IPEの果樹園2006

今週のReview

4/3-4/8

IPEの種

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世界の英字紙HPからコラムを要約・紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.

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IPE方法論 :

安全保障 :ブッシュの戦略,金融政策・欧米IMFと日本,ブレアの外交

貿易・投資 :米中貿易摩擦,貿易自由化交渉自由貿易批判

通貨・金融 :インドと中国の金融改革

世界統治 :アメリカ移民政策論争,国際介入と国際法廷

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ただしFTFinancial Times, NYTNew York Times, WPWashington Post, LATLos Angeles Times, BGBoston Globe, IHTInternational Herald Tribune, CSMChristian Science Monitor


FT March 23 2006

Foreign policy good vs evil does not work

By Madeleine AlbrightUS secretary of state from 1997 to 2001

ブッシュ政権は新しい安全保障戦略を示した.副題を付ければ,「皮肉なイラン」,となる.3年前にイラクを攻めるときは「悪の枢軸」という言葉を発明し,イランの脅威を強調した.しかし,イランの革命政府はイラク侵攻で大いに力を得たのでる.これは戦略ではなく,悲劇である.ブッシュ政権が世界にもたらしたマニ教的善悪二元論の世界が失敗の原因だ.

指導者たちは,修辞的な効果を得るため,世界を都合よく善と悪とに分けてしまう.しかし,こうした作り話に,世界最強の国家が政策を依拠させるとしたら,それは別問題である.政府の意向で,気に入らない敵を同じように色分けしてしまう結果は,まったくその意図を裏切るものとなった.

数年にわたって,大統領はアル・カイダとフセインの支持者,イランの聖職者をまるで同じ問題の一部であるかのように振舞ってきた.しかし,1980年代には,イラクとイランが残酷な戦争を続け,1990年代にはアル・カイダの仲間がイランの外交官たちを殺害した.何年もビン・ラディンは,スンニー派とシーア派の宗教指導者を同じように白題している,とフセインをバカにした.9・11の後,イランは攻撃を非難し,アフガニスタンについての話し合いにも応じた.新しいイラクの指導者たちは,ブッシュが絶賛した選挙によって決まったのだが,イランの仲間である.イラクを攻撃した大統領は,善が悪に大攻勢をかける,と考えただろうが,解き放たれた力は一層複雑であった.

ブッシュ政権は,こうした複雑さを理解している者と,理解しない者とに分裂している.一方には,副大統領のようなイデオローグがおり,イラクはイラン攻撃の都合の良い先例と思っている.他方,イラクで前線に立っている軍人たちは,イランを戦術的に歓迎しなければ,イラクに機能する政府は組織できないことを知っている.だから先週,イラクについてアメリカとイランが話し合う計画が発表された.もし上手く行けば,他の問題(核開発)でも進展するだろう.

助言を聞くような政府ではないが,私は三つの提言を行う.1.「世界から専制をなくす」ことは望ましいが,難しい問題を解決できないなら,それは幻想である.イラクはますます盗賊団の支配する国になっている.解決のためには,一方が他方に意志を押し付けるか,正当なプレーヤーが権力を分かち持つしかない.アメリカはもはや事態を支配できないが,有益なレフェリーになれる.

2.アメリカ政府はイランの体制転換を企てる計画をすべて放棄するべきだ.体制が変わるべきではない,というのではなく,そのようなことを承認すればむしろ変化を妨げるからだ.アメリカがイランを攻撃するほど,革命政府は勢いづく.イランを攻撃で脅せば,イラクに関する話し合いや核兵器開発の放棄にますます応じない.イランの怒れる反ユダヤ主義の大統領は,国外の敵を非難することで反対派を黙らせる.

3.アメリカ政府は,中東と湾岸の指導者たちがポーカーに興じているとき,一人でゲームに耽ってはならない.スンニー派がシーア派の領土を奪って1000年のバランスが破られたイスラム世界では,ブッシュ大統領が唱える「自由への行進」を聞く者などいない.シリアが撤退したレバノンではイランが進出し,選挙によってパレスチナではハマスが進出し,イラクの最大派閥は三つとも非民主的な武装勢力の支持を得ている.

長期的には,この地域の住民たちが民主主義を築いて,中東の未来を決めるのが望ましい.しかし,望みと政策は別である.短期的には,善悪の戦いを呑み込んでしまう分裂とパワー・ポリティクスがこの地域を導くだろう.スンニーとシーア,アラブとペルシャ,アラブとクルド,クルドとトルコ,ハーシェミットとサウジ,世俗の指導者と宗教指導者,アラブとユダヤ.大統領がアメリカの安全保障戦略を約束する世界とは,こうしたところである.手遅れになる前に,まともな方針を示せ.

LAT March 24, 2006

A dodo of a national security policy

Rosa Brooks

The Guardian Monday March 27, 2006

Bombing civilians is not only immoral, it's ineffective

AC Grayling

BG March 28, 2006

Strategies for a global counterinsurgency

By Jonathan Morgenstein and Eric Vickland

IHT WEDNESDAY, MARCH 29, 2006

Dealing with Tehran: The key lies in Iran's history

Charles A. Kupchan and Ray Takeyh

WP Wednesday, March 29, 2006; A19

A Dangerous Deal With India

By Jimmy Carter

(コメント) 経済学もレトリックに酔っている面がありますが,政治はレトリックそのものです.ブッシュ大統領(のスピーチ・ライター)が何か気の利いた台詞を示せば,それを副大統領や側近たちが次の政策の正当化に使います.・・・現実がどうであれ.もちろん,反対派もレトリックで押収し,修辞的な大戦争が生中継されるのです.その影響は世界に及び,新しいレトリックによって何万人かが死ぬとしても,アメリカ国内では誰も死にません.

