IPEの果樹園2013
今週のReview
1/7-12
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ユーロ圏の政治 ・・・中国と政治改革 ・・・アメリカの経済政策 ・・・安倍政権 ・・・アジアの成長と政治 ・・・モスクワの憂鬱 ・・・グローバリゼーションの逆転 ・・・財政の崖 ・・・グローバルな逆転
[長いReview]
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l ユーロ圏の政治
FT
January 2, 2013
Europe:
Burnt and abandoned
By James Fontanella-Khan
Peter Hulsmansは,ベルギーのGenkでFordの自動車工場に26年間働いた.重役たちが雇用を削減するのか,と思ったら,工場が閉鎖された.4300人が職を失う.「小さな会社より,多国籍企業の方が安定している,と思ったが,間違いだった.」
経済の回復は遅く,投資は新興市場に向かい,ヨーロッパで減少している.外国企業は,かつて,成長は遅いが確実なヨーロッパを好んだが,今では急速に工場を閉鎖している.ユーロ圏全体で,記録的な失業が生じている.
彼らが最も恐れるのは,ユーロ圏全体が何十年の停滞する,「新しい日本」になることだ.
Project
Syndicate 02 January 2013
Europe’s
Next Great Mistake
Harold James
ヨーロッパが直面する赤字問題とは,財政だけでなく,政治指導力の赤字である.偉大な指導者は去って,市民たちは官僚とテクノクラートによってEUと結びつく.欧州委員会のJosé
Manuel Barrosoは,次の欧州議会選挙を,イデオロギー的に似た政党を統一し,委員長の共通候補者指名を行って闘うように求めている.
これはイギリス元首相のTony
Blairなども支持していた.しかし,ヨーロッパを既存の政治集団から2大政党,社会民主党と「人民諸政党」に分けるのは間違いだ.イギリスの政党モデルは,極端な主張によって中道派の支持を失った政党が次の選挙で負ける.それゆえ社会的な合意の形成を重視するだろう,と考えている.
しかし,このモデルを導入した他の諸国,特に,イギリスの多くの旧植民地,アフリカの新興独立国で生じた結果は破滅的であった.人々は,単純な右派と左派の政治的軸によって自分たちを分類せず,旧来の集団やエスニック間の対立によって政治を動かしたからだ.アメリカの政治も,政治的な穏健化よりも,ますます過激化を進めて衝突を繰り返している.
2大政党制は,経済的な利益だけを重視した政治を仮定しているが,ますます緊密に統合された世界では,左派も右派も市場から排除されることを恐れ,政治的な選択を制限されてしまう.もはや左右の対立は機能しない.ヨーロッパの政治を新しい左右の対立に整理することは,再分配をめぐる政治闘争に向かうだろう.しかし,誰に対する,どのようなメカニズムによる,再分配か?
スペインの社会党員が,ドイツの社会民主党員に親しみを感じるより,カリスマ的な指導者によってナショナルな集団が復活するかもしれない.それは新しいチャーチルより,新しいヒトラーを育てる.
l 中国と政治改革
WP December
28, 2012
Chinese
investment means opportunity for U.S. workers
By John Pomfret
デラウェアの破産法廷は,バッテリー製造業のA123社を$256.6 million で買収する,というWanxiang
Americaによる申請を認めた.共和党の上院議員や旧軍関係者,業界の専門家には反対する声もあるが,中国企業(のアメリカ子会社)によるアメリカ企業の買収はアメリカ人の雇用を増やし,利益になるケースも多い.
中国型資本主義の発展は非常に複雑である.米中関係が深化するにつれて,アメリカ人は中国企業の活動を区別しなければならない.「中国企業」をすべて同じと考えてはいけない.
Wanxiangの成功は,アメリカのハイテク技術を中国市場のスピードと好みに合わせたことであり,アメリカ製造業の資産が不況によって価値を失っているのを安く買い取ったからであるが,さらにアメリカ人の雇用を守ったことである.こうしたケースは増えている.2000年に,中国企業が雇用するアメリカ人は2000人に満たなかったが,現在では2万7000人である.
