IPEの果樹園2004

今週のReview

8/30-9/4

IPEのタネ

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世界の英字紙からコラムを紹介します.私が選んだ論説の内容を,かなり自由に要約し(全訳に近いものもあります),そこには自分の意見も含まれています.利用する場合は,それぞれの出典を自分で確認してください.なお著作権は,それぞれ,元の著作権に従うものと考えます.

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三つだけ推奨するとしたら?

1.   アメリカの経常赤字は重要か? : 国際収支不均衡の拡大する世界で,再びアメリカは政策協調論を呼びかけるでしょうか?

2.   ナショナリズムと軍備増強・再編・削減 :アメリカの兵員削減・再配置計画とアジアの再軍備に,ナショナリズムの復活を見る.

3.   石油価格上昇と金融政策 :石油価格と金利.どちらも政府から独立した制度によって管理することが望ましい?

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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, ST:Straits Times, IHT:International Herald Tribune


FT August 17 2004

Martin Wolf: America on the comfortable path to ruin

By Martin Wolf

FT August 24 2004

Martin Wolf: America’s dangerous deficit

By Martin Wolf

(コメント) 国際政策協調論が盛んに議論されたのは1980年代の後半でした.しかし,さかのぼれば,1960年代や,1930年代,あるいは世紀転換期であったかもしれません.国際通貨制度の覇権国が方針転換を目指すため,しかも,覇権国が相対的に衰退して,一方的な転換で起きるかもしれない危機を,単独では抑制できない,と不安を感じるとき,「国際協調」が重視されるのです.

Wolfは,過剰労働力の吸収によって成長を加速させる中国と,その国際競争に巻き込まれたアジア諸国が,世界(実際はアメリカ)に対して,大幅な経常黒字を続けるに違いない,と予想します.それは,アジア通貨危機によって,さらに顕著になりました.第一論説で,Wolfはアメリカが経常赤字,対外債務の累積に向かう,と指摘します.その規模は,年間6000億ドルです.

もしそれが円滑に融資されているなら,不均衡のどこが非難されるのか? 国際収支不均衡が問題になるのは,それが国内の完全雇用(を実現するのに必要な政策の追求)と物価の安定を妨げるか,あるいは,円滑に融資できなくなるからです.問題は,アメリカ市場が世界中から赤字を引き受け,世界がアメリカに向けた投資を喜ぶとしても,それが無限に続くか? という点です.

アメリカが経常赤字を引き受けて輸出国の成長を支持し,しかも世界のインフレは抑えられているのであれば,世界はアメリカの経済政策(とドル)に満足するはずです.しかし,アメリカ自身が不況や失業を強いられるようになれば(それが現実であれ,政府の言い訳であれ),この関係は「調整」されるのです.あるいは,アメリカも,世界も,安定して拡大し続けると信じているときに,市場が不安を感じるかもしれません.たとえば,Wynne Godleyらの研究は,現実的な仮定を措いて,その赤字がGDPの8%に達することを示した,と紹介しています.

完全雇用を達する需要を得るのに,これほど大きな経常赤字を維持しなければならないのか? とWolfは問うわけです.それは破滅へ至る快適な道である,と.なぜなら,完全雇用を維持するために財政赤字を増やし,対外債務の累積を無視しているからです.今はできるかもしれませんが,いつまで続ける気か? 「この傾向を変えずに,今から10年経てば,アメリカの政府債務も対外債務も,GDPの100%以上に達する.」

アメリカは世界経済の支配権を失い,恐慌によって,その奴隷となるのか? 韓国やアルゼンチンのように? もし主要国の政府が国際協調を拒めば,そしてアメリカが変化を望まないなら,そうなるかもしれません.しかし,他国も支配権を確立できず,恐慌によりアメリカ以上の苦痛を強いられるから,国際協調は可能です.ドルを主要国通貨に対して減価させ,アメリカに変わって成長を維持するような景気刺激策を取ることです.政治家たちに将来を展望し,互いの利益を計算する明晰さがあれば.

しかし,それほど経常収支赤字は重要か? とWolfの第二論説は,先の論説に対して寄せられた多くの反対や疑問に応えます.まず,赤字は重要でない,という主張には,アメリカが生産以上に消費できていることを称え,また,アメリカに流入する資本により,アメリカ人は資本コストが安くなり,世界はより高い収益を得られるから,両者にとって好ましい,という理由があります.

Wolfは,それが正しくない三つの場合を上げます.@アメリカの貯蓄が少なすぎる.A世界は資本を浪費している.B資本が突然逆転して,世界経済を不安定化する.

前財務長官で,現在のハーヴァード大学学長であるLawrence Summersは,最初の問題を強調しました.国内貯蓄はGDPの2%でしかなく,純投資の4分の3を海外の貯蓄でまかなっています.その場合,投資からの収益は海外に流出してしまうでしょう.それゆえ,貯蓄を外国に頼るなら,アメリカは将来の所得水準を下げてしまうのです.海外からの貯蓄が国内投資を増やしているのであれば,それも問題ではありません.しかし,それで財政赤字や消費の増大をまかなうのが現在のアメリカです.国内貯蓄が大きく減ったのは,民間貯蓄の長期的な減少傾向と,財政赤字の急増です.資本流入に頼って,アメリカ政府は大砲とバターを同時に求めています.

第二の問題は,世界で最も裕福な国の一つであるアメリカが,より貧しい諸国からも,世界の総貯蓄の10分の1以上を吸収してしまうことの異常さです.これは,資本市場や各国の政策が間違っていることを強く示唆します.

