IPEの果樹園2013
今週のReview
1/21-26
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中国の社会変化 ・・・イギリスのEU離脱論 ・・・日本の経済政策:アベノミクス ・・・インド中産階級の怒り ・・・オバマⅡの外交政策 ・・・マリへの軍事介入 ・・・雇用への圧力 ・・・アメリカの銃規制問題
[長いReview]
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l 中国の社会変化
BLOOMBERG Jan 10, 2013
Sexual
Denial Doesn’t Mix Well With Inequality
By William Pesek
中国の「一人っ子政策」が深刻な「女子不足」をもたらし,社会不安や近隣諸国からの女子輸入を生じている.習近平の指導部はこの政策を改革するだろうか? それが遅れるなら、アラブの春や,ブラジルのような犯罪社会の拡大につながる.
かつてヨーロッパが帝国主義的な膨張に向かった背景も,こうした人口の緊張状態であったかもしれない.
NYT January 14, 2013
Dim
Hopes for a Free Press in China
By XIAO SHU
中国最大の新聞の一つ,Southern Weekend,が検閲に反対してストライキを行い,当局が事前検閲を止め,編集部の独立性を拡大する,という妥協を示して再び発行された.新聞の価値は共産党への忠誠ではなく,報道のプロフェッショナリズムである,という姿勢を認めたのだ.
この数年間,社会不安と争議が増える中で,党は安定性の維持をますます重視するようになった.その一つは,メディアに対する統制の強化である.私は編集者として,共産党と対立することを目的とせず,バランスの取れた独立・中立性を目指してきた.それにもかかわらず,警告も説明も無しに,2011年3月に辞任を強いられた.それは北アフリカ・中東地域におけるアラブの春が中国に波及することを当局が強く懸念した時期だった.
調査報道と意見論説は,中国ジャーナリズムの証明であったが,党によって破壊された.しかし,Southern Weekendが高めた憲法順守の意識は,この先もジャーナリズムや国民に影響し続けるだろう.
WP January 17, 2013
Chinese
media open up about Beijing smog
中国の新しい指導部は市民の間に高まる不満に応えなければならない.政府の公的メディアは,ソーシャル・メディアの示す不満,国民の要求に,事実上,屈して,大気汚染のデータを公表し始めた.これまでの沈黙を破る社説は,大気汚染が人々を窒息させる,汚れた,有毒のものであると認めた.
l イギリスのEU離脱論
FT January 11, 2013
UK
should welcome timely words from US
By Gideon Rachman
イギリスが,ヨーロッパの動脈硬化した経済構造と異質な政治文化に統合するのは無理だ,と彼らは言い続けてきた.むしろ,同じ英語を話すアメリカとの「特別な関係」を強調した.没落するヨーロッパではなく,隆盛を誇るアメリカとともに進むべきだ,と.
彼らの英雄はマーガレット・サッチャーである.サッチャーはレーガンと盟友関係を築き,ヨーロッパ統合に反対を繰り返した.
だからこそ,アメリカ政府や,ジャーナリストなど,多方面から,イギリスのEU離脱を憂慮し,冷静に振る舞うことを求める声が出たことは,彼らにとって大打撃である.アメリカ大使館の地下会議室で,ヨーロッパ担当のPhilip Gordon次官補は指摘した.EUを離れたイギリスには価値が無い.EUに留まるイギリスとの同盟関係が,アメリカにとって重要なのである.
The Observer, Saturday 12 January 2013
Leaving
the European Union would be bad for Britain
Roger Carr
われわれは現在のEUが完璧であると信じてはいない.その官僚制やコストは,国際競争力を高める水準でなければならない.制度を整理し,規制緩和するべきだ.制度変化は続いている.われわれを抜きに,ユーロ圏諸国は変化しようとしている.
