「阪神地区公立高等学校出身者のキャリア形成に関する調査」報告     目次 目次



「阪神地区公立高等学校出身者のキャリア形成に関する調査」報告(※注1)
Survey on Career Formation of the Public High School Graduates
in Hanshin Area: Report

森山 智彦
(文学研究科産業関係学専攻修士課程)
浦坂 純子


T はじめに:調査概要

現在の日本は、長期雇用の崩壊に伴い、急激に雇用が流動化しつつある。この傾向は今後も続くと予想され、時代に対応するためにも、どのような職種、あるいは職場を選ぶのかといったキャリア形成の意識を主体的に持つことが、個人にとっては重要な課題となる。実際、就業以外の社会活動をキャリア形成の一貫として活かす人も増加し、キャリアの多様化は過去に類をみないほど進展しつつあるといえよう。しかしながら、雇用の流動化が盛んになったのはここ数年のことであり、その流動化に対応できるだけの社会的環境が整備されているとはいい難いのが現状である。

そこで、どのような属性を持ち、どのようなキャリアを蓄積してきた人が、転職にあたってどのような方法・媒体を利用しているのか、またどのような難点を感じているのかという問題意識から、学卒後一定期間を経過し、ある程度の就業経験を得て、キャリア形成を強く意識するようになった30歳代を対象に、個人のキャリアと転職時に利用した方法・媒体の現状、および今後の転職意識に関する調査票調査を実施した。その際、キャリアの多様化について、特に「雇用の受け皿」としての期待が高まっているNPO (※注2)に注目し、NPOでの活動経験や保有するイメージを問うことで、NPOでの活動経験いかんに関わらず、一般に人々はNPOをどのようにとらえているのか、またNPO活動はキャリア形成の一貫として位置づけられ得るのかを検証することを試みた点が、本調査の貢献の一つとして挙げられる。

本稿では、その「阪神地区公立高等学校出身者のキャリア形成に関する調査」の結果を、単純集計を中心に概観することを目的としている。この調査は、@他地区出身者が極めて少ないと思われる、特定の公立高等学校出身者(※注3)に対象を限定することで、地域性や高等学校を卒業するまでの教育内容をほぼコントロールできる、A30歳代に対象を限定することで、NPOなどの社会活動に関しても、これまで活動参加者の主流を占めていた高齢者や主婦層にとどまらない、中核的人材としてのキャリア形成を考察することができる、B阪神大震災を契機に、NPOなどの社会活動への意識が比較的高い地区を対象としている、CNPOなどの社会活動参加者に限定されず、広範な対象者から得られたデータによる分析が可能である、という4点に利点を持ち、以下調査票の構成にしたがい、「U 基本属性について」「V 現在の就業状況について」「W 最初の就職について」「X 転職について」「Y 就業以外の社会活動について」という順で考察する。最後に、「Z おわりに:今後の研究課題」では、計量分析に向けての指針および検定仮説を提示する。 調査の概要は表1の通りであり、末尾に「[ 調査結果」として全設問の単純集計表を掲載している(※注4)


  1. 「阪神地区公立高等学校出身者のキャリア形成に関する調査」実施にあたり、A高等学校同窓会には、データ面で多大なご協力を賜りました。また、尾嶋史章同志社大学教授、若林直樹京都大学助教授、小野晶子独立行政法人労働政策研究・研修機構研究員、同志社大学「多様化する就業とキャリア」研究会メンバーには、調査票設計に関して貴重なご意見をいただきました。記して感謝の意を表します。
  2. Non Profit Organizationの略であり、様々な非営利活動を行う民間組織を指す。営利企業などとは異なり、利益を関係者に分配せず、NGO(Non Governmental Organization)と呼ばれることもある。NPOには、学校、病院、老人ホームなどを経営する事業型NPO、そのような活動に資金を提供する助成財団、環境問題などの社会問題に取り組んだり、国際援助・交流を行ったりする市民団体などが含まれる。
  3. 調査対象であるA高等学校は、1908年に開校し、1948年に現在の名称となった。出身者数は3万人を超える。進学率などは公表されていないが、就職する例は稀であり、進学校として地域での評価も高い。部活動も盛んで、入部率は9割を超える。今回調査対象となった1983年〜1992年卒業生は、1学年500名程度であり、男女比は概ね6:4であった。
  4. 問39については、主な記述のみ抜粋。


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