第三に,ある意味では,起こりえない問題です.ドルは世界の基軸通貨であり,支配的な準備資産です.アメリカの債務はドル建であり,資産価格は変動しています.アメリカは新興市場が陥ったようなミスマッチを心配する必要が無く,むしろ世界の「最後の貸し手」となっています.

それゆえ,アメリカのドル建資産に投資する海外の投資家たちには,リスクをヘッジする手段がありません.もしアメリカは資本流入が多すぎる,輸入を減らさなければ持続できない,と彼らが判断すれば,ドルの減価を予想するでしょう.その場合,経常赤字を減らすためのドル安で,資産価値も(他の通貨で)大きく減ることを心配し,投資を維持するには,こうしたリスクに対する予想収益の増大を要求します.どこかの政府がドルによる外貨準備を引き揚げれば,それは連鎖的にドルへの取り付けと金融市場のパニックを誘発します.

もし日本など外国政府が大規模な介入を行わなかったら,それは既に起きていたかもしれません.アメリカは民間貯蓄や財政赤字を抑制する(他方,日本やEUは内需によって成長する)方針を示し,新興市場は自分たちの貯蓄をもっと生産的な国内投資にまわすべきです.そして保護主義や資本市場の危機を予防することが重要です.


FT August 17 2004

The empire moves its frontiers

FT August 18 2004

Quentin Peel: No way to change the world

By Quentin Peel

WP Sunday, August 22, 2004

Playing Politics With Security

By Jim Hoagland

LAT August 23, 2004

Politics Color Troop Plan

(コメント) ブッシュ氏が示した,世界からのアメリカ兵7万人の引き揚げは,アメリカもしくは「西側」の帝国における辺境地帯が大きく変化したことを意味します.もはや冷戦やヨーロッパ統一への関与ではなく,中東民主化やアジア再編への関与が重要な時代が始まっているからです.石油資源も,中東だけでなく,カスピ海や西アフリカに関心が向かいます.

一方では,ヨーロッパやアジアにおいて,アメリカ軍が果たしてきた平和維持の貢献が次第に軽視されるとともに,駐留米軍に対する住民感情が悪化しています.イラク戦争をめぐって対立したヨーロッパでは,その後もアフガニスタンやボスニア,イラクにおけるNATOの関与に支障をきたしています.他方,アメリカはラムズフェルド国防長官の進める世界的な軍の再編と近代化・削減計画において,旧同盟関係を解消し,新しい「有志連合」を公然と求めました.

しかし,アメリカの関与無しに世界の安全保障や秩序維持が可能か? と言えば,まだ誰も具体的に考えられないことです.帝国の終わりを祝うのは間違いです.超大国への決別と,パクス・アメリカーナへの憧憬が,同時に深まる世界において,アメリカ政府は軍隊の新しい世界配置によって,各地の反米感情や政治的支持を「調整」する,というのが真実のようです.

もちろん,今後10年かけて軍の近代化と再配置を進める,という約束は,ブッシュ氏の再選キャンペーンでもあります.この長期的に重要な目標が,イラク占領で米兵が不足する事態の口実として扱われることを,Peelは批判します.他方,ケリー氏はイラクの駐留を維持し,むしろ米兵を追加募集しなければならない,と認めます.これも,失業減らしを暗黙に示唆する選挙キャンペーンなのでしょうか?

Peelは,アメリカ軍の配置が歴史に依存しすぎていることを批判し,ドイツ,韓国,日本がもっと自力で防衛することを求めます.むしろ,ブッシュ政権の再編計画はまだ中途半端であり,同盟諸国との妥協を避け,弱小な同盟関係を増やして軍事的な介入負担を引き受ける姿勢に反対します.唯一の超大国アメリカのジレンマとは,国際的な関与を誰もが必要としながら,政治的な支持を失わずに,いつ,どこで軍事介入に踏み切るか,決めるのが難しいことです.

これほど瞬時に情報が広まる時代でなければ,イギリス帝国のように,この問題は深刻ではなかったはずです.また,アメリカほど「民主主義の拡大」にイデオロギー的な価値を主張しなければ,新しい同盟関係も容易であったでしょう.そして,アメリカ政府が軍事力の比較に偏り,軽視してしまった要因とは,世界各地に残るナショナリズムの頑固さです.

LATもWPも,選挙キャンペーンとして喧伝されるブッシュ氏やケリー氏のアメリカ軍再編計画に,間違った政治的判断で安全保障を損なうことを警戒します.


IHT Tuesday, August 17, 2004

China's new power can be contained

By Philip Bowring

ST AUG 21

A precarious peace and an absurd strategy

Janadas Devan

IHT Wednesday, August 25, 2004

Philip Bowring: Asia bends history to fit national myths

Philip Bowring

(コメント) 北東アジアでもナショナリズムの復活が重視されています.各国は,現在の目標と歴史的な経緯とを冷静に判断し,対立を抑制しながら協調パターンを変えて行くべきです.歴史に制約されて現実を不可避と思い込む愚を犯さぬように,とBowringは注意します.

たとえ朝鮮半島からアメリカ軍が大幅に撤退しても,日米間の軍事協力関係が維持される限り,その役割は変わりません.中国の軍事力が近代化されても,その行使を抑制するでしょう.むしろ,資源や市場をめぐる中国との経済的な衝突が,そのナショナリズムを刺激して軍事的強硬派に権力を握らせる事態を避けることです.