イギリスは,変化の触媒や先駆者になるべきだ.そのためにヨーロッパの同盟者を見出すことができる.イギリス文化,本能,経験は,変化を吸収するのに適しているはずだ.影響力を持つことで,EUの改善に参加すべきだ.離脱のために道を探すより,前進への道を探せ.
イギリスにとって,ヨーロッパの考え方を変えることは,優れた成長政策である.革新されたヨーロッパは世界貿易を増やし,持続的な成長を実現する.イギリスは島国であり,世界との貿易が富の基本である.
FT January 16, 2013
Passionate
European’s case for leaving
By Simon May
熱狂的なヨーロッパ人は,イギリスがEUを離脱することを歓迎する.すなわち,EUこそが戦後の政治プロジェクトとして最高の成果である,と考える人々だ.EUは,いろいろな欠陥もあるが,スイスのような連邦制になり,大統領を直接もしくは間接に選挙し,権限を持つヨーロッパ議会が支配するだろう.イギリス人は,そんなことが実現しないと思っていたから,支持したのだ.
イギリスの首相で,連邦制を支持した者はいない.EUが連邦制に向かうなら,なじみのない結婚を解消するのは当然だ.他方,イギリスのEU離脱に反対する主な理由は,ヨーロッパ単一市場と,国際政治における影響力,である.
イギリスが離脱しても,スイスと同様に,ヨーロッパ市場を利用できる.スイスは輸出の半分をEUに対して行う.イギリスの問題は,市場アクセスではなく,競争力である.ドイツと同じように,中国やアメリカの市場にアクセスできるが,イギリスの輸出は少ない.
離脱で影響力を失うか? 確かに世界貿易の交渉ではイギリスの影響力は小さいが,アメリカとのFTAのように,他の貿易圏は交渉を歓迎するだろう.他の問題では,イギリスがEUとともに制裁や介入に関与するだろう.
イギリスが対外的に重要な介入を行うときは,アメリカとともに行動した.アメリカがイギリスにEU離脱を思いとどまるように警告したとしても,だからと言って,ヨーロッパ最強の軍事同盟国であるイギリスに,イラクでも,シリアでも,イギリスからの支援は要らない,などと言うはずが無い.
FT January 17, 2013
Cameron’s
incurable European headache
By Philip Stephens
ユーロ懐疑論者のチャンピオンであるマーガレット・サッチャーは,EUの将来を超国家機関であると考える者に容赦ない攻撃を加えた.しかし,そのレトリックの裏では,イギリスの国益を冷静に計算していた.彼女は統合の政治的本質を理解していたのだ.1975年に加盟のための国民投票で支持を求め,EU加盟がイギリスのパワーを強める,と説得した.EUは「世界に向けた窓」であり,帝国の無いイギリスは,それなしには閉ざされてしまう,と.
l 日本の経済政策:アベノミクス
FT January 11, 2013
Japanomics
strikes a revolutionary note
By Peter Tasker
日銀が投資家たちに説明していたのを聞いたが,インフレに関しての説明は「人口減少」だった.デフレは日銀のせいではなく,日本の女性が子供を産まないことが悪い,というわけだ.
15年前に,Milton Friedmanは,10年に及ぶ日銀の無能さを経済停滞の原因に挙げた.また,デフレ状態では,名目低金利は金融緩和ではない,と断言した.日本の政治家たち,そして安倍首相は,そのメッセージを聞いたのだ.財政刺激策を復活させ,特に,攻撃的な金融政策を主張した.すなわち,日銀の独立性を否定し,インフレ目標を政府が指定し,円安を要求した.
それは従来の二つのタブーを破るものだ.一つは,競争力を維持する為替レートを介入によって実現すること.もう一つは,中央銀行の独立性を奪うこと.前者は,スイスも,韓国もやっているが,G8では日本だけだ.後者は,バーナンキもドラギも微妙な形で政治的要求に配慮している.
金融政策は,債権者と債務者の間で,また老人と若者の間で,分配に影響を与える.それは政治的であることを免れない.また,あらゆる官僚制度がそうであるように,日銀も自分たちの権威と影響力を強めることにこだわる.
