IPEの果樹園2013

今週のReview

1/28-2/2

 

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北アフリカのイスラム主義 ・・・オバマUの戦略問題 ・・・アメリカ経済の再建 ・・・イギリスのEU離脱論 ・・・ドル本位制は続く ・・・中国の新しい政治危機 ・・・安倍政権と国際通貨システム ・・・ユーロ圏と独仏同盟 ・・・2013年の危機

 [長いReview]

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l  北アフリカのイスラム主義

The Guardian, Friday 18 January 2013

Mali: fragile democracy and clumsy US policy

Simon Tisdall

アルジェリアの人質事件と制圧作戦が示すのは,隣国マリにおけるフランスの軍事介入と関わって,アルカイダの「第三世代」分派が,北部・西部アフリカ,サヘル,サハラの広大な空間が,アメリカ・西側と聖戦主義者との戦争における新しい最前線となっていることだ.

今回の危機は,アメリカが試みてきたアフリカにおける共同防衛体制のお粗末さと愚かさをも示した.ドローンによる指導者暗殺は反米感情やイスラム主義の拡大をもたらしており,アメリカの築いた地域軍事同盟は容易に崩れ去った.

マリの軍隊は,アメリカからの武器や情報,数百万ドルの資金援助,兵士たちへの訓練・教育プログラムによって強化され,アメリカ同盟軍になるはずだった.しかしクーデタが起きて,政府は軍事指導者Amadou Sanogoによって攻撃され,崩壊する前に,フランス軍の空爆で守られた.Sanogoはアメリカの防衛大学や基地で訓練を受け,英語や諜報活動を学び,さまざまな武器を得て,マリの脆弱な民主体制を破壊した.

オバマ政権は,今後も,アフリカ各地で軍事基地を拡大し,現地の同盟軍を組織して対テロ戦略を実行する.しかし,成功するとは限らない.マリの戦争はさらに拡大する危険がある.軍事施設ではなく,民間の重要施設,いわゆる「ソフト・ターゲット」が狙われる.第3世代のアルカイダは衰えていない.

FT January 18, 2013

Algeria shows we need a new approach to terrorism

By Roula Khalaf

全ての聖戦主義者は同じに見える.「テロとの戦い」,先制攻撃,政治的な不安定,が話題となっている.

アルジェリアの砂漠における天然ガス・プラント襲撃事件は,聖戦主義者に対するこの10年の作戦に反省を迫っている.アルジェリアとマリの先頭に先立って,ベンガジのアメリカ大使殺害事件があり,シリアの内戦激化があった.

アルカイダは壊滅した,ドローンで残党を一掃する,過激なイデオロギーはアラブ世界の平和的な独裁者の追放によって乗り越えられる,と言われてきたが,そうだろうか? 単純な説明や,良い結果を,われわれは好む.しかし,アルカイダの分派は生き残り,各地に拡散して活動を続けている.それが統一したネットワークの一部とは言えないようだが,各地の情勢は,残念ながら,彼らに有利な条件を与えている.

北アフリカには安全保障の空白地帯が現れた.独裁体制が大衆的な抗議デモによって倒されたことに彼らは」ショックを受けたが,同時に,牢獄にいた多くの聖戦主義者が解放され,旧体制の強力な諜報組織や秘密警察も崩壊した.聖戦主義者は,各地の情勢に合わせた活動を展開している.

それに対応する安全保障の組織化は遅れた.

FT January 20, 2013

The west has let negligence in the Sahel turn into a nightmare

By Paul Collier

イスラム主義者がマリの首都を支配することは,この国をソマリアのようにするだろう.フランス政府はそれを恐れて介入に踏み切った.ソマリアの海賊行為がもたらすグローバルな経済被害額は,年間約20億ドルに達する.アルジェリアが示したように,サハラはインド洋であり,石油・天然ガス施設はタンカーである.西側がこれまで行ってきた,ソマリアの海賊に対する身代金支払いは,こうした海賊集団を育ててしまった.アルジェリアの強硬策を非難する資格はない.


l  オバマUの戦略問題

WP January 19, 2013

Does Obama have a grand strategy for his second term? If not, he could try one of these.

