前半から続く)


l  ドル本位制は続く

FT January 18, 2013

The Bundesbank takes back its doughnuts

By Tim Harford

ドイツの中央銀行は270億ユーロの価値がある54000本の金の延べ棒を,パリやニューヨークからフランクフルトに移すことを計画している.

ヤップ島の巨大な石の貨幣がそうであるように,金の価値は保有することを求める者がいるから高まっている.それは実用に関係ないという意味で,金バブルだ.インフレと結びつけば金投資には意味がある.

問題は,ドイツが金を移送することだ.重さが20トンもある石の貨幣がそうであるように,石を担保に信用で取引し,石の所有者が変更されるだけでよい.しかし,ドイツ人は外国人を信用しないから,それでは終わらないのだ.

Project Syndicate 23 January 2013

The Unloved Dollar Standard

Ronald McKinnon

第二次世界大戦後,USドルは世界貿易の契約に使用され,国際決済の手段となり,銀行や政府の外貨準備になった.この仕組みは批判されているが,それに代わるものはあるのか?

戦後のヨーロッパは不況とインフレに苦しみ,外貨準備を欠いていたために十分な貿易が行えなかった.アメリカはマーシャル・プランでドルを提供し,それに基づく欧州支払同盟EPU1950年にできた.EPUは,安定した為替レートを確立し,それを基準に国内物価も安定し,ヨーロッパ内の貿易を妨げていた障害を取り除いた.

今でも,東欧を例外とするが,発展途上諸国の多くはドルに対する為替レートを安定させて,国内のマクロ経済を管理している.それは,為替レートに関する対立を避けるために,アメリカ通貨当局の為替介入を放棄させている.こうした国際準備通貨としての役割が揺らいでいる.アメリカの金利がゼロ近くまで低下し,ドルの洪水が各国に及ぶ,と非難されている.

実際,2003年後半に金利が1%まで下げられてから,アメリカは住宅バブルを起こしてから,新興市場のドル準備は6倍に増え,2011年に7兆ドルを超えるようになった.マネタリー・ベースの増大はアメリカを超えるインフレをもたらし,石油や食糧など,グローバルな商品市場でもバブルが起きた.

ドル本位制に対しては,アメリカ政府も不満だった.他国は為替市場に介入して為替レートの水準を決められるが,アメリカはそれができない.その結果,アメリカは他国の為替レート政策を批判する.「日本叩き」や「中国叩き」が起きるのだ.

ここには大きな矛盾がある.ドル本位制を愛する者はいないが,政府や民間主体にとって,今もドルが最善の選択肢である,ということだ.

実際,貿易赤字は,(日本や中国の)為替レートの結果ではなく,もっぱら不十分な貯蓄,特に政府部門の赤字の問題である.レーガン時代には双子の赤字が注目された.その後,ブッシュやオバマになって貿易赤字は増えているが,政府は自国の財政赤字より,中国の人民元レートを非難している.

為替レートの増価が貿易黒字を減らす,というのは嘘だ.グローバルに統合された世界では,通貨の増価は国内投資を減らすからだ.中国叩きに一身はなく,財政赤字削減の努力を怠る言い訳でしかない.

ドル本位制の下ではアメリカの財政赤字は問題にならない,という者もいる.しかし,高度に工業化する地域,特にアジアとのアメリカの貿易赤字は製造業の衰退を反映し,保護主義を刺激している.製造業で生じている失業者達も,中国叩きより,財政再建を要求するべきだ.

アメリカの財政赤字と低金利は景気回復に成功せず,それゆえドル本位制は国内の支持も失っている.しかし,それに代わる現実に可能な選択肢とは,1960年代や70年代のような,アメリカが穏健な金融政策を採り,十分な国内貯蓄と,適度な貿易赤字を出すものだろう.中国とのきょう慮臆が,こうした状態を達成する移行過程のために欠かせない.

人民元とUSドルの為替レートが安定することで,アジアやラテンアメリカの為替レートも安定化する.そして1944年のオリジナルなブレトンウッズ協定が再生するだろう.

Project Syndicate 24 January 2013

Germany’s Gold Delusion

Simon Johnson


l  中国の新しい政治危機

FT January 18, 2013

Smoke alarms

NYT January 18, 2013

Will China Have to Abandon Its One-Child Rule?

By VIKAS BAJAJ

YaleGlobal, 18 January 2013

Can China and Turkey Forge a New Silk Road?