アジア・カップの日本チームに対する中国の反発や,高句麗に関する歴史解釈をめぐる韓国との対立.日本の若い世代が示す戦争責任や謝罪要求に対する反発と安全保障に関する親米姿勢.戦略核兵器や艦隊の増加.台湾海峡で台北に向けられたミサイル.それらは中国の「和平演変」"peaceful rise"にともなう摩擦です.経済的な繁栄によってナショナリズムを満足させることに失敗したとき,平和的移行は変質する恐れがあります.

日本は台湾政府の安全保障に深く関与しませんが,台湾の位置を憂慮します.もし北京政府が台湾を支配すれば,領土や海洋資源,輸送経路,特に中東から石油供給に,大きな不安を感じるでしょう.それは貿易や投資にもっぱら関心を持つ日本政府にとっても重大です.アメリカとの協調やミサイル防衛システムの開発だけでなく,中国の軍事力に比べて国際的な関心は低くても,日本の海軍力も顕著に拡充されています.

その限りでは,日本が独自に核武装することは無いでしょう.中国の反日感情を刺激するだけです.しかし,アメリカがイラク占領政策に対する国内の反発から方針を展開し,アジアからも急激な撤退を始めれば,そのバランスが崩れ,不安定化します.

韓国は,中東問題や核軍縮によって,アメリカの朝鮮半島政策が強硬派に支配されていることに不満です.北朝鮮の核問題は,中国の役割を重要にし,他方,日本は軽視されます.しかし,韓国やヴェトナムに対して,中国はそのナショナリズムを刺激するかもしれません.日本による軍事的占領を経験したことが中国と韓国とを協力させるかもしれませんが,他方で,中国内の朝鮮系少数民族をめぐって韓国の反発を受けるかもしれません.

もし朝鮮半島の再統一が実現すれば,韓国の工業・技術力に北朝鮮の人口と核兵器が加わります.それは中国の成長と同じくらい,確実に,この地域の地政学を変化させる,とBowringは考えます.

Devanは,台湾海峡の現在の平和は三つの条件に依存している,と主張します.1.台湾政府が独立を抑制する.2.北京政府が武力行使しない.3.アメリカ政府が現状維持に反する両政府の一方的な行動を非難する.逆に,たとえ一つでも機能しなくなれば,平和は失われる,と.

もしアメリカ政府が北京政府の武力行使に疑念を持てば,その独裁体質を嫌い,民主的な台湾政府への支持を強めるでしょう.また,もし北京政府がアメリカ政府の台湾に対する関与に疑念を持てば,軍事的な征服を試みるでしょう.しかし,現状維持はいつまで続くのか?

問題は,海峡を挟んだ両側で,経済的な利益よりも政治的な情念が優先され始めたことです.利益は妥協させることができるが,情念は妥協を受け入れません.1973年に,毛沢東はキッシンジャーに「台湾の再統合を中国は100年待てる」と約束しました.しかし,今の北京政府は20年と限定します.蒋介石は愛国的な中国人として指導者だったけれども,陳水偏は台湾人のナショナリストを指導しているからです.

15年,もしくは10年前なら,時間が経てば再統合できる,と両政府が信じていました.しかし,今は違うのです.それゆえ,アメリカの役割はますます重要になっています.アメリカ政府は,台湾にも中国にも,一方的な行動に対する抑制と,アメリカの関わり方を示しました.しかし,特に台湾政府にとって,その立場は矛盾しているように思います.その疑念を晴らすため,アメリカ軍は最新兵器を台湾に売却し,アメリカ軍との合同演習を催します.しかし,同時に,北京政府との対話を続けるように圧力をかけるべきです.

両者が十分な軍事力を持って,なお,均衡への配慮から戦争を回避するだろう,という方針は必ず失敗する.それがDevanの警告です.むしろ,経済的な利益を重視し,対話継続にアメリカの関与を高めることが重要です.

しかし,歴史認識を共有することは非常に困難です.Bowringの後の論説は,歴史の複雑さを利用する各国のナショナリスト政治家たちを批判します.アジアの政治指導者たちと日本の侵略戦争とは,決して単純な関係に無かった,と.また,日本が戦後の謝罪を十分に行わないと非難する中国政府,それを支持しがちな欧米の政治家に対して,中国政府自身がはるかにおお君ボ人民を殺害し,迫害した過去には全く触れないし,欧米政府が残忍さは劣るが長期にわたって植民地を収奪したことに謝罪したことも無い,と指摘します.

歴史は,しばしば現在のスタイルに影響し,利用されますが,未来を予測することなどできません.オリンピックであれ,歴史認識であれ,政治家はそれらを手放さないでしょう.しかし,それらが独立して尊重され,互いに共有される政治のスタイルを確立することに,新しい指導者たちが可能性の拡大を見ることもできるはずです.


NYT August 17, 2004

Saving the Vote

By PAUL KRUGMAN

NYT August 24, 2004

The Rambo Coalition

By PAUL KRUGMAN

(コメント) KRUGMANは,誰もが感じていながらジャーナリストたちは触れたがらない問題,次の大統領選挙が公正に行われないのではないか,という疑念を示します.Jeb Bush知事のフロリダがそうであったように,開票作業に多くの疑念がある,というのです.共和党のブッシュ氏に有利になる,さまざまな投票者の選別を知事が行ってから,開票作業を機械化したので結果に間違いはない,と主張するかもしれません.

またKRUGMANは,予想通り,史上まれに見る汚れた選挙になった,と考えます.ブッシュ氏は具体的な成果が無いにもかかわらず,テロと安全保障に関して成果を誇張し,情報管理や宣伝合戦を繰り返します.それでも,最近のケリー候補を貶める中傷キャンペーンには驚いた,と.そして,ヴェトナムにおける兵役を免れたブッシュ,チェイニー,アシュクロフトのような連中が,命をかけて戦った愛国者たち,ジョン・マッケインやケリーを非難することに反発します.