By Anne-Marie Slaughter

オバマは歴史に姿を残すために,より行動的な外交の大戦略grand strategyを練るだろう.さまざまな危機に対応するだけでなく,自分の遺産を描くだろう.

最近,アメリカの3つのシンクタンクが大戦略を提案した.

Atlantic Council“Envisioning 2030: US Strategy for a Post-Western World”)は,NICの報告した2030年までの4つのシナリオ(@アメリカの内向き政策とグローバリゼーションの衰退,A米中協力,B内外の不平等拡大と紛争に不本意な関与を拡大,C非国家主体による問題の対応)を前提に,アメリカは積極的にそのマイナス面を減らすべきだ,と主張する.そして他のパートナー(ヨーロッパ,NATO, 日本,韓国,オーストラリア,シンガポール,など)との協力を指導する.特に中国との協力が決定的に重要だ.すでに,クリントン国務長官の演説(“multi-partner world”)や米中戦略経済対話は,この方針を取り入れていると思う.

Council on Foreign Relations “Democratic Internationalism: An American Grand Strategy for a Post-Exceptionalist Era”)は,the “big ideas”を示す.その前提は,世界における民主主義諸国が半分を超えたことだ.もっとも強力な,裕福な,人口を抱える諸国が加わっている.アメリカはこうした民主主義諸国のコミュニティーに最大の利害を見出す.その目標は民主化の拡大ではない.平等な機会,責任ある,相互依存を賢明に管理する,同盟を指導することで,民主主義諸国の安定化と深化を助けるのである.新興諸国とは指導力を分かち合う.

オバマはこの考え方が好きだろう.就任演説では,Deudney and Ikenberryに対応した形で,「責任の新しい時代」と呼んでいる.しかし,そこで言う「民主主義」はあいまいである.政府は,ロシアと中国も,インドやブラジルと一緒にする.

New America Foundation Patrick Doherty “A New U.S. Grand Strategy”)は,アメリカ再建に向けた具体的な処方箋を示している.アメリカの新しい目標とは,「持続可能性への移行」である.30億人の新しいグローバルな中産階級が,地球の生態システムを破壊せずに暮らしていくためには,さまざまな改革が必要である.新しいエネルギーや住宅政策など,提案されている者は,すでに各地で採用され,試みられている.しかし,その成功の可能性はない.

大戦略は必要だ.そのためには,圧倒的な力を持つ世界観,政治的目標が必要だ.われわれがどこに向かうか,示さなければならない.オバマだけが,就任式でそれを示す機会を得る.

NYT January 21, 2013

The Collective Turn

By DAVID BROOKS

オバマは,プラグマティックで,愛国主義的な,進歩主義を支持する.オバマはアメリカの歴史を用いて,進歩主義が新しい課題,すなわち,グローバリゼーション,技術変化,不平等,賃金の停滞,なども解決することを示す.旧来の目標である,平等と機会のために,われわれは新しい集団的な手段を用いるべきだ.

オバマは現状が過度の個人主義,ナルシシズム,民間分野に支配されている,と考える.もっと社会的な行動,共通の利益,が必要だ.地球温暖化も,中産階級の復活も,医療・社会保険制度も,女性,レスビアン,ゲイの平等な権利も,解決できる.

しかし,私はオバマほどリベラルではない.オバマが取り上げなかったアメリカの歴史がある.ウォール街やシリコン・ヴァレーだ.アメリカは多くの分散した天才たちによって繁栄を実現してきた.中央政府ではなく,偉大な革新や商業の発達を称えることができる.

