IPEの果樹園2013
今週のReview
2/4-9
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アメリカの財政政策とブキャナン ・・・ガイトナーの時代 ・・・アメリカの外交方針を探す ・・・エジプト革命とヨルダン ・・・安倍内閣の問題点 ・・・円安と通貨戦争 ・・・イギリスのEU離脱とハーシュマン ・・・中国と封じ込め ・・・国境のない社会契約
[長いReview]
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l アメリカの財政政策とブキャナン
Project
Syndicate 27 January 2013
Taming
Leviathan
Michael Boskin
最近亡くなったJames M.
Buchananは,公共選択論を開拓して1986年のノーベル経済学賞を受賞した.政府すなわち政府職員は,エコノミストたちが民間部門の経済的意思決定について分析するモデルをそのまま適用できる.彼らも利己的な動機で動くのであり,政治家にとっては再選されることが目標だ.市場の失敗を解決する理想的な政府の行動など存在せず,むしろ,政府が問題を悪化させること,政府の失敗の方が深刻な結果になる.
民間主体の行動の外部性を内部化する,景気変動の需要不足を補う.経済学の教科書はそう教えるが,政府の行動はそれほど単純ではない.それにもかかわらず,政府を理想化する,もしくは,ロマンティックに扱うのは間違いだ.現実には,政治家の判断は財政赤字を増やし,債務を増やす方に偏り,結局,ますます政府が肥大化する.
政府のあらゆる活動分野で,もっと低コストに,より良い結果をもたらすことができる,と右派も左派も考えている.効果のない政府支出を廃止し,近代化や経費節減に努め,サービスの改善や,成長を損なう高税率を抑える圧力をかける指導者を,われわれは見つけねばならない.
l ガイトナーの時代
guardian.co.uk,
Wednesday 30 January 2013
Tim
Geithner: a legacy of financial failure containment
Leo Panitch
1988年,ガイトナーは20代で財務省に入り,東京のアメリカ大使館に派遣された.Robert Rubin and Larry Summersの財務省国際部で昇進し,1998年,国際部長になった.その後,数ブロック離れたIMF本部に移り,政策局と政策評価の部長になった.2003年,ニューヨーク連銀総裁に指名された.いわゆる「財務省・連銀・ウォール街」連合体の枢要な地位に就いたのだ.
アメリカ国家のパワーの頂点を渡り歩いた経歴は,唯一,1950年代から80年代に財務省と連銀を行き来したポール・ボルカーのみが匹敵する.1990年代のガイトナーが果たした重要な国際的役割は,1960年代にボルカ―が築いたものである.それは世界の主要資本主義諸国から集まった政府スタッフたちが,「親密な環境で」各国政府の政策が国際金融市場にもたらす意味を議論することだった.
ボルカ―が取り組んだのは,ケインズ主義の時代のインフレ圧力がもたらす危機の官吏であった.他方,ガイトナーは,新自由主義の時代のグローバルな金融ビジネスがもたらす浮動性・脆弱性がもたらす危機の管理であった.アメリカは巨額の貿易赤字と財政赤字を出しながら,ドルの価値はおおむね安定していたし,膨大な資本流入をウォール街と財務省に安定的に維持することができた.2007-8年に危機が及ぶまで,常に,金融の衝撃は他所で起きていた.
1990年代の重要な報告書で,財務省は21世紀のアメリカ金融について考察し,「破綻の防止」と「破綻の封じ込め」とを明確に区別している.金融システムを安全に保つよう金融機関の手を縛ることは,革新を妨げ,経済全体の甚大なコストをもたらすとともに,アメリカの金融サービスにおける指導力を潜在的に損なうだろう,と.金融の監督や規制は金融部門の拡大を支持すべきだし,それに不可避的に伴う金融危機は,もっぱら「破綻の封じ込め」によって対処するべきだ.
1997年にアジア通貨危機が始まると,国際部次官補として日本がタイ向けの融資を組織する会議に出席したガイトナーは,「超大国になった気分はどうかな?」と日本側スタッフに呼びかけた.しかし,日本の大蔵省が進めたアジア通貨基金案については,中国を含むアジア諸国に手をまわして,葬った.ビジネス・ウィークはそれについて「ワシントンが派遣したSWATチーム(狙撃班)」という記事を載せた.ガイトナーは,アジアがアメリカの帝国を浸食する試みは必ず阻む,という意志を示した.