それは本当の愛国者ではなく,「ランボー愛国主義」なのです.ヴェトナム戦争など,戦場の残酷な経験を踏まえ,戦争の道義的矛盾を感じつつも,勇気を示した兵士たちと違い,熱烈な愛国者を気取って,悪党どもをぶちのめす,と宣言する単なる政治スタイルに人気があるのです.9・11以後,ブッシュは現実の脅威に立ち向かうより,ランボーを演じることを選択しました.

では,なぜ退役軍人たちがケリー批判に加わったのか? 主な理由は,ケリーが勇気ある行動を取らなかったからではなく,帰国してからヴェトナムでの戦争を批判したからです.しかし,それ自体も勇気ある行動であった,とKRUGMANは賞賛します.


FT August 19 2004

The market can decide how many go to university

By Steven Schwartz

ST AUG 24, 2004 TUE

Schools for the future

(コメント) 高等教育には政府の補助金が使われます.さて,では大学に若者の何割ぐらいが進学するべきでしょうか? 財政的な負担はどこまで認められるでしょうか? 市場が常に正しい答えを出すのでしょうか?

FTの論説は,市場の力を高等教育の改善に役立てる方法を示しています.政府の非効率な介入と再分配ではなく,学生の一人一人にバウチャーを配って,これを集めた大学が補助金を得ることにします.社会が高く評価するなら,学生は大学に進学するでしょう.大学は優秀な学生をより多く集め,学生が求める教育内容を,学生が満足するように提供したい,と思うわけです.

しかし,バウチャー・システムだけで優秀な大学に学生が偏り,不平等を固定化し,助長するかもしれません.そこで,政策的な割当制度を組み合わせることを考えます.

他方,チョムスキーNoam ChomskyもA・センAmartya Senも,幼い頃,優秀な児童を集めた英才教育を受けました.しかし,学校で競争を強いられたとは記憶していません.もし競争したとしたら,それは自分自身とである,とチョムスキーは言います.

これはシンガポールの教育政策に関するSTの論説です.彼ら天才たちの証言からも,教育の真髄が示されています.すなわち,それは成績を上げることにとどまらず,個々人を成熟した,思慮深い,頼れる社会の成員として能力を開花させることだ,と言います.そのような若者が育つなら,シンガポールは予測できない不確実な未来にも新しい道を切り拓ける,と.

他者と競り合うのではなく,自分自身を高めるために学ぶところ.それが未来の学校です.どうすれば,そんな学校が作れるのか? 論説は,「弾力化」を主張します.何を教えるか,どこまで教えるかについて,決められた成果に近づくのではなく,彼ら自身が求めて進むのです.

これは,リー・クァン・ユーの息子であるLee Hsien Loong新首相が提唱した政治課題です.シンガポールを未来に向けて指導するには,教育政策を革新する,というわけです.しかし,権力システムが閉鎖的なまま,教育が未来に向けて開かれる,とは思えません.


FT August 19 2004

How to persuade China to trade fairly

By Adam Segal

BG August 24, 2004

Time for new thinking on China trade

By Douglas B. Fuller

(コメント) 半導体でも,無線技術でも,中国は国際的に使用されている(すなわち欧米企業が支配権を持つ)「市場の求める」技術を拒んで,さまざまな規制や国内技術の保護を試みてきました.それは,中国政府が基本技術に関する欧米の支配に依存することを好まず,不安を感じているからです.また,国内市場を梃子に,欧米とは異なる独自の技術や企業を育成できる,と考えるからでしょう.

外交評議会のSegalは,欧米の冷静な対応を求めます.WTOに提訴し,報復的な関税を課しても,それで中国政府が事態を改善させるかどうか,分かりません.むしろ,欧米企業が統一して,粘り強く交渉すれば,市場の求める技術を認めるでしょう.技術的な支配に関しては,もっと他の方法で解決することもできるはずです.

これに反してFullerは,中国が世界市場に従う,という安易な楽観を退けます.日本との貿易摩擦(「能舞台」にたとえられる)に関わった歴史的な教訓も,的外れでしょう.中国の発展は多国籍企業との協力に依存しており,日本のような保護主義は採用できません.

しかし,中国が政府と企業による技術開発を目指しても,それを非難するより,協力して中国の技術を開発してやる方が現実的かもしれません.もちろん,世界市場と矛盾しないように.しかも,アメリカの自動車会社に部品を供給している企業が中国に移動したように,アメリカ企業の主要な生産拠点が中国にできます.半導体産業でもそうです.その場合,彼らはアメリカの競争力を重視するでしょうか? むしろ,中国の生産拠点が競争力を維持する方が重要になる?


LAT August 19, 2004

U.S. Should Form a Marshall Plan for Latin America

By Andrew Reding

(コメント) ヴェネズエラのチャベス大統領が国民投票で解任されなかったことは,アメリカを含む南北アメリカの,民主主義の弱さと所得格差の拡大について警鐘を鳴らしています.数において勝る貧困層の支持を得たチャベス氏が勝つことは,しかし,貧困層にとって本当は不幸なことなのです.そして,選挙結果を受け入れるかどうか,反対派やアメリカ政府は混乱しているようです.たとえチャベスが支持を得るために石油収入をばら撒いたとしても,アメリカ政府がやっていることと何が違うのか?

たとえ資本逃避などで貧困が悪化しても,チャベスは石油収入によって救済を図るでしょう.石油価格が高ければ,彼が支持を失う理由はありません.問題は左派的な言辞や,ポピュリスト的な再分配ではなく,石油収入に依拠して市場を抑圧できることです.