AC Graylingは,「死者を数えることはしない」というアメリカ軍の姿勢を批判します.非戦闘員をいくら殺しても戦争は終わりません.アメリカは国際法によって非戦闘員への爆撃を裁くことに反対しています.それは野蛮な敵に優位を与えるから,と.しかし,ナチスや日本軍が敗北したのは連合軍が無差別爆撃をしたからではない,と反論します.

Jonathan Morgenstein and Eric Vicklandは,世界化するテロ攻撃に対抗するには,テロ集団と彼らを支援する住民とを分離しなければならない,と主張します.すなわち「世界叛乱鎮圧a global counterinsurgency」戦略こそ重要だ,と.

イラン政府とインド政府.国際社会は誰に核保有を認めるべきか? ブッシュ政権は,その説得的な基準を示しているでしょうか?

Charles A. Kupchan and Ray Takeyhは,軍事攻撃を準備した制裁発動と体制転換により,ブッシュ政権がイランへの対決姿勢を明確にしたことを批判します.こうした威嚇はイラン人のナショナリズムを刺激し,強攻策へと傾斜させるからです.イランにとっての20世紀は,イギリスとロシア,アメリカとソ連による勢力争いにより,独立を損なわれた歴史でした.それゆえ彼らは国際的な介入を極端に嫌うのです.強硬な発言を避けて,もっと彼らの歴史に配慮すれば,イランとの対話は可能である,と.

Jimmy Carter元大統領も,ブッシュ政権が行ってきた核拡散防止体制の解体を強く批判します.


FT March 23 2006

Raise rates to cool Europe’s housing market

By Daniel Gros and Thomas Mayer

FT March 27 2006

A ‘subversive’ Bernanke looks around for what to say

By Andrew Balls

NYT March 27, 2006

Get Ready for No. 15 in a Series at the Fed

By LOUIS UCHITELLE

FT March 30 2006

Ben's opening gambit

(コメント) 金融政策は,たった一つのさじ加減で,余りにも多くの議論をかき混ぜてしまう点で,まさに「信頼」が頼りです.ECBは地域や国による景気の差とともに,日本のバブルに匹敵する,とDaniel Gros and Thomas Mayerが警告した住宅価格上昇にも関心を払うようです.中央銀行は情報を提供し,総裁は「市場との対話」によって金融政策の効果が波及する過程に影響を与えようとします.すなわち中央銀行間でも,熾烈な視聴率争い,をしているわけです.中央銀行は今後に予想される金融政策の動きを示します.

LOUIS UCHITELLEは,バーナンキ新議長が短期金利を引き上げた理由を,グリーンスパンの信望を継承すること,に見ています.実際,合理的な判断が分かれる局面に入っているようです.原油価格は高騰し,住宅価格は下落しつつあります.世界の労働供給や商品供給力はデフレ圧力を生じます.世界の貯蓄が投資を超えてしまうかもしれません.バーナンキはインフレ期待の沈静化を重視します.しかし,日銀がどのように金融政策を説明しても非難されるように,連銀もグリーンスパンの信望を失えば・・・?

たとえば,グローバリゼーションにより,確かに豊富な世界供給がアメリカのインフレを抑制してくれます.ただし,ドルの価値が変われば,逆に,輸入物価の上昇がインフレを加速するのです.また,国内労働者は必ずしも海外の労働者と交換可能ではないから,将来の賃金抑制も当てにはなりません.グリーンスパンが支持したアメリカの生産性上昇でさえ,どれほどグローバリゼーションの局面が変化した後に残るものなのか? ・・・とFOMCでも反対意見が出ています.

インフレ・ターゲットを議論するのは,まだ先のようです.

FT March 27 2006

Put reserves to work

March 28 (Bloomberg)

Summers Wants IMF to Run $500 Bln Hedge Fund

Andy Mukherjee

(コメント) 世界の金融政策や準備金について,IMFや世界銀行が果たす役割はわずかなものでしょう.なぜなら,ほとんどドルとアメリカの連邦準備制度がその役割を奪っているからです.でも考えてみれば,アメリカはその赤字をさまざまな証券として外国の中央銀行や投資家に保有してもらっています.流動性と安定した収益が求めるものなら,IMFや世銀にもっと供給させてはどうか? と考えるのは当然です.

しかし,それを指摘したのが元財務副長官のLawrence Summersであれば,なぜだろう? という気もします.アメリカはドルの世界的な受領性や赤字の証券化と海外保有,ドル建金融市場の利用者拡大に励んできたはずだからです.特に発展途上諸国は,通貨危機を恐れて,過剰なドル準備を累積しています.Summersは,IMFと世銀が彼らのための投資ファンドを設けてやればよい,と考えます.もしそれが(多くは)ドル建で,利用者の安定化と増大に繋がるなら,発展途上諸国の金融市場を自由化させるより早い話です.

