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IPEの風 7/20/09

異なる未来としての現実を拓くのが政治です。

選挙の結果、自民党は分裂し、解体するでしょう。権力を維持し、その特権を行使できるから集まっていた、異なる理念や政治スタイルの個人的同盟関係が、小選挙区制度の政権交代劇によって、いよいよ無効になりそうです。自民党が消滅することで、日本の政党そのものが再編されるでしょう。

小泉チルドレンの数の力を頼りにして、安倍、福田、麻生、という首相のたらい回しする政治では、衆参ねじれ現象を解消できる明確な政策論争や理念を示せないまま、小泉元首相に代わるアイドル的な人気を探すだけに終わりました。

たとえば、たたき上げの、労働者出身の秀才がいないのでしょうか? 選挙後に、政治変化の第2幕を予想します。

財政赤字の問題で、民主党も政策に行き詰るなら、日本は不安定な、短期的妥協や連立、利益誘導と赤字を放置する政府が、ころころ変わるような国になるかもしれません。政府が不人気になって首相が重要政策を決められない状態は、自民党がなくなっても続くのです。

一方ではアイドル政治家に振り回されるポピュリズム型選挙政治、他方では基本政策の対立を明確にして、重要課題を着実に解決するための選択を問う議会制民主主義の浸透。こういった対立が、まだ姿も見えない日本政治の次のシステムを目指して、有権者の意識に出現しつつある選挙なのです。

政治家たちはもっと論争し、決断して、国民に信を問う姿を強調しなければならないでしょう。政策審議会や党の政策委員会や、各地における説明会を、もっと重視したシステムを築くべきです。

しかし、政治家たちにその情熱が足りないとすれば、自民党は生き残り、次の危機を待つわけです。何年か、・・・何十年か?

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先週の続き

V

深刻な金融危機は、しばしば、政治的革命も引き起こします。アイスランドは、現在の世界金融危機が政府を倒した最初の国であり、最初の革命劇と言えます。

「ソースパン革命」あるいは「空飛ぶ卵」と呼んだ、金融危機から社会政治革命への転換は、その背景を理解しなければ「意味」を正しくとらえられないでしょう。ふつうは、集まってナベを叩いても政府が倒れることはないし、卵を並べてみても空を飛ぶものは見つかりません。

なぜこの二つの現象に興味を持ったか、と言えば、アルゼンチンでも同じことが起きたからです。2001年末にパニックに至ったアルゼンチンの通貨危機から社会政治革命において、やはり人びとはナベやフライパンを持って通りに集まり、抗議の声をあげました。銀行の窓ガラスや扉を叩いて預金封鎖への怒りをぶつけたのです。当時の指導的政治家で、すぐれた経済学者でもあったドミンゴ・カヴァロに向けて、卵が投げつけられたそうです。

カヴァロはアルゼンチンの高インフレを鎮静化し、経済成長に貢献しました。しかし、通貨危機の原因を作った人物、とみなされました。(その後、ハーヴァード大学の教授になっています。)

アイスランドで人々の怒りを買ったのは、デイヴィッド・オッジソンです。オッジソンは1991年の選挙に独立党を率いて勝利し、その後の自由化・民営化に代表される経済改革を指導します。

このときの政策転換については、それ以前にインフレと不況、すなわち、1970年代の石油価格上昇と変動レート制によって、アイスランド経済が陥った苦境があったわけです。かつては「市場」など信じていなかった人々が、むしろ「タラ漁の自由」、「反EU」、「アメリカ型の自由主義」を支持するようになりました。政治イデオロギーとして、イギリスとの「タラ戦争」や、EUの漁業規制に対する反発と同時に、オッジソンはミルトン・フリードマンの言説に影響を受けました。その運動は、世界各地の発達した資本主義経済が戦後の社会・政治的合意や制度を解体していった反ケインズ主義・保守革命の一部でした。

2008年の金融危機は、独立党の社会政治モデルを逆転した、という意味で革命に転化しました。金融・経済危機に加えて、ソースパンによる抗議や首相の自動車を汚した卵が、権力の正当性を損ないました。人々は年金や貯蓄を失い、これまで想像していた資産ではなく、逆に、巨額の債務を負ったことに気付いたのです。

ハーデ(ホルデ?)首相が辞任し、社会民主党のヨハンナ・ジグルダルドッチルが臨時の首相に指名されます。金融ビジネスとは無縁の、高潔な政治家であり、国民の信頼を得ていた人物であったことは、抗議活動が終結したことに示されました。ジグルダルドッチルは、女性(史上初の、自分が同性婚であることを認めた首相)であり、社会民主主義とEU加盟を支持する、清廉な政治家です。財務大臣となった左派グリーンのシグフッソンは、元トラック運転手で、金融ビジネスやネオリベラリズムを否定します。閣僚の半分が女性です。

ジグルダルドッチル首相は、ドッジソンに辞任を求めましたが拒否され、法を改正して中央銀行総裁の資格を厳しくした末に、辞任させました。後任にはノルウェー人の中央銀行家を招きました。また、金融ビジネスで富を得た者が海外に資産を流出させたことを重視し、金融犯罪を摘発するチームを結成して、その顧問にはフランスの検察官を招きました。

過去の秩序と決別し、権力につながる人脈を断つ、という強い意志を感じました。

W

危機は予測し得なかったのか? 経済学は何をしていたのか?

(続き)

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