同様に,第二次世界大戦後のヨーロッパも,民主主義は不安定で,所得分配と階級対立が激しく,政府の機能が蝕まれていました.アメリカは,これに対してマーシャル援助を行い,労働組合などの社会制度を支援して,中産階級を共産主義から守ろうとしました.他方,ラテン・アメリカへの介入では,多国籍企業の活動が自由であれば,各地の独裁者とも安易に結託しました.

アメリカは,チャベスを非難するより,ラテン・アメリカの中産階級を育てる新しいマーシャル援助を行うべきだ,と論説は主張します.さらにアメリカ国内でも,同様に所得分配が不平等化し,工場が海外に流出して,ラテン・アメリカ化が起きています.民主主義の発展には,中産階級の繁栄が重要であることを認識しなければならない,と.


LAT August 21, 2004

3,000 Jobs; 500,000 Seekers

NYT August 22, 2004

Not a Hooverville in Sight

By N. GREGORY MANKIW

(コメント) LATは,ブッシュ政権の楽観的景気予測にもかかわらず,ロサンジェルスのロング・ビーチ埠頭で荷揚げの求人に応募が殺到したことを紹介します.予想以上の活況を呈しているのは,アジアからアメリカへの輸入を扱う港湾の荷降ろしだけかもしれません.ただし,長期の景気見通しに不安がある以上,それも一時雇用がほとんどです.ブッシュ氏は,景気は底を打った,と言うけれど,それは間違っている,と.

他方,MANKIWはこうした非難を受け入れません.ブッシュ政権の経済諮問委員会で,現在,委員長を勤めるMANKIWは,クリントン政権で同じ地位を占めたLaura D'Andrea Tysonが「大恐慌以来のひどい雇用回復だ」と非難したことに反論します.今,1930年代のフーヴァー村が再現しつつあるのか? と.

そんなことはない,とMANKIWは数字をあげて強く反論します.1930年代と比較するのはとんでもない.ブッシュ政権の対応は正しかった.失業は減っている.どのような職種かという統計は無い.しかし,回復は広い範囲で起きているから,反対派の主張は間違いだ.新しい課題も多いが,正しい政策によって回復を維持できる,と.

もちろん,経済学者たちの言葉をそのまま信用することは,正直,なかなか難しいわけです.


LAT August 21, 2004

Want Your Children to Love Books? Read On

By Jennifer Horsman-Flowers

(コメント) 子供には本を読めと薦めるのに,ある調査the National Endowment for the Artsによれば,アメリカ人は本を読まなくなっています.小説を読んだことがあるのは半分以下であり,昨年全く本を読まなかった者が57%もいます.インターネット,ビデオ・ゲーム,500もチャンネルのあるTVがあれば,誰が本など読むでしょうか?

読書の習慣を幼い時からつけるべきだ,と記事は強調します.幼い子供に,声に出して読んでやること.そして,少し大きくなれば,ゲームの誘惑と読書とを比較して話し合う必要がある,と.


LAT August 22, 2004

Black/Migrant Rivalry for Jobs Can Be Eased

By David Bacon

(コメント) 民主党の基盤は,黒人,ラティーノ(メキシコ系移民),労働組合,です.しかし,これらの間でも対立が生じます.

例えば1980年代のロサンジェルスに何が起きたか? それまでオフィスの清掃や管理はアフリカ系アメリカ人の仕事であり,労働組合がありました.しかし,その後,経費節約のために契約者は代金を抑え,ラティーノ移民を雇うようになりました.さらに組合を解体し,賃金を大幅に下げます.ホテル業界がそれを真似ました.自動車でも,製鉄でも,航空・宇宙部門でも,組合の支配する職場はなくなりました.新しい職場は賃金が低く,苦汗工場の経営が増えました.

しかし,二つの差別禁止に関する動きにおいて,団結に向けた進展が見られます.一つは,組合the Hotel Employees Restaurant Employees unionがロサンジェルスのホテル業界に示した提案,もう一つはJackson-Lee法案です.組合は,オンブズマンを指名し,ホテル業界で黒人に対する差別が行われないように監視すること,また多数を占めるようになった移民労働者の働く権利を保護する(それによって組合労働者との不当な競争を避ける)ことを求めました.同様に,Jackson-Lee法案も,5年以上アメリカで暮らす移民の恒久的な権利を認め,移民であることを理由とした雇用主の脅迫を禁止するものです.

アメリカの黒人は,各人の二倍以上の失業率に苦しめられています.他方で,新しい移民労働者の雇用は急速に増えています.しかし,白人労働者や旧来からの移民たちは失業するのです.ただし,黒人の失業は,移民によって職場を奪われたからではない,という」調査が紹介されています.

世界に1億3000万人もいる移民を,法律によって阻止できない以上,むしろ,彼らを差別する法律や制度をなくし,彼らの権利を同等にすることで,国内労働者の職場も守れる.二つの動きは,このような"flat-Earth program"の考え方を示します.


LAT August 22, 2004

Politics Dog the Oil Reserve

By David G. Victor and Joshua C. House

FT August 23 2004

The oil pressure is rising at the Fed

By Stephen Cecchetti

(コメント) 主要な石油消費国や,中国,インドも始める,石油備蓄の管理は,IAEAではなく,各国政府が行っています.しかし,たとえば政府が選挙の年に石油価格を下げるために用いたり,逆に石油価格の高騰を放置して,石油業界の利益から献金を受け取ったりするのを防ぐには,独立の石油備蓄管理委員会を設けて,その運営を委ね,情報公開を行うべきだ,とVictor and Houseは主張します.