Anna Beth Keim, Sulmaan Khan

FT January 18, 2013

Chinese labour pool begins to drain

By Jamil Anderlini in Beijing and Ed Crooks in New York

NYT January 19, 2013

In China, Widening Discontent Among the Communist Party Faithful

By EDWARD WONG

FT January 21, 2013

The weibo generation can reboot China

By Jonas Parello-Plesner and Michael Anti

胡錦濤・温家宝時代の遺産は,weiboと呼ばれるソーシャル・メディアである.2003年にはまったく存在しなかったと言っても良いマイクロブログが,2009年以来,爆発的に増え,3億人が瞬時にコミュニケーションをとっている.西側の分析家は,今,中国で起きている変化を理解していない.

社会批評家のLi Chenpingには600万以上の読者,およそデンマークの人口がいる.人気女優のYao Chen3億人以上が見ていることを自慢する.彼女は最近,the Southern Weekendに関する報道の自由についてコメントした.中国のネット人口に対して,政府が情報を管理することは非常に難しくなっている.北京の大気汚染がそうだ.地方政府の不正や汚職を暴くこともそうだ.Weiboを通じた政府からの情報操作は“Wei-governance”と呼ばれている.

中国式のインターネット,を政府は主張している.しかし,新世代はそれを超えて行くだろう.

WSJ January 22, 2013

China's Game Plan in Southeast Asia

By IAN STOREY

FT January 24, 2013

Political cracks imperil China’s power

By Philip Stephens

中国がアメリカ経済の規模を超えて,そのまま世界的な覇権を握る,というのが西側の常識になっている.政治システムの次第に民主主義に似た何かに変化するだろう,と.

それはあまりにも単純な,ゴールド・ラッシュのように,中国市場に殺到する西側ビジネスマンが好む仮説だ.しかし,中国に行けばわかるように,国際的舞台でエリートたちが自信を示すほど,国内での彼らは不安を感じている.

中国の成長は彼らに国際的な地位の上昇をもたらした.帝国主義は中国の伝統にない,中国はまだ発展途上国であり,国際的なガバナンスは引き受けられない,などと言う.しかし,東シナ海や南シナ海で領土を主張するとき,西側が中国を侵略した歴史から教訓を学ぶように,と警告する.経済力の増大は政治に影響する.日本との領有権争いは,米中衝突の危険も高めている.

習近平の不安は,まさに国内だ.安定性や継続性を重視し,腐敗の追放やあいまいな経済改革を約束する.しかし,初期の容易な改革から,次第に共産党幹部の既得権を破壊するような,重要な改革が避けられない.成長という最大の権力基盤を守るには,ダイナミックの部門に投資を集中して,中所得の罠を解決しなければならない.

政治改革の条件は,共産党が握るのではない.増大する所得とソーシャル・メディアの拡大が社会・政治論争の行方を決定する.労働矯正所のような仕組みは改革する,と政府は言う.権力は共産党や国家・官僚から失われていく.共産党は,今も,成長の守護者であるという.しかし,繁栄は国民に,「法の支配」と「デジタル革命」を与えた.

そこにあるのは,強力で,しかも,壊れやすい中国だ.


l  安倍政権と国際通貨システム

2013-01-18 (China Daily)

Japan's grand Asia-Pacific strategy

By Wu Huaizhong

FT January 22, 2013

BoJ takes first step on road to inflation

guardian.co.uk, Tuesday 22 January 2013

Shinzo Abe's quantitative easing: Japan can have a 'free lunch' and eat it too

Mark Weisbrot

経済には「フリー・ランチ」などない,と言われる.しかし,実際にあるのだ.日本の財政刺激策と金融の量的緩和がそれだ.中央銀行が資金を供給し,インフレ加速を恐れず,政府支出を増やすことができる.それによって,日本はデフレによるスランプを脱する.

Adam Posenはそれを認めなかった.正統派の経済学は,こうして,正しい政策を拒むことがある.景気回復や,失業・貧困の抑制など,望ましい社会目標のための政策を拒む.

国債の増発は中小企業の投資を難しくし,マイナスのフィードバックが働く.国債の負担により,災害復興などの公共投資が行えない,とPosenは非難した.しかし,日本国債の利払いはGDP1%に満たず,小さいものだ.諸問題の原因は,停滞やデフレである.積極的な政策はそれを打ち破る.

日本の成功を,欧米も学ぶだろう.

