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IPEの風 10/12/09

北朝鮮の非核化をめぐる6カ国協議も、イランの核開発疑惑をめぐるP5+1方式(安保理常任理事諸国+ドイツ)も、大国間外交と世界経済の相互依存・相互浸透を前提とした、国際秩序の調整過程であると思います。

オバマ大統領がノーベル平和賞を受賞する、というニュースに私も驚きました。それは、まだ現実に成果を上げたわけでもない、大統領になって1年もたたない若いオバマに対する励ましなのか? いや、ブッシュが大嫌いだったヨーロッパ市民が与えた「アンチ・ブッシュイズム」大賞だ、という風刺漫画を観ました。

しかし、現実を変える上で、理想主義は重要です。

もっとも根本的な条件において現実を動かすには、人びとの心を動かすことが必要です。アメリカの大統領だからこそ、彼が唱える理想に向けて国際政治を動かすこともできるはずです。むしろ、オバマを挫くのはアメリカ国内の分裂であり、誹謗中傷です。アメリカの新しい文化戦争や保守派による憎悪キャンペーンは、オバマの新しい国際的理想主義が発揮する魅力を損なっています。

オバマはイランとの和解に成功し、イスラエルの強硬派より和平推進派に勇気を与えるかもしれません。EUにも、新しい大統領としてトニー・ブレアが就任する可能性があります。日本の鳩山首相が韓国や中国の指導者と連携して、北朝鮮との包括的な解決策を国際合意することを、私はますます期待しています。ヨーロッパやロシアから、アジア全域を経て、日本まで結ぶユーラシア輸送網が整備される時代も来るでしょう。北朝鮮の新しい指導者が合意を拡大する過程で、南北朝鮮半島の段階的な再統一が準備されるのです。

核について、国際社会が受け入れ可能な原則とは何でしょうか? 核兵器の廃絶と核エネルギーの平和利用(そして、廃棄物や解体処理まで)を認める国際システムの構築には、主要国が参加しなければなりません。イスラム圏からも、当然、エジプトやイランのような国が参加するでしょう。また、イスラエルやパキスタンの核兵器を管理し、廃棄できるか、中東地域の非核化プロセスを明確にしてほしいわけです。EUがそうであったように、世界の核兵器や核エネルギー開発のための研究や燃料を、国際管理することが目標となるでしょう。広島と長崎でオリンピックが開催できるなら、核軍縮の競争国は大きな声援を受けるはずです。

日中韓が連携し、協力しながら、国際社会に発言し、行動できることは多いはずです。通貨危機への対策を協力すること、外貨準備の利用や緊急融資の枠組みは既にあります。為替レートを協力して安定化し、調整する仕組みも、ぜひ示してほしいです。それらはドル中心の国際通貨システムを転換する原則を示します。環境破壊や汚染物質の問題は、黄砂や越前クラゲに見るように、すでに深刻です。温暖化ガス排出規制についても、協力して排出量の削減目標や排出権取引の市場を整備すれば、その影響は絶大でしょう。日中韓が共同して、大規模災害や内戦後の社会・経済再建に、資金や技術、スタッフを派遣する制度を提案してください。

もちろん、人権や民主主義の問題、戦争や侵略をめぐる歴史認識の問題、台湾海峡やその他の領土問題、・・・各国で繰り返し流行するナショナリズム・軍事強硬論があります。諸国民が和解し、互いに「友愛」を感じ、尊重し合うまでには時間が必要です。しかし、決定的な瞬間に、決定的な発言、決定的な行動が、その流れを変えるのです。近隣諸国からの厳しい質問や要求にも、正しい原則と深い歴史的な理解を前提に、積極的に応じることのできる(そして、共感を呼ぶ)政治指導者を、私たちは常に選ぶ必要があります。

何より、理想主義は若者の精神に育つでしょう。諸国の若者たちが(小国の若者も含めて)集まって学ぶ機会を、アジアの主要諸国は提供するべきです。相互の留学プログラムを共有し、最高の学者や教育者、政府スタッフを招いて、若者たちを励ますことです。さらに、そのための共通の施設や大学を、アジアの小国、辺境の村に建ててください。

オバマのノーベル平和賞受賞が、その起点だった、と多くの人に回顧されるように。

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