アベノミクスが不安よりも賞賛を呼ぶとしたら,輸出企業の世界市場シェアが回復し,税収が増え,株価が上昇し,多年に及ぶ強気相場が実現して,国債価格の暴落を予言する者がマヤ文明の預言者と同じだった,とわかったときだろう.
NYT January 13, 2013
Japan
Steps Out
By PAUL KRUGMAN
先進世界の経済政策は,この3年間,高い失業率にもかかわらず,憂鬱な正統派の考えに拠って機能マヒしている.財政刺激策は,債券市場によって罰せられる,紙幣を印刷すれば,インフレ率が急騰する,という「あまりにも真面目な人々(VSP)」“Very Serious People”が何もするなと主張するからだ.その結果,そのうち成果があるのを期待して,愚かな緊縮策にしがみついている.
しかし,今,そのもっとも期待されていない国から新しい政策が登場した.・・・日本だ.
安倍の外交政策は非常に悪いし,自民党の政治が予算の奪い合いでしかない,というのは正しいかもしれない.しかしそれは,伝統的な見解を打破してマクロ経済政策を是正することと関係ない.彼の動機が何であれ,間違った正統派を破壊する.
FT January 15, 2013
Japan
should rethink its stimulus
By Adam Posen
財政赤字の能力が尽きるとき,何が起きるのか?
これほどの債務があっても,日本が危機を免れてきた理由は4つある.1.日本の民間銀行が国債の購入を促された.2.それを支えるため,日本の預金者が低金利を耐えた.3.国債の外国人保有率が低く,日銀が購入を強いられたため,市場圧力が生じなかった.4.GDPに占める政府支出と税収の規模が低かった.
これらの要因は,危機を回避したが,日本経済にコストをもたらしている.すなわち,国債購入に頼る銀行は融資を望まない.特に,回復期も中小企業は借入れに苦しんだ.高齢者の貯蓄に対する低金利は消費を抑え,デフレとの悪循環を生じた.外国からの市場圧力が働かないまま,円高と株価低迷に苦しみ,経済をゆがめた.医療の整備や災害からの復興に必要であった公共投資が,国債の維持コストによって締め出された.
安倍首相と,顧問の浜田宏一が,日銀による広範な資産購入を通じた金融緩和を求めるのは正しい.それは効果があるだろう.しかし,景気循環に対応しない財政政策を続けることは,ヨーロッパのように緊縮し続けるのも,日本のように規律を無視して刺激し続けるのも,深刻な結果に至る.
自国通貨を持つ大規模な国の場合,「壁に衝突する」ことはない.しかし,財政赤字の限界を超えると,活力が失われ,景気回復しない状態になる.
Project Syndicate 17 January 2013
The
Wrong Growth Strategy for Japan
Martin Feldstein
安倍晋三が率いる日本の新政権は自滅するだろう.財政刺激策は,日本政府や企業の優位を支えた低金利を破壊するからだ.
それは安倍によって終わる.安倍政権はインフレと円安を目指し,日銀に金融緩和を求め,総裁人事を行うだろう.金融市場は反応している.政府は,インフレによって実質債務を減らすことも望むだろう.市場はそれを恐れて,実質金利を上昇させている.
インフレや円安が無くても,近年,日本の国内貯蓄は急速に減っており,経常収支黒字も急激に減っている.経常収支が赤字になり,円建の国債で財政赤字を賄えばくなり,ドル建など,外貨建の国債を発行するだろう.
l インド中産階級の怒り
WP January 18, 2013
The
Indian Spring
By Fareed Zakaria
反汚職のNGO代表であるArvind Kejriwalは,「インド人は最高だ」・・・「しかし,彼らのガバナンスは最悪だ.その政治も最悪だ」と述べた.抗議運動と国民の憤慨は,インドの経済発展を示している.