NYT January 22, 2013

Bank of Japan Moves to Fight Deflation

By HIROKO TABUCHI

Project Syndicate 22 January 2013

Beggar Thy Currency Or Thy Self?

Mohamed A. El-Erian

為替レートの増価を喜ぶ国は少ない.主要国を含めて,通貨価値を下げる介入を始めた国もある.しかし,為替レートは相対価格であるから,すべての通貨が減価することは不可能だ.このシステムに対する不整合性をどのように解決するかが,成長,雇用,分配,そしてグローバル経済の機能に重大な影響を与える.

日本政府が円安を促し,2か月でドルに対して10%,ユーロに対しては20%も減価した.アメリカ自動車業界が不満を示し,ドイツ連銀総裁のJens Weidmannは「通貨戦争」を示唆した.

しかし,かつての通貨戦争と異なって,貿易不均衡や国際収支危機が原因ではない.主要国の中央銀行が,政策手段の不足や政治的な行きづまりを考慮して,非伝統的な,量的緩和を採用したことが原因である.このダイナミズムを世界が理解することは重要だ.

バーナンキ連銀議長が述べたように,この政策の目的は投資家にリスクを取って投資するよう促すことだ.量的緩和が資産価格を上昇させるなら,「資産効果」や「アニマル・スピリット」を刺激し,消費や投資,雇用が増える,と期待する.

この戦略は,その過程で,流動性の一部が他国に向かい,新興市場における資本流入の波を起こした.新興諸国のファンダメンタルズを無視して通貨が増加することで,投機的な投資と見なされ,不満が高まる.急激な増価は産業やサービスを空洞化するから,新興諸国の通貨当局は金融緩和で増価を抑えようとする.

こうした政策の不整合性は過渡的な,逆転するものであると理解することが重要だ.なぜなら,主要国における投資が回復すれば,量的緩和は終わる.そして,こうした認識を共有し,国際政策協調を支持すれば,通貨戦争は避けられる.

それを欠くとき,多角的な貿易システムや開放的な地域統合への支持は失われる.

Project Syndicate 22 January 2013

Why Stimulus Has Failed

Raghuram Rajan

失業や停滞は,総需要が不足していることが原因である.しかし,ネオ・ケインズ主義者は間違っている.金融危機の前にブームであった産業分野や地域で,今も失業者が多い.それは低金利によって膨張したからである.金融政策を再び極端に緩和して,こうした需要が回復するのを急ぐべきだろうか?

むしろ,労働者たちは産業部門や地域を移動しなければならない.それにもかかわらず,主要国は政府の支出によって需要パターンの健全化を妨げている.その最悪のケースは,不動産バブルが破裂して20年も経つ日本だ.

WSJ January 22, 2013

Abe and Japan's Deflation

FT January 23, 2013

Don’t count on a weak yen

円安政策は正しいか? 1.欧米経済の回復は続かないかもしれない.2.実質為替レートで見てそれほど円高ではないから,日本の製造業は円高で苦しんでいるのではない.3.原発停止後のエネルギー輸入は円安によって貿易収支を悪化させる.円安政策を支持する安倍は,原発再開を急ぐ.

BLOOMBERG Jan 24, 2013

Paul Krugman's Worn-Out Ideas for Japan

By William Pesek


l  ユーロ圏と独仏同盟

Project Syndicate 18 January 2013

Will Europe’s Fiscal Compact Work?

Jeffrey Frankel

ヨーロッパの財政協定(the Treaty on Stability, Coordination, and Governance in the Economic and Monetary Union)が2013年からスタートする.ユーロ圏加盟国は,構造的財政赤字をGDP0.5%以下に抑える(もしくは,債務/GDP比率が60%を十分に下回るなら,GDP1%以下に抑える).

「構造的赤字」とは,景気循環を通じて,という意味だ.不況に際しては赤字を増やすことができる.しかし,Stability and Growth Pact (SGP)と同じように,失敗するリスクがある.それは,政府が財政収支の予測を,楽観的に,大きく歪めているからだ.

独立の予測機関を設けることや,その予測に従って予算編成を制限する国内法を,チリのように,制定することは有益であろう.それでも政治家たちが巧妙に制限を逃れる道はある.