オバマは,アメリカが隆盛期の若い国家であるとき,生々しい,制度化されていない国家を穏健に統治することが求められた時代の理想を持ち出した.しかし,アメリカは今や成熟した国家である.老人が増え,強固な政治システムがあり,複雑な税制があり,法律や債務に関するビザンチン的な官僚制度がある.

成熟した国家で活力がよみがえるには,人々の競争を促し,政府は多くの分野を明け渡してやるべきだ.政府支出も大事だが,規制緩和も重要だ.革新と福祉は財源を奪い合うこともあり,オバマの主張は,アメリカの未来を過去の犠牲にする.

BLOOMBERG Jan 21, 2013

Barack Obama, the Next Globalization President?

By James Gibney

アメリカは国境のない世界が必要とするものをすべて持っている.若さ,やる気,多様性,開放性,リスクを取り,再建する能力だ.アメリカは底辺への競争に参加することなく,ルールを作り,投資することができる.そのためには,内外における集団的な手段が必要だ.不平等,気候変動,エネルギー,移民,人権,いずれも自国だけの解決策はない.Martin Luther King, Jr.のように,オバマは訴えた.われわれ個人の自由を実現するには,この地球上のすべての者の自由が必要だ.

これは拡大主義的な外交である.


l  アメリカ経済の再建

NYT JANUARY 19, 2013

Inequality Is Holding Back The Recovery

By JOSEPH E. STIGLITZ

さまざまな深刻な問題が懸念されている.私には,それらが同じ問題に見える.不況の前に不平等の水準が高いと,回復は遅い.そして,アメリカン・ドリームはゆっくりと死滅する.

公的資金を銀行救済に流し込むのではなく,もっと底辺から景気刺激をすればよかった.住宅価格が債務額を下回った者には,債務を削減することができただろう.銀行は,住宅価格の上昇から利益を得るようにすればよかった.また,若者は誰でも学校に行き,職業訓練を受けられるようにできただろう.

市場は機能する.しかし,それは真空の中ではなく,われわれが創った仕組みにおいてである.グローバリゼーションは,労働者たちから交渉力を奪った.


l  イギリスのEU離脱論

Project Syndicate 23 January 2013

The Eclipse of British Reason

Joschka Fischer

チェーンに極度の圧力がかかると,そのもっとも弱いリングが破壊される.ユーロ危機は南欧,特にギリシャを襲った.今度はイギリスだ.最も弱いというのではないが,最も不合理なリンクだから.

イギリスの国益は変わらない.EU内の基本的な条件も変わらない.変わったのはイギリスの国内政治である.首相の権力基盤は弱く,およそ100人の反ヨーロッパ議員たちを抑えられない.保守党の主流派はイギリス独立党に票を奪われることを恐れている.それは労働党に有利である.

イギリスにとっては金融ビジネスが,フランスにとっての原子力産業,ドイツにとっての自動車産業と同じように,死活問題である.ユーロが崩壊することは深刻なダメージになる.ユーロ圏の生き残りは一層の統合に向けた政治的結束を求めている.


l  ドル本位制は続く

Project Syndicate 23 January 2013

The Unloved Dollar Standard

Ronald McKinnon

第二次世界大戦後,USドルは世界貿易の契約に使用され,国際決済の手段となり,銀行や政府の外貨準備になった.この仕組みは批判されているが,それに代わるものはあるのか?

戦後のヨーロッパは不況とインフレに苦しみ,外貨準備を欠いていたために十分な貿易が行えなかった.アメリカはマーシャル・プランでドルを提供し,それに基づく欧州支払同盟EPU1950年にできた.EPUは,安定した為替レートを確立し,それを基準に国内物価も安定し,ヨーロッパ内の貿易を妨げていた障害を取り除いた.

今でも,東欧を例外とするが,発展途上諸国の多くはドルに対する為替レートを安定させて,国内のマクロ経済を管理している.それは,為替レートに関する対立を避けるために,アメリカ通貨当局の為替介入を放棄させている.こうした国際準備通貨としての役割が揺らいでいる.アメリカの金利がゼロ近くまで低下し,ドルの洪水が各国に及ぶ,と非難されている.