政治家たちは古いシステムに固執するが,変化は三つの力でやってくる.民主主義,資本主義,技術革新だ.市場改革が富をもたらし,政治エリートへの依存から抜け出して,経済の自律性を高める.資本主義はカーストや女性に関わらない.開放的で自由奔放な民主主義と,新興市場の成長が合わさって,インドに情報革命の爆発をもたらした.数十の言語で,300チャンネルを超えるテレビ番組が放送され,国民の4分の3が携帯電話を持つ.それは政治的変化を促す.
インド版の「アラブの春」が進行している.人々がシステムに要求する.中国では,習近平が改革派であるかどうか,を問題にする.インドでは,国民が改革を支持するかどうか,が問題だ.インドのように巨大で,開放的な,騒々しい民主主義では,それが変革の唯一の道だ.アメリカもそうである.
l オバマⅡの外交政策
NYT January 12, 2013
The
Obama Synthesis
By ROSS DOUTHAT
ヘーゲルChuck HagelとブレナンJohn Brennanの指名は,オバマが2期目の外交政策を,ジョージ・W・ブッシュの外交,特に反テロ政策を支えた2人の総合によって推進することを示している.ヘーゲルは,共和党員でありながら,イラク戦争に反対する立場に代わった人物であり,ブレナンは,外国における容疑者への尋問,という論議を呼んだ方法を指導した人物だ.
オバマは,ブッシュのような中東民主化のような目標を掲げず,革命的な見解が求める軍事的関与を拒んだ.ヘーゲルは国防予算を削減するだろう.またブレナンの指名は,オバマがブッシュ政権の反テロ政策を継承し,拷問は否定しても,殺害目標を公表しないドローンによる攻撃を続けることを示している.
こうして2期目の「オバマ・ドクトリン」が定義される.地上部隊は減らすが,空からのドローン攻撃は続ける.暗殺は認めるが,国家再建(体制転換)は認めない.グローバルな帝国の目標を持たない,帝王的な大統領だ.
このドクトリンは,戦争に疲れたが,9・11の記憶を失わないアメリカ国民に支持されるものだ.リアリスト的な外交政策は,政治的な勝利でもある.民主党の反戦論者を中立化し,共和党の軍事的タカ派を孤立させる.
しかし,予期しない形で危機はこれからも起きる.オバマの国家戦略はブッシュの大失敗から後の修正に成功した.重大な選択の及ぼす波紋は,今も広がっている.イラク撤退,アフガニスタン増派と撤退,リビア介入とシリア不介入.政策選択が成功したとは決して断言できない.
外交において,いかなるイデオロギーも成功を保証せず,すべてはバランスの中での行動である.コストのともなわない有効な行動もない.新しい政策の結果を,常に精査し続けることだ.
l マリへの軍事介入
NYT January 14, 2013
Why
We Must Help Save Mali
By VICKI HUDDLESTON
マリの民主政権が,犯罪者,テロリスト,イスラム過激派のネットワークによって破壊されるのを阻止するため,フランスが空爆しなければならなかった.それをしなければ,内陸の貧しい国が,ジハード主義者たちに占拠されるだろう.
アメリカは各地で軍事行動に関与しており,リビアにも協力した.これ以上,アフリカ北部まで部隊を派遣できない.フランスが負担するべきだ.マリの軍隊は砂漠の暴力的な過激派たちを恐れている.ナイジェリアが部隊を送るのでは役に立たない.アルジェリアだけが,この地域で,有効な軍隊を持っている.アルジェリアの協力が必要だ.彼らならテロ集団と交渉できるだろう.
FT January 16, 2013
France
had to intervene in Mali
By Gérard Errera
マリの部隊には能力が無く,アフリカ諸国の動きは遅かった.テロ集団がマリの首都に向かう速さが,フランスに単独介入を迫った.