FT January 20, 2013

Europe: An uneven entente

By Quentin Peel and Hugh Carnegy

FT January 20, 2013

The union at Europe’s heart is frayed

By François Heisbourg

FT January 21, 2013

Berlin and Paris need a relationship reset

By Joachim Bitterlichformer national security adviser to Chancellor Helmut Kohl

Elysée treaty50周年を祝うために,フランスとドイツの指導者が集まるのは,ほろ苦い時間である.EU統合に政治的指導力を発揮したのはもちろんだが,その関係が深刻な危機にあることは否定できない.

おそらく今も,フランスの政治家たちは再統一したドイツとヨーロッパに起きた変化を,たとえば,フランスの特別な地位が失われたことを受け入れたくないだろう.ドイツが国益を擁護する自由を得て,ビスマルクの勢力均衡外交に戻る,と考えるフランス人もいる.

また,経済の面で,強いドイツと弱いフランス,という対比が明らかになっている.ドイツが望むのは,強い経済を持つフランスであり,劣等感に苦しむ隣国ではない.しかし,ドイツで「パワー」という言葉がタブーであるように,フランスでは「ドイツ・モデル」,「競争力」,「グローバリゼーション」という言葉が嫌われる.

金融危機に対する国民の反応も対照的である.ドイツ人は,貯蓄や「洗練された緊縮策」が成長をもたらすと考える.他方,フランス人は,それがベルリンから来た役に立たない考え方だ,と思う.しかし,フランス人の考える債務の相互化も役に立たない.ドイツ人は,自分たちの考えを神聖化し,救済する側の国として,他国が従うことを当然と考える.その傲慢さを何度も注意したコール元首相の姿勢を忘れたようだ.

ドイツは今もグローバルな責任を受け入れたがらない.自分たちは「巨大なスイス」として,商業的な目的の外交を展開し,軍事的関与を避ける.リビア介入にドイツが参加しなかったことは間違っていたと思うが,意外なことではない.同盟諸国は,ドイツが「共通の安全保障」を理解しているのか,と問うだろう.

独仏関係の改善に向かう楽観的側面もある.エネルギー政策で妥協を実現し,それをヨーロッパの経済再建計画に結びつけることだ.

市民たちは,各国の主権をこれ以上ブラッセルに移譲しないだろう.より現実的な連邦化が進められるべきだ.むしろ,諸民族の共同体,と呼ぶ方が良い.

SPIEGEL ONLINE 01/21/2013

'Enough Sauerkraut and Beer'

France and Germany Celebrate 50 Years of Friendship

guardian.co.uk, Tuesday 22 January 2013

50 years after Elysée, Germany and France still stand shoulder to shoulder

Laurent Fabius and Guido Westerwelle

何世紀にもわたり厳しく対立した両国の歴史,二度の世界大戦において起きた多くの悲劇と,特に,ナチス・ドイツの独裁が犯した罪を考えるなら,1963122日に,エリゼ条約に署名したコンラート・アデナウアーとシャルル・ド・ゴールの勇敢で,しかも大胆な姿勢が理解できるだろう.

その条約は短く,簡潔であるが,革命的なものである.経済,政治,文化の重要問題に関して,両国は完全に対等な立場にある.主要テーマは,若い,若者,連帯,ヨーロッパであった.他の人民が経験したことがないほど,われわれのパートナーシップは緊密で友好的な関係である.

しかし,そのことを単に前提するのではなく,新しい時代にも継承し,開拓していくべきだ.

SPIEGEL ONLINE 01/22/2013

An Arduous Friendship

Differences of Opinion Mark Franco-German Relations

An Analysis By Mathieu von Rohr


l  為替レートと貿易

VOX 18 January 2013

The real exchange rate and export growth: Are services different?

Barry Eichengreen, Poonam Gupta

VOX 19 January 2013

Exchange-rate volatility is a problem for trade … especially when financial development is low

Jérôme Héricourt, Sandra Poncet

VOX 20 January 2013

How much global trade governance should there be?

Simon Lester

BLOOMBERG Jan 21, 2013

Strong Dollar’ Is Lie Told in New Currency War

By William Pesek

VOX 23 January 2013

Reinvigorating the trade policy agenda: Think supply chain!

