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IPEの風 12/7/09
歳を取って(嫌だけれど)、いろいろな医者のはしごをしていると(まったく・・・情けない!)、待合室の本によって医院を評価したくなります。女性雑誌や子供の絵本があり、文芸春秋や週刊現代、サンデー毎日、そして、近頃はジャンプのような漫画週刊誌や漫画の単行書が増えていると思います。久しぶりの医院で、ナショナル・ジオグラフィック日本版を見つけ、うれしくなりました。この雑誌は写真が豊富で、科学と人文学と政治批評が混在し、記事もなかなか面白いのです。
ゼミの学生が調べると言えば、質問に応えるために、私も何か良い材料を探さねばなりません。彼らが調べる地域・国は、たとえば、アフリカ、インド、中国、フィンランド、ロシア・・・! 「ロシアとは何か?」 私は繰り返し問います。経済学、政治学、社会学、歴史、外交、そして、人類学や地理学、宗教や文学にも、IPEに関連する面白い考察が見つかります。Financial TimesやThe Economistの(元)記者たちが書いた本は、たいてい外れることなく、とびきり面白いです。それに加えて、ナショナル・ジオグラフィック日本版は、その映像に衝撃を受けます。
マーティン・クルーズ・スミスとゲアード・ルドウィッグの「『眠らない都市』モスクワ暗夜行路」(AUGUST 2008)を読みました。
「日が暮れると高級車が街路を疾走し、新興成金はナイトクラブで夜通し遊ぶ。」・・・世界金融危機前のモスクワです。石油、天然ガスなど、資源の国際価格は高騰し、ロシアの資源地主たちは溢れる富を持て余していた、というわけです。だから、大型バイクを乗り回す。クラブに集まって美女をはべらせ、高級・高額な飲食とアルコールに浸る。手の切れるような100ドル札をじゃんじゃん使いたい、と記事は彼らの衝動を紹介します。
「ロシア人の減少とタジク人移民の流入は、この国が抱える人口問題の“時限爆弾”だ。酒を飲まず働き者のタジク人は、ロシア人のやりたがらない仕事も進んで引き受ける。」・・・移民労働者、アルコール中毒患者、ホームレス、腰を振りながら歩く娼婦たち、10代の不良グループ同士のけんか、麻薬の密売と縄張り争い。昨年、NHKがシリーズ沸騰都市で取り上げたロンドンでも、ロシアの若い富豪たちが邸宅を買って移住し、多くのロシア系住民が暮らす地区ができていました。
こうしたロシアの富と混乱する社会秩序が、世界金融危機とその後にも、再び大きく変貌したはずです。国家の指導者が平和と繁栄を実現する方針を常に問われていることは、いまさら主張するまでもないでしょう。そして、その意味で、オバマ政権と同様に、鳩山政権もその政治基盤の核心を問われているのです。
普天間基地の移設問題で時間をかけると言いながら、鳩山首相が国民的な議論を指導できないのはどうしてでしょうか? デフレや派遣労働者の問題を唱えて政権を得ていながら、財源問題を避けて、緊縮財政を強いるような姿勢を曖昧に取り続けているのはどうしてでしょうか?
やがて、日本もIMFに救済融資を求めるときが来るでしょう。
あるいは、日本がアジア通貨制度の参加条件をめぐって、中国や韓国と厳しい交渉をするときも来るのです。(・・・日本も入れてほしい!)
そうなる前に、私たちは、社会保障制度や労働市場の改革に合意しておくことです。そして、財政再建のための税制や公共投資、郵便貯金、金融システムの改革を実現しておかねばなりません。
バブル後の日本は、こうした改革に時間をかけて来たはずです。大きな政治的・社会的危機を起こすこともなく、人びとがそれを耐えてきたのは、政府が優れていたのか、国民が優れていたのか。しかし今もまた、投資家と老人たちは、不況と円高に直面して国債が爆発的に増大する局面が来た、と心配しています。世界が金融危機を脱するとき、金利の上昇によって日本では不況と国債の累積が加速し、不安定な政権はハイパーインフレーションを招き、人民元の増価と円からの逃避が始まることを憂慮しているかもしれません。
すべての改革が不十分な今、もはや政権交代ではなく、通貨危機によって、日本のガバナンスは一掃されるときを待っています。ナショナル・ジオグラフィックの特集号を、富士山と東京、新富裕層やホームレスといった、日本社会の諸相が飾ります。
その先には・・・日本がアジア各地の紛争地域に兵士を派遣するときも来るでしょう。そして、日本も参加する社会再建計画が多国間で実施されます。あるいは、政治的内紛と社会の荒廃を深める<日本>が、救済されるのです。
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