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IPEの風 10/26/09

大学にも労働組合はあります。アメリカやイギリスの大学教員にもあるのかどうか、知りませんが、市場競争の圧力によって、労働者が価値を提供する(社会的分業に参加する)ために必要な物理的条件を特定集団が管理している世界では、集団的な交渉が必要になると思います。

The Economist, October 10th 2009に含まれるSchumpeterの連載記事、そして、フランス・テレコムの民営化における自殺者の記事を読むと、高度な生産力の成果として、楽しい、充実した人生を送ることが難しくなっている、と感じます。世界市場の競争圧力に、IT技術の進歩と低廉化が加わり、労働者はますます厳しく管理され、ばらばらになってしまいます。企業は私たちの労働を細かい点まで測定し、採点しています。チャップリンやテイラー、オーウェルの世界は、今も進化し続けているようです。

「スーパーのレジでは、カートから何秒で商品の価格を集計できるか、測定しています。・・・イギリスの公共部門には、調査員とパフォーマンス目標があふれています。・・・日本のある企業では、労働者が顧客に対して十分に笑顔で対応しているか、そんなことまで測定しています。」

急速に技術変化が続く分野、旧来の独占が破壊されて競争が一気に強まった分野、あるいは、これまでの市場規模が期待できなくなったときに過剰設備を抱えて大幅な縮小や合併以外に生き残ることはできない分野、そのような分野が増えている、とThe Economistは考えます。なるほど、日本でもそうでしょう。

市場における競争が企業に強いるから、その困難な調整過程に対しても、十分な速さで取り組む意志が形成できるのです。政治家がいくら談合を重ねても、その代わりになるとは思えません。しかし、それは労働者たちの生活を鬱屈させ、安定感や充実感を奪い、本当は嫌いな職場に拘束され続ける自分を「不幸」であると感じる割合を高めます。職場を苦にした自殺も増えるわけです。

いつでも企業は労働者たちに限りない忠誠心と勤勉さを求めますが、不況の兆しが少しでもあれば、企業はいつでも労働者を解雇し、地域社会を捨てます。この現実に後ろめたさを感じるから、そして、実際に経済危機が政府の市場介入を増やしつつあるから、The Economistは市場にふさわしい(怪しげな)緩和策を提案します。(その論旨を、私は読み取れませんでした。)

民主党政権は、雇用対策として、派遣労働者を禁止することや、介護サービスや農林業の分野にもっと財政資金を投入して、新規雇用を増やしたいと考えています。道路整備などの公共事業で建設労働者を増やすより、失業者の吸収を、もっと長期的な日本の産業構造や雇用構造の転換・革新につなぐ必要があるでしょう。

あるいは、・・・労働者の交渉力を強めるために、労働条件や労働契約の監視を強めることも考えられます。労働者たちにとって競争条件が有利になる方法としては、労働組合や労働監督基準・監督官を強化するだけでなく、(デリバティブ取引について議論されていることですが)非正規雇用に関する契約パターンを標準化することだ、と私は思います。そして、比較可能な契約に記された内容があまりにも大きく異なっている場合、法の下の平等を侵すものとして、裁判所が明確に断罪してほしいです。

さらに、・・・派遣労働者を集める業者が、ヴェンチャー・キャピタリストにもなれるでしょうか? The Economist, October 17th 2009には、クラウド・コンピューティングの話が載っています。マイクロソフトも、グーグルも、アップルも、あるいは、中国の携帯電話会社やインドのITソフト企業も、クラウド・コンピューティングの競争を強めるでしょう。情報も、スタッフも、市場アクセスも、生産ラインも、優れたアイデアと勤勉な労働者たちをつなぐ雲上のネットワークが、地域の新しい雇用をもたらします。

大学の労働組合を観て感じるのは、特に二つです。一つは、組合費を支払わずに労働協約の条件を享受できる、というフリー・ライダーをやめさせること。もうひとつは、同じ労働者であるのに、差別的な条件で働き、組合にも所属しない非正規の労働者(嘱託や派遣、パートの職員)を統一した団体交渉に参加させること。これらができなければ、労働組合はその存在理由を失い、維持できないのではないか、ということでした。

かつてユートピア社会主義は、労働が「楽しみ」や「遊び」になる、と主張しました。それは、マルクスの描いた、職業を自由に変わることができる生活にもつながります。・・・社会が発揮する力を、地球規模で実現するとき、その豊かさをさまざまな夢の実現に向けるなら、私たちはいくつかの都市を移り住むことを覚え、気がつけば、そうやって暮らしているでしょう。

クラウド・コンピューティングと労働組合は、それを助ける制度の一つかもしれません。

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