FTは,IMFにも世銀にも資産を運用する能力はない,と否定的です.これも,民間資本市場に介入し,仕事を奪う,という警戒感があるからかもしれません.むしろ,1.もっと有益な投資になるものを輸入する,2.政府が自らもっと長期投資する,3.外貨準備に合わせて,市民が投資するのを徐々に認めていく,という選択肢を示しています.

Summers の発言に,世界最大,5000億ドル(約60兆円)のヘッジファンド設立か! ・・・と反応したのはAndy Mukherjee でした.プロのファンド・マネージャーなら,このほとんど収益をもたらさない外貨準備に,約6%も収益をもたらすでしょう.それは世界的な公共財の供給や債務免除に利用できます.多分,この議論はアジア諸国に累積する外貨準備がその「無駄」を批判されていることに由来します.

実際,Mukherjeeの論説は中国,韓国,シンガポールに及びます.つまり,彼らは実際にやっている,と.ただし,IMFが管理する投資ファンドは,もし緊急の流動性を供給することができれば,こうした矛盾した目的に制約された個別の途上国が行う保守的投資の限界を超えるわけです.もちろん,サマーズ自身は,世界の貧困解消よりも,アメリカの対外赤字がもたらす国際金融システムの不安定化を危惧しているのでしょうが.


FT March 23 2006

France must change or live in fear

Philip Stephens

(コメント) 学生や労働組合員は街頭に出てCPE(the Contrat de Premier Embauche the “first-job contract”)に対する抗議活動を加速し,エリートたちは宿命論で悲観する.フランスは恐怖によって生きる国なのでしょうか? それは,政治に指導力を欠いたまま,EU憲法を否決し,保護主義に逃げ込み,移民たちを隔離し,既に雇用されている労働者は解雇されず,若者のますます多くが失業し,豊かになったベビーブーマーたちは社会保障や公的給付の削減を受け入れない,・・・といった姿勢と重なるのです.Philip Stephensたちはそれを,”divisions between insiders and outsiders”と考えます.

フランスは大きな矛盾を抱えています.セーヌ川の左岸ではデモ隊が警官と戦っているのに,右岸では中産階級(富裕層)の静かな生活が続いています.経済的な危機を心配しているのかと思えば,他方,フランス企業は輸出に成功し,生産性もイギリスより上昇している,というのです.

ド・ビルパン首相の改革案は小さな改善でしたが,激しい反対に遭いました.フランスの政治家たちは,経済や社会の改革をほとんど唱えたことがない,とPhilip Stephensは悲観します.それは,政治的混乱をもたらすだけで,政治を独占するエリートたちの利益にはならないのです.

若者たちは失業や重税に苦しむのに,老人たちは引退後の生活を楽しみます.フランスでは仕事がなく,デモに繰り出していた若者たちが,ニューヨークやロンドンに来れば仕事に就いて励むことができます.パリの若者の誰も,グローバリゼーションを後退させることなど望んでいません.保護主義によって守られているのは,彼らの未来ではないからです.グローバリゼーションの負担を彼らは不当に押し付けられている,と抗議するのは当然です.

European Comment: Jobless put France to the test FT March 23 2006

Christopher Caldwell Hypocrisy takes to the streets FT March 24 2006

CRAIG S. SMITH French Talks Over Labor Law Prove Fruitless NYT March 24, 2006

Wolfgang Munchau De Villepin’s labours FT March 26 2006

Claire Berlinski Paris Burning, Once Again WP Sunday, March 26, 2006; B02

Caroline Baum Aux Barricades Part II, or the Right to Poverty March 27 (Bloomberg)

France's Misguided Protesters NYT March 27, 2006

JOHN TIERNEY Who Moved My Fromage? NYT March 28, 2006

Robert J. Samuelson The French in Denial WP Tuesday, March 28, 2006; A23

France hit by mass job protests BBC Tuesday, 28 March 2006

TMSI William Pfaff: Capitalism under fire IHT WEDNESDAY, MARCH 29, 2006

(コメント) Christopher Caldwellのように,この抗議活動は偽善である,と批判する者もいます.パリ郊外を占拠し,放火した,貧しく無学な移民社会の若者たちに比べて,ソルボンヌの学生や公共部門の労働者たちは組織された抗議活動と厳しい批判を政府に浴びせます.その深刻さにおいてはるかに重要であった移民社会の隔離や若者たちの抗議は社会や政治の改革に役立てられる見込みがなく,他方,一握りの優遇された者たちが政治を機能麻痺にして過大な報酬を得るだろう,と.

失業者たちの就労を難しくしている現在の雇用・社会保障システムを続ける理由はない.学生たちは無知で,利益の側面しか見ていない.移民とグローバリゼーションを前提とした経済では,従来の社会保障制度は機能しない,と考えます.そして,若者や移民が積極的に貢献できないような経済システムが,その社会を豊かにすることもないのです.

抗議活動はますます激しくなり,放火や負傷者が増えています.問題はますます悪化し,広がりを見せて,政治的な収拾を難しくするのです.・・・イラクでなく,パリでも.

