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IPEの風 8/17/09

金大中氏が死去した、というニュースに、驚きと失望を感じました。朝鮮半島の再統一や、日本との和解が飛躍的に進む時代に、もう一度生まれ変わりたい、と思ったかもしれません。

たまに講読するForeign Policyですが、「アジアの興隆」を否定する問答を載せているので紹介します。筆者はカーネギー国際平和財団の研究者です。

Minxin Pei, “Think Again: Asia’s Rise,” Foreign Policy, July/August 2009

1.「西から東にパワーはシフトしつつある。」 ・・・そんなことはない。

なぜなら、アジア諸国はまだ貧しくて、高い成長率を続けても容易に追いつけないからです。現在の成長を続けても、一人当たり所得でアメリカの水準に達するには中国が47年、インドは123年かかります!

2.「アジアの台頭は止められない。」 ・・・それは当てにならない。

その成長も続きそうにない、というわけです。中国でも高齢化が進んでいます。環境破壊や資源の枯渇も進みます。このままでは農業が崩壊するでしょう。輸出に依存した発展モデルを続けられません。政治的な不安定性が解決できていません。増大する不平等で中国に社会不安が高まれば、成長率も低下し、長い移行期に入るかもしれません。

3.「アジア的資本主義のほうがダイナミックだ。」 ・・・まさか。

アジアの高成長がアジア的な資本主義による、という証拠はない。むしろ、ファンダメンタルズ(貯蓄、都市化、人口構成)の良好さがその理由である。その特徴(政府介入、家族・国家による経営支配、高貯蓄率、そしてドルの外貨準備)からは、ダイナミックと言えない。むしろ逆だ。

4.「アジアは技術革新で世界をリードする。」 ・・・われわれの世代には起こらない。

アメリカが示す高等教育の優位は、まだ圧倒的である。質を考慮すれば、アジアの教育の急拡大は重要でなくなる。

5.「独裁制によってアジアは有利になった。」 ・・・いいや。

むしろ成長が高まったのは独裁制の野蛮さが緩和されたときだ。賢明な経済運営を行った国だけが成長した。他方、成長できなかった独裁国家も多い。

6.「中国がアジアを支配する。」 ・・・ありそうにない。

中国外交の影響力は強まっているが、アジアはその歴史からも深い分裂と敵意を引き継いでいる。近隣諸国(ロシア、日本、インド)が中国の支配を受け入れる余地はない。少数民族(チベット、ウィグル)が広大な領域と重要な資源の埋蔵地域に広がっている。

7.「アメリカはアジアにおける影響力を失いつつある。」 ・・・全く間違っている。

だから、アメリカの影響力は低下しないのです。アメリカの政治システムは前政権の失敗を速やかに修正するでしょう。その指導力は経済と軍事に限られません。アジアの主要国がアメリカの関与を願っています。アメリカは中国を監視し、アジアの平和を保つために必要なのです。

キッシンジャーが、外交について相談するヨーロッパの責任者が誰か分からない、と不満を述べたように、アジアの統合化はさらに難しいでしょう。アジア共同体は将来も実現しないでしょう。むしろ、西側の工業製品をもっと購入する市場として重要性を増すでしょう。・・・

これらはM.Peiの意見です。私の意見は、東へのパワー・シフトは起きている、というものです。確かに誇張はあるかもしれません。しかし、知識や技術は、政治的・制度的な障壁を取り除くなら、市場がその伝播を加速させるでしょう。だから、1.〜4.について、Peiの意見はアメリカの優越を重視し(アジアを軽視し)すぎていると思います。

他方、5.6.7.についても、アジアの主要国が今後の重要問題に効果的な対策や制度のアイデアを示す場合、Peiの答えは怪しくなります。ヨーロッパに比べて、今のアジアには対立を克服するような仕組みや指導者が欠けている、というのはその通りだと思います。しかし、将来もそうだ、と断定するのはなぜでしょうか?

・・・さて、アジアをアメリカに、中国を日本に換えて、同じ問答を考えます。しかも、時代はアジア統合が具体化し始めた20年後です。

・・・紹介する記事を間違えたかもしれません。むしろ、The Failed States Indexを読むべきでしたね。ブラック・ホールのように広がる「破綻国家」のリストと地図を見て、20年後を予想します。

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