中国企業の行動には,品質の低さや,産業技術の盗用など,疑うべき点も多い.しかし,今起きている「中国企業家精神のビッグバン」から,アメリカ経済や労働者が大きな利益を受ける機会も豊富にあるだろう.
l アメリカの経済政策
NYT December 27, 2012
Is
Growth Over?
By PAUL KRUGMAN
財政の崖やユーロ危機,日本のデフレ脱出策が関心を集めるが,長期の成長はどうなるのか?
Robert Gordonは,長期の成長は一群の技術革新によって決まる,と考える.すなわち,第1に,蒸気機関,第2に,電化,第3に,情報技術がそうであった,と.
確かに,情報技術はまだ人間に比べてあまりにも不完全で,簡単な認識も機械にはできない.しかし,Gordonは情報技術の可能性を過小評価している.それは次第に小さな機械によって生産性を高めるだろう.すなわち,高度な技術労働者も含めて,人間労働を大規模に不要にする.
問題は,その生産性上昇が,誰に利益をもたらすのか,である.もし現在のような不平等化が続くなら,長期の成長は妨げられる.
WSJ
January 2, 2013
The
Fed's Dangerous Direction
By MARTIN FELDSTEIN
連銀の「非伝統的な金融政策」として長期金利を下げる試みは,将来の金融バブルをもたらし,インフレを高め,政府の債務を増やしている.それは中央銀行のコミュニケーション戦略として大失敗である.議会とオバマは合意を達成する市場圧力を緩和された.
連銀は長期債の購入をやめ,長期的な物価の安定を目指す方針に戻すべきだ.
l 安倍政権
Project
Syndicate 27 December 2012
Asia’s
Democratic Security Diamond
Shinzo Abe
中国は,次第に,南シナ海と東シナ海を占領しつつある,日本の尖閣諸島もその一部である.インド洋と太平洋とはつながっており,その安全保障を日本は一体として考えねばならない.最大の民主主義国家であるインドと協力して,日本は中国がこの海域を支配し,「北京の海」にするのを阻むつもりだ.
Project
Syndicate 28 December 2012
Shinzo
Abe’s Monetary-Policy Delusions
Stephen S. Roach
安倍は,日銀に金融緩和を強制すると宣言して,選挙の争点にした.白川総裁の任期が4月に終わるから,安倍が次の総裁を指名できる.金融緩和を要請するだろう.
しかし,それは有効な政策であるのか? その効果は非常に疑わしい.
量的緩和(QE)は金融危機の最悪期を回避するのに役立ったが,景気回復は実現できなかった.バブル破裂後の経済は債務の縮小に向かうから,通貨供給を増やしても消費や投資は増えない.ゼロ金利は「流動性の罠」に陥っている.QEは景気回復に役立たないばかりか,国債を大量に購入することで,金融政策と財政政策の区別を失わせる.
アメリカやヨーロッパが苦しむ現状を,日本は2000年の前半から行ったQEの教訓として学んだはずだった.極端な金融緩和は破たんした銀行や企業(ゾンビ企業)の延命を助けただけで,実際の景気回復には,バランス・シートの整理や構造改革を進めるしかなかった.
アメリカは,日本と同様の停滞を経験し,独自のゾンビ消費者を抱えている.ヨーロッパも,ECBの金融緩和にできることは限られていた.構造改革には長い時間がかかる.
安倍の示す「治療」は,むしろ苦しい構造改革を逆転させる動機を与えるものだ.アメリカ連銀,ECB,日銀が一斉に金融緩和しても,実体経済を牽引することはないし,バランンス・シートの改善や構造改革を実現することもない.世界の資産市場には大量の流動性が蓄積され,それは次の危機を待っている.
SPIEGEL
ONLINE 01/03/2013
The
Greece of Asia
Japan's
Growing Sovereign Debt Time Bomb
By Anne Seith
日本は,ギリシャよりもひどい財政状態であるのに,東京には派手な消費が楽園のように広がっている.日本政府の債務は11兆ユーロに達し,GDPの230%である.ギリシャでも165%でしかない.
金融緩和だけでなく,政府が改革を実行しなければならない.安倍は,以前と同様に,財政刺激策を準備する.それらはかつて,規制などによって景気回復に至らなかった.