Bernard Hoekman, Selina Jackson


l  2013年の危機

FP January 18, 2013

Risk #5: The JIBs -- Japan, Israel, Britain

Posted By Ian Bremmer

Project Syndicate 21 January 2013

The Economic Fundamentals of 2013

Nouriel Roubini

Project Syndicate 22 January 2013

A New Year of Global Conflict

Javier Solana, Ian Bremmer

アメリカのオバマ大統領は,外交政策より,債務削減と国内目標の実現にエネルギーと時間を使うだろう.ヨーロッパはユーロ圏の生き残りを安心できるまでにまだ時間がかかり,中国は成長と雇用のために新しい地域との関係を深めるが,国内改革の複雑さを扱うのに没頭するだろう.それゆえ,世界の紛争は激化するし,長引きそうだ.

自国を傷つけずに敵対者を損なう技術として,ドローンや特殊部隊がますます使用されるだろう.世界はアメリカによるアフガニスタンやパキスタン,イエメンのドローン攻撃をよく聞いたが,中国と日本も紛争地域でドローンを使用する.それは攻撃のコストとリスクを低下させ,軍事行動を取りやすくする技術革新である.

最も低コストの攻撃は,サイバースペースにおけるものだ.各国はその技術と攻撃能力向上に多額の投資を始めている.懸念すべき理由として,第1に,冷戦期の「相互確証破壊」が失われる.サイバー攻撃は誰が行ったかが特定しにくい.第2に,攻撃によるダメージは予測不可能であり,抑止が失われる.

2013年の最大のリスクは,アジアにおける大規模な経済戦争である.世界第2と第3の市場規模がある,中国と日本は,領土紛争について国民のエスカレーションを止められない.両国は戦争のリスクを冒さないだろうが,中国政府はナショナリストたちの日本製品ボイコット運動を支持した.その影響は,わずか1か月でも,トヨタの中国向け自動車輸出が44.5%も減少し,日本からの中国の輸入は約10%低下した.

景気回復に苦しむ日本にとって,そのダメージは大きかった.それは世界にとっても,軍隊や戦車,ロケットを使わない経済戦争が何をもたらすか,重大な警告となった.


FT January 20, 2013

Monti is not the right man to lead Italy

By Wolfgang Münchau


l  アメリカの債務問題

FT January 21, 2013

End the damaging obsession with deficit

By Lawrence Summers

FT January 21, 2013

America’s debt dilemma: A looming crisis

By Robin Harding

FT January 24, 2013

World is right to worry about US debt

By KennethRogoff

アメリカの財政赤字問題は根が深い.債務の水準だけではない.給付の中身.選挙における政治的分断.人口動態.経済の停滞.対立は長く続くだろう.

たとえば,アメリカの世界GDPに占める割合は,現在の20%から,50年後は10%に低下する.アメリカの防衛予算は,GDP比で4%であり,既に世界の平均値の2倍である.この先も世界の警察官として行動できるのか? アメリカがそれを放棄するとき,他の国が,例えば中国がそれを引き受けるだろうか?

学校など,公共部門に関する対立もあるが,インフラ投資には合意するだろう.問題は,公共投資の効果が実現に要する時間だ.ニューヨークの歩道工事を観た中国人の観光旅行団体に,通訳が「工事は2年かかる」と言うのをためらって,「2週間の間違いじゃないか? 」と問い返すジョークがある.

素朴なケインズ主義を適用して財政赤字を支持するのは間違いだ.債務の水準は無視できない.アメリカは既に経済停滞を招く水準に達している.日本の停滞を見ればわかるだろう.ドルが準備通貨であることは財政政策の余裕を与えるが,いつまで続くかわからない.債務の増大は,政府が将来のショックに対応する能力を奪う.

5兆ドルを超える政府債務,1970年代のインフレの記憶,1930年代の金兌換を破ったことから,外国の投資家は懸念する.


l  移民問題

FT January 22, 2013

Immigration: The road to recognition

By Anna Fifield


l  ダヴォス会議

guardian.co.uk, Tuesday 22 January 2013

Davos: the failures' club

NYT JANUARY 22, 2013

At Davos, Crisis Is the New Normal

By ALISON SMALE

FP January 22, 2013

A warning for 'Davos Man'

Posted By Stephen M. Walt

FT January 23, 2013

Davos is no conspiracy – it is infotainment

By John Gapper

NYT JANUARY 23, 2013

At Davos, Financial Leaders Debate Reform and Monetary Policy

By JACK EWING

FT January 24, 2013

Break a wall of silence on cyber attacks

By Gillian Tett


l  天分か,教育か

Project Syndicate 22 January 2013

Natural-Born Pianists?