実際,2003年後半に金利が1%まで下げられてから,アメリカは住宅バブルを起こしてから,新興市場のドル準備は6倍に増え,2011年に7兆ドルを超えるようになった.マネタリー・ベースの増大はアメリカを超えるインフレをもたらし,石油や食糧など,グローバルな商品市場でもバブルが起きた.

ドル本位制に対しては,アメリカ政府も不満だった.他国は為替市場に介入して為替レートの水準を決められるが,アメリカはそれができない.その結果,アメリカは他国の為替レート政策を批判する.「日本叩き」や「中国叩き」が起きるのだ.

ここには大きな矛盾がある.ドル本位制を愛する者はいないが,政府や民間主体にとって,今もドルが最善の選択肢である,ということだ.

実際,貿易赤字は,(日本や中国の)為替レートの結果ではなく,もっぱら不十分な貯蓄,特に政府部門の赤字の問題である.レーガン時代には双子の赤字が注目された.その後,ブッシュやオバマになって貿易赤字は増えているが,政府は自国の財政赤字より,中国の人民元レートを非難している.

為替レートの増価が貿易黒字を減らす,というのは嘘だ.グローバルに統合された世界では,通貨の増価は国内投資を減らすからだ.中国叩きに一身はなく,財政赤字削減の努力を怠る言い訳でしかない.

ドル本位制の下ではアメリカの財政赤字は問題にならない,という者もいる.しかし,高度に工業化する地域,特にアジアとのアメリカの貿易赤字は製造業の衰退を反映し,保護主義を刺激している.製造業で生じている失業者達も,中国叩きより,財政再建を要求するべきだ.

アメリカの財政赤字と低金利は景気回復に成功せず,それゆえドル本位制は国内の支持も失っている.しかし,それに代わる現実に可能な選択肢とは,1960年代や70年代のような,アメリカが穏健な金融政策を採り,十分な国内貯蓄と,適度な貿易赤字を出すものだろう.中国とのきょう慮臆が,こうした状態を達成する移行過程のために欠かせない.

人民元とUSドルの為替レートが安定することで,アジアやラテンアメリカの為替レートも安定化する.そして1944年のオリジナルなブレトンウッズ協定が再生するだろう.


l  中国の新しい政治危機

FT January 21, 2013

The weibo generation can reboot China

By Jonas Parello-Plesner and Michael Anti

胡錦濤・温家宝時代の遺産は,weiboと呼ばれるソーシャル・メディアである.2003年にはまったく存在しなかったと言っても良いマイクロブログが,2009年以来,爆発的に増え,3億人が瞬時にコミュニケーションをとっている.西側の分析家は,今,中国で起きている変化を理解していない.

社会批評家のLi Chenpingには600万以上の読者,およそデンマークの人口がいる.人気女優のYao Chen3億人以上が見ていることを自慢する.彼女は最近,the Southern Weekendに関する報道の自由についてコメントした.中国のネット人口に対して,政府が情報を管理することは非常に難しくなっている.北京の大気汚染がそうだ.地方政府の不正や汚職を暴くこともそうだ.Weiboを通じた政府からの情報操作は“Wei-governance”と呼ばれている.

中国式のインターネット,を政府は主張している.しかし,新世代はそれを超えて行くだろう.

FT January 24, 2013

Political cracks imperil China’s power

By Philip Stephens

中国がアメリカ経済の規模を超えて,そのまま世界的な覇権を握る,というのが西側の常識になっている.政治システムの次第に民主主義に似た何かに変化するだろう,と.

それはあまりにも単純な,ゴールド・ラッシュのように,中国市場に殺到する西側ビジネスマンが好む仮説だ.しかし,中国に行けばわかるように,国際的舞台でエリートたちが自信を示すほど,国内での彼らは不安を感じている.