おそらく日本に大規模な債務危機は生じないだろう.小さな危機を繰り返しながら,まだ相対的に低い税率を引き上げるだろう.しかし,投資家心理が急変することもある.もしそうなれば,その衝撃はギリシャどころではない.
l アジアの成長と政治
FT December 28, 2012
The
east will rise above the west
Kishore Mahbubani
2012年に,約5億人がアジアの中産階級になった.2020年までに,その数は17億5000万人になる.彼らは全ての製品に需要をもたらす.たとえば,1990年,インドには携帯電話が一台もなかった.2010年に,7億2500万台があり,今はスマートフォンに転換しつつある.2015年には7900万台のスマートフォンを持つだろう.アジアの旅行熱も盛んだ.
知的,精神的変化も起きている.Nalanda
Universityは,Amartya Senが復興を目指すが,2013年に最初の卒業生を出した.それは少数であるが,イェール大学とシンガポール国立大学から集まった優秀な若者たちによる,東西の文明を融合する試みである.彼らが21世紀の主要なダイナミズムを吸収するだろう.
確かに,2012年は地政学的な問題も多く起きた.しかし,各国は失敗から学ぶだろう.プノンペンでASEANの分裂を導いた中国の行動は,習近平が国内権力を確立すれば,より穏健な方針に戻るはずだ.鄧小平は,中国がその強さを誇示しないように教えた.
東から日は上り,西では日が沈む.21世紀の後半に歴史は転換し,衰退する西側は信じないだろうが,中国はより安定し,予測可能な指導的国家になる.
Project
Syndicate 03 January 2013
Dynastic
Asia
Kishore Mahbubani
アジアでは多くの国で政権を親族が継承する事例が続いている.韓国,中国,日本,北朝鮮,さらに,フィリピン,マレーシア,シンガポール,インド,パキスタン.
Xi Jinpingに対して“princeling”と呼ぶのは不適当である.彼はその呼称が意味するような優雅な生活を送ったことはない.父親は毛沢東によって追放され,文革前でも,農村で働いた.彼の世代が経験した苦労を味わったのだ.特権としてではなく,権力を行使する地位の責任を,彼は強く感じているだろう.
アジアに増大する中産階級は,王朝ではなく,より有能で,責任を果たす,優れた政府を求めている.
l 破綻国家
NYT
December 28, 2012
Save
Mali Before It’s Too Late
By OUMOU SALL SECK
「もし領土の広大な部分をテロリストや麻薬密売業者が占拠し,彼らが女性を強姦して結婚を強制したら,アメリカ政府はどうするだろうか? 子供たちが徴兵され,教育を奪われ,市民は手足を切断されるとしたら.それこそ,かつて平和で民主的なマリの国民に起きていることだ.」
l モスクワの憂鬱
FP
DECEMBER 28, 2012
You're
a Mean One, Mr. Putin
BY ANDERS ASLUND
モスクワの,寒い,雪の12月.1991年のソ連崩壊以来,これほど沈鬱なムードの首都を見たことはない.強まる弾圧はプーチンを恐れさせているが,彼への敬意は急速に失われた.敵意と怒りが満ちているが,人々の思いはバラバラだ.
そのムードはブレジネフ時代の末期を思わせる.誰もシステムが維持できると思わなかったが,それをどう変えたらよいかわからなかった.不満は高まったが,反対派の勢いは失われた.なぜなら人々には対案が無く,プーチンに代わる指導者も改革案もなかったからだ.中産階級の上層は,いつも国外移住を話題にした.いつ,どこへ移るか? 彼らの未来は海外にある.
ムードが変わったのは2011年11月の議会選挙であった.大規模な不正が行われた.彼の戦術は鋭さを失い,演説や長時間の記者会見は中身がなかった.プーチンは安定の保証人ではなく,突然,不安定化の源泉になった.そして,さまざまな政治的反対勢力を弾圧し,ナショナリズムやロシア正教を奨励した.プーチンには,基本的な価値が無く,それゆえ彼の政治支配には正統性が無かった.安定性や成長は無限に続くものではない.
l グローバリゼーションの逆転
WP December
31, 2012
Can
globalization survive 2013?
