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IPEの風 2/8/10

卒業してゆく学生と食事しながら、彼の前途に幸多きことを祈りました。なぜIPEを学ぶのか? ・・・世界に多くの異なるガバナンスがあるから。それは多様で、可変的です。ガバナンスが異なれば、個々の主体の行動や判断、可能な選択肢が変わり、マクロ政策の効果が変わり、政権も変わります。

たとえば「今週のReview」で,P.クルーグマンが、アメリカとカナダの銀行システムを比較しています。なぜカナダは危機を免れたか? そのコラムを読んで、そうだ、と膝を打ちました。IPEの基本とは何か? ・・・比較すること。同じショックに対する異なる制度と政治危機について。

・・・日本にも、<サッチャー・モーメント>が近付いてきた。政府債務を一気に減らす構造改革を行うか、戦争とインフレによって物価を爆発させ、債務切り捨てた後、通貨制度を転換するか。いずれに向かうかは政治勢力とイデオロギー、そして国際情勢が決める。

・・・「ビール好きにとってベルギーは天国に一番近い場所だ。約125の醸造所が推定で800種類のビールをつくっている。しかも、それぞれが異なったグラスで出されるのだ。」・・・こんなコラムもありました。私はビール好きではありません。しかし、グローバリゼーションとともに、専門書店や古本屋が集まる街を歩くのは、きっと楽しいでしょう。

T

「IPEの果樹園」は休刊です。

4月に再開できるか? どのような形で続けるか? あるいは、廃止するか? もし愛読者がいるなら、その人たちの声を聞いて、可能な形を見つけたいと思います。

メールをもらえませんか。匿名でもかまいません。最初に、4つの質問に応えてください。それから、「IPEの果樹園」をどう思うか、ご意見を寄せてください。

1.         閲覧の頻度: @毎週、A毎月、B年に数回。Cめったに見ない。

2.         評価(面白い): @とても刺激的、Aまあ面白い、B退屈、Cまったく愚劣

3.         評価(役に立つ): @とても有益、Aたまには役に立つ、Bほとんど無駄、C有害

4.         続けてほしい?: @絶対続けるべき、Aあった方が良い、Bなくてもよい、Cやめなさい

5.         協力できる?: @毎週の作成に、Aコラムの要約、Bたまに意見を寄せる、C読者として

そして,その理由についても,書いてもらえると助かります.

U

これまでのスタイルを踏襲するなら、私は、複数の方と一緒に要約・紹介を続けたいと思います。主要な得意分野や地域を指定して、関連するコラムを読んでもらいます。たとえば、国際通貨・金融、外交・安全保障、貿易・多国籍企業、エネルギー・技術・環境問題、思想・イデオロギー、政治体制・ガバナンス、アメリカ、中国、EU、インド、ロシア、ラテンアメリカ、アフリカ、など。もちろん、もっと限定する人もいるでしょう。

私の集めたコラムを整理して、金曜の夜に送ります。週末(土・日)に読んで、日曜の夜か月曜の朝に要約・紹介を返送してください。私は編集だけします。

あるいは、もっと関わってもらえるなら、輪番で編集しましょう。コラムを集めるのも、整理するのも、何人かで交替します。夏休みには、合評会・合宿しましょう。私たちの小さなダヴォスです。

もちろん、あなたがジャーナリストでも、大学生でも、研究者でも、(日本語を使う)異邦人でも、政治家でも、離島の小学校の先生でも、心から歓迎します。

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毎週、本当に多くの、驚くような、唸って、走り出したくなる、それほど面白いコラムが,世界には一杯あります。だから続けてきました。

「IPEの果樹園」は、アイデアの爆発的な力に触れることで誕生し、継続してきました。英語・政治経済・国際情勢・ジャーナリズムの発揮するアイデアと,日本のメディア・研究者が示すアイデアには,大きな差があります.二つの間に,たとえ小さな穴をあけるだけでも,私たちは,閉塞した世界観・時代精神・日本論から,もっと広い,自由な,熱い,アイデアの世界に魅せられ,勇気づけられるだろう,と思いました.

しかし、学生たちに教える点では、その面白さをうまく伝えられなかった、と反省しています。この冗長な連載を一種の天命と思って、他に多くのことを犠牲にしてしまったと思います。

ここで方針を転換し、きっぱりやめようか、とも思うのです。読みたい本が書棚を埋めていますし、もっと学生たちと話し合うために準備しなければなりません。10年に少し届きませんでしたが、これで一区切りにしましょう。

誰か,この試みを継承してくれる人はいませんか?

V

2003年の512日「今週のReview」を見てください.このページの由来です.