財務省の国際部からニューヨーク連銀に移って,1998年のLTCM危機を「封じ込め」方式で解決した.そして2007-8年の大火災に際して,Henry Paulson財務長官,Ben Bernanke連銀議長とともに鎮静化を試みた.ニューヨーク連銀は,事実上,世界中央銀行として行動したのだ.アメリカの銀行に対してだけでなく,ドイツ,フランス,中国の銀行にまで,ドルを供給した.
l アメリカの外交方針を探す
Project
Syndicate 28 January 2013
Obama’s
Year of Iran
Anne-Marie Slaughter
2013年はイランに関して決断する年になる.すでに特命チームを派遣した,と伝えられている.国務省や国防総省の軍人たちが加わっている.
オバマは「核のない世界」という目標を一貫して掲げてきた.ブッシュ政権が,インド,イスラエル,北朝鮮,パキスタンの核保有を是認したことに対して,オバマはそれを許すなら,世界の30~50か国が核保有し,核戦争の危険を受け入れがたい水準に高めてしまう,と考えている.
軍事力行使と外交とは,全く異なる,対立した選択肢ではない.オバマはイランへの外交交渉に全力を挙げるが,それが失敗したとき,2013年はイランとの戦争の年になるだろう.それを回避するために,トルコやブラジルが仲介して,イラン政府に政治的なメンツを保つような条件を示すことも有効だ.
Project
Syndicate 31 January 2013
America’s
New Progressive Era?
Jeffrey D. Sachs
1981年にRonald Reaganが大統領に就任したとき,有名な宣言をした.「政府は我々の問題の解決ではない.政府が問題なのだ.」
32年と4人の大統領を経て,Barack
Obamaの就任演説では,アメリカが(そして世界が)立ち向かう緊急の諸問題に対して政府がより大きくなることを肯定することが宣言された.一つの時代が終わったのだ.
レーガンの宣言は,貧者,環境保護,科学技術に対する,右からの革命だった.大統領は政府を使って社会問題を解決するのではなく,富者のために減税した.「レーガン革命」の要素は,1.富者のために減税する,2.教育,インフラ,エネルギー,気候変動,職業訓練に対する政府支出を削減する,3.防衛予算を大幅に増やす,4.軍施設の管理や監獄のような政府の基幹部分も含めて民営化する,であった.それは「自由市場」革命と呼ばれたが,実際は,裕福な特殊利益集団が中産階級と貧困層を攻撃する時代だった.
アメリカは中産階級の社会から,富者と貧者にますます分断された社会になった.かつて平均賃金の30倍の報酬を得ていた企業重役たちは,今や230倍の報酬を得ている.かつて環境破壊と闘う指導者であったアメリカが,今では主要諸国の中で気候変動を認めない最後の国になった.金融の規制緩和はウォール街を非常に裕福にしたが,その結果,詐欺,極端なリスク,無能さ,インサイダー取引により,グローバル金融危機を招いた.
しかし,新しい革新の時代を祝うのは早すぎる.議会にも,ホワイトハウスにも,既得権を守る,強力な保守派がいっぱいだ.彼らは候補者や選挙運動に対して途方もないドルをばらまいている.それでもオバマは政府を動かすべきだろう.地球を破壊から救い,技術進歩の利益を社会の全員に享受させ,持続可能な未来のために国民的,そして,グローバルな規模のインフラを構築するには,集団的な解決策が必要だから.
公共政策の実現はグッド・ガバナンスに欠かせないことだ.さまざまな課題に対して,賢明な,革新的,低コストで効率的な,政策を見出すべきだ.
l エジプト革命とヨルダン
WP
January 31, 2013
Arab
Spring’s hits and misses
By Fareed Zakaria
エジプトの革命は脱線した.アラブの春が失敗したことを議論する者たちは,以前の時代を懐かしむ.しかし,過去2年の事件は,憲法の重要性と優れた指導者が移行において決定的であると教えている.