他方,CPEを支持する論説ばかりではなく,反対する論説もあります.たとえば,Wolfgang Munchau は,CPEに代わる労働市場の改革案として,雇用期間に応じて雇用保証が与えられる制度を提案しているOlivier Blanchardの議論を紹介します.こうすれば若者だけが差別されることはなくなり,労働者が二つに分割されてしまうこともありません.

暴動によって重要な政策や政府が変えられることを心配する論説もあります.アングロ・サクソン型資本主義への批判,グローバリゼーション時代のラッダイト運動.


Muscling in on iron FT March 23 2006

Trade war threat FT March 24 2006

LAT March 24, 2006

Misguided backlash

NYT March 24, 2006

Worried About India's and China's Booms? So Are They

By THOMAS L. FRIEDMAN

NYT March 26, 2006

A Stickier Trade Gap

By DANIEL ALTMAN

NYT March 27, 2006

Mr. Schumer Goes to China

(コメント) 中国は製品市場だけでなく,原材料の市場でも支配的になり,その政治的な利用が懸念されています.他方,アメリカ議会では保護主義の法案が広まっています.中国もアメリカも,自国の不均衡を解消することです.保護主義を唱えて当選することは容易である.また,中国自身が通貨を増価させることも容易だろう.しかし,互いの頭に銃口を突きつけながら,できることではない,と.

特権的な人々が減り,誰でも市場に参入できて,参加者は協定に従う.アメリカでは景気がよく,失業者は減っています.それでも議会では保護主義法案が増えるばかりです.米中間の貿易不均衡は今も拡大し続け,中国の胡錦涛主席が訪米する予定になっているからです.WTOが協定違反とみなす関税率引き上げを求める法案がCharles Schumer and Lindsay Graham二人の上院議員によって用意され,中国政府に譲歩を求めています.

THOMAS L. FRIEDMANも,インドと中国で急速に増えるエンジニアと,逆に減少する人文学者について書いています.しかし,本当に革新をもたらすには,両方の知識が必要です.もし両国がその両方で成功すれば,現在のアウトソーシングは人文学分野にまで拡大するかもしれません.ただし,日本もそうであるように,そのためには教育システムが障害になるでしょう.

貿易摩擦が過熱することは,他方で,対外不均衡に対する金融メカニズムに変調を来たします.日本とヨーロッパの景気回復と金利上昇が,ドル暴落やアメリカの金利高騰をもたらす,という懸念が以前からあります.海外の投資家は,ドルからユーロや円に資産を入れ替えようとするでしょう.特に今回は,80年代と違って,ドルとの為替レートがなかなか調整されない中国などとの摩擦です.

IHT MONDAY, MARCH 27, 2006

On trade, the U.S. and China need to go global

Philip Bowring

(コメント) 米中首脳会談に何を求めるか? Philip Bowringは二つの重要な要求をしています.

まず,米中両首脳は貿易不均衡が,二国間ではなく,世界的な問題であることに合意します.アメリカの赤字を中国の黒字によるものと見るのは間違いです.人民元が安すぎる,と言っても,アジア諸国は概ね同じように安すぎるのに,他のアジア諸国は中国に対して大幅な貿易黒字を出しています.人民元だけを調整しても意味はなく,米中間のプラザ合意Uは無意味です.アジア諸通貨がドルに対して増価するよう調整されるべきです.このことはIMFが積極的に担うべき役割でした.

さらに,米中首脳は,競争して二国間のFTAをアジア諸国と結ぶ姿勢を改めるべきです.各国は,経済的というより,政治的な理由で二国間のFTAを増やしています.しかし,自由貿易は多国間で行われるから効果があるのです.に高官の取り決めで貿易不均衡を是正することはできず,むしろWTOによる自由化交渉への熱意を失わせています.米中首脳がWTOを支持し,多角的貿易自由化に積極的に取り組めば,すべての参加国が歓迎するでしょう.

FT March 28 2006

Fight the mobile phone invasion at 30,000ft

By Jagdish Bhagwati

FT March 28 2006

We should still worry about imbalances

By Martin Wolf

(コメント) 二人の代表的なリベラル経済学者,あるいはグローバリゼーション支持派の意見では,ミクロの不利益を法律や科学,企業の社会的責任により抑制し,マクロの不均衡を政策によって是正する必要がある,ということでしょうか.これが,グローバル経済学のテキストにおいても第一章です.

Jagdish Bhagwatiが指摘したのは,飛行機の中で多くの人が携帯電話を使用することによる苦痛です.環境保護の法律整備や,タバコ産業が負った債務を携帯電話会社にも求めることです.他方,Martin Wolfは,世界的不均衡を賞賛する議論を攻撃します.アメリカの経常赤字はGDPの7%に達するが,実質為替レートは変化しない.要するに,市場は心配しなくて良い,と考えている? しかし,調整が遅れるほど,最後の調整は困難で,また激しい調整過程になるでしょう.それは,アルゼンチンのように,他の国ならとっくに危機を生じているはずです.


NYT March 24, 2006

Letter to the Secretary

By PAUL KRUGMAN

(コメント) ジョン・スノー財務長官の信用を高めるために,PAUL KRUGMANが助言します.