今日も,研究室へ出てくる途上,電車の中でThe Economistを読んでいました.そして“Education: Reaching the poorest”の記事に大いに刺激され,こんなことを想像しました.・・・

記事の冒頭に,ケニア北東部の貧しい村にある学校が紹介されています.学校と言っても,木陰で集まり,椅子も机もありません.先生は地面に小枝で数字を書いて教えます.世界の貧しい村では当たり前かもしれません.

しかし,違う理由で,世界で最も貧しい土地にも教育をもたらす,という目標は達成できていません.UNESCOが調査したところ,先生は学校に出てこない,とわかりました.子供たちも学校をやめてしまいます.親たちは,子供を働かせる方が良い,と考えます.貧しい土地ほど,学校に通う手段はなく,少数民族の言葉しか知らず,差別や身分制度で隔離され,学校で学ぶという文化がありません.彼らが学ぶことを,支配者や政府は好まないことさえあります.

The Economistは,先生の熱意を引き出すために,もっと高い報酬と子供たちの出席や成績を結び付けるべきだ,という提案(UCサンディエゴと世銀の研究者)を紹介しています.私は,先生や子供たちが毎日学校で学ぶようになるとしたら,それも良い考えだと思いました.

そして,情報や知識のギャップを埋めるために,私たちが教育支援NGOを作って支援することを考えました.日本の若者や中高年が現地で暮らしながら,先生として子供たちに小学校レベルの計算を教えます.現地の住居や生活費は実際のレベルを超えないようにします.

先生たちは言葉も教えます.まず,大人たちを集めて,現地の言葉を学び,日本語を教えます.そして,子供たちには現地の文字を教えます.簡単な言葉や挨拶は,出発前に日本で学ぶべきでしょうね.

そんな先生に,誰が教えてもらいに来るのか? 現地の子供たちや大人に,何かメリットがあるのか?

私は,あると思います.風力発電キットや携帯電話のことを読みました.Foreign Policy100 Great Thinkersに選ばれたのは,風力発電の原理を実際に市民が簡単に実行できる,組み立て式のキットを販売した人でした.これを買って持っていきます.また,発展途上国でも携帯電話が時間で貸し出されて,急激に普及しているといいます.

子供や大人に,先生は日本を紹介します.日本の情報を伝え,日本のビジネスを伝え,日本の歴史や経験を伝えて,彼らを励ますこともできるでしょう.日本に輸出できるものを見つけて,ビジネスの機会を手助けすることも重要です.日本からの寄付を集め,その成果を日本に伝えることもできます.

そして,この学校を介して,NGOは「運動会」も輸出します.

W

そんなこと,本当に,できるでしょうか?

以前に比べて,私たちにはインターネットがあります.困った時は,インターネットで調べ,互いに情報を共有し,助け合うことができるでしょう.携帯電話で24時間緊急サービスも受けられるはずです.

日本のセンターには,教育に関する助言だけでなく,その国や土地の言葉,生活習慣,法律,社会問題,ビジネス,など,さまざまな情報を蓄えておきます.また,各地の成功例や失敗例を集めて,自分で検索するのがよいでしょう.常に,経験者や専門家の助言を得て,子供たちや学校とかかわる現地の人たちと関係を深めます.

NGOの本部は,こうした事例のストックと,協力者のネットワークを,実際に世界の貧しい村で教える先生たちに利用しやすいように管理します.寄付や日本企業との連携もその一部です.

こうして,世界で日本語を使う人たちが,ほんの少し,増えるでしょう.

X

トヨタのリコール問題で世界のメディアが多くの時間を割いています.世界金融危機による自動車産業の過剰生産設備がもんだになっています.アメリカでもヨーロッパでも,各国政府は自動車工場の閉鎖を回避するために補助金を与え,隠れた「近隣窮乏化政策」あるいは「競争的切り下げ」を始めていました.

世界経済の回復過程は楽観できません.中でも,日本の回復は最も悲観されています.1000万台を超える世界中でのリコールに,トヨタがどのような適応能力を示すのか,まだわかりません.しかし,バブル後の回復に与えたオウム真理教テロ事件や阪神淡路大震災のショックにも似た,日本経済へのショックになることを私は心配します.

最貧困地域の村に教育支援を行うNGOに,トヨタや公文式は協力してくれるかもしれません.

貧しい地域の子供たちに学校を提供することは,彼らの未来に対する投資です.しかし,それだけでなく,日本から訪れる先生にとっても,衝撃を受け,学ぶ機会が多いと思います.日本の若者が失ったように見える,学ぶことへの熱意,働くことへの熱意を回復するために,NGOのスタッフは彼らを励まします.

Y

私の関心が続く限り.そして,時間と体力が許す限り.いつも,これで最後かな,と思いながら.

来週で,最後です.残念ですが,時間と体力が許さないのです.

メールをください.再開できるかどうか,どのような形にするか,考えます.なお,返信は必ず書きますが,3月末か,4月になることを許してください.

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