政治改革の条件は,共産党が握るのではない.増大する所得とソーシャル・メディアの拡大が社会・政治論争の行方を決定する.労働矯正所のような仕組みは改革する,と政府は言う.権力は共産党や国家・官僚から失われていく.共産党は,今も,成長の守護者であるという.しかし,繁栄は国民に,「法の支配」と「デジタル革命」を与えた.

そこにあるのは,強力で,しかも,壊れやすい中国だ.


l  安倍政権と国際通貨システム

Project Syndicate 22 January 2013

Beggar Thy Currency Or Thy Self?

Mohamed A. El-Erian

為替レートの増価を喜ぶ国は少ない.主要国を含めて,通貨価値を下げる介入を始めた国もある.しかし,為替レートは相対価格であるから,すべての通貨が減価することは不可能だ.このシステムに対する不整合性をどのように解決するかが,成長,雇用,分配,そしてグローバル経済の機能に重大な影響を与える.

日本政府が円安を促し,2か月でドルに対して10%,ユーロに対しては20%も減価した.アメリカ自動車業界が不満を示し,ドイツ連銀総裁のJens Weidmannは「通貨戦争」を示唆した.

しかし,かつての通貨戦争と異なって,貿易不均衡や国際収支危機が原因ではない.主要国の中央銀行が,政策手段の不足や政治的な行きづまりを考慮して,非伝統的な,量的緩和を採用したことが原因である.このダイナミズムを世界が理解することは重要だ.

バーナンキ連銀議長が述べたように,この政策の目的は投資家にリスクを取って投資するよう促すことだ.量的緩和が資産価格を上昇させるなら,「資産効果」や「アニマル・スピリット」を刺激し,消費や投資,雇用が増える,と期待する.

この戦略は,その過程で,流動性の一部が他国に向かい,新興市場における資本流入の波を起こした.新興諸国のファンダメンタルズを無視して通貨が増加することで,投機的な投資と見なされ,不満が高まる.急激な増価は産業やサービスを空洞化するから,新興諸国の通貨当局は金融緩和で増価を抑えようとする.

こうした政策の不整合性は過渡的な,逆転するものであると理解することが重要だ.なぜなら,主要国における投資が回復すれば,量的緩和は終わる.そして,こうした認識を共有し,国際政策協調を支持すれば,通貨戦争は避けられる.

それを欠くとき,多角的な貿易システムや開放的な地域統合への支持は失われる.

Project Syndicate 22 January 2013

Why Stimulus Has Failed

Raghuram Rajan

失業や停滞は,総需要が不足していることが原因である.しかし,ネオ・ケインズ主義者は間違っている.金融危機の前にブームであった産業分野や地域で,今も失業者が多い.それは低金利によって膨張したからである.金融政策を再び極端に緩和して,こうした需要が回復するのを急ぐべきだろうか?

むしろ,労働者たちは産業部門や地域を移動しなければならない.それにもかかわらず,主要国は政府の支出によって需要パターンの健全化を妨げている.その最悪のケースは,不動産バブルが破裂して20年も経つ日本だ.


l  ユーロ圏と独仏同盟

FT January 21, 2013

Berlin and Paris need a relationship reset

By Joachim Bitterlichformer national security adviser to Chancellor Helmut Kohl

おそらく今も,フランスの政治家たちは再統一したドイツとヨーロッパに起きた変化を,たとえば,フランスの特別な地位が失われたことを受け入れたくないだろう.ドイツが国益を擁護する自由を得て,ビスマルクの勢力均衡外交に戻る,と考えるフランス人もいる.

また,経済の面で,強いドイツと弱いフランス,という対比が明らかになっている.ドイツが望むのは,強い経済を持つフランスであり,劣等感に苦しむ隣国ではない.しかし,ドイツで「パワー」という言葉がタブーであるように,フランスでは「ドイツ・モデル」,「競争力」,「グローバリゼーション」という言葉が嫌われる.

