ大統領がそれを出し渋ることを嘆く.フランス軍がマリのイスラム主義兵士と戦っているのに,アメリカの大統領は国民に「戦争の時代は終わった」と述べている.

リビアやマリへの軍事介入は,ヨーロッパの軍事力が世界の治安維持の一翼を担う,アフガニスタン後の大西洋同盟を示すのか? 現実には,ヨーロッパに介入の意思はあっても,その手段が無い.紛争と治安を欠く地域が拡大する中東と北アフリカにおいて,アメリカは意志を欠き,ヨーロッパは軍備を欠く時代に,我々は生きている.

FT February 7, 2013

Mali is just the latest example of failed western thinking

Jeffrey Sachs

欧米諸国が,アフリカから中東,西アジア,中央アジアまで,軍事活動を展開しつつある.そこには2種類の介入目標がある.一つは石油資源のある国,もう一つは(テロ集団の拠点となる)破綻国家である.

経済的.社会的な発展なしに,こうした地域で真の安定化は不可能だ.携帯電話や情報の普及,出産抑制など,新しい手段がこの10年で現れている.しかし,それを実施する財源が無い.西側政府は,戦争のための予算に上限を設けない一方で,こうした経済・社会改良の手段にはほとんど予算を割こうとしない.


l  トーマス・フリードマンの社会革命論

NYT February 2, 2013

The Virtual Middle Class Rises

By THOMAS L. FRIEDMAN

歴史的に,民主的革命は中産階級の登場によって起きた.その中産階級とはある一定の所得水準,たとえば,年1万ドルの所得を満たす社会集団だ.彼らは衣食住についての心配が要らなくなって,市民として扱われること,自分たちの将来に関する発言力,などを求めた.

ここに重大な変化が起きた.携帯電話やタブレット型コンピューターの普及は,強力かつ安価な情報交換を可能にし,人々の連携と教育のコストを,この10年間で,劇的に引き下げたのだ.インド,中国,エジプトの,非常に多くの人々が,所得水準と関係なく,まだ1日数ドルの所得しかなくても,かつては中産階級しか手が届かなかったような情報や教育の機会を得ている.

それゆえインドには,現在,3億人の中産階級だけでなく,3億人の仮想的(ヴァーチャル)中産階級が存在する.彼らはまだ非常に貧しいが,権利,道路,元気,不正の無い選挙,グッド・ガバナンスを要求している.インドには9億台の携帯電話があり,中国には4億人のブロガーがいる.そのうえ,私はニューデリーで社会起業家たちに紹介された.それらは驚嘆すべき活動である.

NYT February 5, 2013

India vs. China vs. Egypt

By THOMAS L. FRIEDMAN

インドに行けば,中国との比較を求められる.そこで,エジプトを加えよう.弱い中央政府と強力な市民社会を持つインド.選挙や市民の連合体が至る所にある.強力な中央政府と弱い市民社会しかない中国.そして,どちらも弱いエジプト.50年間の弾圧は,選挙によっても,唯一の自由な空間を組織してきたムスリム同胞団を勝利させてしまった.

この3つの国に共通するのは,30歳以下の若者が膨張したことだ.彼らは教育を受け,情報手段を持っている.

インド,中国,エジプトの中で,21世紀に繁栄するのは,この若者の集団を成功裏に「人口の配当」とできる国であり,それに失敗して「人口爆弾」に変える国は危機に直面する.若者たちに,優れた教育サービス,雇用機会,彼らの潜在能力を実現できるように社会を変える政治的発言力,を与えなければならない.


l  アベノミクスの正しい評価

FT February 5, 2013

Japan can put people before profits

By Martin Wolf

それは,日本経済を20年の停滞から救いだすのか? あるいは,通貨戦争とハイパーインフレの破滅をもたらすのか? 私の考えでは,どちらにもならない.

アベノミクスとは,財政刺激策,インフレ目標を2%にした金融緩和,構造改革の無視,という3つの要素からなる.

日本経済は,1.長期のデフレを続けている.2.財政赤字を累積し続けている.3.国債の利回りは1%以下である.4.経済パフォーマンスは悪くない.つまり,金融危機後の西側諸国に対して,日本経済は金融バブル破裂後の経済運営に関して,デフレの中でも成長できることを示し,国債を累積しつつも長期金利は上昇しない,という希望を与えることになる.

しかし,緊急ではないが,2つの危険がある.第1に,「キャッチアップ型成長」の機会は利用されないままになる.第2に,ある時点で,政府債務の維持コストが危険な水準に上昇する.国債のデフォルトか,間接的な形で,ハイパーインフレに向かうだろう.