Robert Skidelsky

誰でも,毎日20分ピアノの練習をすれば,始めて18か月後にショパンがひけるようになるのか? あるいは,それは天分か?

19世紀の思想家John Stuart Millは「誰にでもできる派」であった.3歳のとき,ギリシャ語を父親から学んだ.彼は,貴族を批判する,その時代のリベラル派を代表していた.しかしCharles Darwinが,彼らの楽天的見解を翻した.その「自然淘汰」論では,生物学的な特質が稀少資源の世界で,競争を通じて生存を決める.Herbert Spencerは「適者生存」を社会の進化に結び付けた.

それは,貧者を助けるよりドローンで制圧することや,血まみれの資本主義を支持するイデオロギーになる.アメリカのレッセフェーレ思想や,優生学,ナチズムの理論につながる.

そのあまりの残忍な傾向に対する反発は,第二次世界大戦後,ミルの意見を継承した社会民主主義を生んだ.ダイエット,教育,健康,住宅など,その可能性を高めるために国家が行動する.社会原理としての競争は緩和され,協力が重視される.

その後,ムードは再び転換した.社会民主主義は成功した者を罰しており,失敗した者に褒美を与える,と攻撃された.Richard Dawkinsは,ダーウィン的な選択・淘汰を「利己的遺伝子」と呼んだ.今や,生存のための遺伝子の戦いが描かれる.この理論が,サッチャーとレーガンの時代に発見されたことは偶然ではない.

その後,利己的という主張は後退し,新しい正統派は,制約のない強欲が経済的な破滅をもたらすことを知って,長期的な生存のためには,遺伝子的に道徳を重視するような仕組みがある,という.宗教的な信念は,社会的協力を可能にする.

われわれは,科学から,道徳性を救出しなければならない.生存だけでなく,良い生活を満たすこと,他者を思いやり,協力すること.われわれの本性は遺伝子によって決まっても,学ぶものは教育によって異なるだろう.


VOX22 January 2013

Monetary targetry: Might Carney make a difference?

Charles A.E. Goodhart, Melanie Baker, Jonathan Ashworth


l  北朝鮮の核ミサイル戦略

The Guardian, Thursday 24 January 2013

North Korea's game of nuclear brinkmanship

FT January 24, 2013

North Korea threatens new nuclear test

By Simon Mundy in Seoul

NYT January 24, 2013

North Korea Issues Blunt New Threat to United States

By DAVID E. SANGER and CHOE SANG-HUN

WSJ January 24, 2013

Young Kim Tests Washington


Project Syndicate 24 January 2013

Writing the Future

Jeffrey D. Sachs

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The Economist January 5th 2013

Japanese foreign policy: Down-turn Abe

The new politics of the internet: Everything is connected

Haiti: Still waiting for recovery

Argentina: The enemy within

Dubai’s renaissance: Edifice complex

The Irish economy: Fitter yet fragile

(コメント) 日本に関するマイナスのイメージは恐ろしいほどです.自民党が復活し,歴史認識問題のシンボルともいえる人物に首相を託して,旧式の景気回復策で構造改革を諦めた国に,何が期待できると言うのか? その感覚を否定できるような国内の動きを見つけたいです.

それと対照的な(しかし複雑な)楽観を,インターネット自由主義の特集記事が示しています.

危機や破綻,それからの回復,という意味で,震災後のハイチ,金融破たん後のアルゼンチン,ドバイ,アイルランド,がとても面白い内容です.・・・「バナナ共和国」から「NGOs共和国」になった震災後のハイチが.今また「失業者の国」になっています.・・・2001年の金融危機後,アルゼンチンのキルチネル夫妻が築いた権力構造は,当時と同じ,商店の略奪という情景にたどりつきました.・・・ドバイの超高層ビルが花火に包まれ,中東の政治危機や資本逃避,外国企業の楽園となる一方で,不動産危機後の債務処理が終わっていません.・・・アイルランド経済の再建は,ユーロ圏の緊縮策に忠実な成功例かもしれませんが,その最大の受益者が外国企業で,負担するのは国民である,という姿は,いつまで続くのか?

The Economist January 12th 2013

Reform in China: Great expectations

Race in the Netherlands: The aftermath of a football tragedy

Charlemagne: Celtic metamorphosis

Japan’s economy: Keynes, trains and automobiles

(コメント) 新聞の検閲や労働矯正収容所の改革を議論する中国には,成長にもかかわらず政治が示す時代錯誤の現実と,それゆえ,激しい改革の気運がみなぎっているのかもしれません.

