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IPEの風 8/3/09

テレビをつけると、主要政党の幹事長たちが論争していました。政策の意図や問題点が詳論されます。こうした高い能力があるなら、もっと毎日、夕方や深夜に、政策論争をしてほしい、と思いました。

一つ気になったのは、民主党が「子育て支援」でよいのか? 自民党の「景気回復」のほうが支持されるのでは? ということです。いかなる政策も、誰かに課税して、誰かに給付しているのですから、「差別的」であることを免れません。むしろ、なぜ負担を求めるのか。なぜ優遇し、奨励・助成し、救済・補償しなければならないのか。積極的に示すことです。

「子育て支援」では、子供のいない家計に負担を求めて、子育てしている家計に助成します。たとえば、出産費用や医療費、授業料、などを無償化する、と主張しています。子供のいない(本人たちの選択であれ、望んでいたけれど妊娠しなかった場合であれ)夫婦や、独身者は、負担を強いられます。医療費や年金と、本質的に異なっていると思います。

もちろん、同じだ、とも思います。子供を増やすこと、人口規模を維持(拡大)することは、将来の経済成長や安全保障の問題です。あるいは、あまりにも低い所得で子供を育てられない、という若い夫婦(あるいは、結婚もあきらめる人々)が増えているかもしれません。他方、高額医療や高所得者の年金支給、介護保険の支給方法などは、負担の問題を意識させます。

民主党の主張、「子育て支援」は社会の望ましさを説得しておらず、自民党の「成長」というメッセージは誰にとっても受け入れやすいのです(実際は、差別的分配でも)。民主党は議論をもっと拡大し、自民党への批判を具体化して対抗策を示すべきです。自民党・麻生氏は、正しく、この点を強調しています。

負担を引き受けるとき、私たちはトータルとして、どのような社会を望ましいと考えるのか、そのイメージを求めます。しかし各党の主張は、イデオロギーや全体像を示していません。従来の主要政策を継承している、というので区別されます。もっと踏み込んで、基本政策を明示し、その根拠やメカニズムを国民に訴えてほしいです。

各政党の存在理由とは何でしょうか? 政権交代の可能性が各党のマニフェストに真剣さを増したのは、制度の優れた特性です。しかし、それが小選挙区制の効用であれば、逆に、どの政党も似たような主張をしている、という弊害にもなっています。政治家個人の指導力(説得力や行動力)と、メディアの批判的な問題提起が、民主主義の活力なのだ、と思いました。

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政党のメッセージが弱いことに乗じて、個人プレーが目立ちます。たとえば、橋下知事の「リアリズム」です。「結果がすべて。」「動機は邪悪でもよい。」「悪魔に魂を売ってもよい。」「事件性が必要だ。」・・・テレビで紹介されていた、橋本知事の発言です。リアリズムの主張として古典的なテーマですが、これではヤクザと同じです。「法は守る」とわざわざ述べる必要があったほど。

政治哲学として、中身がない? と疑問を感じました。

他方、「子供たちのために、こんな日本では嫌だ。」「危機感がない。」「官僚主導で、議員には何もできない。」「首長の方が発言できる。」「多数派の支持が要る。」・・・というのは、中身のある主張です。もっと議論すべきでしょう。地方分権を掲げるのも、地方の政治的な革新を可能にする興味深い主張になります。日本をEUのようにする、と彼は考えます。

国会議員も、地方の首長選挙も、どちらも活性化し、すぐれた指導者が選ばれ、失政に対して交代を求められる条件が、彼らの活躍を促すわけです。

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たとえば、オランダの労働システムは大きく変わりました。そのきっかけは石油価格の上昇が工業諸国の不況とインフレーションを引き起こした1970年代にあります。

NHK「未来への提言:雇用不安のない社会をつくる」を観ました。オランダの労働組合連合議長、ロデバイク・デ・ワール氏は、正規雇用と非正規雇用との格差をなくし、積極的に組合に統合しました。1970年代のインフレやオランダ病(オランダは油田の開発で為替レートが増価し、既存産業が輸入品の急増によって崩壊します)を、政府の仲介した労使協調とワーク・シェアリング、女性の労働市場参加で克服します。

その後も、雇用の柔軟性(弾力性)と社会保障とを同時に実現します。労働と家庭生活のバランスを重視し、パートタイムで時間的なゆとりを得る(正規雇用と差別しない)、という議論は、日本でも実現してほしいです。失業保険や職業紹介のシステムも非常に充実しています。

何が違うのでしょうか? デ・ワール氏は、相互の利益を実現するために「信頼」が重要である、と主張しました。日本でも、すぐれた政治システムと指導者が現れたら、実現できると思います。

オランダは、子供が最も幸せを感じる社会、として称えられます。

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たとえば、新しいシルクロードが開かれるなら、日本は、韓国とともに、アメリカ市場の飛び地ではなく、中国市場の縁に位置するでしょう。

アメリカがイギリスやヨーロッパと緊密な市場統合を目指す戦略を採るのは、大西洋経済圏が緊密な政治的協力関係と活発な成長や革新の源であるからです。他方、ヨーロッパが西方よりも東方を重視し、東欧からロシアの市場統合、さらに中東やアジアに向けた戦略を検討するのは、エネルギーだけでなく、中国やインド、イラン、東南アジアなどの市場と成長に注目するからです。

中国は、アメリカに向けて、ヨーロッパに向けて、東南ジアに向けて、積極的に貿易と投資を増やしています。そして、すべてのルートの中心であることを目指すのです。他方、アメリカは三つのルートの重要性を選択する力があります。EUと組み、ロシアを牽制し、あるいは、中国と組み、世界市場統合と改革を促し、あるいは、日本やインド、オーストラリアを助けます。

日本は、アメリカと同様に、おそらく、この三つの流れすべてに乗っています。大西洋経済圏の端、新シルクロードの端、そして、太平洋経済圏の縁です。しかも、メキシコやカナダがアメリカを意識するように、日本は中国に隣接していることを意識します。

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つまり、「子育て支援」とは「無償化」ではない。優れた政治指導者を選択し、交代させる政治システムや、労働と生活のバランスを重視した、失業を恐れなくてもよい社会を実現し、大西洋と太平洋とシルクロードに現れる成長のダイナミズムを吸収できる国際秩序(安全保障)を積極的に支援・参加することで、子供を育てたいと思う社会を実現する、と話す政治家に投票します。

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