エジプトとヨルダンは,改革の成否を対照的に示す.要するに,エジプトは自由化の前に民主化した.新秩序の最重要な要素は選挙だった.新政権,新大統領,新憲法を選挙で決めた.しかし,その結果は,エジプトで最も組織された勢力であったムスリム同胞団が勝利し,権力を得た.大統領も,25%の票でモルシを大統領にした.同胞団は憲法制定委員会を支配し,女性の権利や信仰の自由を否定した.安全保障を理由に,メディアの検閲を行った.大統領は,法を超える無制限の権力を得て,同胞団がこれを行使したのだ.
他方,ヨルダンは,その慎重な姿勢を批判されたが,国王が選挙への急進的な訴えを阻止した.その代わりに国王は,憲法改正のための委員会を指名した.委員たちは,ヨルダン国民や西側の専門家に,ヨルダンの政治システムをより民主的で社会を包摂するように改革する方針を諮問した.2011年9月,重要な改革の多くが実施され,国王の権力のいくつかは議会に移譲され,独立の選挙管理委員会,憲法審査委員会が設けられた.
選挙は,ヨルダンのムスリム同胞団によってボイコットされたが,有権者の70%が選挙登録し,56%が投票した.中東地域で最高である.国王や政府を批判する多くの候補者が当選し,12%が反対派のイスラム主義者であった.割当制のおかげで,女性が当選者の12%を占める.それは立憲君主制への移行の第一歩になった.
l 安倍内閣の問題点
FT
January 25, 2013
Wages
in way of Abe’s war on deflation
By Ben McLannahan in Tokyo
賃金が上昇しなければ,インフレを歓迎できない,と労働者は言う.アベノミクスの問題点だ.ガソリンの値上げなどが続き,消費は刺激されないだろう.政府は,法人税を下げて賃金やボーナスを増やそうと考えるが,経団連は,企業にそんな余裕はない,と応じないようだ.
WP
January 26, 2013
Japan
must face the past
By Jennifer Lind
世界のどこでも,真実を語り,罪を償うことは憤慨をもたらす.安倍晋三首相が慰安婦問題を認めた村山談話を見直すと表明したことに,日本の保守派は喜んだ.しかし,本当は,彼らが最も悔しく思うべきことだ.
日本の保守派は,国を愛することが戦前の罪を認めることで損なわれる,と考えている.だから,日本が行った戦争中の行為は西側諸国の拡大主義や人権無視と同じものである,と強調する.日本だけが特別な罪を犯したわけではない,というのだ.
その是非とは別に,こうした主張は,日本が戦後に達成した素晴らしい成果を無視して戦前の日本との同一性を強調するし,日本とそのアジアのライバル諸国との違いを見失わせる.民主的で,自由で,繁栄した,市民の福祉を重視する国家,国際機関や多国籍企業の経営で活躍し,芸術,科学,技術において世界に貢献し,平和的な外交と開発支援,被災地支援,平和維持に貢献する国家である,という優れた性格が軽視されてしまう.
北朝鮮や中国のナショナリズムを刺激し,また,中国の台頭に警戒するアジア諸国と日本との協力関係を損なうだろう.
WP
January 26, 2013
Political
climates in Japan and China ratchet up island dispute
戦争の10年を終わらせる,と約束したオバマが,東シナ海の岩礁をめぐって,中国と日本の戦争に巻き込まれるとしたら,愚かなことである.
アメリカは,クリントン国務長官が日本の防衛に関与する責任を尖閣諸島にも及ぶと認めた.それは,オバマが中国との軍事衝突を覚悟するか,アジア旋回を断念することを意味するだろう.
安倍首相は,アメリカの支援を得て,中国との対話を進め,帰属問題とは切り離して,尖閣問題を先送りするべきだ.
l 円安と通貨戦争
FT
January 25, 2013
Currency
wars are best fought quietly
By Niall Ferguson
1930年代の通貨戦争は,誰が口火を切ったか,はっきりしている.イングランド銀行の金本位制離脱である.そして,Barry Eichengreenは,その行動を不況脱出のために必要だった,と称賛している.イギリスの輸出を伸ばす以上に,金融緩和の自由を得たのだ.