黒いドルと言われた石油に関しても,安定化のための備蓄とその管理,国際協調の制度化が,求められるわけです.

石油価格はアメリカの金融政策に影響します.1バレル50ドルというのは,名目で,アメリカでは2年前の2倍になったわけです.Cecchettiは,金融政策を間違えなければ,高騰する石油価格のせいでインフレを生じる危険は無い,と言います.すなわち,金利を上げてインフレを防げ,と.上昇した石油価格の効果は,所得に1%の増税をした効果に匹敵します.

低金利のまま石油価格が上昇すれば景気の加熱とインフレをもたらします.しかし,金利引上げは生産の減少とインフレ抑制を意味します.もし名目金利を上げなければ,インフレによって実質金利が下がり,金融緩和と70年代の悪夢が近づくでしょう.石油価格がいつまで高いままなのか? が問題です.

金融政策を,特に選挙前の難しい時期に,容易にする方法として,Cecchettiは二つを指摘します.一つは,FRBが長期のインフレ目標を示すことです.明確な長期のインフレ抑制姿勢を示してインフレ期待を抑えた方が,短期的にも,石油価格からインフレが生じないよう有効に対処できます.もう一つは,戦略石油備蓄にFRBと同じ独立機関を設けて,石油価格の安定化に市場介入することです.


NYT August 22, 2004

In Germany's East, a Harvest of Silence

By MARK LANDLER

(コメント) ドイツ再統合の時,ドイツ首相であったヘルムート・コールは,「かつての東ドイツは,席活にも仕事にも適した,素晴らしい土地に変わるだろう」と断言しました.実際,ドイツ人はその約束を果たすために人類史上最大の富の移転を行いました.1990年以降,西から東におよそ1兆5000億ドルが移転され,生活水準の引き上げと,スーパー・ハイウェイのような公共事業に費やされました.

しかし,それは何ももたらしていません.東は今も荒れはて,さびれており,共産主義政権の頃よりも,さらに人が少なくなりました.当時は,たとえ幻想でも,計画経済が職場を与えてくれたのです.15年を経て東を旅すれば,復興計画がどれほど失敗に終わったかが分かる,と記事は伝えます.

東の5人に一人が職を持たず,ドイツ全体の失業率の2倍です.1990年以来,160万人も人口が減って,1510万人になりました.多くの人々,特に若い女性が,職を求めて西に流出し続けています.共産主義時代の地方におけるモデル都市であったHoyerswerdaを訪れると,7万人の人口の約半分が町を捨て,墓石のように,空っぽのアパート群が建っています.

子供は,絶滅寸前の希少生物です.なぜなら若い夫婦が真っ先に町を出たからです.サクソン州の誇り高い首都ドレスデンは,この夏,43の学校を閉鎖しました.ドイツ人たちは,東の荒廃が,ドイツ経済そのものを蝕んでしまうことを恐れています.何が間違っていたのか? 国民的な論争を経て,余りに多くの投資が煉瓦やモルタルなど,建物に偏り,人には投資されなかったことだ,という答えをある委員会が出しました.

補助金を出してBMWの工場を誘致しても,東の問題は解決しません.問題は人間です.オージーズと蔑視される東の市民たちは,共産主義体制への依存や,西からの援助に頼らず,より貧しい東欧とも競争する姿勢を持つべきでした.しかし,近頃は,東の労働者や農民が,失業手当の削減や耕作の減少に抗議するデモを繰り返しています.かつての工場は錆付き,小麦やオート麦の実った耕地も雑草が茂ったまま廃棄されているからです.

ここが,コール首相の約束した繁栄の土地である,と記者は嘆きます.


FT August 24 2004

In China, a soft landing may turn hard

By James Kynge

FT August 27 2004

Editorial Comment: Fine-tuning China’s slowdown

(コメント) 中国経済のソフト・ランディング,そして「微調整」は成功するでしょうか?

4月から中国政府はさまざまな引締め策を発動し,原則が確認されつつあります.次の問題は,これが来年にはハード・ランディングに変わるのではないか,ということです.国内では投資が,海外ではアメリカの需要が,軟化しつつあるからです.また,中国が輸入を減らせば,特に日本を含めて,周辺諸国への影響が深刻です.

中国政府は金利を上げるよりも,また,そのために為替レートを弾力化するよりも,さまざまな個別の政策手段を用いて,不動産向けの融資や過剰投資を抑制するようにしました.今までのところ,それは成功しています.ただし,予想もしない副作用があるでしょうし,今後も,その効果の程度は分かりません.


FT August 24 2004

The world should share its science

By Caroline Wagner and Yee-Chong Lee

(コメント) 21世紀は科学研究の成果が世界で共有されるだろう,とこの論説は主張します.なぜなら,研究がますます国際的なサークルに依拠するようになるから,と.

私には,むしろ,反対の傾向が強く意識されます.一つは,企業間の国際競争が激しく,ますます,研究開発によって競争力を維持したい,と思うのではないか? また,国家による知識の管理が強められ,冷戦における軍事スパイが産業スパイになって,国家間や企業間の競争と秘密保持の体制を強めるのではないか?


FT August 24 2004

Taiwan tensions

(コメント) シンガポールの新首相も,オーストラリアの外相も,台湾政府が独立に言及することを警告しました.実際に,台湾が北京政府と武力衝突を起こせば,アメリカ軍だけに介入する可能性があります.しかし,アメリカ政府も現状維持を求めています.

