「阪神地区公立高等学校出身者のキャリア形成に関する調査」報告    目次 目次



Z おわりに:今後の研究課題

以上の調査結果より、転職に関しても、また本調査において特に明示的に取り扱ったNPOに関しても、今後の研究課題を設定する上で示唆に富む貴重な手がかりが与えられたことは論を待たない。

まず転職に関しては、サンプルの基本属性によって利用する方法・媒体、重視する項目に差異が生じている。例えば、子どもを持つ既婚の女性は、「勤務地」や「労働時間・休日数」などを考慮し、無駄な費用をかけないために「新聞・チラシ」を利用することが多いのに対して、キャリアアップを図りたい場合は、自分の能力・専門性を積極的に活用するために民間職業紹介機関などを利用している。

しかし、いずれの場合も「職場の雰囲気・人間関係」をはじめ「給料・福利厚生」などの基本的な要件でさえ十分に把握できていない実態があり、それが雇用のミスマッチを引き起こす原因の一つとなっている恐れがある。誰が、どのような方法・媒体を通じてこれらの情報を入手し、それがどのような結果をもたらしているのかを計量的に分析することで、雇用流動化時代に対応した転職市場における最適なマッチングについて考察し、特に方法・媒体の側面において、実効性のある政策的提言にまで昇華させたい。

次にNPOに関しては、現状がマスメディアからの広く浅い情報接触に偏っており、そのことがNPOに対して特定のイメージを植えつけていることが明らかになった。そこで、NPOに対するイメージやNPO活動への参加の意思を決定する要因をより厳密に検討するために、個人のバックグラウンド(属性・教育内容・就業経験・社会活動経験など)の差異を加味したモデルを構築し、計量的に分析することを企図する必要がある。

具体的には、NPOに対するイメージ形成とNPO活動への参加の意思決定を説明するモデルを同時に構築し、情報の入手経路、個人のバックグラウンドを、それらを決定する要因として設定する。NPO活動への参加の意思決定を説明するモデルには、前者で明らかにしたNPOに対するイメージ形成も、追加的な決定要因として導入する。

これらのモデルの推定を通じて、NPOに対する特定のイメージの形成要因や、そのイメージが実際にNPO活動への参加の意思決定に結びついているかどうか、また、それは主に個人のバックグラウンドに起因するのか、それとも情報の入手経路やイメージに起因するのかなどを明らかにし、NPO、行政あるいは教育機関などが、今後どのようなスタンスで、どのように働きかけていくべきかについて、一定の方向性を見出したい。

以上の研究課題に取り組むことで、NPO活動をはじめとする社会活動が、転職を含めたキャリア形成における選択肢の一つとしてあたり前に存在する社会的環境を整備するために、個人のバックグラウンドの差異に即した政策のあり方について議論を深め、社会活動における中核的人材の確保、定着および活動内容の充実に寄与することを目指したい。


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