まず,アメリカの所得分配が平等化した,などと主張してはならない.2000年から2004年にかけて「平等化」したように見えるのは株式市場のバブルがはじけたからです.最近不平等は再び拡大しつつあります.中産層の所得は少しも増えないのに,大金持ちが入ってくると平均所得が上昇します.アメリカの豊かさとは,そういった類の錯覚です.

次に,企業の重役たちが得ている報酬を当然とみなすのは間違いだ.彼らはボードによって報酬を決められるが,ボードの人事を握っている.人事も報酬も市場が決めたのではない.しかも企業の業績は彼らの報酬と無関係である.まさに,ブッシュやチェイニー,スノーが重役を勤めた企業を見れば分かることだ.この問題に触れるのは止めたほうが良い.

最後に,ブッシュ減税が金持ちのためではなく,多くの中産階層に利益をもたらすために行われた,などと言うべきではない.それは,政府が使う基準で捏造された評価であり,まともに税引き後の所得を見れば,金持ちのほうが得をしている.

つまり,財務長官として信用を得たいのであれば経済政策に専念し,でたらめを吹聴する役を降りることだ!

WP Friday, March 24, 2006; A19

Why Be A Billionaire?

By Michael Kinsley

(コメント) 10億ドル以上の資産を有する大富豪の数が急速に増えています.なぜか?

Forbes誌に拠れば,二十年前には140人であった10億ドルを超える大富豪の数が,3年前には476人に増え,今年は793人もいる,ということです.Michael Kinsleyは,大富豪になった理由も,彼らの行動原理も,社会を豊かにする市場というメカニズムを正当化したアダム・スミスに従わないものです.だから重税を課すべきだ,とまでは書いていませんが,少なくとも彼らが,税金についてごちゃごちゃ言ってはならない,と考えます.


Indrajit Basu Unshackling the rupee Asia Times Online, Mar 25, 2006

US senators at ease over yuan's reform Asia Times Online, Mar 25, 2006

Christopher Swann Renminbi revaluation ‘will not cut US deficit’ FT March 27 2006

Andy Mukherjee India Will Grow Faster With Convertible Rupee March 27 (Bloomberg)

Christopher Swann and Edward Alden US bill may prompt tough action on renminbi FT March 28 2006

Richard McGregor China forex reserves world’s biggest, report says FT March 28 2006

Andy Mukherjee India's Central Bank Is Prudent, Not Miserly March 30 (Bloomberg)

Richard McGregor IMF gives grim assessment of China bank lending FT March 30 2006

(コメント) 中国とインドは輸出で競争するだけでなく,通貨市場でも競争し始めるようです.

インド政府は通貨ルピーの完全な変動レート制への移行と資本勘定の自由化を決断するかもしれない,とIndrajit Basuは考えますManmohan Singh 首相とP Chidambaram蔵相が合意したようです.この点は,J.ウィリアムソンがインドを成功例として挙げていただけに,強い関心を持ちます.

確かに,市場自由化が進めば厳しい為替管理は現実にそぐわない,と主張されるようになります.そして,外資が流入し続けると予想されるなら,自由化に問題はない,というわけです.もちろん,ルピーが大幅に増価したり,短期資本の大幅な流入が流出に変わったりすることを十分に予防するつもりでしょう.もちろん輸出企業や投資家,借り手の利益になるのです.しかし,累積国債のコストを軽減するのが目的であれば,たとえばメキシコを思い出します.

Andy Mukherjeeは,中央銀行の外貨準備に代わる危機の防止策を考えます.危機になってもマハティールがやったような資本規制を取らないのであれば,IMFの二人のエコノミストJonathan Ostry and Jeromin Zettelmeyerが指摘したような,事前の格付けを得てはどうか,と提案します.すなわち,平常時に政策や制度をIMFが評価し,格付けを与えるのです.ショックに対する市場の信頼を高め,IMFの緊急融資を得やすくなるでしょう.そのためにインド政府は財政赤字を減らし,浮動的な外資に頼らず,国内貯蓄を増やすことです.危機のリスクを抑えられるなら,資本の流出入や金融市場の発展は経済発展に有益です.

他方,人民元は管理されたフロートを始めたというだけで,通貨や銀行制度の改革は難しいようです.アメリカ政府は,EUや日本,そして中国に,為替レートをもっと調整して,国内需要を増やすことを求めるでしょう.しかし,繰り返されてきたように,赤字であれ,インフレであれ,アメリカは自分自身で直すしかないのです.


The Asian Age, 25 March 2006

A Floundering WTO Part I

- By Edward Gresserfrom YaleGlobal Online

The Asian Age, 25 March 2006

A Floundering WTO Part II

- By Balakrishnan Rajagopalfrom YaleGlobal Online

(コメント) Edward Gresserは,1945年にフランクリン・ルーズベルトが世界に呼びかけた言葉を引用します.不況の時代に築かれた貿易障壁を取り除くことで,諸政府は「われわれすべてが望む安全で平和な世界の経済的基礎をすえることができる.」

WTOが2001年から進めてきた貿易自由化交渉「ドーハ・ラウンド」は,世界の貧しいものを助けることを目標に掲げています.参加国や影響を受ける人口の多さ,政府の規模や性質がこれほど異なっていることを思えば,交渉が難しいのは当然です.