行動しないことは選択肢になかった.首都バマコを制圧され,マリがアフガニスタンのようなテロリストの拠点になるのを許すことはできないからだ.北アフリカはヨーロッパの対岸であり,地中海の縁に直接の脅威が広がる.
この軍事行動は,6000人のフランス人を守るものであり,ロシアや中国を含めて,国連安保理やアフリカ諸国からの支持を得ている.アフリカのフランス語圏を守る新植民地主義だ,という批判は意味が無い.
ヨーロッパ市民が事態の深刻さを理解するなら,アメリカ人に火星の軍事介入は任せて,自分たちは金星で芸術を語る,という主張に終わらないはずだ.ヨーロッパの重大な利益を守るのは,必要なら軍事力を使っても,自分たちでしなければならない.
l 世界貿易の自由
FT January 13, 2013
Too
much legitimacy can hurt global trade
By Arvind Subramanian
IMFや世銀と違って,WTOの正統性が低下しているのは,民主主義が過剰に制度を制約しているからだ.WTOの小さな加盟諸国が,事実上,拒否権を行使できるために,主要な貿易国はWTOの外で二国間や地域通商協定を結び始めた.その最大の責任はアメリカにある.
主要国が互いに条約を結ばなかったから,貿易自由化は一方的な自由化や地域協定で実現してきた.しかし,アメリカが進めるTPPに日本も参加し,アメリカが大西洋自由貿易圏も目指すのであれば,WTOの支持した世界的な自由化は終わるだろう.
l 雇用への圧力
Project Syndicate 15 January 2013
Technology
and the Employment Challenge
Michael Spence
新技術,グローバリゼーション,雇用の地理的再配分,・・・グローバル・サプライ・チェーンは,ますます競合する経済活動の間で,人的資源や他の生産資源を再配置する.その結果は,グローバル・サプライ・チェーンの「原子化」である.それぞれの生産活動は近接性や地域性を剥奪され,世界のどことでもつながるが,誰とも緊密な関係を維持しない.
そのもっとも重要な要素は,投資,である.個人,制度,教育システム,先進諸国の政府にとって,広範な基礎に立つ,高度かつ効率的な,教育や技量への投資が重要だ.競争的であるには,人的資本だけでなく,インフラ,税制,規制,政策のもたらす不確実さ,エネルギー,医療コスト,といった要素にも関係する.
l アメリカの銃規制問題
NYT January 16, 2013
Lessons
From Guns and a Goose
By NICHOLAS D. KRISTOF
アメリカの話をすると,アメリカ人の命はそれほど安いのか,と言われる.
私は,オレゴン州のYamhillにある牧場で,銃を愛する風土に育った.12歳の誕生日に,父がライフルを買ってくれた.農場にはライフルが必要だ.子羊を狙うコヨーテを追い払う.実際,銃を撃つのは楽しい.しかし,銃があれば安全とは限らない.
ガチョウを飼う隣人がいた.ガチョウはどこにでも入り込み,他人の牧場で羊の水飲み場に飛び込んだ.羊の飼い主はこうしたことに不満を高め,ついにガチョウに銃を向けた.それは脅すためであっただろうが,これを観た隣人はガチョウを守るために銃を取った.彼らは銃を持って対峙したのだ.
羊の飼い主の妻が冷静に説得して,二人は銃を下した.ガチョウは救われたが,隣人たちも生き延びた.
アメリカにおける銃の保有は,身を守ることを超えて,対立を殺し合いにする.食器を投げ合う恋人たちが,最後には銃を取る.脅しであっても,間違いが起きる.銃による死亡は,侵入者による殺害より,12倍も多い.銃を保有する過程では,自殺率が3倍も高い.
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The Economist December 21st 2012
(時間切れのため,次週に回します.)
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IPEの想像力 1/21/13
アベノミクスに関するNHK「日曜討論」を観ました.