台湾政府は,民族主義的な独立運動を支持基盤としています.その意味では,独立に言及しないことは政治的な死を意味するのでは無いでしょうか? 重要な政治選択のたびに「独立」が問題になります.民主主義を要求することと,市場統合や通貨の統一を主張することは,台湾海峡に限って,問題を解決するより難しくする可能性があります.そのジレンマに,アメリカ政府はどこまで付き合うでしょうか? 選挙や北朝鮮をめぐって,また経済政策の失敗やオリンピックをめぐって,間違いが起きることが懸念されます.

もし北京政府が,数十年をかけて中国本土と台湾が政治的・経済的な格差を解消し,自治権を保証する,と人々に約束すれば,もっと安定した関係が築けるはずです.


IHT Tuesday, August 24, 2004

The two Chinas: Deng's dubious legacy

Jonathan Mirsky

(コメント) ケ小平が生誕100年を記念する行事で,その二面性に注目を集めました.すなわち,改革開放の指導者であり,同時に,1989年,天安門事件の武力弾圧を認めた責任者でもあった.その姿勢は,西域のイスラム教徒やチベットの仏教徒の弾圧についても見られた,と.

では,賞賛される経済改革の現状はどうか? 繁栄にともなう,見捨てられた多くの人々.そして官僚や政治家の腐敗.もちろん,もしケ小平が今も生きていれば,これらの分裂,格差,腐敗,批判に対する,政治行動を起こしたでしょう.


WP Tuesday, August 24, 2004

Dangers of Defaming a War Hero

By David Ignatius

WP Tuesday, August 24, 2004

Tests of a Smear Campaign

By E. J. Dionne Jr.

WP Tuesday, August 24, 2004

Swift Boats And Old Wounds

By David S. Broder

LAT August 26, 2004

Kerry's Testimony

LAT August 26, 2004

Shots Hit Kerry's Weak Spot

Max Boot

(コメント) 「任務了解」と報告するヴェトナム戦争のイメージを冒頭に持ってきた受諾演説を始めたケリーに対して,共和党を支持する退役軍人たちがそのイメージを汚しにかかりました.

この反ケリー宣伝を行った元兵士たちも,自分自身の矛盾した言動を精査されるでしょう.そして,ブッシュ氏自身の軍歴やヴェトナムとの関わりも問題になります.何より,こうした大規模なネガティブ・キャンペーンを支持したブッシュ陣営の姿勢に対して,有権者が長期的に好ましい印象を持ち続けるとは限りません.

これこそ伝統的な中傷キャンペーンです.いいかげんなデマでも,直接には関係が無い団体を装って,対立候補を中傷する宣伝を激しく行い,たとえそれが正しくないとしても,このような攻撃を受ける者には「何か後ろめたいことがあるに違いない」といった印象を有権者に広めるわけです.選挙後に,首謀者たちは言い逃れるか,軽微な罪を認めるだけで済ませます.これもブッシュ式の西部劇なのでしょう.

メディアは,ブッシュとケリーに対して,同等に,国民が関心を持つ問題を精査しなければなりません.彼らが許せないのは,ケリーに象徴される反戦行動や反体制運動でしょう.そして,いつまでも1960年代のヴェトナム戦争と,人種暴動や学生叛乱の記憶に苦しめられて,現在の政治を誤らせないように,アメリカの新しい世代が主張することだ,とある論説は主張します.

LATの論説は,ケリーの行動とそれを批判するthe Swift Boat Veterans for Truthについて,バランスの良い公正な判断を示していると思いました.今も60年代のヴェトナム戦争についての評価を争うべきか? 20代の若者が述べた言葉が,30年以上も経って,大統領候補の評価に必要なのか? と疑問を示します.一方で,ケリーは従軍した末に反戦活動を行い,ペンタゴンの判断を批判しました.兵士たちが戦場で,恐怖から非人間的な行為に走ることを止めたいと訴え,共産党政権の樹立ではなく,戦争の早期終結を求めたのです.

他方,Bootは,この反ケリー宣伝が効果的であった理由を指摘します.ケリーは,戦場ではなく,反戦運動で有名な男であり,選挙用に勲章を自慢するような態度に憤慨する保守派の退役軍人たちがいるのは,彼自身のそのような政治姿勢,ご都合主義にある,と考えます.


FT August 25 2004

The urgent need to save lives with force

By Michael O’Hanlon and John Prendergast

(コメント) 地域的な秩序の回復に,迅速な,NATOや国連軍の編成と展開を議論する論説です.それは,たまたま読んでいる中国の春秋時代を描いた,宮城谷昌光『侠骨記』の叙述を思い出させます.政治とは大小の戦争の集まりであり,小国が生き残るために戦略を尽くし,合従連衡を行う人々の営為の中に,政治がある,と.現代の戦争を治める,優れた政治とは何か・・・?


NYT August 26, 2004

Holding the Pentagon Accountable: For Religious Bigotry

(コメント) ブッシュ政権の宗教的な結束,もしくは狂信について,なぜだれも拒めないのか? キリスト教右派の影響力をどう読むべきか?


FT August 27 2004

How migrant labour has influenced Britain's economy

By Anna Fifield and Ed Crooks

(コメント) なぜインフレを生じることなく何年もイギリスは成長を持続できたのか? その答を,イングランド銀行とこの論説は,優れた移民労働力の流入,に見出します.

しかし,移民移管しては,主に,三つの政治圧力が関係します.他の一つは,安価で勤勉な労働力や技術者を求める産業界.第3に,移民排斥を訴えるイギリス国民党や,EU離脱を叫ぶ独立党と,彼らに同調する大衆紙,それに影響された世論です.