By Robert J. Samuelson
2013年の決定的な問題は,グローバリゼーションの逆転(“deglobalization”)は起きるのか? である.経済停滞とナショナリズムが支配的になるか,あるいは,世界経済は安定し,政治的に受け入れ可能な形のグローバリゼーションが持続するか?
脱グローバリゼーションには,アメリカにとって魅力的な響きがある.海外の生産拠点と雇用がアメリカに戻ってくる,と思うからだ.中国の賃金上昇もあって,アメリカの経営者の意識が変化している.この変化はまた,アメリカの輸入を減らすだろう.資金の移動に関しても,ヨーロッパの金融的混乱は同じ効果を持っている.
それを歓迎する意見もあるが,David
Smick(the International
Economyの編集者)はグローバリゼーションに代わるものはない,と考える.より大きな市場,より安価なコスト,それらを求める投資が世界中に成長と雇用をもたらす.それは弱まったが,代わりはない.国内需要は不十分で,中央銀行の金融緩和は安価な融資でその穴を埋めようとしている.しかし,それは少ない需要を求めて輸出を競う通貨戦争,資産バブルの後,破滅をもたらす.
l 財政の崖
NYT
December 30, 2012
Brewing
Up Confusion
By PAUL KRUGMAN
Howard Schultz(the C.E.O. of Starbucks)は,善意で主張しているにしても,間違っている.
政治家たちが,債務を減らすために妥協し,協力するべきだ,という主張は,財政赤字の問題を理解していない.「財政の崖」が意味するのは,財政赤字を一気に縮小することが不況につながる,という問題である.
確かに,政治家たちは妥協できなかった.しかし,オバマ大統領は多くの妥協をしたのだ.財政支出を削ったし,社会保障も削ると約束した.富裕層へのブッシュ減税も大部分を残すと表明した.他方,共和党は何も妥協していない.税制の穴をふさぐ,と言うが,その中身を示さない.
それにもかかわらず,Schultz
やFix the Debtが「妥協」を求めるのは,共和党の財政均衡を主張する極端な姿勢を支持していることになる.
FT
January 2, 2013
US
has been let down by its leadership
By Nouriel Roubini
民主党も共和党も,グローバリゼーションと技術変化,人口圧力の時代に必要な福祉国家を維持するには,富裕層だけでなく中産階級にも増税する必要を認めない.
債券市場は反応していない.それは,成長は低いがインフレはさらに低い,ドルは準備通貨であり,財務省証券は資産の避難所になっている,金利がゼロである,連銀は量的緩和を続ける,中国と新興市場は自国通貨の増価を避けるためにアメリカ・ドルを保持し続ける,と考えるからだ.
しかし,最後には債券市場が目覚めるだろう.
WP January
4, 2012
What’s
missing from the cliff debate: Growth
By Fareed Zakaria
「財政の崖」を避ける合意よりも,アメリカはもっと重要な課題に応えなければならない.アメリカの成長が減速し,失業や賃金の低下が続いていることだ.
技術革新とグローバリゼーションが高賃金国としてのアメリカに厳しい圧力をかけている.成長を回復する戦略を欠けば,政府長期債務の増大などの問題は悪化し続ける.もっと競争力を高めるような改革と投資,若い世代の教育が重要だ.
世銀やIMFが対外赤字や債務危機に陥った国に指導しているように,財政赤字を減らして安定化を求めるだけでは十分でない.構造改革を行い,人的・物的資本に投資しなければならない.
かつて日本が世界1の経済国家になると予測したEzra Vogelは,最近,日本の経済的奇跡は本物であったけれど,1990年代の挑戦に政治システムが対応せず,解決できなかったことは予想していなかった,と弁明した.現在,日本は豊かな国であるが,その未来は縮小している.一人あたりのGDPは世界の24位であり,低下しつつある.政府債務はGDPの230%に達している.
われわれは20年後に,こんなふうに後悔したくないだろう.アメリカ経済は基本的に活力を保持していたが,政治が行き詰まって,日本と同じ運命をたどったのだ,と.
l グローバルな逆転
FT
January 3, 2013
The
decline of western dominance
By Samuel Brittan
未来について断言するのは愚か者だけである.ヨーロッパ文明を終焉させるほどの世界大戦であったが,1913年の初めに戦争を予想した者はほとんどいない.すでに分かっている傾向から考えることだ.