浜田宏一,野口悠紀雄,岡村正日本商工会議所会頭(元東芝会長),甘利明大臣が出席していました.浜田氏は安倍首相の相談役(内閣官房参与)であり,野口氏は日銀の主張を支持しています.岡村氏は産業界の意向を代表し,甘利氏は安倍政権の経済再生担当大臣,という適切かつ興味深い人選であったと思います.
浜田氏は,デフレを放置してきた日本銀行の姿勢(金融緩和が不十分,引き締めに傾く)を批判しました.大恐慌や日本のバブルに関して,バーナンキ連銀議長が主張したことを挙げたと思います.これに対して野口氏は,過去のデータが日銀の金融緩和には効果が無かったことを示している,と主張しました.日銀が資金供給しても,民間銀行は融資できなかった,企業の側で借入需要が無い,というのです.
浜田氏が,これについて野口氏に反駁したのは,日銀が広範な金融資産を買い入れるべきだ,という点でした.中小企業が融資を得られないのは,担保が無いからである.日銀が土地や株式も含めて,欧米が今やっているような,金融緩和を行えば,担保の価値も増大し,融資が増えるはずだ,ということです.
安倍政権の財政刺激策については,両者が一致して,新しい産業を生み出せなければ効果は持続しない,と考えます.(そして民間企業が投資する結果は,厳しい市場競争にさらして判断するしかない,という意味であったと思います.)
また浜田氏は,円安にすることは金融緩和の正しい過程であり,IMFのラガルド専務理事が「通貨戦争」と非難したことは間違っている,と主張しました.(マンデルが主張したように,資本移動のある変動レート制下では,金融緩和で円安が進むからこそ,円高になる財政刺激策よりも,効果がある.)
野口氏は,政府が日銀に国債を買い取らせるような事態が起きないように,日銀の独立性は重要だ,と主張します.特に,日本の国債残高は債券市場で極端な反応を引き起こしかねない,と日銀を攻撃する政府に警告していたと思います.浜田氏も,将来,どのような政府が現れて日銀に間違った政策を強制しないとも限らないから,金融政策手段の決定は政府から独立しているべきだ,と同意しました.しかし,インフレ目標は政府が決めるべきだ,と区別します.
甘利大臣は,日銀法の改正ではなく,政府と日銀との合意文書にする,と説明しました.しかし,民主党政権が中長期のインフレ目標を合意したことを批判し,長期ではだめだ,と主張します.岡村会頭は,政府と日銀が協力して(デフレと円高を解消して)ほしい,と望みました.
経済再生を政府からの補助金に頼るような発想は間違いだ,と浜田氏は自民党の姿勢を批判し(野口氏を支持し)ました.甘利大臣は,公共投資が被災地の復興や防災のためのインフラ整備など,効果的なものに絞っている,と説明しました.
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Peter Tasker,Paul Krugman,Adam Posen,Martin Feldsteinの論説を見てください.とても面白いはずです.
私は,金融緩和で円安をもたらし,デフレを解消することに賛成です.政府による日銀批判には反対です.被災地の復興支援やインフラ整備には賛成です.特に,新規の民間投資や技術革新に結びつくものであれば.しかし,財政赤字には限界があるでしょう.債券市場の転換がいつ起きても不思議ではない,と思います.消費税の引き上げや,公務員の削減など,政府が模索するのは重要です.それは緊縮策としてではなく,ガバナンスを改善し,活発な民間投資と雇用を増やす,と思うからです.円安による「通貨戦争」を避けることも重要です.
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Reviewの2つの話に注目しました.銃を向け合った隣人の話と,ヨーロッパではなく,アメリカとの統合を目指すイギリスの話です.前者は,日本と中国との関係,後者は,日本とアメリカとの関係,を示しているように感じるでしょう.
宇宙人の修学旅行生が京都に来たら,今の日本を少しは楽しむかもしれません.なるほど,こうして地球の秩序も変わるのかな? と思って.
http://www1.doshisha.ac.jp/~yonozuka/ipe_notes_2010/020110note.htm
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