象牙海岸で生まれた男性は,数学を学び,イギリスに渡って英語も学習します.しかし,5年後,彼はクリーニング店やスーパーマーケットで働いています.イギリスの永住権を得て,家族に仕送りしつつ,あと数年で情報技術を学んでから,故郷に帰れるのではないか,と考えています.あるいは,裕福なアメリカ人が,アメリカ国債を売買する仕事でロンドンに配置され,そのままロンドンの生活が気に入って,滞在期間が伸びそうです.

こうした弾力的な労働供給が多ければ多いほど,イギリスの成長は加速し,しかもインフレは抑えられます.なぜなら移民労働者は,その需要とともに,イギリス国内の供給も増やすからです.移民が生産的に雇用されるなら,それが多ければ多い方が良い,ということになるでしょう.

しかし,全体として成長が加速しても,それは誰も損失を被らないことを意味しません.移民が加わることで,労働市場の競争は激化し,賃金が低下します.特に建設など,移民が流入しやすい低賃金部門の影響が大きいでしょう.また,企業は常に十分な技術や熟練のある労働者が不足している,と不満です.こうした分野でも,移民の流入は国内で摩擦を生じます.

極右の政治集団が移民排斥を訴え,攻撃目標として示威行動を繰り返す中,それを防ぐ一方で,世論とともに,政府の立場も変化します.イギリス産業連盟も,構造的な相違によって,アメリカのような無制限の移民流入はふさわしくない,と考えます.しかし,他方で,インドや中国のように豊富な労働供給は無いのです.そこで彼らは,政府に「管理された移民 “managed migration”」を求めます.イギリスの移民受入れ制度は,こうした産業界の要請に対応したものです.

移民が経済問題の「万能薬」ではありません.しかし,好況の際の労働力不足を埋め,インフレの抑制や競争力の改善に努め,長期的には高齢化に対処する,こうした問題の改善に役立つでしょう.他方,国内の反移民感情や,犯罪対策,社会保障費用など,政府は移民問題のマイナス要因とバランスを取る必要があるのです.内務省は,EUへの新加盟国から移民流入を抑制する割当を減らしましたし,非合法移民の取締りを強化しました.

移民流入が抑制されれば,それに応じて,イングランド銀行はインフレ抑制を重視し,早めに金利を引き揚げるでしょう.


Aug. 27 (Bloomberg)

Rato's Visit to Argentina Will Test IMF Chief

David DeRosa

(コメント) 新しいIMF専務理事Rodrigo de Ratoが,アルゼンチンを訪問する際に注意するべきことをDeRosaは示します.それは,金融市場の合意できるような条件で交渉の席につかせること,です.もしアルゼンチン政府が国際金融市場に多くを負っていると認めれば,それは可能です.しかし,75%の債務削減や旧債務の額面を100分の1にする条件を示す政府を相手に,まともな交渉はできない,と拒否する姿勢を求めます.もう一つは,アルゼンチンとブラジルが連携して,債務交渉を有利にする思惑the Copacabana Accordを砕くことです.

市場においても,政治交渉においても,互いの妥協や改善策を促す仕組みが必要です.


Aug. 27 (Bloomberg)

Asia Needs a Bonding Experience, And Fast

William Pesek Jr.

(コメント) アジアの債券市場を妨げている要因を,Eichengreen and Luengnaruemitchaiの研究によって示します.すなわち,国債市場の規模が小さい(財政赤字が少なかったから).国際的な会計基準に従わない.民間の債券市場が育っていない.資本規制の歴史がある.

では,なぜ債券市場の育成を目指すのか? @銀行融資に依存した結果としての,通貨危機の再発を防ぐ.A国内貯蓄を有効に国内で投資する.特に中小企業などに資金調達を可能にできれば.B地域的協力もしくは国際的な基準を受け入れて,アジアの債券市場を育成し,将来のアジア単一通貨,市場統合を目指す.

しかし危機の教訓は,むしろ,早すぎた自由化の危険性でした.債券市場の育成も,国内の金融制度や企業経営の近代化を待って,行うしかないでしょう.

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The Economist, August 14th 2004

Germany: It’s those people, all over again

Face value: Singapore’s man with a plan

Temasek: First Singapore, next the world

(コメント) ある経済・社会システムが効率的である,と言っても,なぜそうなっているのか,は良く分からないものです.ある時期において,ドイツや日本は非常に効率的であったはずです.シンガポールもそうです.

しかし,これらの論説を読めば,日本と同様に,ドイツの改革も前途多難であり,シンガポールの国家型開発資本主義,あるいは家父長制的な秘密主義は,ハイテク・バイオ産業政策と資本市場への国家管理政策において,今なお繁栄を演出しようとしている,というわけです.


Economics focus: The evolution of everyday life

(コメント) この不思議な研究(Paul Seabright, “The Company of Strangers”)の紹介を,楽しめるか,驚き嘆くか,それは人によりそうです.人間が協力するのは,進化によって得られた種の特質である,という主張です.人間だけが,血族集団以外の「他人」と協力する,と.進化の過程で,人間だけが「計算」と「互恵性」を重視する本性と制度を築いてきた.だから市場は機能できる,と.アダム・スミスとダーウィンとを結び付けたような,市場としての社会的な協調を可能にする,「人類の進化」を問題にします.

ここまで言う必要があるか? という疑問は残ります.これは市場メカニズムの賛美を,市場ではなく,人類の誕生にまでさかのぼって一般化し,もしくは神秘化した,市場崇拝のバイブルではないか?