世界人口は70億に向かって増えているが,アメリカと西欧を足してもその人口は7億7000万人にすぎない.一人当たりGDPは世界平均の3倍もあるが,グローバリゼーションの中で,この差がいつまでも続くことはないだろう.
コロンブスの大航海から数年後の1500年,中国とインドはどちらも総GDPでヨーロッパを超えていたし,一人当たりGDPでもわずかに少ないだけだった.その前になると,1000年ころには,どこも同じような生活水準で,中国が少しリードしていただろう.これまでの逆転は始まっている.世界のGDPはすでに半分が新興市場や発展途上諸国によって生じている.
21世紀にグローバルな転換が起きても,それは中国の支配を意味しない.中国が最大のGDPを得るのは人口規模が重要な理由であるし,インドがそれを抜くだろう.中国以外にも,BRICsに加えて,メキシコ,インドネシア,ナイジェリア,トルコが現れる.中国は多極化した世界の一つになる.また一人当たりGDPでは,21世紀もアメリカが最大であろう.
より驚くべきキャッチ・アップは,国際資本移動である.裕福な西側は貧しい発展途上諸国に資本を流出させると思われたが,既に逆転している.中国など,新興市場の貯蓄が,アメリカなど西側の経常赤字や財政赤字に融資している.西側の依存は,金融危機後に低下するだろうが,なくならない.次には,アフリカのような地域に向けた証券投資,直接投資でも,逆転が起きるだろう.
それは,アメリカやヨーロッパへの証券投資や企業買収にもつながる.今はそれを歓迎しているが,将来も友好的な形で続くとは限らない.
l イデオロギーの囚人
FT
January 3, 2013
The
new prisoners of ideology
By Philip Stephens
「保守派のプラグマティズムに何が起きたのか? イデオロギーは左派のものだった.右派は権力の行使に関心があった.しかし,大西洋の両側で保守派の姿勢は逆転した.今や保守派はイデオロギーの狂信者になって,幅広い中道派を見捨てて,イデオロギー的な絶対論に殉じる.リベラル派や社会民主派は新しいリアリストになった.」
アメリカ議会の共和党員はあらゆる増税を拒否する.イギリス議会の保守党員はヨーロッパからの離脱を主張する.彼らは,選挙の候補者選択を通じて,ますます原理主義に向かって勢力を増やしている.しかし,右派は選択しなければならない.近代社会の優先順位や道徳を守るのか,あるいは,イデオロギーの囚人となるのか?
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The Economist December 22nd 2012
The gift that goes on giving
Japan’s election: Go on Mr. Abe,
surprise us
Hell: Into everlasting fire
The Senkaku or Diaoyu Islands: Narrative
of an empty space
(コメント) 世界経済の回復が確かではないのに,金融政策や財政政策に限界があり,ドーハ・ラウンドやG20による政策協調も進まない.アメリカは地域の自由貿易協定を,EUは域内の完全な市場統合を進めて,貿易自由化を進めるべきだ,と主張します.他方,日本における自民党の勝利,安倍政権の成立は,民主党の失敗によるものです.安倍は,景気回復を図ると同時に,日中・日韓関係の改善を目指して,領土紛争は鎮静化に努め,学生の相互交換を進めるべきだ,と記事は主張します.
クリスマス・新年特集号として,多くの特別記事がありますが,あまり読めませんでした.最初の地獄の話と,次には,尖閣(or釣魚)諸島の話に,独特な姿勢を感じます.確かに,尖閣諸島は沖縄の一部であるかもしれないが,沖縄はどうなのか? という不安or特殊さです.
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IPEの想像力 1/7/13
1月2日にTEDを観ました.12歳の作家が「もっと大人は子供から学べ」と呼びかけ,子供の発想の方が自由で柔軟だ,と説明します.無責任な大人もいるのに,「子供っぽい」ということで決定から子供を排除するのは間違っている.
インドの作家は異なる視点が見えるiPad絵本を提供しました.たとえば,赤ん坊をお風呂に入れている.その絵を揺さぶると,カップルは男女から,男二人のホモセクシャルに変わり,また揺すると,女二人のレズビアンに変わります.インド独立の歴史は,揺さぶることで,イスラム教徒から見た歴史の絵になり,また,イギリス帝国から見た歴史にもなる.私たちは,一つの観方に縛られることで,多くの間違いを犯しています.