問題は,Andrew Smithersが示すように,民間部門・企業の過剰貯蓄である.企業は投資する以上に収益を挙げている.これによるデフレと需要不足を補うために,政府は財政赤字を続けてきた.日本は戦後のキャッチアップ型成長を企業の活発な投資によって実現したが,1980年代から企業は投資できなくなった.すでに過剰な投資をしてしまい,人口の減少が続く日本で,アメリカよりも30%も多い投資は再現できない.それにもかかわらず,政府はバブルを刺激し,またバブル破裂後は財政赤字で需要を維持してきたが,企業の過剰貯蓄は放置している.

企業の貯蓄を減らすような改革を行い,賃金の上昇によって経済の需給バランスを回復し,財政赤字に頼らないことだ.


l  中央銀行のフロンティア

FT February 6, 2013

Helicopter money and supply-siders

退任するイギリス金融サービス庁の長官Adair Turnerが,タブーを破って,「ヘリコプター・マネー」(一方的な新貨幣の創出)を実行する条件を議論した.それにより,他の刺激策もインフレ的であること,イギリス経済が停滞するとは限らないこと,イギリスが外国からの資本移動に常にさらされていること,などを考察できる.

財政政策と金融政策の論争は,生産性を高めない成長は持続しない,という点を見失わせる.


l  新しい経済戦略

YaleGlobal, 4 February 2013

Nations Can Try Promotion – Not Protectionism

Anthony P. D’Costa

グローバリゼーションの中でも,国家は国民の福祉を守らねばならない.特に,グローバルな市場競争がもたらす国内の不安定性や不平等は,国家が介入によって緩和しなければならない.それは積極的な「経済ナショナリズム」である.

かつてナショナリズムは国内市場を保護したが,グローバリゼーションにおける経済ナショナリズムは,経済的な挑戦を支援し,無視されている社会的側面を補うものである.それゆえ経済ナショナリズムは,その成功例を示した中国やBRICs,東アジアが示すように,市場を保護するのではない.むしろ,自国の企業や独自ブランドを育て,グローバルな市場統合を促進する.

こうしてグローバリゼーションの時代にも,国民の教育システムや健康状態を守り,自分たちの尊厳を維持するナショナリズムの使命はなくならない.

WSJ February 5, 2013

Robert Zoellick: A New U.S. International Economic Strategy

By ROBERT B. ZOELLICK

アメリカ経済の復活は,それ自身のためであっても,アメリカ国境の中に収まるものではない.アメリカがそのパワーと原理を示す外交政策は,登場しつつある経済秩序の中に基礎を据えねばならない.

オバマ大統領はロナルド・レーガンの転換をもたらす思考を称賛した.レーガンは新しい国際システムを前進させることで,1970年代の石油ショックやスタグフレーション後の資本主義の復活をもたらし,1980年代のアメリカの成功が,ソビエト連邦に変化を迫り,冷戦終結に貢献した.また20年間のグローバルな高成長を実現した.


l  変貌する中国の可能性

FT February 4, 2013

Foxconn’s unions

抗議,暴徒,自殺.Apple製品の主要な生産者であるFoxconnが,その労働条件の改善を要求する労働者たちに,組合の代表を選挙で決めることも受け入れた.それは前進であるが,共産党指導部のプラグマティズムに従うものだ.政府は,労働者たちの不満を工場内にとどめて,街頭での抗議活動になるのを避けたい.

都市化のもたらす社会問題,労働力不足,低成長に対して,共産党は国民の不満を恐れ,ガス抜きをしている.限られた自由選挙(選出された代表は国家の組織が承認する),ソーシャル・メディアの拡大(検閲システムを備えた表面的な寛容さ),腐敗撲滅の運動.

FT February 6, 2013

Foxconn union heralds end of cheap era

By DavidPilling

鄧小平の「先冨論」から30年を経て,それがもたらした所得格差を縮小する一つの方法は,人々に新しいこと,すなわち,投票を許すことだ.

Foxconnの会長Terry Gouは,今年から,雇用する120万人の労働者たちに組合の代表18000人を決める投票を許した.公正な選挙であることを保証するため,アメリカの団体the Fair Labor Associationが監視する.労働条件の改善,特に,自殺が続いて企業イメージを損なったことに対して,このような新しい方針を示したのではないか.

その一つの結果は,賃金上昇である.すでに組合が無くても賃金は急速に上昇しつつある.中国の競争力を支えた新規労働者の無限の供給という条件が失われたからだ.昨年,中国の労働人口は減少した.