Gresserは,現在の貿易システムにおいて,豊かな国の政策が世界の貧しい人々に課税し,豊かになる機会を奪っていることを強調します.たとえば,アメリカの関税は,貧しい国からの輸入品よりも,豊かな国からの輸入品の方が低い,と.「カンボジアの24万人の衣服産業で働く労働者たちは,セーターやTシャツ,パジャマなどを輸出して暮らしている.アメリカの関税率は,セーターに32%,Tシャツには20%も課される.他方,フランスのワインや美術品,香水の関税率はゼロである.」

EUの農産物輸出補助金は,中東やラテンアメリカ,アジアの輸出市場を奪ってしまいます.「たとえば,モロッコやチュニジアのオリーブ畑は高品質のオリーブを育てている.・・・しかし,スペイン,ギリシャ,イタリアの農家に支払われるオリーブオイル補助金は年間25億ドルに及び,それは世界のオリーブ貿易の2倍以上にもなる.こうしてアメリカのスーパーマーケットには,モロッコやチュニジアのオリーブオイルが並ばないのだ.」

Balakrishnan Rajagopalは,WTOが担う将来の貿易ルールは貧しい小国(その政府と住民)の政治的意志を抹殺してしまう,と批判します.かつて第三世界であったものが,急速に成長する貿易大国と,貿易から排除された貧しい小国に分断されてしまいました.かつて市民社会が第三世界の貧困撲滅に協力するため連帯した政治行動が,WTOによる自由化に本当の解決策を見出せなくなっています.


Making sense of immigration LAT March 26, 2006

Tamar Jacoby 'Guest Workers' Won't Work WP Sunday, March 26, 2006; B07

Lex: US immigration FT March 27 2006

Arnold Schwarzenegger Next step for immigration LAT March 28, 2006

Eugene Robinson Decency to 'Those People' WP Tuesday, March 28, 2006; A23

BILL CARTER and JACQUES STEINBERG Anchor-Advocate on Immigration Wins Viewers NYT March 29, 2006

Harold Meyerson New Immigrants Teach an Old Lesson WP Wednesday, March 29, 2006; A19

Dividends at the border LAT March 30, 2006

DAVID BROOKS Immigrants to Be Proud Of NYT March 30, 2006

(コメント) アメリカの移民法改正案が激しい論争となっているのは,共和党内の厳しい対立があるからです.移民法改正に賛成する者は,非合法移民たちを合法化し,一時雇用から市民権取得に向けて,移民たちを支援する人々であり,ビジネス界の労働力供給維持という考え方にも繋がります.他方,移民法改正を激しく批判するのは,より文化的な保守主義者たちです.アメリカの文化やアイデンティティ,制度まで失われてしまう,と恐れています.

しかし,この一時雇用契約も機能しない,とTamar Jacobyは反対します.アメリカにとってもっとも望ましくない選択とは,非弾力的な一時雇用の移民が増加することです.彼らは結局,契約終了後もアメリカに残って非合法移民になり,アメリカの安全保障を損なうだけです.共和党のBush and Cornynは一時雇用の移民たちが契約終了後に帰国することを期待していますが,民主党のMcCain and Kennedyは移民の一部が市民権を取得することも容認します.

完全な季節労働だけを移民に頼っていた過去の農場パターンは,もはや当てはまりません.今ではさまざまな分野に,男・女・家族が移民としてやって来ます.彼らが永住も希望する移民であるという現実に移民法を合わせて,その受け入れ上限を引き上げることです.そして,もし移民労働者が懸命に働き,コミュニティーに投資する労働者であるなら,彼らが単なる一時滞在者ではなく,積極的に市民となることを歓迎するのがアメリカの伝統である,と.

FTは,論争の背景には「雇用をもたらさない景気回復」という現状への不満がある,と指摘します.もちろん,たとえ社会全体では豊かになり,成長を高めるとしても,移民労働者と直接に競争を強いられる国内労働者は損失を強いられ,激しく反対します.もし政府が移民労働者を国内の労働者が満たさない分野に導くなら,こうした反対を抑えられるはずです.また,フェンスの建設は近隣諸国への反発を強めるだけで,国内労働者の助けになりません.もし移民と競争して所得が減る未熟練労働者を助けたいなら,彼らの賃金や雇用を直接支援するほうが良い,と.

シュワルツェネッガー知事の示す原則は,「政治家」の好きな,役に立たない金言です.1200万人の人々を見ようともせずに,彼らを犯罪者や国境の向こうに追い出せると主張する共和党の提案に反論するEugene Robinsonの論説は,はるかに訴えるものがあります.深夜に,「会社のオフィスを掃除し,庭の芝を刈り,レストランの奥で働き,家の裏で洗濯に励む,・・・多くのラティーノたちが,どんな家に住んでいるか? 彼らの子供たちがどんな学校に通っているか? 自動車を買うどころか,免許証も無いまま,どうやって生活しているのか? 薬や治療が必要なときはどうするのか?」 ・・・あなた達は知らないし,知ろうとも思わない.そして,こんなひどい法案を議論している!

週末にアメリカ各地で行われた共和党の移民法案に反対するデモは,さまざまな意味で,強い政治的インパクトを発揮しそうです.