40歳で失業するまで「企業戦士」であった男性(ナイジェル・マーシュ)は,仕事と生活のバランスを今すぐに考え直せ,企業に頼ってはいけない,と主張します.4人の子供を育てる父親である彼は,ある日,妻に頼まれて末っ子の迎えに行く役を交代することになります.夕食を食べさせ,風呂に入れ,絵本を読んで,寝かせるとき,末っ子は「人生で一番幸せだった」と,彼に感謝してくれました.自分にできる小さなことが,とても重要なのだ.ボーナスや昇進ではない.
聴衆から最高の支持を得た黒人弁護士は,アメリカ社会の不正義や差別に黙っていることを許さず,それを変えるために,たとえどんなに厳しく,疲れる闘いであるとしても,自分の尊厳やアイデンティティのために闘うべきだ,と具体的に述べました.
監獄に暮らすアメリカ人が230万人もいて,しかも白人より黒人が死刑になる確率は22倍も大きく,富裕層より貧困家庭の若者が圧倒的に多い.ロサンゼルスやワシントンのような都市部では,有色人種の若者の50-60%が収監されている.13歳の子供にも保釈無しの終身刑を認め,アラバマでは有罪となった黒人から永久に選挙権を奪い,死刑囚の9人に1人が冤罪であるようなアメリカの司法制度は間違っている.14歳の黒人の少年を終身刑にしようとする裁判官に対して,彼は我慢できずに,裁判官が魔法を使って,被告を75歳の白人の企業重役に変えて裁くべきだ,と申し立てました.「貧困の反対は富ではない.貧困の反対は,正義なのだ.」(You Tubeで観ることができます.Bryan Stevenson: We need to talk about an
injustice)
http://www.ted.com/talks/bryan_stevenson_we_need_to_talk_about_an_injustice.html
それはアイデンティティの力だ,とStevensonは強調しました.もし飛行機が9機に1機は墜落すると知ったら,あなたは乗るだろうか? しかし,自分のことではない,と思っている.人は自分で想像できることしかしない.「私たちは革新を愛し,創造性を愛し,技術を愛し,娯楽を愛する.しかし,その現実には苦しみの影がともなう.濫用され,人々の尊厳を奪い,辺境に追いやっている.」
著しい貧困や不利益を強いられている同胞に,そして,彼らの尊厳だけでなく命まで奪うことに,十分な合理的理由がある,などと言えるでしょうか? すばらしいことや,優れた機会,富に至る過程に,誰でも参加できるし,その成果は全ての人に分かち合える.それを認めるとき,私たちはアイデンティティを共有していると言えるのです.
彼の話を聞いて私が想ったのは,3人の子供たちを,次々に,日本の受験システムの犠牲にしてしまったことです.私は,自分が味わった不正義や屈辱と同じものを,制度を正すことなく,結局,自分の子供たちにも強いた,と後悔しています.
受験というシステムは,それに成功する一部の者がいる一方で,それに満足しない,逸脱したり,反発したりする者を多く作り出し,ときには社会的に排除します.優れた能力を持つ者さえ,支配的な価値観に染めて,権力者や富の正当化に利用します.「ワーク・ライフ・バランス」を解決するには,根本的な問題を直視せよ,とマーシュが述べたように,塾や予備校,エリートクラスの利用は問題を解決しないのです.
大学間をもっと自由に,もっと多くの学生が移動できるシステムに変えるのが良いでしょう.また,編入試験を多くし,他方で,入試における推薦制度はごく少数に絞るべきです.それらは既にありますが,規模が小さく,奨励されていません.ある水準を超えたとき,受験システムの弊害を打ち破るパワーを持つはずです.意欲的で,能力の高い学生は,どの大学でも,好きな科目,好きな講師の話が聴けるのです.
これほど複雑で,予測できない困難な挑戦に満ち,為政者に高い能力を要求する時代であれば,もっと若者たちが挑戦的で,しかも,社会的な成果を分かち合う公共精神を学ぶべきではないか,と思いました.
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