現代では,1971年にニクソン大統領が金本位制の遺構であるドルと金兌換を否定して,変動相場制になっている.つまり,もう40年間も,すべての国がすべての国と通貨戦争を日常的に許されているのである.
キャメロン首相は,EU離脱の国民投票を約束し,注目されない形で,ポンド安を推進している.日本政府はそれを学ぶことだ.
l ソマリアとマリ
NYT
January 25, 2013
Hope,
and Lessons, in Somalia
1993年,首都モガディシオで,アメリカのブラック・ホーク(戦闘型ヘリコプター)2機が撃墜され,アメリカ兵18名が殺害されて以来,ソマリアは破綻国家であった.世界最貧の,最も暴力的な,武装集団が支配する,飢饉と盗賊団が襲う国の一つである.
しかし,その国にも前向きの変化が起きて,先週,Hassan Sheikh Mohamud大統領を迎えて,オバマ政権は20年ぶりにその政府を承認した.このケースは,マリに関する西側の指針になる.
Mohamudは安全保障の統治制度構築から始めた.公共サービス,司法,財政改革が伴った.ソマリア難民やトルコなどが投資し,各国の大使が帰還した.何よりも治安状態が回復しなければならなかった.それには,Al Shababなどの武装勢力を首都や主要都市から排除するため,アメリカ政府は,この6年間に,6億5000万ドルをAUを通じて支援した.さらに数百万ドルの人道支援,開発支援をソマリア向けに行った.
なお政府は弱く,事実上,軍隊は存在しない.ケニアとウガンダの軍隊が引き揚げれば,ソマリア政府も消滅するだろう.競合する戦闘グループや部族を和解させなければならない.
l イギリスのEU離脱とハーシュマン
Project
Syndicate 25 January 2013
Brexit,
Voice, and Loyalty
Harold James
Albert Hirschmanの“exit, voice, and loyalty”を使って,EUやイギリスの離脱“Brexit”を理解することができる.多くの市民は,EUの決定に十分な影響力Voiceを持たない,と感じており,それがEUへの忠誠心Loyaltyを損なっている.
Hirschmanがこの問題を発見したのは,西アフリカの貧しい列車に乗ったときだ.社会システムが住民に離脱Exitの機会を与えると,その効率はさらに悪化する.むしろ望ましい解決策は,住民に留まるよう求めLoyalty,システムを改善するために彼らが要求することVoiceを実現するインセンティブを与えることだ.彼は東ドイツの崩壊をこのモデルで説明した.
キャメロン首相は,EU離脱の可能性がある,と公言した.国家は孤立するのを嫌う.だから各国の制度や価値は近隣諸国と似てくる.忠誠心の醸成にはダイナミックな過程が働くのだ.EUは拡大を続け,アメリカは世界の民主化を唱えている.
イギリスがEU離脱を選択可能だと感じるのは,それに代わる魅力的なモデルがあるからだ.かつての植民地で,同じ英語を話すアメリカがそれである.イギリスは,このモデルを使って,EU改革にアイデアを採用させることに成功した.1980年代半ば,サッチャー首相はイギリス的な規制緩和モデルを採用させて,欧州単一市場を実現した.
しかし,その後,グローバル化した世界をダイナミックに生きるはずであったアメリカ・モデルは,深刻な金融危機に至り,エンゲイジメントと民主化要求はイラクやアフガニスタンで悲惨な結果につながった.
アメリカはイギリスからの誘惑を嫌っている.アメリカにとって魅力的なヨーロッパ市場を閉ざして,イギリスの島々を優先する気持ちなどないからだ.これではシェイクスピア風の喜劇である.
l 中国と封じ込め
NYT
January 25, 2013
Work
With China, Don’t Contain It
By JOSEPH S. NYE Jr.
日中間の戦争を警告するのは早すぎる.アメリカは中国に対して封じ込め政策を採るべきではない.クリントン政権時代,われわれは封じ込め政策を2つの理由で拒否した.封じ込め政策は中国を敵にしてしまうし,中国を友好国として扱うことで将来の平和をもたらすことができるからだ.