高賃金は,中国国民が支配層の裕福な人々,共産党政府に抱く不満を緩和するのに役立つだろう.習近平の主席就任を前に,共産党は格差解消や腐敗撲滅を推進している.しかも,経済的な意味で,高賃金により,中国の成長モデルの転換が避けられない.投資や輸出ではなく,国内需要,すなわち,労働者の支出にもっと依拠した成長が必要になっている.

すでに労働集約的な産業ではバングラデシュやベトナムなどへ工場を移転し始めている.ただし,中国製造業の優位は,低賃金がなくなっても,産業の集積や生産の弾力的な調整によって今後も維持されるだろう.

Project Syndicate 07 February 2013

Bretton Woods III

Sanjeev Sanyal

2008年の危機の前に,世界経済は「グローバル・インバランス」と呼ばれる国際収支不均衡を示していた.これが危機の原因の一つであったとしたら,危機によって不均衡は解消されたか? さらに,危機後の成長は不均衡を生じないだろうか?

歴史を見れば,経済発展にはこのような不均衡を恒常的に維持する共生関係が存在した.ローマ帝国,16世紀,17世紀のスペイン,エリザベス女王のイングランドとムガール帝国,そして,①870-1913年にはイギリスが世界の銀行になった.

過去60年間,アメリカは世界経済の成長を支えながら,経常赤字を続けた.ブレトン・ウッズ体制(BWS)の下では,欧州と日本が戦後再建をする中でアメリカの赤字が続く.欧州がアメリカの赤字を融資しなくなって,BWSは崩壊した.

しかし,その後のアジア諸国は,アメリカの経常赤字を融資し,成長を実現した.中国はこのBWSⅡ(“Bretton Woods II”)の最後の,そして最大の受益者である.今後,中国の経常黒字が再現する見込みが大きいから,BWSⅢ(“Bretton Woods III”)が再生し,次第に,世界のその他の地域に融資するようになるだろう.それは数年どころか,数10年も続く.

中国は,世界の工場から,世界の投資家になるのである.


l  オバマの新しい非戦争

WP February 6, 2013

U.S. needs a rulebook for secret warfare

By Jack Goldsmith

オバマ大統領はイラクとアフガニスタンから米軍を大幅に撤退させる.しかし,同時に,ドローンや特殊部隊による新しい戦争を拡大する計画だ.この新しい戦争には,新しい法的枠組みが必要である.オバマ政権は,過去の法律による薄い根拠の上で,国民の支持を理由に,この戦争を続けているにすぎない.

その枠組みは,特殊部隊を含め,大統領が戦時に何を極秘に行ったか,報告する透明な制度が無ければならない.また,将来の時期を設けて,経験から枠組みの再検討を議会が行う条項も含めるべきである.新しい戦争についての議論と合法性が,明確に示されねばならない.


l  小国の金融危機

Project Syndicate 05 February 2013

Austerity in Small Places

Daniel Gros

小国の金融危機と緊縮策について,何を学ぶべきか? 

Paul Krugmanは,LatviaGDPが危機前のピークから10%以上も減少したことを,「緊縮財政・賃金引き下げ」アプローチの失敗を示すもの,と主張した.他方,Icelandは緊縮策を拒んで,通貨を切り下げ,GDPの減少は小さく,回復も早かった,という.しかし,危機の最初に厳格な緊縮策を採ったEstoniaは,金融危機を回避し,今は力強く成長している.また,Greeceは緊縮策を延期し続けて,深刻な危機を経た上に,まだ回復の見込みがない.

Latviaが大幅なGDPの減少を経験したのは,危機前に,経常収支赤字が示すように,そのGDPが消費ブーム,建設ブームで膨張していたからだ.バルト海諸国と,大恐慌や現在のアメリカとを比較するのも間違いだ.前者に起きたような資本流入の突然の停止は,アメリカで起きていない.現実のGDPと潜在的GDPとの差を見なければならない.

Latviaは緊縮策を経て潜在的GDPの水準に近付いているが,Greeceは緊縮策が遅く,潜在的GDP12%も下まで生産が落ち込んでいるのに,まだ減少し続けている.Icelandの通貨価値切り下げは,輸出が資源(魚とアルミニウム)に偏っていたので,(外貨建輸出価格の低下は)それほど重要ではなく,むしろ世界需要が維持されたことで景気回復できた.そして,地球温暖化のせいで,ニシンがアイスランド沖に北上したことが,回復に有利であった.

Icelandは緊縮策を拒んだ優等生(看板娘)ではない.これほど開放的な小国では,緊縮策を取らないと景気回復は輸入を増やし,すでに過剰に累積した債務を増やすことになる.Icelandの債務/GDP比率は1005以上であるが,Latvia42%である.その差は,銀行救済のコストなど,初期条件の違いによるが,その後の財政赤字を管理したLatviaが債務を抑えられた.Icelandの巨額債務は将来の成長を損なうものだ.