NYT March 27, 2006

North of the Border

By PAUL KRUGMAN

Paul Krugman, Money Talks: Notes on Immigration NYT March 27, 2006

(コメント) PAUL KRUGMANは,心情的に移民を支持し,国境を開放することが望ましいと感じているけれども,「移民の経済学」はそれに反対することを理解しなければならない,と主張します.デマゴギーに対抗するためにも,以下の真実を知るべきだ,と.1.移民の経済全体に及ぼす利益は小さい.2.特に貧しい労働者はメキシコからの移民によって生活が悪化している.3.移民は福祉国家を侵食する.

これらは移民規制の議論に繰り返される主張ですが,KRUGMANは真実であると認めます.その上で,未熟練の移民を大量に受け入れることは人道的な扱いを望む政府を苦しませる,と指摘します.それゆえ,これは彼が主に依拠しているBorjasの主張ですが,未熟練移民の受け入れを抑制し,移民を選別するべきだ,ということです.

BG March 28, 2006

Absorbing Europe's Muslims

H.D.S. Greenway

(コメント) 日本人は,しばしば,自分たちが特に同質性を重視し,異質なものを排除し,外国人を恐れ,差別することを意識します.しかし,それは多くの国で見られることであり,特異な現象ではないのです.

ドイツはもっともリベラルな憲法を持ち,・・・信仰の自由もある.私たちは世界のどの国でよりも自由を享受している.しかし他方で,私はパキスタン系ドイツ人として個人的に矛盾を感じている.」 彼はドイツで生まれ,流暢なドイツ語を話し,ドイツの兵役にも服しました.しかし,「ドイツはもっとも心理的にイスラム教を嫌っている国だと思う」 と.

どうすれば敵意を克服して,平和的に共存できるのか? H.D.S. Greenwayは成功例として,ドイツよりもメディアに多くの非白人が登場するイギリスを示し,また代表チームに多くのイスラム教徒や移民の子孫を入れたフランスを紹介します.要するに,公的な地位やメディアに,自国の多様な人々を正しく反映させることである,と.

The American Prospect 03.29.06

Immigration Follies

By Robert B. Reich

(コメント) なぜ非合法移民は増えるのか? 現実はこうである,とRobert B. Reichは書きます.「ラテンアメリカや東南アジアよりも,アメリカのみ熟練労働者は大幅に高い賃金を得ている.だから,もし職を得られるなら,合法でも非合法でも,労働者がやってくる.彼らが偽の証明書を持っている以上,雇用主たちは「自分たちに罪はない」と主張する.」

Reichが示す解決策とは,法律を厳密に守らせることです.雇用主は労働者に最低賃金を支払い,疾病や災害についての保険を支払います.そうすれば雇用主たちは非合法移民を雇う利益が減り,非合法移民の雇用が減れば移民の流入も減るでしょう.それ以外のさまざまな対策は,不毛な移民論争と,その政治的解決(と非合法移民の継続)に過ぎません.


FT March 27 2006

Heed warnings of new cold war in Asia

By Victor Mallet

(コメント) 中国と結びついて,「冷戦思考」が国際関係を支配しつつあります.中国とロシアがエネルギー供給で協力し,アメリカの地位を牽制することについて共通の利益を認め合っています.他方,アメリカの外交方針は,「世界から専制をなくすこと」であり,それはまさに世界最大の専制国家である中国とロシアの「権威主義体制の枢軸」を破壊する宣言でもあります.

冷戦は,もちろん,双方にとって大きな不利益です.しかし,相互の利益を指摘するだけで,第二の冷戦が避けられると楽観する者はいないのです.


FT March 27 2006

Engagement demands legitimacy

By Philip Stephens

The Guardian Thursday March 30, 2006

How will the ventriloquist's dummy of History judge Blair's foreign policy?

Timothy Garton Ash

(コメント) イギリス・ブレア政権の外交政策について,Philip Stephensは肯定的に評価します.

私たちはグローバリゼーションの経済学に翻弄されて生きる毎日に耐えるしかありません.比較優位は絶えず変化し,そこに示された機会とリスクは鮮明です.他方,相互依存の政治学はそれほど鮮明ではない,とStephensは考えます.ブレアは最近の演説で,西側諸国がイラクからコソボに焦点を移すように求めました.イラクでは内外の対立と混乱が深まっています.関与するべきか,撤退するべきか,アメリカでさえ議論しています.

しかしブレアは「非関与」や「離脱」に抵抗します.誰も相互依存した世界の現実から逃れることはできない,と.テロや武器が蔓延し,破綻国家が叢生することこそ,私たちの安全を脅かす主要な脅威となっています.イスラム圏であれ,アジアの新興国であれ,国際制度の内部において関与を深めることが唯一の信用できる選択です.しかし,中東やイラク,アフガニスタン,中央アジアなど,イギリスの国益に関係ない,と主張する者もいます.Stephensは,関与と離脱,ではなく,事態の変化に自ら積極的に関わるか,それとも他者が決めた事態に従うか,を選択している,と考えます.むしろ,アメリカが孤立主義を唱えることこそ,最大の脅威かもしれない,と.