ケナンは外交を軍事問題に限ることに反対した.それは中国の側に,包囲された,脅かされたという不安を生む.世界の2大国が協力することは,多くの分野で双方に利益をもたらす.
中国はますます中東からの石油に依存するだろう.われわれは中国を含む諸国の船舶に対して自由航行を保証する規制の問題で,中国と協力できる.国内のシェール・ガス開発でも協力できる.日中が2008年の海底資源合同開発計画を再開することにも,中国のTPP参加にも協力できる.
封じ込め政策は中国に対して有効ではない.アメリカのパワーは,他国と協力することによっても高められる.
FT
January 28, 2013
Beijing
still prefers diplomacy over force
By Graham Allison and Robert Blackwill
中国の考えを知りたければ,Lee
Kuan Yewに勝る戦略家はいないだろう.Leeは,鄧小平から習近平まで,中国のすべての指導者と最も長い時間をかけて対話し,ニクソンからオバマまで,アメリカの歴代大統領とも会った人物だ.
Leeの意見では,中国と領土紛争を高めたフィリピンとび本から中国向けの輸出額は,それぞれ20%,16%,減少したことは,未来を予告したものだ.13億の市場にアクセスすることができるのは,中国政府との対立を回避する国だけだ.
中国は,ドイツや日本のような失敗は犯さない.アメリカが技術的・軍事的な優位を維持しているときに,アメリカとの戦争を始めるつもりはない.攻撃されない限り,尖閣諸島での衝突も避けるだろう.外交的な対立にとどめるはずだ.
l 国境のない社会契約
guardian.co.uk,
Tuesday 29 January 2013
One
Nation: One World – and an end to absolute poverty by 2030
Ivan Lewis
コンゴ民主共和国のゴマで,武装集団にレイプされ,家族全員を殺害された女性に会った.18歳の男性は,未来への希望を2つの言葉に表した.・・・平和と職場がほしい.
次の20年間に,われわれの抱負と成果は,各国の最貧困層20%がどうなるか,紛争にまみれた諸国の悲惨な状態がどうなるか,によって測ることができるだろう.労働党の新しい開発思想は,新しい「国境のない社会契約"social contract without borders"」として表現できる.社会正義には,不平等をなくし,人権を守ることが含まれている.その実現には国境が無い.ガバナンスの改善には,援助供与国も,企業も,国際機関も関係している.
われわれの測定可能な目標とは,2030年までに世界から絶対的貧困をなくす,というものだ.われわれは一層の相互依存と緊密に結合した世界で生きている.貿易,雇用,移民,生活費,気候変動,安全保障,すべてが国境を超えた要素に依存し,一国では解決できない.われわれは,グローバリゼーションが少数者のためにではなく,多数者のために役立たねばならないと考える.21世紀において,イギリスの愛国者であるとは,国際主義者であることだ.
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The Economist January 19th 2012
Offshoring: Welcome home
The Senkaku/Diaouyu islands: Dangerous
shoals
China and Japan square up: The drums of
war
Testing education: Pisa envy
Buttonwood: War games
The other type of mobile money: Airtime
is money
Free exchange: The voice of public
choice
(コメント) バラバラですが,重要な話題が並びます.オフショアリング(工場の海外移転)が終わり,逆転し始めました.本当に? 尖閣諸島・釣魚島をめぐる日中間の対立は戦争勃発を予感させる.まさか? ・・・
他方,教育の成果を国際比較するOECDの試みは,教育による経済成長を願う諸国に刺激となります.フィンランドと韓国,香港が,ともに高い成果を示しているとしたら,全く共通しているように見えない教育システムについて,さまざまな考察を呼ぶでしょう.
日本の安倍が始めた,と名指しされた「通貨戦争」ですが,サッカー観戦の集合的な誤謬として非難されるだけでなく,最後は諸国のインフレ恐怖を前提に通貨切り上げを実現する,集団謀議という解釈に至ります.また,アフリカで始まった携帯電話の利用時間Airtimeを売買する疑似貨幣の利用には,何か,言葉に詰まるものがあります.
James
Buchananと公共選択論に関する紹介が興味深いので,エッセーに取り上げます.