金融危機に対する国民の反応も対照的である.ドイツ人は,貯蓄や「洗練された緊縮策」が成長をもたらすと考える.他方,フランス人は,それがベルリンから来た役に立たない考え方だ,と思う.しかし,フランス人の考える債務の相互化も役に立たない.ドイツ人は,自分たちの考えを神聖化し,救済する側の国として,他国が従うことを当然と考える.その傲慢さを何度も注意したコール元首相の姿勢を忘れたようだ.

ドイツは今もグローバルな責任を受け入れたがらない.自分たちは「巨大なスイス」として,商業的な目的の外交を展開し,軍事的関与を避ける.リビア介入にドイツが参加しなかったことは間違っていたと思うが,意外なことではない.同盟諸国は,ドイツが「共通の安全保障」を理解しているのか,と問うだろう.

独仏関係の改善に向かう楽観的側面もある.エネルギー政策で妥協を実現し,それをヨーロッパの経済再建計画に結びつけることだ.

市民たちは,各国の主権をこれ以上ブラッセルに移譲しないだろう.より現実的な連邦化が進められるべきだ.むしろ,諸民族の共同体,と呼ぶ方が良い.


l  2013年の危機

Project Syndicate 22 January 2013

A New Year of Global Conflict

Javier Solana, Ian Bremmer

自国を傷つけずに敵対者を損なう技術として,ドローンや特殊部隊がますます使用されるだろう.世界はアメリカによるアフガニスタンやパキスタン,イエメンのドローン攻撃をよく聞いたが,中国と日本も紛争地域でドローンを使用する.それは攻撃のコストとリスクを低下させ,軍事行動を取りやすくする技術革新である.

最も低コストの攻撃は,サイバースペースにおけるものだ.各国はその技術と攻撃能力向上に多額の投資を始めている.懸念すべき理由として,第1に,冷戦期の「相互確証破壊」が失われる.サイバー攻撃は誰が行ったかが特定しにくい.第2に,攻撃によるダメージは予測不可能であり,抑止が失われる.

2013年の最大のリスクは,アジアにおける大規模な経済戦争である.世界第2と第3の市場規模がある,中国と日本は,領土紛争について国民のエスカレーションを止められない.両国は戦争のリスクを冒さないだろうが,中国政府はナショナリストたちの日本製品ボイコット運動を支持した.その影響は,わずか1か月でも,トヨタの中国向け自動車輸出が44.5%も減少し,日本からの中国の輸入は約10%低下した.

景気回復に苦しむ日本にとって,そのダメージは大きかった.それは世界にとっても,軍隊や戦車,ロケットを使わない経済戦争が何をもたらすか,重大な警告となった.

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The Economist January 5th 2013

Japanese foreign policy: Down-turn Abe

The new politics of the internet: Everything is connected

Haiti: Still waiting for recovery

Argentina: The enemy within

Dubai’s renaissance: Edifice complex

The Irish economy: Fitter yet fragile

(コメント) 日本に関するマイナスのイメージは恐ろしいほどです.自民党が復活し,歴史認識問題のシンボルともいえる人物に首相を託して,旧式の景気回復策で構造改革を諦めた国に,何が期待できると言うのか? その感覚を否定できるような国内の動きを見つけたいです.

それと対照的な(しかし複雑な)楽観を,インターネット自由主義の特集記事が示しています.

危機や破綻,それからの回復,という意味で,震災後のハイチ,金融破たん後のアルゼンチン,ドバイ,アイルランド,がとても面白い内容です.

The Economist January 12th 2013

Reform in China: Great expectations

Race in the Netherlands: The aftermath of a football tragedy

Charlemagne: Celtic metamorphosis

Japan’s economy: Keynes, trains and automobiles

(コメント) 新聞の検閲や労働矯正収容所の改革を議論する中国には,成長にもかかわらず政治が示す時代錯誤の現実と,それゆえ,激しい改革の気運がみなぎっているのかもしれません.