Timothy Garton Ashのブレア評価も肯定的です.ただし,イラクを除けば.イラク戦争の評価はまだ将来の歴史に委ねられています.イラク戦争が起きるまで,実際,ブレアの評価はどこでも高く,クリントンと並ぶリベラル派のヒーローでした.逆に,イラクの戦後統治が最悪のコースをたどり始めて,かつてのブレア支持者でさえ大幅に意見を変えました.ブレア自身が良く知っているように,外見と人気がすべてであるという意味で,政治とは不公平なものです.

イラク戦争さえなければ,イギリス外交の,現代的で,将来を見据え,国際主義を尊重し,弱者に配慮する姿勢を,私は誇りに思う,と.


The American Prospect, 03.27.06

We Need Alexander Hamilton

By Ernest C. Hollings

The American Prospect, 03.28.06

Industrial Strength

By Robert Kuttner

(コメント) サウス・カロライナ選出の上院議員,予算委員会委員長,1984年の民主党大統領候補でもあったErnest C. Hollingsが,アレキサンダー・ハミルトンを掲げて,アメリカの製造業と国家の独立,超大国としての地位を守るため,「自由貿易」や「グローバリゼーション」の嘘っぱち,国内雇用を破壊する多国籍企業や銀行の振る舞いを,叩きのめしています.もちろん,正当な反論はいくらもあるでしょうが,彼らの率直な感情に答える力があるでしょうか?

Robert Kuttnerは,アメリカに製造業を再生するため,経営者の遅れた発想と,政府の自由市場イデオロギーを,変えるように求めています.

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The Economist, March 11th 2005

Shareholder democracy: Ownership matters

Immigration: Pick and mix

Monetary policy in Japan: After the flood

Global markets: Carried away

(コメント) アメリカの資本主義の中核には株式会社という制度があります.もし株式会社が制度として機能しないような深刻な問題を抱えているなら,資本主義の存亡に関わることです.まさに,株主による経営者の選出や経営方針の決定・監視には致命的な機能不全がある,とThe Economistは断言しています.イラクやイラン,サウジや北朝鮮,ベネズエラや中国をそれほど批判するのなら,なぜアメリカ大企業の内部の《企業統治》や《株主民主主義》は批判しないのか?

アメリカでは移民政策が論争になっていますが,イギリス政府は新しい移民政策を発表して,難民の受け入れで不信を招いている現状を払拭しようとしています.しかし記事は,この選別と管理強化は,現行のシステムを大きく変えるわけではない,と言います.むしろ,有権者の心理的な不満を和らげる目的で宣伝されており,結果的に,移民を規制したい右翼政治家に手頃な介入手段を与えることになる,と警告しています.

日本の金融政策は,もちろん,注目されています.異常な超緩和政策は終えたとしても,正常化に向かう過程では,まだいくつも問題があります.


The Economist, March 11th 2005

War crimes: Bringing the wicked to the dock

The Economist, March 18th 2005

The lessons of Milosevic: Coddling monsters has a price

(コメント) 《戦争》であれば,政治指導者は敵の殺害を命令できます.しかし漸く国際法によって,大量虐殺など,《人道に反する罪》を裁けるようになりました.ただし,関係国がそれを要請した場合だけ.

かつて戦勝国による敗戦国への制裁として,一方だけ戦争指導者を裁く形が実現され,その後,人道的な理由による軍事介入についても許容される時期がありました.しかし,政治指導者たちを裁き,国際法に従わせる仕組みは,まだまだ不完全で,確立されていません.

他方,介入や内戦後の,国家再建に際して,敵であった隣人を許すことで怨嗟と報復の悪循環を終わらせる試みが注目されました.その起源は南アフリカではなく,1990年のチリであった,と記事は述べています.エル・サルバドルやハイチ,エクアドル,ナイジェリア,シエラレオネ,などでも試みられています.

しかし,シエラレオネの特別法廷が反政府軍RUFの残虐行為に関する報告を行いました.記事は述べています.「子供たちは両親を殺すように命令された.そして,その脳みそを食べた.一人の男は生きたまま皮を剥がれ,その肉を食われた.他の男は心臓を切り取られて,それは87歳の母親の口に押し込まれた.住居の中で,何千人も生きたまま焼き殺された.誰も正確には数えられないが,全部で5万から20万人が殺されただろう.そして600万人の住民の4分の3が住居を捨てるほかなく,難民となった.それほどの犯罪を,本当に許したり,忘れたりできるだろうか?」

むしろ,残虐行為に関わった首謀者を処罰しなければ,平和な秩序は確立されない,というべきです.処罰と宥和が,一方だけでなく,相伴って機能しない限り,人々は新しい社会秩序を受け入れ,互いの信頼を取り戻すことはないのです.

フセインの裁判でも,ミロシェビッチの裁判でも,反省すべきことは多くあるでしょう.しかし,後に残虐行為に関わる政治指導者たちを,初期においては容認し,むしろ協力・支援していたのは豊かな諸国の指導者たちであった,とThe Economistは指摘します.なぜか? 政府は国民にだけ責任を負い,彼らの生命や財産だけを守るからです.たとえ隣国で,どれほど残虐行為が行われていても,それを止めるために自国の兵士を送り込み,その生命や財政的負担を有権者に理解してもらうのは非常に難しい.だから,豊かな国の政治家たちは貧しい国の戦争指導者であっても虐殺の責任を問わず,話し合うことを優先します.

世界政治には,まだ多くの重要な仕組みが欠けているようです.