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IPEの種 4/3/2006

今年のゼミ生にも《書評集》の作成を提案しました.一昨年から始めたことです.学生たちは,面白くない,難しい,分からない,と不満を示し,もっと新しい,自分にも関心のあることをやってほしい,ディベートにすればよい,と言います.しかし,それは半分しか正しくない.他の半分は,私が薦める本を読んでほしいのです.

IPEについて考えるには,何を読むのが望ましいか? ・・・これは難しい問題です.それでも,無秩序に近い自宅の書棚を巡り歩いて,私は試みに推薦図書の一覧表を作り上げました.その中から22冊の文献に@(特に優れている)マークを付けました.

まず,IPEを考えるために,これだけはぜひ読んでほしい本として,次の2冊を挙げました.

1*ロバート・ギルピン『世界システムの政治経済学』東洋経済新報社

2*渡部経彦『国際経済の政治学』岩波新書

S.ストレンジとR.コヘインも,当然,有力候補でした.しかし,私はこの2冊にします.ギルピンの本は,的確な整理と深い考察に加えて,IPE全体のバランスが素晴らしいと思います.他方,渡部氏の小冊子は,やさしい口調でIPEの発想を見事に伝えています.

次に,国際政治経済秩序の転換に注目した結果,以下の5冊を挙げました.

3*ウォルター・ラフィーバー『アメリカの時代』芦書房

4*E・H・カー『危機の二十年』岩波文庫

5*A.L.サッチャー『戦争の世界史』,『殺戮の世界史』,『分裂の世界史』祥伝社黄金文庫

6*入江昭『太平洋戦争の起源』東京大学出版会

7*チャールズ・グラント『EUを創った男』NHK出版

しばしば大きな戦争が,国際秩序の転換を示す画期となります.しかし,それは転換期において大きな戦争が起きる,ということも意味しています.これまで,アメリカとヨーロッパが世界戦争の舞台であり,国際秩序の主役でした.そして,世界中の殺戮や民族対立はこれに関係しています.かつて日本が世界戦争に関わった姿勢,その瞬間について,私たちは繰り返し考察しなければなりません.

同時に,国際秩序の転換を構造的に制約し,その条件を準備するのは,気候や人口,技術の変化,などが社会に波及する過程を,事実上,支配する市場のダイナミックな変化です.もし市場と政治の関係を重視するなら,次の6冊が適当ではないか,と思いました.

8*J・バグワティ『保護主義』サイマル出版会,

9*ロバート・D・パットナム/ニコラス・ベイン『サミット 先進国首脳会議』TBSブリタニカ

10*デイビッド・カレオ『アメリカ経済は何故こうなったのか』日本経済新聞社

11*ジェフリー・フリーデン『国際金融の政治学』同文舘

12*ボルカー&行天豊雄『富の興亡:円とドルの歴史』東洋経済新報社

13*ロナルド・ドーア『貿易摩擦の社会学』岩波新書

確か,ギルピンも書いていたように,《経済学》は市場の均衡を仮定することで非常に精緻な議論を展開します.しかし,それゆえに現実の変化や有効な選択肢を示さない場合が多いのです.マクロ経済学を学び,貿易論や国際金融論を学んでも,国際秩序の生成や崩壊,その転換のメカニズムを理解したことにはならないでしょう.

国際秩序にまで及ぶ,民主的な統治メカニズムを考えるなら,次の3冊はどうでしょうか?

14*C.B.マクファーソン『自由民主主義は生き残れるか』岩波新書

15*ロバート・ダール『デモクラシーとは何か』岩波書店

16*イヴァン・ルアード『グローバル・ポリティクス』人間の科学社

多くの人が《民主主義》を支持するとしても,その定義については合意していないと思います.たとえば,イラクの戦後統治やアメリカ大統領選挙を見れば,どうすれば民主主義が本当に上手く機能するのか,その成功の秘訣もまだ誰も分かっていないのだ,と気づくはずです.世界から独裁者や核兵器,大量虐殺,飢餓や難民をなくすことでさえ,まだ世界政治の予定表に書かれてはいません.

そうであれば,激しい社会変動を生きる人々の理想(もしくは悪夢)について,私たちは深く理解し,その渦中にあっても負けない精神を鍛えておくべきです. ・・・また,自分たちの番も来る?

17*ライト・ミルズ『社会学的想像力』紀伊国屋書店

18*上野英信『追われゆく坑夫たち』岩波新書

19*張平『凶犯』新風舎

20*ジョージ・オーウェル『1984年』ハヤカワ文庫

私にとって,IPEの起源とは《帝国主義論》と《ユートピア》です.社会は,富を爆発的に増やす過程で,戦争や侵略を繰り返し,さまざまな理想,制度的革新,実験的な試みが各地に現れては消えました.その中で,今,何が支配的であるとしても,それだけが常に正しいとか,唯一優れていると考えることは間違いです.

たとえば,私たちが《グローバリゼーション》の時代を生きるために,それが何であるか,どうすれば良いのか,を考え始める手がかりがほしい,と思うでしょう.そのための2冊を加えます.

21*トーマス・フリードマン『レクサスとオリーブの木』(上下)日経文庫

22*早坂忠『ケインズ』中公新書

こうしてIPEの概観を得た後,大恐慌や戦争,バブルや金融・通貨危機,・・・それぞれの時代に社会を震撼させたさまざまな紛争,暴動,内戦,分裂・崩壊・離散,再統合,・・・について,個別のテーマを研究し始めるのが良いと思います.

すっかりホコリまみれになって,半日を費やしました.これら22冊は,あくまで私の本棚に限定した,学生向けの推薦図書です.このHPを訪問してくださった方から,推薦図書候補への追加・訂正があれば歓迎します.

NHK・BSで,オリバー・ストーン監督の映画『エニイ・ギブン・サンデー』を観ました.キャメロン・ディアスが演じる若手女性オーナーと対立しながら,アメフトのチーム(マイアミ・シャークス!)を指導するコーチ役は老いたアル・パチーノです.だからこそ吐ける素晴らしい台詞が気に入りました.試合の前,高まる緊張と不安に苦しむ若い選手たちに,彼らが《アメリカン・ドリーム》の今を生きていることを教えます.仲間と誇りとカネ.・・・1インチでも前へ!

映画もIPEも,ハートと言葉がすべてです.22冊の中の約4冊?が日本人の書いた本でした.

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