他方,オランダのサッカー試合から生じた暴行・殺人事件と人種論争の政治化,アイルランドの政治経済モデルが持続的なものか,日本のケインズ主義的刺激策が旧式の公共投資と円安・輸出企業に頼る成長モデルを強化している,という記事に注目しました.

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IPEの想像力 1/28/13

NHKドキュメンタリーWAVE「毛沢東の遺産:激論・二極化する中国」を(後半だけ)観ました.

「中国・河南省鄭州に、17年も続く独特の“思想サロン”」を中心に,毛沢東支持派と反対派とが激論を交わす様子が映ります.支持派は,今の政治や経済のあり方が間違っている,毛沢東の理想を掲げて,根本的な刷新が必要だ,と考えます.他方,反対派は,今の改革開放をさらに進めるべきであり,毛沢東が支配的であった恐怖政治の時代に戻ってはならない,と考えるようです.(前半を観ていないので違うかもしれませんが.

私が驚いたのは,彼らの議論や思想を表明する激しさ,言葉を吐くことに込められる熱意です.映像に垣間見えたような,大きな荷台を人力で運ぶ労働者たちが競って働く横を,巨大なトラックや,豪華な乗用車が疾走します.ロックフェラーやモルガンなど,アメリカの興隆期を思わせるような事業家,資産家,富裕層が,国の富を集中し,政治エリートと結びついている社会を感じます.

私は,10年前の2003年に,中国を旅行しました(拙著『グローバリゼーションを生きる』第Ⅱ部 第2章).その当時も,こうした荷車や輪タクが,幅の広い(片側何車線もある),信号のない幹線道路を横断していました.中国のあまりに急激な社会変化は,革命なしに持続できない,と議論されていたのを思い出します.そして,意外に今でも,拙論の「結び」は変わらないな,と思いました.

毛沢東支持派も反対派も,現在の指導部には根本的な問題を解決する能力がない,と断定します.それでも彼らが毛沢東の権威を尊重し,毛沢東の思想の具体化を議論している限り,政府はあからさまに彼らを弾圧しないのか,と不思議に思うほど,その批判の言葉は痛烈でした.・・・都市で働く下層の労働者が,娘の結婚を祝う家具を買うために何倍も仕事を引き受け,過労死したことを語る若者,わずかな年金だけでは生活できない,医者にも診てもらえない,と憤慨する老人,・・・エリートたちの蓄財や無能さを呪う彼らの怒りの烈しさに目が覚めるような気分でした.

しかし,思わず一緒に観ていた子供たちに教えたのは,さまざまな主張の違いを超えて,その怒りがナショナリズムに向かうのではないか,という不安です.外国による支配,特に,日本の侵略が悪い,という点で国民の意見は一致し,政府・共産党への支持は(少なくとも短期的に)高まるからです.

『フォーリン・ポリシー・リポート 2013 NO.1』を見ると,「特集 チャイナ・クエスチョン:政治制度改革か体制崩壊か」として,いくつかの論説が紹介されています.・・・エリック・X・リ「中国の台頭は続く」,ヤシェン・フアン「追い込まれた中国共産党」,ライネッテ・H・オング「不動産バブルと農民の不満」.

「途上国の多くは,民主主義では自分たちが直面する問題のすべては解決できないことを学びつつあり」・・・「中国の成功と欧米の失敗」というコントラストは,「代議制民主主義だけを正当で効果的な唯一の統治システムと見なす概念」を廃れさせる,とエリック・リは主張する.

他方,フアンは,改革路線が中国共産党に生き残るチャンスを与える,と考えます.「段階的で平和的な民主体制への移行を達成するために先を見据えた改革アジェンダを模索すれば,中国は,中東を席巻しているようなカオスと激変を回避できるかもしれない.」

日本の政治家たちは,アメリカから中国へのパワー・シフトを恐れているでしょう.しかし,中国における国家から市民,あるいは豊かな個人へのパワー・シフトが何をもたらすのか,社会変動の行方を,中国の政治指導者とともに恐れることになるでしょう.

私たちはどうでしょうか? 改革をめぐって激論を交わす情熱を持たない私たちは,中国の台頭も,中国の民主化も恐れる,究極の保守的既得権層となって,グローバルな変化の辺境に取り残されます.それよりむしろ,中国の改革熱が日本に波及することを,私は願うのです.

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