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IPEの風 12/14/09

世界金融危機と不況は、一斉に金融規制の見直し、システム改革、財政赤字への対応を各国に迫っています。日本政府がこうした問題で他国に先んじて優れた提案や政策を実現してもよいのでは? と思います。

Martin Wolf, “The post post-Thatcher era begins,” FT December 3 2009

サッチャー=レーガンの保守革命は、グローバリゼーションと金融部門の拡大が成長の新しい源泉になりうることを示しました。しかし、30年を経て、その歪みと危険性も顕著になったのです。経済のバランスを取り戻すように、成長の基礎的な条件を整備するように、各国の政府は関心を向けつつあります。

バブル後の20年を経て、日本が世界に示したのは、その危険性が多すぎました。これらの論説は、小泉構造改革を反故にしつつある日本政府にも、新しい成長モデルのヒントになりませんか?

Stephen Coulter, “Plans to repair the economy compared” (BBC economics analyst)

「経済は天にもとどく債務を政府部門と民間部門に積み上げている。回復は弱く、不況を引きずっている。これをどうするべきか、それこそ主要政党の予算案と選挙綱領だ。」 そして、労働党(L)、保守党(C)、自由民主党(LD)の主張をBBCのS. Coulterが比較しています。いずれも日本政府が検討しなければならない論点でしょう。

景気拡大策として、L:イングランド銀行の金融緩和・量的拡大策を支持し、減税とインフラ投資を含む財政的刺激策を。他方、C:財政刺激に反対し、赤字もLより早期に抑制します。景気拡大には金融政策が重要であり、低金利政策とポンド安を。LD:財政刺激策を支持しますが、減税に反対し、インフラ投資と失業者への支援を拡大。

Coulterは、問題点も指摘します。・・・量的拡大政策はインフレ的で、機能しないかもしれない。財政赤字も債務を増やし、金利が上昇すれば深刻な問題を生じる。また、Cのように財政支出を削れば景気回復を妨げる恐れがあり、ポンド安に頼ることは相手国でも需要が減少していることを無視している、と。また、インフラ投資を増やす財源は、医療や教育の予算を削る。

企業の支援策として、L:投資と研究開発に対する減税。特定産業への一時的支援策。これと対照的に、C:規制緩和、法人税の減税と税制の簡素化。民間のインフラ支出や職業訓練を重視。LD:若者への不況の影響を緩和するため、大学や徒弟制、有給のインターンシップを増やす。インフラ支出と「グリーン・ジョブ革命」。

アイスランドと同じように、金融部門の肥大化が危機による財政負担を急増させたことに対して、イギリス政府は根本的な対策を提案しつつあります。金融部門の改革と安定化基金です。すでに、石油収入による為替レートの増価やその変動を緩和するため、産油国の政府は政府系投資信託(SWF)を設立しています。イギリスが金融部門を今後も重要な成長の源泉とするなら、危機に対して基金を準備させておかねばなりません。

Robert Aliber, “Tariffs can persuade Beijing to free the renminbi,” FT December 7 2009

Martin Wolf, “Why China’s exchange rate policy concerns us,” FT December 8 2009

Martin Feldstein, “The dollar’s fall reflects a new role for reserves,” FT December 9 2009

人民元の調整を求めるために関税引き上げを支持するR.アリバーの主張を「ニクソン・ショックU」と呼ぶなら、M.ウルフの主張は「プラザ合意U(もしくは、大恐慌U)」になります。そしてM.フェルドシュタインの主張を引き延ばせば、主要諸国の資本市場がますます(ドル、ユーロ、円、人民元などで)統合し、グローバルな金融機関を協力して監督し、共通の金融政策を行い、証券市場の秩序を相互に維持する公的主体が登場する条件となるでしょう。すなわち、「FRBU(もしくは、EMUU)」です。

アイルランドの危機を扱った本が3冊、The Economistに紹介されています。その中に、過激な銀行処理とユーロ離脱を提案する本もあります。この考えは合理的かもしれませんが、(特に政治の面で)現実的ではないでしょう。「カリフォルニアがドルを離脱して独自通貨を発行し、大幅に切り下げて他の州に向けた輸出増加で景気回復と財政再建をする。そのあと、再びドルに戻る」という意味だ、と批判します。

オバマ・ショックが起きても、米中の金融合意や政策協力が進んでも、何もしない(冬眠)なら、日本は難しい状況に陥るでしょう。やがて老人たちは貯蓄を使い果たし、日本企業は流出してしまいます。

もっと早期に、日本にはできたはずです。アジアに輸出主導の成長モデルを示した後、その外貨準備や為替レートの調整を域内で協調しなければならない、と韓国や台湾、中国を説得すること。さらに、金融市場の不安定化を予防しながら、協力して開発と成長を促すため、アジア諸国とともに国際通貨制度の改革を唱えること。

米中の狭間で、安全保障についても、貿易や通貨についても、自律した方針を確立していない日本にとって、国際秩序の再編は大きな困難と政治的危機の連続になりそうです。

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