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IPEの想像力 2/4/13
今週のReviewを作成する中で,HirschmanとBuchananの訃報と業績紹介を読みました.それらに刺激された,私の個人的な印象を書き留めます.
A.O. Hirschmanが示した,“exit, voice,
and loyalty”に拠って,Harold
JamesがイギリスのEU離脱問題を解釈しています.イギリスがEUから離脱するのを認めてしまえば,非効率なシステムを改善するより,もっと効率の良いシステムに移った方が良い,という個人の選択に流されてしまいます.かつて東ドイツや,ソ連に支配されていた社会主義圏の諸国がそうであったように.しかし,ヨーロッパの政治文化に懐疑的なイギリス国民にも,EUへの忠誠心を高める方法があるはずです.EUの改革に向けて発言し,指導力を発揮せよ,とトニー・ブレアはキャメロンに求めます.
社会システムを失った個人の選択は,非効率なシステムの下でよりも,いっそう悲惨なものになります.ヨーロッパ諸国やアメリカに移住して成功できる,ごく少数の,例外的な英才や資産・情報の保有者,新しい土地に有力な縁者のいた者でも,成功は容易でなかったはずです.それを助ける移民制度の改革は,まだ,議論もされていません.
国家も,老朽化した鉄道システムと同じで,常に,革新のための新投資が必要です.国家や制度の改革は,1回きりの革命で決まるのではなく,継続するダイナミズムが重要です.改革が次の改革を呼び,その過程に参加する者の政治的意志を高め,波及します.
J.M. Buchananは,それとは反対に,政府の役割を市場に対する補完として限定的にとらえることで,本質的な考察を得ます.政策を実行するのも人間だ,という点です.市場が支配的な民主主義型政治システムの下では,彼ら(政治家・政府職員)が政策を実行する際に,自分が再選されること,個人所得の増大を目標とします.
不況を回避するために財政赤字が正当化されると,国債を増発することへの抵抗が失われ,好況期にも,政治家たちは再選のために政府支出を削りません.環境保護のために外部性を内部化するには,規制や課税が主張されます.しかし,それらはレント・シーキングや収賄・汚職を増やすでしょう.市場の失敗を正すには,政府の失敗がそれを悪化させる危険にも注意しなければなりません.
政府を理想化するな,とBuchananは主張したそうです.政治に解決できることは,それに関わる個人の動機や制度によって制約されており,政府は「魔法の杖」ではない.政策や計画の見直しは常に必要であり,その効果を高めるような「憲法」を定める人々と,利益やイデオロギーを代表する政治家とは,区別しなければなりません.
アラブの春に関して,エジプト革命よりもヨルダン国王の立憲君主制への改革を優れたモデルとして再発見したF. Zakariaの論説があります.彼も,エジプト(やリビア)の革命,(ガザの)選挙(そして,イラクやアフガニスタンへの軍事侵攻)が,優れた政府の設計(ガバナンス)をもたらさなかった,と指摘します.むしろ,旧権力システムを維持し,外部からの意見を取り入れて,社会制度の改革を採用したヨルダン国王の方が,より多くの国民が選挙に参加し,多くの反対派を議会に送り込み,憲法に従って少数派の権利を守る政府を実現しました.
アメリカの「財政の崖」,ユーロ危機,アベノミクス,北京の大気汚染,・・・ 権力のあり方と市場システムとは,別々に機能するものではなく,それらが一致して人々の声を実現するとき,理想化と効率化を実現する改革のダイナミズムが働きます.各地のガバナンスの歴史は,その秘訣を学ぶ姿勢を私たちに求めていると思います.
P.
Katzenstein, A World of Regions. の翻訳『世界政治と地域主義』があるのを知りました.じっくり読んでみたいです.何かきっと,答につながる優れた洞察を示しているでしょう.
グローバリゼーションは,政治に革新を求めます.イギリス労働党の国際援助政策は,「国境のない社会契約」,という新しい概念を掲げています.もし彼らの概念を支持するなら,私たちは,破綻国家や絶対的貧困で苦しむ人々を助けるために発言し,政治的忠誠を高める地域の姿を通して,新しい地球を発見するのでしょう.
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