たとえ緊縮策を避けても,財政的・対外的な持続可能性を回復する問題は避けられない.


l  ソーシャル・メディアとエジプト革命

FP February 7, 2013

Twitter Devolutions

BY MARC LYNCH

ソーシャル・メディアが示す革命後の影響を評価しなければならない.

1.誇張される傾向,2.抗議運動を動員するのに適し,政党の組織化には向かない,3.危険な両極分解を促す,4.一つの物語を生むことにも,それを失わせることにも,強力に作用する,5.積極的な考えと同様に,宗派争い,恐怖,憎悪,など,マイナスの感情を広める.6.体制側からの破壊的な介入を招く,7.プラスの言論を共有したエジプトと,マイナスの恐怖と映像を広めたシリアとの違い.8

ソーシャル・メディアは,情報と言論の独占を打ち破ることで,アラブの政治空間に革命を起こした.多様な発言を可能にし,情報を広める力はプラスに働く.しかし,それがマイナスに作用する局面を,我々は考える必要がある.

Project Syndicate 07 February 2013

The Information Revolution Gets Political

Joseph S. Nye

エジプトの「アラブの春」が2周年を迎え,悲観論が強い.しかし,革命は数カ月や数年で実現するものではない.数10年にわたって,予想外の事件が起きる.フランス革命が始まったとき,その結末を予想した者はいない.

これまでは,アラブの王族たちの生存を確保するに足る権力の正当性,財源,強制力が続いている.ムバラクやカダフィのような大衆蜂起による体制の瓦解を避けている.しかし,革命が起きて,まだ2年でしかない.

情報革命が21世紀の政治権力をどのように変えるのか,まだ誰にも分からない.最も強力な体制も,かつてのように,情報を管理できない時代に,国家は生きている.グーテンベルグの印刷術もそうであったが,いつの時代も権力者は情報を管理し,こうした情報革命が起きるのを弾圧した.しかし,今日の情報手段は余りにも多数の人々に普及している.

情報は,劇的な形で,安価に,かつ,スピーディーに広まるようになった.コンピューターの能力は,30年間にわたり,18カ月ごとに倍増した.そのコストは1970年代初めに比べて,1000分の1になった.

その結果,世界政治の変化は,もはや国家によって独占されない.個人や民間団体(WikiLeaks,多国籍企業,NGOs,テロリスト,など)が直接に影響を及ぼす.官僚制を支えた情報の独占は終わった.

しかし,情報・技術革命だけで新しい変化が決まるほど,政治や権力は単純ではない.情報技術が注目されたとき,ジョージ・オーウェル『1984年』のように,それが体制によって利用されることを人々は恐れた.その技術は体制による情報管理・操作,秘密警察の仕事にも役立つからだ.イランは「グリーン革命」を破壊し,中国は情報における万里の長城を築いた.

規模は重要でない.世界政治にますます多くのアクターが登場する.その未来を予想することはできない.エジプトは,まだその端緒でしかない.

Project Syndicate 07 February 2013

Egypt’s Economic Siren

Mohamed A. El-Erian

エジプトの移行過程を考える上で,4つの国が参考になる.すなわち,マンデラPresident Nelson Mandelaの南アフリカ,ルーラ・ダ・シルバPresident Luiz Inácio Lula da Silvaのブラジル,そしてインドネシアとトルコIndonesia (after the Asian financial crisis of 1997) and Turkey (after its 2001 crisis)である.

マンデラは,大衆の気分を報復から国民的再生に転換した.エジプトの指導者たちは,マンデラの「許すけれども,決して忘れない」という姿勢を学ぶべきだ.前進のために協力することができる.また,ルーラ・ダ・シルバの行った基本的な改革が,どれほど多くの貧困や不平等を減らしたか,学ぶべきだ.それは敵対するグローバルな環境で,投資が逃げ出すような条件でも,実現した.インドネシアとトルコは,イスラム教徒が多数を占める国家が経済危機(1997年アジア通貨危機,2001年トルコ経済危機)を克服し,政治改革に成功したケースである.

混乱が続くほど,政治エリートは国民の希望や支持を失う.国民は,パンと,尊厳と,社会正義,民主主義を求めている.開明的な指導者と建設的な協力があれば,エジプトは問題を解決できる.しかし,急ぐことだ.

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The Economist January 26th 2012

Afghanistan?