他方,オランダのサッカー試合から生じた暴行・殺人事件と人種論争の政治化,アイルランドの政治経済モデルが持続的なものか,日本のケインズ主義的刺激策が旧式の公共投資と円安・輸出企業に頼る成長モデルを強化している,という記事に注目しました.

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IPEの想像力 1/28/13

NHKドキュメンタリーWAVE「毛沢東の遺産:激論・二極化する中国」を(後半だけ)観ました.

「中国・河南省鄭州に、17年も続く独特の“思想サロン”」を中心に,毛沢東支持派と反対派とが激論を交わす様子が映ります.支持派は,今の政治や経済のあり方が間違っている,毛沢東の理想を掲げて,根本的な刷新が必要だ,と考えます.他方,反対派は,今の改革開放をさらに進めるべきであり,毛沢東が支配的であった恐怖政治の時代に戻ってはならない,と考えるようです.(前半を観ていないので違うかもしれませんが.

私が驚いたのは,彼らの議論や思想を表明する激しさ,言葉を吐くことに込められる熱意です.映像に垣間見えたような,大きな荷台を人力で運ぶ労働者たちが競って働く横を,巨大なトラックや,豪華な乗用車が疾走します.ロックフェラーやモルガンなど,アメリカの興隆期を思わせるような事業家,資産家,富裕層が,国の富を集中し,政治エリートと結びついている社会を感じます.

毛沢東支持派も反対派も,現在の指導部には根本的な問題を解決する能力がない,と断定します.それでも彼らが毛沢東の権威を尊重し,毛沢東の思想の具体化を議論している限り,政府はあからさまに彼らを弾圧しないのか,と不思議に思うほど,その批判の言葉は痛烈でした.・・・都市で働く下層の労働者が,娘の結婚を祝う家具を買うために何倍も仕事を引き受け,過労死したことを語る若者,わずかな年金だけでは生活できない,医者にも診てもらえない,と憤慨する老人,・・・エリートたちの蓄財や無能さを呪う彼らの怒りの烈しさに目が覚めるような気分でした.

しかし,思わず一緒に観ていた子供たちに教えたのは,さまざまな主張の違いを超えて,その怒りがナショナリズムに向かうのではないか,という不安です.外国による支配,特に,日本の侵略が悪い,という点で国民の意見は一致し,政府・共産党への支持は(少なくとも短期的に)高まるからです.

『フォーリン・ポリシー・リポート 2013 NO.1』を見ると,「特集 チャイナ・クエスチョン:政治制度改革か体制崩壊か」として,いくつかの論説が紹介されています.・・・エリック・X・リ「中国の台頭は続く」,ヤシェン・フアン「追い込まれた中国共産党」,ライネッテ・H・オング「不動産バブルと農民の不満」.

「途上国の多くは,民主主義では自分たちが直面する問題のすべては解決できないことを学びつつあり」・・・「中国の成功と欧米の失敗」というコントラストは,「代議制民主主義だけを正当で効果的な唯一の統治システムと見なす概念」を廃れさせる,とエリック・リは主張する.

他方,フアンは,改革路線が中国共産党に生き残るチャンスを与える,と考えます.「段階的で平和的な民主体制への移行を達成するために先を見据えた改革アジェンダを模索すれば,中国は,中東を席巻しているようなカオスと激変を回避できるかもしれない.」

日本の政治家たちは,アメリカから中国へのパワー・シフトを恐れているでしょう.しかし,中国における国家から市民,あるいは豊かな個人へのパワー・シフトが何をもたらすのか,社会変動の行方を,中国の政治指導者とともに恐れることになるでしょう.

私たちはどうでしょうか? 改革をめぐって激論を交わす情熱を持たない私たちは,中国の台頭も,中国の民主化も恐れる,究極の保守的既得権層となって,グローバルな変化の辺境に取り残されます.それよりむしろ,中国の改革熱が日本に波及することを,私は願うのです.

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