Britain and Europe: The gambler

China’s population: Peak toil

Schumpeter: Davos Man and his defects

Monetary policy in Japan: Win some, lose some

Free exchange: Vive la différence

(コメント) 記事は,ソマリア,スーダンから,チャド,マリまでが,新しいイラクやアフガニスタンとなって,大きな戦争が広がっている,という見方を否定します.紛争の起源は貧困や政治経済危機であり,それを改善し,繁栄に導く政策を実行しなければなりません.他方で,紛争を起こす武装勢力は早期の介入で制圧できます.

日銀の金融政策は,アベノミクスと喧伝されるほど変わっていない,と指摘します.重要なのは,むしろ政府の経済改革政策である,と.他方,Avinash Persaudによるユーロ圏の銀行同盟,金融監督の統一に対する批判は重要です.異なった経済条件を単一の金利で対応できないからこそ,各地の金融行政・監督には弾力性が必要である,と主張します.ドイツは,自分たちが金融危機を回避できたことで,同じ金融監督をEU全体が採用すればよい,と誤解しているのです.

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IPEの想像力 2/11/13

世界恐慌についてキンドルバーガーが述べたように,指導的国家(諸国)には,国際システムを安定化するための積極的な行動を求められるときがあります.イギリスはその意志を持っていましたが,能力を欠き,アメリカは能力を持っていましたが,政治的意志を欠いた,というのです.国際安全保障についても,同様の困難があるようです.Philip Stephens は,現在のアフリカや中東における不安を,”the US won’t, Europe can’t” という言葉で示しました.

国際通貨・金融システムは,金融問題の深刻さやスピードと,その緊密な相互関係において,国際システムにおける覇権国の役割を強く意識させる分野です.主要諸国間で平和が維持されているにもかかわらず,同じような考察が安全保障において示されるという点に,軍備の拡散や,非政府の武装集団,攻撃や影響のスピード,などを感じます.国際システムの性格,その局面が,大きく変化し続けているわけです.

・・・期待に反して,北朝鮮が3度目の核実験をしました.北朝鮮に関して,一体,何に期待できたのか? 中国の反対と,市場改革の進展です.中国は北朝鮮に制裁を行う能力があります.また,驚くような市場改革の進展をThe Economistが伝えています.それは,すなわち,新しい蓄財や外貨の流通,情報の流入,汚職,など,北朝鮮の管理体制を深く動揺させずにはおかないでしょう.

北朝鮮のような,小国の安全保障にまで核武装が現実性を増しています.同時に,アメリカなど,国際システムを担う諸国は,軍事介入や戦争のコストを嫌って,諜報活動や特殊部隊,ドローンによる暗殺,経済取引を利用した市場かく乱の脅迫,情報ネットワークや金融市場,原発を狙ったテロ攻撃,など,新しい<戦争>のフロンティアを開拓し,急速に軍備?を拡大しています.

・・・予想に反して,安倍首相の支持率は急速に上昇し続けています.予想とは,安倍氏がナショナリズムを煽る,対中・対北朝鮮強硬派の,愛国心教育や憲法9条改正論者であるから,尖閣諸島や竹島の紛争が激化し,アメリカからも抑制を求められて,国際政治の孤立国になってしまう,というものです.そうならなかったのは,安倍氏が自制し,中国やアメリカが様子を見ているからです.アベノミクスを通貨市場や債券市場が見ているように.

こうした市場の監視を無視して,日本政府には中国と戦争する意志があるのでしょうか? しかし,能力はない? アメリカには能力があるけれど,意志が無い? 安倍氏には,戦争や外交というものを,新しい視点で組み替える能力が必要でしょう.拉致問題の解決のためにも,日本は歴史認識の問題で韓国,中国と一致して前進する方針を見出すことです.そして,北朝鮮で体制が崩壊しても,さまざまな危機を次の東アジアの秩序が受け止める制度的能力を高めるために行動することです.

・・・どのような政治的弾圧も崩壊するときが来る.・・・核兵器では体制崩壊を防げない.・・・日本を守るのは,国連安保理,アメリカや中国,国際社会・世論という曖昧な正義ではない.

エジプトの革命は,北朝鮮について何を教えるのでしょうか? グローバルな市場圧力と,情報通信革命は,いよいよ北朝鮮にも及ぶでしょう.冷戦体制からはみ出した,破綻国家への移行が始まると思います.誰かが,北朝鮮にも,食糧を支援するだけでなく,繁栄と尊厳,自分たちの未来を変える政治的発言力を持つべきだ,と呼びかけるときです.

グローバルな情報・政治空間が地殻変動を生じているなかで,国際システムを築く意志と能力を高めるために,指導者たちは競い合います.

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